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「へぇ、結構手際いいんだ。」
シンジの手元を覗き込んで、マナが感嘆の声を上げる。
その声に、シンジは混ぜ終えたケーキのスポンジを型に流し込みながら、少しだけ眉を寄せた。
「なんだよ、その意外そうな反応は?」
「だって、シンジが料理できるなんて知らなかったもん。」
シンジはクスクスと忍び笑いを漏らすマナを尻目に、憮然とした表情で冷蔵庫を開けた。
今夜はクリスマスイヴ。
両手いっぱいに料理の材料を仕入れてきたマナに、シンジは二人で食べきれるかどうか疑わしいほどのそれを目にして妙な汗をたらしつつも、手伝いを申し入れた。
今では家事はマナに任せっきりになっているため、シンジの方も少々暇を持て余しぎみだった。
疑わしげな視線を向けるマナに、シンジはここぞとばかりに胸を叩いて見せた。
と言うわけで、マナは料理担当、シンジはケーキ担当である。
「ねぇ、これってもしかして、お酒じゃ・・・」
生クリームを求めて冷蔵庫を開けたシンジは、見慣れないビンを見つけて振り向いた。
「今夜くらい、いいでしょ?」
マナは鼻歌を歌いながら、次々と料理を仕上げて行く。
それに比例して、テーブル上の皿は増える。
シンジがケーキを一つ作り上げる間に、それを乗せるスペースがテーブルの上からどんどん失われて行く。
「やっぱり、マナには敵わないなぁ・・・。」
「まあね。一人暮らし長いもん。」
マナは笑いながらそう言って、ワイングラスを厳かにテーブルに乗せた。
ケーキのトッピングのために生クリームと格闘していたシンジも、何とか完成にこぎつけたようだ。
最後にそれを真ん中に据えて、完成。
「うん、上出来!」
テーブルの上を見渡して、満足げに頷くマナ。
が、とても二人で食べきれる量じゃない。
彼女は、食べることより、作ることの方に喜びを感じるタイプらしい。
「ほらほら、早く席について!」
やれやれと言った仕草で肩を竦めるシンジを、マナは無理矢理席に着かせ、有無を言わせずワインをグラスに注いだ。
「それじゃ、乾杯!」
「あっと、その前に、これ・・・。」
機先を制されて不機嫌そうなマナに、シンジはおずおずと小さな包みを差し出した。
「なに?これ?」
「えっと、あの、クリスマスプレゼント・・・。」
「私に?シンジが?ホントに?」
いくらか予想していたとは言え、嬉しさの余り疑問形の単語ばかりになるマナ。
恥ずかしそうに顔を伏せるシンジとは対照的に、マナは瞳を輝かせて飛び上がらんばかりだ。
「ねぇねぇ、開けていい?」
マナは、そう問いながらも、返事を待たずに包みを開け始めていた。
「気に入ってもらえるかどうか・・・」
シンジの声をマナは聞いていない。
彼女は3度ほど、通信簿に『人の話を聞かない』と書かれたことがある。
「うわぁ・・・」
やがて包みを開け終えたマナは感嘆の声を上げた。
その手のひらの上には、質素ながらも瀟洒な銀のチェーンの先に、確かな存在感を誇示して輝く、小さなルビーが括り付けられたペンダント。
センスの良さもさる事ながら、マナは、それに対してこの上ない『シンジらしさ』を感じて、目尻を下げた。
「いいの?高価かったんでしょ?」
「・・・うん、でも、マナのために買ったものだから・・・。」
そう答えて、シンジの頭をそれを買うときに浮かんだ別の少女の顔がよぎった。
シンジは罪悪感を取り繕うように不自然な笑顔を浮かべる。
「・・・さあ、冷めないうちに食べようよ!せっかくマナが作ってくれたんだから。」
「・・・と、その前に・・・」
今度はシンジが機先を制されて、グラスを取り落としそうになった。
「な、なに?」
「着けて。」
「え?」
「着けて!これを。」
「は?」
「もう!わかんないかなぁ?!シンジが、私に、このペンダントを、着けるの!」
すごい剣幕で身を乗り出すマナに、シンジは大粒の汗を浮かべて身を引いた。
とは言え、その期するところは悟ったらしく、間抜けな顔をして、自分を指差す。
「僕が?」
マナはさも当然のように頷いて、ペンダントを差し出した。
シンジは仕方なくそれを受け取り、マナの後ろに回る。
と、またしてもマナが駄々をこねるように大声を出した。
「違う!」
「今度は何だよ?」
「前から着けて!」
「はぁ・・・。」
シンジはマナの当たるべからざる勢いに、逆らわない方が賢明だな、と考えたらしく、マナの前に回ると、彼女と目を合わせないようにして首の後ろへ手を回した。
シンジの顔は耳まで真っ赤になっている。
シンジは見えない手元を何とかしようと、首を伸ばしてマナのうなじのあたりを伺うが、そうすることでますます身体が密着してしまい、余計に手元がおぼつかなくなる。
マナの肌に傷でも付けるようなことがあったら大変なので、一心不乱に指先に神経を集中させようとするが、なかなかうまく行かない。
マナの両手が自分の背中に回っていることにも気づかないありさまだった。
「ねぇ、シンジ。」
「なに?」
「シンジは私のこと、どう思ってる?」
「・・・どうって・・・、大切な人、だよ・・・。」
「なら、いい・・・。」
マナは少しだけ両腕に力を込めて、目を閉じた。
それでシンジは、ようやく自分たちが抱き合っていることに気づいて、狼狽した。
「あの、ちょっと、マナ?」
「ねぇ、シンジ。」
「な、なにかな?」
「・・・今夜、泊まってくね・・・。」
テーブルに置かれたワイングラスには、まだ口はついていない。
にもかかわらず、マナは耳まで真っ赤になってシンジにしがみついていた。
窓の外で音もなく降り積もる、真っ白な雪は、二人の聖夜をこれ以上ないほどに演出していた。
「メリー・クリスマス!・・・か。」
アスカは、そう呟いて苦笑いを漏らした。
弄んでいたワイングラスを口元に運び、薄桃色の液体を一息に空ける。
テーブルの上には、既に空になったワインが一本と、半分ほど残っているものが一本。
それに、表面が乾燥した一切れのクリスマスケーキ。
アスカは窓の外にちらつく雪を眺めながら、サンタクロースに唾を吐き掛けたい気持ちを押さえつけていた。
「アスカちゃん、今夜、暇?」
今日は8人の客に声をかけられた。
もとよりアスカの袖を引く男は数知れない。
だが、アスカはそのことごとくに愛想笑いを浮かべ、
「ごめんね。先約があるの。」
と、嘯いて見せた。
それだけで男どもは、残念そうな様子を見せながらも、納得した。
いくら誘ってもなびかないアスカには、もう恋人がいるものとあきらめている者がほとんどだったし、声をかけるのも乗ってくればもうけものと言った感じなので、さほど気を悪くした様子はない。
そして、アスカは、いつもより忙しい一日をいつものように過ごし、店内でいちゃつくカップルの相手を少々飽食気味になるほど努めてから、家路に就いた。
帰りにコンビニでロゼワインを仕入れ、余りもののケーキを抱えて。
「なんで全部振っちゃったんだろ?独りでこんなことしてるよりは、ずっといいのに・・・。」
そう言ってはみたものの、アスカには答えがわかっていた。
男が恐い。
やさしく微笑む瞳の向こう側に、欲望の炎が見え隠れしていることをアスカは知っていた。
だから、男は嫌い。
アスカがいくら背伸びして見せても、根は純粋な15歳の少女だった。
音が欲しくて、アスカはラジオのスイッチを入れた。
テレビでは、ロマンチックな聖夜を演出する、気障な特版しかやっていないはずだった。
ラジオからは重厚な弦楽器の演奏が流れる。
クラシックのコンサートらしい。
そして、すぐにラジオのスイッチを切った。
ドイツに住むものなら、三つ子でも知っている、偉大なる音楽家、ヨハン・シュトラウス・バッハの手による無伴奏チェロ組曲。
いつかシンジがアレンジして弾いていた曲だったから。
「なんで、こんな時に・・・。」
吐き捨てるように呟いて、アスカはまだ残っていたワインをグラスにあけた。
グラスを目の前に掲げ、それを透かして酔眼を窓の外へ向ける。
薄く色がついた闇の中を、上から下へと通り抜けて行くピンク色の雪。
しばらくそれを睨み付けていたアスカだったが、やがて一息にそれを飲み干すと、今日何度目かわからないため息をついた。
「雪、か・・・。日本でも、降ってるかな・・・?」
シンジの頬にマナの手が伸びる。
シンジは吸い寄せられるように、マナの頬に唇を寄せた。
そのまま流れて、二人の唇が重なる。
昂ぶった気持ちを押さえ切れず、絡み合う舌が互いの唇を求め合う。
やがて、二人の息が荒くなって行く。
だが、下腹部に血の昂ぶりを感じたとき、シンジはマナを突き離していた。
シンジは身体中に気味の悪い汗をにじませて、荒い息を吐いた。
「シンジ?」
「・・・ごめん・・・。」
「恐いの?」
「・・・多分、そうだと思う・・・。」
シンジをいたわりながら尋ねるマナに、あえぎながらそう答えたものの、シンジは吐き気を押さえることで精一杯だった。
一瞬、マナにアスカが重なった。
それと同時に昂ぶった自分の身体が、許せない。
もうこれ以上、アスカを汚したくなかった。
やがて呼吸の乱れも治まり、汗が気化して冷えた身体に、マナがそっとシーツをかけてくれた。
「無理しなくても、いいよ。」
「ごめん・・・。でも、朝まで隣に、居てくれないかな・・・?」
マナはやわらかく微笑んで頷き、シンジの頭を優しく胸に抱え込んで、横になった。
いつしか吹雪と化した雪は、アスカの部屋へ光が届くのを妨げていた。
馴れないアルコールも、アスカのまぶたを重くする。
アスカが頭を押さえて呻き声を漏らしたとき、枕元の時計は午前11時を指していた。
「やっだー!信じらんなーい!うそでしょー?!」
飛び起きて身支度を始めるアスカ。
あまり気分がいいとは言えない。
空になったワインのビンが2本、してやったりとテーブルの上で笑っているように見えた。
今日も仕事は休みではない。
これもアルコールの責任だろう、目覚しをかけ忘れたらしい。
だが、アスカは別のものに責任をなすりつけることにした。
「ちょっと、シンジー!なんで起こさないのよー?!」
アスカは、滅多なことでは寝癖がつかない美しい髪をブラシで梳かしながら、鏡に向かってそう叫んだ。
「ちょっと、聞いてるの?!バカシンジっ!」
血相を変えて振り向き、自分一人しかいない部屋を見渡して、アスカは仕事を休むことに決めた。
ベッドの上で膝を抱えてうずくまるアスカ。
「・・・なにやってるんだろ?あたし・・・」
声を発する者のない部屋の中、時折響くのは風が窓を叩く音だけ。
既に正午になろうかという時刻ながら、厚く空を覆った雪雲は、相変わらずアスカの元へ光が届くのを防いでいた。
アスカは薄暗い部屋の中で、微動だにしない。
無意識に出てしまったシンジの名は、アスカを迷わせていた。
しばらくして、アスカは何かに気づいたように、顔を上げた。
「・・・そっか、違うんだ・・・。」
今まで独りでも平気なはずだった。
でも、違う。
頭の中にちらつくシンジの影を、無理矢理押さえつけているだけだった。
アスカはそれを認めることにした。
だけど、シンジは嫌い。
これだけは絶対に譲れない。
それでも、側にいて欲しい。
一緒にいることが当たり前になっていた二人だから。
あいつの声が聞こえる生活が、あいつのにおいがする生活が、当たり前だったから。
「・・・確かめなきゃ・・・。」
そう呟いて、アスカは部屋を片づけ始めた。
もしかしたら、再びここに帰ってくることはないかもしれない。
「そうよ、確かめなきゃ。こんなの、あたしらしくない。」
忘れることが出来ないのは認める。
だから、もう一度、シンジに会って、二人を繋いでいるものが何なのかを確かめる。
それを覆い隠していたつまらない意地は、シンジと離れて過ごした1年の月日が洗い流しているはず。
今なら、良く見える。
そして、その絆をどうしても認めたくないのなら、あるいは、すがりつくに足らないものだとしたら、シンジの影をちらつかせたまま、独りで生きる。
もしも、許せるなら、その上でシンジを求める心が拒む心を上回っていたなら、シンジに依存して、あいつにしがみついて生きて行こう。
断ち切ることが出来ないのなら、その二つしか道は残されていない。
アスカは、別れ際、涙混じりに『また会えるよね?』と尋ねたシンジの声を忘れてはいない。
あの時は振り返らなかった。
でも、シンジはきっと、おかえり、と言ってくれる。
あとは自分自身の問題。
・・・と、アスカは信じて疑わなかった・・・。
明けましておめでとうございます!
まずいなぁ、年明けちゃった。
え〜、舞台はクリスマスですが、当初はそれまでに終わらせる予定で・・・(^^;
無理な予定を立ててはいけませんね。
まだアスカが日本に帰ってきてないや(^^;;
あ〜、しかも一人称になったり、ならなかったり・・・。
おまけに、LAS派並びにLRS派の両方を敵に回すような内容に・・・(^^;;;;;
先に断っておきますが、レイは名前しか出ませんよ〜。
どうでもいいことですが、『霧島』と聞いて、元大関を思い出すのは僕だけじゃないはず。
ああ、あの滴る汗に浮かび上がる悠久の筋肉美、寄り切られたい・・・(爆)
HIDEさんの『初めての冬に』C-Part、公開です。
よくぞ踏みとどまった、シンジ(^^;
”踏みとどまった”ではないですよね・・
アスカがシンジの元に帰ってくる〜
”帰ってくる”ではないよね・・
アスカとシンジの再開が、
凄く辛いものになりそうで怖い (;;)
たとえ二人が上手く行っても、
それはそれでマナが可哀想になりそうで・・
HAPPYになってほしい〜
さあ、訪問者の皆さん。
いつの間にか20000HITを大きく越えたHIDEさんに感想メールを送りましょう!
スクリーンセーバは10種類以上がランダムに出る神田でした(^^)
EVAがほとんど(^^;