BY HIDE
ゲンドウと冬月は南極にいた。
空母の艦橋で炬燵と一つになっている。
冬月が冷凍ミカンを剥きながら言う。じじいだ。
「さむいな。」
ならば冷凍ミカンなどやめておけばいいのに。と思う人もいるだろうが、炬燵で冷凍ミカンはなかなかオツである。
ゲンドウ答えて一言。
「ああ。」
ミサトが前回言っていたことは本当らしい(前編参照)。
冬月がお茶をすすりながら言う。じじいだ。
「慰労出張で来るところではないな。」
「ああ。」
「これならカラ出張にして家でごろごろしてた方がよかったな。」
彼らは国際公務員である。公務員にとって幹部のカラ出張は当たり前だ。A.D2015現在では。
今は少しばかり自重しているようだが。A.D2015現在では。
旅費は当然懐に入る。下っ端は指をくわえて見ているしかないのだ。A.D2015現在では。
ちなみに幹部の旅費は高く、一回で3万、4万は当たり前だ。A.D2015現在では。
ちくしょぉぉ! 俺にもよこせぇぇぇ!
はっ、思わず本音が・・・(汗)。
あっ、あくまでもA.D2015現在の話ですよ!
話を戻そう。ではどうぞ。
「ああ。」
・・・。
その時、艦内にけたたましく警報が鳴り響いた。
オペレーターの緊迫した声が告げる。
「インド洋衛生軌道上に使徒発見! 現時点では動きは見られません。」
ゲンドウと冬月に、動揺は見受けられない。
それまで艦橋にいたクルーたちは、
(なんだこのオヤジコンビは? 炬燵なんか持ち込みやがって!)
と思って冷ややかな目で二人を見ていたが、この冷静な様子を見て、
(さすがはNERVの司令と副指令。大人然としたものだ。)
と、素直に感動した。
冬月は必死になにか、考え込んでいる。
ゲンドウはその冬月のただならぬ様子を見て、
(来るな・・・。)
と、踏んでいた。無意識に心で身構える。
冬月が口を開いた。
「インドは、いいんど。」
「なーんちゃって。」
その場にいたものは真っ白に燃え尽きた。冬月ともう一人を除いて。
碇ゲンドウは震える声でこう言った。
「ひっ、人はくだらないシャレを忘れることで生きていける・・・。しかし、決して忘れられないシャレもある・・・。すっすべては心の傷になる。今は、それでいい・・・。」
本当にいいのか? このシャレは既に犯罪だぞ!
「さすがだな。碇。」
冬月は『それでいい』と言うのを聞いて、誉め言葉だと勘違いしているようだ。
艦内に残されたものは二人のじじいと、風化したクルーの亡骸だけであった。
ミサトは司令と副司令が出張でいないのをいいことに、我が世の春を謳歌していた。
司令席にどっかりと腰を下ろし、足は机の上に投げ出している。
その後ろでは、メガネをかけた青年が必死に肩を揉んで、いや、揉まされている。
「もっと心を込めて揉みなさい! オペレーターA!」
オペレーターAと呼ばれた、メガネの青年は半分泣きながら抗議する。
「僕の名前は日向マコトですぅぅぅ。葛城三佐ぁ。」
2時間前から肩を揉まされ続けていたため、握力の限界が近い。
「うっさいわね!あんたなんかオペレーターAで十分よ!」
ミサトが怒鳴りつける。
「ひぃっ!ごめんなさい!すいません!葛城三佐。」
土下座をして謝るオペレーターA。
「司令代理って呼びなさいと言ってあるでしょ!」
げしっげしっ!
オペレーターAにミサトの蹴りが入る。
(もうやだ・・・。こんな生活・・・。作者まで名前を書いてくれないし・・・。)
オペレーターAは涙を拭うこともできない。
耐えろ!耐えるんだ!オペレーターA!
第13話では今までよりセリフがあるぞ!君の未来は明るい!
「・・・でも、シゲルの方がセリフ多いし、目立ってる・・・。」
・・・だめだ、こいつ・・・。
ミサトがオペレーターAに制裁を加えていると、突然司令室内に警報の音が響きわたった。
「状況報告!オペレーターB!」
ミサトが叫ぶ。
「お、オペレーターB・・・。」
そう呼ばれたロンゲの青年は、愕然として肩を落とす。
しかし、壁に向かってぶつぶつと話しかけているオペレーターAを見て、
(そうだ、俺には未来がある! 来週になりさえすれば・・・。)
そう考えて気を取り直す。
「インド洋衛生軌道上に使徒発見! ちなみに俺は青葉シゲル! 青葉シゲルっす!」
このままでは名前が出てこないと思ったのだろう。
よけいなことを付け加えた。フォントサイズまで変えて。
ミサトは、
(こいつ、手強いわね。でも、私のB補完計画のためにいつかは消えてもらうわよ。
どんなに小さなものでも芽は早いうちに摘んでおいた方がいいわ。)
と思ったが、今は使徒が先だ。
でもB補完計画って、なに? もしかしてバカボ・・・(前編参照)
「オペレーターB! 第一種戦闘配置! もたもたしてんじゃないわよ!」
(くそっ! 俺をつぶす気だな!第13話になれば、第13話になれば!)
『オペレーターB』と呼ばれる度に心に癒やされることのない傷が刻まれていくロンゲだったが、ミサトがわざとやっていることに気がついたため、たった一つの希望に縋り、黙って耐えた。
君は強いぞ!オペレーターB!
第13話での君の雄姿を僕たちは忘れない!
「モニター繋げる? オペレーターB。」
ミサトも結構しつこい。
「は、はい。」
怒りに震えながらも、命令を遂行するオペレーターB。
頑張れ!オペレーターB!
「オペレーターBって言うなぁぁぁぁ!」
あっ、壊れた。
泣きながら走り去るオペレーターB。
でも、律儀にモニターは繋いでいってくれた。
ほんとはいい奴なのかもしれない。
よくやったな。オペレーターB。君の仕事はここまでだ。
(これで二人・・・。でも残りは手強いのばかりだわ・・・。)
そう言ってミサトはニヤリと嗤った。
何を考えているんだ! 葛城ミサト! 29歳独身!
「なんか言った!?」
あぁ・・・、ごめんなさい、ごめんなさい。謝るからこっちを睨まないで・・・。
それより使徒! 使徒を何とかしないと・・・。
「それもそうね。でも私のB補完計画の邪魔はさせないわよ!」
あんたの計画っていったい・・・。それに何かアスカに似てきたような・・・。
丁度モニターのノイズが消えて画面に使徒が大写しになる。
それは、その場にいる者すべてに嫌悪感を抱かせるに足る映像だった。
生物に例えるならヒトデが一番近いだろう。ヒトデにはかわいそうだが。
そのイメージを残しながらも、全く違う形状。
中心に大きな円があり、その両端に小さな円を融合させたような・・・。
その本体の周囲からは複数の突起が出ている、というか、生えている。
しかも、本体の中心に描かれた大きな眼の模様。
その眼が周囲を威嚇するかのように辺りを睥睨していた。
「きゃーっ! かっわいいぃ!」
あっ、マヤさん、居たの?
でもかわいいって・・・。
みんな同じ意見らしく、うげぇ・・・、といった目でマヤの方を見る。
しかし、マヤは自分の世界に浸りきっている。
「ああ・・・、あの優雅な曲線美。優しげな瞳。・・・素敵! もう好きにして!」
ほのかに顔を紅潮させ、色っぽく身をくねらせながら言う。
いや、あの、好きにしてって言われても・・・。
(ちっ、やっぱり手強いわね。おいしいところを持って行かれたわ。)
葛城ミサト。29歳独身。身に過ぎた野心は身を滅ぼすぞ・・・。
ミサトの作戦を聞いてアスカが叫ぶ。
すぐ隣にいるシンジは、『手で』という言葉に反応して顔を赤らめる。
恥ずかしがることは無いぞ、シンジ君。
健康でよろしい。
アスカを挟んで反対側に立っているレイは、
「私が一人目だった頃・・・。だめ。思い浮かばない。」
などと呟いていた。
どうやら『イェーィ』はマスターしたもののネタが浮かばないらしい(前編参照)。
松○家千とせの偉大さが伺える。
「そうよ。」
アスカの質問にミサトは素っ気なく答えた。
事の顛末は次の通り。
まず、使徒の攻撃方法だが、身体の一部分を分裂させて衛生軌道上から地上に落下させて来た。
使徒の一部なのだから、当然、A・Tフィールドを纏っている。
その威力は絶大だ。
それを数時間おきに何度か繰り返した。
その度に落下点が第三新東京市に近づく。
使徒の行動パターンをMAGIに解析させたところ、落下の軌道を計算していることが判明。
数時間後にはこの第三新東京市めがけ、本体が落下してくるのは、ほぼ間違いない。
MAGIは全会一致で撤退を推奨したが、ミサトは、
「じゃあ、エヴァで受け止めちゃいましょう。」
と、事も無げに作戦を決定した。
その作戦をチルドレンに説明しているところで、先程のアスカの叫びである。
「それで成功の確率は?」
アスカが問い詰める。
「へーき、へーき。ちょちょいってやってパッパッと終わっちゃうわ。」
賢明なる読者諸君はお判りのことと思うが、大嘘である。
「ホントぉ?」
鋭いアスカがジト目で睨む。
さすがに罪悪感があったのか、
「がっ、頑張ってね3人とも。これが終わったらステーキをごちそうするわ。」
食い物で釣ろうという魂胆。
そして、逃げるようにその場を後にする。
3人のチルドレンたちは三者三様の思いを胸に描いた。
−惣流・アスカ・ラングレーの場合−
ステーキ? 上等よ、ミサト。純国産和牛の霜降りを奢らせてやるわ。
フッフッフッ・・・。
そして制服のスカートをたくし上げるように振ると、その中から『第三新東京市食べ歩きマップ』だの、『超高級五つ星。これであなたもグルメ評論家!』だの、その手の本がドサドサと床に落ちる(前編参照)。
それに混じって缶詰のようなものがゴトンと落ちた。
それにはこう書かれていた。
『対人用NN爆雷』
注意!
1.お子さまの手の届かないところに保管して下さい。
2.焼却しないこと。
−有限会社赤木研究所−
・・・。
見なかったことにしよう。
−綾波レイの場合−
「ステーキ。高い肉。お金をかけて食べるもの・・・」
自作のポエム『肉、魂の糧』を朗読している。
恍惚とした表情。口から涎。
−碇シンジの場合−
だっ、だめだよアスカ、綾波、手とか口とかでそんなこと・・・。
あっ、あああっ・・・、うっ!
内股で前屈み。
「シンジ君、アスカ、レイ、ちょっと・・・。」
何だろう?そう思ってシンジたちは、手招きするリツコの元へ向かう。
「何ですか?リツコさん。」
「ここじゃちょっと・・・。私の研究室まで来てくれない?」
シンジたちの前にコーヒーを置きながらリツコは口を開く。
「ミサトに今回の作戦は聞いたわね?」
「ええ。聞いたわよ。ちょちょいのパッパって言ってたわ。」
アスカが答える。
「そう、そんなことを・・・。」
腕を組んで考え込むリツコ。
やがて、
(この子たちに賭けてみましょう)
頭の中でそう結論を出すと、真剣な口調で話し始めた。
「いい、あなたたち。ミサトはそんな風に言ったかもしれないけど、あのアル中を信用しては駄目よ。今回は本当に危険な作戦なの。でもね・・・。」
そこで言葉を切る。言い淀んでいるのではなく、焦らしているようだ。
シンジたちは息を飲んでリツコを見つめる。
それを見てリツコは満足したように頷くと、口元を歪めながらこう言った。
「いい作戦があるわ。」
シンジ、アスカ、レイは持てる力すべてを振り絞って阻止しようとする。
果たして奇跡は起こるのか?
リツコの授けた作戦とは?
作者に忘れられたトウジに明日はあるのか?
後編を乞うご期待!
最初は前後編完結にしようと思ったんですが、書いてるうちに調子に乗ってきて長くなっちゃいましたので、中編を入れてみました。
すいません。無計画なもんで。
固有名詞にはマスクを入れることにしました。「○鶴家千とせ」って、みんな知ってる?
知らない人は毎週「笑点」を見よう!いつかは会えるはず。
あと、前回書くべきでしたが、ミサトバカボン化説は書いてるうちに成り行きで(笑)。
反論は多々あろうかと思いますが、この場を借りて謝っておきます。ごめんなさい。
なんか最近謝ってばかりだな、すいません慣れてないもんで。あ、まただ(笑)。
[HIDE]さんの『奇跡に価値が?』(中編)発表です!
いい加減ミサトが必死になるのは自分の「脱バカボン」にだけ・・・(笑)
がんばれオペレーターA・B!
君たちには明日が!・・・・無いかも・・・・
リツコが授ける作戦とは?
敏感なシンジはもう大丈夫か?
アスカはプラグに秘密道具を持ち込むのか?
期待と不安が渦巻く次回を待ってます!!!!
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