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ねがい 第3話 決戦前夜 A-part



 月が校舎の側面を照らすと、校舎の先端部にキラリと光るモノがあっ た。なんのことはない、時計だ。
 現代的な無機質な校舎には不似合いなアンティークな時計。
 一昔前まではどの学校にも見られた長針と短針によって時間を刻む古 典的な時計。どこか不思議な輝きを持つ黒い短針は10の数字を指して いた。普通なら夜中というには早すぎる時間だが、学校ということなら 話は別だ。もう人がいていいような時間ではない。事実、人の存在を感 じさせるモノは何一つなかった。
 いつものように営みが繰り返される。

「本日は夜間使用が許可されていません。これより施錠を開始します」

 用務員の声ではない。もちろん宿直の先生もいない。その機械的な声 はなおも続ける。

「A棟の生体反応・・・・ナシ。A棟の施錠完了。続いてB棟。」

 ここは、私立第3新東京大学系列の学校がならびたつ広大な空間。間 違いなく、世界最高峰のセキュリティーシステムがそこにはあった。そ の根元をなす、スーパーコンピューター「MAGI」。日本屈指のマン モス大学とその附属校とはいえ、なぜただの学校にこれほどまでの警備 がなされているのか?誰もが疑問に思うところであろう。その答は1 つ。
 実験である。

 「MAGI」を開発したのは、第3新東京大学の第2学部の面々で あった。もちろんその背後には、企業の思惑とその天文学的数字の援助 金があったことはいうまでもないことだろうが。
 そのバックアップ企業の中心が、総合企業「NERV」であり、その 会長(もっともその影響力から司令と呼ばれていたが)で、第3新東京 大学系列の総理事長こそがシンジの父親「碇ゲンドウ」その人であるの だが、それはまた別の話(笑)
 ともかく「MAGI」は、まったく何の変哲もないこの学校の維持、 運営をなす頭脳として試験運用されていた。厳密にいうと、ある学年に 重点を置いて。
 ある学年とはもちろんシンジ達の世代のことだ。彼らの学年のすべて は、「MAGI」の判断にゆだねられていた。カリキュラム、行事の実 施、クラス編成から席替えにいたるまで最終決定は、「MAGI」にイ ンプットされた膨大な情報量から彼、いや、彼女、いや、彼女たちが判 断していたのだ。いい忘れていたが、「MAGI」は3体のスパーコン ピューターによる複合システムで成り立っている。もちろん、試験段階 であるので、まだ状態は完全とはいかない。メンテナンスも必要だし、 臨機応変で人間が判断しなければいけないこともまだ多い。そして、何 より最初の目的、「MAGI」の完成のためのデータが必要だった。そ のために、開発スタッフと首脳陣が考えた作戦、いや総司令碇ゲンドウ が出した結論はどこまでも、正論でなおかつふざけたものだった。

 「スタッフが教師として被験者、第3新東京大学附属中学校2014
  年度入学者のそばに勤め、データを取ること」

 このとんでもない案に、スタッフ達はこの先、5年もふりまわされる
ことになったのである。


国語教師および重点クラス2−A担任 葛城 ミサト  第2学部生
化学教師              伊吹 マヤ   第2学部生
数学教師              青葉 シゲル  第2学部生
コンピュータ技術教師        日向 マコト  第2学部生
体育教師              加持 リョウジ 第2学部生
保健教師              赤木 リツコ  第2学部生
校長および現場指揮         冬月 コウゾウ 第2学部教授


 より自由で創造的な開発という名目で集まった開発スタッフだったの が幸いした。それぞれが違った分野の教師になることができたからだ。 こうして、彼らの災難でかつ楽しいもう一つの生活が始まった。


「今年も学園祭なのね」
「そうね」

 ミサトは今、保健室にいた。
 保健室といってもただの保健室ではない。ここから「MAGI」のす べてをチェックできるように改造が施されている。声の主のうちの1人 赤木リツコは、このところほぼ1日中この部屋でモニターに向かってい た。学園祭のように生徒の心理、身体両面に大きな影響がみられるイベ ントは「MAGI」の判断力、人間的な勘の実験にはあまりにも重宝す るものだったからだ。もっともそれだけでもなかったのだが・・・。

「どう?MAGIは。最近、大きなトラブルもないみたいだけど」
「そうね。先週、休み返上でデータの再入力を行ったかいがあったみた  いね。ただ・・・」
「ただ?」
「いいえ、なんでもないの」

 もう1人の声の主、葛城ミサトはその返答にたいして問いつめるよう なことはなかった。学園祭が近いということもあって担任である彼女は 大忙しだった。つまり、気にならないというよりも気にすることもでき なかったわけだ。

「ミサト、こんなところで油うってていいの?あなたのクラスも準備遅 れてるんでしょ?」
「へいへい、わかったわよ」
「もちろん今日も夜間宿泊が認められるから。生徒が1人でも残るなら  あなたも泊まるのよ」
「あ〜〜、もう。わかってるわよ。私だってこの学校出身なんだから」
「そうだったわね」
「じゃ、そろそろ行くわ。コーヒーありがとね」

 そういって、ミサトは保健室をでた。
 そのあとに1人残されたリツコは机の上のモニターを見つめ続けてい た。だが、その眉間にかすかにしわが寄っていたことに気づく者はまだ なかった。

 妙に胸がどきどきする。何年たってもこの学校の学園祭はこの気分を 忘れさせないでいる。自らも体験した感動が今年も繰り返されるのだ。 今年は自分が教師として、かわいい生徒たちが味わうのを見守ることに なる。
(不思議なモノね・・・・)
 この学校にとって学園祭は一大イベントだ。並の大学顔負けのスケー ルで開催される。もっとも附属高校との合同だが。それでもすべての面 において他の学校を圧倒していることにかわりはない。演劇、発表、模 擬店、その質、量ともにもうしぶんない。しかし、もっともすごいのは そのすべてを生徒が自主的に企画、運営していることだろう。そのぶん 準備はなまはんかではない。まさに1年かけて準備をする。そのクライ マックスが近づいていた。
(もう、明日か・・・前日のこの緊張がたまんないのよねん)
 ミサトはここ数日、生徒につきあって学校に泊まり込んでいた。もち ろん学園祭の準備のために。とはいっても教室で雑魚寝というわけでは ない。学校のなかに完全な宿泊施設があり、ベッドにも風呂にもありつ けていた。もっとも睡眠不足だけはどうしようもなかったが。
(それも今日で最後なのよ!)
 高ぶる気持ちをおさえきれず、自然と声が興奮気味になる。

「お〜〜い、ちゃんとやってる?」

 教室の扉を開けると満面の笑顔でそう叫んだ。

次回に続く

ver.-1.00 1997-3/25

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 [たつ]さんの「ねがい」第3話Aパート公開です!

 スーパーコンピューター「MAGI」。
 ミサトさん達の本当の仕事。

 設定が明かされると共に、謎の一端が見えてきましたね。
 リツコさん画賛が頭を悩ます「MAGI」のトラブル(?)って・・・・
 あの、第1話の−−−−ですよね?

 ああ早く続きが読みたい! 謎を知りたい!


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 ・・・・・・・・学園祭では「らぶらぶ」があるのかな?


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