Sweet-Dreams 第十章 「罪と罰」
Episode. 1 "Sin and Visitation"
一人の女性がベッドの端に座って、
ベッドに寝ている少年の手を握っていた。
少年はぐっすりと眠っているようだった。
そして彼女に寄り添うように一人の男性が立っている。
合わせられたカーテンのすき間から月の光が差し込んでいる。
この部屋だけは時間が過ぎていないように感じられる。
そして、座っていた女性がつぶやく。
「ごめんなさい。こうするしかなかったの。」
その頬には涙で濡れていた。
Episode. 2 "Pregnancy"
「ほんとかいな。それ。」
彼女は彼の瞳を見つめて答える。
川の水が音を立てて流れていく。
嘘だったらどんなによかったか。
彼女は痛切にそう思った。
「わからないの。もしかするとただ遅れてるのかもしれないし。
でも、もう三週間…ないのよ。」
彼は空を仰いだ。
そして決心したように答える。
「そうか、ほな病院に確かめに行かんと。」
彼女が尋ねる。
「トウジも一緒に行ってくれる?」
強くうなずくトウジ。
「あたりまえや。わしの責任やし。」
「ありがと。ごめんね、トウジ。」
トウジはヒカリの瞳に浮かんだ涙をぬぐった。
Episode. 3 "Cold"
「おはようございます。シンジ先輩。」
「あ、おはよう。」
「今日は寒いですね。」
「そうだね。雪が降るらしいね。」
「そうなんですか?もうちょっと早く降ってくれれば
ホワイト・クリスマスだったのに。」
「そうそう思い通りにはいかないよ。」
「そうですね。ところで、今日はアスカ先輩とレイ先輩は?」
「アスカは風邪ひいちゃってね。レイはまだ会ってないよ。」
「アスカ先輩大丈夫なんですか?」
「うん。まぁ、今日はおばさんが仕事休みだから。」
「そうなんですか。」
「アスカのことだから、明日には無理矢理出てくると思うよ。」
Episode.4 "Expose"
「ミカ、ちょっといい?」
ミカはレイを見て逃げ出しそうになったが、
陸上部でもトップクラスの足を持っているレイから
逃げられるハズもなく、逃走は断念した。
「うん。いいよ。」
上目使いでレイを見上げるミカ。
かなり怒ってるみたい。
どうしよ。
やっぱりアレのことだよね。
「ミカ。あなたアタシとシンちゃんのことアスカに話したでしょ。」
やっぱりそれだったのね。
ミカは少しうつむいてレイに謝る。
「うん。ごめんね。」
「もう大変だったんだから。」
大きくため息をつくレイ。
「そんなに?」
「もう、大騒ぎ。シンちゃんなんか両頬はたかれて。」
「ええっ?どうしよう。やっぱり私のせい?」
悲しそうにレイを見るミカ。
碇君に悪いこ塗しちゃったな。
「そうね。と言いたいところだけど。」
「けど?」
不思議そうに首をかしげるミカ。
「多分遅かれ早かれアスカにはバレちゃうだろうから。」
レイはうつむき小さくそう答えた。
「そうか。」
Episode. 5 "Firework"
「やっぱり花火といえば線香花火よね。」
アスカはそう言うと、線香花火をまとめているシールをはがす。
「アスカ。火だよ。」
シンジはロウソクで線香花火に火をつける。
とたんに、小さな黄色の火花が飛び散る。
アスカはしゃがみこみ、嬉しそうにその火花を見ている。
「やっぱり線香花火っていいね。」
シンジも隣でその火花を見ている。
いつまでも見ていたくなるようなはかなげな火花。
その光に照らされるアスカの顔もいつもとは違うように見える。
アスカの瞳が線香花火の光を映してきらきら光る。
ふと、アスカと視線が合う。
「どうしたの?」
アスカが首をかしげて、シンジを見る。
「ううん。なんでもない。」
シンジは慌てて視線をそらす。
「…変なの。」
Episode. 6 "Garden party"
「ねぇ、しんりぃもひっふぁいいっへぇ。」
アスカがシンジの隣に来て、シンジのコップに日本酒を注ぐ。
「アスカ、酔ってない?」
「れんれんよっへない。」
アスカは真っ赤になった顔でシンジに笑いかける。
「誰だよ、惣流は強いから飲ませても平気って言ったやつは?」
背後でケンスケがトウジに話しかける。
「おらぁ、酒もって来い、さけぇ。」
くるりとケンスケの方を振り向いたトウジ。
目が据わっている。
「うわっ、トウジも酔ってるよ。」
ケンスケは慌てて逃げ出す。
アスカはシンジに横に座り込んで、
シンジが日本酒を飲むのをにこにこ微笑みながら待っている。
レイはシンジに膝枕をしてもらって熟睡中である。
「誰だよ、花見には酒はつきものって言ったやつはー!!」
ケンスケはヒカリのお説教攻撃や、
トウジの酒もってこい攻撃をかわしながら叫ぶ。
「はぁ、こりゃ警察沙汰だな。」
シンジはあきらめて、日本酒の入ったコップをあおった。
Episode. 7 "He willing"
Look, he is coming with the clouds, and every eyes will see him,
even those who pierced him; and all the peoples of the earth will mourn
because of him.
「我々には選択権はないのだよ。彼が現れない限りはね。」
「はたして、今度は現れるのでしょうか?」
「それはわからない。が、我々はそれを祈るしかないな。」
「そうでしょうか?」
「全ては神の御心のままに。とはかなリ無責任だが。」
「滅びを待つだけですか?」
「彼がこちらにいるだけで、少しはマシだろうが。」
「アダムですね。」
「そういうことだ。彼にすがるしかないだろう。」
Episode. 8 "Adam and Eve"
「よろしく、碇シンジ君。」
彼はそう言うと、さわやかな笑顔で微笑んだ。
吸い込まれそうな、きれいな笑顔だとシンジは思った。
「よろしく、渚君。」
少しはにかんで、シンジは右手を出す。
「カヲルでいいよ。」
カヲルはシンジの手を握った。
「さて、僕は職員室に行かないといけないから。」
「うん。じゃ、また。」
「そうだね。」
シンジは教室に向かって歩き始めた。
カヲルはその後ろ姿に小さくつぶやく。
「…父親にそっくりだね、シンジ君は。」
Episode. 9 "Storyteller"
「おはよー。アスカー。シンちゃーん。」
レイが後ろから走って来る。
シンちゃん?
いつもは碇君って呼ぶのに、どうして?
アスカは驚いてシンジを見た。
「あ、おはよ…レイ。」
レイはにっこり微笑む。
レイですってぇ。
シンジとレイになにかあったんだ。
アスカはそう悟った。
そして…
「いつの間に名前を呼び合う関係になったのよ!!」
思い付いたら、即行動のアスカは、シンジの頬をつねる。
「あいたたた。痛いよ、アスカ。」
「そーよ、これはアタシとシンちゃんのことなんだから。」
レイが火に油を注ぐ。
アスカはジロリとレイを睨む。
レイも負けじと睨み返す。
間に挟まれたシンジ。
彼にできることは何もなかった。
Episode.10 "Monochrome"
「ね、ほんとはどうだと思う?」
彼女はからかうような調子で僕にたずねる。
「ど、どうって?」
「私は碇君が好き。ほんとだと思う?嘘だと思う?」
「わ、わかんないよ。」
「そうだよね。アスカちゃんに、レイちゃんまでいるんですもの。」
彼女は少し考えるようなそぶりを見せる。
「……」
僕は何も答えられなかった。
「…好きだよ。碇君の事。でも、友達以上にはなれないと思う。」
「そう…」
「……だからさっきの答えは、半分本当で半分は嘘。が正解ね。」
にっこりと彼女は微笑んだ。
Episode. 11 "Reborn"
シンジはとっさに右手で崖から生えていた木につかまる。
「…くっ。」
左手はアスカの右手を掴んで放さない。
シンジは下を見下ろした。
十メートル程下では激しく川の水が流れている。
「…アスカ。」
「シンジ。」
二人は見詰め合う。
そして。
「シンジ。手を放して。そうすればシンジだけは助かるわ。」
アスカはシンジから顔を背けこう言った。
「それに、そんなに強く握られると痛いじゃない…」
アスカは握っていた手を放そうとする。
しかし、シンジは放さない。
「僕だけ助かるなんてできないよ。」
シンジは木につかまっていた右手を放した。
二人は川に落ち、濁流に飲み込まれた。
Episode.12 "The Boy meets The Girl "
「で、こうやれば解けるでしょ。」
ふんふんうなずくケンスケ。
放課後、ミカとケンスケは夕日が差す
図書館の一角で、並んで座っていた。
「なるほど、ということはこれも同じようにすれば解けるってわけだ。」
「そう。で、ここは…」
ミカがケンスケにさらに近づいてきた。
ケンスケは思わずミカの横顔を見つめる。
ついケンスケは見とれてしまう。
ミカがケンスケを見る。
「聞いてる?」
少し首をかしげてケンスケを見るミカ。
「あ、う、うん。聞いてるよ。」
ケンスケは慌てて答える。
「じゃ、これやってみて。」
ケンスケは問題に意識を集中した。
Episode. 13 "Avocation"
「…ん、だめよ…」
ミサトは加持に抱きすくめられ、唇をふさがれた。
「…もう、だめだったらぁ。」
なんとか、唇を離し、小さくため息をつくミサト。
「もう…加持君とはなんでもないんだからね。」
にやりと笑う加持。
「…で、俺達は本業に戻らなくてもいいのか?」
「ええ、もう少しはバイト生活ね。」
書類に目を通しながら答えるミサト。
平静を装おうとしているが、少し息が乱れている。
「まぁ、俺はこっちの方が、気が楽でいいがね。」
「そうもいかないでしょうね。」
「はぁ、宮使えのつらいところだな。」
肩をすくめる加持。
「で、とりあえず、日向君を
オペレータに戻したい、ということだけど。」
命令書を手渡すミサト。
それを受け取り、答える加持。
「了解。そう伝えておくよ。」
「よろしくお願いね。」
Episode. 14 "Farewell"
「私、今日付き合っていた人と別れたんです。」
「…そうか。」
「泣かないで・・笑顔で別れました。」
「…えらかったね。」
「やっとすっきりしました。」
「そう?」
「でも…大好きだったんです。」
「……」
「すいません。今日は来てくれてとても嬉しかったです。」
「まぁ、暇だったから。」
「本当ですか?」
「ふふ、そういうことにしておいてよ。」
「……はい。」
Episode. 15 "Valentine"
公園のブランコに座ってシンジはアスカに聞いた。
「えっ、アスカ。これって?」
シンジはアスカに渡された包みを見てほうけている。
「もう、にぶいわね。バレンタインのチョコに決まってるでしょ。」
アスカは頬を少し赤く染めて言う。
「あ、ありがと。」
シンジはじっとその包みを見つめた。
「恥ずかしいから、ちゃっちゃと食べちゃって。」
アスカはシンジに背を向けて言う。
顔を見られるのが恥ずかしかったからだ。
「う、うん。」
シンジは慌てて包みを開ける。
中からハート型のチョコが出てくる。
「これってアスカが作ったの?」
「え、ええ。調理実習で作ったんだけど。」
「ありがと。」
一口食べるシンジ。
「……どう?」
アスカは振り向いて、真剣な表情でシンジの顔を見つめる。
「うん。おいしいよ。」
シンジはにっこりとアスカに微笑む。
「あ、あたりまえでしょ。アタシが失敗するわけないじゃない。」
内心アスカはシンジがおいしいと言ってくれるか心配していたのだが。
「そ、そうだね。」
Episode. 16 "Confrontation"
「しかしまぁ、このセリフはやばいんじゃないか?」
「そうか?」
「 「私が好きなのはあなただけ。」
だぞ。
こんなの綾波に言わせたらハマリすぎだよ。」
「んー…」
「だって、相手は碇だろ。」
「確かに。」
「たくもう、もう少しキャスティング考えろよな。惣流が黙ってないぞ。」
「しかたないよ。相田だからな、監督が。」
「……はぁ、血の雨が降らなきゃいいけど。」
「あぁ、怪我人が出ないことを祈るばかりだな。」
Episode. 17 "Lost"
「この子は?」
その青年は屈み込んでその女の子を頬をなでる。
「…もしかして。」
後ろに立っていた青年は黙ったいた。
隣に立っている女性は泣き腫らした目でゆっくりとうなずく。
「そう、彼女の実験の成果よ。最初で最後の成果。」
青年は女性の方をゆっくりと振り返った。
「彼女に似ているのは気のせいかな?」
女性はうなずき、にっこりと微笑む。
「そう、彼女の生まれ変わりよ。」
青年はその女の子を抱え上げる。
「わかった。私が面倒を見よう。」
「…いいのか?」
それまで、ずっと黙っていたもう一人の青年が尋ねる。
「あぁ、もう私は一人になってしまったからな…」
Episode. 18 "Good Morining"
「う…ん。」
シンジは寝返りをうとうとして、
左半身を押さえられている感覚を味わう。
なんだろ?
ねぼけた頭でそう考える。
なんか左腕に乗ってる気がしないでもないな。
そう考え、左手を動かす。
何か柔らかいものが手に当たる。
なんだろ、これ?
シンジはさらにそれに触る。
「…あぁん……くすぐったいよぉ……」
「…ご、ごめん…」
すぐに謝るシンジであったが。
今、誰が何を言ったんだ?
シンジの頭の中のもやがぱっと晴れる。
慌てて、左手の方を見るシンジ。
そこにはシンジの浴衣を握り、安らかな寝顔のレイがいた。
「…えっ?」
シンジは石化した。
シンジが我に帰るまできっちり一分が経過した。
「…ねぇ、レイ、どうしてここに?」
「うーん…もう…たべられ……なぁい……」
レイはシンジの浴衣にしがみつき起きる気配がない。
「ねぇ、レイ、起きてよ。ねぇ。」
レイの肩を揺さぶるシンジ。
レイは眠そうに目をこする。
「うーーん…なによぉ、もうすこし…ねかせてくれたってぇ…」
「どうしてレイが僕と一緒に寝てるの?」
「…べつに…そんなことどうでもいいよぉ……おやすみぃ…」
レイは頭をこてんと倒してシンジの首にしがみつき眠ろうとする。
「どうでもいいって……」
呆然とするシンジ。
「いったいどうなったんだ?」
Last Episode "Summer Vacation"
「やったー。海だー。」
レイはすでに空気を入れてあった
イルカの浮袋を持って波打ち際に走り出す。
「元気だなぁ。」
シンジはその姿を楽しそうに見ていた。
「でも、三人だけで来るのって初めてじゃない?」
シンジの隣に座っているアスカも楽しそうに答えた。
「そ、そうだね。」
シンジは恥ずかしそうにアスカの方を見ないように答えた。
なんか、恥ずかしいな。
アスカの水着なんて毎年見てるのに。
シンジは海を見つめながらそう思っていた。
「さて、アタシも行くわね。」
アスカは立ち上がりレイの元へ走っていく。
シンジは大きく伸びをして寝転がる。
太陽の日差しがまぶしい。
手を掲げて、指越しに太陽を見るシンジ。
夏なんだな。
ふいにシンジはそう思った。
あとがき
ども、作者のTIMEです。
Sweet-Dreams第十章「罪と罰」はいかがだったでしょうか?
予告通りに小さい話の集合体ですが、
Love-Passionの今後の展開に絡むものから、
Sweet-Dreamsで公開した作品に関係があるものや
まったく初公開な話も入っています。
#ってほとんど初公開ネタですね。(^^;;
でも、当初はこのエピソードを章だてて
連載するつもりだったんですから、
恐ろしいハナシですね。(^^;;
さて、この章で最後にするかどうか迷ったのですが、
結局、もう少し続けようと思います。
#まだ、書いてないことが多すぎるんで。(^^;;
次回は、シンジ、アスカ、レイの三人を軸にしたハナシです。
実は三人が絡むハナシってないんですよね。
#シンジ+アスカ、シンジ+レイっていうのはあるんですが。
それでは次章「三角関係」でお合いしましょう。