「日向君、青葉君。たまには外で昼飯でも一緒にどうだ?私の奢りでいいぞ。」
「いいんですか副司令?」
マコトが嬉しそうに言う。
「給料日前ですっからかんなんすよ。助かります。」
そう言ってシゲルが立ち上がる。
すべてはここから始まった。
「たまにはこうして外に出るのも悪くはないな。」
冬月が薄笑いを浮かべながら言う。ちょっと不気味だ。
「そうっすね。いつもジオフロントに籠もりっきりですから。」
「でも、悪いですね。副司令。」
「遠慮することはない。なんでも好きなものを奢ってやろう。」
さすがに、NERVの副司令ともなれば太っ腹である。
しばらくぶらぶらしていたが、マコトが前方の人だかりに気がついた。
「なんでしょうね。あれ。」
「ふむ。確かに妙だな。青葉君、ちょっと見てきてくれ。」
「はい。」
そう答えて青葉が人込みに近づいていくと、その中心から聞き慣れた声がする。
「やっ、やめてよ!トウジ、ケンスケ。」
エヴァンゲリオン初号機専属パイロット、碇シンジだ。
「すまんなあ、シンジ。わしらだってこんな事はしとうない。」
「そうそう。でも、そうしないと僕らの命が危ないんだ。だから、おとなしくついてきてくれよ。」
シンジは全身黒ジャージに包まれた怪しげな関西弁の少年と、迷彩服を隙なく着こなしたメガネの少年に絡まれている。
「知らないよ!そんなこと!僕はこれから用事があるんだから!」
その様子を見て、シンジが不良に絡まれていると思ったシゲルが助け船を出す。
「どっ、どうしたんだい?シンジ君。」
シゲルはちょっと不良が怖かった。
「あっ、青葉さん。助けて下さい。」
シンジが縋るようにして助けを求める。
しかし、黒ジャージの男がドスの効いた声で脅しをかけてきた。
「なんや、自分は?怪我しとうなかったら関わらん方が身のためやで。あぁん?」
最後の『あぁん?』が怖い。
(やっぱりやめておけばよかった・・・。最近の中学生はたちが悪いからなぁ・・・。)
今更ながらにそう思うが、後の祭り。
「どうしたのかね?青葉君。」
そこに日向を連れて様子を見に来た冬月が声をかける。
シゲルには冬月に後光が差しているように見えた。
「なんだ。碇の息子ではないか。ふむ、いじめか。いじめはいかん。」
「なんや、このじじいは。」
それを聞いた冬月は不敵に口元を歪めてこう言った。
「・・・俺か?俺は越後のちりめん問屋の隠居でコウ右衛門と言うものだ。」
立ちつくすシゲル、マコト、シンジの顎の下にはアスファルトのごつごつした感触があった。
BY HIDE
「ふん。きしめんだかなんだか知らないが関わらない方が身のためだよ。」
メガネの少年がモデルガンを取り出しながら言う。
しかし、冬月は動じない。
「あいにく俺はおせっかいで有名なんでな。」
その意を悟った黒ジャージが、色を変える。
「このくたばりぞこないめ!わいのパチキで引導をわたしたる!」
「ふむ、威勢はいいようだが、そう簡単にいくかな?」
そう言って冬月は振り向くと、仲良くムンクの『叫び』と化しているシゲルとマコトに向かって、妙なアクセントをつけて叫んだ。
「助さん!かぁくさん!懲ぉらしめてやりなさい!」
「すっ、助さん?」
己を指さしてシゲルが言う。
頷く冬月。
「もっ、もしかして、僕が・・・、角さん?」
ずり落ちたメガネも直さずにマコトが言う。
頷く冬月。
沈黙。
「わぁはっはっはっはっ!てめえら!俺の歌をきけぇぇぇ!」
シゲルが切れた。
叫びつつ背中のギター(いつも持ち歩いている)を取り出すと、それを弾きながら『ドナドナ』を歌い始める。
マコトは人生に希望を見いだしていた。
「ぼっ、僕は里見○太郎?そうかっ!そういうことか!リリン!」
そして、別人のような鋭い目をして、低い声で謡いだす。
「ひとぉーつ。人よりセリフが少ない。」
「ふたぁーつ。不幸の代名詞。」
「みぃっつ。ミサトの酷い仕打ちに・・・」
おい、それは高○英樹じゃなかったか?
「なっ、なんやこいつら?!」
黒ジャージは、突然の2人の変わりように戦慄を隠しきれない。
野次馬たちも悲鳴を発する蜘蛛の子のように逃げ出していた。
「とっ、トウジ!戦場で培った僕の勘が危険を告げている。ここは一旦退こう!」
メガネの少年は震えながら提案する。
その視線は、憑かれたように『ドナドナ』を歌い続けるシゲルと、どこからともなく般若の面を取り出しているマコトに釘付けになっていた。
「「おっ、おぼえてやがれぇぇぇ!」」
ドップラー効果で叫びながら脱兎のように逃げ出す2人をみて、冬月は鼻でせせら笑った。
「ふん。ぬるいな。」
その言葉にシゲルとマコトが我に返る。
「「はっ、俺(僕)は一体何を!」」
よほどショックが大きかったのだろう、2人の記憶にはぽっかり穴があいていた。
その様子を見て冬月が不気味に嗤いながら言う。
「君たちはシンジ君に絡んでいた不良を追い払ったのだよ。見事だったぞ。」
そう言われればそんな気がしてくる。
だが、なにかが腑に落ちなかった・・・。
シンジはムンク化している。
「どうしたの?碇君。」
「えっ?あっ、ああ。綾波。なっ、何でもないよ。ちょっと悪い夢を・・・。」
(そっ、そうだよね。きっと幻覚か何かを・・・。)
そう思って周りを見渡すと先程までの修羅場はなかった。
「よかった。やっぱり・・・。」
確認するようにそう呟く。
レイの顔いっぱいに?マークが浮んでいる。
「ごっ、ごめんね。僕の方から誘ったのに、ボーっとしちゃって。」
シンジがあわてて取り繕う。
そう、シンジは持てる勇気をすべて振り絞ってレイをデートに誘ったのだ。
しかし、待ち合わせをしているところで、何故かトウジとケンスケに絡まれた。
「ううん。いいの。・・・私も、嬉しかったから・・・。」
レイが頬を赤く染めて俯き加減に言う。
「そっ、そうなんだ・・・。」
そう言ってシンジも真っ赤になって俯く。
シンジとレイは彼らだけの世界を作り出していた。
「ムキー!何やってるのよ!あのバカどもは!」
それらの様子を終始双眼鏡で見つめていた影。
雲一つ無い晴れ渡った空のようなスカイブルーの瞳。
陽光を浴びて美しく輝く赤みがかったブロンドの長い髪。
惣流・アスカ・ラングレー。
とびきりの美少女だ。
・・・誰もいないよね。
でも根性は腐ってる。
・・・どうやら気づかれなかったようだ。
「それにしてもどこの誰よ!あのじじいとそのお供は!」
彼女は影の薄い副司令やオペレーター2人の顔を覚えるような無駄なことはしない。
やっぱり腐ってる。
「あっ!手なんか繋いでんじゃないわよ!」
そんな彼女を通行人は興味深げに観察するが、誰も一定の距離以上に近づこうとはしない。
いつしか彼女の周りには彼女を中心とした人の輪が出来ていた。
「くっそー!覚えてなさいよ!あのじじいどもっ!」
そんなことは意にも介さず、アスカは拳を握りしめて決意を新たにしていた。
手を取り合って見つめ合うシンジとレイに向かって冬月が言う。
それを聞いてあわてて繋いでいた手を離し、またも真っ赤になって俯く2人。
「まあいい。飯でも食いながら話を聞こう。俺は腹が減った。」
そういって2人を連れて歩き出した。
あわててシゲルとマコトがその後を追う。
無難なところで近くにあったファミリーレストランに入る。
シゲルとマコトはちょっと残念そうだ。
それぞれ好きなものを注文し、無言で食べる。
全員が食べ終わったところで、冬月が口を開いた。
「さて、一体どういうことなんだ。」
「あの、僕にもわからないんです。綾波と、その・・・、デ、デートの、待ち合わせをしていたら、あの2人が突然・・・。」
それを聞いて冬月は遠い目をする。
「そうか。デートか。若いな・・・。」
そこでレイが口を開く。
「きっと弐号機パイロットの陰謀よ。」
「まさか・・・、アスカがそんな・・・。」
「いいえ。碇君。あなたはあの人のことを知らな過ぎるわ。あの女は目的のために手段は選ばない。」
そして、宙を睨み付けるようにして付け加えた。
「私を困らせるためだけに、購買部のパンをすべてカツサンドにすり替えるような女よ。」
「あっ、綾波・・・。もしかして・・・?」
「ええ、前に一度あったわ・・・。」
いつもの無表情な顔に戻ってレイが答えた。
シンジは今更ながらにアスカの恐ろしさを実感していた。
悪寒が走る。
「なるほど、その線がくさいな。」
レイの話を聞いていた冬月が呟く。
そして、立ち上がった。
「副司令。どちらへ?」
マコトが尋ねる。
「便所だ。」
「はっ、ここに・・・。」
通気坑から男の声。
「ならば、話は聞いたな。弐号機パイロットを洗ってくれ。」
「・・・はい。仰せのままに・・・。」
そう言って男の気配は消えた。
冬月がふと顔をしかめる。
「もう、年か・・・。」
用を足した終えた冬月は残尿感に悩まされていた。
<あとがき>
GO!GO!冬月!時代は君を待っていた!
いつまでも副司令の地位に甘んじることはない!今回は君が主役だ!
一体なにを書いているんだ、俺・・・。
[HIDE]さんから『ああ人生に涙あり』(前編)が届きました。発表です!
これは珍しい冬月主役(?)の黄門物!
お付きは目立たないマコトと居なくてもいいシゲル・・・
ジミーズ大集合!!(^^;
やっぱりアスカはマコトとシゲルを知らなかったんですね。
アスカがあの二人と絡んでいるシーンって無かったもんなぁ・・・・
弥七はやっぱり彼?
アスカの行動は?
お金の入浴シーンはあるのか?
うっかり八兵衛は誰?・・・・ミサトだろうなぁ・・・(^^;
興味が尽きません(^^)/
さあ、妙な話を書き始めたHIDEさんに声援を!