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[鳥坂]の部屋
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ナツの終わりに
常に適温に調整され、外のうだるような熱さとは無縁な人工の空間。
適度な太陽光線が差し込む天窓、カルキを使わずに水質を清潔な状態に保つ濾過滅菌装置、サウナ・シャワー室の充実。
そんな余人の羨む設備の行き届いたプールも、通常は殆ど利用者が居ない。
特務機関Nerv
大方のお役所仕事と同様、ここも福利厚生施設が無意味に充実していた。
そんなこんなで、今日の利用者はたったの二人。
プールの真ん中にエアマットを浮かべ、水遊びに興じる茜色の髪の少女が一人。覚えたばかりのぎこちない泳ぎ方で、その脇を何度も往復する影が一つ。
ここ数日に渡ってここで繰り返されている、静かでけだるい昼下がり。
ザバァッ
泳いでいた人影が少女の傍まで近付いて来ると、水の中から顔を出した。
ゴーグルを取ってエアマットの上に放り出し、そのままマットにしがみついて一息入れる。まだ立ち泳ぎを持続出来るほど、上達してはいないのだ。
女性的な顔立ちもあいまって遠目には線が細そうだが、決して華奢な訳ではない。この年代特有の絞り込まれた骨格筋や皮下脂肪の薄さが、むしろ無駄を削ぎ落とした精悍な印象を与える。
ついこの間まで 彼の事をウラナリのへっぽこ扱いしていた彼女にとっては、その変化が羨ましくもあり、また頼もしくもあった。
「
随分上手くなって来たじゃない、偉い偉い
」
アスカがニンマリ笑う。元から際立っていたプロポーションに磨きが掛かり、この一年で随分と大人びて来た彼女だが、こういう時には歳相応にあどけない表情を見せる。シンジはここら辺のギャップが可愛いなと思うが、口には出さない。多分叩かれるから。
「
アスカのおかげだよ。毎日シゴかれたからね
」
代わりにシンジはそう言って、屈託無い笑顔を見せる。こんな時の自分の笑顔が女性にもたらす破壊力に、彼自身は全く気付いていない。誠に勿体無いが、彼らしいと言えば彼らしいかも知れない。
だから少女は独りでのぼせて、独りで慌てることになる。
「
あっ、当ったり前でしょ。このアタシに教わってて『泳げない』なんて言ったら、簀巻きにして芦ノ湖に放り込むわよ
」
取り合えずテレ隠しに、手を伸ばしてシンジのおでこをグリグリ。
「
大体 高校生にもなって泳げないなんて、恥よ、恥
」
自分が一番でなくてもいい事に気付いたあの日から、他人と協調を取ろうと努力してきたが、未だにシンジ相手だとなんとなく高圧的な態度に出てしまう。
お互いの力関係が変わって来て、相手に対する距離を計り兼ねているのかも知れない。
取り敢えず、世界は今日も おおむね平和だった。
シンジは泳ぎ疲れて、マットの端に肘を突いたままチャプチャプやっている。アスカはそれを横目で見ながら、時折水を引っ掛けてちょっかいを出す。
このままぼけぇ〜っとしたまま過ごし、飽きたらラウンジに寄ってかき氷かアイスを食べて帰るのが、ここ数日の行動パターンだった。
「
いい加減ここも飽きてきたわねぇ
」
マットの上でつまらなそうにのたうつアスカに、シンジは気のない返事を返す。
「
そりゃぁ、通産2週間も通い詰めれば飽きもするさ
」
「
でもいい加減、行く所もやる事もなくなってきたしねぇ
」
「
海に山にプールに遊園地に動物園に水族館にプラネタリウムに……他にどっかあったっけ?
」
「
映画館が抜けてるわ
」
「
そっか……。 ん?……ねぇ アスカ
」
「
何よ?
」
「
なんか大事な事、忘れてるような気がするんだけど
」
「
あ、アタシも今そんな感じがしてた。何だろ?
」
「
ええっ、アスカもなの?
」
「
洗濯物取り込み忘れたとか?
」
「
違うって。大体 この天気じゃ雨なんて降らないよ
」
「
じゃ スーパーの特売の日?
」
「
ええっと、今日って何曜日だっけ?
」
「
……月曜日よ
」
「
なら、それは明後日
」
自分のその答えが引き金になって、シンジの脳裏に何かがよぎる。
「
あれ?今日って 何日?
」
「
アンタ馬鹿ぁ?31日に決まってるじゃない
」
アスカはつまらなそうに鼻を鳴らす。
「
ええっ、もう月末?
」
ここ数日遊び呆けていて、すっかり曜日も日付も、感覚が狂ってしまっている。
「
そう言えば そうねぇ
」
それはアスカも同様だったようだ。
「
夏休みって、今日が 最後?
」
だんだんシンジの声の温度が下がっていく。
「
そうよぉ。全く、もう少し休み長くしても 罰当たんないのにねぇ
」
アスカはつまらなそうに鼻を鳴らす。まだ気付いていない。
「
9月1日って、始業式だけだよね
」
さらに下がるシンジの声。
「
……あ"……
」
アスカの視線が宙を泳ぐ。どうやら気が付いたらしい。
「
集会やって、掃除やって、HRやって……
」
アスカの視線が明後日の方を向き始める。
とうとうシンジの声のトーンが絶対零度に到達する。
「
……アスカ
」
「
……分かってるわ
」
そして死刑宣告
「「
……
……
……
夏
休
み
の
宿
題
だ
……
……
……
」」
その日の夕刻
「
もしもし、鈴原さんのお宅ですか?壱高の碇と……あ、ナツミちゃん?トウジいるかな?
」
「
もしもし。ねぇヒカリィ!一生のお願い!!
」
「
あ、あの、綾波?僕。シンジだけど、邪魔しちゃった かな? 実は……
」
「
ああ、相田?すっっっごく不本意だけど 例のフォトコンテストの話、受けるわ。その代わり……
」
その後、アスカとシンジの部屋の灯りが消えることはなかった。
さて、開けて翌日
2人の努力が実ったかと言うと、
ちゃんちゃん
どうも、鳥坂です。最近GalleryとかCG絵描きの人のお部屋が賑やかなので、私も便乗。
先日、高校時代の恩師やOB連と呑んで来ました。その時 夏休みの宿題の話が出たので、こんなネタが頭に浮かんでしまって……。丁度良かったから、描くだけ描いて宙に浮いてしまってた このCGに合わせました。
でも本編系の几帳面で小心者のシンジ君じゃ、宿題忘れたり 先送りにはしないよなぁ。アスカがどうかについては、……後が怖いのでノーコメント。
(
最近の中学・高校の夏休みの宿題って、なんかヘンにスゴいらしい。数学の問題集数冊とか、O−ヘンリーの短編集丸ごと和訳とか、笑えるトコでは幇神演儀全巻読破とか。現役高校教師の口から、呆れ果てるようなロクでもない宿題の話がポンポンと。どうにかしろよ文○省
笑
)
なんとなく夫婦漫才だけでは味気ないので、このCGに関連した話を幾つか。ただ、さほど真面目に書いた話じゃないので、コメントTAGで囲っておきます。お暇ならどーぞ。
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ver 1.00 1998+09/01 公開
お便りは
こちら
に!!
鳥坂さんの『ナツの終わりに』、公開です。
夏中、
夏休み中、
遊び回って、
2人で遊び回って、
とっても楽しかったんでしょうね(^^)
とってもとっても♪
楽あれば苦ある。
忘れ去っていた宿題の山〜
くくく・・・いいきみだ・・・けけけ (爆)
あっちこっちへ
いつも2人で。
とっても素晴らしい夏休みでしたね(^^)
オチもバッチリついて思い出深い〜♪
さあ、訪問者の皆さん。
挿し絵ならぬ指し文もばっちりの鳥坂さんへ感想メールを送りましょう!
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