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 ひゅっ・・・どかっ

 ひゅっ・・・どかっ

      ダガー

 投摘された短剣が風を切る音、そして古ぼけた漆喰の壁に突き刺さる

音が狭い部屋の中にひびく。

「うまいもんじゃないか」

「まあな」

 あまり嬉しそうでもなく、黒髪の男は賞賛の声に応えた。

「ところで、壁に傷を付けないでくれんかね?」

「何を今さら」

 苦笑を浮かべてこの部屋の主をまぜっかえした男は、黒髪の男と対し

て変わらない年なのに全ての髪から色素が抜け落ちていた。

「この部屋に傷の付いていない所なんて有るのかい?」

 それでも黒髪の男は練習を中止し、ダガーを回収する。

 左手の黒鉄づくりの腕甲の拳をはずし、がらんどうの前腕部の内側に

しつらえた鞘に一本一本しまいこむ。

 そう、それは義手だった。

 漆黒に近い深紫色の鋼でこしらえた義手は、中味が付け根から失われ

ているにもかかわらず、かなり自在に動くようだ。

「それより、今回の依頼人はまだ来ないのかな?」

 やや青みがかかった白髪の、ひょっとしたら少年と言えるかもしれな

い年頃の男は、この部屋の主である一見商人風の男に尋ねた。

「確かに、遅いな」

 男も不承不承にうなずいた。

「ま、エルフに時間厳守なんて言うだけ無駄ってもんさ。

 それより、そっちも一人足りないみてえじゃねえか」




 足りない一人、シンジはいつものように酒場で一弦琴を爪弾いていた。

 一弦琴は元々弓から発生した楽器で、この樹の三島に昔から伝わる吟

遊詩人の商売道具だった。

 吟遊詩人には娼婦や男娼を兼ねていることが多い。

 しかもシンジの少女じみた(モデルは不思議の海のナディアだとか・

・・)美貌はそういった誤解を招く元になっている。

 だから最近は表の仕事でも仮面を付けることが多くなった。

 顔の上半分と顎を覆う、化鳥の仮面だ。

 その仮面の下で、彼の視線は酒場の一点に釘付けになっていた。

(ど、どうしてアスカがここに?)

 その視線の先には、シンジ以上に美しい、しかも活気に満ちたアール

ヴの少女(アールヴェン)のまぶしいような笑顔だった。



チルドレン イン アフタージェネシス



 第一幕  妖精と 狼と 戦乙女と

Aパート


 昔々、神族と仙族と魔族、巨人と小人、妖精と闇妖精、炎の民と雪の

民と山の民、そして死者と生者が入り乱れて争った大いなる戦があった。

 世界の創造のおりの戦いや「外なる世界を閉ざす者」の狂宴にも匹敵

する衝撃が世界を揺るがし、幾多の陸が沈み、幾多の海が干上がった。

 その戦はその当事者によって「超越の法の裁き」と呼ばれたが、後世

においては「サード・インパクト」と呼ばれた。

 後世において。

 そう、世界は滅びなかった。

 炎の民の王、「黒」は「閉ざす者」が鍛えし邪剣「害なす魔の杖」の

力をもって世界を焼き尽くした。

 だが、生命は滅びなかった。

 混血や変異をくり返していくつもの異形の者を産み出しながらも、や

がて世界がその傷跡を癒した時、人類もまた安定をむかえた。

 器を失った力ある者どもの霊力は、やはり人類と同じように混じり合

い、分離し、新たな相へと移り変わっていった。

 滅んだ世界の残骸で、命はしぶとく生き延びつづける。

その世界のことを、そこに住む者達はこう呼んだ。

 終わってしまった世界、即ちアフタージェネシスと。





世界の東の果てにはいくつかの島々があった。

     ツリースリー ジョイ アッシュ ティア

 その島々、樹の三島 、遊の島、 灰の島、涙の島、そして人が踏み

入ることを許されぬ5個の島を舞台に4人の勇者が繰り広げる冒険の旅。



 シンジはこの樹の三島で好んで語られる物語を歌っていた。

 この歌なら、たとえ上の空でも間違わずに歌うことができる。

 仮面の下の目だけを動かしアスカの方を見ると、同じテーブルに座っ

た連れ・・・そばかすに三つ編みのおさげ、胸には「金色の林檎」の刺

繍、まだ見習い中の身であることを示す青銅の額冠を付けた女司祭(プ

リーステス)・・・との話しに夢中になっているようだ。

 この距離で、しかも酒場の雑踏の中では、ましてハルプメンシュ(半

人間)の聴力では何を話しているか聞き取ることはできない。

(きっと「なによ、白玉楼の物語なんて月並なもの演ってるわねえ」と

か言ってるんだろうな)

 仮面の下のシンジの素顔は、柔らかな、けれどどこかせつなげな苦笑

を浮かべていた。

 もう会うことはできない。 

 罪にまみれたこの手で、彼女に触れるわけにはいかない。



 その一月前。



 彼は暗闇に包まれた森の奥に潜んでいた。

「白狼、黒狼が戻って来たみたいだ」

「わかったよ、青狼。それにしても、こんなにあっさり気付かれて・・

・大丈夫なのかな?」

 不満気な口ぶりで白狼はつぶやく。

 確かに青狼の聴力を差し引いても、義足を着けた黒狼の野伏としての

能力はあまり高いものではない。

「戻りだからだよ、きっと」

 だから油断してるんじゃないかな?

 白狼は思わず苦笑していた。

「やさしいね、青狼は」

「君達ほどじゃ、ないさ」

 恥じらうようにうつむいて青狼はやり返した。

 白狼の笑顔がこわばる。

「そんな事はないさ・・・・僕らこそ君を利用している」

「違うよ! 何を言うのさ!」

「違いはしないさ、少なくとも客観的に見てね」

「カヲル君! 僕は・・・・・」

「白狼だよ、今は。大声を出さないでくれないか、青狼」 

「ご、ごめん・・・・」

 気まずい沈黙が漂う。

それは新米のハンターキラー、黒狼が帰って来るまで続いた。

「もう少し静かにできないかい? 獲物が逃げてしまうだろう?」

開口一番に叱りつける白狼。

 彼の言う「獲物」が何なのかを思い、黒狼は思いきり顔をしかめる。

「すまんな。せやけど大丈夫や、あいつらは山の反対側やさかいに」

「思ったより遅いね・・・それで?」

 黒狼はすぐには答えなかった。

 青狼は質問が曖昧すぎたかと思い、語を接ぐ。

「数は?」

「ああ・・・依頼人の言った通りや。レッドヘッドドッグの連中から一

人抜けて4人。それにあの二人・・・ルーノーと例のボンボン」

 ハンターキラーの「獲物」は人類だ。

 冒険者と呼ばれる職業でもかなり特殊な部類に属する、いわゆる汚れ

仕事。

 トレジャーハンター、バウンティハンター、モンスターハンター、隊

商の護衛、失せ物探し、悪霊ばらいエトセトラエトセトラ・・・

 彼等の多くは一穫千金や名誉、古代の遺跡から得られる魔法の宝物や

知識、スリル、つらく単調な日常からの逃避を求めた連中である。

 元騎士や兵隊崩れ(または兵役を終えた兵隊上がり)、傭兵や盗賊や

魔術師、事に最近多いのが狩人や農民・・・

 その中には、守るべき荷物を持ち逃げしたり、依頼を放棄して金だけ

持って逃げ出したりする者も後を断たない。

 最近では村の近くに住み着いているモンスターを勝手に殺し、金と歓

待を要求する暴力団まがいの連中もいる。

 そういった連中を放置していたのでは当然冒険者の信用は失墜し、仕

事も来なくなり、あげくに無頼の徒として成敗される恐れさえある。

 だから「冒険者の酒場」と通称される口入れ屋では腕の立つ冒険者に

依頼し、彼等を追跡させる。

 ほとんどの場合は金さえ取り戻せば良いため、無理やりに連れ戻し、

口入れ屋が立て替えた金の分だけ仕事に従事させる。

 そういった場合、名の知れた冒険者の一団、あるいは複数のパーティ

ーに依頼が回される。

 だが、時には生け捕りではなく抹殺が求められる。

 そういった仕事には、いくら金を釣り上げてもなかなか成り手がいな

い。

 まれに腕が立ち、なおかつ友人でありライバルである仲間を殺して平

然としておれる輩もいるが、そういった連中は長生きしない。

 恨みを買い闇討ちされる、と言うケースも有るが、往々にして仕事で

かち合った連中と戦い、返り討ちに合うのだ。

 いくら増長しても所詮多少腕が立つ程度。

 ラッキーヒットやファンブルが冒険者同士ではよく起こると言う迷信

には根拠はないが、否定し切れる者は、特にベテランほどいなかった。

「神様達が非道な輩を許さないんだ」

 そんな風に言う者もいる。

 それゆえに腕に自信があるものが、それも少なくとも表向きは嫌々な

がら引き受けるので、自然と依頼料が高くついた。

 だから樹の三島の一つ、アルハのラッハと言う町でハンターキラーと

言う特殊な職業が作られた。

 そこそこ腕が立ち、事情があって大金を必要とする冒険者を殺し屋に

仕立てる。

 腕は口入れ屋が持ちよったアイテムで補う。

 メンバーの入れ替わりはかなり激しかったが、作戦はある程度功を奏

し、この忌まわしい裏の制度は今なお存続していた。





「・・・心ここに有らずだね、黒狼。美人でも見つけたのかい?」

「まあな・・・」

「え?」

「・・・かなわんわ・・・あの子らを殺す羽目になるなんてな・・・」



 そういうことかと青狼は納得する。

 ルーノーと呼ばれる「金色の林檎」教団の司祭は町でも評判の良い、

気立ての良いアールヴェンだった。

 そして半年前に片手方足を失った黒狼がかつぎこまれたのも「金色の

林檎」の神殿ではなかったか?

「しかたがないさ。彼等は依頼人を裏切ったんだ、どんな事情があった

にせよね」

「せやけど、あの兄ちゃんは誘拐やいうてたけど、駆け落ちやろ? ホ

ンマの所は」

「しかたがないさ・・・」

 不意の発言に、二人の視線が青狼に集まった。

「アールヴと人間が幸せになれるはずは、無いんだ・・・」

 彼自身がハーフアールヴなだけに、その言葉を否定する言葉を黒狼は

持たなかった。

「・・・行こうか、夜のうちに片を付けたいからね」




「・・・来たよ、白狼」

 青狼の目が闇の中を見透かし、6人程の人類が松明を持って歩いてい

るのを確認する。

「あと10分位だね」

「よし・・・配置についてくれ、二人とも」

 そう言って自らも崖下の道に向かって降りてゆく。

「黒狼は、どうするのさ」

「わからん・・・ワシの手足の為にあの子を殺すなんて・・・」

そう、黒狼は金によってではなく、古代の秘法を用いた義手義足を餌

にされ、ハンターキラーになったのだ。

基本的に善人である彼は、その誘惑に乗ったことを後悔し始めている

ようだった。

「なら、好きにするさ・・・」

 そう言うと呪文を唱える。

「アフラレェーンシュメ・・・・」

 呪文を唱え、左手で印を切る青狼、その背後に光の粒子が集まりはじ

める。

 やがてそれは人の形をとる。

 その細い腕と翼で青狼の体を包むように実体化したのは、戦士の守護

霊ヴァルキリー。

「なぁ・・・お前らは何でこの仕事を?」

不意に黒狼の方から逆に聞き返してくる。

「・・・白狼には妹がいる。・・・・彼女のためさ。・・・・金が要る

んだ、僕達はね」

 青狼は地面に突き立ててあった、穂先の波打ったトライデントを取っ

た。

「”prthg’gdxjgshgshy’」

 崖下に滑り降りてゆく間際に青狼がヴァルキリーに向けた言葉はアー

ルヴの言語で放たれた。

 だから黒狼にはその意味を理解することができなかった。

 もしできていたら、彼はきっと嫌悪の表情を浮かべていただろう。

 それはこういう意味だった。



「行こう、母さん」




NEXT
ver.-1.00 1998+06/08公開
感想随時受付中t2phage@freemail.catnip.ne.jp


連載第二弾はファンタジーです。
ソードワールドをモデルにして創った世界で繰り広げられるチルドレン達の冒険の物語。
とりあえず、パーティーを結成するまでを夏休みまでに書き上げたいなー、と思っていますが、さてどうなりますか・・・・・
さて、ここで宣言しておきます。
この話は

LAS

です。
はたして僕に書けるかどうか・・・・・
いや、やるしかないんだ、やるしか!

ちょっとテンションが高くなってる03;プリーチャー拝









 03;プリーチャーさんの『チルドレン イン アフタージェネシス』第一幕Aパート、公開です。




 おお、シリアスだね〜


 でも「LAS」ってなっているから・・・


 あっと、

 LAS=ラブコメ ではないですよね。


 シリアスのままなのかな♪






 私は今、
 色々と03;プリーチャー世界の言葉が出てきていていて混乱気味だけど、

 ベースとなっている「ソードワールド」は一応知っているから・・
 設定も分かり易いかな?!



 さあ、訪問者の皆さん、
 新連載の03;プリーチャーさんに感想メールを送りましょう!



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