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「ここが【チキュウ】ね。
 余り好きになれそうもないけれど、これも任務。
 好き嫌いは言わないわ」

 自分に言い聞かせるように呟く女がそこにいた。
 その狭っ苦しい圧迫感には事欠かない機動兵器コックピットの中で、深い赤色の髪を
持ち、やや幼い顔立ちをしている女性が居た。左目を覆うように掛けているアナライザー
が、かなり特徴的であった。

 彼女の呟きは続く。

「彼我の戦力比は、10.823対1。
 攻撃側三倍の原則は十分満たしているわね……(相手が)要塞に籠もってても勝て
 るわ」

 転送直後のチェックに追われる彼女の目の前で、不格好な飛行戦闘艦がもう一方の戦
闘艦に激突した。その飛行戦闘艦は盛大に火を吐いて地面へ激突する光景が広がる。

「やだ、【チキュウ】人同士で戦闘中だったの?
 ……? スカウトのAI壊れたのかしら。この事、報告には入っていないじゃない。
 計算外ね、こんな状態で良い戦闘データが取れると良いのだけれど……」

 そういって彼女は小さな頤(おとがい)に指を当て、目当ての品を逃した主婦のよう
に少し困った顔をした。だが、それも一瞬だった。素早く気を取り直したらしく彼女の
知性的な口調が響く。

「いいわ。どんなデータでも、無駄にはならないでしょう。
 さて【チキュウ】の皆さん、頑張って下さいね。
 期待していますわよ」

 彼女は、自分たちの完全勝利を露ほども疑っていなかった。






スーパー鉄人大戦F    第六話〔突破:Escape from the crisis〕
Fパート


<テンシャン山脈ジュウガル盆地>      


「被害報告!」

 【グール】激突の衝撃から一番に立ち直ったブライトが開口一番に怒鳴った。

「右舷カタパルトブロック損傷。下三番砲塔脱落!
 メガコンデンサ損傷、ハイメガ砲使用不能!
 R31からR43ブロックにかけて火災が発生している模様。
 ショウ・ザマがやってくれました、被害は最小限で済んでいます」

 ブライトは、被害報告に素早く反応する。

「自動応急装置の作動しない区画へダメージコントロールパーティを急がせろ!
 人的被害は!?」

 青葉が即答する。

「被害ブロックには人員を配置していなかったので、特にありません!
 衝突の際の衝撃によって、若干名が負傷したことぐらいです」

 その間にも、ブライトの指示は飛ぶ。

「サエグサ、ダメコン指揮は任せた。
 葛城少佐、戦術指揮を!」

 サエグサはブライトの指示にハンドサインで答え、任務を果たす。
 一方ミサトはブライトに云われるまでも無く、状況を把握して統率を取り戻そうと精
力的に動いていた。

「日向くん、敵戦力は!?」

「ポセイダル軍らしき敵集団、総数不明!
 少なくても百のオーダーは超えています!
 肉眼にて確認中ですが、下手をすると二百を超えているか可能性があります。
 DC残党は、撤退した模様!」

 日向の報告が響いた、その時だった。

うわぁ〜〜あぁぁぁ!!!

 シンジの絶叫が響いたかと思うと、位相空間が肉眼で確認できるほどの強度で展開さ
れて、EVA初号機を包んだ。もはや肉眼で確認できるなどと云う生易しいレベルでは
無い。完全に実体化して、可視光線すら殆ど通していなかった。

 と、同時に一切の通信が途絶。
 シンジの様子はもちろん、EVA初号機のあらゆるレベルのモニターが不可能となる。

 回線越しにマヤの報告が【アーガマ】ブリッジに響いた。

『EVA初号機通信途絶!
 全リンク切断、パイロット生死不明!』

「リツコ!!」

 エヴァの指揮と【ロンド・ベル】の戦術指揮。
 果たすべき責任の狭間で苦悶する、ミサトの叫びが響いた。

        :

『リツコ!!』

 一方、エヴァのみに責任を負うリツコは多少マシだった。だが、勤務中の彼女にある
まじき様相で焦りを露わにしている。

「どういうこと?」

「わかりません!
 レーザー、電磁波、その他全て反応有りません!」

 マヤがウィンドウに映し出される情報を見て、答えるが役に立たない。

「正に結界ね。
 パイロットの様子は?」

「パイロット及びEVAの状況が一切判りません!
 何も反応してくれないんです!」

「アスカ、何か判る?」

 呼ばれたアスカは、取り込み中であった。
 シンジに向かって激しく呼び掛けている最中だった。

シンジ、シンジ!
 判らないわよ、敵を倒して急に動かなくなったんだから!
 シンジ!いい加減にしないと怒るわよ!

「……どういうこと何でしょうか?」

《暴走!?精神汚染!?》

 一瞬不吉な考えがよぎる。

《いや、違う……》

 だが、少し冷静さを取り戻して分析し直して、それを否定する。

「……判らないわ、今は取り敢えずアスカとレイに初号機のA.T.フィールドを中和す
 るように伝えなさい!」

「両機とも作戦行動中です!」

 作戦行動中のエヴァに対して、技術部は大した権限を持たない。
 基本的に作戦部への勧告といったレベルでしか関与出来ないことになっている。

 しかし、時と場所と場合をわきまえないアホウが、【ネルフ】技術部々長になれる筈
が無い。火事場で杓子定規な規定を守るようなバカが、E計画を任されよう訳も無かった。

 リツコは力強く宣言した。

「私の責任で命じます!
 急ぎなさい!」

        :

「アレは、ヘビーメタルには見えないな。ポセイダル軍じゃないのか?
 【インスペクター】のヤツに似ている。……どう言うことだ?」

 【ロンド・ベル】機動戦闘団隊長アムロ・レイ少佐は、やたらと飛び回るハリネズミ
のような飛行型機動兵器を見ながら、呟いた。どちらかというとノッペリとしているポ
セイダル軍機動兵器とは全く異なるやたらにトゲトゲした意匠をしている。明らかに違
う文化の産物にしか見えない。

「だが、ヘビーメタルも居る……判らないな」

 無論ハリネズミモドキは飛び回っているだけではない。時折激しい戦闘機動を行いな
がら、地上掃射を仕掛けてくる。

 その様な攻撃など、歴戦の強者であるアムロに当たるはずは無い。
 ステップ操作のみであるにも関わらず、最小限の動きで攻撃を避ける。その様子はあ
る種の華に満ちていた。血で血を洗う戦場でしか咲かない悲しい華ではあったが。

「……動きが悪い……このザラついた感じ……こいつら、無人機か!?」

 アムロは、愛機の操縦桿を握った。

 表示されている各種情報など全く無視するかのように、ごく自然にトリガーを引くア
ムロ。一瞬の間を置いて不格好な敵機動兵器は装甲が薄いらしい背部から撃ち抜かれ、
一撃の下に撃墜される。

「ひとつ……」

 僚機が落とされていた間隙を縫って、新たな敵機がアムロを狙う。だが、その行動は
アムロには見えているようにして把握されていた。先程と同じように最小限の回避行動
を取り、攻撃を回避する。回避行動中に放った攻撃もまた敵へ突き刺さり、行動不能と
する。

「ふたつ……」

 本日二機目の撃墜機を確認しつつ、アムロは戦場を見渡し指示を出した。

「アムロだ。連携を断たれるな。数が多い、殺られるぞ!
 火力支援チームは、【アーガマ】から離れるな。
 第一小隊【アーガマ】左舷をカヴァーしろ。
 第二小隊は右舷だ。ダバ君、後方からのヘビーメタルは任せた」

 【アーガマ】正面に居る甲児達に特に指示を出さなかった。リツコからの連絡も入っ
ていたし、動かす必要が無いと思ったからだ。

 アムロの戦いは、始まったばかりだった。

        :

「【チキュウ】のマシンにしては、良い動きをしているのが居るわね」

 戦域指揮用に機体各所の至る所に据え付けられたセンサーからの情報を見て、セティ
は呟いた。

 彼女が見つけたのは、生き残った戦闘艦から激突寸前に飛び出した人型機動兵器だった。

 目に留まったのは偶然だ。
 戦域情報をチェックしたときに目に付いた。ただそれだけだ。

 しかし目を留めた瞬間である。瞬く間に二機の【ガロイカ】が撃墜された。それは本
当の戦いを知らないことから、やや楽観的な見方をする傾向のあるセティの目から見て
も、感嘆するほどアッサリとだ。

 その美しさに彼女は思わず魅惚れた。

「……キレイ」

 【チキュウ】製機動兵器の例に漏れず、武骨で古臭いデザインの機体だった。

 やや派手であるような気がするが、基本的に野蛮な感じのする華のない塗装の施され
た機体だった。

 他にも似たり寄ったりの機体が見受けられている。何のことは無い只の人型機動兵器
である筈だった。

 だが、別次元の存在で在るかのように、彼女にはその機体は際だって光るように見え
る。その輝きは、セティの精神を揺さぶった。

 彼女は食虫植物へ惹き寄せられる昆虫のように、その機体へと惹き寄せられていった。

        :

「くそ、弾幕薄いぞ!!
 対空砲火どうなってんの!?」

 被弾したショックで揺れるブリッジで、ブライトは怒鳴った。
 無論【アーガマ】も【ロンド・ベル】戦闘団も奮戦している。だが、圧倒的な戦力差
はそれを覆すまでには至っていない。徐々に押され始めていた。中でも【アーガマ】は
一番酷い。その巨体のため戦場の何処からでも見えることから、標的とされ易い事が原
因だ。

 大きさだけなら【グラン・ガラン】の方が遙かに大きいが、この艦には光学兵器が全
く効果を発揮していない。そのため当初は【グラン・ガラン】の方へ攻撃が集中してい
たが、やがてパッタリと攻撃が止み、その矛先が【アーガマ】へ向けられた。そういう
事だった。

「こっちの対空砲が効いていません!
 弾かれています!」

 日向が半分悲鳴のような報告をあげる。
 その報告にブライトは毒づく。

「見せかけだけに拘っているから、こうなる!」

 ブライトの云っていることはこう云うことだ。

 第一次地球圏大戦後に建造された【アーガマ】は、あるべき次世代の艦艇として期待
された。そのため見た目も重視され(これはさして珍しくない。やはり戦闘艦が強そう
に見えないのは、『存在することによって相手に脅威を与える』と、いう最も基本的な
任務を果たせなくなる。軍にとっては死活問題に関わる極めて現実的な問題だ)、無様
な印象を与える機銃座は全廃されていた。その代わりに艦体の至る所に拡散メガ粒子砲
を装備していた。いたる所に設置されていることから判るように出力自体は大したこと
は無い。精々敵機動兵器の防御の薄い所、例えばセンサーを潰す事が出来る程度だった。

 これはこれで至極正しい判断といって良かった。

 当時既に戦闘艦艇が機動兵器に敵わないのは、幼児ですら理解しているような常識で
あったからだ。だから、敵機動兵器を撃墜できるような出力の砲を有効な弾幕を形成で
きる必要にして十分な数搭載するような愚を犯さず、敵の攻撃をジャマする事だけに絞っ
て兵装を施した事は賞賛しても良い判断だった。その浮いた重量を他のこと(装甲・機
関出力・機動兵器搭載能力等々)に廻せるからだ。

 だが、それも地球連邦と比較して、対光学兵器対策が異常に進んでいるポセイダル軍
や【ゲスト】を相手にしないのであれば、の話だ。

 【アーガマ】に搭載されているような、極低出力でしかも命中率を上げるためロクに
集束されていないビームでは、撃破はおろか損傷と呼べるレヴェルの損害を与えること
すら出来なかった。もちろん玩具の大砲など、怖がる大人は居ない。なかんずく【アー
ガマ】の被弾率は目に見えて上昇することになる。

 今日この場で昔日の判断のツケを払わされているブライトは、焼け石に水、と思い
ながらも指示を下す。まだ、戦いを止めるわけには行かない。

 勢いだけでも負けないようブライトは、絶え間なく戦闘指揮を続けた。

「チャンバーが灼けても構わん! 対空砲の出力を上げろ!」

        :

 機動兵器の指揮を執るミサトも大変だった。

 本来タイムスケールや運用・運行単位が極端に違う陸空両面の部隊へ指示を出さなけ
ればいけなかったためだ。これは極めて組織だった戦力運用を行う必要のある、今の
【ロンド・ベル】では、致命的であった。

 ミサトは、決断した。

 彼女はこの様な状況に対応すべく、急務である【アーガマ】の防衛のため自分は防空
戦に専念できるようにする為、陸戦部隊の指揮はアムロに任せることにする。

「アムロ少佐、下は任せました。そのまま指揮をお願いします!」

 アムロは短く答えた。

『了解した』

 ここが、彼女の真骨頂であると言えよう。

 混乱した状況に対応すべく、能力を集中する。

 一見容易いと思われる事だが、その為には数々の難題に忙殺される現在の状況では、
他に振り向けられているソレをまわす必要がある。これには自分に与えられた権限を誰
かに渡す必要も当然含まれる。妙な縄張り意識を発揮して、自らの指揮権に拘る凡庸な
指揮官が多いなか、下手をすると無能の烙印を捺されかねない事を、彼女はごく自然に
やってのけた。

 両面指揮の面倒さから開放されたミサトは、シンジやアムロ達の帰る場所を守るべく
当面の脅威に対抗するため、【アーガマ】の周囲で必至に戦っている第二小隊の面々に
指示を出す。

「第二小隊は、相手に振り回されないで!
 彼らの行動は陽動よ、決して【アーガマ】から引き離されないように注意して!」

 第二小隊の面々の返答が即座に返る。

『『『『了解ぃ!』』』』

 そして、ミサトは今日の防空戦の切り札とも云うべき、彼らに指示を下す。
 どうやら光学兵器しか装備していないらしい新顔のネズミモドキが相手だ。うってつ
けと表現して差し支えない組み合わせだ。

「ショウ君!
 あのネズミモドキ、光学兵器しか持っていないらしいの!
 体当たりに注意して、片づけていって頂戴」

『了解だ。
 オーラバトラー隊は、敵飛行部隊を攻撃する。
 間合いに注意して、叩き落とせ!
 行くぞ、俺に続け〜ぇっ!



        :


 彼の目の前には、既に古馴染みといって良い青い骸骨武者が佇んでいた。

 その機体は、A級ヘビーメタル【バッシュ】だ。
 言うまでも無くA級ヘビーメタルへ、パワーランチャーの攻撃など牽制にもならない。

 多少抜けたところがあるが、古馴染みのアイツなら間違い無くそうだろう。同じA級
ヘビーメタルのパイロットであるダバには、それが痛い程良く判っていた。

 彼らの両脇では、B級ヘビーメタル同士が激しい射撃戦を行っている。
 だが、B級でA級に手を出す愚を悟っているのか、ダバ達の間に割って入ろうなどと
する者はただの一機も居なかった。その為そこだけ戦場の空白地帯と化していた。

 なまじ戦況が読めるだけにダバは焦るが、その様なことなど微塵も顔に出さない。間
合いをはかるようにして慎重にジリジリと間を詰める。それは、向こうも同じだった。

 そして、剣撃の間合いに入る寸前で、両機は一気に地面を蹴った。
 その勢いは凄まじく、それぞれの蹴った地面から、爆発したように土煙が巻き上がっ
ていた。

 両機は激しく切り結ぶ。

 開放回線から流れる相手の声は間違いなく、アイツだった。

『今日こそ決着を付けようじゃないか、ダバ・マイロード!』

 ペンタゴナでの奇妙な縁で、古馴染みとなってしまったアイツの挨拶に応じるダバ。

「望むところだ、ギャブレット・ギャブレー!」

 そして、数合打ち合いつつもやり取りが続く。

『ふん、威勢だけはいいのだな。
 だが、お前と一緒に戦っている連中はどうかな?
 戦さをしているのに身内で争うとは……見苦しい限りだな』

「勝手に人の星を攻めに来ておいて、好き勝手なことを云うなぁっ!!」

 ダバを揶揄するように、平坦なゆっくりとした口調で返すギャブレー。

『いけないかよ』

「いいわけ、無いだろぅーっ!」

 ダバの勢いに押されたのか、ギャブレーは素早く間合いを取る。

 再び、睨み合いが続いた。


        :

「なんだぁ……
 ワイリィのヤツ、殺られちまったのか?」

 男が確認するように声を上げた。コアムでの山賊稼業時代からの仲間の識別信号が途
切れたからだ。それを気にしたものは一瞬だった。

「だらしのねえ野郎だ。
 まあ、その方が分け前が増えるってモンよ」

 目端の利かない連中をけしかけた甲斐があった。男は手の掛かりそうなヤツの目を盗
んで、敵の懐深くへ飛び込んでいた。

 呟く男の視界の隅に、獲物が映る。

「大事なモンは、手元に置きたがる……やっぱりな、こんなとかぁ【ペンタゴナ】で
 も【チキュウ】でも、変わらねぇな」

 その男ハッシャ・モッシャの目に止まったのは、白兵戦が基本の彼らから見ると殺っ
て下さい云わんばかりの不格好な機動兵器の一団だった。中には人型すらしていない機
体もある。

「へっへっへ、ここらで手柄を立てなきゃマズイんだ。
 勘弁してくれよ」

 一つ目で茶褐色のB級ヘビーメタル【グライア】のコックピットで、山賊上がりの男
は独り言を、誰に云うともなく口にしていた。

 コアムで乗っていたB級ヘビーメタルよりも更に下のクラス、半作業機とも云うべき
機動兵器【マシンナリィ】を思い出しつつ、ハッシャは独白を続ける。

「連中、こっちに気付いていねぇな」

 強力なコネか、膨大な賄賂が無ければ入れないと云われていたポセイダル正規軍へ一
介の山賊風情が、ギャブレーとか云う若造に付いただけで入れたのだ。自分はツイてい
る、そう確信していた。

「悪ぃな、貰ったぜ!」

 まずは、砲台モドキからだ

 山賊時代からの経験で状況を素早く察したハッシャは、間抜けな連中を殺って手柄と
するべく、自らの駆る【グライア】を突っ込ませた。パワーランチャーは使わない。確
実に仕留めたかったからだ(彼らの常識は、パワーランチャーでは極幸運な一撃でもな
い限り撃墜できないとされていた。その為必殺を期するときは白兵戦を仕掛けることが
一般的だった)。

 だが、確かに気付いていないはずの砲台モドキが、寸前で避けようとする。

「何ぃ!?」

 回避をしようとする砲台モドキであったが、完全には避けられてはいなかった。
 避けるためにその肩に据え付けられた砲身一つを、その代償にする必要があったからだ。

 その砲台モドキの慌てる様子が、連邦側開放回線に合わされた通信機から流れ入る。

『モンド、何処見てたぁ!』
『判んないよぉ。いきなり湧いたんだ……信じてくれよぉ』
『操縦してんのが俺じゃなけりゃあ、殺られてたぞ!』
『今はそれどころじゃないだろぅ!』

 ハッシャは通信内容や切り飛ばした砲身には目もくれず、素早く次の一撃を見舞おう
とする。

 その瞬間、横槍が入った。

 生身で大型フロッサーに跳ね飛ばされる様な衝撃を感じたかと思うと、視界が二転三
転した。どうやら体当たりをかましてくれた余計なヤツが居るらしい。

 ハッシャは跳ね飛ばされた方向とは、逆に視線を向ける。
 そこには、古臭い感じがする鈍く輝くモノアイが印象的な緑色の人型がいた。
 その人型は、手にしていたやたらに大きな銃、いや、大砲と呼んだ方が馴染む様な得
物を思い切り良く、投げ捨て、腰にマウントしているこれまた巨きな斧を持ち構えてよ
うとしてた。

「何だ、このモノアイ野郎! やろうってのか!?」

 それに答えるように人型のモノアイが、低く唸ったような気がした。

        :

『てぇりゃぁぁぁぁっ!』

「コウ!」

 雄叫びを上げて、突っ込むコウの【ガンダム・ゼフィランサス】を見て、アムロは彼
の名を叫んでいた。

 浮遊しながら近付いてくる紅いヒトデの様な機体から、ヒシヒシとプレッシャーを感
じる。パイロットからでは無い。あの機体そのものからだ。

 コウのガンダムがビームライフルを連射しながら突っ込む。数発が確かに命中してい
たが唯それだけだった。装甲表面に焦げた跡が付いた程度だ。

 お返しは、ごくごく控え目に表現して苛烈だった。

 機体胸部が開いたかと思うと、冥(くら)い閃光が奔る。

 反撃を予測していたコウは回避運動を取っていた。が、避けきれずシールドを盾にし
て何とかその場を脱した。直撃こそはしていなかったが、シールドは既に盾としての役
目を果たせそうも無い。シールドは熔けて延ばされ喰い千切られ、どうやったらこんな
壊れ方をするか理解できない。

 アムロはその様子を見て、コウに後退して他の機体を援護するよう云う。

「コウ、下がれ。
 コイツは、僕が相手をする」

 敵の強大さを見せつけられたコウが抗命する。

『しかしっ』

 だが、アムロはそれを赦さない。

「いいから下がれ。コイツは普通じゃない。
 クリス!
 下の連中の指揮を執れ。」

『アムロ少佐!?』

「コイツの相手をしながらは、出来そうもないからな。
 頼んだ」

『了解。
 マッケンジー中尉、戦闘の指揮を執ります。
 コウ、聞いた通りよ。下がりなさい』

『……ウラキ少尉下がります』

 相手は後退するコウに目が行っていないようで、攻撃をしない。
 どうやら相手はアムロしか見ていないようだ。アムロを唇を軽く舐めて呟いた。

「僕が目当てだというのか……
 さて……始めようか」

 アムロは手が汗ばむのを感じていた。

        :

「シンジ! このぉ……バカシンジ!

 アスカは先程から全周囲にA.T.フィールドを展開して動かない、EVA初号機に向かっ
て怒鳴っていた。動かないから敵の格好の的となり集中砲火を受けるような形になって
いたが、防御能力に優れたアスカ達のEVAは未だに戦闘能力を喪失していない。これ
が、もしモビルスーツであったならば、既に鉄塊と化していただろう。

 その様な常識外れの熱量を叩き込まれているにも関わらず、朱の巨人は至高の色を纏っ
た鬼神に呼び掛け続けていた。

「シンジ! シンジ!
 怒んないから……早く……返事しなさいよ!!」

 だが、絶対防壁の向こうの鬼は応えない。

《レイと組んだ時はあんなに上手くやっていたのに……》

 そう思うと、気丈な筈のアスカの声が、揺れる。
 その時、力強い声が飛んだ。

『どけ、惣流!』

 押されている戦場で、この様な力強い口を利ける人間は少ない。その数少ない強者、
兜甲児は爆風の向こうからEVA初号機に向かって飛び込んできた。

『説得ってのは、こうやるんだよ!!
 テメェ! このヤロッ! みんなが戦っている時に何やってんだ!
 テメェだけが苦しんでいるわけじゃねえんだぞ!
 判ってンのか!?

 そう云いながら余りの出力から殆ど中の様子すら見えない初号機の展開しているA.T.
フィールドを、【マジンガーZ】の拳で叩きまくる甲児。

 無論そんなことで朱色の絶対防壁は小揺るぎもしない。しかし、甲児は構わす殴り続けた。

 怒号も更に続く。

テメェがこうしている間にもみんなが傷付いて行くんだぞ!!
 このまま行ったら、惣流綾波もだ!
 テメェ、聞いてんのか!?

 すると今まで余りの出力から不透明であったフィールドが、徐々に半透明になり始め
た。幾つかの朗報が【アーガマ】側から報告される。

『EVA初号機との通信リンク回復!
 パイロットは無事です!』

 甲児は口を歪ませて結果に満足する。

『惣流、綾波ちゃん。
 あとはオメエらに任せた!』

 やりかけた仕事を放り投げるようにして、自分たちに振る甲児を咎めるアスカ。

「どういう事よ!?」

『こう言うことだ!!』

 そういって甲児は、ネズミモドキをロケットパンチで文字通り叩き潰して答えた。

『援護していてやる、早くそのボケナスを引きずり出せ!
 ……一緒に帰って、盛ぇ〜大に、雷落としてやろうぜ!』

 アスカは再び呼び掛けを始めた。今度はレイも一緒にだった。

        :

 漢は動かず、戦場を見据えていた。
 無論動こうが動かまいが、識別信号を発しておらずに破壊されていない機動兵器へ対
しては、攻撃を見舞ってくるから、これには応じていたが。だが、最小の範囲で、だ。

 彼らしくない消極的な戦い方を【アーガマ】から見たらしいパートナーは、漢を呼び
出した。その声はかなり批判的な色合いが濃かった。

『ドモン! どうして動かないの!!』

 その問いに、漢は静かに答えた。

「流れがまだ見えない」

 その答えに、ドモンのパートナーであるレインは血圧が急上昇する感覚を味わう。極
めて不快な感覚だ。だから、次に出た言葉はかなりと言うか、全く怒りに満ちていた。

『何、呑気なこと云ってるのよ。
 みんな戦っているのよ』

「流派東方不敗の使い手が、戦いの流れで自分を見失ってどうする」

 レインにはその答えは答えになっていないらしかった。
 一層キツイ口調でドモンを咎め立てる。

『どうするも、こうするも無いでしょう!』

「戦いは俺の領分だ、黙って見ていろっ!」

 だが、その様な答えでレインが納得する筈など無かった。

『何言ってるのよ、ドモン!!
 チョット、聞いているの……』

 ドモンは、理由に納得できず騒いでいるレインとの回線を、一方的に切った。誰に答
えるともなく、呟くドモン。

「……慌てなくとも、じきに風は吹く……」

 その視線は、戦場後方に控えて見えていない筈の、金色の機動兵器を見据えていた。


        :

 その女、十三人衆筆頭ネイ・モー・ハンは、ペンタゴナワールドの覇者オルドナ・ポ
セイダルより直々に貸与されたヘビーメタル【オージェ】のコックピットに鎮座して、
戦局を見守っていた。

 そして、状況を的確且つ正確に評価した。

「まだ勢いがあるね……」

 【オージェ】の後方でかしずく2機の【バッシュ】パイロットの片割れ、アントン・
ランドーがそれに応じた。

「そうですな。ですが、すぐに大人しくなるでしょう。
 時間の問題です」

「そうだね」

 続いてもう一人の片割れヘッケラー・マウザーが、ネイに動きがあった事を知らせる。

「ネイ様、【ゲスト】指揮官殿が戦闘に参加しております」

「言われなくとも、見えている。
 ……何やってんだい、あのスペックなら殆ど無敵なはずじゃないのかい?
 いや、相手のパイロットか?
 まぁ、そちらの方が都合がいいか」

「そうで御座いますな。
 いささか損害が多いのは気に入りませんが、まぁ良しとしましょう。
 まともな戦闘指揮を執れない【ゲスト】方の手落ちですからな」

 【ゲスト】の長機は知らされていたおおよそのスペックからは、想像できない苦戦を
していた。翻弄されているといって良い。それで撃墜されていないのは、流石【ゲスト】
といって良かったが、無様すぎた。

 突き放すようなネイの言い様に、問い返すアントン。

「それで宜しいのですか?」

「構わないよ、あのチンクシャには精々勉強して貰おうじゃないか」

 ヘッケラーもそれに同調する。

「そうしましょう」

 話が決まった所でつっかえの取れた筈のネイの表情は冴えなかった。

「しかし……」

「しかし?」

「なんでガウ・ハ・レッシィは動かない?」

 ネイは、視線の向こう側に居るであろう小憎らしい小娘のことを訝しむ。

 ネイの懸念を杞憂だと云わんばかりに、ヘッケラーは答えた。

「十三人衆とは云え、親の七光りで就いたようなものです。実力でおなりになられたネ
 イ様とは違います。
 所詮は半端モノと云うことでしょう。怖じ気づいたのでは?」

《あの小娘がそんなタマか?》

 ネイは内心疑問に思いつつ、取り敢えず納得したような言葉を口にした。

「なら、いいんだけどね」

        :

 A級ヘビーメタル【C・テンプル #0022】のコックピットで、赤毛の美女レッシィは
時を待っていた。

「さて、どうするガウ・ハ・レッシィ……そろそろいくか?」

 本来彼女の乗っている【C・テンプル】はイスラム寺院尖塔の様な特徴的な頭部をし
ていることで有名であった。だが、彼女に与えられたシリアルナンバー#0022 は、同型
機の中でも最初期に製作された旧い世代の機体である。その為親衛隊や他の十三人衆に
廻された機体に比べて頭部が小さかった。バケツ頭をしたその機体は確かに情報収集能
力で劣っていたが末端重量の軽い分、戦闘能力は上だった。旧式機、半端物、老朽機等
と揶揄されても彼女はこの機体がとても気に入っていた。乗っていてしっくりと馴染む。
生まれの違いを越えた、無二の親友といっても良かった。

 その親友の内で、レッシィの呟きは更に続く。

「いや、まだもう少し待とう。
 あの戦いが終わるまでは」

 彼女の視線の先では、白と蒼のペンタゴナ産機動兵器2機が激しい白兵戦を繰り広げ
ていた。

「それでいいわよね、クロス?」

 彼女には【C・テンプル #0022】の同意が、確かに聞こえていた。

        :

「ダバぁ、早くそいつを片付けてくれ!
 後がつかえてんだ!」

 A級ヘビーメタル【バッシュ】を相手に一歩も引かない戦いを繰り広げている竹馬の
友ダバに、ミラウー・キャオは泣き声混じりの情けない声をあげる。

『すまない、もう少し持ちこたえてくれ。
 く……ぅ……
 流石はギャブレー、口だけじゃない』

 キャオに返答するホンの僅かな隙すら、彼らの戦いでは命取りとなり得た。
 ギャブレーの操る【バッシュ】の激しい打ち込みを、辛うじて受け流す【エルガイム】
がモニターに映る。

 泣き言を云うキャオに、もう一人仲間ファンネリア・アムは厳しい叱咤を飛ばす。

『キャオ、いい加減にしなさい!
 ダバが一番大変なところ引き受けているんだから、ちょっとは根性見せなさいよ!
 アンタも男なんでしょう!』

「精一杯やってるよ!
 でも、この数じゃいずれ殺られっちまうよ!」

 呑気な話も此処までだった。
 新たな【グライア】の一団が近付いてくる。

 気を抜いていては、キャオ達の乗る、B級としてはずば抜けて優秀な【ディザード】
と云えど撃破されてしまいかねない状況だ。

「チクショー、こんな事ならやっぱりポセイダル正規軍に入っとくんだった!」

 キャオは泣き言を云いつつも、敵を迎え撃つべく【ディザード】を突っ込ませた。

        :

 一方、【ロンド・ベル】火力支援チームを襲った、ハッシャは困惑していた。

 目の前のモノアイの機体は確かに手強かった。何度か戦った地球製機動兵器の中でも
上から数えた方が良い動きをしている。

 だが、ハッシャを困惑させているのはその様な事ではない。

 動きの速さだけなら、自分たちヘビーメタルの方に分がある。それはここでも変わら
なかった。しかし、今この場にいる敵はそれだけでは無かった。自分と自分のマシンの
能力を十二分に知悉しているらしい。実に手強いイヤな相手だ。

 性能だけに頼るようなヤツなど怖くはないが、こんな自分を知り尽くしたヤツほど恐
ろしい相手は居ない。山賊時代であれば、一旦ではあるにしろ、取り敢えず逃げ出して
いるであろう。

 実際、何度か仕掛けて、内数度は手傷を負わした。だが、致命的な損傷は全く与える
ことが出来て居なかった。

 ハッシャが攻めあぐねていると、今度はモノアイの方から仕掛けて来るつもりらしい。
手にした斧状の格闘兵装を待ち構えなおしていた。

「ヘッヘッヘ、来るなら、来な。
 好都合だぜ」

 守りの一手では流石に歴戦のハッシャと云えど、手に余る。だが、攻めとなると話は
別だった。

「終わりにしてやるよ」

 あの重量のありそうな斧を避けて、すれ違いざまに一撃を叩き込む。

 攻撃に移る際の隙につけ込もう。そう算段したハッシャは、相手の一挙手一投足に全
神経を集中する。

 それが彼の敗因だった。

「どわぁ!!
 なんだ、なんだぁ!?」

 左後方から痛打される。
 ヌッペリとした顔の機動兵器が、いつの間にか回り込んでいた。立て続けに命中する
攻撃。ハッシャの【グライア】からアッという間に戦闘力が削り取られた。辛うじてそ
の場から逃げ出すハッシャ。

『やったわよ、バーニィ』
『流石だよ、クリス……』

 相手パイロット同士の交わす言葉を聞き流しながら、ハッシャは悔やむ。

《この俺様としたことが。抜かった!》

「頭ぁ、済まねぇ。ヘマこいちまった。引かせて貰いやす」

 己の失敗を悔恨しながら、ハッシャは転送シーケンスを起動・撤退した。

        :

「シンジ、シンジィ!」
『……碇君、返事をして。碇君』

 シンジを呼び続ける二人であるが、肝心のシンジはそれに全く応えなかった。返って
くるのは魘されるような呟きだけだ。

『殺した……僕が殺したんだ……僕が殺しちゃったんだ……』

《殺した!?》

 アスカは何かを抱えているようにして固まっている初号機の手に何かを確認した。確
かに人影が見える。初号機正面で擱坐しているヘビーメタルのパイロットらしかった。

 そこへ唐突にリツコの通信が入る。

『アスカ、レイ。聞いてる!?』

「何よ、リツコ!
 今取り込み中なの! 後にして!」

『こっちも急いでいるの。
 いい事、これから云うことを良く聞きなさい』

「だから、何よっ」

『戦局が思わしくないの』

「そんな事判っているわよ!」

『話は最後まで聞きなさい!
 で、もうそんなに此処には留まることは出来ないわ』

「じゃあ、初号機は……シンジはどうするのよ!!」

『EVAを渡すことは出来ないわ。
 残念だけど、放棄します』

「どういうことよ!」

『幸いなことに通信は回復しているわ。
 EVA初号機へDコードを投入して、自爆させます』

「『!!』」

 その言葉は、アスカのみならずレイにも衝撃を与えたらしい。アスカとレイの息が同
時に呑み込んだ。

『私もしたくは無いわ。
 だから、早く初号機を連れて帰りなさい。
 初号機の展開するA,T.フィールドを貴女達のEVA2機が共同して中和。そして初号
 機を回収出来れば、何の問題も無いわ。でも、そんなに時間は上げられないわよ。
 急ぎなさい』

 云われるまでも無く、アスカとレイは初号機のA.T.フィールドの中和を開始した。中
にいる少年のことを想いながら。

《シンジ、シンジ、シンジ、シンジ!》
《碇くん、碇くん、碇くん、碇くん!》

        :

 ブリッジでは既に数え切れないほど、激震を味わっていた。

「戦況報告!」

 そうブライトが叫ぶ間にも、また衝撃が奔る。
 度重なる衝撃に慣れたらしいミサトは、器用にバランスを取って立っている。

「右舷居住区に被弾! 火災発生!
 自動消火装置、作動を確認!」

 サエグサは被害を素早く報告する。

 度々損傷を重ねる【アーガマ】だったが、今のところ辛うじて致命的な損傷を免れて
いた。これは【ガロイカ】が基本的に数合わせの為の機体だからだ。攻撃能力よりも、
如何に戦場で長時間活動して敵のジャマをするかに重点が置かれている。従ってある程
度の限定された攻撃力しか持たない事を意味していた。だが、この調子では何時それを
迎えることになるか判ったモノでは無い。恐らくそう遠くないうちにその時は訪れるで
あろう。

 ブライトはそれを免れるべく方策を模索するが、見つからない。
 日向はそれに駄目押しした。

「現在、【ロンド・ベル】戦闘団で撃破された機体はありません。
 本艦が一番手酷くやられています。
 この戦力差で、相手の連携が取れていない事でどうにか出来ていますが、長くは持ち
 ません。敵は本艦を中心として、多重包囲網を形成。駄目です、穴は見つかりそうに
 もありません!! このままでは袋叩きです!!」

「泣き言は云わないで!
 必ず道はあるわ、諦めないで!」

 そう激励するミサトにブライトは声を掛けた。

「葛城少佐……」

「はい!?」

 手招きするブライトにミサトは寄った。
 ミサトが吐息すら感じる距離まで近付いてから、ブライトは耳打ちする。

最悪の場合、本艦を囮にして皆を逃がす。
 その心づもりで居てくれ

 ミサトは目を見張って、拳を握り締めた。

ここで戦いを止めるわけにはいかない。だが、皆を死なすわけにもいかない。
 判ってくれるな?

 ブライトの問いにミサトは喉から絞り出すようにして答えた。

……はい

 外ではネズミモドキが盛んに攻撃を仕掛けていた。

        :

「!!!!!」

 ネズミモドキが【アーガマ】へ手を触れるほどに接近してきた。近付いて攻撃をする
つもりらしい。それをカタパルトデッキ近くにいたクルーは目を見開いて凝視した。

 ネズミモドキが真っ直ぐ自分に近付いてきて、その砲口が光のを見て死を覚悟するク
ルー。思わず目を瞑って死を受け容れてしまう。だが、その時は訪れなかった。

 目を開けると、そのネズミモドキは自分の頭の上から延びる蛇腹腕に巻き取られ、断
末魔のような軋み音を上げていた。

「えっ!?」

 それは【アーガマ】上部格納庫へ上がって来ていたボスボロットの延ばした腕だった。
彼は延ばした腕が壊れ始めたにも関わらず、一層巻き付けた腕を締め付る。

 ボスッと音を立てて煙を噴き動作しなくなったネズミモドキを、新たに近付いてくる
ネズミモドキへ投げつける。

 無論当たりはしなかったが、攻撃を断念させることには成功する。

 独特の口調で、ボスは言い放った。

『そうそう好きには、やらせないわよぉ〜〜〜〜〜〜ん……わったったった』

 いい気になるボスへ、小口径パルスレーザーを撃ち込んでネズミモドキが通り抜けて
いった。

 【アーガマ】と【ロンド・ベル】は未だに戦闘能力を喪失していなかった。

        :

「どうして、どうして、倒せないのよ!」

 セティは自分の操る【ビュードリファー】コックピットで、叫んでいた。

 スペックは圧倒的だ。攻撃力・防御力等は比較にならない。それは現在実際に戦って
手に入ったデータからも証明されている。機動性も決して劣っては居ない。寧ろ遙かに
優っていると云っても良い。

 だが、彼女は追い詰められていた。

 加える攻撃の悉くが絶妙の機動で躱される。どの様なフェイントや濃密な弾幕を張っ
てもだ。そして、その様な状況からですら攻撃を加えてくる。無論そのような攻撃など、
幾重にもわたって考慮・構築されている【ビュードリファー】の絶対的な防御の前では、
さしたる損害は無い。だが、全く無傷というわけではなかった。既にかなりの数の補助
センサーが機能を停止していた。

 薄皮を一枚ずつ剥がすように加えられる攻撃に薄ら寒いモノを感じるセティ。だが、
彼女には奥の手があった。

 幸い目の前の敵はどうにかして【ビュードリファー】の内懐へ入ろうとしている。こ
れを逆手にとって、ケリを付けよう。追い詰められた彼女にはその考えはひどく魅力的
だった。

        :

「何か企んでいるようだな……」

 アムロは圧倒的な性能を持つ敵相手に、そういって何度目いや何十度目になるか判ら
ない攻撃を加えた。

 自分の手持ちの火器では近付かないと大した効果は無い。近付いたところで精々がセ
ンサーを動作不能にするが関の山だったが、アムロにはそれで十分だった。

 何とか敵の攻撃をかいくぐって、攻撃を重ねる。それの繰り返しだ。

 口で言うのは容易いが、実際何度も危機に直面した。

 初めて見るその機体は極めて優秀で、火力一つ取ってもDCで極少数、戦線に投入し
てきた、艦隊相手に正面切った殴り合い出来るような大型MAすら、軽く凌駕していた。

 だが、その無敵の機体にも付け入る隙はある。

 どうやらパイロットが戦い慣れしていないらしい。百戦錬磨のアムロから見ると、機
体性能に頼り切った実に稚拙で直線的な読みやすい攻撃だった。

 機体性能を最大限引き出してそれを避けるアムロもまた、長々と続く戦いにケリを付
けるべく勝機をただひたすらに待っていた。その時はそう遠くないことを感じる。

「……後、少しか……」

 その時を待つため、アムロは驚異的な精神力をもって、敵の攻撃を凌いだ。

        :

 打つ手は既に決断していた。

 悔しいが、自分より遙かに手練れらしい原住民パイロットが、見え見えの誘いに乗っ
てくるとは思えない。その程度の事は、経験の少ないセティでも判る。目の前の敵はそ
んな浅はかな相手ではない。

 だから、ホンの少しだけ機体の反応速度を落とすことにした。これならば度重なる損
傷による障害だと、思ってくれるであろう。それがごく自然な反応と云うものだ。

 そう踏ん切りをつけたセティは攻撃を加えようと、胸部ドライバーキャノンを発射ト
リガーを引いた。

 砲口を覆うカヴァーが開いた。
 が、同時に砲口から重力子を撃ち放つよりも早く、敵機の攻撃が突き刺さる。【ビュー
ドリファー】機体管制システムがサブウィンドウを開き、ダメージリポートを計上する。

〔ドライバーキャノン・バレルエンド損傷。暴発の危険有り。使用の中止を推奨します。
 機体損傷率3ポイント上昇。戦闘行動に支障はありません〕

「壊れたように装う必要無いかしらね……」

 彼女は対峙する敵が自分の思惑以上に手強いことに、何処か嬉しさを感じながら呟いた。

「でも、勝つのは私よ」

        :

 一方、一番警戒していた胸部武装へ打撃を与える事に成功したアムロは感嘆していた。

「あれでも、まだ戦えるか……」

 実際、カヴァーは壊れめくれて射出部も損傷しているが、それが機体構造まで及んで
いるようには見えない。

 いよいよセンサーに狙いを絞って、戦闘不能に追い込み撤退させるしか無いようだ。

 アムロはそう思った。だが、流石にメインのセンサーにはそれなりの防御を施してあ
るらしく、ビームライフルの攻撃では機能を喪失させることは出来なかったようだ。

 と、思っていたら相手の動きが鈍っているような気がした。機載戦術コンピュータに
素早く解析させたが間違い無い。反応速度が低下してきている。

 だが、この違和感は違う。

「……誘っているのか」

 一瞬の戸惑い。だが、アムロもまた決断した。

「乗ってやるしかないか……」

 アムロは残兵装を確認した。

        :

「来るわね……」

 士官学校同期の者達の云っていた戦士としての勘。戦いの空気を読む。彼女はその様
なこと、世迷い事だと思っていた。戦いはデータとデータのぶつかり合い。それ以上の
モノでは無い。

 それが彼女の持論だった。

 今、此処でこの敵と戦うまでは、だ。

 だが、今の彼女には彼らの云っていたことがよく判る。彼らの話は真実だった。新たに
開けた世界の風景に喜びを感じながら、彼女は勝利を確信して仕掛けた。

「いくわよっ!」

 そういって彼女は【ビュードリファー】腕部に装備された開放集束型ビームランチャー
を乱射しながらを突っ込ませた。
 
 その様な攻撃などあの原住民パイロットに効こう筈も無い。アッサリと攻撃をかい潜っ
て、【ビュードリファー】の懐に飛び込んできた。

「貰ったっ!!」

 セティは【ビュードリファー】腕部を素早く切り離し、相手の死角へ滑り込ませた。
三方向からの多方向同時攻撃だ。これを逃れることは出来ない。彼女はその瞬間までそ
う確信していた。

 だが、その時彼女は信じられないモノを見た。

「嘘ぉ!?」

 多方向からの攻撃を受けて無惨な鉄塊と化する筈の機動兵器は、まるで廻りの全てが
見えているかの様に、機体を横滑りさせてセティの攻撃を凌いだ。

 機体を貫くはずのビームは敵機左腕を吹き飛ばした。だが、唯それだけだった。

 必殺の攻撃を避けられた、精神的ショックと敵機腕部の爆発に気を取られた時だ。

 吹き飛ばされた腕が誘爆を起こすのにも構わず、今度こそ避けられないタイミングで
自分の機体、懐へと敵機が飛び込んできた。

        :

「!」

 眉間に疾るモノを感じたアムロは、バーニアを最大噴射して機体を横に滑らせた。瞬
きする間も開かずガンダムが居た筈の空間を光条が奔った。

 機体に大きな衝撃が奔った。システム監視デーモンが機体左腕が上腕部中程から消し
飛んだことをアムロに伝える。

「腕の一本や二本ぐらいっ!」

 アムロはデーモンの報告を聞くまでもなく、直感的に損傷を感じ取っていた。

 目の前の敵は必殺を期していたらしく、相手に大きな隙が出来る。
 アムロはこの隙を逃さなかった。

「貰った!」

 メインスラスター・バーニアを問わず、目一杯噴かして、激突せんばかりに接近する。
そして抜き放ったビームサーベルをメインセンサーが集中している相手の顔面へ叩き込
んだ。爆発覚悟でリミッターを解除され、規格外の出力を発生させたソレは激しい火花
を吐き散らしながら敵装甲を喰い破り、突き刺さる。

 そして、アムロの【ガンダム・アレックス】は、【ビュードリファー】より飛び離れた。

「仕上げだ!」

 アムロは突き刺さったままのビームサーベルへ向けて、右腕を向けた。
 一瞬の間を置いて、下腕部カヴァーが開き、必殺の大口径ガトリングガンが火を噴い
た。火線が立て続けに【ビュードリファー】顔面を襲う。そして突き刺さったままのビー
ムサーベルへも命中する。

 破壊されたビームサーベルのエネルギーCAPは、エネルギーを与えられ縮退状態に
あったM粒子を周辺空間へバラ撒いた。ソレは辺りに充満したエネルギーに触発され貯
め込んでいたエネルギーを一気に開放し、周囲に存在していたモノ全てを灼いた。

 それは深く傷つけられていた【ビュードリファー】顔面破損部をも例外では無かった。
極めて優れたダメージコントロールもこの局面の前では役に立たず、内部機器から火が
上がり、誘爆を起こした。

 それは戦場の何処からでも見えるような激しい光だった。

        :

「ムッ!?」

 ダバが【ビュードリファー】誘爆光にホンの僅かな気が逸れた時だった。その隙を逃
さずギャブレーが突進してきた。

『どこを見ている、ダバ・マイロード!』

「ちぃっ」

 そのまま鍔迫り合いとなり、序々に押さえ込まれ始める。

『悲しいよな。ハンドメイドの老朽機に乗っているヤツは……このまま【エルガイム】
 ごと押し潰してやる』

「……暫く見ない内に性格悪くなって無いかい、ギャブレー君?」

『ほざいてろっ!』

 ダバの言葉に心当たりがあるらしいギャブレーはその言葉と共に更に押し込もうとした。

「甘い!」

 だが、それはダバに見透かされており、逆襲を受ける。押さえ込もうとしたギャブレー
の【バッシュ】に合わせて、剣を引き相手のバランスを崩す。

『し……しまったっ』

 その好機を逃すダバではない。繰り出した一撃は右腕を斬り飛ばし、返す刀で下脚部へ
斬り入れた。後者の斬撃は、下脚部装甲を斬り裂きイレーザーエンジンに損傷を与える。

 吹き出すプラズマ。

「まだ、やるかい!?」

 ダバのその問いに、ギャブレーは捨てぜりふ一つ残して後退した。

『こっ、この次こそ! その首! 私が貰い受けるからな!』

「首を洗って待ってるよ、ギャブレーくん」

 ギャブレーが撤退した事を確認するとダバは周りに目を向ける。キャオ達も上手くやっ
ているらしい。取り敢えず撃破された様子はなかった。

 だが、新たにかなり高出力なイレーザードライブの反応が現れた。

 間違いない。

 新たなA級ヘビーメタルの出現だった。

「今になって! 来るのか?
 持ってくれよ、【エルガイム】!」

 ダバは出現したA級ヘビーメタルを確認して、愛機を叱咤した。

        :

「頃合いか……」

 ギャブレーとの戦いにケリをつけたダバの【エルガイム】を見てレッシィは呟いた。
 そのまま【C・テンプル】を駆り、ダバに斬り掛かった。

「行くよっ、ダバ・マイロードッ!」

 気迫と共に、打ち込むレッシィ。当然その様な見え見えの斬撃を喰らうダバではない。
手にしたセイバーで受け止める。

 斬り結んだまま、ダバが叫んだ。

『この太刀筋はレッシィ! ガウ・ハ・レッシィ!!
 君なんだろ!』

 レッシィは、ダバが太刀筋だけで自分を見分けた事に胸の中に拡がる暖かいモノに戸
惑いながら、応じた。

「そうだよ!
 でも、だからどうだと言うんだ!」

『君とは戦いたくない。味方になってくれ。でなければ、せめてポセイダルに力を貸す
 のは、やめてくれ!
 君だって判っているはずだ。ポセイダルがどんなことをしているかを!』

「……」

 自分の目の前で、純白のヘビーメタルの男は異星系に来てまでポセイダルを追い、そ
の直卒の精鋭幹部とも言うべき十三人衆の自分に軍を抜けろと言う。その様な話を他人
から聞いたら、折り紙付きのバカがほざく世迷い事と一笑に付した筈だ。少なくても今
までの自分はそうであった。

 更に説得を続けるダバ。

『君ならば判ってくれる。僕はそう信じる。
 僕達の元に来てくれないか。レッシィ!』

 このダバの台詞を極度の緊張状態にあったレッシィは、この時の彼の発言を一部聞き
落としてしまっていた。その事は、今後のダバの運命に大い影響を与える事になる。

 彼女は何故か頬を紅潮させ、ダバに質す。

「……信じて良いのだな、ダバ・マイロード」

『信じられなければ、いつでもこの首を差し出そう。約束する』

「……判った、力を貸そう。これは私の立てる証だ」

 レッシィがそういったかと思うと、周囲に居たヘビーメタルが一斉に動きを止めた。

 かと思うと、次々と転送され撤退していく。
 ダバは、思いもかけない目の前の光景に呆気に取られた。

「強制停止・撤退コードをバラ撒いた。これで包囲網に穴が開いた。逃げるなら今のウ
 チだぞ」

 素早く立ち直ったダバは、レッシィへ感謝の言葉と仲間への報告を手早く行った。

『レッシィ……感謝する。
 ……ブライトさん、状況は見ての通りです、一刻を争います。直ぐに動いて下さい。
 こちらは撤退を援護しますっ!



        :

『急ぎなさい! アムロ少佐が後退してきたら、Dコードを打ち込むわよ』

 リツコの無慈悲な宣告に、アスカとレイは胸の奥が底冷えするのを感じた。

 それだけであったら、アスカはリツコを害したかも知れない。レイはリツコを赦さな
かったかも知れない。その次の言葉が彼女達にソレをさせずに済んだ。

『いいこと?
 良く聞きなさい。その壁はシンジくんが抱いている心の壁。他の何者をも寄せ付けな
 い。でもね、あなた達は例外の筈よ。アスカ、アナタはシンジくんをどう思っている
 の?』

「ど、どうって!?」

『いいから答えなさい。時間が無いの!』

「情けなくて、弱っちい、私のげ……じゃない、弟子よ!」

『レイは?』

「絆」

「えっ……!?」

 アスカが驚いた様にその答えは、彼女らしからぬ早さで、彼女らしからぬ明瞭さで返
された。ただ一瞬の躊躇いも無い。

 驚くアスカを尻目に、リツコの話は続く。

『なら、そのシンジを想ってA.T.フィールドを中和しなさい。
 EVAはそれを強くして伝えてくれるわ。あなた達の想いをね……
 話は終わりよ、時間が無いわ。急ぎなさい!』

        :

《シンジ、シンジ、シンジ、シンジ!》
 アスカは、シンジの事を激しく想った。

《碇くん、碇くん、碇くん、碇くん!》
 レイは、シンジの事を静かに想った。

 二人の万感を籠めた、強い呼び掛けは内に引きこもった少年を揺さぶる。

「ダメだ……僕は殺しちゃったんだ、殺しちゃったんだよ……」

 少年の心に、流れ込む二人の少女の想いは止まらない。

 それは頑なに心を閉ざそうとするシンジを、現世へと誘う。

「人を殺しちゃったんだ……あんな所にいるから……殺すつもりは無かったのに.
 ..殺しちゃったんだ」

 それでも、まだ少女達の想いはシンジを呼ぶ。

 決定的だったのは、二人の少女が同じ内容を全く違う口調で声を揃えて言ったその一
言だった。

『『しっかりしなさい(するのよ) その人、まだ生きているわ』』

 シンジは、自分の世界へ逃げ込む事を忘れた。

        :

「あの小娘、やったねっ!」

 ネイは戦術モニターを見て、檄昂した。モニターには包囲網へ見事に穴が開いている。
開けたのは、あの半端者、十三人衆のお荷物と蔑んでいたレッシィだ。

『レッシィめ、強制指揮コードを使用したようです。
 クソ、何でそんなものを持っているんだ』

『ネイ様、これでは逃げられてしまいます』

 言わずながもの事を口にして騒ぐ部下が、今のネイには癇に障る。応じる言葉が剣呑
さを含むのは致し方もないことなのだろう。

「判っているよっ!
 せっかくあのチンクシャが、ヘマこいてこっちに手柄を寄越したかと思ったら……
 今度は身内から裏切り者が出るとはね。
 あの様子じゃ、自分の強制コードは消していると見るのが、妥当か……
 アントン! ヘッケラー!
 行くよっ!
 穴を塞いで、連中を押さえ込むよっ!」

『『了解っ!』』

 戦闘能力については、疑いようもないA級ヘビーメタルが、その肩を並べて3機連り
【アーガマ】を襲おうとしていた。

        :

「フン……やっと動いたか、待ちくたびれたぞ」

 ドモンは、戦場後方での動きにいち早く気付いていた。
 彼は戦うべき時の到来に、体中の血がたぎることを自覚する。

 彼は自分の愛機へ言い聞かせるように叫び、【シャイニングガンダム】を駆け出させ
ていた。

「では、行くぞぉぉっ!
 ガンダム!」

        :

「怪我人は何処だ!?」

 【アーガマ】格納庫奥、増設ブロック手前でハサンはメディカルスタッフ数名と一緒
に焦れていた。
 すると奥から小さな回転音がする。

 キャスターの付いた何かが、こちらに向かってきているらしい。

「よぅし、来たぞ。
 何時でも良い様に、準備しておけ」

 ハサンの言葉で一斉に用意を始めるスタッフ。度重なる修羅場で鍛え上げられた彼ら
の動きは実に洗練されている。

 音と共に彼らの待ち人がようやく登場した。
 移動式術台の上に載せられた男。酷く煤と血で汚れていたが辛うじて息をしている。
 少なくとも彼らの仲間では無いことは、意匠の全く異なる服装からも判った。

 その様を見て、ハサンの口から漏れでる言葉。

「こりゃ、派手にやったな……」

 そう呟いて、ハサンはようやく付き添ってきた少年達に気付く。見るとまだ彼らの髪
は濡れて滴がしたたっている。少年が酷く追いつめられた表情をして、患者を見つめて
いる。二人の少女は、そんな少年を心配気に寄り添うようにしている。

 少年が口を開く。

「あの……その……」

「なんだ……云わなくても判っているよ。俺に任せろ。
 ……なんだ、この服は……構わん、剥いちまえ!……
 ここからは、俺の領分だ。心配するなこの【アーガマ】と俺が揃えば、死人だって生
 き返してやる」

 死人と言う言葉で少年は、身体を小さく振るわせたがハサンは気付かなかった。既に
彼は彼の戦場に居たからだ。そして、ハサン達は傷ついた男を連れて去っていった。

 少年はその光景をただ見送っていた。

        :

「いいね、前に回ってあのフネの頭を押さえるよ。
 余計なオマケには構うな。ここで取り逃がしたらギワザ様に申し訳が立たない。
 死ぬ気で掛かりなっ!」

『『オウッ!』』

 その彼らに立ち塞がるマシンがいた。ダバと裏切り者のレッシィが乗るマシンだった。
純白のヘビーメタルかららしい、通信が入る。

『ここを通す訳にはいかない! 足止めさせて貰うぞ!』

 動きの鈍い【チキュウ】製機動兵器ならば無視も出来るが、流石に自分たちと同じA
級ヘビーメタルが相手ではそうも行かない。オマケに裏切り者の小娘の乗るHMは動き
の速い長距離威力偵察用途の、過飾を廃したバリバリの実戦向きな機体だ。

 彼女は素早く決断した。

「今お前達に構っている暇無いんだよ!
 アントン、ヘッケラー、相手をしてやりなっ!」

『俺はあの裏切り者を押さえる。
 ヘッケラー、お前は【エルガイム】を頼む』
『委細承知っ!』

 ネイがダバ達を避けるコースを取ると同時に、掛かる2機の【バッシュ】。
 途端に激しい白兵戦を始めた。

『待てぇ、ネイッ!』

 ダバの悲痛な叫びが響く。
 それを揶揄するように、ヘッケラーがやや挑発気味の言葉を掛ける。

『お前の相手は、コッチだよ』

 また一合、剣戟が上がった。

        :

「動け、動くんだ、アレックス!」

 アムロは【アーガマ】へと向かおうとする敵を喰い止めようとする。

 が、残兵装も僅かだ。
 右腕ガトリングガンに2連射200発程度。頭部ヴァルカンが一連射分50発。そし
て一本のビームサーベル。
 加えて半壊状態の愛機。それがアムロに残されたモノの全てだった。

 だが、そうであっても戦いを止める訳にはいかなかった。撤退準備を始めたこの場に
は、自分とダバしか対応できない。(依然として防空戦は激しく続いていたから第二小
隊は当てに出来なかった)

 アムロは満身創痍で動きの遅くなった愛機に宥め賺しつつ、接近してくるヘビーメタ
ルを喰い止めようと、侵攻コースへ割り込みを試みた。無論生還など考えていない。今
のコンディションではホンの少しの交戦の後、無惨な屍を晒すであろうことはアムロ自
身よく判っていた。

 牽制に頭部ヴァルカンを放つが、流石はA級とでも言おうか、侵攻スピードそのまま
で避けられてしまう。時間稼ぎにすらならなかった。今だせる速度では、唯一確実に時
間稼ぎ出来るであろう白兵戦など、望むべくもなかった。

 そして、アムロの予測通り敵が目の前を駆け抜けていく。

「抜かれた!?」

《これじゃあ、間に合わない。喰い止められないか……》

 事態を妙に醒めた目で見ているアムロであったが、口から出た言葉は悲壮感に溢れて
いた。

「誰でもいい、ヤツを止めてくれっ!」

 半ば諦めてすらいたアムロの言葉に、力強い答えがあった。

まかせろっ!

 視線の先では、金色のマシンに格闘戦を仕掛ける自分の愛機によく似ているがやや小
降りの機体がいた。

        :

『誰でもいい、ヤツを止めてくれっ!』

 喰い止められなかったことに責任を感じているらしい漢の叫びに、彼は漢の叫びにて
応えた。

まかせろっ!

 その勢いのまま、やたらに派手すぎるマシンへ跳び蹴りを見舞った。

「てぇりゃぁぁぁっ!」

 避けきれないと判断したらしい金色のマシンはその一撃を受けるため、足を止めて両
腕をクロスさせ受け止める。操作させた腕の先では肩に装備した攻防一体のラウンドバ
インダーがやはりクロスしていたため、バインダー装甲板は大きく歪んでいたが、大し
た損傷は受けていないようであった。大きく後ずさって、【シャイニング・ガンダム】
を押し返した。そのままトンボを切って着地するガンダム。

 【シャイニング・ガンダム】の一撃は、交差させたバインダーによって防がれてしまっ
たが、十分目的は達していた。

 金色のマシンの足は、止まっていた。

「流石は……と言ったところか。
 そうでなくては、流派東方不敗の相手に相応しくないっ!
 行くぞっ!」

 腰のビームサーベルを抜いて、ドモンは【オージェ】に斬り掛かっていた。

        :

「ちぃぃっ、何なんだいコイツは!?」

 少なくとも、彼女の常識の範囲外の相手であった。彼女の、とは言うよりペンタゴナ
の常識では、機動兵器が重力下で跳び蹴りをするなど、あり得なかった。

 見れば、やたらに造りは厳めしいが大きさ自体は小さい。【アローン】程度しか無い。
しかし、戦士としての彼女が感じるプレッシャーは今まで戦ったどんな相手よりも大き
かった。ネイは額に汗が滲むのを感じる。

 彼女はセイバーで目の前の小癪な敵と打ち合いながら、呟いた。

「楽には勝たせて貰えないねぇ……」

        :

「やるな……だが何時までも相手をしているわけには行かん。
 ……!、来る」

 ドモンは打ち合いながらも、次の一手を繰り出す時を考えていた。ソレよりも速く相
手が焦れたようだ。仕掛けてきた。

 鋭い打ち込みで見せ玉にして、開いた左手指の間に何か挟んだと思うと数条の光が奔った。

「ぬぅ!」

 それを声一つ上げ、避けるドモン。続けざまに光が奔る。ドモンが避けながら確認す
ると、ビームジャベリンらしきモノが十数本地面に突き刺さっていた。

 畳みかける金色のマシン。

 それを辛くも凌いで、間合いを測るドモン。機運が高まっている。

《次で勝負は決まる》

 ドモンはそう確信した。

 左手にビームサーベルを持ち、右手を胸前に挙げた。

「俺のこの手が、光って唸る!」

『一体、何のおまじないだい!?』

 訳の分からない言葉の羅列を咎めつつ金色のマシンが、ジリと近付く。

お前を倒せと輝き、さぁけぶっ!

『やかましいと言っているっ!』

 金色のマシンが一気に間合いを詰めてきた。

くらえっ! ひぃぃっさつっ!

『黙れっ、と言っているんだよっ!』

 その叫びと共に、金色のマシンがビームジャベリン(らしきもの)を放ち、大きく振
りかぶりって打ち込んだ来た。

        :

「黙れと言っているんだよっ!」

 ネイは耳障りな呟きを発する敵に、必殺を期して仕掛けた。
 だが、ネイの視界からその敵が一瞬消える。

シャァァイニング、フィンガァ〜〜〜〜〜ッ!!

 その瞬間、地の底から湧き上がるような叫びと共に、【オージェ】の頭部が消し飛んだ。

        :

『ネイ様!!』

 ダバが相手をしていた、【バッシュ】の動きが止まった。一瞬視線を横にすると頭部
を破壊された【オージェ】が見える。

《やってくれた!!》

 そう考えたダバは、短く叫ぶ。

「レッシィ、頃合いだ!
 引くぞ!!」

 言いざま、【バッシュ】と間合いを取りスモークディスチャージャにて煙幕を展開。
素早く後退した。レッシィも同様に後退している。

 追撃があるかと思ったが【バッシュ】2機は、それどころではなかったらしい。頭部
を破壊され、擱坐した【オージェ】へと、駆けていた。他のヘビーメタルは、指揮系統
が混乱したらしく動かない。ネズミモドキだけは相変わらず飛び回っていたが、これは
第二小隊やオーラバトラー隊の活躍によって【アーガマ】に近付くことが出来無かった。

 そして、最後まで地上で頑張っていたモノ全てを拾い上げて、【ロンド・ベル】は虎
口から逃れることに成功した。



<機動巡航艦【アーガマ】ブリッジ>      


「酷い戦いだったな……」

 ブリッジへ上がってきたアムロに向かって、掛けたブライトの第一声だ。

「ああ……全機帰還してはいるが、帰ってこれたのが不思議な機体もある。運が良かっ
 たとしか思えない。
 【アレックス】も手ひどくやられている
 それに、今日の敵は何だ?
 見たことも、聞いたことも無い機体がやたらに居た」

「そうだ、しかも手強い。あの紅いヤツなどは連邦軍随一のエースパイロットであるお
 前が、差し違え覚悟でようやく戦闘不能にすることが出来たのだからな」

「いや、アイツはまだ戦えたよ。退いたのは向こうの都合だ」

「……危なかったな。これは至急連邦軍本部に伝える必要があるな」

「ああ、アレが戦線に本格的に参加し始めたら、DCの大型モビルアーマーの比じゃない。
 大概の部隊は壊滅してしまうだろう。
 早急に手を打つ必要がある」

「だな……皆を救ってくれて疲れているだろうが悪い。その機体に関する戦闘レポー
 トを作成してくれ。迅速且つ詳細に、だ。
 他のことはエマ中尉とクリス中尉に任せる、心配しなくていい」

「ああ、判った。
 では、エマとクリスによろしくな」

 そういってアムロは戦い疲れた身体を引きずるようにして、ブリッジから姿を消した。



<連邦軍・環太平洋軍管区第十三師団駐屯地>      


 外では、雷鳴が響いていた。

「これだ……これこそが俺の求めていた力だ!」

 男は部屋にて、歓喜の笑いを上げていた。

「連邦のバカ共に付き合うのはもう辞めだ!
 見ていろ俺はこの力を手に入れて、必ず宇宙を手に入れてやる!
 俺が……俺こそが宇宙の帝王に相応しいのだ!」

 男の笑いは止むことなく続いている。

 モニターには、戦闘レポートらしきモノが映っていた。
 最後の署名には、〔アムロ・レイ〕の文字があった。

 これから起こる惨劇は、ただ一人の男を除いて、まだ誰も知らないまま、始まっていた。


<第六話・了>



NEXT
ver.-1.01 2001/11/25 公開
ver.-1.00 1998+10/24 公開
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<作者の後書き>      

作者  「心が……こころがいたい〜〜〜〜〜〜〜ぃ!」

 その時作者は胸を押さえて、奇妙な痛がり方をしつつ転がっていた。

??  「戦自式格闘術「柔」、十の型裏技「閃雷」
     えいっ!」

 ガスッ

 何か堅いモノがはぜ割れるような思いっきり良い音をさせて作者が止まった。多少手
足が痙攣しているのは、まぁ気のせいだろう。

??  「生きているかな」

 汚いモノを突っつくように落ちていた木の枝先で反応を見る少女。その先に鮮やかな
赤が付いているような気がするが、こんな赤を頭部より吹き出して、人間が生きている
はずがない。

 これもまた気のせいだろう。


作者  「……い……いたひ……」

 作者の呻きを聞いて、呟く少女。

??  「生きてる♪、生きてる♪」

作者  「『生きてる♪、生きてる♪』、じゃないっ!」

??  「きゃぁ」

 ひくついていた人間が即座に復活するさまに尻餅をついて驚く少女。
 作者はようやく自分にケリをくれた人物の正体を知覚する。

作者  「……あら、おまいさんは国防少女?
     なんでまた此処にいるんだ?」

国防少女「もぉ〜〜〜〜〜〜〜〜、脅かさないで下さいよ。
     おろしたての作業服(戦自より支給されている迷彩服のこと)が汚れちゃっ
     たじゃないですか」

作者  「……そりゃ、済まなかった」

国防少女「たったそれだけですか?
     嫁入り前のピッチピチの美少女が、宝石よりも貴重な時間を割いてコーディ
     ネイトした服を汚したんですよっ。チョットは誠意ってモノを見せても良い
     じゃないですか」

作者  「……(官給品相手にコーディネイトも何も無いだろう)……
     誠意って、俺におまいさん何を求めようっちゅうんじゃい!」

国防少女「ホンの少しの思いやり(はぁと)♪」

 半ば答えを判っていながらも聞き尋ねる作者。

作者  「……例えば?」

国防少女「例えば、次で私がシンジに逢える、とか……例えば、次で私が赤猿の横暴
     から逃げ出したシンジと一緒になれる、とか……例えば、次で私が絶対零
     度の微笑みで凍えたシンジを暖めてあげる、とか……例えば、次で私が傷
     心のシンジを全身全霊で慰める、とか……例えば、次で私がシンジとラブ
     ラブする、とか……それから、それから」

作者  「えぇ〜い、全部却下っ!」

国防少女「え〜、どうして!?」

作者  「どうしても、こうしても無いわっ!
     大体おまいさんはまだ地球軌道艦隊所属で、衛星軌道廻っている最中だろうがっ!
     それに次はあの軟弱小僧が逃げ出して、おまいさんはおまいさんで予告通り、……」

国防少女「私の……?」

 脂汗を流しながら、何かを耐えている様子の作者。

作者  「…………」

 作者の様子のおかしさに怪訝な顔をする国防少女。

国防少女「もしもし?」

作者  「…………」

 作者の流す脂汗の量が増す。

国防少女「おーい」

作者  「ふぐぅっ!!」

国防少女「きゃっ!?」

作者  「こっ、心が……こころがいたい〜〜〜〜〜〜〜ぃ!」

 作者は再び胸を押さえて、奇妙な痛がり方をしつつ転がっていた。

国防少女「さんざん引っ張って、結局はソレか〜ぁっ!」

 国防少女も、また作者へ蹴りを見舞う。


      作者、完全に沈黙     


国防少女「何よ、もう……何か悪い病気でもしているんじゃあ、無いでしょうね?」

 そういって少女は妙に手慣れた様子で沈黙する作者を上着を剥いた。

国防少女「……ひっ!!」

 少女はそこで見てはならないモノを見てしまった。
 それは、戦自はおろか連邦軍全軍にまで轟き響く狂気の天才の名があった。

 ソレは少女の目の前の、作者の胸へ埋め込まれた鈍く光る金属地肌に記されていた。


 汎用埋込式良心回路 
  じぇみに 弐號
      by ”R”



 油汗を流しつつ、少女は素早く作者へ上着を被せた。

国防少女「……見なかったことにしましょう」

 そして、彼女はこの場を立ち去ろうとする。彼女の作品が此処に転がっていると云う
ことは、彼女自身が近くにいる可能性が高い。少女は自らの人間としての尊厳を守るた
め、極めて迅速に行動した。

 それは、離れ際作者の残した血文字に気付かない程の慌てようだった。

         :
         :
         :
         :

 彼女が気付かなかった血文字はこう記されていた。

この次も、サービス、サービス

 ものの云わぬ作者が転がるなか、ただその血文字だけが雄弁に語っていた。










 Gir.さんの『スーパー鉄人大戦F』第六話Fパート、公開です。



 いやー

 やっとこ、
 どうにか
 からくも

 一段落ですね。


 被害は大きかったですが、
 人的にはOKOKですから、OKOK。



 シンジの方も、相手パイロットの命が助かったことで、
 どうにかなりそうだし・・・


 でも、続けている限り、いつかは、”助からない”自体になるわけだし・・

 その時が心配。

 その時までに色んな事を学んで備えとかなきゃ。



 周りに人が沢山いるし、
 OKOK。だといいな。




 さあ、訪問者の皆さん。
 大戦を書ききったGir.さんに感想メールを送りましょう!




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