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「くるみぱんってさ……なんだかお日様みたいだよね」

 

シンジが笑ってそう言った。

 

「でも……どうして、くるみぱんが好きなの?」

 

そう言ったあたしに答えて。

 

「なによそれ……答えてないじゃない」

 

でも、シンジったら、ただ笑うだけだった。

 

 

くるみぱん

 

 

 

 

「ね、ねぇ、アスカ。来週の月曜日、暇かな?」

 

なんでもない、学校からの帰り道。

不意にシンジがそう言ったの。

 

見ると、顔を真っ赤にして……ひょ、ひょっとして、これって……!?

デートのお誘いってやつぅ!?

 

「来週の月曜って……そっか、春休みなんだ?」

 

内心の動揺をよそに、なんでもない風を装って、あたしは答える。

 

「うん……もし良かったらなんだけど」

 

もし良かったらなんて……ぜんぜんオッケー!

でも……素直にそんな事言えないのよね……

 

「うーん……とくに予定はないけど……どこ行くの?」

 

やっぱり言っちゃった……

ちがうの!そんなこと言いたいんじゃないの!

ぜんぜんオッケーなの!

 

「海、見に行こうと思って」

「うーん……」

 

早くオッケーって言うのよ、アスカ!

なに迷ってるフリしてるのよ!?

 

「嫌ならいいんだけど……」

 

少し悲しそうな表情のシンジ。

い、嫌なわけないでしょ!?

 

「わ、わかったわよ。アンタがそこまで言うんだったら、一緒に行ってあげるわよ」

 

ああーんもぉ、なんで素直に……

 

「ほ、ほんとう?」

 

満面の笑みを浮かべて喜ぶシンジ。

 

……ま、結果オーライッ、かな?

 

「あたしが嘘つくわけないでしょ?もぉ、そんなに喜ばないでよ」

 

苦笑しつつ、答えるあたし。

でも、あたしだって、本当は緩む頬を押えるのに苦労している。

 

「だってさ……でもよかった。ダメって言われたら、どうしようかと思ってたんだ……」

「アンタバカァ?あたしが断るわけないじゃない!」

「えっ?」

 

あたしの言葉に反応するシンジ。

な、なんでこんな時だけ聞いてんのよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまぁ!ママ、ママァ!」

 

家に帰ったあたしは、すぐさまキッチンにいるママのところへと向かった。

 

「どうしたの?アスカちゃん?」

 

夕食の準備をしていたママが驚いて、こちらを見ている。

 

そりゃそうよね……帰ってくるなり、ママ、ママァ!だもんね……

 

「シンジ君が告白でもしてくれた?」

 

 

ずべしゃぁ!

 

 

盛大にずっこける。

 

痛っつつ……おもいっきし、机の角で打ったじゃない……

 

「な、なんでそうなるのよ!?」

「だって……アスカちゃん、嬉しそうだったし……春休みももうすぐだから、シンジ君にデートに誘われでもしたかなって」

 

……鋭いわね。さすがあたしのママだわ……

 

「ま、まぁ、そうなんだけど……」

 

あたしはうつむきつつ、笑みが浮かぶののを必死でこらえながら口を開く。

ダメ、こらえきれない……

 

「えっ!?ホントにそうなの!?やったじゃない、アスカ!」

「う、うん……まぁ、あいつがどうしてもっていうから……しかたなく……ね」

「まぁた、この子は……無理しちゃって!」

 

ママが、あたしのおでこをツン、とつつく。

 

「へへっ」

「で、どうしたのよ?帰ってくるなりキッチンに来るなんて……ママに報告したかったわけじゃないでしょ?」

「うん……実はね……」

 

それからあたしは、シンジとピクニックに行くことをママに話したの。

 

「そっか……それで……」

「ねぇ、ママ?今から練習して、間に合うかな?」

「うーん……難しいところだけど……アスカちゃんの頑張り次第でしょ?」

 

そう言って、ママはにっこり笑ったの。

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……いいお天気っ」

 

バスに乗って、三十分。

あたしとシンジは海の見える丘に来ていた。

 

ほんとは、海にまで行けたら良かったんだけど、日帰りじゃあ無理ってことで、あきらめてこの丘にしたの。

 

うーん……それにしてもほんとにいい天気……

 

あたしは、おもいっきり伸びをして、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。

 

青い空!

 

白い雲!

 

そして……

 

足元を歩いていく、ペンギン!

 

……?

 

な、なに?今の……?

 

「どうしたの?アスカ?」

 

あたしが立ち止まっている間に、少し前に出たシンジが振り返った。

 

「う、ううん。なんでもない……」

 

き、気のせいよね……

 

「あ。あっちにベンチがあるよ」

 

シンジがそう言って、歩き出した。

 

ちょうど海と、下界の景色を見渡せる位置にそのベンチは置いてあった。

 

「きれい……」

 

あたしは思わず呟いた。

 

……だって、ホントにきれいだったんだもん。

 

しばらく無言のままで、二人で海を見てた。

 

でも、嫌な沈黙じゃなかった。

 

優しい風が頬を撫でていく……

 

「ね、ねぇ、アスカ?」

 

しばらくして、シンジがこっちを向いたの。

 

「なに?」

「その……ううん。なんでもない……」

 

真っ赤になって、うつむくシンジ。

 

……ひょっとして、このシュチュエーションは!?

 

「な、なによ……気になるじゃない?」

「な、なんでもないんだ、ほんとに……」

 

やっぱり……ちゃーんす!

 

「言いなさいよ?途中で止めるなんて、気になるじゃない」

「いや、そのホントに、なんでもないんだ……」

「言いなさいってば!」

「なんでもないんだったら!」

「なんでもないわけなでしょ!?バカシンジ!」

「なんだよ!ほんとになんでもないって言ってるじゃないか!」

「なによ!」

「なんだよ!」

 

顔と顔を突き合わせてにらみ合う。

 

……ぐぅ

 

「……」

「……」

 

鳴ったのは……あたしのお腹。

もぉ、なんてタイミングで……

 

「ね、ねぇ、アスカ。お腹空かない?」

 

急にそっぽを向いて言うシンジ。

 

「そ、そうね……時間も時間だし、そろそろおべんと、食べよっか」

 

あたしはそう言って、ベンチの下においてあった、ランチボックスを取り出したの。

 

「うわぁー、美味しそうだね」

 

ふたを開けると、シンジがそう言った。

 

「あのね……シンジ……」

「ン?」

 

嬉しそうに、中を覗き込んでいたシンジがこっちを向いた。

 

「じつはこれ……ママに作ってもらったの……」

「えっ?そうなの?」

「一生懸命、練習したんだけど……結局うまくいかなくて……」

 

あの日。シンジがあたしを誘ってくれた、あの日から、ずっと練習してきた。

 

でも、うまくいかなかった。

 

ううん。料理の腕はかなり上がったの。

 

でも……今日に限って、失敗して……

 

あ、やだ……思い出したら、涙が……

 

「アスカ……その指……」

 

シンジが、涙をぬぐっていたあたしの手を取った。

 

あっちこっちに火傷や切り傷の跡がある。

 

「ゴメン……」

「何であんたがあやまんのよ……」

「…………」

 

シンジは黙って、あたしの手を握り締めていた。

 

「と、とりあえず、食べようよ?ね?」

 

なんだか照れくさくて、横を向いてそう言った。

 

「そ、そうだね」

 

あたし達は、やっとのことで、ランチボックスの征服にとりかかったの。

 

今日のメニューは、フライ系の揚げ物に、ボイルした野菜。そして……

 

「あ、そうそう。これだけは、あたしが焼いたんだ……」

 

あたしはそう言って、くるみぱんを取り出したの。

 

「へぇ……」

 

嬉しそうに、それを受け取るシンジ。

 

「でも……どうしてくるみぱんなの?」

 

「前にさ、シンジ、くるみぱんが好きだって言ったじゃない?」

「えっ?言ったかな?」

「言ったよ?」

「そっか……アスカに言ったんだ……くるみぱんが好きなこと……」

 

なんだか不思議な顔してうなづくシンジ。

 

「なによそれ……」

「はは」

「でも……どうして、くるみぱんが好きなの?」

 

「くるみぱんってさ……なんだかお日様みたいだよね」

 

シンジが笑ってそう言った。

 

「なによそれ……答えてないじゃない」

 

でも、シンジったら、ただ笑うだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

春休みが終わって、新学期。

 

あたしはいつものように学校に行く支度をしていたの。

 

「あ、そうそう。シンジの奴、また寝坊してんのかしら……起こしに行かないと……」

「……アスカ。ちょっといい?」

 

ママが少し真剣な顔であたしを呼び止めたの。

 

「なに?ママ」

「シンジ君を起こしに行かなくてもいいわ」

「?どうして?」

「シンジ君から口止めされてたから、今日まで言わなかったんだけど……シンジ君の家ね、昨日、引っ越したの」

「えっ?」

 

あたしは手に持っていたプラシを落っことした。

 

「じょ、冗談……よね?」

「…………」

 

ママの沈黙が、あたしにそれが真実だと告げていた。

 

「どうして?」

「お父さんの仕事の都合でね」

「どこへ?」

「確か……第三新東京市に」

「どうして、黙って……」

「言うと……別れが辛くなるからって……」

 

あたしは、キッチンを飛び出した。

 

ママが呼んでいる声が聞こえたけど、そのまま靴を履いて、玄関を飛び出す。

 

どうして、なにも言わないでいっちゃったのよ!?

 

必死になって、シンジの家への道を走る。

 

あたしにだって、言いたいこと一杯あったのに!

 

息が切れてきたけど、そんなの関係ない。

 

この角を曲がって、この路地を抜けて……

 

あれから、もっと料理も練習したのに

今度行く時は、絶対にあたしが作ったの食べさせてあげるって……

 

最後の角を抜けて、ほら、そこに……

 

そこにあったのは……

 

一件の空き家だった。

 

柱の碇の表札が掛かっていた場所が少し白くなっている。

 

「あんた……ほんとにバカよ……」

 

シンジの家の前で、あたしは座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、今までの記憶は……」

 

ママが、ネルフの赤木博士に詰め寄った。

 

「チルドレンとして、必要のない記憶、邪魔になると判断されるものに関しては、消させて頂きます」

 

クリアファイルに挟まれた、書類に目を向けつつ、彼女が言った。

 

「……ごめんね、キョウコ。私にもこれが最良の手だとは思わない。でも……」

「でも、それじゃあ」

「いいの。ママ。あたし、それでいいの」

「……ホントにいいの?アスカ?」

「いいの……」

「では、今日からあなたは、惣流・アスカ・ラングレーとなるのよ。アメリカ国籍のドイツ人、十四歳で大学を卒業……」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、シンジ。今から、買い物に行くんだけど、荷物持ちしてよ」

 

あたしは、リビングでテレビを見ていたシンジに声を掛けた。

 

今日は、エヴァのテストもなくって、一日暇。

 

こんな日に、ゴロゴロしてるのって、もったいないじゃない?

 

だから、かねてよりの計画……まぁ、ヒカリがたててくれたんだけど……を実行したの。

 

内心、ドッキドキものだったけど……

 

「えっ?あ、うん……いいけど……」

 

あっさりとオッケー。

 

「そ。じゃあ、早く、支度して、支度!」

 

あたしは、突き飛ばすようにして、シンジを着替えさせたの。

 

 

 

「わぁ、これ可愛い」

 

シンジを連れての、ウインドーショッピング。

なんだか、見るもの全部が良く見えて、楽しくなってくる。

 

「うーん……どれにしようか迷うわね……」

「どれでも、いいんじゃない?」

「なによ?ひとが真剣に選んでるのに!」

「だって……どれを着ても、アスカなら似合うと思うから……」

「……バカ」

 

 

 

「ねぇ、パン買って帰ろうよ。明日の朝ご飯に」

「あ、いいね」

 

あたしとシンジは、パン屋さんに入ったの。

 

「シンジって、くるみぱんが好きなのよね……」

「えっ?どうして知ってるの?アスカに言ったっけ?」

「言ったよ?昔……」

 

 

 

くるみぱんが好きなんだ。

 

お日様みたいだから。

 

お日様みたいな人が……好きだから。

 

 

 

 





ver.-1.00 1998+12/25 公開
感想・質問・誤字情報などは こちら まで!


 

ども(^−^)影技です

 

いやはや……寒くなってきまして……

 

こんな日は、パァーッとSSでも書いて……って、なんか、間違っているような……

 

ま、まぁ、とりあえず、「くるみぱん」をお届けしました(^−^)

 

ちなみに、分かる方には解って頂けるかと思いますが、某ミヤムーのくるみぱんを聞いていて、思いつくままに書いてしまいました(^−^;

 

うーん……いいのか!?そんな安易な発想で!?





 影技さんの『くるみぱん』、公開です。





 なるほど、なるほど、
 そういう設定もあるんだぁ(^^)


 学園から、
 本編世界へ・・・


 なるる〜



 ”くるみぱん”で繋がる記憶・世界・・・


 なるるるる♪



 でも、
 何があっても、
 結局、

 この二人はこういう感じになるんだね(^^)/


 わ〜〜いっ



 さあ、訪問者のみなさん。
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