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 基地内がけたたましい警報で満たされた。

「やかましい!
 一体何がどうしたってんだ!」

 その喧噪の中で若手士官が怒鳴っていた。彼は20歳半ば程に見え、極めて均整の取
れた身体をしている。だがその人相は、軍服を着ていなければ、ヤクザと間違えかねな
い三白眼という凶悪なモノだった。

「忍、忍!」

 彼の怒声を聞きつけたやはり20歳前後の士官が彼を見つけて、呼びかけた。かなり
慌てている。彼らの肩に張り付けられた部隊章には【獣戦機隊】と記されていた。

「ぁん!? 雅人か!?
 こりゃ、一体何の騒ぎだ!」

「忍、落ち着いている場合じゃないよ!
 脱走だ! 脱走したんだ!」

「そいつは穏やかじゃねぇな…で、誰だ?
 そんな気合いの入った事しでかしたバカは?」

「それだよ、シャ、シャ、シャ…」

「シャシャシャ?
 知らねえな、そんな名前のヤツは」

「違う、シャピロだ!
 シャピロ中佐が脱走したんだ」

 一瞬、意表を衝かれる忍と呼ばれた青年。だが、次の瞬間血に飢えた野獣の笑みを浮
かべて、吠えた。

「何ぃっ、とうとうヤリやがったか、あのボケナス。
 待っていたぜ、前から優等生ヅラしくさって気に入らなかったところだ。
 ブチ殺してやる!!」

「し、忍…」

「なんだ、まだなんかあんのか!?」

「あぁ…沙羅も一緒だ…」

「あんだとぉーっ!?
 何考えてんだ、あの跳ねっ返りが!!
 首に縄掛けてでも、連れ戻してやる!」

「あっ、忍! 何処へ!」

「間抜けなこと、聞いてんじゃねぇ!
 シャピロのバカブッ殺して、沙羅を連れ戻すに決まってんだろう!」

「でもっ、ハンガー爆破されて発進できないんだぞ!!
 聞いてんの、忍ぅ!」

「んなものなぁ、どうにでもしてやるっ!!
 やぁってやるぜっ!






スーパー鉄人大戦F    
第七話〔彷徨:It wanders〕
Fパート


<第三新東京市・【第三使徒】迎撃戦場>      


 シンジがEVA零号機に乗り込む少し前、戦況は取り敢えず膠着状態に陥っており、
持久戦の様相を呈していた。

 【第三使徒】を挟撃して足止めするダバ達。高い機動性能を活かして虚実を取り混ぜ、
代わる代わる攻撃を敢行している。

 そうして時間を稼いでいる間に【ReGZ】【マジンガーZ】といった後続も到着して、
【第三使徒】包囲網を厚くしていった。

 完全無欠天下無敵のように思われていた【第三使徒】も徐々に傷が増えてきていた。
無論、無傷というわけではない。【使徒】以上にダバ達の損傷率も上がっている。

 ただ、【第三使徒】を引きつけることについては文句無く成功していた。



<九州・戦自【ニセコ】基地>      


「よくもまぁ集めたモンだな」

 戦自第7実験大隊所属ブルックリン一曹は呆れ果てたように呟いた。
 彼の視界一杯に新旧機動兵器がズラリと250機以上並んでいた。広々と取られてい
る基地敷地内狭しと無言で犇めいている。こうも豪快に揃うと最早呆れるしか無い。

 その内、約2割を占める目の前の機体は、彼にも思い出深い機体。
 74式半自律機動戦車(連邦軍形式名:M−5R)、通称【ガンヘッド】だ。この機
体を最初に配備されたため、この機体の名がそのまま大隊名となったのだ。それを思う
と思わず、感慨深くなってくる。

 彼は軽く拳を握って、その【ガンヘッド】の車体を叩いた。

『痛い!』

 その声を聞いて、彼は笑みを浮かべた。また叩く。

『痛い。痛いですよ、ブル。
 ワタシ、【ユニット507】は指揮車輌です。
 アナタの安い給料では買えないような高価でデリケートな装備を満載しているのです
 から、それなりの扱いをお願いいたします』

「安いは余計だ、このポンコツ!」

『はっはっは、現実は正しく認識しましょう。
 確かにワタシは製造後12年3ヶ月と9日を経過した古強者ではありますが、殊、陸
 戦に於いてはまだまだ第一線級の中長距離戦闘能力と卓越した戦術指揮能力を維持し
 ております。
 特に戦術指揮能力を計上するに重要な処理能力は優秀この上ありません。例えば、こ
 こに集まった機動兵器を見渡しましても私ほどの処理能力を持つ機体が無いことから
 もそれは証明されています』

「嘘云え、単純な処理能力なら【OZ】の連中が持ち込んで来た機体の方があるだろう」

 ブルはそういって、残り8割を占める【リーオー】【トラゴス】【エアリーズ】といっ
た【OZ】が持ち込んできた特殊改装を施されているMS群を指差した。

『ブル、失礼ですが恋愛や通信販売などで失敗したことがおありでは?』

 息を詰まらせるブル。確かに彼にはそんな経験があった。特に腐れ縁が本当に腐って
糸ひく仲になってしまった、連邦軍特殊部隊テキサスエアレンジャース所属のニム・ア
リエラ曹長との事を考えると尚更そういう気がしないでもない。

 少し不機嫌な声を作って、ブルは聞き返す。

「…どうしてそう思う」

『メーカーのセールストークに騙されてはいけません。
 ピーク性能は確かにあるようですが、それは瞬間最大風速的なモノです。私のような
 連続維持可能な性能を表したモノではありません。
 そんなシステムに平均負荷の掛かる自律戦闘システムを組み込むとは…いやはや【O
 Z】の方々のされることは理解しがたいですな。
 まぁ、機体構造そのものにも問題がありますし、こうして使い捨てにした方が人道的
 かも知れませんが…彼ら(【OZ】製機動兵器)は乗員の生存性に重大な問題があり
 ます』

「…そーかよ。しかし、機械のお前に人道的って云われるなんて、イヤな時代になった
 モンだなぁ」

『皆様の教育と経験の賜物とご理解下さい』

「…良く出来たヤツだよ、お前は」

『はっはっは、ようやくワタシの偉大さに気付かれましたか』

「‥‥‥」

『…おや、少し話が過ぎたようですな。
 そろそろ積み込みのお時間のようです。
 お別れです、ブル』

「そうか……じゃあ、いっちょ最後のご奉公に行ってこい」

『了解です。古強者の心意気、【OZ】連中の麦藁頭に見せてやりましょうとも』

「おう、行ってこい。
 そして東京の隠れDC共を叩き出してやれ、みんなが安心できるようにな」

『当然です、私はそのために製造されたのですから。
 では、いって参ります。ニムに宜しくとお伝え下さい』

 これが第一次地球圏大戦より共に戦った、根本的に生まれの違う無二の戦友の別れだっ
た。


                :

「ほう……M−5シリーズですか」

 ミディア輸送機に積み込まれる【ガンヘッド】に目を留めて、【OZ】より派遣され
てきたツバロフ技師長は目を細めた。長身に撫で上げた銀髪が似合ってはいたが、50
前後とは聞いている以上に不健康そうな顔色と弛んだ頬肉が台無しにしていた。

「失礼、我々はあの機体を74式半自律機動戦車と呼んでおります」

 話の腰を折られたツバロフは、戦自幹部のその言葉に面白くなさそうに応じる。

「なるほど、M−5のJSDF(自衛隊)ヴァージョンはその様な呼ばれ方をしております
 か……失礼しました、流石は音に聞こえしJSDFだ。名の付け方にも筋が通ってらっ
 しゃる。我々は出来ぬ手間を掛けられますな、たかが機動兵器の呼び名一つに」

 ツバロフの言い振りに戦自幹部もまた彼への理解を深めたらしい。だが、一々相手に
する愚は犯さない。この手の尊大な輩は出来るならば勝手に増長させておくに限る。そ
うすれば勝手に満足してしまうのだから、好きだの嫌いだのはこの際目をつぶることに
する。なんと言っても無償で機動兵器4コ増強大隊程の戦力を供出してくれているのだ。
この程度は義務の範囲内であろう。

 戦自幹部は短く同意する事にした。

「…全くです」

 案の定ツバロフ技師長は勝手に満足したらしい。これを好機と見た戦自幹部はいくつ
かの質問を試みる。

「いくつか教えて戴きたい点があるのですが」

「ほう……私に答えることが出来ることならばいいでしょう」

「渡された資料を見る限り、有人機で構成された部隊ともあらゆる面で互角以上の戦い
 が出来るとのことですが、本当でしょうか?
 74式の実績をよく知る自分には、信じられないのですが」

「ああ、この事ですか。
 確かにM−5の体たらくを見ればそう思われるのも無理はないでしょう。確かにアレ
 は近年の乱戦傾向の強い機動兵器戦に適合しているとは言い難いシステムでした。
 ですが、我々の【モビルドール】システムは違います。損害に弱い集中処理型であっ
 た【ガンヘッド】システムの轍を踏まぬよう、適切に分散された能力を各機に実装す
 ることにより、高い状況適応能力と状況判断能力を両立させた事は疑いようもありま
 せん。
 そして、我が社の開発した50ft級MSは高い能力有しており……」

 機嫌良く演説を続けようとしたツバロフだったが、荒々しく駆け込んできた伝令に遮
られた。

「報告いたします!」

「何事だ! 取り込み中だぞ!」

「申し訳ありません、ですが緊急信があったモノで」

 上官の叱咤に恐縮しながらも、弁明する伝令。その姿をみて戦自幹部は気を取り直す。
彼は彼の義務は果たしているだけなのだ。別段問題無いではないか。彼は先を促すこと
にした。

「何? で、内容は」

「第三新東京にて敵性体出現。現在、【ネルフ】主導により迎撃作戦が展開されている
 とのことです」

 内容は酷く面白くないモノであった。ここ数年ほどで急激に力を増した連邦軍非公開
組織。本来ならば日本行政府に属する自分達が関知するところでは無いはずだ。だが、
与えられたその特権から、そうも行かない。伝令の持ってきた内容も多分そうなのであ
ろう。彼は不躾に応じた。

「それがどうした」

「ですから、我が隊にも出撃待機命令が届いている訳でおりますので……」

 命令を聞いてしまったからには果たさねばならない。それが自分に課せられた義務だ。
だが、状況が許さねば、それはそれでしょうが無いだろう。不可抗力というヤツだ。

「そうか。ならば、その様にせねばならんな」

「はっ!」

「では、ガンヘッド隊・【OZ】貸与機以外は出撃準備!」

「はっ!」

「宜しい。だが……」

「何でしょうか?」

「外を見てわかるように今我が基地は非常に過密状態である。事故を起こしては大事に
 なる。作業は慎重に、と通達するように。
 慎重に、だ。判るな?」

「…了解しました」

 何かの了解が戦自幹部と伝令の間に成立したらしい。得心した表情で伝令は基地に命
令を伝えに行った。

《さて、何を了解したのかな》

 彼はそんな事をふと思った。

 元々重装備で占められるこの部隊の出撃準備は酷く時間が掛かる。その作業を更に慎
重に行うのだ。それはもう戦術的には気の遠くなるような永遠に等しい時間を消費する
ことだろう。だが、それもしょうが無い。万が一事故を起こしては元も子もないのだ。
決して気に入らない連中にアゴで使われるのがイヤな訳では絶対無かった。

 命令の件はそれで区切りをつけ、非礼を詫びることにしよう。少ないとも気前の良い
スポンサーにその程度のサーヴィスはしてもいいだろう。

「失礼しました。任務でありますのでご容赦願います」

「いやいや、任務ご苦労様です。
 しかし、【ネルフ】ですか……一体何と戦っているのでしょうな」

「自分には判りかねます」

「そうでありましょうな。
 彼らの開発している機動兵器は湯水のように予算を必要とするらしいときいております。
 大方追加予算要求のために居もしない敵と戦っているのでしょう。
 まったく見苦しい限りですな」

「自分は何も言えません」

 訳知り顔でツバロフは再び頷いた。

「素晴らしい。貴官こそ軍人の鑑と言うべきでしょうな。【ネルフ】の方々も貴官を見
 習うべきだ。そして役立たずの機動兵器などさっさと開発中止して、例えば我が社の
 MSと【モビルドール】システムの導入をするべきだろうと言わせて貰いたいですな。
 それが、世のため、人のためと言うヤツでしょう。
 くくく…」

 ツバロフの言葉に戦自幹部は微かに嫌悪感を浮かべて、ソレ以上に同意を添えて小さ
く頷いて見せた。



<第三新東京市>      


 【ネルフ】保安二課所属MS小隊【ゴールキーパー】隊長・相田マサル二尉は、戦域
モニターをまんじりともせず、見続けていた。

『隊長ぉー、【ロンド・ベル】の連中巧いことやってますね。
 結構ダメージ与えてる見たいですし、ウチらも出ますか?』

 サブウィンドウでは、僚機の流三尉が物欲しそうにしてそう聞いてきた。

 彼も出来ることなら出撃したい。だが、隊長である自分がそんなことではいけない。
スペシャルメイドマシン活躍の影響からか、日本の機動兵器隊には英雄願望が蔓延して
いるところがある。

 どのような状況でも士気に不足を感じないのは、民族的に想像力が欠如しているので
は、と疑わざるを得ないが、前線に出る人間としてはそれなりの利点かも知れない。が、
それを差し引いても指揮権を無視した行動は問題が有り過ぎる。

 強烈な誘惑に耐えながら、彼は感情を押し殺して流三尉に答えた。

「まだ、出撃命令は出ていない」

 新たなサブウィンドウが二枚開く。第二分隊の甘木三尉、加賀三尉だ。

『少し杓子定規すぎるのでは?
 自分達もそろそろ存在理由を満たすべきだと考えます』
『そうっすよ、相田隊長』

「お前ら、少しは自重しろ!」

『『『でも…』』』

 ついに心の中の堰が決壊させた相田二尉は、口調を激変させて怒鳴り倒した。

「でぇーい、やかましい!
 命令違反でテメェら全員重営倉送りにするぞ!
 大体、判っているのか!?」

『『『はっ?』』』

「戦域モニターをよく見てみろ!
 前面に立っているのは、あのヘビーメタルモドキ2機と【ReGZ】だけで、スペシャ
 ルメイドマシン連中は周りで牽制しているだけだ。
 これはどういうことか、判って言ってるのか?
 最低【ReGZ】程度の機動性がないと足手まといなんだよ!」

『『『‥‥‥』』』

 相田二尉の戦況分析を聞いて、三人は沈黙した。

「わかったなら各機、戦域モニターと通信回線に注意しろ。
 いつ出撃命令が出るかも判らんからな。
 それに、見ているのも戦いだ」

『『『了解』』』

 そう言って向けた戦域モニターには、新たなEVAの登場が示されていた。


                :

「やっと、出て来たか…」

 【ゲッター2】メインパイロット、神隼人は【第三使徒】に気を付けながら、そう呟
いていた。広域通信回線では指揮所からの威勢の良い指揮振りが漏れ聞こえてくる。

『エヴァ零号機、リフトオフ!』
『はい!』
『零号機が臨戦態勢に入り次第、初号機の回収を!
 アスカ、初号機のリフトオン作業よろしく!』
『えぇーっ、アタシがぁ!?』
『そうよ、頼んだわね!』

 彼らゲッターチームは【ゲッター3】にて【第三使徒】を取り逃がした後、高速陸戦
形態である【ゲッター2】へとチェンジゲットして、後を追い掛ける。

 だが、追い付いたときには、既にダバ達が交戦していた。

 いくら高速陸戦形態の【ゲッター2】ととは云え、流石に通常出力ではヘビーメタル
やニュータイプの乗るMSと同レベルの機動性は無い(但し高速走破性能は勝るとも劣っ
ていなかった)。かといって、"マッハヴィジョン"と呼ばれるオーバーブースト状態は
酷く発動状態に制限がある。ただ避ければいいのならば問題無いが、足止めするのが目
的である今この場には余り向いてはいない。

 仕方なく、今はほぼ同タイミングで戦場に到着した【マジンガーZ】と共にダバ達の
脇を固めている。

 EVA零号機の登場でそろそろこの戦いにもケリが付くかと思ったときだ。

 【第三使徒】の身体がブレた。

「マズいっ!!」

 殆ど反射的に隼人は【ゲッター2】を機動させる。

『何だぁっ!?』
『おぉぉぉっ!?』

 同乗者の叫びにも躊躇せず、隼人は先ほどまで【使徒】のいた地点と初号機回収作業
を行っている地点とを結ぶ直線上に機体を割り込ませた。

 次の瞬間、轟音と衝撃が【ゲッター2】を襲う。メインスクリーン一杯に広がる赤い
半透明な壁の向こうに【第三使徒】の姿が大映しになっていた。

「‥通すわけには‥‥いかんのでな‥‥‥」

 隼人の言葉は力みからか、途切れ途切れだった。

 ドリルアームとA.T.フィールドを介して、【ゲッター2】と【第三使徒】の壮絶な押
し合いを繰り広げる。

 【第三使徒】の急機動に置いてけぼりされたダバ達からの通信がそれを追いかける。

『『ジンさん、今行く!』』

 ダバとジュドーからの連絡だ。

「早くしてくれ……そうはもたんぞ」

 隼人の冷静な分析が現状を的確に表現する。

 【第三使徒】は【ゲッター2】より一回り小さい程度の 35mクラスだ。一見すれば十
分体格差で圧倒できるように思える。

 だが、高速走破性能及び機動性能を追求したこの形態は、パワーでは飛翔形態である
【ゲッター1】にすら劣る。最もパワー重視の形態である【ゲッター3】とすら力比べ
が可能な【第三使徒】相手では分が悪かった。

 それは今証明されている。【ゲッター2】は徐々に押され始めていた。

「竜馬、弁慶! オーバーブーストだ!
 出力を上げてくれ、このままではダバ達が追い付く間すら稼げん」

『『応っ!』』

 【ゲッター】の機体に納められているゲッター線増幅炉が唸るような振動を立てて、
フル運転を開始する。

 【ゲッター2】が先ほどまでとは逆に【第三使徒】を押し返し始めた。

『イケるぜ、隼人!』
『押し返せぇ〜っ!』

「応ぉぉぉぉぉお!」

 更に【ゲッター2】は【第三使徒】を押し返していた。後方にはダバ達のヘビーメタ
ルも近付いている。手にしたセイバーを煌めかせて、【第三使徒】の背後を襲おうとし
た。

 その時だった。

 【第三使徒】の展開していたA.T.フィールドが傾斜した。渾身の力を出して押してい
た【ゲッター2】のドリルアームが派手な火花を散らせながら、傾斜した赤い防壁を滑っ
ていた。

「しまったぁぁぁぁぁあぁっ!」

 そのまま【ゲッター2】はバランスを崩して、前方へと倒れ込む。【第三使徒】を押
さえ込もうとして、上滑りした力は【ゲッター2】に体勢の立て直しを許さなかった。
豪快に倒れ込む先には、間の悪いことに斬り掛からんとしていたダバ達のヘビーメタル
とジュドーの【ReGZ】が存在し、彼らは揃って激突・転倒していた。


                :

『しまったぁぁぁぁぁあぁっ!』

 【ゲッター2】パイロットの臍を噛む声が発令所に響く。
 知恵を付けているとは思ったが、まさか戦闘中にA.T.フィールドの使い方の応用まで
やってのけるとは。その可能性をミサトも考えないではなかったが、その確率は極めて
低いと考えていた。ついさっきまでは。

 だが、今はその様なことを考える贅沢は許されない。

「マズい!」

 モニター上のリフトへはまだ初号機の固定が行われているところだ。固定作業をして
いるEVA両機とも無防備といって良い。

 即座にミサトは手を打ち、指示を下す。

「シンジ君! 初号機に【使徒】を近づけないで!」

『いいや、止めるのは俺だぁぁぁぁあぁっ!!』

 小さな影が【第三使徒】の横から飛び着き、その突進を遮った。


                :

 気合い一閃と共に【第三使徒】に取り付き、その突進を止めたのはドモン・カッシュ
の【シャイニング・ガンダム】だった。

『少し出遅れたか…いや、丁度良かったか?』

「えっ、誰よ!?」
『ドモンさん!?』

 一瞬呆気にとられたアスカだったが、素早く立ち直り状況を即座に読みとる。そして
15m級機動兵器で 35m級に肉弾戦を挑む大馬鹿者を怒鳴りつけた。

 射撃戦やビームサーベルなど使った白兵戦ならともかく、肉弾格闘戦ほど機体重量が
モノを云う局面はない。どう贔屓目見ても勝ち目はない。幾らなんでも、体格差があり
過ぎる。まぐれ当たりの一発ですら、ドモンの機体には致命傷となるだろう。

「アンタ、すぐ逃げなさいよ!!
 そんなちっさいマシンじゃ、潰されるわよ!」

 アスカの言葉にドモンはニコリともせず不愛想に答えた。

『潰される…誰が、だ?
 目を開いてよーく見てるんだな!!
 たぁぁぁっ!!』

 アスカは自分の目を疑った。

『とぅりゃぁぁぁあぁあぁぁぁっっっっ!』

 ドモンの【シャイニング・ガンダム】は、質量比で軽く10倍を超える相手を持ち上
げ、豪快に投げ飛ばした。たとえるなら、人間が象を投げ飛ばすよりも非現実的な光景
だ。

 アスカは思わず、呟いていた。

「…嘘ぉ」

『たとえ、相手がこちらの十倍の力を持っていようが、その使い方を知らねば何のこと
 はない。木偶と変わらん!
 暫くアイツと遊んでてやる、ゆっくりしてろ』

『はぁ…』
「こらぁっ!
 ちょっと待てぇーっ!」

 シンジの溜め息とアスカの怒号が奇妙にシンクロしていた。


                :

『初号機を回収!
 直ちにリフトを降ろしなさい!』

 その言葉と共に初号機は縦坑へと吸い込まれた。ようやく初号機の回収作業を終えた
アスカ達は、【第三使徒】殲滅へと向かそうとする。

 初号機をリフトへ固定した後、彼らは兵装換装を行っている。アスカのEVA弐号機
はフォワード向けにソニックグレイブ、シンジの零号機はバックアップ向けにパレット
ライフルを装備していた。

 溜まりに溜まったストレスがようやく発散できると、アスカの鼻息も荒くなっている。
フォーメーションを確認しつつ、息巻いていた。

「ええい、やっと出れる。どこに行ってたか知らないけど、行くわよシンジ!」

『判ってる、アスカ』

 シンジの言葉に少し意外そうにするアスカ。それも一瞬だ。すぐに戦士の顔へとなり、
話を続ける。

「…ふーん、言うじゃない。精々、アタシの足引っ張らない程度に頑張んなさい」

 アスカはそう言って、EVA弐号機を駆け出させる。シンジもその後を追ってフォー
メーションを維持した。

 暫く駆けると、【使徒】が暴れる姿が見えた。だが、その姿はむしろ群狼に襲われる
哀れな獲物のような有様だった。

『てぇりゃぁぁぁあぁっ!』
『どっちを向いている! こっちだぁぁ!』

 大言するだけはある。ドモンは【シャイニング・ガンダム】の極めて優れた機動性能
を活かして、【第三使徒】に近接格闘戦を挑み続けていた。

 【第三使徒】との間合いは殆ど密着と云って良い。並のマシンであれば、質量差で圧
倒されているところだが、ドモンは違った。

 右へ左へ、前へ後ろへ。
 変幻自在の動きは【第三使徒】を完全に圧倒していた。

 【第三使徒】の体がブレる。

『遅いっ! 一々動きを止めて、動くな!』

 急機動したかと思うと、ドモンに蹴り飛ばされる。動きを読んで与える一撃がカウン
ターになっているようだ。そのまま、ドモンは体勢を立て直す間も与えず、連撃を繰り
出す。

『ふん、キサマ! それで防いでいるつもりかぁぁぁぁっ!』

 究極の防壁A.T.フィールドすら、満足にその役目を果たしていなかった。
 【第三使徒】がドモンを押し返せるような強力なフィールドを展開しようとすると、
素早く回り込みをかけられて、フィールドが手薄になった部位に痛撃を受ける始末だっ
た。

『…凄い』

 アスカも一瞬そう思わないでもなかったが、気を取り直して状況を分析する。

「何言ってるのよ。押しているように見えるけど、あれじゃ倒せないわ!」

 確かにドモンは【使徒】を翻弄していたがそれだけだ。致命傷を与えていない。いず
れ動きが鈍ったところで逆襲を受けるのは、目に見えている。 15m級では幾ら強靱な装
甲で有名な【ガンダム】といえど、行動不能は必至だ。

 アスカは通信回線を開いて、ドモンを呼び出した。

「アタシ達の出番よ!
 下がって!」

『やっと来たか…だが、遅いっ!』

「どきなさいっ!
 今は押してるようだけど、そんなのかすり傷よ! 判ってんの!?
 それに、そいつはアタシの獲物なの!」

『…? おぉっと!
 どーいう意味だ!』

 訝しむ間に【第三使徒】の攻撃を貰いかける。

「アタシはそいつら【使徒】を斃すために選ばれたんだからっ!
 アタシがっ! 【使徒】を斃すの!!
 それだけは、絶対っに譲れないっ!!」

 アスカの様子を見て、ドモンは一瞬何かを危惧するような表情をした。そして何かを
読みとったようだ

『…なるほど。
 いいだろう、見せて貰うぞ』

「ぐだぐだ云わずにさっさと退くっ!」

「シンジ、やるわよ!
 アンタ弱っちぃんだから、気合い入れなさい!
 あんな手負いに殺られたら、承知しないわよ!」

『うっ、うん!
         
 来た!』

 発令所メインスクリーンには後退する【シャイニング・ガンダム】には目もくれず、
EVA零号機へ猛烈な勢いで間を詰める【第三使徒】が映っていた。


                :

「うっ、うん!
         
 来た!」

 シンジは手に持つパレットライフルを持ち構えて、【第三使徒】を迎え撃つ。

『シンジっ!
 ヘマしたら、承知しないわよ!』

 アスカの叱咤がシンジを打つ。
 そんな緊張感すら、今のシンジには心地よかった。

『EVA両機、【使徒】交戦圏に突入!』

「フィールド全開!」

 シンジは取るべき行動を口にして、集中を強化する。強化された意志はEVAに力を
与え、展開されるA.T.フィールドはその出力を増した。

「今よっ!」

 途端に迫り来る【第三使徒】の展開するA.T.フィールドはその輝きを弱める。シンジ
は【第三使徒】が間合いに入ると同時に発砲を開始した。

 【使徒】へと伸びる火線。
 だが、案の定、それはあの急機動にて避けられた。

 シンジは反射的に動こうとした。

        !」

 パレットライフルが部品と破片をバラ撒いて、スクラップへと成り果てた。
 運良く、【使徒】の一撃は避けられた。

 だが、ここで誤算が生じた。致命的な誤算だ。

「動きが鈍い!?」

 今彼の乗るEVA零号機は元々廃棄予定すらされていた実物大動作検証用の実験機だ。
開戦その他によってEVA量産のスケジュールに狂いが生じたために、急遽改装され戦
線に投入されたものの、その性能は対使徒戦に於いては数合わせ以上のモノでは無かっ
た。

 ましてや、パーソナルデータを書き換える事によって通常動作は何とか誤魔化しが効
いているとは云えはいえ、十分な調整をしていない機体である。戦闘機動に支障が出な
い訳がなかった。

「どうして、こうなるっ!」

 シンジは自分が【第三使徒】とまともな戦いが出来ないことを覚悟した。これまでの
彼であれば、恐慌に陥ったかも知れない。が、あいにく今日の彼は人生観を変えるよう
な出来事が許容量を遙かに超えて感覚的に飽和しきっており、いわゆる"ハイ"状態へと
陥っていた。

《なら…!》

 それは結果として、彼に捨て身の攻撃を選択させる。シンジは取り出したプログナイ
フを相手に突き立てることだけに意識を集中した。

『シンジ、動くなぁっ!』

 思わず硬直するシンジ。

『てぇぇえぇぇぇいっ!』

 【第三使徒】が零号機へと体勢を立て直したところへ、アスカの雄叫びと共にEVA
弐号機がソニックグレイブを手に猛然と斬り掛かった。

『そら、そら、どうした!』

 不意を衝かれた格好となった【第三使徒】は、EVA弐号機の、と言うよりはアスカ
の気迫に圧倒されていた。

『それで終わり!?
 とっくにパターンはお見通しなのよ!
 さっさとくたばれぇぇぇっ!!!』

 時折、あの急機動をしているらしいが、【使徒】にも行動限界点があったらしい。既
にキレが無くなっていた。先ほどのドモンの戦いを見て、既にパターンを読める様にな
り、MAGIの支援を受けるアスカにことごとく遮られる。

「‥‥‥」

 タイミングを外されて惚けていたシンジにミサトに指示が飛んだ。

『シンジ君、アスカのバックアップ!
 いつでも援護できるよう、モニター上のポイントへ!』

「はっ、はい!」

 いつの間にか【第三使徒】は、壁際と言うか正確には兵装ビル際に追い詰められていた。

 アスカは自らの勝利を確信して、必殺の間合いへと足を踏み出す。

『トドメぇーっ!!
           !?』

 アスカが声にならない悲鳴を上げた。シンジはその瞬間【第三使徒】の右腕痕から伸
びる数条の黒い筋を見た。そのいくつかはソニックグレイブにて切り払われたが、2本
ほどがEVA弐号機の左上腕部を貫く。

 ひるんだその隙に【第三使徒】は触手を切り離して、その場を飛び退いた。

「! この程度ぉっ!」

 そう言ってアスカが使徒を追おうとした時だ。EVA弐号機の腕を貫いたまま切り離
された触手が爆発した。

『ひぃっ‥‥あぁあぁぁぁぁっ!』
『EVA弐号機、フィードバックレギュレータ機能不全!
 痛覚変動が瞬間、リミットを超えました!』

「アスカっ!
 このぉぉぉぉぉぉっ!」

 EVA弐号機へトドメを刺そうとする【第三使徒】へ吶喊(とっかん)するシンジ。
先程述べたように防御のことなど何も考えていない。捨て身の突撃だ。

 プログナイフが【第三使徒】を抉ろうとする瞬間、【第三使徒】もシンジの突撃に気
付き、身体をひねった。

『マズイ!!』
『ちぃぃぃっ、失敗したか!?』

 間一髪シンジ渾身の一撃を避けた【第三使徒】はお返しとばかりに左腕をEVA零号
機の右胸部に押し当てる。次の瞬間、あの初号機の眼窩を貫いた光のパイルがEVA零
号機の胸を貫いていた。

「うわぁぁぁぁぁぁっ‥‥‥あぁぁぁぁっ!!!!

 シンジは悲鳴を上げながらも胸に奔る痛みを無視して、手にしたプログナイフを眼窩
を光らせんとした仮面に突き立てた。空いた手は空いた手で【第三使徒】の手を抱えて
組み付く。

『シンジぃ!?』
『シンジ君!!』
『しっかりしろ、傷は浅い!!』
『ひるむな、いけぇっ!!』

 外野が叫んでいる間にも、【第三使徒】の触手が次々と零号機を貫く。

「あぁぁぁぁっ!! アスカ、早くぅぅぅっ!!」

『!! シンジ、そのままっ!!』

 シンジの意図に気付いた -捨て身で組み付き【第三使徒】の動きを止める- アスカは
一気に間を詰めて、【第三使徒】のコアを狙ってソニックグレイブを突き出した。

『今度こそ、死ねぇぇぇぇぇぇっ!!』

 アスカのソニックグレイブは【第三使徒】のコアを貫く。コアは一瞬、輝きを増した
と、思うと光を急速に弱めて、やがてただの石ころと化した。

 アスカは視線で殺せるモノならば、殺すような勢いで動きを止めた【第三使徒】を睨
みつけている。

 やがて、日向の報告が静かに回線に流れていた。

『…目標の沈黙を確認』


<7話Fパート・了>



NEXT
ver.-1.01 2001/11/25 公開
ver.-1.00 1999_04/13 公開
感想・質問・誤字情報などは こちら まで!


<作者の懺悔>

m(__)m

作者  「え〜…….作者の構成力の欠如からFパートで終わるはずがもう一パート
     必要となりました。
     なさけなや……」


今回はオマケはGパートと統合するので無し!







 Gir.さんの『スーパー鉄人大戦F』第七話Fパート、公開です。





 よっしゃ!

 よっしっっ!


 ついに撃破!
 やっと撃破!



 使徒を倒せたよ(^^)

 沢山のマシン、沢山のパイロットが力を合わせて、
 時間を稼いだりなんかして、

 最後、
 シンジが。シンジが、でて・・・


 はぁよかったですぅ☆



 クライマックス盛り上がって、
 あとはエピね♪



 それとももう一波乱あるのかな?!





 さあ、訪問者の皆さん。
 初のGパート突入,gir.さんに感想メールを送りましょう!




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