葛城家の住人にも例外なくそれは当てはまる。
ただ、この家の食を司る主夫にとって、夕食は戦争であった。
アルコールばかり摂取して、ちっとも箸を動かそうとしない女。
偏食家で小食の少女。
食事とは別の理由で忙しく口を開く少女。
そんなわがままな客たちをある時は叱咤し、ある時は優しく言い諭し、またある時はなだめすかしてなんとか食卓を片づけることがシンジの日課となっていた。
「ミサトさん!ビールばっかり飲んでないで・・・」
「綾波ぃ。ちゃんと食べないと身体壊すよ・・・」
「わかったよ、アスカ。ほら、僕の分あげるから・・・」
そんな彼にとっての唯一の救いは、文句一つ言わず、いつも綺麗に平らげてくれる一匹のペンギンだけだった。
文句を言おうにも言えないだけかも知れないが・・・。
大騒ぎの末、食事が終了し、二人仲良く後片付けを始めるシンジとレイ。
缶ビール片手にそれをからかうミサト。
リビングでペンギン相手に人間としての誇りを捨ててデザートの取り合いをするアスカ。
いつもの光景に混じって誰にも構ってもらえないTVのニュース番組が寂しげに今日の出来事を報告している。
「あっ、こらっ!ペンペン!それは私のよっ!」
「クウエェッ」
『次のニュースです。』
「あんたペンギンのくせに生意気よっ!」
「クエッ!クエッ!」
『・・・年間太平洋を護り続けた・・・』
「こんの〜!あんた私のことバカにしてるでしょっ!」
「クエェ?」
『・・・が本年をもって退役の・・・』
「・・・いい加減にしないと怒るわよ。」
「くっ、くえぇ〜。」
『・・・引退航海として世界中の港を・・・』
「あれっ?」
と、そこでアスカの視線がTVに吸い寄せられる。
ペンペンはアスカの動きが止まったのをいいことに、もの凄い勢いでデザートのフルーツをついばみ始めた。
だが、アスカはそんなことには全然気付かず、その視線はTVに釘付けになっている。
「えっ?これってもしかして・・・?」
『明日日曜日の午前11時には新横須賀に寄港する予定です。では次のニュースです。』
「やっぱり!間違いないわ!」
アスカはほんの少し考え込んでいたが、振り向くと大声でレイに呼びかけた。
「ちょっと、レイ!」
レイはシンジと二人だけの時間を邪魔されて大いにご機嫌ななめな様子である。
だが、アスカはレイが振り向いたのを確認すると、反論を許さぬ口調で言った。
「明日一日、シンジ借りるわよ。」
そして、レイは無表情に答えた。
「駄目。」
”未来のために” After Story #2
次の朝。
日曜日、快晴。
結局アスカは掃除当番一週間という条件の下に、シンジを一日だけ独占することになった。
あの後、アスカが珍しく謙虚に頼み込んだので、恐ろしくなったレイが渋々了承したのだ。
とは言え、掃除当番一週間という条件を出すところは、彼女のしたたかなところである。
だが、驚いたことにアスカは文句を二つ三つ漏らしながらもその条件を飲んだ。
それだけの理由が今日のデートには含まれているから。
シンジの数歩前を踊るように歩くアスカは、ジーンズにTシャツと言った変わり映えのしない服装のシンジに対し、ひまわり色のワンピースに真っ赤な靴。
首にリボンを巻いて、左腕には靴と同じ色の小さな腕時計。
彼女のこだわりが感じられる。
「ほら、シンジ。電車出ちゃうわよ。」
そう言って急かすアスカは言葉とはうらはらに上機嫌。
「うん。でも、一体どこに行くの?」
アスカの格好を見て気付かないシンジもシンジである。
だが、アスカはそれを責める気は毛頭ないらしい。
手を後ろに組んで振り向き、可愛らしく少し身を乗り出す。
そして嬉しそうに微笑みながら答えた。
「新横須賀。」
アスカは、今日だけは可愛い女の子になれそうな、そんな予感がしていた。
シンジは右腕に絡みついたアスカから漂ってくるラベンダーの香りに頬を染めながら、新横須賀の港を眺めていた。
タンカーのような大型の補給船があわただしく行き来する姿や、カメラを構えて焦れている少年たちを見ても、まだシンジは気付いていないようだ。
「あのさ、港が見たかったの?」
アスカに向けて少々的外れに問いかける。
「もう!違うわよ。もう少しすればわかるから・・・。」
「うん・・・。」
いまいち納得の行かない返事をして、再び水平線に視線を向ける。
周りには人が集まって来てはいるが、カップルらしき姿はシンジたちだけだった。
ただでさえ、男の視線を集めて止まないアスカである。
極力気にしないようにはしているが、周囲の人々の視線が少し恥ずかしいシンジであった。
しばらくして、10隻程の船団が水平線の向こうから姿を現す。
「来たわよ。シンジ。」
嬉しそうに声を弾ませるアスカ。
「えっ?来たって、何が?」
「んもう!鈍いわねぇ。よ〜く見てみなさいよ。」
シンジは額に手を当てて、近づいてくる船団を注意深く眺めた。
やがてその輪郭がはっきりとしてくる。
シンジには船団の中央を威風堂々と進む空母に見覚えがあった。
「えっ!あれって、まさか・・・?」
アスカはシンジの横顔を見上げ ― そう、もう見上げなければならない ― 、クスリと小さく含み笑いをすると、誇らしげに言った。
「そう。国連軍が誇る正規空母、Over The Rainbow!」
アスカは驚きに目を瞠るシンジの頬に手を当て、強引に自分の方に向けさせる。
そして穏やかに微笑んだ。
「私たちが初めて出会った場所よ。」
<あとがき>
お久しぶりのAfter2です。
ちょっと短いけど、ここで切った方が演出的にいいかなぁ、と思いまして・・・。
7KB?!ホントにこれでいいのか?!
いや、気軽に読めるのが僕の持ち味で・・・(笑)。
実はついこの間まで我が街の港に太平洋艦隊の旗艦が寄港しておりました。
仕事で見に行けなかったけど。
「虹を越えて行こう!」は全部で3本、いや4本位になるかなぁ?
艦長&副長に渋い役回りを、と考えております。
LASの予定、って、ここまで書いたら当たり前か(笑)。
多分遅いと思いますが、「読んでやるぞ!」という奇特な方は気長にお待ち下さい(笑)。
HIDEさんの[”未来のために” After Story]『虹を越えて行こう』!A Part、公開です。
テレビから流れるニュース。
気が付かない。
タイトル。
まだ気が付かない(^^;
アスカの服装。
やっとわかった!
気が付くのが遅い?
シンジよりは早いやい! (;;)
でも、シンジは[テレビのニュース]や[タイトル]を知らないから・・
私は、シンジよりも鈍いのか(^^;;;;
二人の思いで、
二人が出会った場所。
甲板上で風は吹くのか?!(笑)
さあ、訪問者の皆さん。
私に自分の鈍さを認識させてくれた(^^;HIDEさんに感想メールを送りましょう!