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 シンジ達を置いて、整備ブロックを後にしたドモンとレイン。いつも通り不愛想な顔
をしたまま、歩むドモンの顔をシゲシゲと眺めつつレインは少し微笑んで彼に訊ねた。

「どうしたの、ドモン」
「何がだ」

 無論彼の返事は実に素っ気ない。そんなことは慣れっこになっているレインは逆にソ
レがおかしいらしく、目元に浮かべる笑みを先程より大きくして話を続けた。

「何だか、嬉しそうじゃない」
「…気のせいだ」

「そう?」
「そうだ」

 ドモンの頑なな様子にレインは思わず含み笑いを漏らす。面白くて堪らないという感
じがありありと判る。反面、オモチャにされている彼は一層不愛想さを増していた。

「ドモン、アナタね………」
「?」

「アナタ、小さい時から本当にイヤな時は絶対引き受けないでしょう?
 けど、あの子の頼みは文句言ってはいたけど、結局聞いて上げようとしてるモノねぇ」
「…気のせいだ」

「それにね…ドモン、アナタ嬉しいとき右の眉がピクピクするのよ。今みたいにね」
「………」

「どうしてかしら、ドモン・カッシュさん?」
「…気のせいだ。
 いつ何処でもと云っているのに、あそこで仕掛けてこない程度の奴だから暇潰しぐら
 いにはなるかと思っただけだ。単なる余興だ」

「あらーぁ? 仕掛けてきて欲しかったの?」
「…別にそう言う訳じゃない。ただ単に、あのボウズが相手の油断している隙も衝けな
 い程度の奴だと、そう言っているだけだ」

「はいはい。そう言うことにしておいて上げるわ。意地っ張りさん」
「…先に行っているぞ」
「全く、正直じゃないんだから…」

 腰に手を当て、嘆息しながらも彼女は微笑ましそうに彼の背中を見つめていた。


            :

「……」

 少年は自分の選んだ道の険しさを今更ながらに自覚して硬直していた。

「シンジ」

「……」

 少年は自分の選んだ道の険しさを今更ながらに痛感して硬直していた。

「シンジっ!」

「……」

 少年は自分の選んだ道の険しさを今更ながらに絶望して硬直していた。

ブァァァカァシンジっぃぃぃぃぃぃっ!!

 伝説の幻獣"G"のブレスをも霞ませるようなアスカの怒号は、別の世界へ逝きかけて
いた少年の意識を現世へと力一杯噴き飛ばした。因みに現世より飛ばされた怒号が少年
を別の世界へとダメを押さなかったのは、単に威力が凄まじ過ぎたからで、思いっきり
噴き飛ばした後も勢い失わず、少年ごと噴き戻ったためである。

「わぁ、アスカ!?」

 半自失状態にあった少年は別世界に飛ばされたことを知覚しないまま、いっそおかし
いぐらい、ごく普通に驚いていた。

「何ボーっとしてんのよ。ああまで言ったからには目処ぐらいあるんでしょうね」

 《アタシにああまで言わせて無かったらコロスっ!》と実に持ち主の心中を正直に語
る瑠璃色の瞳をこれまた実に情けなさそうに黒曜の瞳が覗き込む。因みに緋玉の瞳はい
つもの様にどっしりと構えているのだか、単に何も考えていないのだか判断に迷う様子
で二人へ向けられたままだった。

 さぁ返事はどうした、と少女が拳に青筋立つほど力一杯待っていた答えは以下の様な
モノだった。

「……アスカ」
「何よ」

「どうしよう……どうしたら良いと思う?」

 あまりに情けない少年の言葉にアスカは硬直した。
 少年は道の険しさで再び硬直していた。

「「……………」」
「 …………? 」

 硬直しているアスカを見て、レイは不思議そうな顔をした。



「「……………」」
「 …………? 」

 硬直しているシンジを見て、レイは不思議そうな顔をした。





「「……………」」
「 …………? 」

 硬直している二人を見て、レイは不思議そうな顔をした。





アンタぁ、ぶわぁかぁぁぁぁぁぁ―――――――――っ!?

 実に控えめな反応といえよう。









スーパー鉄人大戦F    
第八話〔陸離:Her heart〕
Cパート


<旧東京シン・ザ・シティ ― 臨海副都心局庁舎会議室>      

 ここ、臨海副都心局庁舎会議室では黒髪の麗女が、忙しげに詰めているスタッフ達へ
矢継ぎ早な指示を飛ばしまくっている。

 彼女は海入深月、地球連邦政府文化庁旧東京臨海副都心局々長の職にある人物である。

 勇ましく文化庁旧東京臨海副都心局々長権限の行使を宣言した彼女だったが、当然権
利には義務が発生する。そして権利の大きさに見合った義務が雪崩をうって押し寄せる。
ごく自然な光景がここではごく普通に発生していた。これを捌くべく、彼女は局ビル内
で一番広いこの会議室へ対策本部を設置せざるを得なかった。それでも大量発生した義
務を鑑みるに控えめすぎるほどのモノであったが。

「局長!」

 その本部へまた新たな情報を持って、彼女に心酔するスタッフが飛び込んできた。

「何? 今は状況対応で手一杯です。優先度が低いことだったら、後回しに!」

 義務の処理に忙殺される海入は鈴を転がすような声を張り上げて、スタッフに応じる。
だが、そのスタッフは一層勢い込み言い返した。

「違いますっ! お耳を」

「はいはい、さっさと云って………………えっ、破嵐財閥総帥!?
 何故です!?」

 海入女史の問いただしにスタッフは、やや投げ遣りに答えた。

「知りません。向こうに聞いて下さい」


            :

 応接室に入った海入が見たのは、一見軽薄そうに見える男といぶし銀光る老紳士だっ
た。通常であるならば、老紳士が破嵐財閥総帥に見えたかも知れない。だが、ソファー
にデンと構えていたのは軽薄そうな男の方だった。

 唐突だが巨大コングロマリット・破嵐財閥の総帥には謎が多い。そもそも、顔自体知
られていない。政財界の者でも、本当にごく一部の人間しか面識を持っていないと云わ
れており、その存在すら怪しまれるような人間である。どんな顔をしているのか、どん
な性格をしているのかは当然で、何処に居を構えているのかすら不明だった。

 その人物が目の前に居る………筈だ。少なくともスタッフの話ではそうだった。だが、
目の前の男が本当に破嵐財閥総帥なのかと云われると……かなり疑問を持たざるを得
ない。

 そんな思いを抱きつつ、海入は彼に呼び掛けた。

「初めまして―――」

 彼の意志の強い眼差しを見て、海入は確信した。

《なるほど、これが破嵐財閥を束ねる男…ね》


            :

 万丈の話は単純明快だった。この状況に対応するために破嵐財閥は全面的協力する。
それだけだった。

 だが、人間組織には付き物の、官僚世界の友である派閥抗争を充分に経験していた
海入は素直にその言葉を信用できなかった。そもそも信頼できるほど彼についての情
報があるわけではない。何か裏があるのかとまず考えてしまう。

 だから、彼女は単刀直入に質問した。

「で、何が欲しいのですか?」

 海入の言葉を如何にも心外だと云わんかのようなゼスチャーをしつつ、万丈は答えた。

「おや? 僕が何かを欲しがっているかのように見えますか?」

 万丈の -実に似合ってはいたが- 気取った答えに、彼女はいつもの厳粛さを崩さない
まま応じる。

「いいえ。ですが後で要求されても無い袖は振れません。代償を要求されるのなら、先
 に聞いておくべきでしょう?」

 海入の言葉に気を悪くした風もなく頷く万丈。

「ごもっとも」

「では、要求されるなら今の内に。今なら局長特権を発動中です。
 今この街でなら、大概のことを何とか出来ます」

「そうですか、ではお言葉に甘えるとしましょうか……」

《やはり…》

 海入の心は暗黒色に塗り込まれる。少し隙を見せたら、あっさりと喰い付いてきた。
政府部内に得体の知れない影響力を持つとは云え、所詮は一代で財閥を成した機会主義
者と言う訳だ。唾棄したい衝動を必死に押さえて海入は万丈の言葉を待った。

「日常…」

「えっ?」

 万丈の要求は彼女の虚を衝いた。万丈はもう一度その言葉を口にした。

「日常を」

 海入が万丈の言葉を理解しかねていると彼は言葉を続けた。

「今まで通りのこの街の日常を頂きたい。今まで通りの街、今まで通りの風景で、人々
 が繰り広げるドラマを。
 見捨てられたこの街で、泣き・笑い・喜び・悲しみながら勁く生きてゆく人々の日常
 を僕は要求させていただきたい」

「どうしてです!?」

「僕もね、好きなんですよ。この街がね…
 そうは思いませんか、海入局長?」

「そうですわね。私達臨海副都心局の人間はこの街を守るために存在しています。でも、
 街を形作るのは人です。であるならば、街に住む人とその日常も私達の守るべきモノ
 です。これで宜しいですか?」

 成る程、この男もそうなのだ。この街が好きで堪らない。同好の士というわけだ。そ
れを知った海入がこの部屋に入って始めて笑みを見せた。親しい誰かに見せる為の飛び
切りの笑顔だ。

 笑みを交わす二人。ひとしきり微笑み合っている二人に多くの言葉は必要なかった。

「では…」
「はい…」

 弾けるようにそれぞれの部下への指示を下す。

「ギャリソン、話はまとまったっ!
 設置急げ!」
「木曽さん、直ちに破嵐の方々たちと対応策を練り直して下さい」



<旧東京上空・ガルダ級超大型飛行母艦【白鳳】>      

「第三大隊正面、敵機動兵器出現多数!
 数個中隊規模っ!」

 葛飾区へ降下し、台東区へと進撃していた第三大隊侵攻ルート上に突如敵機動戦力が
出現していた。戦況データを読みとった【白鳳】オペレータが報告に声を張り上げる。
酒井隊長はそれに短く応じた。

「機械獣か?」

「機械獣ではありません、全機50フィートクラスMS! 形式不明っ!
 新型ですっ!!」

「後続は」

「未確認です」

 酒井が少し考え込むようにすると、ツバロフ【OZ】技師長が口を挟んできた。

「全く、DCも楽しませてくれますな…
 さて、所詮テロリスト風情の造ったMS程度……機体サイズが同じでも、我々が莫
 大な投資の元に英知を結集して開発した成果物にどれほど持ちこたえられるモノか。
 酒井隊長殿、何分で連中を殲滅するか賭けませんかな?」

「失礼、服務規程違反になりますので」

 すげない酒井の言葉だが、上機嫌なツバロフは両手を拡げ肩をすくめて見せるだけだ
った。


            :

 全高 15mの鎧兜姿のサイクロプス。
 それがDC側新型MSを端的に形容した表現だった。全て同型でその数約30。

 彼らを迎え討つは同じく一つ目のセンサーアイを持つ【OZ】モビルドール群やはり
同じく総数30。こちらは汎用型MS【リーオー】タイプが20、支援型MS【トラゴ
ス】6、亜人航空型MS【エアリーズ】4である。

 但し同じ一つ目でもかなり相違がある。DC側のセンサーアイは、巨大なアイボール
そのものであったが、【OZ】側のそれは味も素っ気もない真四角のスクエアーアイだ。

 お互いを認識しあうかのように、双方センサーアイが数度の点滅を繰り返す。

 そして、静寂。

 次の瞬間、地獄の業火をも色褪せさせる苛烈な火線が双方を結ぶ空間を埋めていた。

 但し、双方の対応は全く違っていた。
 DC側MSはどっしりと構えて、撃って撃って撃ちまくっていた。そこには戦術等と
いう高尚なモノは存在していなかった。ただ、目の前の見える的に向かって手にしたラ
イフルを乱射しているだけである。盲撃ちと言っていい。

 対する【OZ】側モビルドールは開けた場所での撃ち合いに固執せず、回避運動を取
りながら、廃墟などの遮蔽物へと移動している。無人機であるから、マンポイント(人
的制限)を無視できる。彼らはその利点を十二分に享受して、通常パイロットなら考え
たくもないような急激なG変動を伴う急機動を掛けながら、行動していた

 ここまでは、双方互角だった。DC側の攻撃はいっそ呆れるようなモビルドールの回
避機動によって、殆ど効果を発揮していなかった。前衛の【リーオー】数機へ多少の損
害を与えたに過ぎない。

 【OZ】の攻撃もまた効果を発揮していない。これは自らの激しい回避機動によって
満足な照準が行えないため、有効弾をあまり送り込むことが出来なかったのだ。やはり
腰を据えて行う射撃に比べて、機動射撃(一方が機動して、もう一方は停止しての射撃)
は命中率が低下するのはやむを得ないところだろう。だが、機動間射撃(双方が機動し
ての射撃)を基本とする機動兵器である。著しく命中率を低下させる上記の状況で命中
させる事を求められる彼らである。それなりの命中弾を出していた。それはそうだ、彼
らの FCS(火器管制システム)は彼我の位置関係が激しく変化する空間戦闘を行うために
開発されたモノなのだから。

 それでも【OZ】側攻撃が効果を発揮していなかったのは、単にDC側機動兵器の装
甲システムが予想外に頑健であったためである。数発程度の被弾などモノともしていな
かった。

 以上の様な様相を見せていた戦いであったが、それは【OZ】側戦術フォーメーショ
ンが完成するまでであった。

 戦闘上空を迂回した亜人航空型MS【エアリーズ】がDC側背後から NOE(匍匐飛行)
飛行にて奇襲攻撃を掛けた。だが、18m 級人型機動兵器の形態と戦闘能力を維持したま
ま、強引に空中戦闘能力を付与した【バイアラン】タイプが、結局そのサイズを 20m程
度まで機体を大型化させた事から判るように、極端に空気抵抗の大きい人型もしくはソ
レに近い形態で飛行能力を持つと言うことは、かなりの問題を背負い込む。

 50ft級で無理矢理飛行能力を持たせた【エアリーズ】もまた重大な問題を抱えていた。
いや、致命的といった方が正しいかも知れない。その代償とは貧弱な攻撃能力と紙のよ
うに薄弱な装甲と言う機動兵器としては致命的なモノだった。そのため、一般的にはか
なり防禦が薄い筈の後背部からの攻撃でさえ、DC側機動兵器へ十分な有効な攻撃を行
うことが出来ない。アベコベに遮蔽物のない空中に居る【エアリーズ】は、最前列以外
の機体から集中射撃を受けるハメに陥る。

 だが、それで【OZ】側モビルドール群全体としては十分だった。

 まず、支援型MS【トラゴス】の火力支援1コ中隊6機の本格的な支援砲撃が開始さ
れた。これによって崩れ掛けていたDC側機動兵器隊の陣形はさらに乱れる。そして、
【エアリーズ】達4機・航空1コ小隊に銃口が向けられたことによって元々、火力密度
が落ちていた戦闘正面から雪崩をうって【リーオー】2個中隊20機が猛々しく突撃を
開始していた。


            :

「もう終わりか……くはははっ、脆いな……脆すぎるよ!」

 【リーオー】隊が一糸乱れぬ突撃を開始する様を見て、ツバロフ技師長は敵殲滅を確
信した。モビルドールの真価は集団近接戦闘にて発揮される。目の前にだけ注意がいき
がちになる人間に比べ、モビルドールのAIにとって目の前の出来事もその周囲の出来事
も等価である。故に文字通り冷静な戦闘判断が行え、機体間連係機能を持つモビルドー
ルは戦闘単位として非常に強力な存在となり得た。

 それが敵はどうだ?
 多少防禦能力は高いかも知れないが、その他は話にならない。攻撃能力は被弾した機
体の状況から察するに並以下だ。機動力は今のところ皆無と云ってよい。機動兵器の正
念場である戦闘においても全く機動する様子が見られないのだから、機動しないのでは
無く、機動出来ないと判断して間違いないだろう。何よりも、戦術が稚拙すぎる。あれ
ではよっぽど戦争ごっこに興じる幼児の方がマシだ。

 余りにもお粗末なDC側新型機動兵器に、ツバロフの嘲笑が止まらない。

 ツバロフの予見通り、DC側新型機動兵器は瞬く間にその数を減らしていった。一機、
乃至二機程度敵を一個小隊5機で半包囲し、メッタ撃ちにする。圧倒的な火力で叩かれ
たDC側新型機動兵器は多少防禦能力が優越していようがどうしようも無い。機械的に
処理していくモビルドール達の前に屑鉄へと成り果てていく他なかった。

 その数をあっという間に数分の一まで激減させられてしまうDC側新型機動兵器。そ
の残存機は、何を考えているのか後方にて集結し始める。

 それを見て、ツバロフは少し怪訝な顔をした。

「………?
 最後の悪あがきか?」


            :

 その時点で、DC側残存機は11機であった。彼らは集結した後、遁走することもせ
ず【OZ】モビルドール群を待ち構える。この期に及んで、彼らは抵抗しようとする意
志を全く欠いていなかった。

 これに対して【OZ】モビルドール群もまた戦いを厭う理由は何もない。両者は両者
が思う侭、全く素直な形で急速に接近していく。両者の間合いが戦闘圏内まで近付くと、
再び苛烈な火線で辺りを満たされた。

 ただ、今度は少し毛色が違う。【OZ】側モビルドールは相変わらず機動していたが、
DC側も足を止めず戦闘していた。だが、その動きは少しおかしかった。DC側のその
動きは回避を目的とすると云うより、ひたすらに間合いを詰めることを目的として行わ
れていたからだ。

 無論、その様な行動をしているのである。動標的へと成り下がったDC側は一機また
一機と数を減らしていく。【OZ】モビルドールへと取り付くまでにその数は3機まで
すり減らしていた。

 近接格闘戦領域まで近接された【リーオー】だったが、素早くソレに対応しビームサ
ーベルを抜きはなって、相対したDC側機動兵器の内正面にいた機体を斬り飛ばした。

 この時点で残り二機。

 残り二機は取り付いた【リーオー】を押さえ込み、何かビームサーベル発振機本体の
様なモノを手にして、振り上げた。

 その間にも後方に位置していた【リーオー】僚機から援護射撃があり、また一機が動
作を停止した。

 残り一機。

 最後の一機は取り押さえた【リーオー】機体首筋へビームサーベルモドキを叩き付け
ていた。


            :

「終わったか…」

 敵最後の一機が腕を振り落としたところで、撃破されたのを見てツバロフは呟いた。
 同数の機動兵器と相対して、損失率0:30。パーフェクトゲームだ。コレでこそ、
あの鬱陶しい、分不相応にロームフェラー総帥の座に座るトレーズ如き若造の横槍にも
屈せず開発し続けた甲斐があるというモノだ。

 ツバロフがそう心地ていた時である。

「【リーオー 325】、システムセキュリティアラームっ!」
「「何!?」」

 酒井とツバロフは同時に声を上げた。

「機体制御中枢プロテクト、破られましたっ!
 リプログラムされています」
「戦術管制中枢プロテクト、持ちません!
 突破まで、20っ!」

 唖然として固まるツバロフをよそ目に、隊長たる酒井は素早く指示を下す。

「他に機体に攻撃させろっ!」
「ダメですっ! 敵性判断していないので攻撃させることが出来ませんっ!」

「自爆コマンドを打ち込めっ!」
「外部入出力は戦術管制を除いて閉塞中!
 無視されますっ!」

 最早即時性のある有効な対応策はない。酒井は呪詛を漏らす。

「チクショウ……」

 その間にも彼らの下僕達は次々と彼らの手から強引に解放されていく。

「【リーオー 325】、システムリプログラム・コンプリートっ!」

「【リーオー 325】、【リーオー 321】と接触!」
「【リーオー 321】、システムセキュリティアラームっ!」

「【リーオー 325】、【リーオー 322】と接触!」
「【リーオー 322】、システムセキュリティアラームっ!」

 モビルドール隊が次々と乗っ取られていく中、ツバロフはただ呻くことしか出来なか
った。

「ばっ……莫迦な……」

「いえ、これが真実です」

 苦悶するツバロフの言葉を、冷徹な一言で言い切る酒井。

 己の手塩に掛けた絶対の服従の元にあった筈の屈強極まりない下僕達が、揃いも揃
って敵と化していく様を、彼は強烈な崩壊感とともに味あわされていた。


            :

《まずいわね…》

 徐々に近づいてくる戦闘音に波瀾万丈のパートナーたる、ビューティは焦りを感じて
いた。無論この様な状況で自動車等は使えない。ここ旧東京では道路網自体が半崩壊し
ている上に、戦場でそんなモノは誤爆等の厄介な問題を抱えるだけである。

 となると、これはもう自分の足で逃げるしかない。

 だが、ここで大きな問題が存在した。

 マユミである。

 無論彼女は彼女なりに精一杯一切の不平不満を口にせず、努力していた。だが、何か
と肉体労働がつきまとう万丈のパートナーをやっているビューティは兎も角、深窓の令
嬢を地でいっていたマユミにビューティを満足させるような体力などありはしない。集
団行動の論理から言っても、集団の移動速度は集団個体の最低移動速度の更に八割程度
が良いところだから、彼女達の逃走劇は遅々として進まなかった。

「大丈夫、マユミちゃん?」

「……………」

 何とか肯こうとするマユミだが、息切れが激しくそれも満足に出来ない。彼女にとっ
ては今までのペースを維持できたこと自体、驚嘆に値する出来事なのだ。致し方ないだ
ろう。

 だが、破局は彼女の努力などお構いなしにやってくる。

 それはそこまで迫っていた。

「ビューティーさん!」

 マユミが彼女らしからぬ口調でビューティの名を呼び、あらぬ方向を指差した。同時
に周りでも悲鳴が上がる。マユミの指差した方向に【OZ】モビルドールが姿を現して
いた。それはまだシステムを乗っ取られては居なかったが、逃げまどう人々にしてみれ
ば悪鬼羅刹の化身、恐怖そのものである。

 それまでそれなりの秩序を以て避難していた人々であるが、モビルドールの登場によ
って、完全に崩壊した。我先にと逃げ惑う。

「マユミちゃん!?」
「ビューティさん!」

 逃げ惑う人波に巻き込まれ、二人は引き離されてしまう。ビューティにとって悔やん
でも悔やみ切れぬ失策だった。


            :

『【リーオー】隊全機、システムリプログラム・コンプリートっ!
 完全にコントロール・アウトしました。
 【トラゴス】隊もですっ!』

 回線に流れる悲鳴のような報告を聞き流しながら、時田は思いに耽っていた。空輸し
ていたモビルドールを運び、投下してからは彼の出番などまず無い。モビルドール等の
オペレーションは全て旗艦【白鳳】に搭乗している【OZ】プロパー技師群が行ってい
るからだ。

 だから、時田は半ば開き直って、せっかく特等席居るのだからと現状を楽しむことに
した。自分達が作ったモノでは無いとはいえ、新旧の自律型機動兵器が同時に実戦稼働
している光景というのはなかなか見れるモノでは無い。

 当初順調にその能力を発揮していた【OZ】自律機動兵器群だったが、DC側の新型
と交戦した時に埋め込まれたらしいクラッキングツールにてあっさり敵戦力と化した光
景を見て、彼は半ば呆れたように呟いた。

「自律型でもこの有様か…」

 彼の開発していた【JA】は遠隔型白兵戦用機動兵器だった。無論、遠隔型といえど機
体側にそれなりの制御機器を積んでいる。だが、反応速度が重視される反応行動以外は
オペレータ側からレーザーなり有線なりで行われるシステムだった。要するに個で完結
していないシステムだ。それ故、方式的にセキュリティ強度が低く、実用にはかなりの
強度のプロテクトが必要とされていた。

 ―――が。
 基本的に個で完結してセキュリティ強度が高い筈の【OZ】モビルドールシステムが
この有様だ。今この場所に完成した【JA】システムを投入できたとして果たしてどうな
ったであろうか?

「遠隔型では話にならんか」

 元々時田が遠隔系自律型機動兵器を作ろうと思ったのは、あの悲惨な惨禍をもたらし
た第一次地球圏大戦での経験がその根幹を成している。当時の機動兵器 -主に在来型航
空/航宙機やモビルスーツ- は、パイロット保護という観点から見た場合十分からは程
遠い代物で、機体破壊時の誘爆を始めとする数多くの悪意からパイロットを護ることが
出来ず、多くの犠牲を発生させていた。当時は脱出装置といえば射出シート程度が関の
山であったからだ(当然例外は存在する)。これは、機体爆発そのものは勿論、飛び散
る機体構成材破片からすらパイロットを守れない物だった。

 同時期ヤシマ重工から出向してコロンブス級特設MS母艦で整備士をやっていた時田
は、友人達がむざむざと戦火に散っていく様をただ見つめることしか出来なかった。そ
れも生存性に欠陥があると知っていたにも関わらずだ。

 当時の破滅的状況(人口の数割が死亡し、ありとあらゆる社会システムが混乱しきっ
ていた)ではパイロット生存性がどうこうというより兎に角、数を揃えることを第一と
していたからだ。基本的に戦争に於いて物量より正しいモノは存在しない。故に【ボー
ル】と呼ばれていた空間作業機に毛の生えたような半自殺兵器すら、大手を振って戦場
を闊歩していたのだ。

 その様な犠牲を必要とする状況を変えたいと言う想いから、【JA】の開発始まった。

「……やはり、現時点では有人機がベターだな」

 あれから、7年。途中で戦争を挟み、機動兵器は大きく進歩した。性能は勿論だが、
生存性では旧来と比較にならないほど進歩している。コックピットのユニット化に伴い
過剰とも言える程の手段が講じられ、機体構造から独立したコックピットユニットは極
端な例だと運が良ければ大気圏突入すら可能なレヴェルにまで達していた。(但しこの
場合、最良の条件ですら中のパイロットは生存している、それ以上では無い可能性が高い)

 ならば、どうするべきか。

《まぁ、それはこのお祭り騒ぎを見終えてからだな》

 不謹慎なようだが比較的上級社会の住人に位置付けられる時田にとっては、旧東京は
封地区でしかない。基本的に居住が禁じられているのだから、そこの人が居て生活して
いるとは考えつきもしていない。

 故に彼はこの作戦を『お祭り騒ぎ』、その程度で処理し得ていた。それが犠牲を減ら
す為に頑張っている筈の彼の限界だった。

 彼が自らの考えをそう締め括った時、再びスピーカが我鳴り立てた。

『現時刻を持って、第三大隊に敵性判断を下すっ!
 ガンヘッド大隊へ殲滅命令発令!』


            :

「チームメイトを撃つのは気が進みませんねぇ」

 【UNIT 507】は配下の M-5【ガンヘッド 通常型】へ命令を下す片手間に、そんな思
考を CPUリソースの数パーセントを使用して動作させていた。

「まぁ、契約金に目が眩んで金膨れ球団に移籍を行ったベテラン選手みたいなものです
 から、遠慮は要りませんね。
 おや?」

『---------』

 やがて、陣形外周の【UNIT 105】から近距離通信用微弱レーザーによって、敵集団捕
捉の報が入る。続いて、付近の【UNIT 308】【UNIT 401】からも敵発見の報を伝える。

「来られたようですね…では、プレイボール」

 基本的にデジタルな彼らに、敵と認定された相手に対して躊躇い等無い。それがつい
先程まで味方であったとしてもだ。この辺は割り切りは実に明快であった。

 そして、彼【UNIT 507】は先制攻撃を選択した。近接格闘戦能力に於いて【OZ】モ
ビルドールに劣る彼らだったが、彼らには彼らなりの利点を保持していた。その一つが
遠距離攻撃能力の有無である。多少非効率であろうが、叩ける内に思う存分叩いておく
腹だ。

「全機、クラスター弾制圧射撃。
 一、三塁コーチ(前線観測任務担当機)以外は、速やかに所定の守備位置へ。
 守備交代です」

『『『『--------------』』』』

 M-5 【ガンヘッド】一個大隊50機v.s.モビルドール大隊46機(【エアリーズ】は
空中にいたので取り込まれなかった)の壮絶な戦いの幕は一斉発射されたミサイルによ
って切って落とされた。

 敵を叩くためには火力で圧倒するのが一番早い。彼らは定石に従って背部ウェポンラ
ック・八連装ミサイルランチャーに搭載された大型ミサイル各2発・計百発を一斉発射
した。

 事前入力されたコースに従い、ある程度直進したミサイルは一斉に上昇する。水蒸気
雲を牽きながら、一糸乱れぬまま空立ち昇るその様子に鮮やかさすら感じられた時だっ
た。それまでも運の悪い数発が迎撃射撃で破壊されていたが、突如残り全弾が弾け飛ん
だ。別に誤爆した訳ではない。ミサイル本体に内蔵された子爆弾を一斉にバラ撒いたの
だ。

 バラ撒かれた子爆弾は万有引力の法則に忠実以上に従い、モビルドール達が存在する
辺り一面へと降り注ぐ。接触した子爆弾から圧倒的な熱量と光が生み出され、地面が沸
騰した。

『---------』

 前線観測任務担当機が戦果を報告してきた。

 流石にこの程度で撃破は出来なかったらしい。
 だが、汎用型の【リーオー】はともかく、支援型の【トラゴス】はこれで黙らせるこ
とが出来たはずだ。

 何故かと言うとそれは両機の生い立ちに起因する。

 汎用型の【リーオー】は人型機動兵器つまりはモビルスーツである。モビルスーツは
元々宇宙機として開発された。その為基本的に汎用型モビルスーツは胴体上部装甲が一
番厚い。何故か? それは少し考えてみれば分かる話だ。モビルスーツが宇宙空間をど
のような恰好で進んでいるかを。MSは基本的にやや浅めの上体伏臥で進む。そしてそ
の状態で敵と撃ち合うことになるから、頭上から弾が降り注ぐ確率が一番高い。兵器と
いうのは一番被弾確率の高い重要なところに強固な防御を施すから、必然的に胴体上面
が丈夫になってしまうと言う訳だ。これは地上用機でも変わらない。やはり上部攻撃し
てくる存在が多いからだ。だから、【リーオー】は子爆弾の一発や二発程度が上から当
たったところで撃破できない。

 だが、支援型【トラゴス】は違う。この機体は地上専用でホバーの上に人型砲台を載
せたような形をしている。要するに既存の戦闘車輌から発達した機体と言う事だ。その
為どうしても支援機ということも手伝って、上部防御が弱かった。そして、それ以上に
問題だったのが主兵装の 203mm榴弾砲がその貧弱な上部防御の更の上に存在していたこ
とだった。その為この様な上方からの面制圧攻撃を受けると機体が破壊される前に戦闘
能力をじつにあっさりと喪失してしまう。この機体はその様な問題点を持っていた。

 攻撃の効果にそれなりの満足をメモリに書き加えた後、【UNIT 507】は次の命令を発
する。

「全力射撃、12秒」

 各【ガンヘッド】に搭載されている頭部75mmレールガン、背部バックパックのビーム
カノンが火を噴いた。

 流石に【OZ】モビルドールも撃ち返してくるがそれは牽制以上の意味はない。ソレ
に加えて【ガンヘッド】側は遮蔽物に身を隠しながらの攻撃だ。【OZ】モビルドール
側の攻撃は全く意味を成さなかった。

 きっかり12秒後、【ガンヘッド】隊は速やかに後退を始めた。幾ら地形を利用してい
るとはいえ、一点に留まり続けるのは愚策でしかない。

 この時点でモビルドール側は支援型の【トラゴス】6機全てが戦闘能力を喪失してお
り、汎用型【リーオー】は撃破7機、小破以上損傷機が17機に達していた。

 通常ならば明らかに撤退を真剣に考慮すべき損害を受けつつも、モビルドール群は荒
れ狂う雄牛の如く、その猛進を止めない。数機は援護射撃を行っているため、進行速度
を落としているが、生き残っている機体の大半となる30機程度の機体は彼我の能力比
較で圧倒的な優位となっている近接格闘戦を仕掛けようと脚部関節に壮絶な悲鳴を上げ
させながら突進してくる。

 瞬く間に、距離が詰まる。

 その勢いは凄まじく、運悪く突進ルート上へアンブッシュ(隠蔽)していた【ガンヘ
ッドUNIT 307】など頭部ターレットが吹き飛ぶような集中射撃を受け、瞬時に存在の変
更を強要された。

 【ガンヘッド】側に対して一挙に不利な状況へと転じるのだが、彼らも莫迦ではない。
先頭集団が完全に近接格闘戦へ移行しかける直前、【UNIT 507】は命令を下した。

「カーボンスモーク散布」

 スモークディスチャージャーから、スモークシェルが、やや気の抜けるような音と共
に射出される。

 緩やかな放物線を描いて、地面へと落下したソレは遠距離通信レーザーすら吸収拡散
させてしまう濃密な複合炭素煙を猛烈な勢いで辺りに吐き散らせた。

 連携を断ち切られ、孤立化したモビルドールは独立索敵モードに移行する。

 この様な状況では、モビルドールの主要索敵装備である光学センサーは全く役に立た
ない。取り敢えず装備されているスキンシップライン(接触通話回線)共用で要求スペ
ック下限ギリギリのパッシブタイプ(受動型)振動センサーに頼るしかない。一方、地
上戦に特化している【ガンヘッド】側は索敵専用の優秀なアクティブ(能動)/パッシ
ブ両方の振動センサーを持っているため、この状況でも全く不自由を感じていなかった。

 状況はは常に【ガンヘッド】側の先制を許していた。
モビルドール側の動きは『アスディック』と呼ばれるパッシブタイプ振動センサーによ
って【ガンヘッド】側には筒抜けだった。モビルドール側のそれは、極めて貧弱だった
からだが、それでも何とか動勢程度は掴むことが出来た。だが、お互いにパッシブセン
サーにて概略位置を得ていたがその程度では攻撃に必要な精度を満たせられない。そん
なデータを使用して攻撃しても弾の無駄になるだけだ。実際、散発的に行われていたモ
ビルドール側の攻撃は全く効果を発揮していなかった。

 しかし、開発時高価な機動兵器を少しでも有効活用するため、ややもすると過剰なほ
ど各種装備の充実している【ガンヘッド】には、この状況でも攻撃に必要とされる精度
を満たす装備があった。
 アクティブタイプ振動センサー『ヴァンパイア』システムだ。コウモリやイルカのよ
うに、自らの発した超音波の反射波で相手をじっくりと"見て"射撃に必要なデータを揃
える。彼らは無駄弾バラ撒くモビルドール達をしり目に必殺の攻撃を悠々と加えること
が出来た。

 その様な状況では幾ら反応行動力に優れていようが関係はない。

 何しろ、光学的索敵の一切を封じられた上、測距を行う『ヴァンパイア』アクティブ
振動センサーの発する超音波をモビルドール仕様【リーオー】の粗末なセンサーでは捉
えられない。その上で回避運動を行う為には、事前に回避を開始しておくか、発砲音を
聞くしかない。
 だが、状況によって制限された回避は回避足り得ず、発砲音感知にての回避もまた無
駄であった。音速など問題ともしない速度で撃ち出される超々高速弾は発砲音が届く以
前に命中しているからだ。

 この時点でモビルドール側は、新たに5機を喪っていた。

 貧弱なセンサー性能を全開にして、状況把握に努めるモビルドール達だったが、それ
を嘲笑うかのようにノイズや【ガンヘッド】と思われる振動が激増した。

 【ガンヘッド】の発するノイズそのもののように思われた振動だったが、合計すると
その数は百を超えていた。これは【ガンヘッド】各機に搭載されていたデコイ(囮)が、
【ガンヘッド】の発する振動を忠実に再現して駆けずり回っていた為だ。

 ここで予想外の要素が加わった。

 【ガンヘッド】側にではない。モビルドール側にだ。

 元々モビルドールの元になった【リーオー】等の【OZ】製MSは計算能力と云う観
点から評価した場合、かなり問題のあるシステムである。ピーク能力はなんとかそれな
りのレヴェルに達していたが、平均処理能力は決して褒められるモノでは無かった。

 そのシステムをベースとしたモビルドールシステムも、(必要最低限の増設は行われ
ていたが)またその血統を受け継いでいた。まぁ、これは複数機の連携で分散処理する
と云う前提があればこそ選択できたのであるが、連携を断たれた今【ガンヘッド】に翻
弄され続け、増え続ける処理はとうとうモビルドールのシステムリソースを枯渇させ始
める。システムリソース逼迫のため、輻輳処理が発生しこれがまたシステムリソースを
逼迫させる。完全な悪循環に陥って戦闘行動すら満足に行えない機体が続出する。

 文字通り、木偶に成り下がったモビルドール群は容易に【ガンヘッド】に撃破されて
いく。

 旧東京中央区は【ガンヘッド】の草刈り場と化していた。


            :

 ビューティと離ればなれになってしまったマユミは、あてども無く彷徨っていた。

 闇雲に逃げる彼女だったが、アテがあるわけではない。

 破裂音や爆発音が徐々に近付いて来ることにか細い神経をすり減らしながら逃げ惑う
が、土地勘のないところで何処をどう逃げればいいのか判ろう筈もない。

 黒煙が辺りを包み込むに至って、彼女は完全にその歩みを辞めてしまう。

「も…もう、ダメ…」

 自らの運命に諦観を抱く。それを助長するように圧迫感のようなモノを感じたかと思
うと、砲撃音と破壊音が大音響を響かせた。

「もう、いやぁぁぁぁぁっ!」


            :

 これまでの戦闘によって敵第三モビルドール大隊をほぼ壊滅させていた【ガンヘッド】
隊であるが、彼らはまだ知らなかった。モビルドール大隊は他に3コ存在し、その全て
が第三大隊と同様の末路を辿ったことを。

 気付いたときには、陣形側面から新たなモビルドール大隊の突撃を受けていた。これ
に対応するにはガンヘッド達のシフトは余りに第三モビルドール大隊迎撃に最適化して
いた。

 陣形側方から強襲を受けた【ガンヘッド】隊は、側方警戒に当たっていた二機を【ト
ラゴス】支援砲撃と【リーオー】集中射撃によって撃破された。だが、【ガンヘッド】
側もタダでは殺られない。最初の砲撃で擱坐した二機は道連ればかりに残弾をありった
けバラ撒き、モビルドール一機を撃破、及び敵襲通知を発して煙幕の展開に成功してい
た。

 敵襲通知を受け取った【UNIT 507】は直ちに迎撃案を検討、シフト指示をアクティブ
振動センサーを使用して、【ガンヘッド】各機へ通達した。

 その時だった。

『もう、いやぁぁぁぁぁっ!』

「!
 戦闘区画内、ヒューマノイド発見。
 ナチュラリアン、フィーメイル、非武装。
 敵性判断、ネガティブ。
 要救出対象」

 マユミを発見して瞬時にそう判断した【ガンヘッド UNIT 507】は直ちに彼女を保護
しようとした。それは彼に望まれた最重要任務でなおかつ、積んできた経験の基底を成
すモノであったからだ。

「!!
 警報、敵弾!」

 同時に敵弾が辺りに降り注いできた。幸いなことに【UNIT 507】にもマユミにも被害
を与えなかったが、第三モビルドール大隊の生き残りらしいモビルドールが姿を現して
いた。デタラメに行動している内にここまで辿り着いたらしい。敵弾が再び辺り一面に
バラ撒かれようとしている。

「レールガン、ファイア。
 Eアーマー(電磁装甲)、偏向角度修正。
 ヴァイブロアーマー(振動装甲)、出力最大」

 【UNIT 507】は頭部ターレットレールガンを乱射しながら、彼に装備された防御シス
テム最大稼働させて、猛然とダッシュしつつマユミを庇うようにモビルドールの前に立
ちはだかった。

 105 mmマシンガンを乱射するモビルドール【リーオー】。幸いなことに照準を行うた
めの光学センサーはスモークのために汚れ、精度が落ちていた。【UNIT 507】が彼を撃
破するまでに喰らった弾数は4発だった。

 一発目は、浅い角度で命中したため、装甲表面に形成されていたフレミング公式の下
僕たる電磁装甲の強磁界によって、あらぬ方向へのベクトルを強制的に与えられ立ち去
った。無論、マユミに危害を与えぬような方向にである。

 二発目は、外部に増設されていたバケット(荷物入れ)一部を引き千切った。

 三発目は、装填されていたスモークシェルを撃ち尽くしたスモークディスチャージャー
を吹き飛ばした。

 最後の四発目は、ソレまでの幸運の代償をもぎ取るかのように【UNIT 507】胴体部中
央やや右に命中した。位置関係から弾丸軌道と装甲接触面は垂直を形成していた。

 如何なる種類の弾であろうとも与えられた獰猛さを100%発揮しうる、防御設計関係者
が最も畏れる正貫である。【ガンヘッド】も間違いなく戦闘兵器であったから、防禦も
多重に渡り施されている。では、命中弾がどのように振る舞ったか見てみよう。

 最初に立ち向かったEアーマー・電磁装甲の強磁界は命中弾の威力を多少間引くに留
まった。命中弾突進力は強磁界によるベクトル変更力を大きく上回っていた。突破される。

 次に立ちはだかる一次装甲。アーマーと云う名そのままの最外殻装甲材は、設計限界
を上回る強靱さを発揮したが、命中弾貫通力はそれを上回っていた。貫通される。

 最後に立ちはだかるは二次装甲・ヴァイブロアーマーだ。旧世紀の陸自主力戦車に始
めて装備された防御システムで一次装甲命中と同時に振動を開始し、侵入してきた敵弾
を噛み砕くと言う、その部分だけ見るとどっちが加害者か判らなくなる豪快なシステム
だ。だが、これを破られるともう機体中枢を護るモノは紙ペラ同然の厚さ10mm程度の鋼
板しか無い。

 最後の護り手なる積層振動装甲群全16層最前面に命中弾はその頭を突っ込む。一層目
から三層目まで楽々と貫通した。四層目に突入したところで最初の断裂運動に巻き込ま
れた。それでもなお貫通力を維持していたソレは五層目に突入した。だが、それで彼の
進撃はそこで終わりだった。速度を落とし五層目まで突入した命中弾はついに断裂運動
に屈し、弾体を装甲に噛み砕かれ粉砕されたのだ。

 そして、敵弾を噛み砕くと同時に敵機は完全に沈黙する。機体中枢をレールガンによ
って、完全破壊されていた。

 小破しつつ、敵を撃破した【UNIT 507】のパッシブ振動センサーを襲ったのは、半ば
半狂乱となった彼女の悲鳴だった。

「もう、いやっ!
 いやぁぁぁぁぁっ!」

 マユミの絶叫が【UNIT 507】のパッシブ振動センサーを震わせた。【UNIT 507】は対
象が軽いパニック状態にあると判断した。

「お嬢さん」

 【UNIT 507】は機体上半身を旋回させ、マユミに頭部ターレットを向ける。これはあ
くまで彼女を落ち着ける為にやっていることだ。間違えても頭部レールガンで彼女を消
し飛ばす為ではない(超々音速の弾丸は掠めるだけで容易に人体程度は血煙へと存在の
変更を強要する)。

 人はそれが例え被造物であっても顔を見ずには安心できない動物なのである。それを
十分理解している【UNIT 507】は敢えて戦闘状況下で頭部正面をマユミに向けていた。
しかし残念なことに【UNIT 507】の配慮もマユミを落ち着かせることは出来なかった。
小さく悲鳴をあげ、後ずさるマユミ。

「い、いや…」

 そんな彼女に【UNIT 507】は出来うる限り精神的安定をもたらすような声色を合成し
て彼女に再び語りかけた。芸の細かいことに口調に合わせて、頭部正面照準シーカーを
点滅させる。

「お嬢さん、落ち着いてください。私は味方です」

「味方………?」

 思いも掛けない【UNIT 507】の声色に多少安堵したのか、マユミは小さく呟き恐慌状
態を脱していた。自分の方策が成功したことに満足してメモリに書き込んだ【UNIT 507】
は彼女への説得を続けた。

「そうです。直ちに逃げて下さい。ここは危険です」

 【UNIT 507】はその大きなマニピュレータで器用に増設バケット内からPDAを取り
出し、マユミに渡す。

「これで脱出経路を教えます。直ちにこの場所を離れて下さい。ここは危険です」

「ど…何処へ逃げても同じなんです。
 私はここできっと死ぬんです」

「いいえ、貴女は助かります」

「どうしてですか?
 どうして言い切れるんです?」

「それは私が貴女を助けるからです。
 知っていますか? 私に助けられると、もれなく幸運がついてくるのです」

 異常な緊張感の中での軽口は、緊張しきっていた彼女の精神を見事に弛緩させた。後
から考えると赤面するほど不謹慎なことだったが、思わず吹き出してしまっていた。

「…ぷっ」

 続いて、笑いが漏れ出る。マユミは止めようと思うのだが、止まらない。

「くすくす…」

 ひとしきり笑って、ようやく笑いをおさめることに何とか成功したマユミは目の端に
溜めた涙を指で拭く。そして、決心した彼女は【UNIT 507】に提案した。

「ならアナタも一緒に」

「無理です。私はこのマシンのAIです。
 自分の身体を置いては、逃げられません。それに私達の周りに居ると弾が飛んできて
 大変危ないのです。貴女を傷付けてしまい…」

 彼の言葉を遮るように敵弾が付近を掠める。

「おや、不粋モノが現れたようです。
 早く、もう安全を確保できそうにありません」

「は…はい。アナタも気を付けて」

「はい、私もむざむざと鉱物資源へ還元される気はありません。
 さ、お早く」

 マユミは小走りにその場所を後にした。

「…ですが、この状況は少し苦しいかも知れません。まぁ、何とかなるでしょう。
 7回はまだです」

 【UNIT 507】のその呟きには、状況の悲壮さなど微塵も感じられなかった。


            :

「ようやく振り切れたか……?
 だがっ!!」

 追っ手の無いことを確認するため、辺りをなめすように見渡す三色覆面の妖しさ満々、
だが、その真摯な瞳が全てを払拭する漢シュバルツ・ブルーダー。

 しかし、彼は追っ手を振りきった事を喜びもせず、憤った。

「何処の莫迦だっ! 市街地で戦闘するなど、恥知らずも甚だしい!
 むぅっ、しまっ!?」

 先程までシュバルツのいた場所を銃弾と表現するには大きすぎる害意の結晶が隊列成
して飛び込んできた。盛大な土煙が巻き上がる。その土煙の向こうから誇らしげに鋼鉄
のサイクロプスが現れる。彼は未だ土煙漂う其処をその一つ目で伺い探る。着弾点に端
切れを見つけると一つ目を点滅させていた。その姿は間違いなく悦に浸っているように
しか見えなかった。

 だが、それは頭上から響く高らかな宣言によって中断する。

「甘いぞ、【デス・アーミー】っ!
 木偶人形如きが私を倒せると思ったか!?」

 そう言い放つと、シュバルツは左腕を一閃させた。投擲されたソレは【デス・アーミ
ー】と呼ばれたDC製無人機動兵器の巨大な眼球に命中し、破裂音と共に中身を撒き散
らせた。

 頭部に集中しているセンサー群を残らず無効化された鋼鉄のサイクロプス【デス・ア
ーミー】は藻掻き苦しむように、その身を震わし、咆吼を上げた。

 その時にはシュバルツは場を離れている。だが、彼にも焦りの色が見られた。

「拙いな、仲間を呼んだか…」

 廃ビルの谷間を駆け跳ぶシュバルツ。

 しかし、その彼に立ちはだかるように【デス・アーミー】がその巨体を突進させてくる。

「えぇい、鬱陶しいっ!!」

 ハエを追い払うかの如く言い捨てるとやはり腕を一閃させ、次々と目潰ししていく。
スタッと廃ビルの屋上に降り立った彼は意表を衝かれる。別に機動兵器が大挙して居た
ことにではない。この場所には全く相応しくない少女が立ち竦んできたからだ。

「逃げ遅れたのか、どうして!?
 …ちぃ、間が悪いっ!!」

 言い捨てるが早いか、何処にそんな量を抱えていたのかと問い質したくなるような数
の煙玉を辺りに一面にバラ撒き、少女を【デス・アーミー】の群れから覆い隠す。素早
く彼女の前に飛び込んだシュバルツは咳き込む少女を抱え上げた。

「―――っ!
 いやぁ――――――っ!」

 当然、今まで男に抱え上げられた経験のないマユミは抵抗する。相手が怪しさ爆発の
三色覆面では尚更だ。

「いやですっ。いや、やめてくださいっ!
 やめてぇーっ!」

「静かにしろっ! 私は怪しいモノでは無いっ!
 モビルスーツ共に気付かれるっ!」

「いや、いやっ!」

 少女の身体で幼女のようにむずがるマユミを落ち着けさせようとするシュバルツだが、
一見してかなりアブない人である。その言葉は説得力というモノを地の果てまでも欠い
ていた。

 マユミが暴れるため、動けない彼らの周囲を【デス・アーミー】のめくら攻撃が薙ぐ。
衝撃で吹き飛ばされる二人。ただ吹き飛ばされただけのマユミとは対照的に、投げ出さ
れたシュバルツは空中で体勢を立て直し、着地していた。続く慣性をモノともせず、素
早くマユミに覆い被さり、未だ行われている攻撃の余波から彼女を護る。

 当事者にとっては永遠とも思われた時が過ぎ去り、攻撃が止んだ。気が付いたマユミ
は覆い被さる人影を感じて、目を開けた。

「ひ…」

 悲鳴を上げようとするマユミの口をシュバルツは手で押さえる。

「騒ぐな、ヤツらに気付かれる」

 周囲をグルリと見渡す彼の眼差しを見て、彼女は自分の不明を悟った。彼は自分を護
ろうとしてくれていたのだ。少なくとも自分に危害を加えようとしていたのでは無い。

 マユミが意識を回復したことを看取ったらしい彼は、彼女に問いかけた。

「すまなかった、ケガは無いか?」

 彼の問いにマユミは多少の怯えを見せながらも頷く。

「そうか、それは良かった」

 彼はマユミの答えに満足したのか、喜びをその瞳に映し出して起きあがろうとしたそ
の時だった。爆風によって解れていたトレンチコートの胸元から赤い結晶がこぼれ落ち
た。

「あっ…」

 マユミはそれに殆ど反射的に手を差し出した。

「よせっ!」

 彼の制止も間に合わなかった。

「えっ…?」

 赤結晶は受け取ろうとしたマユミの手の中で一度跳ね、剥き出しの右下腕部内側と接
触して、その透き通るような肌に沈み込んでいく。

「なにぃっ!?」

 シュバルツが慌てるが、赤結晶は完全にマユミの右腕と融合していた。マユミが慌て
て掻き出そうとするが皮下深く下手をすると骨まで同化しているかも知れないのに剥が
れるわけが無い。マユミが再び恐慌に陥ろうとする様子を見たシュバルツは素早く彼女
の首筋を打ち、気を失わせた。

 彼女を抱え上げ、今度こそ本格的に逃走を開始するシュバルツ。少女とは云え、人ひ
とり抱え上げているのに、彼は少女の体重など感じぬかのように疾走しているが、その
表情には険しいモノに満たされていた。

《どうして、れっきとした自我を持つ人間に融合した!?
 DGコアとは云え、DG細胞は強い自我境界を持つ活動状態の生物には融合できない
 はずだぞ………》

「…くそっ!」

 その言葉は己の不甲斐なさを悔恨する色で塗りつぶされていた。



<ジオフロント【ネルフ】本部・第六道場>      

「えい、えいっ!」

 本人はそれなりに気張っているのだろうが、それなりにたしなみのある人間からする
とどうしようも無く気の抜けた掛け声が道場に消え入っていた。

 当然それなりのたしなみのある才媛、惣流・アスカ・ラングレーはその掛け声を聞い
て萎えそうなやる気をどうにか維持しながら、方策を考えていた。無論、あのいけすか
ない時代錯誤バカをどうしてブン殴らせるかをだ。

《まあ、正攻法で行くってのは……》

 横を向く。気の抜ける掛け声かけながら正拳突きしている彼女の下僕をみる。その頭
の上では何故かあの妖精達がシンジの真似をしていた。シュールだ。

「はぁー…………・・・」

 ふっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁく、本当にふっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜く溜息をついて、アスカはその案を心の外へ力一杯投げ捨てた。

《なら、策をめぐらせるしかするしかない訳なんでしょうけど。
 例えば……》

 入浴中を襲撃する。それなら、あのバカも油断して……‥‥る訳がない。少なくて
も相手はそれなりの格闘家である。最も肉体的運動障害の無い全裸状態で、シンジ如き
のパンチが当たるわけがない。

《却下ね……》

 全裸状態で良いようにドモンに翻弄されるシンジを想像して、幾分顔を赤面させなが
ら、アスカはそう判断した。

《それならっ!》

 生物が一番無防備になる就寝時を襲撃する。これなら……‥‥ダメだ。自分ですら
害意を持つ者が近付いてくれば目を覚ますのだ。少なくとも同程度には腕の立つドモン
も目を覚ますだろう。ド素人のシンジがやるなら尚更だ。多分カーニバルより騒々しく
物音を立てながら近付くであろうから……

《……却下ね》

 アベコベに捕まって、頭を小突かれているシンジを妙にリアルに想像出来て、ゲンナ
リしながら、アスカはそう判断した。

《まだまだっ!》

 アイツは手段を問わないと云った。なら、小物を使わせてもらうまでだ。とは云って
も流石に致死性兵器を使うわけにはいかないだろう。アレでも一応【ロンド・ベル】協
力者だ。ノンリーサル・ウェポン(非致死性兵器)で適当なモノと云えば……‥

 人間ホイホイこと、対人粘着地雷辺りか。空気と接触することで二千倍以上に膨張し
て、なおかつ強靱な伸縮強度と粘着性を維持する特殊ウレタンで壁に貼り付けてやれば
……………………………………………………………………
……………………………………………………………………
……………………………………………………………………
……………………………………………………………………
……………………………………………………………………
……………………………………………………………………
……………………………………………………………………
……………………………………………………………………
……………………………………………………………………
…………何故だろう、どうしても高らかに笑い声を上げながら勝ち誇るドモンの姿
しか思い浮かばない。

《……取り敢えず、保留……》

 力無く項垂れるアスカ。

「えい、えいっ!」

 そんな彼女に気の抜けた掛け声が降り掛かった。

《こ……‥このぉ。
 アタシがこんなに苦労しているってのに!》

チョットは、気合い入れないよっ!
 このぉ、バカシンジィィィィィィィィィィィィィっ!!!!


            :

チョットは、気合い入れないよっ!
 このぉ、バカシンジィィィィィィィィィィィィィっ!!!!

 響き渡った怒号にペンタゴナよりの来訪者ミラウー・キャオは肩をすくめた。

「全く、あのお嬢さんはいつも元気だねぇ。も少し、慎みってのがあってもいいじゃね
 えの?
 なあ、ダバそうは思わねぇか」

 いつも通りの口調はいっそ賞賛すら満ちていた。キャオの言葉に同じくペンタゴナよ
りの来訪者で道場片隅で黙々と自主トレしていたダバ・マイロードは静かに反応する。

「そうかな?
 僕は今のままでも良いと思う。人間、元気なのが一番だよ」

「…お前らしい意見だよ」

 面白くなさそうに応じるキャオである。が、一転して面白そうな表情をしたかと思う
と、ダバを問いただす。

「けどよ、どうなんだ?
 少しは怒っているんだろう?」

「何の事だい?」

「またまた……知っているクセに」

「シンジ君がドモンさんに弟子入り志願したことかい?」

「なんだ、やっぱり知ってるんじゃねぇの……で、どうなんだ」

「別に。良い事じゃないか」

「あらま。
 でも、そうじゃなくってよ。悔しいとか思わねぇのか?
 どうせ、弟子入りするなら自分のトコで、なぁ〜んてよ」

「…ドモンさんの腕前は確かだよ。シンジ君が弟子入りを頼んだのはよく判る。シンジ
 君に人を見る目があって、自分もそうなりたいと思ったんだろう?
 良い事じゃないか、ドモンさんならきっとシンジ君を一人前の騎士へと導くよ。
 心配ない。
 これからの剣術稽古につき合ってもらう時が楽しみだよ」

 そう言うダバの顔は彼らしく本当に嬉しそうだった。

「…お前って、本当に優等生だよなぁ〜〜〜〜」

「誉め言葉と思っておくよ」

「ヘイヘイ…」

だからぁ、そうじゃなくってぇーっ!

 またもや、上がった怒号に釣られてそちらに向く二人。

「「おやおや…」」

 そこでは小さな騎士君が、麗しの姫君に蹴り倒されているという彼らの世界ではなか
なか見れない光景が展開されていた。

 流石にそれを見たダバは苦笑する。そして、彼らの方に踏み出した。

「じゃ、チョット行って来るよ」
「あいよ」

 彼が何をしようとしているかを十全に理解しているキャオは一声応じて見送る。

「今更だが、物好きだよ。
 お前って、ヤツーぁよ……」

 荒れ狂う麗しの姫君を上手く宥める彼を見ながらそう言うキャオの顔は、誇らしげな
モノに満ちていた。


<第八話Cパート・了>



NEXT
ver.-1.01 2001/11/25 公開
ver.-1.00 1999_08/12 公開
感想・質問・誤字情報などは こちら まで!


<作者の……‥ごめんなさい3>

作者  「今回は出張中のため、ノートPCで最終校正・htmlフォーミングしました。
     ちょっとやりにくい… (-"-) 」





 Gir.さんの『スーパー鉄人大戦F』第八話Cパート、公開です。






 いつもは、、、

 悲惨と言えばシンジだったのが、、

 今回は。


 うぅ

 マユミちゃん・・・



 バカバカっ
 不幸の星のバカっっっ

 お前はシンジの上で輝いていればいいんだいっっっ(爆)


 シンジって
 「2歩下がって3歩進む」で
 幸せ方向に向かうキャラなんだもん(^^;



 マユミは
 「不幸で不幸を呼び込む」系っぽいし・・・


 うわわわ。。





 さあ、訪問者の皆さん。
 忙しい中連載更新のGir.さんに感想メールを送りましょう!







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