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【二色の独楽】
作・H.AYANAMI  

−葛城ミサト三佐自宅・夜  

「ピン・ポーン」ドアチャイムの音。
 

碇シンジは、一人この部屋にいる。ミサトは今夜も帰らない。

先ほど「帰れない」旨の電話があったばかりだ。

(誰だろう今ごろ?)シンジは訝しく思いながら、扉を開ける。


扉の前に立っていたのは、レイだった。

「あ、綾波、どうしたの?こんな時間に」

『・・碇君・・恐いの・・』

「恐いって・・何が・・」と言いかけて、玄関での立ち話では、と思い直す。

「とにかく、上がって」シンジはレイをキッチンへ案内する。

シンジはダイニングの椅子の一つに、レイを座らせると、自分はお茶の支度をする。

ケトルをレンジに乗せると、戻ってきてレイの向いの椅子に腰掛ける。

「お湯が沸くまで少しかかるから」言わずもがなのことを口にするシンジ。

レイは、ただ肯く。


シンジはレイが何も言い出さないので、痺れを切らして自分から切り出す。

「綾波、恐いって、何が恐いの?」

『・・・一人で眠るのが・・』それきり黙り込む。

「そう・・」シンジにはレイにかけてやる言葉が見つからず沈黙する。



「ピーーィー」ケトルが沸騰を告げる。シンジは、立ち上がりスイッチをきる。


「綾波は、紅茶でいい?」レイの方を見やりながら聞く。

シンジは、レイが肯いたのを確認すると、ティーセットを取り出す。

シンジは、先ずティーポットに湯を注ぐ。ついで自分とレイ、二人分のカップに湯を注ぐ。

「おいしい紅茶のコツは、先ず器を十分に暖めておくことなんだ」つぶやくように言う。

頃合いを見て、ポットの湯をすてて、紅茶の葉を入れる「一杯、二杯、三杯」と数える。

ケトルから目分量で2杯分の湯を注ぐ。葉の広がる時間を見計らい、カップの湯を捨てる。

ポットからソーサーに乗せた二つのカップに注ぐ。

「お待ちどうさま」レンジ台から両手で、2人分のカップを運び、一つをレイの前に置く。

もう一つのカップを持ったまま自分の元いた椅子に腰掛ける。

「お砂糖は?」

『・・いい』

「そう・・」

二人は、黙り込んだままお茶を飲んだ。

「あ、綾波」『・・碇君』

息を合わせたように、二人は同時に呼び合う。

互いに後の言葉が続かず、再び黙り込む二人。


「・・綾波・・今晩はここに泊る?」

『・・碇君・・ありがとう』

「う、うん、かまわないよ」

(綾波は、ひとりで淋しかったんだ・・僕は綾波に当てにされているようだ)

(・・碇君・・私の気持ち・・判ってくれた・・)

「綾波、少しの間待っててくれる、今ベッドのシーツ換えてくるから」


シンジは椅子から立ち上がり、自分の部屋へ入り、ベッドを整える。

いくら不在だからと言っても、ミサトやアスカのベッドを勝手にレイに使わせることは出来ないと思ったからだ。

自分は、今夜はリビングで寝るつもりだ。

洗濯済みのシーツ、タオルケットを取り出し、枕カバーも換えた。

「これで良し、と」作業を終え部屋を出て、キッチンへ戻る。 


「綾波、お待たせ、ベッドの用意が出来たから、何時でも・・」

(寝れるよ)と続けようとして、シンジは黙り込む。

(ぼ、僕はいま、すごくいやらしい事を考えた)一人で赤くなるシンジ。


レイがシンジを見つめて聞く『碇君・・どうしたの?』

「・・な、何でもないよ。あ、綾波、悪いけど今日は僕のベッドを使ってね・・」

『・・ありがとう』


二人はまた黙り込む。

『ふぁ』レイが小さく欠伸をした。


「・・綾波、眠くなったの?」

『・・うん』

「・・それじゃ、僕の部屋へ行って、寝てくれて良いよ」

『・・碇君は?』

「ぼ、僕は、今夜はあっちのリビングで寝るから」指さしながら言う。

『・・いや!、碇君と一緒じゃなければ、いや!』レイは立ち上がっていた。

日頃の彼女を知る者なら誰もが瞠目するであろう、感情を露わにしたレイの言葉。


「あ、綾波・・」今まで見たこともないレイの態度に困惑するシンジ。

「落ち着いて、ね、と、とにかく座って・・」優しく言ってみる。

素直に肯き、腰掛けるレイ。シンジも隣に腰掛ける。


「・・綾波は、どうして・・僕と一緒じゃないと、いやなの?」シンジは尋ねる。

『・・恐い、夢を、見るから・・』

「恐い夢?」

(この前、綾波が話してくれた、あの夢のことかな?)

「綾波、恐い夢って、僕がエヴァにのって君を・・?」最後まで言えないシンジ。


『違う、の』

「えっ、違うの、それじゃあどんな?」レイの夢の見当が付かないシンジ。


『・・碇君が、消えてしまうの』

「ぼくが、消える?」なぜか拍子抜けしてしまう。

「消えるって、どんな風に?」

『・・この前みたいに・・碇君は私を抱いてくれているの・・』

「えっ」思わず、下を向くシンジ。顔は真っ赤になっている。

『でも、碇君の温もりが、急に遠のいて・・・気が付くと私の腕(かいな)から消えているの』

『・・同じ夢を、もう何度も、見たわ・・・』


(綾波はそんな夢を、見ていてくれるのか)

シンジは妙にくすぐったいような、そんな気がした。レイの方を見やる。

いつのまにか、レイは涙ぐんでいる、潤んだ瞳はじっとシンジを見つめている。


シンジは慌てた。思わず、レイの両手を握り締めている。

「だ、大丈夫だよ、僕はこうして、綾波の前にいるじゃないか!」


レイは、じっとシンジを見つめていたが、やがてこう言った。

『・・確かめさせて・・碇君の、温もりを・・』


シンジはまた下を向いてしまう。

(・・でも、逃げちゃだめなんだ)


やがて、シンジは立ち上がる。

息を合わせたように、レイも立ち上がる。


二人の影が近づき、やがて重なり合う。

互いの背中に手を回す。

腕に力をこめて、密着する。

(碇君の温もり・・碇君の匂い・・・碇君の鼓動・・・うれしい・・)

(綾波の温もり・・綾波の匂い・・・綾波の鼓動・・・愛しい・・)

「綾波・・・」

『碇君・・・』


二人はわずかに身体を離し、互いの顔を見つめる。



シンジはレイに、今の自分の気持ちを伝えたいと思った。


「・・あ、綾波、少しだけ、目を、つぶっててくれる?」

レイは黙って肯き、目を閉じる。


シンジは、そっとレイに唇に自分の唇を触れさせた。

唇同士が触れた瞬間、レイはわずかに身体を震わせたが、

拒むことなくシンジの口づけを受け続けた・・・。


シンジにとって、それは初めての、心から愛しい者への口づけだった。

【二色の独楽】END  

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ver.-1.20 1997- 04/11

ご意見・感想・誤字情報などは iihito@gol.comまで。




【作者の部屋】

作 者「こんばんわ、作者です。本日はゲストの方がいらっしゃらないので、一応本作について、解説というか、言い訳をさせて・・」

−ピンポーン(ドアチャイムの音)

作 者「あれ?誰だろ今ごろ」

−ガチャ、キー(扉を開ける音)

作 者「あっ、これは葛城三佐、本日はまたどんなご用件で?」

ミサト「ちょっとあんた!こんな美人に、玄関先で立ち話させる気?」

作 者「(不味い、この女かなり酔ってる)こ、これは失礼しました。むさ苦しいところですが、どうぞお上がりください」

ミサト「言われなくたって、あがるわよ!」

作 者「それで、あの、本日はどんなご用件で?」

ミサト「ここんち、ビール無いのビール!エビチュ・ビール!」

作 者「すいません、家にはあいにく、*リン・ビールしか・・」

ミサト「無いの!エビチュ、しょうがないわね、まったく。何でもいいから持ってきて!」

作 者「はいはい、ただいま直ぐに。(しょうがねーな、まったく)」

−ミサト、作者の差し出した*リン・ビールの500ml缶を一気にあおる。

ミサト「ぷはーっ、にゃにこれ、苦いわね!」

作 者「す、すいません。それしかないもんですから・・それで、ご用件は・・」

ミサト「(私に指を突きつけて)あんた、許せないわ!」

作 者「ええっ、私が何かお気に触るようなこといたしましたでしょうか?」

ミサト「身に、覚えが無いっていうの!」

作 者「いえ、一向に」

ミサト「じゃあ言わせてもらうけど、あたしやアスカがいないことを良い事に、シンちゃんとレイは、完全にラブラブ・モードに突入じゃない」

作 者「それは違うと思います」

ミサト「どこが違うのよ。今回はキッスまでしてんのよ!これのどこがラブラブじゃないっていうのよ」

作 者「まあ、今回シンジ君は、多少ラブラブ入ってますけど・・レイちゃんの方は違います」

ミサト「いずれ”そう”なるわ」

作 者「そうかも知れません。でも”未定”です」

ミサト「あんた、都合が悪くなると、直ぐ”未定”だはね・・・・」

作 者「ええまあ、でも本当のことですから・・・」


ミサト「・・・グーすぴすぴすぴ・・・グーすぴすぴすぴすぴ・・・・・」

作 者「あれ、葛城さん、ミサトさーん、ってば・・・どうやらおやすみになってしまったようです。困ったな・・」

【作者の部屋】END


 綾波 光さんの【二色の独楽】、公開です!
 短編・・ではなくて、前作の続きですね。

 レイの「一緒にいたい」というセリフに
 アスカ派の私もレイに転びそうになっちゃいましたよ!!(笑)

 [綾波光]さんの描くシンジとレイの柔らかい世界・・・
 いい空気が感じられますね。

 読書の皆さんの感想をぜひ、送って下さいね。
 [綾波光]さんは今スランプだそうです。貴方のメールで救ってあげて下さい。


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