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【現実は夢の続き】
作・H.AYANAMI  


「わーあーっ!!」


絶叫とともに、シンジは目覚める。また同じ夢を見、同じ目覚めを迎える。

身体は、吹き出した汗に濡れている。シンジはすでに10日以上も同じ夢を見続けている。

下着を脱ぎ、裸のままでバスルームへ向かう。

元々の彼の生活習慣からすれば、裸で家の中を歩くことなどあり得ないのだが・・・、いまや彼が気を使うべき同居人はここにはいない。

この家の本来の主、葛城ミサト三佐はずっとこの家には帰らない。たぶんネルフ本部で泊まり込みで仕事をしているのだろう。

もう一人の同居人、セカンド・チルドレン、惣流・アスカ・ラングレーは、意志を持たない人形のように、天井を見続けたまま病院のベッドの上にいる。

ミサトさんのペット、温泉ペンギンの”ペンペン”も洞木さんの家族と一緒に”疎開”してしまったままだ。



シンジは 風呂場に入り、シャワーの栓を捻る。そのまま頭から熱い湯をかぶる。

少し熱すぎると思われる温度だが、汗だらけの身体にはむしろ心地よく感じられた。

汗を流し一通り身体を洗う、少し気分がよくなった気がする。

ミサトさんの『お風呂は命の洗濯よ』と言う言葉が思い出される。

バスタオルで身体を拭きながら自分の部屋に戻り、洗濯済みの下着をつける。更にジョギパンをはく。

そのままベッドに寝転がろうとしたが、ベッドもまた汗で湿っていることに気づくと、思い直して部屋を出て台所へやってきた。

冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。

食器棚からコップを取り出そうとして、シンジは思い直す。

(僕以外にこれを飲む人など、ここにはいないじゃないか)


そのままボトルの蓋を開けると、注ぎ口に口を付けて飲みだした。

一息にミネラルウォーターを飲み、彼はそのまま食卓の前に腰掛ける。

「自分は一人だ」と改めて思う。

やがてシンジは、このところのいつもの思考にたち戻っていた

・・・そう、あれ以来、毎日見続けている「夢」のことを考えるのだった・・・。

『さあ、僕を消してくれ・・・』

「カオル君は、死を望んだ・・・だから僕は、僕は・・・」

「カオル君は、僕のことを”好き”だって言ってくれた」『なのに、殺した』

「仕方なかったんだ、命令されたから」『だから、殺した』

「殺さなければ、僕たちが死んでいた」『だから、殺した』

「カオル君は、僕が心を許せると思った最初の人だった」『なのに、殺した』

「カオル君は、僕の気持ちを裏切ったんだ」『だから、殺した』

「カオル君は、”使徒”だった、僕らの敵だったんだ」『だから、殺した』


『彼は人間だったのよ。私と同じ・・・』

「えっ!?」シンジは驚く。心にうちに浮かんだ、自分以外の声に・・・

「どうして・・・綾波が・・」

シンジは、レイのはにかんだような微笑みを思い浮かべる


(でも・・・いまの綾波は、僕の知っている綾波じゃないんだ・・綾波は自爆してしまったんだから・・・)


しかし、いまの自分を救ってくれるのは綾波以外にはあり得ない、シンジにはそんな気がしてならなかった。

(・・・逃げちゃだめだ)

(・・・とにかく、綾波に会おう)


そう決心すると、立ち上がり、着替えの為に自分の部屋に戻っていった。




シンジは、古い団地の一棟にやってきた。階段を上がりやがて一つの扉の前に立ち止まる。

「402号・綾波」

そう、ここはレイの住む部屋の前だ。

少しの逡巡の後、彼は右手に拳を丸めて、その扉を軽く2度叩く「コンコン」

返事はなかった。しばらく待って、もう一度叩いて見る「コンコン」

やはり、返事はなかった。

「留守なのか」一人つぶやく。

諦めきれず、念のためと思って扉の把手を回してみる。

「ガチャッ」鍵は掛けられていない。把手を回したまま、少年は扉をひいてみる。

「キィーッ」わずかな軋みをあげながら、扉は外へ開いた。

遠慮がちに玄関に入ると、そこには見覚えのある運動靴がおかれている。

部屋の奥に向かって、声を掛けてみる「綾波、いるの、僕だよ、碇シンジだよ」

だが、返事はなかった。「やはり留守なのか」とも思う。その場に佇むシンジ。

けれどもやがて意を決したように顔を上げる。

「あがらせてもらうよ」と、一声かけると靴を脱ぎ部屋の奥へと入っていった。



シンジは、奥へ入り窓際をみた。以前と同様にそこには簡素なベッドが置かれている。

レイはその上に横たわっていた。やはり彼女はここにいたのだ。

「綾波」と声をかけてベッドに近づく。しかしレイは目を開けない。よく眠っているようだ。

「綾・・・」もう一度声をかけようとしてシンジはためらう。

なぜならレイの白い寝顔は、できるならこのままずっと見続けたい、そう思わずにはいられぬほどの神秘的な美しさを湛えていたからだった。

その場に佇み、レイの寝顔を見続けるうち、シンジの胸の内に奇妙な思いがよぎる。

”綾波はこのまま目覚めない。いや既に死んでしまっているのではないか”という唐突な思いが・・


「綾波っ!!」シンジは大声をあげてレイの身体に飛びつく。 

次の瞬間、レイは目を開けた。シンジを見つめる神秘的な赤い瞳・・・「あっ」

レイの突然の目覚めに、驚きのあまり声のでないシンジ、レイの両肩を掴んだまま彼女の顔を見続けている。

『・・碇君』

「えっ」シンジは未だ混乱している。

『・・碇君、どいてくれる、私起きるから』


ようやくシンジは自分の両手がレイの細い両肩を抱いたままであることに気づく。

あわてて手を離すとベッドから離れた。そして顔中を真っ赤にしながら、いいわけを始めるのだった。

「ご、ごめんよ、あ、綾波に話したいことあって・・だから・・それで。ノックをしても返事がなかったから、鍵が開いていて・・声を掛けたんだけど、やはり返事がなかったから・・起こそうと思って、綾波の寝顔を見てたら・・急に、綾波がもう目覚めない・・そんな気がして。それで、その・・つまり」

しどろもどろになっていいわけを続けるシンジ。レイは身体を起こしてベッドの端に腰かけたまま床をみていたが、突然顔を上げると、シンジの顔を見つめて言った。

『私に何を話したいの?』

「うん、それは」レイに見つめられ口ごもるシンジ、話したいことは「あの夢」のことだ。けれどいざとなると、どう切り出したものか分からなくなっていた。

『・・碇君の話したい事って・・”夢”の事ね』

「えっ!」驚くシンジ。「綾波はどうして、僕の”夢”のことを・・知っているの? 」

『・・・分からないわ。でも・・私も夢を見ていたの・・碇君の』

レイはシンジの話したい事を言い当ててしまったことに自分でも少し驚いたように答えた。

釈然としない様子のシンジ。

佇むシンジを見て、レイが声を掛ける。

『・・碇君、・・ここへ座ったら?』自分の隣を指し示す。

「い、いいのかな」先ほどより更に顔を赤くしているシンジ

『かまわないわ』

「そ、それじゃお言葉に甘えて・・・」
シンジはレイの座っているベッドの端に腰掛ける。

なぜかその位置は、レイが示した位置よりも遠く離れていた。

そのまま黙ってしまうシンジ。

『・・碇君?』

「あ、あのさ・・綾波の見た夢って・・どんな?」シンジは自分の話したい事よりも、レイの夢の方が気になっていたのだった。


『碇君が、Eva初号機に乗った碇君が・・』なぜか言いよどむレイ。

「Evaに乗った僕がどうするの?」

『私を殺すの・・』

「ええっ!」驚愕の声を上げるシンジ。

『でも、私は死なないの、何度も何度も生き返って、そのたびに碇君に殺されるの』

「やめてくれよ!僕が、僕が、綾波を殺すわけないだろう!」立ち上がって叫ぶシンジ。

『・・碇君・・これは夢の話なのよ』興奮するシンジを無表情のままで見つめるレイ。

「そうだね、夢の話だったよね・・ごめん、ね、興奮してしまって・・」

落ち着きを取り戻し、元の場所に座り込むシンジ。

しかし、急に何かを思いだしたらしくそのまま黙り込んでしまう。


いま、シンジの心に在ったのは、あのセントラル・ドグマでの光景だった。

水槽の中を漂う、たくさんの”綾波たち”

シンジが「綾波なの」と声を掛けると、一斉にこちらを向いた”綾波たち”

赤木リツコによって一斉に壊される”綾波たち”

シンジは、自分が震えているのに気づく。震えを止めようとして両手で膝頭を押さえようとするが、全身の震えは止められない。


レイは、黙ったままシンジの様子を見ていたが、何かに思い当たったらしく下を向いてしまった。やがて顔をあげてシンジに話しかけた。

『・・碇君、あれを、”私たち”を見たのね』

レイの言葉にハッとするシンジ。しかしレイの顔を見ることは出来ずに、下を向いたまま小さくうなずくのがやっとだった。


『怖いのね私が。私が人間ではないから・・あれがある限り何度でも生き返ることが出来るのだから・・』

レイの言葉がとぎれる。

シンジはようやくレイの方を見た。そのとき赤い瞳からは、一すじの涙が・・・。

「・・綾波・・泣いているの?」

『私が・・泣いている?、私は泣けないわ、人間ではないもの』

いつのまにかシンジはレイの元へ駆け寄っていた。そしてレイを抱きしめた。


(どうしてこの人は私を抱いているの。でも、いやじゃない・・暖かい・・この感じ)


『・・碇君?』

「綾波は人間だよ。リツコさんがあれを、他の”綾波たち”を壊してしまったんだから」

『・・赤木博士が・・』

「そうさ、だからいまここにいる綾波がただ一人の綾波さ。僕にとってかけがいのないたった一人の・・・あのとき、綾波が僕を庇って自爆してしまったとき、僕は信じられなかった。綾波を犠牲にしてまで、自分に生き残る価値があるなんてどうしても思えなかった。綾波を守れなかった自分がどうしようもなく情けなかったんだ。綾波が生きていると聞いたとき、どんなに嬉しかったことか・・・だからもう自爆するようなまねは止めてよ・・いつまでも・・僕の・・僕のそばに・・いて・・よ・・」

最後の言葉は涙でとぎれしまっていた。


レイはシンジの言葉を聞きながら、自分の頬が涙で濡れているのに気がついた。

(わたしが泣いている!?)

しかしそれは「悲しみの涙」ではなかった。

レイは、いま初めて知ったのだ「人間が嬉しいときにも泣く」ということを。

『 ・・・ありがとう、碇君。』

レイもまた、シンジの背中に手を回し、シンジを抱きしめるのだった。

【現実は夢の続き】END


NEXT

ver.-1.10 1997- 04/08

ご意見・感想・誤字情報などは iihito@gol.comまで。


【作者の部屋】

作 者「はじめまして、作者です。今日は登場人物のお一人、碇シンジ君においで願って感想を伺うことにしました。先ずは読者のみなさんにご挨拶をお願いします」

シンジ「ど、どうも、こ、こんにちは。い、碇シンジです」

作 者「それだけ?」

シンジ「う、うん」

作 者「それじゃ、早速、これを読んだ感想をどうぞ」

シンジ「・・この話、ちょっと変じゃない?」

作 者「えっ、どういうところが・・・」

シンジ「だって、僕は他人と触れあうことが怖いんだよ。それなのに・・・いきなり・・あ、綾波に抱きついたりして・・そんなことある訳ないじゃないか」

作 者「君は変わりつつあるんだよ、カオル君と触れあったことによって」

シンジ「・・そ、そうなのかな?」

作 者「それに、きみのレイの対する想いは、異性としてそれではないんだ。君はレイに、母の面影を追っているんだ。だから素直にレイの胸に飛び込んでゆける・・・今のところは」

シンジ「母さんの面影?・・・え、今のところはてっ、どういう意味ですか」

作 者「ふっ、君だって、分かってるはずだろう・・アスカちゃんにはちゃんと**しちゃってるんだから」

シンジ「そっ、それとこれとは・・違う話じゃないですか!それにそんな**な話しにしちゃったら、このメゾンEVAから追い出されちゃいますよ」

作 者「そうなるかどうかはまだわからないよ。それに、君には、いやレイちゃんもだけど、まだ乗り越えなくちゃならない壁があるんだ。二人の意識を拘束している絶対の存在が・・・」

シンジ「それって・・・父さんのこと?」

作 者「そういうことだ。君やレイちゃんが真に結ばれるためには、君の父親の存在は排除せざるを得ない。」

シンジ「父さんを・・・排除?・・僕が、綾波と結ばれる?そんな話は絶対あり得ませんよ。大体、綾波は、僕の母さんの***、なんでしょ?それじゃまるっきり”オィディプス”じゃないですか!!」

レ イ「・・私は、あなたの母親じゃない・・」

作 者「あれ?いま窓の外を誰か通り過ぎて行ったようだね。とにかくすべては"未定”なんだ。僕は、レイちゃんが、最終的に幸福になってくれれば、それで良いんだから、その為には誰だって排除するよ・・・たとえ、それが君であってもね・・・」

シンジ「ぼ、僕、これで失礼します。さ、さよなら!!」

作 者「あれ、もっとゆっくりしていけばいいのに!?何か気に障るようなこと言ったかな?」


ゲストの方がお帰りになったので、現時刻を以て【作者の部屋】を閉鎖します。

ご静聴、誠にありがとうございました。

 ようこそ[綾波 光]さん! めぞんEVAへの第9の投稿者です!!

 今回発表された作品は、短編「現実は夢の続き」です。

 「本編のその後」の小説では大勢をしめるアスカxシンジものではなく、
 レイxシンジものですね!

 夢に苦しめられるシンジが会いに行ったのはミサトでもなく、アスカでもなく、
 レイの元だった・・・・。この「入り」に惹かれましたよ。

 レイの部屋で「何か」を感じたのはシンジだけではなく、レイもそうだった・・・・

 いいですね・・・・・。
 読後に心に残ります・・・・。

 読者の皆さん、貴方が感じたことを綾波さんに伝えて下さいね!!

 (大勢を占める、云々は、「私、神田@EVA館大家 の知っている範囲で」です。
  「そうじゃないぞ」という苦情は、綾波光さんではなく神田@EVA館大家 まで送って下さい))


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