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ねがい 第2話 その心は  


(遠くから声が聞こえる、私を呼ぶ声)
「・・・・・・・ス・・・カ・・・」
「ア・・・・・ス・・・カ」
「誰よ」
「僕?、僕は・・・・」
「シンジなの?」

 あたりには何もなかった。黒、というよりは闇としか表現しようのな いものに支配された世界。そこに、突然シンジの姿が浮かび上がった。 なんともいえない、やさしい微笑みを浮かべていた少年は、そのやさし い声でいつものように声をかける。

「アスカ」

(シンジ、そうシンジ。
 私のたった1人の幼なじみ。物心ついたときからずっと一緒。
 頼りなくて、鈍感で、女心のわかんない奴・・・。
 けど、やさしくて、いざという時・・・って何考えてんのよ!)

「ごめんね、アスカ」
「え?あれ?シンジ?待ってよ!」

 シンジは手を振りながら、遠ざかっていく。ちょうど走り去った車が 小さくなっていくように。アスカは、懸命にそれを追った。どれだけの 時間、走っただろう。距離が縮まる気配はない。さすがの彼女も息が切 れてきていた。その場に座り込みたい衝動にかられる。しかし、できな かった。今、彼を見失えばもう会えない気がしたから。そうなったとき この闇に耐える自信がなかったから。

「シンジ、待って!おいてかないで!シンジ・・・」

 自然と思いが声になっていた。これ以上ないくらい弱気な声で。その 目には涙があふれかえっている。

「シンジィ」

 もう一度だけ叫ぶ。もうそれ以上の力は残ってはいなかった。その場 に倒れ込んだ彼女を待っていたのは、もちろんシンジではなく金属的な 冷たさを持った地面だった。
(なにがそんなに悲しいの?なにがそんなに不安なの?
 こんなの私らしくないじゃない!
 なのに、涙が止まらない・・・・・・)

「シンジ」

 うめくようにつぶやく。それにこたえるように、シンジの声がした。

「どうしたの?アスカ。僕はずっとここにいたのに」

 アスカの心はそのひとこえでリセットされた。すべてに思考が意味を 失い、体の自由もきかなくなる。アスカは次の瞬間、シンジに飛びつい ていた。いや、正確にいうと飛びつこうとしていた。

「ごめん、アスカ。だめなんだ」

 アスカの胸は悲鳴を上げていた。内部から何かに突き破られるかのよ うな感覚に襲われる。
(いや、言わないで。もうやめて!)

「ごめん、アスカ」

 もう一度シンジが口を開くと、彼の右側にもう1人の陰が浮かび上が った。水色のショートカット。透けるような白い肌。赤みがかかった瞳。 シンジと腕を組んだ綾波レイも言う。

「ごめんね。アスカ」

 そして、2人の姿は消えた。
 残されたアスカには、考える能力は消えていた。目を大きく見開いた まま身動き1つできずにいる。不思議と涙はでなくなっていた。


 


 ぼんやりとした光が瞼をくすぐる。
 目を開けると独特な感じのする無機質な天井があった。蛍光灯が彼女 を見つめている。
 鼓動がはやい。今にも胸が張り裂けそうだ。
(夢・・・・だったのよね)
 思い出したように頬を左手でさする。手にはしっかりと涙の後が感じ とれた。
(夢・・・・よね)
 その確証を得られるほど確かなモノを彼女はもっていなかった。深く 考えようとすれば、気が狂いそうになるくらい胸が痛んだ。
(シンジ、か・・・)

 ふいに左手にあるカーテンが風に揺れて頬をくすぐった。
 アスカはゆっくりと自分のおかれている状態を認識しようと、物憂げ な目であたりを見渡す。
(ああ、保健室か・・・
 そういえば、私は何でここにいるんだっけ?
 確か、メールがきて・・・)

「!!」

 少しずつ、はっきりしていく感覚の中で右手になにか触れるモノがあ るのに気づいた。ベッドにつっぷして誰かが眠っている。しかも、アス カの手を握って。体に緊張が走った。反射的に手を離そうと、右手を引 っ張るがまったく離れない。よほどしっかりとつかまれているようで、 びくともしない。

「いい度胸ね・・・あなた。惣流アスカの寝床に忍び込むとは!」

 たたき起こしてやろうと左手を振り上げた瞬間、

「う、ん」

 彼は寝返りをうった。
 その見なれた顔を見て、再び、そして今度は別の理由でアスカの胸は 悲鳴を上げた。

(シンジ・・・・・)

 彼の右手はまだしっかりと彼女の手を握っている。
 汗ばんだ手を通してシンジの優しさが伝わってくる。

「ありがと」

 普段は頼りないたった1人の幼なじみに小声でつぶやくと、その顔を じっとみつめた。

 いろんな思いが次々と駆けめぐる。
 寝込むたびにこうして看病してくれたシンジのこと
 いつも真剣に心配してくれたシンジのこと
 かけがえのない幼なじみシンジのこと
 2人の関係のこと
 そして、さっきの夢のこと
 レイのこと
 
 今日、3度目の胸の悲鳴にアスカはもう耐えられなかった。それが、 自然な行為であるかのようにシンジに顔を寄せる。彼の薄い唇まであと 10センチ、5センチ・・・・。

 コクッ
 
 自然と生唾を飲み込んでしまう。
 (シンジ)
 心で強く呼びかける。叫ぶ。
 しかし、寸前で動きが止まった。
(・・・・・なんだか、まぶたがぴくぴくしてるわね)

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・シンジ?あんた起きてたの?」

 アスカの顔色は一変していた。

「・・・・う・・・・・・」
「バカシンジ!!!」

 パン!
 綺麗な形の紅葉がシンジの顔に浮かび上がる。

「いつから、起きてたのよ!」
「そ、その、あの、手、引っ張られたときから」

 アスカの顔がますます朱にそまる。もう、首まで真っ赤になってい る。湯気でもでそうな勢いだ。

「なんで、目を開けないのよ!」
「だって、手握ってたから怒られると思って」
「あんたバカァ?そんなんで怒るわけないでしょ!」
「いつも怒るじゃないか〜」
「ねぇ・・・・まさか・・・・見てた?」
「何を?」
「わかんなきゃいいのよ」
「なんだよ。今日はそればっかり」
「ふん、あんたが悪いんでしょ!」
「ご、ごめん」
「謝ればいいってもんじゃないわよ!あんたはいつもね〜・・・・」

 アスカの小言はつきることを知らなかったが、シンジはニコニコして 聞いていた。

「よかった。元気になったみたいだね」
「な、な」

 思いもかけない笑顔にアスカは完全に狼狽してしまった。しかし、そ れと同時にさっきの夢も思い出した。そうあの笑顔、あの微笑みのその 後・・・。
 あの思いが胸によみがえる。もう、平静ではいられない。
 次の瞬間、シンジに抱きついていた。夢の時のようにシンジは逃げな
かった。

「ちょ、ちょっとアスカ?」
「・・・許してあげるから、このままでいて」
「・・・泣いてるの?」
「・・・・怖い夢を見たの」

 ここちよい風が窓から流れ込んでくる。
 いつしか、アスカはふたたび眠りに落ちていた。
 今度は、しあわせな眠りに・・・。


次回に続く

ver.-1.00 1997-3/21

ご意見・感想・誤字情報などは ps017969@kic.ritsumei.ac.jpまでお送り下さい!



 これで、まず序章が終わりです。
 「あんたバカァ?」をどうしても使ってみたかったんで、いれてみた
んですけど、変ではなかったでしょうか?

 神田@めぞんEVA

  ああぁ・・・アスカちゃん可愛いなぁぁぁ・・

 シンジが自分以外の女の子と手を取りあって去っていく・・・
 アスカにとってはこれ以上ない悪夢なんでしょうね。

  そして、目覚めた時に側にいたシンジにキスしようとしてしまう・・・
  かわいい!!!


 でもこれ、ただの夢なんでしょうか?

 パソコンの画面に流れた謎のメッセージ・・・・・謎が残ります。

    早く続きが読みたい!!


 皆さんも[たつ]さんに催促のメールを出して下さい!


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