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 置時計が時を刻む音。

 微かに外から聞こえる虫の声。

 そして二人の鼓動。

 僅かに洩れる息遣い。

 灯に照らされたベッドの上で、二人はただ口を重ね合わせていた。

 互いに腕を相手の背中に回して、何者からも引き離されないような姿だった。

 少女の目尻からは溢れるそれは、水晶の欠片が滴り落ちているように見えた。

 その涙が何を意味するのか、それを知るには少年はまだ若すぎた。

 二人は今、互いだけしか目に入らなかった。

 同情や兄弟愛や責任感では片づけられない契りで、二人は結ばれていた。

 一つに重なりあうその姿は、ギリシャ彫刻のような神秘さを醸し出していた。

 今、歯車は急速に回転し始めた。

















 Both Wings



第七話 The Night.





















 アスカが泣いている。

 何を思っているんだろうか。

 でも背中の腕を、離そうとしない。

 嫌、じゃないみたい。

 なんだろう、この気持ち。

 アスカは妹なのに。

 なのに。

 アスカが可愛い。

 アスカが愛しい。

 アスカが欲しい。

 そうだ。

 この高ぶる気持ちは、僕の心が反応しているんだ。

 僕の獣の血が騒いでいるんだ。

 僕の雄の血が命じているんだ。

 犯せ。

 得ろ。

 求めろ。

 アスカハ、チノツナガラナイイモウト。

 だから。

 抱いても、大丈夫。

 それが、僕の本心なのか。

 アスカを、妹としてみるのか、女としてみるのか。

 そんなに簡単に見方を変えられるのか。




 いつからだろう。

 女の子を見る時アスカを基準とし始めたのは。

 アスカの方が可愛い。

 アスカの方がスタイルがいい。

 アスカの方が優しい。

 アスカの方が頭がいい。

 アスカの方が話しやすい。

 etc.......

 綾波も、洞木さんも、霧島も、母さんも、誰よりもアスカが可愛い。

 そう思い始めたのはいつからなんだろう。

 僕はアスカが好き、なんだ。

 妹として。

 人として。

 同級生として。

 ・・・女として。

 偽れない気持ち。

 僕は。

 アスカが。

 好きなんだ。

 そして、僕の中で何かが弾け飛び、獣性が鎌首を持ち上げた。




 抱き寄せたままベッドに横になる。

 アスカは抵抗しない。

 左手でアスカの頭を、右手で背中を抱きしめる。

 キスが濃厚なものになっていく。

 どちらからともなく舌を絡めあう。

 口の中を愛撫する。

 舌の裏側。

 歯茎。

 唇の隙間から洩れる声はどっちのものだろうか。

 アスカの頬を二人の溢れた涎が伝っていく。

 止まらない。

 薄く目を開くと、アスカの紅潮した頬と、ぼんやりとした瞳が視線に入る。

 愛しさが止まらない。

 僕の中の雄が、さらに加速していくのがわかる。

 淫らな音が部屋に響く。

 一瞬でも離れたら相手がどこかへ行ってしまうよう気がして、片時も唇は離れなかった。

 止まらない。

 気がつくと、右手がアスカの胸をまさぐっていた。

 互いの呼吸が荒くなっていくのがわかる。

 加速していく。

 止まらない。

 加速していく。

 止められない。

 加速していく。

 止めたくない。

 だめ、だ。

 このまま、最後まで。

 ・・・アスカ。




 何だ、この音。

 うるさいな。

 叩く音。

 壁?

 いや、・・・ドアだ。

 誰か来た。

 「碇君。碇君、アスカ大丈夫?」

 ドアの向こうから綾波の声がする。

 あんなことの後じゃ無理もない。

 様子を見に来たみたいだった。

 僕はドアのそばまで行って応えた。

 「大丈夫。もう大分落ち着いたから。今日は僕が面倒見るから、部屋変わってね」

 平静を装える自分が不思議だった。

 なぜ開けないのか疑問に思っているかもしれないが、綾波に今のアスカは見せられなかった。

 しばらくドア越しに沈黙が横切ぎる。  そして、それじゃおやすみ、と言って綾波が立ち去る気配がした。




 急に立ち上がったせいか頭がぼんやりする。

 振り返ってアスカの所へ戻っていく。

 アスカはベッドの上で横たわったまま、こちらを伺っているようだった。

 水を差された感じ。

 でもこれで良かったのだと思う。

 あのままだったら最後までいっていただろう。

 そうしたら今後どういう顔して

 「シンジ!」

 思考が中断されアスカを見やると、泣きそうな顔で僕を見ていた。

 「額」

 そう呟くとアスカは僕の額を指さした。

 手をその場所にやると、紅がべっとりと指に着いた。

 今まで気がつかなかったが、部屋に入ったときにぶつけられた電話による傷みたいだった。

 アスカがベッドから降りて、転がっていたバッグの中からタオルを掴むと洗面所に駆け込んでいった。

 凄い勢いで迸る水の音が聞こえてきた。

 硬く絞られたタオルを手にアスカが戻ってくる。

 震える手で僕の傷をそっと拭き始めた。

 「ごめんね」

 僕は微かに頭を振った。

 「ごめんね」

 アスカが泣き始めていたが、その手は休めなかった。

 「消毒薬とか、持ってない?」

 今度はアスカが頭を振る。

 「アタシは持ってきてないけど、・・・ヒカリが持ってきているかも」

 そう言うとアスカは洞木さんのバッグをあさり始めた。

 額を濡れタオルで押さえていると、アスカが何やら取り出してベッドの上に転がした。

 「滲みるよ」

 凄い滲みた。




 最後にバンドエイドを貼り終えると、アスカは薬を片づけ始めた。

 「本当に先生に見てもらわなくて大丈夫?」

 あまり大丈夫でないようだったが、今のアスカに余計な刺激は与えたくなかった。

 「アスカが直してくれたから大丈夫だよ」

 そう言うと僕はアスカの手を取って引き寄せた。

 また互いに抱きしめあう。

 数週の沈黙の後、僕は口を開いた。

 「・・・アスカが好き」

 僅かにアスカの腕に力がこもったようだった。

 「知ってるわよそんなこと」

 思わずアスカの顔を見つめた。

 「アタシだってシンジが好き。・・・きっとずっと前から。兄妹だからって関係ないの」

 そしてアスカの眼からまた涙が溢れてきた。

 「最近アスカよく泣くよね」

 こんなときどうして僕は笑えるのだろう。

 ちょっとアスカがむくれていた。

 「シンジ以外の前じゃ泣かないわよ」

 大粒の涙が溢れだした。

 「綺麗」

 不思議そうな表情でアスカが僕を見つめる。

 「女の子の涙って宝石みたい。だから、綺麗だなって。大切に、したくなる」

 見る見るうちにアスカの顔が紅潮していく。

 きっと僕も同じなんだろうけど。

 「もっと言って」

 泣き笑いの顔をしてアスカが求めてくる。

 「愛してる。今までは妹として、・・・これからは女として」

 アスカが大口を開けて笑い始めた。

 この女。

 「ごめんね。嬉しいんだけど。シンジアンタ幾つ?中三の吐くセリフじゃないわよ」

 笑うアスカを見ていたら、むっとしていた僕も何だか可笑しくなって、一緒に笑い始めた。

 ひとしきり笑った後、アスカが最高の笑顔で言った。

 「アタシも愛してる。男として」

 アスカはそう囁くように言うと、ついばむようなキスをしてきた。




 その後は二人で夜更かしをした。

 他愛のない小さな頃の話をしながら。

 一個だけつけた灯の下で、昔話をした。

 一つのベッドに横たわり、抱きあいながら。

 しっかりと手を握りあいながら。

 お互いを支え合うように。

 僕らは二人で一人だった。

 鳥の翼のように。

 


つづく
ver.-1.00 1998+10/27 公開
感想・質問・誤字情報などは こちらまで!



 第七話”The Night.”をお届けしました。

 いやいや、どうなることかと思いました。

 18禁モードに突っ走っちゃうのかなって、止まらない止められない。

 危なかった。

 15禁くらいはあるかも。

 取り敢えず、心を確かめあった二人。

 これで終わりのような今回の結末ですが、話はまだ続きます。

 アスカの過去のこととか、今後の展開もまだまだ波乱含みですから。<--悪党

 銀英伝がかなり元になっていますねと、最近よく言われます。

 その通りです。

 Titleからしてあれですから。

 アスカの過去も某元帥閣下のストーリーを元にしていますし。

 この話元が幾つかあります。

 銀英伝、みゆき、サードガール、etc.....。

 どの部分がどれからかおわかりになりますでしょうか。

 色々ちりばめています。

 最初は全然意識していなかったんですけど、無意識って怖いですね。

 それでは今回はこの辺で。

 また。

 あ、次回題名考えていなかった。

 第八話”After the Storm”でお会いしましょう。<--やっつけ


 感想くださった方大感謝です。

 返信率300%です。

 力になります。

 アドレナリンぶんぶんです。

 参考になります。

 勇気づけられます。

 またお願いします。

 じゃ。





 ZEROさんの『Both Wings』第七話、公開です。





 おっと、
 ギリギリ一歩手前でストップ。

 もうチョイで
 一気に行っちゃう所でした。


    行っても、それはそれでいいけれど(爆)


 行かさなかった、
 ナイスなバッドなタイミングの綾波ちゃん。


 ナイスなのかバッドなのか、
 ・・・むむむむ、難しいところだぁぁ



 でも

 もう、気持ちは一つ。
 こりはこりは・・・


 でもでも、

 まだまだいっぱいありそうで−−
 こりはこりはこりは・・・



 目が離せない!
  マジにマジに。




 さあ、訪問者の皆さん。
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