第2話
放課後,アスカとシンジは体操服に着替え,校庭にたっていた。
アスカは第一中学指定の白い体操服に,黒いブルマ,それに赤いはちまきをしており,腰まで届きそうな栗色の長い髪が少し冷たい風でかすかに揺れていた。シンジは第一中学指定の白い体操服に白い短パンという姿である。
間近で見るアスカの体操服姿にシンジはしばらくぼうっと見とれていたが,アスカの声ではっと我に返る。
「ちょっとシンジっ,何ぼけっとしてんのよ。」
「えっ,な,なにっ?」
「ははーん,さてはシンジ,あたしの体操服姿に見とれてたわねー。」
「そ,そんなことっ、ないよ」
「ほんとかなー。」
そう言ってアスカはシンジの顔をのぞき込む。すでにシンジの顔は真っ赤だ。
「そんなこと・・・・ないよ・・・。」
「やっぱっそうなんだー,わたしも気をつけなきゃねーっ。」
かくいうアスカの顔は、言葉とは裏腹に明らかに嬉しそうである。
「それより,シンジ,あんた二人三脚の時の足を縛るひも,何か持ってきたぁ?」
「えっ、ご,ごめん,持ってきてないよ。」
「あんたばかぁ,なきゃ練習できないじゃない。」
「そ、そうだね、ぼく探してくるよ。ちょっと待ってて。」
アスカを校庭に残し、教室に向かってシンジは駆けだそうとする。が,アスカの声で制止される。
「あっ,シンジ待って!」
「え,なに?」
「いいから、いいから、こっちに来なさい?」
そう言ってアスカは地面に腰を下ろし、自分の隣を指さす。シンジは不思議そうにしながらも,言われたとおり,アスカの横にやって来る。
「ちょっと、シンジ、ぼけっとしてないで、早く座りなさい。」
「う、うん。」
シンジは少し距離を置いて、アスカの隣に腰を下ろす。
「そんなんじゃ、縛りにくいじゃなーい。」
アスカはシンジが座ったのを見ると,シンジの方に体をぴったり寄せる。シンジは,自分の左側に暖かいアスカの感触を感じて心臓が高鳴る。アスカは,黙って自分の赤いはちまきをはずす。
「ア,アスカ?」
「左足をだして,シンジ。」
「でも,それ,アスカのはちまきだよ。いいの?」
「いいわよ,後でシンジには,何か買ってもらうから。」
「えー,そんなの勝手に決めないでよー。」
「なによっ,文句あるっ?」
「ううん,ありません・・・・。」
「じゃ,しばるわよ。」
アスカは自分の右足とシンジの左足を密着させて、器用にリボンで足首のあたりをリボン結びする。シンジはアスカの細い指が器用に動く様子を見て、思わずつぶやく。
「アスカって、すごく女の子らしいや。」
途端にアスカの顔が真っ赤になる。
「な、な、なに言ってんのよ!あったりまえでしょー、失礼ねぇー!」
「い、いや、その・・・、何て言うか・・、でも、ほんとにそう思った。」
「もうっ、シンジのくせに生意気よ!」
「ごめん・・・」
アスカはその口調とは裏腹に、シンジのふと漏らした言葉がいたく気に入った様子で、すぐ横にあるシンジの顔を優しい眼差しでしばらく見ていた。
そうこうするうちに、ようやくアスカが結び終える。
「はいっ,出来たっ。」
「うん、ありがとう、アスカ。」
「じゃっ、立つわよ。」
「うん。」
シンジはアスカより先に立ちあがると、アスカに右手を差し出す。アスカはシンジの行動にちょっとびっくりしていたが、左手でその手を取り立ち上がる。互いの手にはほとんど力が加わらず形式的なものであったが、二人の心にはしっかりと引力が働く。
そのまま、30cmと離れていない距離で二人は見つめあっていたが、シンジは意を決して、おずおずとアスカの肩に自分の腕を回す。アスカは一瞬びくっと反応したが,同じようにシンジの肩に腕を回した。
シンジは自分の腕に感じられる、アスカの肩の小ささに驚きの気持ちを隠せなかった。そして、神に感謝しながら、改めて隣にいるアスカの存在を感じた。
密着しているアスカの足の感触,体操着一枚を通して伝わるアスカの暖かさ,時折顔に降りかかる栗色の柔らかい髪、アスカ全体から伝わる何とも言えないいい香りにシンジの鼓動は一気に高鳴る。
シンジは自分の顔が熱くなるのを感じて、思わず視線をアスカの顔から逸らす。
アスカはそれについては何も言わず、視線を前に移す。アスカの顔もほんのりと桜色に染まっていた。そして、密着しているシンジの体から伝わる鼓動を感じていた。
『シンジの心臓の音が聞こえる。すごくどきどきしてる・・・・,でも、あたしもすごくどきどきしている。シンジに聞こえなきゃいいけど・・・・。』
アスカはシンジに自分の鼓動が伝わらないように、一度大きく深呼吸をしてから、シンジに話し掛けた。
「シンジ!」
「えっ,な,なに?」
「最初は普通に歩いてみるわよ。」
「そうだね。」
「じゃあ,左足から行くわよ。」
「わかった。」
「じゃっ、行くわよっ。」
「うん。」
「「せえのっ。」」
アスカは左足を踏み出す。シンジも左足を踏み出す。二人三脚で2人が同じ足を踏み出したら結果は一つだ。アスカは自分が出した左足と,シンジが出した左足につられて右足もだしている。両足が前に出たアスカは,後ろに倒れそうになる。
「きゃっ。」
「アスカっ。」
シンジは渾身の力でアスカの体を自分の方へ抱き寄せると同時に,自分も後ろへ倒れ込み,自分の体をアスカの下に入れることに成功する。そのまま,シンジを下にアスカを上にして2人は倒れた。
「いったーい。」
「大丈夫、アスカ?」
下からシンジがアスカの顔を覗き込む。
「ちょっとシンジ!あんたも左足出してどううすんのよっ!」
「ごめんアスカ・・・。」
「まあ,わたしの言い方も悪かったけど・・」
「ううん,ぼくが悪かった,でもアスカ,怪我はない?」
アスカは自分の体を確認してみて、今の自分たちの体勢にようやく気づく。
「あ、あたしは大丈夫よ!」
「そう、よかった。」
「それより、シンジ、立つわよ!」
「えっ、う、うん。」
今度はアスカが先に立ちあがり、シンジに手を貸す。シンジはアスカの白く柔らかい手を取り、立ち上がった。アスカはシンジの顔をじっと見つめていたが、シンジが立ち上がると、口をシンジの耳元に持っていき、そっとささやいた。
「・・ありがとう・・・」
「え、な、なにが?」
「あたしのこと・・、かばってくれたでしょ・・」
「う、うん、なんか、体が勝手に動いた・・・」
アスカはシンジの言葉に胸がキュンっとしめつけられる感じがしたが、照れ隠しに声を大きくする。
「ま、まあ、シンジにしては上出来よっ。」
「そ、そうかな。」
シンジは嬉しそうな顔で、頭を掻く。
「それよりシンジっ、体操服に砂がたくさんついてるわよ。払ってあげるから、ちょっと体をひねってくれる。」
「う、うん、ありがとう、アスカ。」
シンジは言われたとおり、体をひねり、アスカに半分だけ背を向ける。アスカは丁寧にシンジの体操服についた砂を払っていった、シンジが自分をかばってくれたことに対する感謝を込めて。
だいたい砂を払い終えたかなというときに、アスカの視界に赤いものが飛び込む。それがシンジの肘から流れている血だとわかるまで時間はかからなかった。アスカは血相を変えて叫ぶ。
「ちょっとシンジっ,その肘っ,血が出てるじゃない!」
「え? あっ,ホントだ。ちょっと擦りむいたみたい。大丈夫だよ,こんなの。」
シンジは傷の周りについた砂を、反対の手で軽く払い除ける。
「駄目よっ,ばい菌が入ったらどうするの?あんたはエヴァのパイロットなのよ。もう少し自覚を持ちなさい!?」
「いいよっ。こんな傷。」
「いいからっ,保健室に行くのよ!」
「わ、わかったよ、アスカ・・・心配してくれるんだね・・・」
「ま、まあね、あたしの責任でもあるし、じゃっ、ちょっと待ってなさい。」
アスカは、人差し指をシンジの鼻の前に持っていき,赤い顔で一睨みした後、腰をかがめて、2人の足をしばっていたリボンをほどいた。
「じゃ、行くわよ!」
そう言って、アスカはシンジの手を引っ張ってずんずん歩き出す。
「あーんたも、情けないわねー。あれくらいで擦りむいて。」
「もう少し、体鍛えなさい!?」
「まあ、あたしをかばっての名誉の負傷だからぁ、仕方ないといえば仕方ないんだけどぉ。」
保健室に着くまでのあいだ、嬉しさのためか、照れ隠しのためか、アスカはこんな調子でシンジに話かけていた。シンジはそれについてはあまり反論せず、つながったアスカの手から伝わるアスカの心の温かさを感じていた。
保健室にたどり着くと、アスカはコンコンとドアを軽くノックする。
「すいませんっ。」
「・・・・」
中からは返事はない。
「誰もいないみたいねぇ。」
「そうだね。職員会議でもやってるのかもね。」
「いいわっ,勝手に入りましょ。」
「うん。」
「「失礼しまーす。」」
ユニゾンでドアを開けて中に入ると、やはり中には誰もいない。アスカは保健室の中を見渡すと、シンジをベッドに連れて行き、そこに座らせた。
「シンジ,ここに座ってて。」
「アスカ,どうするの?」
「保険の先生いないみたいだから、わたしが手当てしてあげるわ。」
「え,悪いよっ、アスカにそんなことまでさせちゃ。」
「いいから、座ってて・・、あたしをかばってできた傷なんだから・・」
「・・うん、ありがとう・・・、アスカ・・・」
アスカはシンジにしか見せない優しい表情でシンジを見つめ、軽くうなずいた後、薬のおいてある棚の前に進む。その棚の中から、オキシドールと脱脂綿を持ち出し、シンジの座るベッドの脇にあるサイドテーブルの上に置く。
アスカはシンジの隣の腰掛けると、ピンセットで脱脂綿を挟み、それにオキシドールをしみ込ませ、シンジの方を振り向く。
「じゃあ、シンジ、傷見せて。」
「うん。」
シンジは怪我をした右の肘をアスカの方に差し出す。アスカは左手でシンジの腕を支え、右手でピンセットを持ち、オキシドールを含んだ脱脂綿を恐る恐る傷に近づける。脱脂綿を傷口に接触させると、ジュワッという音が聞こえてきそうなほど傷口が泡立つ。
「つっ!」
シンジの表情が痛みで一瞬ゆがむ。
「しみる?」
アスカがシンジの顔を心配そうに覗き込む。だが、シンジはアスカを心配させまいと笑顔でそれを否定する。
「ううん、大丈夫。」
「うそっ、今痛いって言ったじゃない。」
「ちょ、ちょっとね。」
「なっさけけないわねー。」
そう言いながらも、アスカはシンジの傷口に顔を近づけ、唇を軽く尖らせて、フーフーとそっと息を吹きかける。それだけで、シンジは傷の痛みがずいぶん和らいだ気がした。アスカは柔かい目でシンジを見つめる。
「少しはよくなった?」
「うん、すごくよくなった。ありがとう、アスカ。」
「そう、よかった。」
「ねえ、アスカ、痛みを止める日本のおまじない知ってる?」
「知らないわ・・、ねえ、どうやるの?」
「傷の上に手を置いてね、痛いの痛いのとんでけっーって言うの。」
「じゃあ、特別にやってあげるわ。」
アスカは楽しそうに言うと、シンジの傷口に直接手を触れないように注意しながら、手で傷口を覆う。そして、シンジに教えられたおまじないを少し恥ずかしそうに口にする。
「痛いの痛いの飛んでけっー。」
「これでいいの?」
「うん・・・、でも、ほんとにやってくれるとは思わなかった。」
シンジは笑顔でアスカを見つめる。
「なによっ、シンジがやって欲しそうに言うからやってあげたのにっ。」
頬を膨らませてアスカはふてくされる。
「違うよっ、その・・・、ほんとにありがとう、アスカ、うれしかった・・・」
シンジがあまりにも真剣な表情でアスカの目を見つめて言うので、アスカも怒気を抜かれてしまう。
「バ、バカッ・・・、いいわよ、そんなの・・・」
アスカもシンジの目を真剣な表情で見つめる。二人はうす暗い保健室のベッドに座り、お互いの目を見つめあう。シンジには、アスカのマリンブルーの瞳が心なしか潤んでいるように感じられた。
アスカは自分の顔が紅潮して来るのを感じていた。同時に心臓がのどを打ち鳴らすのではないかというほど激しく振動しているのがわかる。この雰囲気の前に、もう自分では言葉を発することができなかっていた。そして、ただ、シンジの・・・言葉を待つのみであった。
シンジはシンジで、突然訪れたこの雰囲気に戸惑っていた。目の前30cmのところに、ほんのりと桜色に顔を上気させた、自分が想って止まない少女が、蒼い瞳を潤わせて上目遣いで自分を見つめている。
心の準備は全くできていない。いつかは伝えなければならないとも思っていた。だが、それが今であることに鼓動は急激に高まっていった。
顔が熱い、恐らく耳まで真っ赤だろう。のどもカラカラになっている。正直言って逃げ出したい、くじけそうだ。だが、目の前にいる少女の瞳に宿る真剣な気持ちを見つめると、シンジはついに決意を固める。一度乾いたつばを飲み込むと、どうにかして声を絞り出す。
「アスカ、その・・・、今日はアスカと二人三脚できて、うれしかった・・・」
「あたしも・・・うれしい・・・」
アスカの声もいつになくか細い。だが、その言葉でどうにかシンジは言葉を続けることができた。シンジはアスカの目を真っ直ぐ見つめると、最後の勇気を振り絞る。
「その・・・、ぼくは・・、アスカのことが・・・好きだ。」
アスカの蒼い瞳から、涙が零れ落ち、ほんのりと赤い頬から、形のよいあごを伝わる。
「あたしも、シンジが好きっ。」
待ち望んだシンジの言葉を耳にして、アスカはシンジに飛びついてしまう。嬉しさで流れ出る涙をこらえようともせず、アスカはシンジの瞳を見つめる。
「うれしい・・、やっと言ってくれたわね・・・」
アスカを抱きとめるシンジの瞳にもうっすらと涙が浮かんでいる。
初めて好きになった人から受け入れてもらえた喜び、同時に、好きになった人から拒絶される不安からの解放、2人は互いに体を抱き合い、その喜びに打ち震えていた。
やがて、シンジを見つめるアスカの潤んだ瞳がゆっくりと閉ざされる。
しばしの躊躇の後、2つの影は重なり1つになった。
本来ならもっと、ハラハラドキドキさせて、告白は運動会終了まで引き伸ばすんでしょうが・・・・・
私には最初から無理だったんです・・・・、アスカとシンジをくっつけずに最終話まで書き続けるなんて
だから、第2話にして、運動会が始まってもいないのに、二人はもう告白済みっ(^^;;
これからは、アスカとシンジのかゆい話を書き続けるしかないよーです(笑)
ONさんの『はじまりは運動会』第2話、公開です。
体操服姿のアスカちゃん・・・萌え〜(^^)
「白い体操服に,黒いブルマ,」
可愛いよね〜ぜひ一目(爆)
+「それに赤いはちまき」
カラーバランスもグー(^^)
二人三脚で体ピタッ。
シンジくんもイチコロだよね・・
男の優しさと頼もしさを見せたあとは、
ぎこちない告白。
そして・・・
LASはいいなぁ(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
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