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未来のために


− 第三話 もう後ろは見ない −


Writing by HIDE





「終わったわね・・・。」

ミサトはコントロールルームの椅子に腰掛けて一息ついていた。

心身共に限界に近い。

体がアルコールを求めるが、ここにそんなものはない。

「少しお酒を控えた方がいいかしら・・・。」

そう呟いて苦笑する。

(もうそんな必要はなかったわね・・・。さてと、もう一仕事・・・。)

ミサトにはまだ含むところがあった。

立ち上がってこの場にいる3人に向かって言う。

「日向君、青葉君、マヤ。あなたたちは早く逃げて。初号機の出現で敵の混乱は増すはずよ。今なら逃げられるわ。」

「葛城三佐は?」

全員の意見を代表してシゲルが尋ねた。

「私はまだする事が残っているの。でも、すぐに行くから。」

シゲルとマヤの顔に怪訝そうな表情が浮かぶ。

マコトは目の前のモニターを睨み付けたままだ。

ミサトの方からはその表情は伺えない。

「急いで!」

有無を言わせぬ口調でミサトが急かす。

「はっ、はい!」

そう応えてシゲルはマヤの手を取ると、出口に向かって走り出した。

だが、マコトはコントロールパネルの前から動こうとしない。

「日向君、あなたも早く!」

なおも言い募るミサト。

マコトは意を決してミサトの方に向き直ると、彼女の目を真っ直ぐ見つめて言った。



「僕も残ります。あなたにMAGIは扱えませんよ。葛城さん。」



『葛城三佐』ではない。プライベートでの呼び方。

一瞬、2人の時が止まる。

ミサトが呻くような声でその沈黙を破る。

「・・・どうして・・・、わかったの・・・?」

そう、ミサトはここからMAGIにアクセスし、本部内に残っている生存者の逃亡を支援するつもりでいた。

もちろん、そんなことをすればただでは済まないのはわかっている。

ただ、ミサトは、

(加持君をあんまり待たせるのも悪いから。)

という理由をつけて、自分の行為を正当化させようとしていた。

「それくらいわかりますよ。ずっとあなたを見てきたから・・・。」

マコトは穏やかな表情でそう言うと、諭すようにして続ける。

「でも、葛城さんらしくないですね。あなたはいつも、一見無謀ともいえる困難な作戦を立案しては、そのすべてを成功させてきました。それがどんなに可能性の低いものであっても、ほんの小さな希望を無理矢理押し広げて成功を掴み取ってきたじゃないですか。」

一息にそこまで言って、軽く息を吸い込むと、無理に明るい声を出して微笑みながら付け加える。

「正直言って、僕たちはあなたが作戦を立案する度に寿命が縮む思いでしたけどね。」

「・・・。」

ミサトは俯いている。その表情は伺えない。

「昔のあなたは知りませんが、多分、加持さんはあなたのそんなところが好きだっだんだと思います・・・。僕だって、そうです。」



沈黙が2人を包む。



しばらくして、ようやくミサトが口を開いた。

「ありがとう・・・。でも、今はもう、そんな気にはなれないわ・・・。」

以前の、希望に満ちあふれていたミサトではない。

マコトは立ち上がるとミサトの元へと歩み寄り、その肩を抱いた。

「わかってますよ。あなたの希望の光はもう消えてしまったことも・・・。でもね、葛城さん。僕にはあなたが輝きを失うのは耐えられないんです。今までのあなたが眩しすぎたから・・・。」

そして、反論を許さぬ口調で言い切った。

「だから、僕も残ります。」



ミサトの肩が震えだす。

マコトにもその震えが伝わる。

マコトはミサトの肩に置いた手に力を込める。

彼女が一人ではないことを気づかせるために・・・。



「・・・死ぬ、わよ・・・。」

嗚咽を必死にこらえながら、ミサトは最後にもう一度だけ確認をした。

予期していた言葉だったのだろう、マコトはためらわずに応えた。

「前にも言ったでしょう?かまいませんよ、あなたと一緒なら。」

そう言ってマコトは肩を震わせているミサトの身体を、ぎこちなく、だが、優しく抱きしめる。



「・・・だめよ。」

しばらくしてミサトが呟いた。

その声に少し驚いて身体を離すマコト。

顔を上げたミサトは微笑んでいた。涙を流しながら。

「絶望なんかする前にやれることやっとかなくちゃね。私たちは少なくとも生きてはいるんだから。逃げましょう。一緒に。」

(ごめんね、加持君。次のデートに私は行けそうにないわ。こんな私の手首を掴んで放さないバカがいるのよ・・・。だから、あんたは、先に行ってて・・・。)

ミサトが新たに見つけた希望の光は、メガネをかけて、少し頼りなげな顔をしていたが、彼女には眩しすぎて、涙が、止まらなかった。






振り返って身構えた初号機と弐号機の視線の先には、緩慢な動きでにじり寄ってくる6体の量産型エヴァの姿があった。

残る敵は7体。

しかし、そのうちの1体は降下したときから微動だにせず、こちらを睨み続けている。

シンジはそのことが気になってはいたが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。

「どうやら、敵に指揮系統はないようね。」

アスカが敵の様子を観察しながら言う。

確かに残る7体の敵の動きには統制が見られない。

「うん。多分、ダミープラグを使っているんだと思う。」

少し苦しそうな声でシンジが応じる。

(そうだとしたら、一体誰の・・・。)

そう思うが口にはしない。

アスカはダミーシステムの秘密を知らないはずだ。

今はそんなことを長々と説明している暇はない。

「それならこっちにも考えがあるわ・・・。シンジ!2人懸かりで一体づつ確実に破壊して行くわよ。」

以前のアスカなら卑怯だからと口にしない作戦だったろう。

しかし、今はそんなわだかまりは捨てていた。

確かに敵が連携を取らない以上、2人懸かりでの各個撃破は最も安全かつ確実な作戦である。

「まずは一番近い奴から。あんたはA・Tフィールドを中和、私が止めを刺すわ。外部電源は一旦はずす。後は臨機応変。しばらく戦ったらまた距離を取って充電しましょう。」

「わかった。」



姿勢を低くして身構える初号機と弐号機。

「行くよ。」

シンジの声。頷くアスカ。

バスンッ。

背中のケーブルがはずれる。



「「GO!!」」

ユニゾンで叫んで走り出す。

初号機が僅かにスピードを上げる。

追従してその後ろを走る弐号機。

それに気づいた敵の一体がソニックグレイブを振り上げながら駆け寄る。

そして、振り下ろす。

初号機が、その柄を両手で掴む。

作戦のために一旦武器は捨てていた。

予想以上の敵の力に両腕が悲鳴を上げる。

「アスカ!」

たまらずシンジが叫ぶ。

それと同時に、初号機の背後から飛び出した赤い影がすれ違いざまに敵の首を落とす。

首から上を失ったそれは切り口から真っ赤な体液を吹き出しながら初号機に覆い被さるように倒れた。

見事に仕留めた弐号機の左手に別の一体が待ちかまえていた。

横薙ぎに振るわれるソニックグレイブ。

「クッ!」

アスカは驚異的な反応速度で持っていたソニックグレイブで受け止めた。

凄まじい衝撃にその柄がポキリと折れる。

その余波で尻もちをつく弐号機。

敵はソニックグレイブを大きく振り上げて止めを刺そうとする。

その無防備な腹部に尻もちをついたままの弐号機が足を突き出すようにして蹴りを入れる。

たまらず敵はそのままの姿勢で2,3歩後ろによろめく。

そこに低い姿勢で飛び込んでくる初号機。

「うおおおおぉ!」

シンジは叫び声を上げながら、渾身の力を込めて殴りつける。

その拳には無意識のうちにA・Tフィールドが凝縮されていた。

敵はコアごと腹部を貫かれて動かなくなる。

腹部にあいた風穴から体液を大量に吹き散らしながら、ゆっくりと仰向けに倒れた。

(こっ、これが本当にシンジなの?)

地面に腰を下ろしたままで放心しているアスカ。

「アスカ!危ない!」

振り向いた初号機が弐号機の腕を取り、思い切り引っ張る。

弐号機は立ち上がって前方に数歩よろめいた。

「いきなり・・・」

なにすんのよ!と言おうとして、背筋が凍り付く。

ついさっきまで自分のいた場所に、別の敵が振り下ろしたソニックグレイブがめり込んでいた。

それを引き抜こうとしている敵にすかさず初号機が回し蹴りを入れる。

その敵は武器を手放して、かなり遠くまで吹き飛ばされた。

初号機は地面に突き刺さったままのソニックグレイブを引き抜くと、弐号機に向かって投げ渡す。

そして、中腰になって両手を合わせ、前に垂らす。

丁度バレーボールのレシーバーのような格好。

「来て!アスカ!」

その意を悟ったアスカは数歩下がると、助走をつけて初号機の手に足を乗せる。

初号機は弐号機を高く背後に放り投げると、振り向いて先程蹴り飛ばした敵に向かって走り出す。

宙を舞う弐号機の眼下には起き上がろうとしてもがく敵と、その片足を掴んでそれを阻止している初号機の姿が見えた。

敵のコア目がけて手にしたソニックグレイブを思いっきり投げつける。

見事に命中し、地面に串刺しにされたそいつは、もう動かない。



華麗に着地した弐号機をさらに別の一体が襲う。

白く輝く刃が残像を残しながら迫る。

「まったく!きりがないわね!」

アスカはそう言いながらバック転でそれをかわすと、背を向けて逃げ出した。

内部バッテリーの残り時間は2分を切っている。

そろそろ潮時だ。

こちらに向かって走ってくる初号機に、

「もっかい、退くわよ。」

と声をかける。

「わかった。」

初号機も弐号機の後ろについて走り出す。

残り4体の敵のうち3体はしばらく追いかけてきたが、ある程度の距離をとると、また戦闘前の緩慢な動きに戻る。

どうやら、認識範囲内に敵がいると行動が活発になるようである。

十分な距離をとって、一息つくシンジとアスカ。

傍らにある電源供給装置からアンビリカルケーブルを引き出し、接続させる。

2人ともさすがに息が上がっている。



「あの時のユニゾン、生きてるね。」

息を切らせながらシンジが言う。

「そうね。」

そう応えながらアスカは浮かれていた。

(誰かと助け合うって事がこんなに楽しいとは思わなかったわ。嘘みたいに身体が動く。これもこいつのおかげかな・・・。)

そう思ってモニターに映るシンジの横顔を眺める。

既に呼吸に乱れはない。

その目は真っ直ぐ正面を見据え、その口元は引き締められている。

(こいつってこんなにかっこよかったっけ?)

ふとそう考えて、あわててそれを否定する。

(そっ、そんなはずないわ!今日はたまたまそう見えるだけ!いつもはもっとボケボケッとしてて、鈍感で、でも優しくて・・・、違う違う!単に優柔不断なだけよ!ああっ、もうっ!まだ私どっかおかしいんじゃないの?きっとそうよ!こんな事考えるなんて!)

「そういえばさぁ・・・」

突然シンジがこちらを向いて話しかけてきた。

「なっ、何よ。」

理不尽な思考に没頭していたアスカは明らかに狼狽した様子で応える。

少し顔が赤い。

それには気づかずにシンジが続ける。

笑いをこらえている表情。

「覚えてる?アスカ。あの時、トウジたちが家にきたよね?」

「そうだったわね。」

「アスカはまだ日本に来たばっかりでわかんなかったと思うけど、あの時、トウジが制服着てたんだよ。」

「えー?!そうだったっけ?あの万年ジャージ男がぁ?!」

こらえきれずにシンジが吹き出す。

「そう。僕もあの時初めて見たし、それ以来見てないけどね。」

「それに、なかなかユニゾンがうまく行かなくて、苦労してたときに、綾波が・・・。」

「そうそう、それで私、怒って飛び出しちゃったのよね!」

(そう、あの時もシンジが来てくれたんだ。それで私は立ち直って・・・。)

「あの頃は楽しかったね。」

「あんたはそうだったかもね。」

自分は違う、とでも言いたげな応え。

彼女にとっては、今、シンジと共に戦う以上に楽しいことは有り得ないから。

「うん。今になってやっとわかったんだ。あの頃は、アスカも、綾波も、ミサトさんも、みんな僕の側にいてくれた。でも、僕はそれがどんなに大切なことか気づいていなかったんだ・・・。」

シンジの表情が沈む。

「だから、こんな風になっちゃったのかな・・・。」

シンジの心に再び絶望が忍び寄る。

だが、それはシンジを捉える前に生気あふれる声に吹き飛ばされた。

「あんたバカぁ?!そんなのあんたのせいじゃないじゃん!少しは男らしくなったと思ったら、その内罰的なところはぜんっぜん変わってないわね!」

そうまくし立てておいて、誰にも聞こえないようにそっと呟く。

「それに・・・。まだ私がいるじゃない。」

最後の呟きは聞こえなかったが、その声のおかげでシンジの表情は幾分和らいだ。

「でも、やっぱり楽しかったよ。・・・もう、戻れないのかな。」

ずいぶん久しぶりに聞くような気がするシンジの情けない声。

それを聞いて、思わずアスカは慰めてやる気になった。

自分でも驚くほど優しい声がでる。

「未来に過去を求める、ってのも変だけど、シンジがそう望むなら、これから先どうにでもできるはずよ。きっと、大丈夫。」

そして、真剣な表情になると、いつもの調子で言う。

「でも、それにはまず、今をどうにかしないとね。」

残る敵はゆっくりと、だが、確実に近づいてきている。

短い休息は終わり、また戦いが始まる・・・。


To be continued



御意見・御感想は hide@hakodate.club.ne.jpまで。
あなたのメールが世界を作る・・・かもしれない(笑)。

<あとがき>

今回は戦闘シーン中心。臨場感はどうでしょう?うまく書けてますか?

相変わらず文章ぶつ切り。タイムリミットが近いので、言い回しの気に入らないところとかも結構妥協してます。

おまけに情景描写や比喩が苦手なんで、どうしても淡泊なものになってしまいます。

ひらにご容赦を。漢字の間違いとかも結構あるしね。矛盾も多いぞ。もっと考えて書け。へたくそ。

俺って内罰的(笑)。

隣に置いてあるのは結構満足してるんだけど。

でも、こっち先に見たら、向こうがあれだとは思わないだろうな。逆もまた然り。

今回についてはソニックグレイブの登場頻度が気に入りませんが、こればっかりはどうしようもありません。

敵に固有名詞が無いのがつらいっす。

あっ、そうそう、ホントにトウジが制服着てるよ。信じられない人はビデオを見よう。インパクトあるからみんな覚えてるか。

最後の場面は私の望み。

あの頃はみんな生き生きしてました。

あの頃に、戻りたい・・・。



05/11公開

 HIDEさんの連載『未来のために』 第三話、公開です。

 EVA小説でのマコトとミサトのこういういい雰囲気のシーンって有るようでなかなか見かけませんね。
 ミサトが手にした新しいひと。これの安らぎが一時の物でないことを祈ります。
 

 戦闘シーンの臨場感に一気に読み進んでしまい、文章が凄く短く感じました。
 アスカとシンジの見事なユニゾン、迫力です。

 壊れていたアスカもシンジを思いやることが出来るまでになっていて、
 アスカ人の私はこれだけで大喜びです。ハハ・・・

 動かない1体の敵エヴァ、気になりますね。

 タイムリミットは、延びるかも(苦笑)しれないので
 変に焦らずこの素晴らしい展開を維持して欲しいです(^^)

 さあ、訪問者の皆さん。
 「感想メールはギャグ物へのものばかり」と泣き笑うHIDEさんにこの作品の感想を!!(^^)
 

 楽しいあの時・・・・自分で書こうっと(^^;
 ・・・・ああ、逃げてるなぁ・・・


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