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彼女は鏡の前に立ち、服や髪をチェックしていた。
あんまり普段着すぎるのもダメかなと思って、
少しだけ変えてみたんだけどどうかな?
鏡の前でクルリとひとまわりする。
そして、時計を見て、あわてて、机の上に
置いてあった鞄を掴み部屋から出ていった。
後には散乱した服が残るだけだった。


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Sweet-Dreams 第六章「微笑み」
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「うーん。どうしようかな?」
相田ケンスケは腕を組んでそのポスターを見ている。
そのポスターには

「第二回第三新東京市フォトグラフコンテスト」

と銘うたれている。
「参加資格は問題ないな、
要は人を入れて撮ればいいわけだ。」
普段ならコンテストとかには興味がないケンスケであるが、
今回は商品がすごい。最新式のDVDカメラセットである。
これを逃さない手はない。
もちろん最優秀賞を取らなければならないが、
やるだけやってみよう。そう考え、お店の中に入る。
さてモデルは誰にしようか。
申込書を貰って、帰り道にケンスケは考える。
綾波か惣流どっちがいいかな?
どっちも捨て難いが、とにかく本人に了解を取らないとな。


「ね、ジンジ、アンタ何かおかしいわよ。」
アスカは机に座って何か考え込んでいたシンジに声をかける。
「えっ、そ、そうかな。」
わざとらしく微笑むシンジ。
それを見て、不思議そうにアスカは聞く。
「やっぱり、何かアタシに隠してない?」
慌てて、首をふるシンジ。
「いや、何もないよ。ただ、来週の模擬試験どうしようかなって。」
「ほんとに?」
両手を腰に当ててシンジの顔をのぞき込むアスカ。
「ほんと、ほんと、全然勉強してないから。」
「ならいいけど。」
しぶしぶアスカは引き下がる。
それを見て、小さくため息をつくシンジ。
ツカサちゃんとのデート、どこに行こうか
考えてたなんて言えないよ。


「・・・で、綾波か惣流にモデルになって貰いたいんだけど。」
ケンスケは機嫌を伺うようにレイに聞く。
「アタシはいいわ。余り気乗りしないし。」
アスカはそっけなく断る。
「うーん。アタシもちょっとクラブが忙しくて、無理かな。」
レイも申し訳なさそうに言う。
ケンスケが腕を組んで残念そうに言う。
「そうかぁ、まいったなあ。他にモデルを探さないといけないなぁ。」
「僕じゃ、だめなのかい?」
カヲルがにこにこしながら、聞く。
「うーん。やっぱり、女の子の方が。」
「そうか、凄く残念だな。」
やっぱりにこにこしながら答えるカヲル。
レイが何か思いついたようにケンスケに言う。
「そうだ、一人いい人がいるんだけど。」
「え、誰?」
「ミカなんだけど。」
ケンスケは驚いて聞く。
「紀伊か。」
紀伊ミカ、同じクラスであり、
噂話の収集にかけては校内一を誇る。
彼女に知らないことはないと
言われるほどの情報通である。
「うん。だめかな?」
ケンスケは腕を組んで考える。
「うーん。とにかく紀伊の許可をもらわないと。」
「大丈夫よ、ミカには貸しがあるから、イヤとは言わさないわ。」
薄く笑うレイ。


「えー、あたしが写真のモデル?」
紀伊ミカはレイから話しを聞いて、困ったように答える。
髪は後ろでまとめて、黒縁のメガネをかけている。
普段はコンタクトを使っているのだが、
昨日の夜、友達の相談にのって寝不足なので、
今日はメガネをかけている。
「いや、とは言わせないわよ。」
「でも、でも。」
ミカはちらりとケンスケを見る。
「別に無理にとは言わないけどね。」
レイはにやぁりと笑う。
「その代わりぃ・・」
「ああん、それだけはやめて。・・もう。やればいいんでしょ。」
ミカはあきらめたように答える。
「そう。じゃあ、後はヨロシク。」
レイは行ってしまった。
後に残された、ミカとケンスケ。
ミカがケンスケに恥ずかしそうに聞く。
「えっと、相田君。モデルって言っても
あたし何をすればいいのかしら。」
ケンスケも照れ臭そうだ。
「そうだな、とりあえず、撮影場所を探さないと
いけないんだけど、こういうのって、モデルも
気に入っている所の方がいいと思うんだ。で、明日、
二人で場所を探して撮っちゃうっていうのはどうかな?」
ミカは少し頬を染めて答える。
「う、うん。それでいいよ。でも、服とかはどうしようか?」
少し考えるケンスケ。
「うーん。別にいつものでいいと思うよ。自然な方が
写真としてはいい感じになると思うんだ。」
うなずくミカ。
「そう、わかった。」
「じゃあ、時間はどうしようか?」
「それじゃ、昼の一時に、駅の噴水前はどう?」
「うん。いいけど。」
「じゃあ、それで。」


「ね、レイ、今日のシンジ何かおかしくなかった?」
放課後帰り道でアスカは隣を歩いているレイに聞く。
「やっぱりそう思う?シンちゃんって顔に出ちゃうんだよね。
本人は必死に隠そうとしてるみたいだけど。」
「やっぱり。何か隠してるわね。」
アスカはしたり顔でうなずく。 「そうみたいね。」
レイもうなずく。
「何だと思う?」
「アタシ達に隠し事するということは・・」
二人は顔を見合てユニゾンで言う。
「ツカサちゃん?」
うんうん、と腕を組んでうなずきアスカは言う。
「さては、ツカサちゃんと何かあるわけね。」
「そうね、そうかも。」
アスカはニヤリと笑う。
「これは追跡するしかないわね。」
「そうね。」
二人はシンジ追跡会議を開きながら歩いていった。


ケンスケは走っていた。
待ち合わせの時刻に遅れそうだ、
もうちょっと早く起きれば良かったな。
ケンスケは持っていくカメラを念入りに
選定していたため、遅れそうになっているのだ。
服はさすがに、迷彩服ではまずいと思ったのか、
ジーンズにポロシャツといういでたちだ。
それにカメラバックを持っている。
なんとか時間ぎりぎりに駅前に着き、
噴水前に行くと、ミカは噴水の端に座っている。
そして、ケンスケに気がつくと、
手を振ってケンスケの方に歩いてくる。
ミカは白地に花模様がプリントされている
ワンピースを着ているが、
特にケンスケの目を引いたのが、髪をポニーテールにして、
鮮やかな青のリボンで結んでいることであった。
学校ではいつも髪を後ろでまとめているだけで、リボンなんか
しているのは見たことはなかった。
ケンスケはあっけに取られて、歩いてくるミカをじっと見つめている。
「おはよ、相田君。」
慌ててケンスケは返事する。
「あ、おはよ。」
「どうしたの?」
ミカは不思議そうにケンスケに聞く。
「い、いや、紀伊のポニーテールなんて、
始めてみたから、ちょっとびっくりして。」
「そ、そう?これ変かな?」
首をぶるぶる振るケンスケ。
「全然、すごくいいよ。」
「そう、よかった。」
ミカは嬉しそうに答える。
いつものでいいと言われたが、
ミカはかなり悩んで、服とかを選んできた。
髪も普段はしないポニーテールにして、
お気に入りのリボンで結んだ。
服もあまり、ハデにならないように、でも、
ケンスケの目を引くようなものを、
わざわざ昨日買いに行っている。
その苦労のかいもあったようだ。
「じゃあ、まずどこに行こうか?」
とケンスケに尋ねるミカ。
「海に行かないか。ここからだったら、
バスで十分ぐらいで行けるし。」
ミカは嬉しそうに答える。
「海かぁ。いいね。行きましょ。」
二人は並んで、歩き始めた。


「ねぇ、ミカって結構気合い入ってない?」
「そうね。やる気みたいね。」
アスカとレイの二人は物影に隠れて一部始終を見ていた。
「でも、結構、相田君もまんざらじゃなかったみたいよ。」
腕を組んでアスカは答える。
「わかるもんですか、いい商売のネタが出てきたっていう
くらいかもしれないし。」
ケンスケは学内の女の子の写真で商売をしている。
「どうする?追いかける?」
「アタシ達には、やることがあるでしょ。」
「シンちゃんとツカサちゃんの追跡ね。」
「そうそう、あっ、シンジが来たわよ。」
レイが感心しながら言う。
「ほんとにここに来るなんて。」
アスカなうなずいて答える。
「シンジの行動パターンはお見通しよ。」
アスカとレイはシンジの追跡を開始した。


「うわぁ、海ってひさしぶりね。」
ミカは浜辺に向かって元気良く走っていく。
それを見つめるケンスケ、少し動揺している。
ミカがいつもと違うため、変に意識してしまう。
ミカは波打ち際で、海をのぞき込んでいる。
「へぇ、結構きれいなんだね。」
ケンスケは松の木の下に座り、カメラを取り出す。
「そうだな、ここ数年で結構きれいになってきてるみたいだよ。」
「そうなんだ。ねぇ、私どうすればいいのかな?」
「まぁ、普通に遊んでてよ、こっちもいいと思ったら、写真とるから。」
ケンスケはカメラに防塵仕様のカバーを取り付けている。
「そう?じゃあ、海に入っていい?」
不思議そうにミカを見るケンスケ。
「まだ六月だよ?」
「だめかな?」
首をかしげてケンスケを見るミカ。
ケンスケにはそのしぐさがとてもかわいく見えた。
「どうしても入りたいならいいんじゃない。」
「じゃ、入るー。」
ミカはサンダルを脱ぎ、ばしゃばしゃと海に入っていく。
「うーん。つめたーい。でも気持ちいいー。」
ミカは嬉しそうにケンスケの方に手を振る。
「ねぇ、相田君も一緒に入らない?」
「だめだよ、写真撮らないと。」
カメラを構えたまま答えるケンスケ。
「ちぇっ、つまんないのー。」
ふと下を見るミカ、何かを見つけたように追いかける。
「どうしたの?」
「カニさんだ。こんなところにいるのね。」
「へぇ、それだけ海もきれいになってきているのかな?」
「そうかも。」
微笑むミカ。


「ふう、疲れたね。」
ミカはケンスケの左隣に座り、小さくため息をつく。
「そりゃ、あれだけはしゃげば疲れるよ。」
ケンスケはカメラを片付けながら答える。
もう夕暮れの時間になっていた。
空は赤く焼け、太陽は海に沈んでいこうとしている。
「だって、相田君ってば全然一緒に遊んでくれないんだもの。」
頬を膨らませて、ミカはケンスケを見る。
「じゃあ、また次の時に遊ぼうよ。」
「そうね。じゃ、約束ね。」
二人は沈んでいく夕日を眺める。
「ねぇ、相田君って彼女とかいないの?」
夕日を見つめながらミカは聞く。
「どうして?」
「ほら、碇君とか鈴原君っていろいろあるじゃない。
やっぱり相田君にも彼女とかいるのかなって。」
首を振って答えるケンスケ。
「残念ながら、いないんだこれが。」
「そうなんだ。」
「紀伊はどうなの、紀伊のことはあまり聞かないけど。」
じっと夕日を見つめるミカ。
太陽はもう少しで水平線に触れそうだ。
小さくため息をつき、ミカは話し始める。
「・・私ね、昔つき合ってた人がいたの。」
「そう。」
「もう、この人しかいないって感じで。」
「うん。」
「でも、結局別かれちゃったんだけどね。」
ミカは夕日をみつめたままさらりと言った。
太陽はもう半分ほど水平線に没している。
「どうして?」
うつむくミカ、すこし辛そうだ。
「どうしてかな。最初は小さないき違いだったと思うの、
それが、どんどん大きくなって取り返しがつかなくなったの。」
ミカを見つめるケンスケ。
「そうか。」
「うん。で、別れてからしばらくは泣いて過ごしてた。
あの人なしでどうすればいいの?って。」
こころなしかミカの瞳がうるんでいるように見える。
「・・・」
「毎日、寝ても起きても考えるのは別れた彼のことばかりで。」
「・・・」
「でもね、最近わかったような気がするの、
彼は彼が持っていた、紀伊ミカという存在を
私に押しつけてただけなんだって。
で、わたしも彼に同じようなことをしてたんじゃないかって。」
「・・・」
にっこりと微笑むミカ。
「それで、なんとなくふっきれた気がするの。
でも、恋愛って大変よ、特に女の子は自分でも、
なんて馬鹿なことやってるんだろうって思うこと
するんですもの。」
「そうなんだ。」
「そう、だから、相田君も彼女とかできたら、大切にしてあげないと。」
「そうか。」
「そう。・・さて、おしゃべりはこのくらいにして帰りましょうか。」
ミカは立ち上がり伸びをして、砂を払い落す。
ケンスケもカメラバッグを持って立ちあげる。
太陽は沈んでしまって、辺りは急速に夜の闇が迫っていた。
「ね、今話したこと、内緒にしておいてくれる。」
ミカはケンスケに聞く。
「うん。いいよ。」
「ありがと。」
ミカはにっこり微笑む。
その笑顔がケンスケの印象に残る。
二人は並んで、歩き始めた。


「ただいま。ってアスカじゃない。どうしたの?」
シンジは帰ってきて、リビングにアスカを見つけて言った。
何か嫌な予感がする。シンジはとっさに身構える。
「シンジ。ちょっとハナシがあるんだけど。」
そのアスカの様子を見て、後ずさるシンジ。
いつの間にか後ろに誰か立っている。
「えっ、レイじゃない。どうしたの?」
にっこり微笑むレイ。
「ちょっとシンちゃんに聞きたいことがあったから。」
「な、なにかな?」
シンジの顔がひきつる。
「ま、ここじゃなんだから、シンジの部屋に行きましょ。」
二人はシンジをつかまえて、引っ張っていく。
シンジが引っ張っていかれる後ろで、新聞を読みながら、
お茶をすすり、ユイに話しかけるゲンドウ。
「シンジは幸せものだな、ユイ。」
ユイもキッチンで洗いものをしながら答える。
「そうね、あんなに思われてるんですものね。」
そこにシンジの叫び声があがる。
「た、助けてー。」
そして、ドアが閉まる。
こうして碇家の夜はふけていくのであった。


一ヶ月後・・
「ねぇ、私に用事って何?」
ミカは公園のベンチに座っていたケンスケに声をかける。
「あぁ、例のコンテストの結果がきたんだ。」
「え、どうだったの?」
嬉しそうにケンスケは答える。
「さすがに、最優秀賞は取れなかったけど、
特別賞をもらったんだ。」
ミカは嬉しそうに答える。
「おめでと、よかったじゃない。」
ケンスケはうなずき、話を続ける。
「で、賞品なんだけど、紀伊にと思って。」
「私が貰ってもいいの?」
「うん、これなんだけど。」
と言ってケンスケはベンチに箱を置く。
ミカはベンチに座り、ケンスケに聞く。
「開けていい?」
「もちろん。」
中にはクリスタルの置物が入っていた。
クリスタルの中央にはケンスケがコンテストに出した写真、
ミカが海で楽しそうに遊んでいる写真が入っている。
「これどうやったの?」
「なんでも、レーザーかなにかで焼き付けたらしいよ。」
ミカはいろんな方向からその置物を眺める。
「すごいね。いいの?もらって。」
にっこり笑うケンスケ。
「まぁ、ちょっとした記念だと思って。」
「ありがと。」
ミカがにっこり微笑む。
「あれぇ、相田君とミカじゃない、どうしたの?」
レイが二人を見て、にやにやしながらやってくる。
その後ろでは不思議そうな表情のシンジがいる。
「レ、レイ。」
「綾波?」
二人の慌てぶりを見て、レイは聞く。
「もしかして、お邪魔だった?」
「そ、そんなことないよ。」
慌てて答える二人。
「そう?まぁ、いいや。じゃ、邪魔者は消えるね。」
レイはシンジを引っ張ってすたすたと歩いていってしまった。
シンジは訳もわからずひきずられていく。
それを見ていた二人は顔を見合わせ、笑い始めた。


NEXT
ver.-1.00 1997-12/21公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jpまで!!

あとがき

作者のTIMEです。

第六章はいかがだったでしょうか。
本当はもう少し早く公開できたハズなんですが、
ハードディスクがクラッシュして、三分の二が書き直し
になってしまいました。(^^;;

この話が、ケンスケとミカとのなれそめみたいなものです。
この後、ケンスケはミカをモデルにして写真を撮り始めるよう
になります。それが、ケンスケが映像系の学校に進学し、ミカが
モデルを始めるきっかけみたいなものになるというわけです。

で、並行してシンジとツカサのデートの話が出ていますが、
これが、第八章で公開する予定の「はじめて」になるわけです。

さて、次回は予告通り、山岸マユミ+三バカで結成するバンドの
話です。実は設定に少々悩んでまして、少し遅れるかもしれませんが、
なんとか年内には公開できそうなんで、しばらくお待ちください。
#第八章は書き終って、推敲するだけなんで、その後は早いと思います。

では、第七章のあとがきでお会いしましょう。

 TIMEさんの『Sweet-Dreams』第六章、公開です。
 

 

 ケンスケに春が(^^)

 EVA界、EVA小説界で、
 もてない男の代名詞だった彼にも遂に春が。
 

 しかも
 どさくさ紛れや勢いでのギャグ調ではなく、
 キッチリしたシリアスノリの中で・・・・
 

 うう、”ケンスケ哀乞会”のメンバーとして、
 こんなに嬉しいことはないです(^^)/
 

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 マイナーキャラに光を当てたTIMEさんに感想メールを送りましょう!


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