TOP 】 / 【 めぞん 】 / [Gir.]の部屋/ NEXT



 その無機質な部屋で一人リツコは、キーボードを叩き続けていた。

 彼女の無言の叱咤激励を受け十二分に能力を発揮しているノート端末の先には、真新
しい真っ赤なヘッドセット・インターフェースが細いケーブルで繋がれている。

 彼女とその下僕が淡々と何かを為しているそこへ音もなく誰かが訪れる。

 そして、ソレは彼女へ優しく親愛に溢れた抱擁を行い、囁いた・

「相変わらず仕事の虫かい?」
「!!」

 思わぬ人物の襲来に一瞬思考が停止しているらしいリツコにお構いなく続く呟き。

「ふむ……これはアスカのヘッドインターフェースか……」

「……そうよ。
 ドイツの方々が好き勝手やってくれたおかげでね、この忙しいのに余計な仕事が増え
 てしまったわ。
 加持くんアナタ、アスカの監督者だったわね。
 どういうことか答えてくれるかしら?
 貴重な適格者を、ここまで好き勝手イジりまわしてオモチャにした理由を」

 リツコは、そういって傍らに広げられた資料に目を向けた。

「……さあね、俺が引き継いだときにはあんな状態だったんだ。
 専門じゃないから、完全に理解できたわけじゃないがチョットそっち方面のレクチャ
 ー受けた程度の俺の様な素人から見ても、明らかに異常なコトやってたからな」

「それでも手をこまねいていた訳ね……」

「俺も出来る限りはやったんだぜ。
 引き継いだ当初はもっと酷くって、見ているこっちが辛かったよ。
 だからさ……
 過剰な薬のすり替えとか、適当な理由つけて外に連れ出したりとかしたのは」

「それでね、記録のされた処置の割には程度が軽いのは……」

「そうかい、軽いのか。
 俺も骨を折った甲斐があったよ。
 よかった、よかった」

 加持が冗談めかしたが、リツコの返答は依然としてキツイものが含まれていた。

「……良くないわ。
 成長期の過剰な投薬で身体は悲鳴を上げている。
 それはまだいいわ。
 けど問題はココロの方よ。
 攻撃的な暗示をかけられているから、精神的にも追いつめられて……
 データを見たら精神崩壊の兆しすらあるじゃない。
 まったく、異星人様々ね。
 あのままドイツに居たら、加持君がどんなに頑張っても遠からず廃人になってたわ、
 向こうの担当者のオモチャになってね」

 余りに壮絶な内容に加持の様な男を持ってすら気色ばみ、押し黙ってしまった。

「…………」

「けど、安心していいわ。
 ワタシが面倒見るからには、そうはさせないから」

「そうかい、そりゃ頼もしいな。
 このインターフェースもそうかい」

「これは単なる小道具。
 今のアスカがつけているのは暗示プログラム用だけど、これは違うわ。
 本来のインターフェース機能の他には、単なるリラックス機能しか持っていないわ。
 特定状況下で、1/f揺らぎを与えるだけよ」

「特定状況下?」

「えぇ。
 アナタもここのところ妙にアスカが安定しているのを不思議に思わない?」

「そういえば、そうだな。
 環境が変わったことが良い影響を与えていると思ってたんだが、違うのかい?」

「違わないわ……
 ただ、最も影響を与えているのは人間関係ね」

 加持は、こちらへ来てからのアスカの様子を思い返す。
 心当たりがあったのか、リツコへ思深な笑みを向ける。
 抱きつかれているリツコには、加持のその表情はよく見えなかったが雰囲気で察した
ようだ。
 話を続けた。

「そう、だから私はチョット後押ししてあげるの。
 あの子が本来の実力を私に見せてくれるようにね」

「……すまない」

 加持は一言そう言ってリツコを抱きしめた。

「あら、今度は私を口説くつもり?
 ……でも、いい加減この手を離した方がいいわよ」

「何故だい?」

「さっきからこわ〜〜〜〜〜いお姉さんが睨んでいるから」

 加持は、その言葉に迅速に反応した。
 自分の背後を確認するとそこには、美しくも猛々しさを隠そうともしない【ネルフ】
作戦部長が居た。
 加持が振り返ると詰問口調で詰め寄る。
 その剣幕に加持は、何故か防爆対策が施されている壁まで追いつめられる。

「まったくも〜〜〜〜!
 どうして、あんたってそうなのよ!」

「だってこれが俺の性格なんだよ。
 それにお前が怒ること無いだろう、ちょっとリッちゃんと再会の挨拶をしてただけじ
 ゃないか」

「じゃあ、何話してたのよ」

「大したこと話してないぜ。
 こんな美人ほっとくなんて、本部の男どもも甲斐性なし揃いだな、とか。
 それなら、俺が口説いちゃおうかな、とか」

「なんでそうなるのよ!」

「おや、俺とは何でも無いんじゃなかったのか?
 それとも、俺に未練があるとか?」

 その時加持は自らの失言に恐怖した。

ざけんじゃねーーーーわよ!

 そう言うが早いか、ミサトは加持の顔目がけて必殺パンチを繰り出していた。
 間一髪首を横へ逸らしてそれを避けた加持だが、防爆対策された壁がベッコリ凹んで
いるのを見て、冷や汗が止まらなかった。
 憂さを晴らしたことで一応落ち着きを取り戻したミサトは、加持の耳を引っ張ってそ
の部屋をでた。
 切れ切れに二人の声が聞こえてくる。

「……いくら若気の至りとはいえ
 こんなのと付き合ってたなんて、我が人生最大の汚点だわっ!」

「何イライラしてんだよ。
 顔に皺よるぞ」

「うっさい!」

        :

『ケンカなら、ほかでしてよね。』

 それがその時の彼女の偽らざる気持ちだった。




スーパー鉄人大戦F    第伍話〔救出:A hero's duty〕
Aパート


<ジオフロント外殻地下ドック・機動巡航艦【アーガマ】格納庫>    



 戦闘に巻き込まれ、負傷した人を助けたシンジであるが、戦闘後アーガマへ寄らざる
を得なかった。

 これは、やはり先程の戦闘が影響している。

 先程の戦闘では、第三新東京市そのものには殆ど被害が無かったが、皆無であった訳
ではない。

 不幸であったのはその数少ない被害の中にネルフ付属病院施設があったことだ。

 戦闘時ネルフ付属病院地上施設は当然天井施設の一部として収容されている。

 だが、そのネルフ付属病院収容区画にオーラバトラーが墜落、その激突の衝撃と機体
誘爆でビルリフト機構に問題が生じた。
 問題はそれだけに留まらず、院内配電施設も伝播するように問題を起こし、それは病
院の運営に支障を来した。

 そのため、ネルフ付属病院では現在の患者の面倒を見ることで手一杯となり、シンジ
は負傷者を最も近い収容可能な施設、即ち【アーガマ】へ立ち寄らざるを得なくなった
のだ。

 それまでであれば、許可されなかったであろうその行動は、何故かすんなりと許可さ
れ、シンジは外殻地下ドック内のアーガマへと急いだ。

 【アーガマ】では既に連絡を受けていたらしく、色黒の精悍な顔に丁度ゲンドウのよ
うな顎髭をたくわえた男が待っていた。

 胸に付けたIDを見ると、ハサンと言う名の主任船医だと言うことが判る。

 ハサンは、新しく彼の患者となる彼女をその場で手早く診察して、シンジに言う。

「君がこの人を助けたのか?
 大丈夫だ。
 多少、打撲傷を負っているがどおってこと無い。
 ショックで気絶しているだけだ。
 数時間休ましておけば、動けるようになるだろう」

 その言葉を聞いて、シンジは安堵する。

「ありがとうございます、先生!」

「なぁに、いいってことよ。
 ……、おい、この人を医務室まで運べ!」
 
 ハサン医師は、シンジの礼に男臭い笑みを浮かべて応える。
 そして、衛生兵らしい後ろの若者へ向かって指示を下していた。

 少年は、医務室へと運ばれる女性を見つつ安堵していた。

《よかった、生きている。》

 そして、メカマンからミネラルウォーターを分けて貰い、一心地ついたところだった。
 騒ぎながら、何かがシンジの方へ近付いてきた。

「やぁ〜〜ん、ベタベタするぅ。
 気持ち悪いぃ〜〜」

 そうしてソレはシンジの目の前で止まり、質問を浴びせかけてくる。

「ねぇねぇ、お水なぁい!?
 もぅ〜、体中ベタベタして気持ち悪いのっ!」

 シンジは、目の前の小妖精をみて思わず呟いていた。

「リッ……リリス・ファウ!?」

 それを聞いて、小妖精は抗議する。

「違うっ、アタシはチャム・ファウだよ。
 で、お水どこにあるか知らない?」

「えっ!?
 あぁ、これでよければ……」

 シンジはそういって、手にした一口つけただけの水の入ったボトルを差し出す。

 チャムはそれを見て、シンジに簡潔に頼む。

「開けて!」

 身体に似合わぬ気の強さに、最近知り合った誰かを思い出しながらシンジはボトルの
蓋を廻して開けた。

 そうするやいなや、チャム・ファウと名乗った小妖精はシンジの手からボトルを奪い
取り、それの口を持って服を着ているにもかかわらず、一気に頭上に中身の水をかぶる。

 チャムはシンジが呆気にとられていることにお構いなく、今度は遠慮無くその身を盛
大に震わし飛沫を飛ばす。

「わっ」

 シンジは、手をかざして顔にかかる飛沫を押さえるが、彼女が気にした様子もない。
 そして彼女は、のたまった。

「タオルゥ!」

 ますます、身近の誰かの既視感に囚われながらもシンジは首に掛けていたタオルを渡
す。
 チャムはそれを受け取り、身体を拭く。
 当初呆気にとられたシンジであるが、チャムのその様子はタオルとのジャレ合いを始
めたようにしか見えず、シンジの口元へ笑みを浮かべさせた。

 その時である、その小妖精を呼んでいるであろう声が聞こえたのは。

「チャムッ、何処だっ!
 チャムっ!」
 
 シンジは、その声をする方を見たが目にしたのは、信じられない光景だった。
 巨大な人工構造体であり、数々の先進的な機械に囲まれたこの【アーガマ】格納庫内
で、ファンタジーから抜け出てきたような格好をした青年が立っているのだ。

 その青年は、鮮やかな水色に染められた皮鎧を身につけ、腰の左脇には鞘に収められ
た剣、右脇にはガンホルスターとそこに納められた銃とをぶら下げていた。
 シンジと同じ日本人らしい顔つきをしていたが、体躯は細身ながらもがっしりしてお
り、逞しい。

 そして、眉目秀麗といっていいその顔の顎のつけられた斜め十字の傷もそうだが、そ
れ以上にその顔に据えられた目は、彼の意志の強さと幾多の死線を乗り越えている事を
明確に物語っていた。

 シンジは動けない。
 何故ならハッキリ言って、その時彼の圧倒的な存在感に完全に気圧されていたのだ。

 シンジのその様子など、この小妖精の関知するところではないらしい。
 元気な声で自分を呼んだ主へ返事をしていた。

「ショウ、こっちよぉ〜」

「チャム!
 勝手にウロチョロするんじゃない!
 みんなに迷惑掛けるだろう!」

「ワタシ、迷惑なんて掛けてないモン!」

「どぉだか……」

 そう言ってチャムの傍らにいるシンジへ目を向ける。
 硬直したシンジとチャムの様子から一部始終を理解したらしい青年は、シンジに詫び
る。

「こいつが迷惑掛けたみたいで済まない」

 青年の言葉を聞き、ようやく呪縛から解放されるシンジ。
 だが、多少余波は残っているようだ。
 口が、その主たるシンジ本人の言うことを聞かない。

「いっ、いえ。
 たっ……大したことしてませんっ……から……」

「そーよ、大した事してないんだから!」

 シンジのその様子にショウは微笑みを浮かべつつ、チャムの発言を丁重に無視して、
シンジに話し掛ける。

「緊張させたかな?
 まぁ、しょうがないか……こんな格好してたんじゃあな……」

「いっ、いえ。
 そんな事ありません、僕もこんな格好してますし……」

「……君も何かのパイロットなのか?」

「えぇ、あ……あそこの紫色のロボットに乗っています」

「そうか、君があのロボットのパイロットだったのか……」

「知っているんですか」

「?……そうか、まだ自己紹介していなかったな。
 俺はショウ・ザマ。
 あそこの【ビルバイン】のパイロットさ」

「あなたが、アレのパイロット……?」

 そういってシンジは、あの赤白の機体【ビルバイン】に助けられたことを思い出す。

「さ……さっきは、助けて貰って……ありがとうございます」

「いいや、お互い様さ。
 俺もこの【ロンド・ベル】に助けて貰ったしね。
 ところで、君があの時助けた人はどうしたんだい?」

「さっき、此処のお医者さんが出てきてくれて……
 『大丈夫だ』って……」

「そうか、そいつはよかった」

 そう言って、ショウは本当に嬉しそうに笑みを浮かべつつ言った。
 その男臭いが誠実な笑顔が出来るショウに、シンジは些かな羨望を覚える。

 そこへ甲児らしい人物の声が聞こえてきた。

「おぉ〜い、ショウ!
 どこいったぁ〜〜〜!」

 それに答えるようにショウもよく通る声を張り上げて応えた。

「こっちだっ!」

 そしてシンジへ向く。

「どうやら、長話が過ぎたようだ。
 俺とコイツは、もう行くよ。
 迷惑掛けて済まなかった」

「いっ、いえ迷惑だなんて……
 お話しできて良かったです、ショウ・ザマさん」

「ショウォォ。
 もう行こーよぉ〜〜〜」

 いつの間にかショウの横へ浮かんでいるチャムへ小さく叱咤するショウ。
 そして、シンジへ別れを述べる。

チョット黙ってろ!
 そうか、そいつは光栄だな。
 じゃあ」

 と言ってシンジへ手を差し出す。
 シンジが不思議そうにその手を見ているとショウは笑いながら一言短く言った。

「握手だよ」

 シンジはぎこちない動きをしつつもその手を取り、固い握手を交わして別れた。



<ジオフロント外殻地下ドック・機動巡航艦【アーガマ】>    


 甲児に案内され、ショウは無機質で色気に欠けた【アーガマ】艦内を導かれる。
 ショウはその途中でも、色んなモノを見つけては騒ぐチャムに叱咤する。

 何度かその様なことを繰り返して、甲児とショウ(+チャム)をブリッジへ着いた。

 それをブライトとアムロが出迎える。
 まずブライトが型どおり切り出した。

「【アーガマ】へようこそ。
 私が指揮官のブライト・ノアだ。
 よろしく」

 そういって、手を差し伸べてくる。
 ショウはその手を取って、自己紹介をする。

「援助ありがとうございます。
 ショウ・ザマです」

 アムロがブライトに続き挨拶する。

「久しぶりだね、ショウ君」

「アムロさん、【ラ・ギアス】の時から変わり無く……」

 ショウの一言にチャムが口をはさんだ。

「えぇ〜〜〜、そんなこと無いよ。
 なんか、一気に年取ったみたいな……」

「こらっ!
 チャム、黙ってろ!」

「ワタシ、嘘言ってないモン!」

 そのチャムの発言にアムロは複雑な顔をする。
 周りの人間は、ブライトと甲児は必至に笑いをこらえていたが艦橋詰めのオペレータ
達からはクスクス笑いが漏れていた。

「ショウ君、いいよ。
 チャムちゃんに悪気はないだろうし」

 ショウはアムロのその言葉に恐縮した。

「はぁ、すいません」

 妙な方向へ逸れた話が一段落したところでブライトはショウへ尋ねた。

「で、ショウ君よいかな?
 君たちはバイストンウェルという異世界に居たらしいが何故こちらへ出てきたのか教
 えて貰えないか?」

「えぇ、僕たちは確かにあの事件の後バイストンウェルへ戻ったんですが、依然として
 戦いは続いたんです。
 で、バイストンウェルにはフェラリオという不思議な力を持って秩序を護る種族がい
 るんですが、その連中が何かしたらしいんです」

 それを聞いて、思わずブライトは感嘆の声を上げていた。

「ほぅ、フェラリオというモノ達はそんなことが出来るのか」

「詳しくは判りません。
 フェラリオがバイストンウェルの人の世界へ干渉することは彼らの戒律に反すること
 ですから。
 ですが、彼らの統率者のジャコバ・アオンと会ったことがあるのですが、その時に『
 バイストンウェルよりオーラマシンを一掃せねばならない』と言っていましたから、
 戒律を破って何かをしたことは間違いないと思います」

「そうか、では君はこれからどうするつもりかね」

「わかりません。
 取り敢えず、敵も出てきているようですから仲間も出てきていると思います。
 それを探して合流して、それからですね」

「ふむ……ではどうだね。
 それまで、我々と行動を共にするというのは」

「やったぁ。
 ショウ、この人達手を貸してくれるって!」

 ショウはチャムの言葉を無視して、ブライト達に尋ねる。

「よろしいんですか?」

 その問いにブライトに変わってアムロが答えた。

「あぁ、構わない。
 と、言うより私たちも君たちの手助けが欲しいんだ。
 こっちでも、チョット面倒なことになっていてね。
 人手が欲しいんだ。
 一応とはいえ色んな所にこの【ロンド・ベル】は顔が利くから、情報も手に入りやす
 い。
 君にも、メリットだと思うが?」

 その後に甲児も続く。

「そうだぜ、ショウ。
 そうしろよ。
 こっちでも異星人が攻めてきて戦争になってんだ。
 おかげでてんてこ舞いさ」

「そうなんですか……
 では、お願いできますか?」

「歓迎する、ショウ・ザマくん」

 そういって、ブライトは再び手を差し出した。
 今度はショウも素早くその手を握り、かたい握手を交わした。



<ジオフロント・ネルフ本部第七ケイジ>    


 ショウと賑やかなチャムの二人と別れたシンジは、EVA初号機に乗りケイジへと戻
った。
 そこには、何故かプラグスーツのまま待ちくたびれた様子でアスカが待っていた。

 シンジがエントリープラグから出てくると堰を切ったようにアスカの怒声が響きわた
る。

「もう、何よあの戦いぶりは!
 EVAに乗っているのに、戦場で何もしないなんて!
 アンタって、前から情けないって思ってたけどこれほどとは思わなかったわ!
        :
        :
        :
        :
 チョット聞いてるの!」

 だが、エントリープラグからようやく解放され放心していたシンジはそのアスカの言
葉も耳に入っていなかった。
 アスカの最後の強い問いかけでようやく我に返るシンジ。

「……えっ!?
 ごっ、ごめん聞いてなかった……」

 その言葉にアスカは額に浮かべた青筋をますます大きくさせた。

 だが、乾きかけたLCLがシンジを救った。
 体中の不快感にアスカが、ここでの説教を諦めたからだ。

 アスカはシンジに向かって宣言する。

「……もう、いいわ。
 今はコレぐらいにしといたあげる!
 ……いいこと、着替えたらワタシが出るまで待っときなさいよ!
 今の分含めて思いっきり怒ってあげるわ!」

 そう言い残して、アスカはパイロット控え室の方へ向かって引き上げていく。

 その形の良いがまだまだ小振りなアスカのお尻の揺れる後ろ姿を見ながら、シンジは
戦闘で感じていた恐怖を忘れ、自分を怒る人の存在に何故か嬉しさを感じていた。

 そこへまた響く声。

「バカシンジ〜!
 早く着替えなさい!
 ワタシより遅かったら、お仕置きよ〜〜〜!」

 いささかの鬱陶しさを感じていたのも事実だったが。



<サイド7−第3バンチ【エヴァーグリーン】第2壁面市街地>    


 ここは、月−地球重力圏のいくつかの重力均衡点に建造されたスペースコロニー群の
中でも最後に建造されたコロニー群【サイド7】のコロニーの一つ。

 開放型コロニー(コロニー内に壁面に大きく取られた窓から太陽光を取り込み利用し
ているタイプのコトをこういう)で、【サイド7】で三番目のコロニーであることから
第三バンチ(コロニーの数え方)と言われる。
 住人には、通称【エヴァーグリーン】と呼ばれている。

 そこでも人は、子を産み、育て、そして死んでいった。

        :

 【エヴァーグリーン】第二壁面内部は居住区となっており、人の住んでいるところに
付き物の経済活動がある。
 それを生活に密着する形で実現しているのがここ商店街だ。

 前大戦で元DCに参加して戦争の終結後軍に取り込まれる形で連邦に帰属したジュリ
ド・メサとカクリコン・カクーラは、今日こちらの民間コロニーへくりだしていた。

 そこで怒声と悲鳴にも似た声を聞く。

「なにしやがんだ、コイツ!」

「すいません、悪気はないんです!」

 そちらへ目を向けると、まだ少年らしさを残す2人の軍人。
 そして5才ぐらいの女の子とその母親らしい妙齢の女性がいる。

 よく見ると真っ赤に目をはらした女の子とそれを庇う母親、その2人へ軍人の2人組
が絡むと言った構図になっている。

「悪気は無いだとぉ!
 てめぇのトコのガキがぶつかってきたんだろうが!」

「すいません、すいません!」

 軍人の怒号にひたすら謝る若い母親。
 軍人をよく見てみると、ジェリド達と同じ濃紺と赤が印象的なユニフォームに身を包
み、襟の部分には鳥をデザインしたらしい部隊章が見えた。
 それは、連邦軍の中で最近急速に勢力を増している【ティターンズ】の一員であるこ
とを示していた。

「ジェリド、どうした?」

 同様の運命を辿り今また戦列で肩を並べる、同僚カクリコンの問いかけに答えるジェ
リド。

「あぁ、どうやら一悶着あったらしい。
 ……あいつらは、こないだ配属されたヤツらだな」

「そのようだな。
 マズいぞ、ジェリド。
 ヤツらは手加減ってモンを知らんぞ!」

 これはここ最近の【ティターンズ】が急速に地球選民思想集団となって、宇宙市民を
軽んじていることから発せられた言葉だ。
 特に最近配属された人員はそれに加えて、極度なエリート意識を吹き込まれており、
その傾向が顕著だ。

「あぁ、マズいな……」

 ジェリドもそう懸念したときだった。
 母親に絡んでいる二人が更にわめき立てる。
 そこへ新たに野太い声がした。

「貴様ら、そこで何をしている!」

 周りを取り巻く群衆から一人の男が出て、二人へ近付く。

 その男は、長身で均整の取れた体付きをしており逞しい。
 彫りの深い顔に眼光鋭い目つきと、後ろで一括りにされ背中まで伸ばされた見事な銀
髪が印象的だった。

「貴様ら、恥ずかしいとは思わんのか!?
 少なくとも連邦軍の禄をはむ者が、護るべきこの様なうら若き女性と幼子に当たり散
 らすなど、情けないにも程がある!」

「なにぉ〜〜〜」

 そう言って、激昂した二人はその銀髪の男性へと標的を変え殴りかかった。

 銀髪の男性はそれをやり返さず、ひたすら避けに専念していたが一人が後ろから羽交
い締めにされた辺りからはひたすら殴られ蹴られ一方的にヤられている。

 二人の息が切れる。

 が、その男はまだ立っており、依然としてティターンズの二人へ鋭い眼光を向けてい
る。

 その視線に恐怖を感じたのか、二人は後ずさり初め腰の銃に手が伸びていた。
 だが、新たに横からその銀髪の男へ殴りかかる人物がいた。

「刃向かうか、貴様ぁ〜〜〜!」

 その声にビクつく二人。
 銀髪の男へ殴りかかったのは、ジェリドだった。

 殴りかかられた男は派手に吹き飛んでいる。
 銀髪の男へ短く言い放つジェリド。

「このような所で騒ぎを起こすからこうなるんだ!」

 そしてジェリドは、騒ぎを起こした張本人の二人を見据える。

「ティターンズのジェリド・メサ中尉だ」

 その言葉を聞き、急に姿勢を正す二人。

「じっ、自分はアレックス・ノイマン少尉であります」
「おっ、同じくミューラー・ブリューワー少尉であります」

 慌てて官姓名を名乗るその二人へ、指示を下すジェリド。

「ここは自分が預かる。
 貴官らは、直ちに駐屯所へ戻れ!」

「「ハッ!」」

 そういって我に返り、居心地悪そうに立ち去る二人。

 その二人が何処ともなく、消えたことを確認してジェリドは倒れていた銀髪の男へと
近付いた。

 再び群衆が緊張するのがよく判る。

 吹き飛んだ銀髪の男へ手を差しのばすジェリド。
 その手を銀髪の男が取ったところで、取り巻いている人々からは一斉に安堵の声が漏
れた。

 ジェリドに顔を寄せ、男は小さく呟いた。

「礼はいわんぞ……」

 そう言って男は蹌踉めきながら立ち去ろうとするが、助けた母娘に引き留められてい
た。

 その様子を見ながら立ち去ろうとするジェリドにカクリコンが並ぶ。
 彼らもここから立ち去る。

 その帰り際、カクリコンはジェリドに話し掛ける。

「ジェリド……」

「……あぁ」

「【ティターンズ】も先が暗いな」

「……あぁ」

「あんな連中が大挙して配属されているからな。
 で、どうだった」

「……間違いない。
 アイツは、DCの残党だな。
 昔の俺達と同じ匂いがする」

「……そうか。
 あんなヤツとは戦いたくないもんだな」

「そうだな」

 ジェリドは、かつて所属していた組織にあのような男がいたことに誇らしさを感じつ
つも、今の自分たちに惨めさを感じていた。



<ジオフロント・【ネルフ】本部内パイロット控え室近く>    


 シンジはあの後着替え、言われたとおりアスカを待っていた。
 自動販売機でスポーツ飲料を買い、ソレを飲みながら待っているとアスカが私服に着
替えてやってきた。

 彼女は、シンジを見つけるとその歩みを早め、一直線に向かってきた。

 その様子に幾分気圧されながらも、シンジはアスカの到着を待つ。
 シンジの目の前まで来てアスカは唐突に言い放った。

「シンジ、何かワタシに言うこと無い」

 どうにかアスカの爆発の直撃を免れようとし、普段の300%増で頭脳をドライブし
て出されたシンジの発言は、実にのどかなモノだった。

「……お疲れさま、アスカ」

 シンジの労いに、シャワーを浴びて気分を良くしていたらしいアスカが、それへ嬉し
そうに応えた。

「そーよ、今日の戦闘はちっこいの相手だったから疲れちゃって……
 ……じゃなくって!」

「えーと、その、ごめん!」

「そうよ、始めっからそう言えばいいのに。
 でもね、謝ったからってあの戦いぶりは何よ!
 あんまりにも酷いわ!
 いくらアンタが、ワタシに劣っているのは当然とはいえ、恥ずかしいとは思わないの!?」

「でっ、でも僕はアスカみたいにちゃんとした訓練受けてないし……」

「チョット待って!
 ……訓練を受けてない?」

「……ウン。
 こなだインド洋からの帰りに受けた訓練が初めてだったんだ」

「それでね。
 ……インド洋からこっちまでの間での訓練があんなに初心者向けだったのは……
 で、訓練がホントにあんなに完璧に何処までも初心者向けな訳だったのね」

 シンジは口が悪いとはいえ外見だけは非の打ち所がない美少女にコキ下ろされ面白く
なかったが事実の上先程の戦闘ではあのザマだ。
 反駁すら出来ず、弱々しく答えただけだった。

「……ウン」

 シンジのその様子に何か考えるところがあったのかアスカが何やら考え込んでいる。

《その割には、結構良い動きしてたわねぇ……
 まぁ、あれなら見込みあるかな……ウン!》

 シンジは、その様子に悪い予感がするので此処を立ち去りたいという欲求に駆られ始
めていた。

 シンジがどうにか立ち去ろうとするよりも、早くアスカが短く宣言した。

「……決めた!
 これからは、ワタシがアンタを鍛えて上げるわ!」

 それを聞き、シンジの口から思わず出るため息混じりの吐息。

「……あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁ」

《そんなことになるんじゃないかと思ったんだぁ〜〜〜》

 そんなシンジの様子を誤解するアスカ。
 シンジの前に置かれたドリンクカップを取ってあおり、一息で飲み干す。
 そしてカップを溢れる情熱で握り潰して、更に宣言するアスカ。

「そんなに喜んでくれて嬉しいわ!
 このワタシが鍛えるのよ!
 どんなに取り柄のないヤツでも立派な人間に早変わりよ!
 ……どうしたのよ、シンジ」

 ひとしきり叫んで憂さを晴らしたアスカが横を見ると、こちらを指差しシンジが口を
パクパク開け閉めしている。

「アンタ、何してんのよ?」

 そうするとシンジは、ようやく金魚の様なマネを止め、アスカの握り潰したカップを
指差しながら問いに答えた。

「……それ、僕の飲んでたカップなんだけど」

 その答えに怪訝な顔をするアスカ

「……?
 だから、どうしたのよ」

「だから……その……」

「あ〜〜〜、もう!
 ハッキリしなさいよ!
 アンタのそう言うところがダメなんだから!」

 そうするとシンジは真っ赤になって激白した。

だから、それって間接キスだろうって言いたかったんだ!

 それを聞き、アスカも両手で口を押さえ真っ赤になった。

        :

「シンちゃーん、アスカ、呼びに来たわよ〜〜ん!
 ……ってアンタ達どうしたの?」

 暫く経って、そこへミサトが来た。
 二人を呼びに来たらしい。

 ミサトが見たのは、さっきの情景そのままに完熟トマトも色あせさせる程真っ赤にな
って俯くシンジと、こちらもシンジに負けず劣らず真っ赤になってミサトも見たことの
ない恥じらいを浮かべた表情で固まるアスカだった。





<第伍話Aパート・了>



NEXT
ver.-1.02 2001/11/25 公開
ver.-1.01 1998+07/19 公開
ver.-1.00 1998+06/02 公開
感想・質問・誤字情報などは こちら まで!

<作者の呟き>


作者  「……なんでこうなる。
     ……なんでだ!
     今回(5話通して)はLRSのハズだったんだ……LASなんか欠片もこ
     れっぽちも入れる予定は無かったんだぁ〜〜〜〜」









 Gir.さんの『スーパー鉄人大戦F』第伍話Aパート、公開です。




 いや、ふんとに、
 ドイツの科学者どもは許せんなぁ  ぷんぷん


 人を何だと思ってんざんしょ。



 リツコさんのぶっとび力で
 洗脳の類なんか一発だい!

   ・
   ・
   ・

 いきなりやると反動が怖いか(^^;

 リツコさんのだから、効きそうだし、効きすぎそうだし−−


 ゆっくり確実、安全に、で。


 こっちは色々と環境が良さそうだし(^^)





 さあ、訪問者の皆さん。
 Gir.参にあなたの感想メールを送りましょう!



TOP 】 / 【 めぞん 】 / [Gir.]の部屋