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それはシンジが意識を取り戻して数日後。
シンジとアスカの二人は、とある公園のベンチに座っていた。
秋を感じさせる、高く澄み渡った空。
風も夏の風ではなく秋の風に変わってきていた。
二人は言葉を交わすでもなく、ぼんやりと辺りの景色を眺めている。
意識が戻った次の日、トウジやケンスケ達クラスメートがお見舞いに来た。
そして、シンジが休んでいた間の学校の様子等を方って聞かせてくれた。
学校の方は文化祭の準備が大変だとか、体育祭でトウジが3種目で優勝したとか、
他愛のない話は、しかし、シンジの心を暖かくした。
そして、シンジは3日ほど入院し、得に問題はないということで昨日退院したばかりだった。

「アスカはドイツに戻らなくていいの?」

シンジは隣のベンチに座っているアスカに視線を向ける。
ぼんやりと、公園内のイチョウの木を眺めていたアスカは、手をひらひらと振って答えた。

「うん。2週間ほど休みをもらったから。」

「でも、勉強遅れない?」

「大丈夫、自分で勉強してるから。これでも、成績はトップクラスなんだから。」

「そうだね、アスカだったら、心配ないか。」

そんなシンジの言葉に、アスカはくすりと笑みをもらす。

「何?どうかした?」

「そうよ、人の心配する前に自分の心配しなさい。
もう1週間以上も学校を休んでるのよ。」

もう9月も終わりに近づいていた。
すぐに秋が来て、長い冬がやってくる。
そして、また春が…

「学際の準備とかで、結構授業は進んでないんだって。
だから、来週から出れば何とかなるよ。」

シンジのその言葉にアスカは何か告げたそうにシンジの横顔を見るが、結局尋ねるのは諦めて視線を戻す。
アスカの視線の先には、小さな砂場があった。
陽射しはどこまでも穏やかだった。
二人はしばらく黙ったまま座っていた。
シンジは空を見上げる。
マナ…
あの時のこと全てを僕から君に直接伝えなければならない。
君が許してくれるかは分からないけど。
今の僕はそうするしかないんだ。


でも…
まだ、すぐには行けないよ。
ハワイに行くために一つだけ、はっきりさせないといけないことがあるんだ。
だから…
アスカはちらりとシンジの表情を伺う。
シンジの顔には何の表情も浮かんでいなかった。
視線を戻して、アスカはちいさくため息をついた。
 
 
 
 
 
 
 
 

Time Capsule
TIME/2000
 
 

第38話
生きていけないから
 
 
 
 
 
 

そう…良かった…

マナは小さく安堵のため息をついた。
受話器越しにその様子を聞きレイはくすりと微笑む。

余計な心配かけさせちゃったかな?

マナはもう1度、小さく息をついて答える。

そんなことないよ、知らせてもらって良かったと思ってる。

そう…それならいいけど。
これで、シンちゃんは全部思い出したんだけど…

しばらくの沈黙。

でも、もう遅いよ。

どうして、そんなことないじゃない…

ううん。シンジには何も話さないで、お願い。

レイは首を振った。
どうしてマナそんな答えを返すのか、彼女には理解できなかった。
そして、それの思いを言葉にする。

どうして?
シンちゃんに、全てを話して…

しかし、その言葉を押し留めるようにマナは言葉をかぶせる。

お願い。

その声の調子にレイはしばらく黙り込んでしまう。
そして、諦めたようにため息をつく。

…うん、わかった。

ありがと。ごめんね、いろいろわがまま言って。

ううん、そんなことないよ。
 

だって、まだ私はシンジの事を…
だから、それ以上何か言われると自分のこの想いに負けてしまいそうで。
この心の奥底に閉じ込めている想いが。
目覚めてしまいそうで…
だから…
それ以上は…
 

今度の沈黙は長かった。
時計の針が秒を刻む音が聞こえてくる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

もう、決心は変わらないの?

レイはそう尋ねた。
彼女は全てを知っていたから。
マナの決心は固い。
それでも彼女はもう1度だけ尋ねられずにはいられなかった。

うん…そうするのが…一番だと思うから、二人にとって。

でも…

何も言わないで、それ以上は…

…ごめんなさい。

ううん。いいのよ。決めたのは私だから…

だから、罰は私一人で受けるから…

罰。
その言葉はシンジも口にした言葉。
レイはその言葉を聴き息を呑んだ。

そう…
全ての罰は私が受けるから。
この身体の異常も罰なのだから。
私は私の罪を認めます。
そして、罰も私が…
 
 
 

部屋のドアがノックされた。

「はい、開いてます。」

シンジはベッドから起きあがり、ドアの方を向いて答えた。
ドアを開けて顔を覗かせたのは、レイだった。

「入って良い?」

首をかしげるレイ。
シンジは笑顔を浮かべてうなずく。
レイは部屋の中に入り、シンジの隣に座った。
シンジはすこし驚いたような表情を浮かべたがすぐ小さく微笑んだ。
レイは小さく息をつくと、顔を上げてじっとシンジの顔を見つめる。

「それで、これからどうするの?」

単刀直入なレイの言葉にもシンジはあまり驚いた表情を浮かべない。
彼女が部屋に来たときから、予想はついていたからだった。
その真紅の瞳を覗きこみながら、シンジは小さく首を振って答える。

「どうするも何も…」

シンジはそこまで告げて少しだけ間を置いた。
だって、現状やれることは一つしかない。
でも、まだそれには…

「僕の目指すべき場所は一つしかないよ…でも。」

「でも?」

シンジはまじまじとレイの顔を見た。
答えを返そうと口を開きかけるが、シンジは首を振って小さくため息をついた。

「はっきりさせないといけないことが…あるんだ…」

レイは頷き、彼女の思っていることを口にした。

「それは…アスカのこと?」

その言葉に、シンジは素直にうなずいた。

「そう…だね…」

「答えは出たのね…」

「…でも、本当にそれでいいのか、自信が全然ないんだ。
理由が上手く説明できないんだ。
それなのに、話してしまって良いのか。」

レイはじっとシンジの瞳を覗き込む。
彼女の髪が揺れて頬にかかる。
そして、にっこりと笑みを浮かべながらレイは告げた。

「そんなものだと思うよ。
だって、誰かを好きなるって理屈じゃないから。
それに、自分を信じないといつまでたっても解決しないよ。
逃げつづけても、何も解決しないよ。」

「逃げちゃ…駄目か…」

シンジは、小さくため息をつく。
そうかもしれない…
これまでもそうだった。
多分、このままじゃ、これからも同じだろう。
それならば、いっそのこと…
 
 
 
 
 
 

彼女はまぶしそうに空を見上げた。
彼女がこの島にやってきたから、雨模様になったことはない。
当然、スコールのような短時間の雨なら何度か遭ったが、一日降りつづけるような雨はまだない。

「毎日、良い天気ね…」

彼女は小さくため息をつくと、視線を落として、目の前に広がる青い海に向ける。
そして、打ち寄せる波の音に耳を済ませながら、瞳を閉じる。
この島に来て、どれくらいこのようにして時間を過ごしただろう?
何もすることが無い時には、彼女は必ずこうして海を眺めて過ごしていた。
海を見て…か。
マナは首をふるふる首を振った。
見てるのは海じゃなくて…


もう、どうしようもないのにね。
なのに、考えることは一つ。


そう、いつも彼のことばかり考えてる…


吹き寄せる風に潮の香りを感じて彼女はうつむく。
この匂いは…
あの時のことを思い出させる。
そう、彼に別れを告げた時も、こんな風に潮風が二人を包んでいた。
ふわりと揺れた髪を押さえて、彼女は顔を上げる。
透明度が高いため波打ち際では砂浜の白に染まっている波。
彼女はふいに立ちあがり、砂浜を後にする。
こんなに素敵な光景なのに。
私の心は…こんなにも沈んでいる。
 
 
 
 

シンジはベランダから街並みを見渡していた。
いつもと何も変わらない光景。
傾き始めた陽がほんの少しだけ辺りをオレンジに染め始めていた。
頬を撫でていく風にふと、秋の気配を感じた。
くすりと笑みをもらし、シンジは小さな声で呟いた。

「もう、こんな風が吹くようになったんだね。」

そして、じきに秋も深まって冬がやって来る。
少し離れた大通りの横断歩道の青信号が点滅し始めた。
ぼんやりと視線をさ迷わせるシンジ。
あの時…
僕は…
そう思い始め、慌ててシンジは物思いにふけるのをやめた。
いまさら、そんな事を考えても、どうにもならないよ。
シンジはそう自重気味に考えると視線を雲がかかっている空に移す。


マナは今、何をしているのかな?
こんなふうに空を見上げてるかな?



マナと再開してからまだ半年も経っていない。
それなのに、まるで数年前のことのように感じられる。
それだけいろいろなことがあったんだよね。
マナ…
僕は、怖いよ。
すごく怖いんだ。
今、僕が持っている想い。
それが本当に正しいのか、自信がないんだ。
君とアスカにそれぞれ抱いている想い。
僕は答えを出さなければならない。
ずっと、考えつづけてきた。
そして悩んできた。
これ以上、二人を待たせるわけにはいかないから。
はっきりさせないといけない。
そして…
今度のことでわかったことが一つあるんだ。
それを二人に告げればいいと思うのだけど…
でも…


本当にそれで良いのか?
僕は自信が無い。
もしかしたら、自分の思い込みでそんな答えを出してしまったんじゃないかって。
本当は違うところに答えはあるんじゃないかって。
レイは自分に自信を持ちなさいって言った。
人を好きになるのは理屈じゃないとも。
確かに、その通りだとも思う。
でも…


僕は、どうすればいいのかな?



シンジはふと何かを思いついたようにくすくす笑い出す。


何かいつもこんなこと考えてる気がするね。
どうすればいいんだろうって…
いつも僕は悩んでばかりいたような気がするよ。
そしてどうすれば良いのか迷っていた気がするよ。


いつもと同じように見える光景。
これまでも幾度となくこうしてこの景色を眺めてきた。
昼間だったり、夜だったり。
冬だったり、夏だったり。
一人だったり、誰かと一緒だったり。
これまでもそうだったように、これからもこうしてこの景色を眺めつづけるのだろう。
そんな考えがふと脳裏をよぎり、シンジはくすりと笑みを浮かべる。
そう…
これまでも…
これからも…
突然一陣の風が吹き、シンジの頬を撫で、そして髪を舞わせる。

あなたはあなた。
他の誰かでもないよ。

その風がまるでそう囁いたかのようだった。
そして、シンジは突然全てを理解した。
まるで、目の前の霧が晴れて、見晴らしが良くなったように。

そうか…
そうなのかもしれない…

理由なんて…

理由なんか無いのかもしれない。


それが、僕なのだから。
こうして悩むのが僕なのだから。
自分に自信を持てず、本当に正しいのかを迷いつづける。
そして、決断できずにいる。


もしかしたら、それが大切なのかもしれない。
僕は自分をいつも否定してきた。
こんな自分を変えていかなければならない。
そう思ってきた。
でも…
本当はそんな必要など無いのかもしれない。
変わらなくて良い。
でも、それをちゃんと理解して、気にかけてさえいればいいのかもしれない。
それが僕が僕自身であるために必要なことなのかもしれない。
それが、逃げないって事なのかもしれない。
自分自身に向き合うことなのかもしれない。


だったら、この答えも自信の無いままで良いのかもしれない。
後悔はするかもしれない。
でも、今の僕にはそれが一番正しいと思えるんだ。
だから、それが僕の答えになるんだ。
一番の答えではないかもしれない。
自信はまったくない。
でも、それが今の僕にとっての精一杯の答えなのなら。
それならば、それを二人に伝えるだけだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

翌日、アスカは一人で公園のベンチにいた。
昨日はシンジと二人で来た公園だが、夏のあの日、アタシはここで彼女と話をした。
あの時の会話。
大した話できなかったけど、それでも彼女のことが少しわかった気がした。
彼女は本当に一途にシンジのことを思っていた。
その時のアタシは、彼女のその想いの背景にレイから聞かされたことがあったとは知らなかったが。


シンジ…
やっぱりマナに会いに行くのかな?

会って、そして、全てを確かめるのかな?
もし、そうなれば…


アタシ…
何考えてるんだろ?
どんどんシンジがアタシから遠くなっていくような。
最初はほんの少しだった距離がまるで絶望的に遠くなったような。
そんな想いがずっとアタシの心を捕えてる。

ただの思い過ごしかもしれないけれど…
シンジはもう…
アスカは一瞬、なんとも言えない表情を浮かべた。
視線を頭上に向けるアスカ。
背後にある木が頭上まで枝を伸ばしている。
木漏れ日がアスカの瞳にまぶしく映った。
胸が痛い。
苦しいよ…
もう、アタシの入り込む余地はないのかな…
この二人の間に…



アタシと彼女は違う。
彼女にとってシンジは自身の一部になっているようなもの。
お互いに補い合って、それぞれの人間となっている。
マナがマナであるためにはシンジが必要なんだ。
そして、シンジがシンジであるためには、マナが必要なんだ。
でも、アタシにとってはどうなのだろう?



シンジとアタシは補い合ってる?
お互いが必要?
アタシがアタシであるために、シンジは必要なの?


それは…


それは…


アスカは急に身震いすると肩を抱きしめた。
ある考えがアスカの心に浮かんだ。
その考えはあまりにも今のアスカの想いを表していたため、
アスカには恐ろしいことのように感じられた。
でも、それはアスカにとっての真実だった。


そう…
アタシは…
知っている…


もう…


アタシは…
シンジ無しで生きていけることを…
彼女にシンジは必要だけど、アタシは…
アタシは、もう、シンジがいなくても良いんだ…
アタシがアタシでいるためにシンジは必要無いんだ…
だって…
自分の居場所をシンジの傍から違うところに求めて…
アタシはシンジから離れてしまったのだから。
シンジを必要としないように…
今はシンジの傍にいるけど…
でも、またアタシは何処かに行ってしまう。
ずっと、シンジの傍にいることは出来ない。
だって、それがアタシなのだから…
でも、彼女は違う。
彼女は、シンジなしでは生きていけない。
マナがマナであるためにはシンジが必要なんだ。
もし、そうだとすれば、アタシは…
アタシ…は。
それに彼女に会って…
 
 
 
 
 
 

その日の夜、シンジはアスカに大事な話があると告げて、近くの公園で会うことにした。
シンジが約束の時間よりも早く、公園に着くと、そこにはすでにアスカがいた。
アスカはベンチに座って、夜空を見上げていた。

「アスカ…」

シンジが声をかけると、アスカは視線をシンジの方に向けた。

「もう、遅いわよ。何待たせてるのよ。」

その声の調子、表情、全てシンジの知っているアスカだった。
シンジはなぜか、ほっと小さく息をついてアスカに謝る。

「ごめん。」

座ったシンジの顔を覗きこむようにしてアスカは尋ねた。

「で、大切な話って何?」

アスカはさりげないいつもの口調でそう尋ねた。
話の内容はだいたい想像はついていたが、アスカはあえて知らないふりをした。

「何から話せば良いかな…」

シンジは視線をさまよわせて口篭もる。
夜空は晴れ渡っていて秋の星座が輝き始めていた。
何かすごく不思議な感じだ。
心のどこかかしにまだ夏の気分が残っているからかもしれない。
それも全部、あの日のせいかもしれない。
あの日から、僕の心の中の時間が止まっているかもしれないから。

「僕がまだ子供の頃の話なんだ…」

シンジは話を始めた。

やっと全部思い出したよ…
僕はまだ小さな子供だった。
ある夏に僕は父さんと母さんに連れられて父さんの知り合いの家に遊びに言ったんだ。
その時期、父さんと母さんは大切な仕事があるらしく、僕はその家に預けられたんだ。
何がどうなったのかは良く覚えてないけど、レイも僕と一緒に預けられた。
最初はあまり、乗り気じゃなかったんだ。
2週間だったけど、小学校の友達と離れるわけだし、父さんと母さんとも離れるわけだし。
たぶん、2週間離れるなんて初めてだったと思う。
でも、まぁ、レイもいるしなんとか我慢しなきゃって思ってた。
そう…
その時は、少なくともあまり楽しみにはしていなかった。


でも、その父さんの友達の家で…
僕はマナに会ったんだ…


最初に見た彼女の瞳は…なんて言うのかな…
何も無い…って言うのかな…まるで、誰かを待っているような…
そんな感じだったんだ。
その瞳を見た時になぜか、僕は彼女を守ってあげないとって思っていたんだ。
彼女の体が弱いと知って、僕はますますその思いを強くしたんだ…
2週間。
長いようで短かったと思う。
いろいろ一緒に遊んだことを覚えてる。
そして、僕は彼女と約束をしたんだ。
またいつか会いに来るって。
君を迎えに行くからって。
変な話だよね…
会ったそんなに時間がたっていないのに…
まだ小さかったのに…
でも…
本当に素直に、まっすぐにそう思ったんだ…

シンジの口調は少し恥ずかしそうで、表情は少しはにかんでいた。
しかし、その表情を引き締めてシンジは言葉を繋いだ。

そしてマナには双子のお姉さんがいたんだ…
名前はアヤって言って、マナにそっくりだった。
彼女はすごくマナを大切に思っていて。
いつも彼女の身体を気にかけていた。
本当に仲のいい姉妹だったんだ二人は…


シンジはそこまで話して小さく息をついた。

でも…
僕は、結果的に…
彼女を…
アヤちゃんを…
殺してしまった。

アスカは急に辺りが静かになったように感じた。

僕があの時、信号をちゃんと見ていれば…
考え事なんてしなければ…


アヤちゃんがあんな風に…


それは許されない罪だと思った。

シンジの声が震える。
アスカはシンジを見る。
シンジはしばらく沈黙した。
風で木々がざわめく音や虫たちの鳴き声が戻ってきた。
そして、小さく息をつくとシンジは話を再開した。

僕はその事実から逃げてしまった…
僕は全てを忘れてしまおうとした。
そうすれば、僕の心は壊れないで済むから。
誰よりも、自分をかばってしまったんだ。
本当にすべきことをしないで…
逃げたんだ。僕は…

でも、そんな僕の前にマナが現れた。
ずっとマナは僕を信じていてくれた。
交わした約束を信じてくれた。
僕が全てを忘れてしまったのに…
彼女には辛い想いをさせてしまったのに…
それでもマナは僕を信じてくれた。

シンジはそこでアスカを見る。
アスカもシンジを見る。
シンジは決意を秘めた瞳で告げた。

「だから、今度は僕がマナを信じる番だと思う。
ハワイに行って、マナに確かめようと思う。
アヤちゃんのこと、さよならの意味、全てを。」

アスカはシンジの瞳から視線を外した。
それ以上、シンジの瞳を見ていられなかったから。
小さく息をついてうつむいた。
瞳を閉じて、彼女は思った。




そうね…

シンジは…
彼女を選ぶ…か…





不思議と悲しくなかった。
もちろん、胸は痛い。
でも、分かっていたから。
そんな気がしていたから。
アタシが感じたことはシンジが感じたことだったから。
アタシはちゃんとシンジを見ていられたのだから。
だから…
アタシは…
アスカは顔を上げてシンジを見る。
そうだよね…
アタシがシンジに告白しないと何も変わらないと思ったように、
シンジもマナに会って話しないと何も始まらないって思ったんだよね…
そしてそれは彼女を好きだという想いだったから…
それにアタシは、気づいてしまったから。
マナはシンジ無しでは生きていけないかもしれない。
でも、アタシはシンジ無しでも生きていけるということを…
お互いを必要としているから…
だから、今のアタシには納得できる。
そして、アタシがシンジにできることは…

「そう…それが答えだと思っていいよね?」

そのアスカの問いにシンジは小さく頷いた。
アスカはにっこり微笑んだ。
いつものアスカの笑み。
悲しんでいるでもなく、怒っているでもない。

「ありがと。シンジにはいっぱい、いっぱい感謝してるよ。」

そう…
アタシができることは…
シンジのその選択を認めてあげて納得してあげること。
そうしなければシンジは…
この人は。
その言葉にどう答えて良いかわからず、まじまじとアスカの顔を見つめるシンジ。
アスカはそんなシンジの表情を見て、くすりと笑みを浮かべる。
でもね…
まだ、アナタにさよならを言う訳にはいかないの。
自分でもなんてお人好しなんだろうって思うのだけどね。

「それから…ハワイにはアタシも行くからね。」

「え…?」

その言葉を聞いて、シンジは固まってしまう。
アスカがそんな事を言うとは全く予測してなかったからだった。

「だって、悔しいじゃない。
あの子に文句の一つでも言ってやらなきゃ、アタシの気が済まないんだから。」

シンジはやっと我に返り、おずおずとアスカを見つめて尋ねる。

「本当に?」

アスカは勝ち誇ったように高らかに告げる。

「もちろんよ!」

シンジは頭を抱えた。

「さて、そうと決まったら、準備しないとね。ほら、行くわよ。
どうせ、アナタのことだから、おじ様とおば様にも話してないんでしょ。」

シンジの手を取って、立たせるとアスカは走り始めた。
何か言おうと口を開きかけるシンジだったが、結局何も言わないで、アスカに従って駆け出した。
 
 
 




NEXT
ver.-1.00 2000/07/09公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!




あとがき

どもTIMEです。

お待たせしました、TimeCapsule第38話「生きていけないから」です。

またしてもタイトル変更してます。
何度も書きなおしをしているせいで、タイトル変更しなければならなくなてしまいました。
#今回からしばらくはタイトル予告はやめよう…

遂にシンジは答えを出し、アスカに伝えました。
結局、シンジはマナを選んだわけですが、
実はアスカが気づいた
「自分はシンジなしでも生きていけるが、マナはシンジなしでは生きていけない。」
という部分は、これまでいくつか伏線でそれらしいことを書いてたためか、
数人の読者の方が予想されていられてちょっとびっくりです。

さて、次回からはいよいよハワイ編です。
この連載でハワイでの話を書きたいなぁ〜と思って、
すでに1年半以上経ってしまいましたが、これでやっと書けますね。

では次回Time-Capsule第39話でお会いしましょう。
 





 TIMEさんの『Time Capsule』第38話、公開です。






 お、お、
 こたえを出したみたいだね。

 それを伝えたみたいだね。


 とりあえず、アスカに・・・



 レイもいるし、
 なんていってもマナもいるし、

 まだまだ大変みたいだけど、
 シンジなりにシンジなりに。


 ハワイでも何かがあるのかなー




 さあ、訪問者のみなさん。
 次回のタイトルは何だろうTIMEさんに感想メールを送りましょう!












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