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未来のために


− 第二話 守るもの、守られるもの −

Writing by HIDE





C:\MIRAI_02.jfw ミサトは初号機のケイジに向かう通路を走っていた。

すぐ後ろにはシンジが付き従う。

その手には、彼の優しげな顔立ちには似つかわしくない無骨な銃が握られていた。

ここに来るまで、8人殺した。

そして、それに数倍する数の味方の死体。

そのほとんどはミサトも知っている顔だった。

最初にNERVの制服を着た死体に出会ったとき、ミサトはシンジを抱きしめた。

それが彼の目に入らないように。

14歳の少年には、残酷すぎた。

しかし、シンジはミサトを振りほどき、血溜まりに足を踏み入れると、その死体の手に大事そうに握られていた銃を取り上げ、

「急ぎましょう、ミサトさん」

と、まるで何事もなかったかように言った。



それ以降、ミサトは人を殺すことに躊躇しなくなった。

しかも、常にシンジが銃を構える前に方をつけていた。

彼の手をこれ以上汚させるわけにはいかなかったから。



最後の曲がり角が見えてきた。

ここを左に折れれば後はケイジの入口まで一直線。

ミサトは壁に背を預け、奧の様子を伺う。

(3人・・・、か。なんとかなりそうね。)

エヴァを押さえるための人数にしては少なすぎる。

しかし、弐号機の出現によって、戦自の命令系統は少なからず混乱していた。

事実、前線からは一旦ジオフロントから撤退するように指示がでていたし、後方支援部隊はこのまま占領作戦を継続せよ、と指揮していた。

両者ともに司令官の階級は一佐である。

嫌が応でも混乱は増す。

そのおかげでミサトたちがここまで来ることが出来た、と言っても過言ではないだろう。



「シンジ君はここで待っていて。」

ここまでに何度か口にした言葉。

「いえ、僕も行きます。」

シンジの応えは変わらない。

「そう。好きになさい。」

そう言ってミサトは通路に飛び出すと同時に走り出す。

やや遅れてシンジもそれに習う。

3人の敵は突然飛び出してきたミサトとシンジに一瞬狼狽したが、すぐに気を取り直し、自動小銃を構えようとする。

だが、ミサトの銃はそれを許さない。

ドウッ! ドウッ!

カチッ!

見事に2人仕留め、次の相手に向かって銃の引き金を引いたところでミサトの表情が凍り付く。

(しまった!弾切れ?!)

シンジも銃を構えようとするが、敵の方が早い。

ミサトはシンジに覆い被さるときつく目を閉じた。



ドウッ!



自動小銃の発射音ではない。

やや遅れて、

「大丈夫ですか?!葛城三佐!」

聞き慣れた声。

恐る恐る目を開いて声のした方を見る。

そこには、心配そうな表情で走り寄るメガネをかけた青年、更にその向こうには銃を構えた長髪の青年、やや青ざめた表情でその長髪の青年にしがみついているショートカットの若い女性。

日向マコト、青葉シゲル、伊吹マヤの3人である。

「あっ、あなたたち!どうして?」

ミサトの声を聞いてマコトの顔に安堵の表情が浮かぶ。

「作戦司令室は完全に占拠されました。僕たちは敵に追い詰められてここまで逃げてきたんです。」

「葛城三佐こそ、どうしてこんな所に?」

マヤを連れて近づいてきたシゲルが問いかける。

「初号機を、起動させるんです。」

ミサトではなく、シンジが答えた。

その声を聞いて、ミサト以外の3人の視線がシンジに集まる。

3対の視線を受け止めて、シンジが続ける。

「みなさん、手伝って下さい。」

その瞳の決意は揺るぎない。

3人が事情を飲み込めるまで少し間をおいてミサトが言った。

「そういうこと。みんな、悪いけど手伝ってくれる?」



「・・・わかりました。」真剣な表情でマコト。

「面白そうですね。やりましょう。」ややおどけた口調でシゲル。

「私も、手伝います。」少し震えた声でマヤ。

3人ともこんなことが無意味なのはわかっていたが、自ら望んで死地へと赴こうとするシンジを見て、拒否する術を持たなかった。







「A10神経接続開始。ハーモニクス正常・・・」

マヤの声がコントロールルームに響く。

ケイジの中に敵はいなかった。

エヴァはNERVの最重要機密であるため、その機械警備は厳重である。

入口に見張りが付いていたことから考えても、中には入り込めなかったと見るべきだろう。

さらにマヤが続ける。

「シンクロ率上昇・・・、えっ、こっ、これは?!」

「どうしたの?!」

ミサトがマヤの声に驚いて問いかける。

「いっ、いえ。何でもありません・・・、シンクロ率98%で安定。」

「「98ぃ?!」」

マコトとシゲルが驚いて聞き返す。

しかし、シンジになにがあったのか知っているミサトはさして驚きもせず、プラグの中で目を閉じているシンジに語りかけた。

「シンジ君。用意はいい?」

「ええ。」

閉じていた目を開いてシンジが答える。

「武器はプログナイフだけ、それ以上は無理よ。地上のアンビリカルケーブルはほとんど生きてるから、電源の心配はないと思うわ。・・・本当にいいのね?シンジ君。」

ミサトが念を押す。

「今更何を言うんですか?焚き付けたのはミサトさんですよ。」

そう言ってシンジが微笑む。

「そうね。」

つられてミサトも微笑みながら応える。

しかし、すぐに真剣な表情にもどって、

「死なないでね。シンジ君。」

と、半ば強制するように言った。

シンジは少し間をおいて、

「大丈夫ですよ。多分。」

とだけ言ってまた微笑む。

ミサトはシンジの応えが明確な意志を表示していないことでややためらったが、今更後には引けない。

軽く息を吸い込むと、すべてを断ち切るように高らかに宣言した。



「エヴァンゲリオン初号機、発進!」







「いつまでバカみたいにぐるぐる回ってるのよ!さっさと降りてきなさい!」

アスカが空に向かって悪態を付く。

時折思い出したように戦自の地上部隊が攻撃を仕掛けるが、そんな物は蚊ほどにも感じない。

上空の9体のエヴァはまるで何かを待っているかのように、先程から旋回を続けている。



その時、アスカの耳に不快な音が響いた。

「アスカ!」

聞き慣れた、しかし、一番聞きたくない声。

背後を見ると初号機が血相を変えて走り寄るのが見えた。

プラグのモニターに最も見たくない顔が写る。

彼女のプライドをズタズタにした男。

彼女よりも強い男。

彼女よりも皆に望まれる男。

「遅れてごめん!アスカ!」

耳障りな声。

「何であんたがここに来るのよ!」

半狂乱になってアスカが叫ぶ。

その目は決してモニターを見ようとしない。

「なんでって、アスカが心配で・・・。助けなきゃって思って・・・。」

「それがよけいなお世話だって言うのよ!なんでこの私があんたなんかに助けられなきゃならないのよ!」

「アスカ・・・。」

「消えなさい!あんたに私の気持ちがわかってたまるもんですか!あんたなんか必要ないわ!消えなさい!」



「僕の話を聞いて。アスカ。」



アスカの知らない低く、鋭い声音。

思わず視線がモニターに注がれる。

そこには今まで見たことのないような、思い詰めた表情のシンジ。

その真摯な瞳がアスカの心の壁に小さな亀裂を作る。

「アスカが僕を憎むのはかまわない。僕にはその理由もわからない・・・。でも、わかってほしいんだ、アスカ。僕がここにいるのは、僕の意志。君を助けたいって思うのは、僕の戦う理由だから・・・。アスカを失いたくはないんだ。だから、僕は戦う。これだけは譲れない!」

最後の部分は自分に言い聞かせるように言った。

「今更なに言ってんの?!全部あんたのせいなのよ!私にはあんたなんか必要ないのよ!」



「でも、僕にはアスカが必要なんだ。」



アスカの動きが止まる。

その深いブルーの瞳からは、驚愕と戸惑いの色がはっきりと伺えた。

なにか言い返そうと口を開くが、声が出ない。



「アスカ!今は戦うことに集中して!」

初号機を発見した量産型エヴァは、我が意を得たりとばかりに降下を開始していた。

「着地直後の身動きできないところを叩く!確実に一体は仕留めるんだ!その後は一旦距離をとって様子をみよう。通信回線は開いたままにしておいて!」

そう言って初号機はもっとも近くに降下しようとしている敵に向かって走り出した。

別人のようなシンジの様子に、一瞬呆けたように見とれていたアスカだが、すぐに我に返ると、別の敵に向かって走り出す。

「まったく!仕切ってんじゃないわよ!」

無意識に発したその言葉は、シンジと共に戦うことを肯定していた。







「うおおぉっ!」

初号機が叫びながらプログナイフを突き出す。

着地直後で身動きのとれない量産機の胴は甘んじてその刃を受け入れた。

おそらくコアの部分だったのであろう。

敵の動きが止まる。

(まず一機!)

そう思ってアスカの方を見ると、初撃で仕留め損ねた弐号機が、格闘戦を演じている。

初号機は敵の持っていたソニックグレイブを拾い上げると、さながら一迅の風の如く駆け出していた。



「ちょこまかとすばしっこいわね!いい加減に観念しなさい!」

そう言いながらも弐号機は押されている。

量産型エヴァは人間とトカゲとを掛け合わせたようなフォルムをしていた。

その外見に見合った獣のような動きにアスカは翻弄されていた。

アスカのプログナイフが空を切る。

(まずいっ!)

飛び上がった敵が背後に回る。

弐号機が振り向くよりも早く敵のソニックグレイブが振り上げられる。

しかし、それが振り下ろされることはなかった。

袈裟懸けに真っ二つにされて崩れ落ちる敵の向こうに、紫の巨人がソニックグレイブを振り下ろした姿勢でたたずんでいる。

(・・・シンジ・・・?)

「アスカ!大丈夫?!」

心配そうなシンジの声。

「よけいなことすんじゃないわよ!おせっかいもいいとこよ!」

その声には先程までの拒絶の色はみられない。

それを聞いてシンジが苦笑する。

「何がおかしいのよ!」

「いや、ただ、前のアスカと一緒だと思って・・・、本当に元に戻ったんだね、よかった。」

微笑みながらシンジが言う。

「ばっ、バカなこと言ってんじゃないわよ!それより一旦退くわよ!」

シンジの言葉に何故か嬉しさがこみ上げてくる。

別の自分がそれに腹を立てる。

彼女の精神はまだ安定していない。

すべてを振り払うかのように怒声を張り上げた。



残りの量産機がわらわらと近づいてきている。

しかし、その動きは戦闘の時とはうって変わって緩慢としたものだった。

それがよけいに不気味さを醸し出している。

初号機と弐号機はそれらに背を向けて走り出した。

あまり誉められた格好ではないが、それも作戦のうちである。

弐号機の手にも敵の持っていたソニックグレイブが握られている。



走りながらアスカはシンジに向かって話しかけた。

「・・・あんた強くなったわね。」

顔は正面を向いたまま、モニターは見ない。

アスカがそんなことを言うとは思わなかったのだろう、シンジは少し驚いた顔をしたが、はっきりと応えた。

「うん。守るものを見つけたから。」

「そう。それって私のこと?」

思わず口をつく。

(なんでこんなこと聞くのよ?私は何を期待しているの?私を守ってくれたから?そう、前にも何回かあった。でもその時はプライドを傷つけられただけだった・・・。なのにどうして今頃になって・・・。私を必要としてくれるから?でも私はこんな奴いらない!ママがいてくれればいい!だったらどうして・・・?ママならわかるでしょ?教えて!)

弐号機は応えない。

アスカは答えを出すことをあきらめた。

「うん。でもアスカだけじゃない。僕はもう、誰も失いたくはないんだ。」

「そう・・・。」

少し残念だった。

その感情がアスカが気づきたくなかった一つの結論を導き出す。

(こんな奴大嫌いなのに・・・。私からすべてを奪ったのに・・・。でも、悔しいけど、こいつがいないと一人が辛くなる。こいつに出会うまではそんなこと平気だったのに。今まで一人で生きてこれたのに・・・。)

否定したかった。

悔しさに涙がこみ上げてくる。

唇を噛み締める。

しかし、いくら否定しても、心の底から湧き上がる感情がそれを許さない。

(もう一人はイヤ!ママは側にいてくれる。いつも見ていてくれる。でも、感じることは出来ても、触れることは出来ない・・・。言葉を交わすことも・・・。もう一人はイヤなの!寂しいの!だったら私には、もう、シンジしか・・・。)

シンジの対しての相反する二つの感情がアスカに狂気をもたらす。



絶叫。



「全部あんたのせいよ!あんたさえいなければ、私は一番でいられたのよ!あんたさえいなければ、一人が辛いなんて思うこともなかった!あんたさえいなければ・・・」

「アスカ!」

シンジが、アスカを遮る。

時が止まり、見つめ合う二人。

シンジがゆっくりと口を開く。



「人は、一人では生きていけないよ。」



この上なく優しい声。

この上なく優しい眼差し。

そのままシンジは続ける。

「もう、一人は嫌なんだ。だから、アスカを守るって決めたんだ。」

アスカの瞳から狂気は失せ、代わりに迷いと戸惑いが浮かぶ。

シンジに対する、拒絶と、要求とのせめぎ合い。





弐号機が微笑んだような気がした。

LCLが優しくアスカを包む。

(ママ・・・。)

弐号機が語りかけてくる。

アスカの心が奏でた幻聴。

そして、決断。








「シンジ、あんたが一方的に守るってのが気に食わないわ。」

「えっ?でも・・・」

まだ何か言い募ろうとするシンジを遮ってアスカが言う。

「だーっ、かーっ、らっ!」

そして、シンジでさえも今まで見たことがない、極上の、天使のような微笑みを浮かべる。



「私もあんたを守ってやるわ。感謝しなさい!」



To be contined




第三話へ
Ver.-1.10 公開
ご意見・ご感想はhide@hakodate.club.ne.jpまで!

<あとがき>


やばい。前回と同じ引きだ。俺はこうゆうのしか出来ないのか?

本編終了までに終わるかなぁ。まずいなぁ、本編終わったら続けられなくなりそうだし。

シンジに縋るだけの弱いアスカは嫌なので、彼に惹かれながらも虚勢を崩さない、ある意味でアスカらしいアスカを目指しています。

私はレイな人のはずなんだけど、最近アスカに転がりつつあるようです(笑)。

それから、次回予告はやめにしました。自分でもどうなるかわからないから(笑)。

でも、基本はハッピーエンドで終わらせるつもりです。

それと、シンジは例の「俺って、最低だ。」は引きずってません。

どうも処理のしようがなくて(笑)。

今回は少し長くなるかな?と思いながら書きましたが、もう、はしょるはしょる(笑)。

けど、前回ほどストーリーに無理はないと思います。

「こうしてほしい」って意見がありましたらメール下さい。善処します(笑)。

ちょっち次回の構想を・・・、多分、マコトとミサトのからみがあると思います。







これもバージョンアップ。

アスカの心理描写をちょっと変えました。

弱くなったかも(笑)。



 [HIDE]さんの連載【未来のために】 第二話、公開です!

 アスカ様かっこいい!!
 シンジ? どうでもいいです。私はアスカな人ですので(^^;

 冗談(?)は置いといて。

 シンジが目的を持って行動していますね、アスカはそれに心動かされて・・・
 でも、そこで終わらないのがアスカのアスカたる所以。
 きちっと最後で決めています。

 夏の映画でもこの様にある意味幸せな展開になって欲しいです。
 「辛いのはもうイヤなんだ!!」です(^^;;;;;

 訪問者の中のアスカ人の皆さん!
 アスカに転びつつあるHIDEさんを引き込みましょうね(^^)/


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