西暦2000年、南極
「非常事態発生、非常事態発生。
総員防御服着用。
第2層以下の作業員は、至急セントラルドグマ上部へ避難してください。」
アナウンスが響きわたる。
「表面の発光を止めろっ!
予定限界値を超えている!」
「アダムにダイブした遺伝子は、既に物理的融合を果たしていますっ!」
「ATフィールドが…全て開放されていきますっ!」
「槍だっ!
槍を引き戻せ!!」
「だめだっ!
磁場が保てない!」
「沈んでいくぞ!!」
「わずかでもいい、被害を最小限に食い止めろ!」
「構成原子のクウォーク単位で分解だ!
急げっ!!」
「ガフの扉が開くと同時に熱減却処理を開始!」
「凄い…歩き始めた…。」
「地上からも歩行を確認!」
「コンマ一秒でもいい!
ヤツ自身にアンチATフィールドに干渉可能なエネルギーを絞り出させるんだっ!」
「すでに変換システムがセットされています!」
「カウントダウン、進行中!」
「S2機関と起爆装置がリンクされています!
解除不能!!」
「ハネを広げている!
地上に出るぞっ!!」
この状況を一言で言い表すならば…惨劇とでも言えばいいのだろうか?
最早この氷の大陸はこの世ならざる所だった。
既に気絶している14歳のミサトを、男が救助カプセルに横たわらせる。
気が付くミサト。
「…お父さ」
父はレバーを引き、わが娘の言いかけた言葉を聞き終えぬうちにカプセルのハッチを閉じる。
そして一瞬の後、閃光があたりを包んだ。
どれくらい時間が経ったのだろうか?
ミサトはハッチを開け、南極があったであろう方向を見る。
そには、4枚のハネが天に向かって伸びていた。
西暦2015年、夕方
突然、雷鳴が轟いた。
今日は夕方に出頭すればいいミサトは、今着替えている。
起きぬけとは思えないほど真剣な表情。
ミサトは姿見の前に立ってブラをつける。
その豊かな胸の中心には、大きな痕があった。
ミサトにとって、この傷は忘れられない…いや、忘れてはならない傷なのである。
いや、むしろ己に打ち込まれた楔…と言ってもいいかもしれない。
ちょうどこの頃、シンジ達も帰ってきていた。
トウジとケンスケも一緒だ。
「すまんなあシンジ。
雨宿りさせてもうて。」
「別にいいよ。」
二人にタオルを渡し、コーヒーを淹れるために湯を沸かす。
「今日、ミサトさんは?」
「さあ?
そのうち晩御飯たかりに来るんじゃないかな?」
「ふ〜ん。
…って、ミサトさんって綾波達と一緒に住んでるんだよな?」
「うん、そうだけど?」
「…せやのにわざわざ男の料理食いに来るんか?
何で自分とこで作らへんのや?」
「う〜ん、何でだろ?」
三人して首を捻る。
(以前レイは料理できると言ってたよな…?
もしかして、感化されてきてる?)
「あ〜、もうっ!
下着までずぶ濡れじゃない!」
「う〜、早くシャワー浴びないと風邪ひいちゃうよぉ…。」
外から少女の声が聞こえる。
火にかけてあった水がお湯に変わる頃、ドアが開いた。
「シンちゃ〜ん、ちょっと借りるね♪」
「あ、うん。」
入ってきたレイがバスルームを借りる旨を告げると、火を止めながらシンジはそれを了承する。
あまりにも自然な会話。
故に流されそうになるが、漢の友情で結ばれた彼らが聞き逃すはずも無く…。
「シ〜ン〜ジ〜…。」
「これはどういうことや…。」
音も無くシンジの背後に立った二人が尋問モードに入る。
「いつものように、一緒に入る?」
それを見たレイがいつものように混ぜっ返し…。
「「一度おまえとはゆっくり話し合う必要がありそうだ(や)な…。」」
「はは…は。」
そしていつものようにシンジは乾いた笑みを浮かべるのであった。
何とか二人の追及を逃れて、淹れたてのコーヒーを二人に渡す。
「はい。」
「おお、すまんなあ。シンジ。」
「持つべき者は友達だな。」
(絶対嘘だ…。)
コーヒーを啜る二人を横目に見ながらシンジはそう思った。
しばらくして、ミサトとペンペンを抱いたアスカが部屋に入ってきた。
「ただいま。」
シンジが挨拶をする。
「あ、お帰りなさい。」
「お、お邪魔しとります。」
「あら、いらっしゃい。」
営業スマイルのミサト。
「レイは?
来てるはずよね?」
「まだバスルームだよ。
アスカも飲む?」
「うん。」
「ならレイの分もいるか聞いてきてよ。
その間にお湯沸かすから。」
「は〜い。」
テテテッと足音を残してバスルームのほうに消えるアスカ。
「ミサトさんも飲みます?」
「ありがと。
でも、今はいいわ。
もう行かなきゃいけないから。
今夜はハーモニクスのテストがあるから遅れないようにね。」
「はい。」
「アスカとレイも、いいわね?」
「「は〜い。」」
脱衣所のほうから二人の声がする。
ケンスケはミサトの襟章をまじまじと見て、
「ああ〜!」
と、叫び声を上げたかと思うと、いきなりミサトに頭を下げた。
「こ、この度はご昇進おめでとうございます!」
トウジも訳も解らずそれに習う。
「おめでとうございます。」
「ありがと。
じゃ、行ってくるわね。」
「いってらっしゃい。」
トウジとケンスケはわざわざ玄関まで見送りをする。
アスカも出てきたので、コーヒーを渡す。
「ほい。」
「ありがとう。
レイも欲しいって。
それより…ねえ、ミサトの奴、どうしたの?」
「昇進したらしいよ。
一尉から三佐だっけ?」
「へえ。
…知らなかった。」
「おいおい…マジに言うとんけ?
惣流。」
トウジとケンスケがリビングに戻ってきた。
「君達には人を思いやる気持ちがないのだろうか?
あの歳で中学生二人を預かるなんて大変なことだぞ。」
「ケンスケ、ワシらだけやな。
人の心をもっとるのは。」
そこに明日タオルで髪を拭きながらレイが出てくる。
勿論着替えている。
「人の心をもってるならあんな商売しないわよねぇ…。」
ギクッとなる二人。
「そう、それよ。
その事であんた達に話があったんだわ。」
「「な、何の事や(かな)?」」
「「ふ〜ん、しらばっくれるのね?」」
脂汗をタリタリ流しながらとぼける二人と微笑を浮かべる二人。
沈黙。
その後、逃亡を図る男二人。
それを巧みに追い詰める女二人。
(むぅ、恐ろしい…。)
その寸劇(注:惨劇ではない)を見ながらシンジはそう思った。
しかし、ズボンの裾を引っ張られる感触で思考は中断する。
「ん?
オマエも飲みたいのか?」
「クァ。」
ネルフ
今日もハーモニクスのテストが行われている。
「0番、2番汚染区域ギリギリです。」
「1番にはまだ余裕があるわね。
あと0.3下げてみて。」
「はい。」
緩やかに沈むシンジのシミュレーションプラグ。
「汚染区域、ギリギリです。」
「それでこの数値。
たいしたものね。」
「初めての実戦でいきなりシンクロ率89.7%。
それからも徐々にですがにシンクロ率もハーモニクスも上がってますからね。」
「これを才能というのかしら?」
「でも先輩、あの子達にとってテストする意味あるんでしょうか?」
「…ないと思うわ。
でも、建前上やっておかないといけないのよ。」
(そもそも私達がここにいる意味なんてあるのかしらね。)
ミサトは一人そんな事を思っていた。
やがて、テストは終了。
三人のチルドレンはミサト達の所にやってきた。
「三人ともお疲れさま。
シンジ君、よくやったわ。」
「なにがです?」
「ハーモニクスがまた伸びてるわ。大した数字よ。」
「そうですか。」
「流石ね。」
「ホント。」
アスカとレイの素直な感想。
「そういわれても…ねぇ…。
あ、この後約束がありますのでお先に失礼します。」
(それに、どの道そんな物必要なくなるし…。)
そう言ってシンジは早々に部屋を出ていった。
帰り
ミサトの車の中。
アスカが助手席にレイが後部座席に座っている。
今日のミサトは普通に運転しているようだ。
「昇進おめでとう。
よかったわね。」
「ありがと。
でも、あんまりうれしくないのよね。」
「どうしてですか?」
「…なんとなく。」
「な〜によそれ。
さっきのシンジといい、あんたといい、もうちょっと素直に喜んでもいいんじゃない?
張り合いが無いわねぇ。」
呆れたように言うアスカ。
「そんなモンかな…?」
「そんなモンよ。」
「そうですよ。」
「…そうかもね………。」
その頃、ネルフ
司令室の扉をくぐる無精髭の男。
「こんな時間に呼び出しとは、何かありましたか?」
「いや、今日はキミに部下を一人与えようと思ってな。」
ポーズを崩さず言う加持とそれに答える冬月。
「とは言われましても、十分な数の部下は与えられていますが?」
「表向きには…な。」
「…やはり、そう言うことですか。」
「…そうだ。
ただし、条件がある。」
それまでの沈黙を破り、ゲンドウが答える。
「日本政府とゼーレ、その両方と手を切る事が条件です。
その見返りとしてアナタの求めている真実、全てお答えしますよ…加持さん。」
突然背後に現れたシンジの気配に、内心冷や汗をたらしながら加持は振り向いた。
翌日、夜
ミサトの家のリビング。
このために3時間ほど掃除したのは内緒だ。
そこで、昇進おめでとう祝賀会が開かれていた。
参加者はこの家の住人と隣の住人そして、トウジ、ケンスケ、ヒカリ。
ミサトは『祝! 三佐昇進!』と書かれたタスキをかけている。
…しかし、何でこのようなものがあるのだろうか?
「おめでとう!」
一同は一斉にミサトを祝福した。
笑顔でミサトは礼を言う。
ちなみにシンジとレイは台所で調理している。
「わざわざありがとね、鈴原君。」
「ちゃいます。
言い出しっぺはこいつですねん。」
と、ケンスケを親指で指す。
すると、ケンスケは立ち上がって、
「そう、企画立案はこの相田ケンスケ、相田ケンスケです!」
と、宣言した。
となると、やはりあのタスキはケンスケが作ったのだろうか?
「ありがとう、相田君。」
「いえいえ、当然のことです。」
シンジとレイが料理を運んでくる。
「冷めない内にどうぞ。」
「うっわ〜。
凄い…。」
ヒカリが思わず声を上げる。
「まだまだあるわよ〜。」
続いてレイも料理を持ってくる。
「せやけど、なんでイインチョがここにおるんや?」
「わたしが誘ったのよ。」
「「ねぇ〜〜。」」
声をそろえるアスカとヒカリ。
「もう、加持さん遅いわねぇ。」
「あれ?
加持さんも来るの?」
「うん。
あと、リツコもくるんじゃない?」
「そっか。」
「そんなにかっこいいの?
加持さんて人。」
ヒカリも興味津々である。
「そりゃあもう!
ここにいるイモの塊とは月とスッポン。
比べるだけ加持さんに申し訳ないわ。
ま、シンジは別だけど。」
「なんやて!?」
口喧嘩を始めるトウジとアスカ。
ヒカリとケンスケもそれに参戦する。
ミサトは珍しく静かに飲んでおり、シンジはその横で意外そうにしている。
「…どうしたの?
なんかあったの?」
「別に…いろいろ考えなくちゃならない事多くて。
それにしても…ミサトさんあまり嬉しく無さそうですね。
昇進したのに、嬉しく無いんですか?」
「全然、嬉しく無いって事は無いのよ。
でも、それがここにいる目的じゃないから。
…それに、ここにいる意味もわかんなくなってきちゃったし…ね。」
「そうですか。
深くは聞きませんけど。」
「あら…。
絶対聞かれると思ってたけど。」
「…と、言うより今は他人の事考えてる余裕が無いというか…。
まぁ、そんなとこです。」
ピンポーン
「来た!」
喜々としてアスカが立ち上がる。
しかし、加持と一緒に入ってくるリツコを見てイヤそうな顔をする。
「本部から直なんでね。
そこで一緒になったんだ。」
「「怪しいわね。」」
アスカとミサトの声がはもる。
「あら、ヤキモチ?」
「そんなわけないでしょ。」
「いや、この度はおめでとうございます。
葛城三佐。」
大げさにお辞儀をする加持と、少し頭を下げるリツコ。
しかしそれも束の間、すぐに元の態度に戻った。
「これからはタメ口聞けなくなったな。」
「何言ってんのよ。
バァ〜〜カ。」
「しかし、司令と副司令がそろって日本を離れるなんて前例の無かった事だ。
これも留守を任せた葛城を信頼してるってことさ。」
相変わらず何か考え込んだまま、シンジは立ち上がる。
「ゆっくりしていってくださいね。加持さん、リツコさん。」
「なんや、どこいくんや。シンジ。」
「ん………トウジ、ちょっと。」
「ん?
なんや、ここではあかんのか?」
「…頼む。」
「…ああ。」
一瞬だけ真剣な表情で二人は視線を交差させる。
「あら。
いいのヒカリ?
取られちゃうわよ?」
「な、何言ってるのよ!?」
シンジとトウジは静かに出て行く後ろではレイとヒカリの声が聞こえた。
マンションの屋上
「月が綺麗だな。」
「…そんな話をしに来たんじゃないんでしょう?」
トウジが煙草に火をつけながら言う。
「おいおい…今は僕達は中学生なんだぞ?」
「…あ、そうでしたね。
なら、これで問題ないでしょう?」
そう言ったトウジは20歳前後の姿になっていた。
「ま…ね。
なら、僕も飲むか。」
シンジも同じく20歳前後の姿になるとどこからか缶ビールを取り出す。
よくみればこの二人、以前公園にいた二人だ。
「いいんですか? ミサトさんにばれますよ?」
「1本くらいいいさ。」
紫煙が虚空に消えていく。
しばらく二人は夜景を眺めていた。
やがて、トウジが切り出した。
「わざわざ外で飲むために来たんですか?」
「…この間の話、父さんに通しておいた。
キミは加持さんの部下という事になる。
さっき一緒にいたから解るよね?」
「はい。
しかし、自分で提案しておいてなんですが…よく通りましたね?」
「はは…、まァね。
これがカード。」
「はい…って、これチルドレン登録してあるじゃないですか?」
「うん。
まだキミが舞台に上がるのは先だけど、一応ね。」
「しかし…アレには家族の魂がインスト−ルしてあるはずでは?」
「うん。
その件に関しては何とかする。
アムちゃんの魂をインストールするわけにもいかないしね。」
「知ってらしたんですか?」
「うん…君達兄妹も色々あったからね…。」
二人は無言で夜の街を眺めていた…。
翌日、ネルフ──
「ええ〜っ!! 手で受け止める〜〜〜っ!?」
「そうよ。」
叫ぶアスカと冷静なミサト。
サハクィエルが発見されたのである。
使徒はATフィールドを衛生軌道上から落下させ、攻撃するタイプであった。
そして、ここには本体ごと落下してくると予測されている。
サハクィエルは恐ろしく巨大であると知らされているため、アスカが抗議の声を上げたわけである。
「落下予測地点にエヴァを配置。
ATフィールド最大で使徒をあなたたちが直接手で受け止めるのよ。」
「もし、使徒が落下予測地点を大きく外れたら?」
「その時はアウト。」
「機体が衝撃に耐えられなかったら?」
「その時もアウトね。」
「勝算は?」
「神のみぞ知る、と言ったところかしら?」
「これでうまくいったら、まさに奇跡ね。」
もはやアスカは呆れ顔である。
「奇跡ってのは起こしてこそ、初めて価値が出るものよ…って、天使であるあなた達に言ってもしょうがないか。」
「つまり、なんとかして見せろってことですか?」
「すまないけど他に方法がないの。 この作戦は。」
「方法ならありますよ。」
「「「え?」」」
ミサト、アスカ、レイの視線がシンジに集まる。
「聞きましょう。」
「これは私達にしか出来ないんですが…サハクィエルよりさらに上部より攻撃を加えます。
今までの戦闘からEVAサイズでないと使徒の注意は引けません。
つまり、人間サイズならまるきり無視です。」
「そういえば…そうね。」
「そこで人間サイズのまま攻撃、衛星軌道上でケリをつけます。
万全を期すならば、ミサトさんの提案したように一応フォローとしてEVAの配置をしておいたほうがいいですけど。」
シンジが言う。
「…そうね。」
アスカが賛同し、レイも小さく首を縦に振る。
「それはいいんだけど、誰が衛星軌道まで行くの?」
「ワシが行きますわ。」
「…来たね。」
「鈴原君?」
「この感じ…もしかして、アンタ…ウリエル?」
「ああ…今まで黙っててすまなかったな、ミカエル、ガブリエル。」
「…ま、ウリウリなら大丈夫だよね。」
「その呼び方やめいっ!」
第一発令所
「使徒による電波攪乱のため、目標及びフォースをロスト。」
マヤが報告する。
「正確な位置の測定ができないけど、ロスト直前までのデータからMAGIの予測した落下位置が、これよ。」
モニターに地図が写り、落下予測地点を示す赤色が地図の約9割を占めている。
「こんなに範囲が広いの!?」
「…ふぇ〜。」
「目標のATフィールドをもってすれば、このどこに落ちても本部を根こそぎえぐることができるわ。」
リツコは淡々と説明する。
「ですから、エヴァ三機をこれら三カ所に配置します。」
それぞれの配置が表示される。
「この配置の根拠は?」
レイが聞く。
「勘よ。」
「勘!?」
アスカが声を上げる。
「そうよ。 女の勘。」
「なんたるアバウト! ますます奇跡ってのが遠くなっていくイメージね。」
「ま、しかたないさ。
ウリエルがやってくれる事を祈ろう。」
ケイジに向かうエレベーター
「「ルシフェル様。」」
「何かな?」
「何で鈴原がウリエルだって事を私達に黙ってたんですか?」
「そうです。」
「…色々と動いてもらってたんだよ。
それに、アムちゃんとの平和な時間を束の間でも過ごさせてやりたかったしね…。」
「アムちゃんまでこっちに来てるんですか?
それに色々って…?」
「ま、アムちゃんは目覚めてないけどね。
そのうち本人を交えて話し合おう。
光体の開放の時期とか…ね。」
「はい。」
「わかりました。」
第一発令所
「みんなも待避して。ここはわたし一人でいいから。」
ミサトが日向達に言う。
「いえ、これも仕事ですから。」
青葉が元気よく答える。
「子供達だけ危ない目にあわせられないっスよ。」
日向も言う。
「あの子たちは大丈夫。
もしエヴァが大破しても、ATフィールドがあの子たちを守ってくれるわ。
エヴァの中が一番安全なのよ。
…それに、生身での天使の力と言うのも見てみたいしね。」
初号機、エントリープラグ内
シンジは先ほどの会話を思い出していた。
「でも、どうやって衛星軌道まで上がるのよ?」
「おいおい、オレが何の為にここに来たと思ってるんだ?
別にお前達に再会の挨拶をしに来たわけじゃないんだぜ?」
「え?
そうじゃなかったの?」
「天然な所は相変わらずだな、ガブ。」
「うっさいわね!」
「よろしいですね、ルシフェル様?」
「しょうがないね。
いいけど、大気圏外でね?」
「解りました。」
「ねぇ、大気圏外って…もしかして…?」
「アレしかないじゃない…。
でもいいの? アンタとサハクィエルは…。」
「いいんだ。
これも約束だしな…。」
「そう…。」
「それでもいくらか地上に損害が出るだろうなァ…?」
『その時のためのフォローでもあるんでしょう?』
「ま…ね。」
『あの姿になったらウリウリは歯止めがきかなくなりますからね…。』
(君達も人の事言えないけどね…。)
衛星軌道上
眼下にサハクィエルが見える。
そしてサハクィエルを見下ろしているのは、3対6枚の翼を展開したトウジだった。
「さて、始めますか。」
トウジは20歳前後の姿になると何か呟く。
すると、徐々に瞳と髪の色が金色に変わっていく。
そして金色に染まりきった時、背中の翼は帯電したかのようにすさまじいエネルギーが行き場を求めていた。
「フゥゥゥゥゥゥ…まったく、手間ァかけさせやがって…。
しかし何だ? この悪趣味な姿はよ…。」
そう呟いた時トウジ以外誰もいないはずの場所に声が響いた。
(やかましいわっ、オレだって好きでこんな姿になったわけじゃねぇっ!)
「な、なんだぁ?!
…もしかして、サハクィエル、お前か?」
(あたりまえだっ、他に誰がいるってんだよ?)
「てめェ…自我があるんなら何でこんなことしやがるっ!」
(オレだってやりたくてやってるんじゃねぇ!
と言うよりは自我はあるが体は思い通りに動かんのだ。)
「何だそのざまは?
お前ホントにルシフェル様直属か?」
(…それについては反論の仕様が無いな。
でもいいのか、そろそろ落ちるみたいだぞ?)
「って、お前人事みたいに…。
ま、いいや遺言があるなら聞いてやるぜ?」
(そうだな…先ずルシフェル様に『鍵』はレリエルが持っていると伝えてくれ。)
「ああ。」
(…彼女らには喧嘩もほどほどにしとけって言っとけ。)
「わかった。」
(そして…お前に殺られるなら本望だよ、ウリエル。)
「ああ、そうかよ…。
しかし本当にあの約束を果たす日がくるとはな…。」
(ああ…そうだな………。
スパっとやってくれ。
これ以上お前達の前で恥をさらしたくない。)
「………多少痛いかも知れんがガマンしろよ?」
(痛いのは嫌だな…。)
「贅沢言うんじゃねぇ。
………じゃあな。」
(………ああ、さよならだ。)
お互い別れの言葉を告げた後、臨界に達していたトウジの翼からおびただしい数の流星がサハクィエルに向けて降り注ぐ。
数十秒後、サハクィエルはこの世から消滅していた。
「…あばよ、戦友………。」
第一発令所
「電波システム回復。南極の碇司令とフォースから通信が入っています。」
「先に碇指令の方をお繋ぎして。」
「はい。」
『SOUND ONLY』と書かれた画面がミサトの前に現れる。
「報告します。
使徒はフォースにより殲滅、EVA3機とも無傷です。」
『うむ、よくやった。
ご苦労だったな。』
『ああ、よくやってくれた。 葛城三佐。』
「いえ、この作戦を立案したのはサードチルドレンです。
私は何も…。」
『いや、影ながらのキミの配慮があってこそ損害が最小に抑えられた。』
『我々もただ執務室に篭っている訳ではないのだよ?』
「…恐れ入ります。」
『では、葛城三佐。
後の処理はまかせる。』
「はい。」
数時間後、街が見下ろせる丘
「…そうか、ご苦労だったね。」
「…いえ。」
「飲みに行こうか?
今日は付き合うよ。」
「いいんですか?
ま、この格好ですからその辺は問題ないんですけどね。
彼女達のほうのフォローは?」
「今日はとことん付き合ってやれと言われてね。
問題ないよ。」
「…そうですか。」
二人の青年は紫煙と共に夜の街に脚を向けて降りていった。
後書き
真に勝手ではありますが、この話を持って創作活動を無期限の休止とさせて頂きます。
段々と創作意欲が消えていった事が第一の原因ですが、
色々と個人的な事情もありそうする事にしました。
ただ気が向けばどこかのHPに投稿するかもしれませんが、皆さんお元気で。