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その部屋に灯りは無かった。闇の中で一人の女が端座している。
女は先ほどから同じ言葉を繰り返している・・・・・それは祈りの言葉だった。
”御隠居様、ユイ様。どうかシンジ様たちをお守りください・・・”
・・・もう長い間、同じ言葉を呟き続けるその女の前には、彼女の仕えた者が遺した唯一の”形見”が置かれている。
それは黒い鞘に納められた一振りの懐剣だった。
”もしもシンジ様たちに万が一のことがあれば・・・”
決意を込めてヨシエは懐剣に誓った。
”・・・私も生きてはおりません・・・”
既に朝日が昇り始める時刻だった。
【2・YEARS・AFTER】 第拾九回
作・H.AYANAMI
――シンジの”内側”
”久しぶりだね。シンジ君・・・”
シンジはその声の主の正体にすぐ気づいた。
「・・・カヲルクン、ダネ・・・ヒサシブリ」
自分が殺した者との再会・・・通常ならば驚愕し絶叫すべき状況だった。しかし、にもかかわらず、その言葉にはまったく感情と言うものが含まれてはいなかった。
”・・・シンジ君、君は変わってしまったんだね?”
「・・・ウン、イマノボクハキミトオナジヨウニ、イシキダケノソンザイダヨ・・・」
”・・・でも、君にはまだ肉体があるじゃないか!?”
「・・・ソウダネ。デモ、モウボクハコノカラダニ、ナンノシュウチャクモモッテイナイカラ・・・イシキダケノソンザイデアルコトノジユウサヲボクハシッテシマッタカラ」
”・・・人であることに未練は無い?”
「・・・ウン、ヒトデアルコトヨリ、ヒトデナクナルコトデ、ホカノヒトタチヲスクイタイ・・・・・ボクニハソノチカラガアル。ボクハソノタメニソンザイシテイルンダカラ」
”・・・誰がそんなことを決めたんだい?”
「ダレデモナイヨ。ボクジシンガキメタンダ。イヤ、ボクガウマレルズットマエカラ、ソレハキマッテイタコトナンダ・・・・」
”・・・・・そうかな?・・・・・だけど綾波レイは君を救おうとここを目指しているよ”
”・・・・・彼女は”人”として、人である君を誰より愛しているんだ”
レイの名を聞いてもシンジの意識には何の動揺も見られなかった。
「ソウ・・・ダケド、イマノボクニハカンケイガナイコトダ。ボクニハシメイガアルンダカラ」
”君は忘れてしまったんだね、綾波レイとの日々を”
「ワスレテハイナイヨ・・・・・デモイマノボクニハナンノイミモモッテイナインダ・・・」
”・・・・・そう・・・それじゃあ僕がここから出して上げると言っても・・・・・”
「ボクハイカナイヨ・・・・・カオルクン・・・サヨナラ・・・」
”・・・ああ、さようなら・・・”
カヲルの意識はシンジの中から遠ざかっていった。だが・・・、
(・・・・・僕はヒトの未来に希望を与える訳にはいかないんだ・・・)
(・・・・・僕たちは君を阻止するしかない・・・・・)
――大深度施設中心軸・中央給排気ダクト
上方より吹き下ろしてくる強い気流の中を、4人は1000mの深さを一気に降下していた。
勿論そのまま飛び降りたのでは4人に命は無い。彼等各々の腰部につけられたリールから繰り出される高張力の極細のケーブルは、ドッグクラッチとカムと油圧ダンパーを有する簡易な機構によって彼等に適度な降下速度を与えることに成功していた。4人は無事”底部”についた。
四方にはそれぞれ新鮮な空気を施設内に送り出すためのダクトが開いていた。空気の流れはともすれば彼等を別々のダクトに吸い込んでいってしまいそうな勢いだった。4人は降下に使用したケーブルを切り放すと、ダクト開口部の間の壁面にそれぞれ張り付き自らの体を支えた。
全員がマスクをしていた。周辺にあるのは”新鮮な”空気だったが、マスクの調圧機構の助けなしにそれを呼吸することは困難だったからだ。
ミサトは自分の咽喉部につけられた通信機のスイッチを入れる。他の3人にもそうするように合図を送った。皆それに従う。
「レイ、シンジ君はどっちの方にいるのか分かる?」
レイは首を振った。
『・・・・・いいえ、今は分かりません・・・ただ・・・・・』
「ただ?」
『碇君は・・・ここよりもっと深いところにいるような気がします』
「そう・・・」
ミサトは視線を移した。
「取りあえずどうしたら良いと思う?マコト君」
「やはり当初の計画通り、先ずここの電源設備を破壊しに行きましょう・・・その混乱に乗じてシンジ君の所在を探す・・・それしか無いでしょう」
「・・・で、どっちに行けば良いの?」
マコトは自分のすぐ左横のダクトを指さす。
「こっちです」
「分かったわ。それじゃあ行くわよ!」
かけ声と共に、ミサトはマコトの指さしたダクトに飛び込もうとした。だがその腕をマコトはあわてて掴んだ。
「ミ、ミサトさん、駄目ですよ!!この奥では剥き出しのファンが回っているはずです。このまま行ったら”コマ切れ”ですよ」
「そ、それを早く言ってよ!・・・どうすれば良い訳?」
その問いにはシゲルが答えた。
「ここからワイヤを延ばしてそれを支えにファンに近づきます。後はこれで・・・」
そう言う彼の手には小さなボックスが握られていた。
ミサトは訊ねる。
「何それ?」
「・・・まあ、簡単に言えば火打ち石みたいな物です・・・強力な電磁波を発生させてファンのモーターを停止させます。外部からは故障したようにしか見えないはずです」
「分かったわ・・・それじゃあすぐに始めましょう」
4人は目的のダクトへの進入する準備を始めた。
――大深度施設内・中央電源室
基本的に、この施設を維持するための電力は外部からの供給に依っていた。しかし緊急用の発電プラントと大容量のバッテリーを備えて、万が一電源の供給が断たれても、数時間は機能を保持することが可能だった。
ここ中央電源室はそうした電源の、すべてを制御する為の機能が集中していた。地下深くにあるこの施設が外部からの攻撃に因り破壊される可能性は皆無に等しかったが、もし内部に進入され破壊されたとすれば、施設の機能維持に重大な影響を蒙ることは明らかだった。
それゆえそのゲートに仕込まれたガードシステムはこの施設内で最も堅固なものの一つだった。しかし、その入り口を警備しているのは 僅か1名の兵だけだった。人手が足らぬ現状がそれ以上の増員を許さぬこともあったが、それだけこの施設のガードシステムに信頼が置かれている証左でもあった。
その警備兵はゲートの前で両足を開き、首から吊された小銃を胸の前に捧げ持っている。その眼差しはじっと自分の正面の壁に向いている。
彼が配置について2時間あまりが経過していた。普段ならば既に交代者が来て然るべき時刻を過ぎていたが、緊急配備による兵員の不足から交代が遅れる旨の連絡が入ったのちその後の音沙汰は無かった。
彼が左手で小銃のフォアグリップを握りなおした。一人でいることが常よりも緊張させていたのだろうか・・・彼の手にはじっとりと汗が滲んできていた。
逃亡者捕獲の緊急配備の連絡があって既に30分あまり、しかし、彼の警戒するこの一角だけは不思議なほどに静寂を保っていた。
「ふっ」
溜息が漏れた。遂に、緊張を続けていることに耐えられなくなったのだ。
考えてみれば、ここは外部への出口とは正反対の、このフロアの最奥部に当たっている。逃亡者がここへ現れることなどあり得ない・・・彼がそう考えた瞬間だった。
彼の上方、空気の流れるパイプがわずかに軋んだ。彼は何気なく音のした場所を見上げた。
そこにはちょうど空気の吹き出すダクトがあった。いつもの見慣れたステンレスの格子があるばかり・・・いや、いつもとは違っていた、格子の間には彼をじっと見つめる二つの目があった。
「あっ!」
あわてて、彼は手にしている銃をそれに向けようとした。が、遅かった。
”ヒュッ”
ごく小さな風切り音と共に格子の間から発射された何かが彼の肩口に突き刺さった。それには細い、縮れた針金が連なっている。瞬間、彼の肉体には数万ボルトのパルス電流が送り込まれた。
驚きの表情を保ったままその兵士は一声も発することなくその場に倒れた。
”ガンガン・・・!!”
辺りの静寂を突き破るがごとき騒音が響いた。格子を蹴り落とそうとする音だった。
”ガシャッ、バタッ”
蹴り落とされた格子は意外なほど音を立てなかった。その場に倒れた兵士の背中が”クッション”の役割を果たしてくれたのだった。
すぐに一つの影が大きく開口したダクトから飛び降りた。すぐにもう一人、やや遅れて更に二人がその場に降り立っていた。最初に降りた二人は銃を構え通路の両側に視線を走らせる。
そのうちの一人が声高に言った。
「マコト君、急いで!!すぐに警備兵が集まって来るかもしれないわ」
「分かってますよ、ミサトさん」
マコトはそう言いながら、既に小さな端末から延びたコードを電源室のガードシステムに接続し、その扉を開放するための作業を始めていた。
――大深度施設・エレベーター内
そこには5人の男女が乗っていた。美人だがその尖った鼻筋にどこか不遜さを感じさせる、髪を金色に染めた女。短めの髪の、未だ少女の面影を残す二十歳代の女。少し疲れた表情を見せる、白衣を着た三十代の男。その鍛え上げられた肉体が服の上からでも明らかな、サングラスの男。そして古めかしいが良質の素材で作られた和服を着た小柄な老人だった。
髪を染めた女――赤木リツコは言った。その声には明らかな揶揄が含まれていた。
「驚きましたわ、閣下。・・・随分と急な予定の繰り上げで・・・」
老人の護衛であるサングラスの男の眉が僅かに動いた。
だが、老人――橋元はリツコの”当てこすり”にはまったく気づかぬようなごく穏やかな口調でそれに応えた。
「・・・うむ、それについてはまったくワシの気まぐれじゃ。博士には迷惑をかけた・・・それにそちらのお嬢さんにも・・・」
そう言いながら、橋元はリツコの後ろに隠れるように立っていたマヤの方を見やった。
それまで視線を床に落としていたマヤは、急に橋元に問いかけられあわてて顔を上げた。
老人の視線はまっすぐにこちらを向いていた。目が合う。
マヤはあわてて応えた。
「あ、い、いえ、別に・・・閣下」
その物言いに老人の口元が緩んだ。柔らかに微笑む。
マヤもまたそれにつられて笑む。これまでと同様に、マヤは老人の笑みになにかしら安らぎのようなものを感じた。
今日までマヤが橋元と顔を合わせる機会はそれほど多くは無かった。だが、会うごとに彼女の心には同じ思いが浮かんだ。それは今は亡き父親に再び巡り会ったような感触だった。彼女は彼女の父親にとっては遅くできた末っ子であったのでその愛情には格別のものがあった。彼女もまたそんな父を愛していた・・・。
マヤのそうした思いを断ち切るようにリツコは老人に問いかけた。
「それで・・・チルドレンの方は・・・期待したとおりでしたの?」
その問いには、白衣の男――吾野が答えた。
「はい、博士が予測した通りです。彼は肉体を超越しました。メタモルフォーゼが現れたことからそれは明らかです・・・今は強制睡眠させていますが・・・しかし今後はどのように彼を扱えば良いのでしょうか?次に目覚めたときに果たして彼の意識の拡大をコントロールできるかどうか・・・」
吾野は言葉を切った。彼は与えられた任務を果たした。しかし今後のことは十分に説明を受けていたわけでは無かった。それゆえ、この後リツコがシンジをどう処置するのか彼は知りたかった。が、橋元の前でそれを言い出すことは躊躇われた。
リツコは吾野の方を見た。だが視線はすぐに老人の顔に移った。その目は無言で問いかけていた。
老人は小さく頷いてみせた。
それを受けてリツコは吾野に向き直った。
「吾野さん、貴方の心配はもっともだけど・・・大丈夫よ、ここにあるものとさきほど搬入したものがあれば・・・」
リツコは言葉を切った。慎重に言葉を選び、そして言った。
「・・・彼を、閣下が望むような形に作り替えることができるわ」
「作り替えるですって!?・・・それは一体どういう意味ですか?」
吾野はリツコの、あまり科学者らしくない曖昧な物言いに思わず反駁していた。
だが、リツコはそれ以上のことを言わなかった。黙ったまま吾野から顔を逸らす。
”ヒュウウウ・・・”
エレベーターは停止した。目的階──最下層部に到着したのだ。
老人が言った。
「吾野君、ご苦労じゃった・・・シンジは消えたりはせん・・・いや、永遠に生きるのだ」
それが締めくくりの言葉だった。もう誰も吾野へそれ以上の説明をしようとはしなかった。エレベーター前に彼を残し、老人はリツコ達を従えてその場を去っていった。
老人の最後の言葉の意味はよく分からなかったが、吾野は自分のここでの役割が終わったことを悟った。
彼は部下達の待つ部屋へと歩き始めた。
――再び、中央電源室
「おかしいなあ!?・・・」
マコトは予期しない状況に思わず嘆息していた。入手した資料によってすでに解析済みのプライマリパーミッションコードをガードシステムは受け入れようとしなかった。
マコトの言葉を聞きつけたミサトが振り向いた。
「どうなってんの、マコト君!?・・・確か、1分でゲートを突破できる筈なんでしょう?」
マコトは顔を上げた。ミサトに向かって言う。
「・・・そうなんです。確かにここのセキュリティは三重のスクランブルコードが1分ごとに書き換えられると言う厄介な代物ですが、すでにコードをこちらの用意したものに書き換えて固定するプログラムを送り込んでいます・・・それは完全に機能しているんですが、肝心のベースコードが書き換えられていて・・・それが分からないとゲートを開けることはできないんです」
「それじゃあ、それを解析すれば良いでしょう!?」
「無理ですよ。MAGIクラスのスーパーコンピューターを使ったとしても30分はかかります。僕の端末の能力じゃあ・・・それこそ年単位の時間が必要です」
その言葉にミサトは一瞬沈黙した。そして言った。
「・・・それじゃあ、このゲートを開けるのは無理なのね?」
マコトは残念そうに頷いた。
「・・・現状ではそういうことです・・・」
ミサトは即座に言った。
「それじゃあ、ここにいても仕方ないわね。一カ所にとどまっているのは危険だわ、移動しましょう」
「・・・分かりました」
マコトはそう返事をして、ガードシステムに差し込んだプラグを引き抜こうとした、その時だった。
頭上から声がした。
「日向君、まだ諦めるのは早いんじゃないか!?」
ミサトにとってそれは懐かしい声だった。まだまる一日も経っていないにも関わらず、もう長い間聞くことの無かったような、一番聞きたかった声だった。
すでに彼女の目には涙が浮かんでいた。うわずった声でその声の主の呼んだ。
「リョウちゃんっー!!」
”スタッ”
その声にシンクロしたように、加持─加古はエアダクトから飛び降りた。
「リョウジ・・・」
ミサトはもう一度、今度は小声でその名を呟くと加古の胸に自分の体を委ねた。
「葛城・・・」
加古は優しくその肩を抱く。その場の誰もが沈黙する数秒が過ぎた。
『・・・加古さん・・・』
レイがその沈黙を破った。
『ここを開けるにはどうしたら良いのでしょう?』
マコトも頷いて、
「そうです。どうすればベースコードをこの場で解析出来るんですか?」
それを受けてミサトはようやく我に返ったようだった。加古の身体から離れて言った。
「・・・そうよ。リョウちゃんどうすれば良いわけ?」
「うむ・・・」
加古は一呼吸おくと話し出した。
「・・・別に解析する訳じゃないよ・・・日向君、これから俺の言うコードを打ち込んでみてくれないか・・・・・」
「・・・はい」
マコトは半信半疑ながらも端末を操作しはじめた・・・。
――貨物用エレベーター
格納庫のヘリから運び込まれたそれらは貨物搬入用のエレベーターに乗せられたまま、一足早く橋元達の到着を”待っていた”
サングラスの男が扉横のボタンを押すとエレベーターの扉が重々しく開いた。
中には3基のMAGIを乗せた構内運搬機と数名の警備兵が乗っていた。
警備兵達に向かい老人が言った。
「待たせたな・・・ご苦労じゃった。君たちの任務はここまでじゃ。全員降りたまえ」
「はっ、了解致しました」
警備兵達の指揮者である兵曹長は、老人に向かい敬礼すると部下達を従えてエレベーターを降り立ち去っていった。
彼らを見送り、4人はエレベーターに乗り込んだ。
サングラスの男がエレベーターの操作盤の”閉”ボタンを押した。ゆっくりと扉が閉まった。
老人は懐から一枚のICカードと小さな紙片を取り出した。サングラスの男に渡す。
「これを」
「はっ!」
サングラスの男はそれらを受け取ると、それを操作盤の下部にあるスロットにカードを差し込んだ。
操作盤の液晶表示に次のような文字が流れた。
”SPECIAL PERMISSION STAND BY”
”PUT IN CODE ”
男は紙片に書かれた数字を操作盤に入力する。
”フォーン・・・”
エレベーターが動き始めた。それはゆっくりと降下し始めた。
――電源室内部
加古、ミサト、マコト、シゲルそしてレイの5人は電源室への侵入に成功していた。
マコトとシゲルは、すでに施設内の制御装置に取り付き施設内への電源の供給を絶つべく作業を開始している。その後ろではミサトと加古が話し合っていた
「・・・リョウちゃん・・・どうやってコードのことを調べたの?」
加古は苦笑する。
「別に調べた訳じゃないよ・・・ただの勘さ」
「勘で24桁もの数字の羅列が何で分かるのよ!?」
「・・・あの男──橋元リュウイチロウにとっては忘れがたい数字だったんだよ。いやその一部は俺達にとっても忘れがたい数字だ」
「私達にとっても・・・」
ミサトは目線を下げて先ほど加古がマコトに告げた数字の羅列を思い返した・・・ふいにミサトは顔を上げた。
「・・・あれって、まさか!?・・・」
加古は頷いてみせる。
「うん、最初の8桁はセカンドインパクトの日付だよ・・・そして橋元の娘夫婦と孫娘の命日でもある。次の8桁は彼が40年あまり連れ添った妻の命日・・・そして最後の8桁はジオフロントが消滅した日だよ」
ミサトは曖昧に頷いてみせる、が、
「・・・でも、橋元にとってジオフロント消滅にどんな意味があったのかよく分からないけど・・・」
「前の二つと同じさ・・・近しい肉親があの日に死んだんだ、多分」
「た、多分って!?・・・そんないい加減なもんだったの?」
「ああ・・・もしあの男が自分の意思でコードを変えたとしたら娘夫婦の命日と妻の命日を使っていることにはある程度自信があったが、最後の8桁はまったくの当てずっぽうだった・・・」
「だが、これで確信が持てたよ・・・多分間違ってはいない」
加古の目が鋭く光った。ミサトもまた顔を引き締めた。
その時だった。傍らで二人の話を聞いていたレイが言った。
『あの老人に会ったとき・・・碇指令と同じ感じがしました・・・』
ミサトは驚きと困惑の混じった複雑な表情を浮かべた。
「・・・やはり、そうなの!?」
加古は頷いた。
「ああ・・・」
「・・・でも、それじゃあシンちゃんは・・・・・橋元の孫ってことになるじゃない!・・・いったい橋元はシンちゃんをどうするつもりなの?」
「・・・分からない・・・しかしEVAに関係するのは間違いないだろう・・・」
「・・・そうね」
ミサトはそう言ったきり黙り込んだ。シンジの身に何が起ころうとしているのか、答えはどこにも無かった。
シゲルがミサト達を振り返った。
「準備ができました」
間髪を入れずにミサトが言った。
「すぐに始めて頂戴!」
「はい」
瞬間、電源室の照明も消えて闇に沈んだ。
――”最”最深部
老人はシンジの眠る部屋の扉の前に置かれた折り畳みの椅子に腰掛けていた。
先ほどまでこの部屋の前に立哨していた彼の部下は老人の護衛を務めていたサングラスの男と共に、リツコらのMAGIの設置作業に従事している。
老人は一人ここに残ったのは、シンジを監視させるべき警備兵を伴わなかったが故にその役割を担うためでもあったが、それ以上に彼が疲労を自覚していたからだった。
彼は椅子にもたれ瞑目していたが、ふいに異変を感じて瞼を上げた。
・・・闇だった。が、それは一瞬のことだった。間もなく非常用の照明が点灯して視界を与えた。杖を手にゆっくりと立ち上がる。
すぐに警護役の二人が橋元のもとに駆けつけてきた。老人は訊ねる。
「どうした?一体何があった」
「はっ、主電源の供給が絶たれた模様です。上部との通信も途絶えており詳細は不明です」
一瞬、老人の眉間には深い皺が刻まれた。
「・・・それで作業への支障は?」
「はっ、赤城博士によればここに独立した非常用発電ユニットがあり、それを動かせば作業の続行は可能との事です」
「分かった。作業を急ぐように博士に伝えてくれ・・・わしもすぐに行く」
「はっ!」
サングラスの男はリツコに指示を伝えるために足早に去っていった。
「ワシらも行くぞ」
「はっ」
老人はもう一人の警護役を従えて歩みだした。その足取りは常とは異なりやや忙しなく見えた。
つづく ver.-1.00 1998+ 06/13
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お読みいただき誠にありがとうございました。
またまた更新が大幅に滞ってしまい誠に申し訳ありません・・・・・恥ずかしながら例の怪我の後遺症が出てしまい、痛みのために長時間はPCの前に座っていられず、数行書いては横になるという”効率の悪さ”で、思わぬ時間がかかってしまいました。(現在は新たに入手した旧型ノートPCで横たわって書いております(^^;))
・・・とにかく・・・とりあえず・・・という感じで誠に恐縮ですが、【2・YEARS・AFTER】第拾九回をお送り致しました。・・・計画では残り3回で終わりです。永い間、作者の拙い物語におつきあいいただいた読者の皆様にはあと少しの辛抱です(^^;;)。最後まで宜しくお付き合いをお願いいたします。