26からのストーリー
第九話:大人達の時間
「・・・・・・大した事のない味ねえ・・・はっきりしないと言うか・・・」
「そう?美味しいわよ。ま、あなたの口に合わなかったのは残念だけど」
第三新東京駅前メインストリートには、光の華が満開に咲き誇っていた。いずれも通りかかる人々の歩みをほんの少しでも止めようと懸命に明かりを灯す。
ウインドウの中のマネキンは艶やかな衣装で誰かの目に留まろうと美を競い合う。
そんな街角の一角に子供ではなく大人だけを対象にした落ち着いた佇まいの店がある。
レストラン『ルテア』の窓際の席で二人の女性は『お薦めフルコース』を食べ終えていた。
窓から見渡せる通りには自動車のライトが忙しそうに行き来している。
ミサトとリツコは久しぶりにゆっくりした夕食を楽しんでいた。
このところ『第三次使徒迎撃戦』の後始末に追われそれどころでは無かったのだが、此処に来てようやく仕事が彼女達の手から各セクションへと移行したのでやっと“ゆとり在る時間”とご対面出来たのだ。
「お下げ致します・・・・」
大人びた店内に相応しいウエイターが食べ終わった食器を下げ、デザートを運んできた。
「ミサト、ごちそうさま。ワインも結構良い物揃えてあったわね」
「あっそ、そりゃタダ飯は美味しいでしょうよ。ほんとフルコースなんて、遠慮って言葉知らないの?」
「さあ、聞いた事無いわね。何語だったかしら?」
「・・・・・・ヘブライ語よ・・・・・」
ミサトは以前約束した『新しくできたレストランでフルコースを奢る』を実行させられていたのだ。
忙しさに飲み込まれたリツコがその事を忘れるのを密かに期待していたのだが、生憎と彼女の記憶力はミサトの想像を遙かに凌いでいたらしい。
逆にミサトがその事を忘れていて『暇なら夕食付き合わない?』と誘われのこのこついて来たところ、『約束覚えてるでしょ』の言葉で自分の迂闊さを呪ったのだった。
「このムースはいけるわねえ・・・・その辺のとはちょっち違うわ」
「何時から甘党になったの?また太るわよ」
「うっさいわよ!っとに口煩いわね・・・ところでこの間の報告書なんだけどさー」
「やあねえ、食事中に仕事の話なんて・・・・」
せっかくの美味しい食事だ。ようやく解放された仕事の話などされたくはない。
「ま、後でもいいけどさ、明日はシンちゃんの訓練予定ね。・・・っとレイもか・・・」
「辛いわよ、彼にあんまり入れ込むと。自分の仕事考えなさいよ。あなたの役目は・・・」
「リツコには分からないのよ・・・中学になってから丸一年面倒見てんのよ。どうしたって・・・」
今まで幾度と無く忠告した言葉だ。ただ今更という気がしないでもない。彼女が言うようにシンジ達が中学生になってから一年という時間が経過しているのだ。仕事と割り切るには時が経ちすぎたかも知れない。
「嫌われるわよ・・・そう言う言い方」
リツコの口にした言葉は忠告のつもりはない。何か胸の奥を刺されたような痛みがあっただけだ。
「確かにわたしには分からないわ。あなたみたいに自分を責めたりした事無いから」
「そうかもね・・・・・出ましょ。これ以上注文しても払わないわよ」
約束通りミサトが此処の勘定を持ち支払いを済ませている頃リツコは外に出て通りを眺めていた。
窓から眺めていた時より通り過ぎるライトの数が減ってきている。減った分はそれぞれの家へと帰り着いたのだろう。恐らくは待つ人の居る家へと・・・・・。
或いは自分と同じように一人きりの部屋へと帰っていったのだろうか。
・・・責めた事無いか・・・出来る訳無いじゃない、誰も助けてくれないもの・・・
「お待たせ。どうする?あたし帰るけど・・・」
「そうね・・・駅まで付き合うわよ」
二人は環状線の駅に向かって歩き出した。
雲に隠れた星々の代わりに第三新東京市の中心部にある高層ビル群が寂しい夜空を彩っている。
湿度が高く蒸し暑かった昼間と比べ今は気温も下がり幾分過ごしやすく夜の漫ろ歩きには、ちょうどいい時間だ。
平日という事もあって人影は少なく、残業で遅くなったサラリーマンらしい人々が幾人か目に入る程度だった。
「ミサト、車直ったわよ」
「サンキュー、で、お幾らかしらね。・・・・まさかボッて無いでしょうねえ」
疑わしそうな目を向けるが平然とした顔でリツコは答えた。
「これ以上ボレ無いくらい上乗せしてあるわ。あなたの貯金なんか無惨に吹き飛ぶわよ」
以前リツコが言ったように修理費はちゃんと引き落とされるのだ。
「フフフッいい度胸ね・・・あんたも道連れにしてやるわ」
もはや瀕死の貯金通帳を思い浮かべミサトは怪しい笑みを浮かべた。
「無駄よ、あなたは一人で奈落に落ちるタイプだから」
街路灯のお節介な明かりにリツコの姿がショウウインドウに浮かび上がる。
「いつまであれに乗るつもり?・・・買い換えたら?」
思い浮かべたのは修理に手間のかかったミサトの愛車だけだったのか。
「・・・・何回も買い換えようと思ったんだけど・・・ははっお金無くってさ」
「・・・・もういいんじゃない?・・・・」
時折吹く夜風に髪を揺らしながら口にした言葉はミサトに少しの沈黙をもたらす。
リツコの真意を幾通りにも考え、そして返すべき答えを選んでいた。
時折通り過ぎる車のダミーノイズだけが聞こえる。
「・・・・もう少しかな・・・もう少し落ち着けるまで・・・」
*
「では、失礼いたします」
『陸上自衛隊特別第一編成部隊』指揮官、香山一佐の前にセミロングの髪の若い女性が敬礼をしていた。
「はい、お疲れさん」
ニュースのナイター速報に集中しているので返事はお座なりで振り向きもしない。
律儀に敬礼をしている人物は彼の副官の山科二尉という女性である事は、長い付き合いで良く知っている。
「・・・・報告書は明日が提出期限ですが・・・」
「・・・バカ野郎!そんな球見逃すから負けるんだ!・・・あ、なんだ?」
「いえ・・・報告書の提出期限が・・・」
未だに机の上に広がっている書類に目を向けながら恐らく間に合わないであろう事を悟った。
「こんな物気にするな。どうせ建前部隊の報告書だ、上の連中だって期待してないさ」
何一つ気にしていない様子の香山は僅かな自笑と共に机の上の報告書の正当性を主張しているのだ。
「建前部隊・・・ですか・・・」
香山には笑い事でも若い山科にはそれでは済まなかった。
自らの仕事に誇りもあるしやり甲斐もある。それをあっさりと否定されてしまっては、ましてや上官に言われたとあっては彼女も立つ瀬がない。
「おい、そう真面目に取るな。建前だろうが何だろうがやらにゃあいかんのだからな」
彼の想像以上に落ち込んだ副官に慌ててそう付け加えた。
使徒の出現と共に急きょ設立された『陸上自衛隊特別第一編成部隊』。
最初の迎撃戦でバカに出来ない被害を被った自衛隊がその時の生き残り部隊をかき集め体裁を整えて『国連軍支援』の名の元に送り出した、言ってみれば寄せ集め部隊だ。
何しろ『国際法』に明記されているのだ。日本政府としては何もしない訳には行かなかった。
とは言え自衛隊の主力部隊は自分達の手元に置いておきたい、と言う思惑から彼らが選ばれたのだ。
選りすぐりと言えばそうだがどちらかというと『問題自衛官』をすべて押し込んだ感じである。
指揮官の香山を始めとして・・・・。
勿論彼らには「日本を救うための英雄達」と煽ててはいるのだが・・・・・・。
何故か香山の目を通すと『建前部隊』としか映らないのだ。
「ま、力を抜いてな。そんなに入れ込んじゃあ息切れするぜ。山科二尉殿」
彼は建前のために命を懸ける気は毛頭ない。ましてやそんな報告書のために残業などとんでも無い話だ。
「力を抜きすぎるのも問題だと思いますけど・・・明日は第二に出張ですよ。それまでには・・・・」
「ハイハイ仕上げますよ。そんじゃお疲れさん、早く帰んな」
「では、失礼します」
再び敬礼をして部屋を後にした、と言うより劣勢に立たされた香山が彼女を追い出した。
「まったくお目当ての物が手に入ってなきゃ、こんな物いらんだろうに・・・」
ピラピラと報告書を摘みながらゴミ箱に放り込んだ。
・・・さてと、どっちの建前がより説得力があるかな?・・・・
ナイター速報が終わり、TV画面は特集番組へと変わっている。
大げさすぎるテロップに大げさすぎる題名がこれ見よがしに踊っていた。
*
『第三新東京市を襲った謎の巨大生物の正体に迫る!!極秘情報スクープ!』
「だ、そうだ。日本のマスコミはなかなか鼻が利くな・・・・」
「・・・・・・我々は失業だな」
五十代前半の二人の男はTVに皮肉な笑いを向けた。
国家公安委員会長官、鐘実昭三にしてみれば笑うしかない。テロップに書かれている情報が欲しいから苦労しているのだ。それがTVで流れるので在れば彼の存在など不要である。
無論流れないから彼は失業せずに済んでいた。
「NERVの方はどうなった?そろそろ何か分かったのか」
「まだ何も・・・もうそろそろ何か言って来る筈だ」
彼らに貴重な情報を届けるはずの加持を当てにしているのだ。
待ち遠しい思いを押し込めブランデーの入ったグラスを傾けながら再びTVに目を向ける。
大げさな音楽に興奮気味の司会者、物知り顔だけの学者に悲鳴しかあげないゲスト。
おおよそニュース番組の特集とは思えない、幼稚園児の学芸会レベルの特番は何の恥じらいもなく展開されていく。
「・・・・事実ではなくともTVでは現実に出来るようだな・・・」
『民主国民党』党首の肩書きを持つ東部は呆れたように映し出される画面を眺めながら呟いた。
そこに事実が何一つ無い事を彼らは良く知っている。
映像はすべて修正されており、学者の耳に入っている情報はすべて操作されている物だ。
世間には何一つ真実は発表されない。
各放送局にある映像はすべて検閲され、持ち込まれた情報はすべてもみ消され、個人レベルでの発表はすべて抹消される。
そうしたのは彼らであり、彼らにそうさせたのはNERVの司令であった。
見る価値のないTV番組を消し録画されたDVDをセットした。
そこには隠された情報が修正なしに映し出されている。
「あれから十五年だ・・・やっと復興したと思ったら今度はこの化け物か!」
「おまけにNERVなどと言う厄介者まで背負い込んで好き勝手にやられているとはな」
彼らの頭の中に『人類補完委員会』と言う名が望みもしないのに浮かんでくる。
八年前に彼らがその名を耳にしたのだ。
それからというもののろくな目にあっていない。
国連の一セクションであるその組織は今や彼らにとって疫病神と同意語だった。
「せめてNERVをこちらに抱き込みたいな・・・出来ればあの化け物と一緒に・・・」
「その為にあの男を送り込んだ・・・焦るな、今はまだ早い・・・これを手に入れるまでは・・・」
DVDの映し出す怒り狂った紫の巨人を目にしながら残り少なくなったブランデーを一気に煽り鐘実はグラス越しに長年の友人を眺めてみた。
歪んで映っていた。
*
『という訳でセカンドインパクト以来初めての宇宙開発事業団による人工衛星の打ち上げがいよいよ明日に迫ってきました。まあ税金の無駄遣いとの声も上がっていますが、日本の復興がようやく此処まで来たと言う事の意味を・・・・』
碇家に唯一設置されているTVの中でニュースキャスターの無意味に熱のこもった解説を繰り広げていた。
だがそれを見ていたシンジにさしたる感動を与える事はなかった。彼はセカンドインパクト時の苦労を知らずに育っているのでキャスターの言う“意味”という物は分からない。
「人工衛星か・・・・何に使うんだろ・・・」
「・・・多目的衛星って言ってたわ・・・」
レイは隣で週遅れのファッション雑誌をめくりながら答えた。
その赤い瞳にもこのニュースは興味ある物に映らなかったらしく、記憶の中に辛うじて残った名詞を口にしただけだ。
「ふうん、多目的って・・・何でも使えるって事かな?」
「たぶん、そう」
「じゃあ何に使うか分からないね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうね」
二人の実りのない会話はともかく、レイはシンジのとなりで寝転がりながら新しいファッション雑誌を手にしながらくつろいでいる。
そこには緊張感も警戒心もない。
普段彼女のクラスメイトが目にする事のない姿だ。
そんな二人の耳にドアの外側からタタタッと足音が聞こえてきた。
やがてガチャッとドアが開くとバスタオルを巻いた濡れた髪の少女が立っている。
「シンジ!チャンネル変えて!!」
「今見てるんだけど・・・これ・・・」
シンジの不平などアスカにとって在って無きが如し・・・・
「うるさい!早く変えなさいよ!」
一方的な要求を突きつけるアスカに当人以外から非難の声が上がった。
「なんですアスカその格好は!早く服着てらっしゃい!!」
この家の主婦、ユイの一喝で彼女は自分の格好を見てその意味を理解した。年頃の女の子がウロウロしていい格好ではない。
「バカ!エッチ!変態!見ないでよ!!」
ギュウッとシンジを踏みつけ慌てて着替えに戻っていった。慌てなければいけない事があるのだ。
間もなく階段を駆け下りる足音が聞こえたかと思うと、開けっ放しのドアから寝間着姿のアスカが飛び込んできた。さすがに髪の毛まで乾かす間はないらしくタオルを巻いている。
「チャンネル!」
「ぐう・・・お、重い・・・」
寝転がってTVを見ているシンジの背中にまたがると彼の手からリモコンを奪い取りチャンネルを変えた。
アスカの下で座布団代わりになっているシンジは抗議の声を上げる事もできない。
『淡色の絵本』
アスカの今熱中しているTVドラマだ。いわゆる恋愛物で良くある二十代の複数の男女が織りなす愛と青春のお話らしい。
彼女は毎週欠かさずに見ていた。そしてシンジもそれに付き合わされている。
何しろこの広い家の中にこれ一台しかTVが無いのだからほかにやる事のない彼は付き合わざる負えない。
OPも終わりドラマが始まるとアスカの目が画面に釘付けになり微動だにしない。
せめて背中から降りて欲しいとシンジは願うが居心地がいいのか或いは面倒なのかドラマに熱中している彼女から降りる気配は感じられなかった。
「重いよ・・・苦しいよ・・・・うーーーん」
「うるさいわね・・・黙っててよ・・・・」
何しろドラマの進行に合わせて泣いたり笑ったりするくらい熱中しているのだ。
これ以上言うと怒り出すので沈黙を保つ事にした。
「お茶・・・飲む?・・・」
「うん・・・飲む・・・・」
レイの差し出す湯飲みを受け取るとうつ伏せになったままズズッとお茶を啜る。すっかりお茶入れ係りが板に付いたレイはテーブルで新聞を読んでいるゲンドウと婦人雑誌を読んでいるユイにも注ぐ。
「お、すまんな・・・」
「ありがとうね。お茶菓子はそこに入ってるから二人にも持って行ってあげて」
「シンジには魚の骨で十分だがな」
勿論そうはせず、レイが取り出したのは様々な種類の入った大きめのクッキーだ。
食べ盛りの男女三人がいる碇家の茶箪笥には、お茶菓子が常に豊富なストックを誇っており、こうして夕食後のひとときに三人の口に入るのだ。
「食べるの?・・・・」
「・・・・・・・・・置いといて」
TVに入り込んでしまったアスカの返答は実に素っ気ない。
「碇君はどれにするの?・・・・」
「んーーーとーーーチョコの奴」
中心部にチョコを配置した円形のクッキーを取り、包装紙を破ろうとしたが両手はアスカの足の下だった。
勿論ワザとアスカが足でシンジの両手を押さえたのだ。
「アスカ・・・足どけて・・・」
恐る恐る言ってみたが
「んっべーーーーーーーーーどかしてあげないもんねーーーーだ」
「なんて顔だよ・・・どかしてってば!」
「べーーーーーだ!見てるの邪魔しないでよね」
思いっきり舌を出して完全拒否の構えのアスカ。
ただいつものようにシンジをからかっているだけだから悪気はない。その分たちが悪いが。
「碇君・・・・ハイ・・・」
レイがいつの間にか包装紙から取り出すとクッキーをシンジの口の前に差し出した。
「あ、ありがと・・・・ぐ・・・ん・・・」
レイは食べさせた、と言うより口に押し込んだ。少し大きめのクッキーである。一口ではなかなかきついだろう。
「ぐ・・・が・・・・ん・・んっんん」
意味不明な呻き声を上げながらそれを飲み込めないでいる。
「美味しい?・・・・・」
赤い瞳が真っ直ぐに見つめるがシンジはそれどころではない。アスカの下敷きになり口には大きめのクッキーが押し込まれ、しかもレイはもう一枚用意していた。
「あらシンジー、食べさせて貰って良かったわねー。おいちいでしゅか?」
シンジの上に座っているアスカが見下ろしながら問いかける。
勿論飲み込めないで難儀しているなど関係ない。
「ん・・・・んん・・・・ん・・」
首を横に振るシンジ。アスカの目が氷点下まで下がっている事に気がついたので必死である。
だがレイがもう一枚を包装紙から取り出すのを目にするとシンジの両手を解放した。
「ふん・・・」
*
「父さん・・・テレビ買ってよ・・」
「嫌だ・・・嫌な物は嫌だ・・・母さんに聞け」
シンジは自分の部屋にTVを設置すべくこの碇家の家長に要求をしてみたが返答は実に明快だった。
“駄目だ”ではなく“嫌だ”というのが泣かせる。
そもそもが今時TVが一台しかないというのはシンジには納得しかねる。
「じゃあ母さん・・・」
「アスカちゃんに聞きなさい」
こちらもあっけなく答えた。だがユイの言うようにシンジのTV購入の一番の反対者はアスカだった。
「駄目!絶対駄目!そうでなくったって忘れ物はするし朝起きれないんだから!駄目!」
それが以前からこの話題になる度に主張する彼女の言い分であった。
「・・・あたしも買わない方がいいと思う・・・」
そして最近ではレイもアスカ陣営に加わりシンジには太刀打ちできそうもない。
「何でだよ・・・トウジもケンスケも自分の部屋にあるし・・・・いいじゃないか」
小学生のような不平を並べてみるが彼女達の理解は得られなかった。不満を顔満面に表しても結果は同じだ。
アスカの言うことは事実なので彼も弱気になる、が何故彼女達が此処まで反対するのかシンジには理解できなかった。
「いいじゃないか・・・別に部屋でテレビ見たって・・・・」
*
「駄目!すぐに移動しなさい!レイはすぐにフォロー!」
指示を受け巨体をすぐに右に飛ばす。
それと同時にシンジの手に激しい振動が伝わり彼の視界に無数の蛍が乱舞する。
二方向からの光のつぶてが僅かな弧を描きながら目標となる巨大な陰に爆炎の華を無数に開花させた。
「OK!!シンちゃん上がっていいわよー。レイもお疲れさんね」
地下にあるNERV本部の更に地下にある第五訓練場。
エヴァのシュミレーションシステムの中にいるシンジはようやく解放される事となった。
もう夕方なので腹は減るし疲れたしでいい加減休みたかったのだが、彼の上司はなかなか厳しくOKが出ないのだ。
「随分今日は長かったわねえ」
「そう?んーーーーでも命中率70%切ってちゃそう簡単にねえ・・・」
「でも飲み込み早いわよ。・・・・81%まで上がってるわね」
「そこはほら、あたしの教え方いいから。にひひひ」
コントロールルームの二人はモニターのデータに目を通しながらシンジが上がって来るのを待っている。
実のところシンジの武器の取り扱いに関しては緊急課題だった。
不器用、言ってしまえばそれまでなのだが銃器の取り扱いに長けている中学生などそうは居ないだろう。しかしミサトはそれでは済ませられない。
今までシンジに強力な重火器を扱わせなかったのはとにかく命中率が悪いからだ。
パレットガンを持たせた事もあったがそれにしたって最後まで使いこなせなかった。
前回の様に街中でそんな物を持たせれば今のままでは使徒より先にシンジが第三新東京市を火の海にしてしまうのは容易に想像出来てしまうのだ。
という訳でこの処その訓練にシンジは常にほぼ毎日かり出されている。
「お疲れー。前より良くなったじゃない、人間努力ねー」
「はあ、でもここんところ同じ訓練ばっかりですね・・・」
シンジの言うように訓練の内容はほぼ同じシュミレーションの繰り返しだ。
「まあまあ、愚痴は言わずにさ、今日は二人とも着替えたら上に来て。反省会ね」
二人は更衣室を後にすると今や彼らのミーティングルームとなったティーラウンジに向かう。
「碇君・・・お腹空いたわね・・・」
「うん、ミサトさんも長いんだよなあ。全然休ませてくれないんだもん、疲れちゃった」
レイは何故かこのところ機嫌がいいらしく、珍しく自分から話しかけてきた。
先週シンジが登校を再開してから訓練は毎日だ。
シンジのための訓練だったがフォーメーション訓練も在るためレイもそれに付き合わされている。
レイの場合そんなにしなくとも火器の取り扱いに問題はないのだが、ミサトに何一つ不満を言う事なく黙々と従っていた。
「・・・これ食べる?」
そう言うと鞄からサンドウィッチを取り出した。お昼休みに学校の購買部で購入した物だ。
シンジがあんまり「お腹空いた」と言う物だから彼女なりに気を利かせたらしい。
「あ、食べる。・・・そのハムの奴ちょうだい」
何の躊躇いもなくハムサンドにかぶりつく。教科書に挟まれ潰れているのはご愛敬だ。
レイも卵サンドを口にしながらシンジのとなりを歩いた。
「綾波ってさ・・・もぐ・・・何か変わったよね・・・もぐ・・・」
「・・・・・・・何で・・・・そう思うの?・・・」
「何となくだけど・・・もぐ・・・・いいと思うよ」
シンジに深い考えがあって言った訳ではない。彼女と知り合ってから2ヶ月ちょっとだ。
長い時間ではないがその間にこの二人に起きたことは決して小さな事ではない。
それはレイ同様にシンジ自身の中でも何かを変え始めていた。
彼女が変わったことに気がついたのはその為かも知れない。
「・・・・・・・いい事なの?・・・・」
「多分・・・いいんじゃないかな・・・」
未だ口にハムサンドの残っているシンジと白い頬を朱に染めたレイの前に下界に上がるエレベータが止まった。
*
「よう、こんなとこで二人ともさぼりか?」
「ええ、ミサトに無理矢理誘われてね。首にならないかとヒヤヒヤしてるわ」
リツコとミサトの前には長身長髪の男が立っていた。
彼女達は加持リョウジと言うこの男の名前を良く知っている。
「出たわね。あんたにさぼりなんて言われたくないわよ!プラプラして一年中サボってるんじゃないの?」
目を二等辺三角形にしてミサトが睨んだが生憎と加持の顔色は変わらなかった。
「ご名答。暇なんだなこっちに来たら。査察部なんて今は仕事無いからな」
悪びれる様子など全くなくミサトの質問を肯定する。
「加持君、此処には何の用で来たの?観光かしら」
シンジ達の測定データを眺めながらリツコが訪ねる。嫌みが多少混ざるのに悪気はない。
「用事ねえ・・・簡単に言えばNERVの内偵かな。人員、規模、設備、そしてエヴァに関する情報、まあこんなとこだ」
恐らく第二東京市にいる彼の上司が聞いたら目をむいて卒倒しかねない事を軽々と口にする。
「そう、お疲れさまねえ。公安でしょ、加持君に頼むマヌケは」
「当たり、鐘実って言う・・・確か長官だったな」
彼の役目では絶対に口にしてはならない事を平気な顔で二人に披露した。
「で、悪いけど適当なダミーデータ作ってくれないか。そろそろ報告しとかないと給料貰えないんでね」
「人に頼むのが相変わらず上手ね。・・・・いいわよ、でも高いわよ」
「いいさ、幾らでもふっかけて。必要経費で落とせる」
「何か可哀想になったわ・・・この間悪口言ったの謝ろうかしら・・・」
ミサトは目の前の悪魔二匹のそんな様子につい鐘実という男に同情してしまった。
要するに彼らはNERVの送り込んだスパイに自分の家を調べて教えろと頼んでいたのだ。
もしこれが公になれば鐘実と東部は条約違反で即拘禁される事は必死である。
しかしそうならずに済んでいるのはNERV司令、碇ゲンドウが此処で情報を止めているからだが、それは決して彼らのためではない。
魔王に心臓を握られているのとさして代わりはないのだ。
「あ、シンちゃんこっちこっち」
ミサトの前にいる二人とは違って黒い尻尾の生えていない中学生を手招きした。
「君が碇シンジ君か。初めましてでもないな・・・」
「・・・誰ですか?・・」
シンジは僅かに警戒している。
加持から何かを感じ取った、と言うのではなく人見知りするのだ。元々それ程社交性があるわけではないし『ミサトさん』と仲良さそうなのも気に入らなかった。
『ミサトさんは僕の上司』と言う思いが彼の胸にある。
「ただのろくでなしで加持って言うの。まあ面倒見てやって」
「面倒って・・・あの・・・初めまして・・」
おずおずと加持に挨拶をするがシンジが面倒を見るには大人すぎる。
ミサトの紹介もかなりいい加減だったが確かにオペレータのマコトやシゲルとは違う雰囲気を持つ男だ。
「・・・・・・碇君知ってるの?この人・・・」
レイは加持が「初めてでもないな」と言ったのに気がついていた。
彼女の加持を見る目は以前と同じ『冷たい赤』だ。
シンジの警戒心を感じ取ったのか、万が一彼がシンジの敵で在ればそれはレイにとっても同じ意味を持つ。
そしてレイにしてみればミサトもリツコもさしたる存在ではない。信頼も信用もしていない。
彼女達は命令をするための『声』と言うだけだ。
だから目の前の男とミサトが仲良くても気を許す訳には行かない。
「シンジ君、一応お礼言ってあげて。惣流さん助けたのは彼だから」
「あ・・・・あ有り難う御座いました・・・その・・・あの・・・」
シンジの記憶にある足下を駆け抜けていったルノー。それが走り去った事でアスカの命は救われたのだ。
だからといって人見知りが直るわけでもなく、ぎこちないお礼しか返せなかった。
「そんなに大袈裟にしないでくれよリッちゃん。まあ、暫く此処にいるからよろしくな」大人の余裕か、加持はシンジが警戒しているのを知っていたがまったく気が付かぬかの様に笑みを浮かべ握手した。
「は、はい・・・ミサトさん、今日の結果どうでした?」
シンジはミサトに話しかける事で落ち着きを取り戻そうとした。
そこには僅かに加持に対する見せつけのような物があったかも知れない。
「まあまあね、少しずつ・・って言ってあげたいんだけど敵さんは何時来るか分かんないしね。でも随分良くなったわよ。レイとのコンビネーションもうまく行ってるみたいだし」「命中率見る限り実戦でライフル使えるくらいにはなってきてるわよ。進歩したわね」
二人のお褒めの言葉はシンジに 自信と手応えを与える。
「そうですか!でももっと上手にならないと・・・」
唯一自分にしか出来ない役目だ。上手くできればやはり嬉しい。
そしてより上手くなりたい。
好きでやっているんでは無いにしても・・・・。
「じゃあ、気を付けて帰ってね。ちょっち用事あるから送れないけど」
「明日も・・・訓練ですか?」
「そうよ、駄目よサボっちゃ。日々精進、続けるのが大切なんだから」
ミサトの言葉にリツコが茶々を入れる。
「そう、ミサトのダイエットみたいにすぐ止めちゃ駄目よ。取り返しが付かなくなるから」
シンジの溜息は訓練の継続に対する物だけではないらしい。
「はぁ・・・じゃあ、毎日ですね・・・」
「そう言うこと、ほら遅くなんない内に終わらすから。がんばってねー」
「はい・・・・碇君帰りましょ」
レイが真っ先に返事を返しシンジを連れエレベータへと消えていった。
「俺も随分嫌われたもんだ。彼女凄い目で睨んでたな」
「いつもの事よ。あの娘にとってはみんな一緒なのよ・・・・相手が誰でも」
別段加持を慰めるためではないがミサトはそう口にする。
そして自分やリツコも“みんな”の中に含まれていることは承知している。
「そうか・・・まっいいさ。それよりまた三人で飲もうや。ミサト先生にリツコ先生」
「やだ、知ってたの?・・・耳ざといわね。まあいいわ、そのうちね」
仏頂面で睨んでいるミサトの返答はあきらめ加持はティーラウンジから立ち去った。
「まったく相変わらず軽いんだから!根っからのろくでなしね・・・」
「今更変われる歳でもないでしょ・・・お互いに」
温くなりかけのコーヒーを口するといかにも不味そうにテーブルに置く。
「相変わらず不味いわね・・・・そんなに砂糖入れると本当に太るわよ」
「そう?そんなに入れてないわよ・・・・さて明日の訓練は・・・・」
リツコの追撃をかわす為明日の訓練予定を引っぱり出す。シンジにも言ったように暫くは続ければならない。何時までもナイフだけで戦わせるわけには行かないのだ。
「熱心ね・・・まあいいけど、気を付けなさいよ。この間も言ったけど・・・」
「あたしも言ったでしょ、リツコには分からないって。少しでも確率を上げておきたいのよ・・・」
「使徒を倒す確率?」
「・・・・彼が生き残る確率よ・・・」
二人とも続ける言葉を失った。
お互い責めているわけではないが理解出来るわけでもないのだ。
ミサトにはリツコの無機質さが、リツコにはミサトの入れ込み様が。
凍り付きかけた空気はミサトが解かした。
「ま、あたしも生き残りたいしね。さてと仕事片づけちゃうか」
席を立ちかけた彼女にリツコが何かを確認するように呟く。
「あの時あそこにいたのが惣流・アスカ・ラングレーじゃなくて普通の民間人だったらどうしたの?やっぱり助けた?それとも見殺しにした?」
「・・・・嫌われるわよ、そういうの・・・」
空になったカップを握りつぶし、席を立ちリツコに背を向けた。
彼女にリツコの質問に答える言葉はどこにもなかった。
*
五時半の第三新東京市の空はレイの瞳のような色だ。
夕方独特の寂しさまで似ている。
「あの人がアスカ助けたんだ・・・」
「・・・でも、守ったのは碇君よ・・・」
それはエヴァに乗れるレイだけが口に出来る言葉だ。
あの時シンジがどんな思いをしたのかを知っている彼女だけが出来る言葉だ。
今それを口にするには少し辛かったが。
「・・・・・・うん。・・・・ゴメン・・・訓練付き合わせちゃって、綾波は上手く出来るのにね」
「・・・・・・・何で謝るの?・・・」
「だって毎日付き合わされるんだし・・・その・・・・」
自分だけ問題が出来なくて班の全員を待たせる生徒、シンジはそんな気持ちだ。
以前にも味わった事のある気の重い憂鬱な記憶・・・・。
「そんな事無いわ・・・・・・」
その先を続けようとするが言葉が見つからない。
言葉と想いと経験が上手く重ならなずもどかしさだけが募る。
・・・嬉しい、でもそれだけじゃないの・・・
・・・分からない、どう言えばいいのか・・・
ぎゅっと左腕を握りしめる。
・・・もっと伝えたい事沢山ある・・・
・・・きっとあの娘なら知ってる・・・
「・・・どうしたの?・・・ごめん、次はもっと上手くやるから・・・」
「違う・・・・違うの・・・・」
想いが伝わらない事に苛立つ。伝えられない自分に苛立つ。
知ってしまえば簡単な事がレイには見つけられない。
「嫌じゃないの・・・一緒は・・・嫌じゃない・・・」
ようやく口にした言葉はどれほどの想いを運べるのか分からない。
相手にどれだけ伝えられるのか分からない。
「・・・ありがと、明日もがんばろ。一緒に」
「うん」
シンジにどういう表情で答えたらいいのか分からないから頷いた。
レイの瞳はもう悲しい赤ではなかった。
*
『取材に出かける、暫く帰らないが戸締まりは頼む。生活費は口座に振り込んであるからよろしく』
ケンスケが自宅に帰ってくるとテーブルの上にそう書かれたメモが置かれていた。
今までまともに家にいた事のない父親だから今更気にもならない。
無言のまま通学鞄をソファに放り出すとTVの電源を入れた。
午後六時のニュースが画面に現れる。
このところケンスケはニュース番組のチェックを欠かさなかった。
彼の父親に渡したDVDに記録された映像がいずれ画面に出ると思ったからだ。
それには彼の撮影したスクープが記録されており本来なら特ダネの筈である。
だがそうはならなかった。
「やっぱり出ないか・・・・・くそ!!」
もみ消された・・・そうケンスケは確信した。既に日数は随分立っているのに未だにあの紫の“ロボット”の映像は一度も現れなかったのだ。
その事実は同時に映像を渡した父親への失望になっていく。
・・・ 何がジャーナリズムだ!・・・結局握り潰されてるじゃないか!!・・・
滅多に会えない父親を好きではなかった、しかしジャーナリストの父は尊敬し憧れてもいた。
その思いを裏切られたかの様に感じるのはケンスケ自身が撮影した物だから余計にそう思う。
その映像がTVで放映されることで憧れた父親に近づけると思っていたのだろう。
「・・・帰ってたの・・・・」
不意に女性の声が聞こえ、ケンスケは振り向くと彼の母親が買い物袋を下げそこにいた。
「・・・来てたんだ・・・何しに来たんだよ」
「約束の日は明日だけど・・・その日は用事があるから。夕飯は?」
「・・・いいよ、弁当買ったから・・・」
ケンスケはTVに目を移し振り返らずにそう答えた。
二人の言葉に感情らしい物はない。
「そう・・・明日のお弁当は作って冷蔵庫に入れて置くから・・・学校に持って行きなさい」
返答を待つことなく彼女は台所で支度を始めだす。
水道を流れる水の音が響くが「おかずは何?」というケンスケの声は聞こえては来ない。
彼は自室の扉を閉めた後は何一つ物音を立てなかった。
・・・一緒に暮らさなくなってからどれくらいだろ・・・
今更母親が共に暮らせなせなくなった理由など興味はない。
彼女はここを出ていき、父親はそれを認め、自分はそれを受け容れた。
週に何回かここに訪れケンスケに夕飯と翌日の弁当を作ることがそうなってから続いている。
・・・鬱陶しいんだよ・・・・
彼には母親の行為が言い訳にしか見えなかった。それも母親自身に対する・・・・。
それを見る度酷くケンスケは苛立つ。
何に苛立つのか分からないから余計に鬱陶しかった。
自分専用のTVに電源を入れ無作為にチャンネルを変える。
数秒ごとに切り替わる画面は母親が帰るまで続いた。
「じゃあ、帰るから・・・」
息子の近況も聞かず、自分の事も話さず扉を閉じた。
気にもならない、いつもの事だ。
「・・・・誰か来ないかな・・・・」
眼鏡越しのTVは白黒に見えた。
*
「ちょっとバカシンジ!人のおかず取んないでよ!」
「取ってないよ・・・・あーーー!それ僕んだぞ!」
シンジに彼女のおかずを取る度胸など無く無論アスカの一方的な侵略だ。
だがそれを防ぎきれなかったシンジは目の前にある唐揚げを三個も略奪されてしまった。
迂闊といえば迂闊だ。
アスカの大好物である唐揚げの時は常に警戒しなければならなかったのだがつい水着のCMに目を奪われ気が緩んだ瞬間の悲劇だった。
「あーあ・・・酷いよ・・・」
「へへーん、あーーーー美味しい。残念ね少ししかなくて」
得意満面な顔をシンジに見せつける。取り返せるなら取り返して見ろと言わんばかりだ。
とは言うものの唐揚げは既にアスカの口の中だった。
そんな様子を横目に見ながらレイは黙々ときつね色の唐揚げを口に運ぶ。
彼女はいつも何一つ残さず食べ終える。そして今日も皿の上には何一つ残っていなかった。
シンジ以外には平和な夕食を楽しんでいる。
ユイもゲンドウもこの二人のおかずの取り合いはいつもの事なので今更何か言うつもりはない。
とにかく碇家の夜は賑やかだ。
TVの画面に一際派手な音楽と映像が流れ始めるとアスカがシンジに話しかける。
「あ、シンジ見るんでしょあれ。『南極大決戦V』」
「もうこんな時間!うん見るんだから変えるなよな」
「なによそれ!教えてやったんじゃない!・・・こうしてやる!」
TVに向き直ったシンジを後ろから目隠しした。
シンジの顔にアスカの柔らかい手の感触が伝わる。
「な・・・・・何するんだよ!」
「教えてやったのにえばるからでしょ!えっらそーにさ!」
シンジが目隠しを振りほどこうとアスカの手首を掴む。
・・・あ、こんなに細かったんだ・・・
身長は同じだったのにアスカの手首はシンジのそれより細く無理に振りほどけば折れてしまいそうだった。
「は、離してよ・・・テレビ見るんだから・・・」
「やーよ!あーーー面白い!残念ね見れなくってさ」
勿論番組が始まれば手は離すつもりだ。
じゃれ合いに過ぎないのだった。
・・・いっつも遅いんだから、レイと一緒になにしてんのよ!・・・・
口に出来ないことは彼女にもあった。
言ってしまうと今の時間が消えてしまい自分一人だけになってしまうように思えたのだ。
まるで夢から覚めてしまうように・・・・。
「えい!」
「イタタタ・・・・ったく・・何すんだよ・・・」
「意味はないわよ、何となくつねってるだけよ」
アスカに頬を摘まれたままシンジは文句を言おうと思ったが更につねられそうだったので諦めることにした。
「一緒に見てあげるんだから大人しくしなさいよ・・・・バカシンジは落ち付き無いんだから」
シンジの後ろにアスカが座り一緒にTVに顔を向ける。
そしてレイはお盆にお茶の注がれた湯飲み三人分を運んでくるとシンジの隣に腰を下ろした。
今まではアスカの時間だったが、今は違う。
・・・今も大切な時間だから・・・
何故かソファーは誰も使わずTVの前に三人一塊りになってTVの前に陣取っている。
今の三人にそんな物は不要だった。
「ねえ、・・・あの子達いずれ此処を出ていくのよね・・・」
シンジ達の光景にユイが新聞を読み続けるゲンドウに呟く。
心が何年か先の光景を捕らえたとき、彼女の母親としての思いが胸の奥からこぼれだした。
ゲンドウは僅かに新聞をどかすとシンジ達を眺め再び活字の陰に身を隠す。
「構わん・・・その為の戦いだ・・・否定はしないでやってくれ・・・」
続く
後書き
『26からのストーリー第九話:大人達の事情』上がりました・・・・・。
本当は日曜日に仕上げるつもりだったのですが・・・今年の風邪はしつこいらしく・・・
・・・・と言い分けしておいてさて後書きです。
副題:ケンスケの家庭の事情・・・・(^^;
まあこの辺はあまり突っ込まないで下さい。シゲルより少ないケンスケファンの方へ(;;)
今回は比較的大人が主役になりました。と言うより脇役が・・・
処でミサトとリツコどうでしたか?彼女達の詳細は今後次々と書いて行くでしょう。
もう少しユイとゲンドウを書きたかったのですが・・・まああの二人は嫌でも出てくるでしょうし。
問題児の加持君!ぺらぺら余計なことを・・・かつて無いスパイの姿!(笑)
この辺はバレバレですからいいかな?
謎にしても今更だし(^^;
アスカ、シンジ、レイ・・・読みとっていただけるか・・・ああ・・・心配です。
では次回第十話:何にしましょう・・・でお逢いしましょう(^^)
今回もお読みいただき有り難う御座いました
ディオネア
ピイエス
この間『ここを読んでみては?』と在る方にメールを頂き早速読んでみました。
詳しい感想は後ほどとして・・・わざわざすみません。有り難う御座いました。
がんばって書きますんで見捨てないで下さいね(^^;
ディオネアさんの『26からのストーリー』第九話、公開です。
ミサトにリツコに加持。
ケンスケとその母。
シンジとレイとアスカ。
それぞれの時間の中で、
それぞれの思い。
アスカちゃんに背中に乗られたシンジ・・・・・・羨ましすぎ(^^;
シンジはうつ伏せでしたが、2・3年もすれば仰向けになったりして・・・
・・・・・下ネタでしたすみませんm(_ _)m。
シンジへの漠然とした不安がアスカを
こういうスキンシップに駆り立てるんでしょうか・・・。
何気なく描かれた日常の中に表れる心でした。
さあ、訪問者の皆さん。
貴方の感想をメールにしたためディオネアさんに!