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セキュリティカードをスリットに通す前に、僕はドアノブを捻る。

いつ頃からだろう、こんな習慣がついたのは・・・。

その度に自動ドアじゃなくてよかったと思う。

僕は大きく息を吸い込み、勢いよくドアを開けた。

そして、彼女が部屋のどこにいても聞こえるように、精一杯、大きな声を出した。
 
 

「ただいま!」
 
 
 
 



 

更新が止まって早2ヶ月(^^; いつの間にやら20000HIT記念!
 
 

初めての冬に
 
− B Part −
  
Writing by HIDE



 
 

「碇以外に休んでいる奴がいたら、手を上げろ〜。」

担任の言葉が終わると同時に、そこかしこから押し殺した笑い声が漏れる。

霧島マナは一週間ほど前に転校してきた少年の顔を思い出そうとして、あきらめた。

顔は思い出せないが、その存在は強く印象に残っている。

常に顔を伏せ、誰とも目を合わせようとしない少年。

いくら話し掛けても、まるで聞こえていないかのように無反応だった。

もしかしたら本当に耳が聞こえないのではないだろうか?

マナは本気で担任に聞いてみようかと思ったほどだった。

だが、その少年は毎時間、授業終了のチャイムとともにいずこへともなく席を立ち、休み時間が終わると誰も気づかないうちに席に戻っている。

そのことから、マナの懸念は消えた。

『きっと人見知りするんだ。それにしても度を超えてるんじゃない?』

マナはその少年に対して、そんな感想を持っただけで、その後は特に気にかけることもなくなった。

それと言うのも、少年が学校に来たのは転校初日とその次の日だけで、その後今に至るまで、教室の隅には、まるで忘れ去られたかのように、新品の机がぽつんと置いてあるだけだったからだ。

「今日の週番は誰だ?」

「えっ?あ、はい、私です。」

担任の言葉に虚を衝かれたマナは、少し驚いたように顔を上げた。

「すまんが、帰りにでも少し碇の様子を見てきてくれないか?プリントも溜まってるし、家には全然連絡がつかないんだよ。」

「はい。」

マナは深く考えず、気軽に頷いた。
 
 

 
 

「えーと、第13区画の・・・、あ、あったあった、このマンションだ。」

マナは律義にも担任に言われたとおり、プリントの束を抱えて、転校生のマンションを訪れていた。

「それにしても、今時手動のドアなんて珍しいわね。作りは立派なのに・・・。碇、碇・・・と、あ、ここ、ここ。」

ドアの横にあるチャイムを押してみる。
 
・・・が、反応はない。

「留守かな?」

もう一度押してみる。

・・・やはり、反応はない。

「ひっどーい!せっかく届けに来てあげたのに〜。」

マナは抱えてきたプリントの束を郵便受けに放り込み、そのまま帰ろうとしたが、帰り際、あきらめきれずにドアノブに手をかけた。

開いている。

マナは一旦郵便受けにねじ込んだプリントを再び取り出して胸に抱え、悪いことでもしているかのように、少しだけドアを開けて中を覗き込んだ。

プリントを抱え直したのは、誰かに見つかったときの為の言い訳だ。

「ごめんくださ〜い。」

返事はない。

「留守ですか〜?不用心ですよ〜。」

持ち前の好奇心も手伝ってか、マナはそう言いながら、そろそろと部屋へ足を踏み入れた。

そして、彼女はリビングに足を踏み入れると同時に、抱えていたプリントの束を取り落とした。

それは床に落ちて、
 
 

ビチャ
 
 

と、嫌な音を立てた。

そのまま音もなく、朱に染まって行く。
 
 

マナがそこで見たものは、左の手首から目も眩むほど真っ赤な液体を次々と溢れさせつつ横たわる、独りの少年の姿だった・・・。
 
 

 
 

シンジが目を覚ましたとき、栗色の髪と青みがかった瞳を持った少女が彼の顔を覗き込んでいた。

「・・・アス・・カ・・・?」

短めに切り揃えられたショートの髪が視界に入る。

違う。

どことなく似てはいるが、別人だ。

だいたい、アスカが僕の前に現われるはずがない。

アスカは僕が嫌いだから。

僕はアスカにも捨てられたんだから・・・。

「気がついた?」

その子はやさしく微笑んで、シンジにそう問いかけた。

「危なかったのよ。あと5分遅れてたら、助からなかったって。」

少し舌っ足らずな声。

その声音に、シンジはどことなく懐かしさを感じた。
 
「・・・君、誰・・・?」

「霧島マナ。碇君は覚えてない、と言うか、知らないのかな?学校のクラスメイト。」

「・・・ここ、どこ・・・?」

「病院。」

「・・・そう・・・。」

シンジは焦点の合わない瞳で、天井を見た。

病院の天井というのは、どこも同じようなものなのかも知れない。

どことなく既視感を覚える光景に吐き気をもよおしながら、シンジはそんなことを考えていた。

「ほんと、ビックリしたんだから。私が・・・」

シンジはまだ何か言っているマナの声を、別世界のもののように聞き流しながら、ゆっくりと左腕を目の前に移動させた。

そこに巻かれた白い包帯が彼に絶望を与える。

「・・・生きてる・・・。」
 
そう言ったきり、シンジは再び目を閉じた。

「ねぇ碇君。聞いてる?ねぇってば!」

紫色に変色したシンジの唇が微かに動く。

シンジの声が聞き取れなくて、マナは耳を寄せた。
 
 

「・・・何で、何で死ねないんだよ・・・。もう、嫌なのに・・・。」
 
 

驚いて顔を遠ざけたマナは、シンジの目の端に光るものを見て、なにか自分がとても悪いことをしてしまったような気がして、これ以上ここにいることが出来なかった。

「ごめんなさい・・・。また、来るね・・・。」
 
 
 
 

 
 

終わりかけた夏の風が、病院独特の薬臭を吹き払い、ほのかに甘い香りを運んでくる。

女の子の香り。

アスカでもない、綾波でもない、シンジの知らないにおい。

人の気配を感じてシンジは目を開けた。

窓の前で、ノースリーブの白いワンピースに包まれた少女が、季節の風に栗色の髪をなびかせている。

シンジはその後ろ姿に、彼が知っている二人の少女を重ねて見ていた。

「ごめんね。起こしちゃった?」

シンジが目を覚ましたことに気づいた少女は、振り向いて、可愛らしく舌を出した。

「あ、そうそう、リンゴ買ってきたの。食べる?これ、自然栽培なの。高価かったんだから。」

答えも待たずにシンジの枕元に椅子を寄せ、そこに腰掛けてリンゴを剥き始める。

「はい。」

マナは見事な手際でまたたくまにリンゴを剥き終え、4つに割って皿ごとシンジに差し出した。

シンジは半身を起こし、目をいっぱいに見開いて、そのリンゴとマナとを見比べている。

「はい。」

催促するように、マナはもう一度シンジに皿を押し付けた。

「いらない。」

ようやく我に帰ったシンジは、拗ねた子どものように顔を背けた。

「駄目よ。血が足りないんだから、いっぱい食べなきゃ。」

対するマナは、物分かりの悪い子どもを叱る母親ように、少し強い口調で言う。

「いらないって言って・・・ん・・・。」

怒鳴ろうとして、シンジの口は塞がった。

その大きく開いた口に、すかさずマナがリンゴをねじ込んだのだ。

「ね。おいしいでしょ?」

シンジがリンゴを嚥下するのを待ってから、マナが微笑んだ。

シンジはそれには応えず、再び拗ねたようにマナから顔を背ける。

「あ、怒った?ごめんね。」

マナは嬉しそうに謝る。

「碇君ってば。」

腕を取って揺するマナの声を聞いて、シンジは一つのことに気がついた。

彼女の声に感じた懐かしさの理由。
 
 

似てる。

声が。

綾波と、母さんに・・・。
 
 

「霧島さん・・・だったよね?・・・どうして、ここに来るの?」

シンジはマナから顔を背けたまま、聞いた。

「性格・・・かな?だって、私がいない間に、碇君が首でも吊るようなことがあったら、夢見が悪いもん。だから、見張り。」

マナは首を傾げながら、自分でもよく分かっていないような答えを返して、笑った。

だが、そう答えてはみたが、それだけじゃない。

あのとき見た、シンジの涙。

絶望の呟き。

自分が償いきれない罪を犯してしまったようで、だから少しでもいいから、シンジに生きててよかったと思って欲しくて、ここにいる。

マナは早くに両親を亡くしていた。

でも、前だけを見て生きることにしている。

だから、シンジだけが世界中の不幸を一手に背負って、悲哀にくれた顔をしているのは気に入らない。

逃げちゃ駄目だよ。

マナにはシンジが自分なんかでは及びもつかない、苦しみと、悲しみを背負っていることが、なんとなくわかった。

でも、逃げちゃ駄目。

『生きていればきっといいことがあるよ。』

そうシンジに言ってあげたくて、笑ってあげたくて、ここにいる。
 
 

「その『霧島さん』って、やめてね。マナでいいよ。」

シンジはもう、マナのその笑顔に抗えなかった。
 
 

 
 

「おかえり、シンジ。寒かったでしょ?一人で出かけるなんて珍しいね。どこ行ってたの?」

お玉を片手にエプロン姿のマナがキッチンから顔を出した。

マナは時々、僕の家へ来て掃除をしたり、食事を作ったりしてくれる。

時々、と言ったけど、今ではほとんど毎日だ。

彼女も一人暮らしだから、何に気兼ねすることもない。

週末には僕の家に泊まっていくこともしばしばだった。

マナのパジャマや下着は、置いてある。

あ、誤解しないで欲しいけど、何て言うか、まだそういう関係じゃないんだ。

マナに言わせれば、『見張り』がまだ続いているらしい。

ただ、僕も、マナも、独りは寂しいから・・・。

「うん、まあ・・・。」

マナの問いに、僕は煮え切らないお湯で濁ったお茶を入れた。

まさか、

『君へのクリスマスプレゼントを買って来た。』

とは言えない。

僕だってそこまで無粋じゃないよ。

これはイヴまで大事に取って置くんだ。

「ねぇ、どこ行ってたの?ねぇ、シンジってば。」

けど、僕のその答えに納得するマナじゃない。

何しろ、好奇心が人一倍旺盛なんだから・・・。

僕は言い訳を考えておかなかったことを後悔した。

「えーっと、あの・・・。あっ、マナ、お鍋吹いてる!」

「えっ?あっ、いっけな〜い!」

パタパタとキッチンに駆け戻るマナの後ろ姿を目で追いながら、僕は胸をなで下ろした。
 
 
 
 

  To be contined  

『HIDEの小説』―お子さんにも勧めてあげて下さい―
Ver.-1.00
デスクトップが綾波だらけのhide@hakodate.club.ne.jpに愛のおてまみを


<あとがき>

とうとう出しちゃいましたね。

霧島マナとか榛名リナとか金剛ルナとか(←いないって!)。

うーん、サブキャラ出すのってあんまり好きじゃないんですけどねぇ・・・。

ま、ゲームは本編に準ずるものとして・・・。

初めて書いたけど、こんな感じでいいのかな?よくわかりません、彼女の性格(^^;

けど、声は(偽)綾波だし、髪と瞳の色がアスカ、ってのはそそりますねぇ。このストーリーにははまり役。いいキャラだなぁ。

てなわけで、意表を突いた(のかな?)キャラクターの登場、いかがでしたでしょうか?

ストーリーはアスカが日本に帰ってくるまで(書いちゃっていいのかな?いいよね?)は考えていますが、その先は考えていません。

アスカ人にとってハーッピーエンドになるのか、はたまたバッドエンドになるのか、今の時点では何とも言えません(ウケケッ) 。

ネタがないのは本当です。

助けてよ、冬月先生・・・(なぜに冬月?)。


 HIDEさんの『初めての冬に』B-Part、公開です。
 

 シンジと一緒に住んでいる・・・

 住んでいる訳ではないけど、
 これは濃いぞ〜

 親がない者同士で、
 シンジの苦しい時を一緒に乗り越えた、ってのは濃いぞ〜
 

 

 安らぎを得ているシンジですが
 アスカが帰ってきたときに、
 会ったらどうなるんでしょう・・・
 

 

 LASな展開になるのかな??
    なって欲しいな・・・
 

 アスカ人・LAS人の作者さんでしたら安心ですが、
 HIDEさんはアヤナミストだから・・・

 怖い〜 (;;)
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 HIDEさんにネタを送りましょう!

 思わずLAS展開にしたくなるようなネタを!(爆)
 

 

 

 壁紙は当然「アスカ」の神田でした(^^)

   ”サンタ・アスカ”−−萌え萌え〜〜

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