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 その日はバレンタイン・デーだった………………










バレンタイン・デーの悲劇






 その日、綾波レイは、他2名のチルドレンとは別メニューで、ネルフで朝からテストと検査を受けていた。

 予定にあったものではない。
 昨日、赤木リツコから突然言い渡されたモノだ。
 もう一つの別の情報と共に、これを言い渡した時のリツコは、レイの目に酷く疲れているように見えた。

「まったく、司令ときたら………」
 ぶつぶつ言いながら立ち去るリツコを、レイは無表情で見送っていた。



 それでレイは今朝からネルフに居るわけだが、どうにもいつもと様子が違う。
 朝から、どこに居ても、誰かの視線を感じる。
 四六時中監視付きの生活を送っているのだから、視線を感じるのはある意味当然かも知れないが、諜報部の人間ならば、被観察者に視線を感じさせるようなヘマはすまい。

 とにかく、その視線は本来そういうことに無頓着なはずの綾波レイに、気にさせるほど強烈なモノであった。
 にも関わらず、視線の主が解らない。常に背後からの視線を感じるのだが、振り向くと誰もいない。
 レイの表情にイラ付きが見える………それは非常に珍しいことではあった。



 今日の日程は終了し、もう帰るだけである。
 にも関わらず、未だ視線の主は知れない。
 果たして、視線の主は誰なのか………
 妙にネチネチとした、イヤらしい、強い執着を感じさせる視線……そういえば、そんな視線を放つ人物に一人だけ心当たりがある。

 もしかして、あの人物だろうか?

 ちょうど、今も背後からの強烈な視線を感じる。ならば……

「碇司令?」
 レイはそう叫ぶと、後ろを振り向いた。
 そこには、急に名前を呼ばれて硬直している碇ゲンドウが居た。

「や、やあ、レイ……」
「…………何か用ですか?」
 ぎこちなく応じるゲンドウに、冷ややかな視線を返すレイ。
 どうやら視線の主は碇ゲンドウだったらしい。

「い、いや、用と言うほどのものではないのだが……」
「そうですか。なら失礼します」
「ま、待て、レイ!!」
「………………何でしょう?」
 レイは心持ち焦っていた。実はこの後、大事な用事があるのだ。
 そんなレイを知ってか知らずか、ゲンドウは一つ咳払いをすると、重々しくレイに尋ねた。
「ところで……レイ。何か忘れてはいないかね?」
「………………?」
「ほら、何か大事なモノを忘れているだろう?」
 何のコトかレイには解らない。

 まず考えてみる。心当たりはない。
 次に手帳を開いてみる。幾つかのメモ書きがあるが、どれも該当するモノとは思えない。

「解りません」
 だから、レイは素直に答える。
「…………………レイ、今日は何日かな?」
「2月14日です」
「…………………なんの日か知っているかね?」
 そこでレイは、ちょっと顔を赤らめる。
「バレンタイン・デー……………です」
「な、なんだ、知っているのではないか。ならば早く出したまえ」
 ニヤリと唇を歪ませて、右手を差し出すゲンドウ。
「? 何を……………ですか?」
「……………………レイ、バレンタイン・デーが何の日かは知っているのか?」
「知っています。昨日赤木博士が教えてくれました。………………好きな男の人にチョコレートを贈る日……………です」
 それが、レイが昨日リツコから伝えられた、もう一つの情報だった。
「そ、そうだろう、解っているのならば、何故くれないのだ?」
 ゲンドウの顔に焦りが見え始める。
「? 理解出来ません。今日の検査結果なら、赤木博士の許に届いているはず………司令に渡すモノは何もないはずですが」
「いや……だから…………そうじゃなくてだな」
 だめだ…………レイに遠回しな言い方は通用しない………
 ゲンドウはそう思い始めたようだ。

「だ、だから、チョコレートだ、レイ」
「チョコレートがどうかしましたか?」
「…………今日はバレンタイン・デーだな?」
「はい」
「…………好きな男にチョコを贈る日だな?」
「はい」
「な、ならば、チョコレートを………」
「?」
 レイが不思議そうに、ゲンドウを見つめる。まだ解らないらしい。
 さすがにゲンドウも、キレた。

「だ、だから、私にチョコレートをくれないのか? レイ!」

 そのセリフに、レイの顔が訝しげに歪む。
「理解出来ません。チョコレートは好きな男の人に贈るモノと聞きました。ならば、私が司令にチョコを贈らなければならない理由は何もないと思いますが………」

 それを聞き、ゲンドウが固まった。

 しばらくすると、躰がガクガクと震えてきた。
 サングラスの影からは、涙が溢れてきている。

 レイはその様子を無表情で眺めていた。

「う……う……うわぁ〜〜〜ん!!!!」

 大声を上げて、泣きながら走り去るゲンドウ。

 それを不思議そうに眺めがら、レイは次の瞬間には忘れていた。
 今日はこれから重大な用事があるのだ。あんなヒゲ男に構っているヒマはない。



 早く、碇シンジにチョコレートを届けねば……………








おしまい






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ver.-1.00 1999_02/15 公開
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだこりゃ?







 ザクレロさんの『バレンタインの悲劇』、公開です。



 あのレイちゃんが気にするほどの視線を送り
 あのレイちゃんを苛つかせるほどにつきまとい

 あぁあぁ・・

 いじましいぞゲンドウ・・・



 でもでも・・・

 ”その日”に自分の近くにいるように策を弄しながらも
 安心できずにず〜っとそばから除いて−

 可愛いかもしれないぞゲンドウ。


 ユイさんはこんなところに惚れたのかかしら?
   ちゃうやろなぁ(^^;




 シンジにチョコを私に言った先では
 レイとアスカのつばぜり合いがあるのかな(^^)




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