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Snow Tears

SIDE C MANA
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

TIME/2000
24th December 2000
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

そう…それはまるでおとぎ話の世界。
 
 
 
 
 
 

でも、本当にあった出来事。
 
 
 
 
 
 

それはクリスマスの夜。
 
 
 
 
 
 
 

彼女は僕の前に突然現れた。
 
 
 
 
 
 

「君は?」
 
 
 
 
 

なぜか冷静に僕はそう訊ねた。
 
 
 
 

「私?」
 
 
 
 

彼女はにっこりと微笑む。
 
 
 
 
 

まるで天使の微笑みのようだった。
 
 
 
 
 
 

「私は…」
 
 
 
 
 
 

僕は彼女の言葉を待った。
 
 
 
 
 
 
 

「天使です。」
 
 
 
 
 
 
 
 

僕は固まった。
 
 
 
 
 
 
 

と、彼女は先ほどの笑顔を崩さずこう告げた。

「なんてね。私はマナ。霧島マナって言うの。あなたは?」

彼女はにこにこ微笑みながら僕の顔をまじまじと見つめてくる。
そのあどけない表情が僕の心を引く。
なんだろ?
この感じ。
この子とは初対面のはずなのに…
どこかで会ったような…
まさかね。
僕は内心の動揺をなんとか押さえて答える。

「ぼ、僕は碇シンジっていうんだ…よろしく。」

彼女はこくりと頷いて答える。

「よろしく、シンジ…ところで、私…」

彼女は恥ずかしそうに、もじもじしながら僕の顔をちらちらと見上げる。
何だろう?
僕は彼女の顔をまじまじと見つめる。

「どうかしたの?」

「わたし…おなか、すいてるの。」

そして頬を真っ赤に染めて顔を伏せた。
僕は笑いをこらえてこう告げた。

「じゃ、何か食べようか?」

無意識のうちに差し出した手を彼女はすっと取って、
にっこりと微笑んで頷いた。
本当は用事があったのだけど、そんなことは僕の脳裏から消え去ってしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 

僕達は近場のファーストフードに入った。
そして、お店の中を見まわし、窓に面したカウンター席に座ることにした。
やはり、クリスマスだけにお店の中は、恋人らしき人達で一杯だった。
彼女はにこにこ微笑みながら、椅子に座り、僕の顔を無邪気に見つめる。

「あの、何が良い?」

「シンジが選んで。」

そう告げて、マナは視線を窓の外に向けた。
僕は軽く肩をすくめて、彼女から離れる。
彼女の分を適当に選び、トレイに二人分のハンバーガーセットを載せて、僕は戻った。
ずっと、もの珍しげに外の景色を眺めていた彼女は、僕を見ると、にっこりと笑顔を浮かべる。
まるで、僕のことを全面的に信頼しているような笑顔。
見てるこっちが恥ずかしくなるほど、あからさまな好意が込められている。

「はい、こっちが君の分だよ。」

「ありがとう。」

彼女はそう僕にお礼を告げて、ハンバーガーの包みをごそごそと開け始める。
僕も彼女にならって、ハンバーガーを食べ始める。

「ね、聞いて良いかな?」

「うん。」

もぐもぐとハンバーガーを食べながら、彼女はこくこく頷いた。
僕は何から訊ねようかと思ったが、一番不思議だったことを彼女に訊ねた。

「ねぇ、さっき君と会った時のことなんだけど…」

「うん。」

「目の前が眩しくなって…その後、いきなり僕の前に君が座りこんでいたんだけど…」

彼女は僕を見て、もぐもぐと口の中のものを良く噛んでから、
ごっくんと飲みこみ、そして答えを返してくれた。

「それで?」

「君、どこから来たの?」

彼女は僕の顔をまじまじと見詰めてから、大きく頷いて見せる。

「私はね…」

そして、彼女は人差し指を天井に向けた。

「あそこから来たの。」

「へ…?」

あそこって天井…じゃないよね?
空ってことなのかな?

それは、この子独特の冗談か何かなのだろうか?
僕は彼女の顔をまじまじと見つめる。
彼女はまたしても、にこにこと微笑みながら、僕の視線を受け止める。

「そら…ってこと?」

彼女は少し首をかしげて答える。

「ずっと、遠いところ。」

「遠いところ…?」

なんだろ?
何かの謎掛けなのかな?
彼女はこくりと頷いて、視線を窓の外の夜空に向ける。

「そう…遠いところから、来たの。」

「ふうん。」

もう少し具体的な地名とか聞いてみたかったけど、
彼女の横顔を見ていると、それは聞いてはいけないことのように思えてきた。
まぁ、いいか。
彼女がどこから来たかなんて、僕には関係ないこと…だから。
たぶん…ね。

「ねぇ、シンジ。」

今度は、彼女の方から言葉を掛けてきた。

「何?」

「シンジはどこに住んでるの?」

「僕?僕はここから10分ほど歩いたところに住んでるよ。」

「そうなの…」

僕の答えを聞いて、彼女は何か考え込むようにうつむきながら頷いた。
なんだろ?
僕は黙って彼女が何か言葉を返してくるのを待った。
少しして、彼女はぱっと表情を明るくさせて僕を見る。

「ね、今からお邪魔しても良い?」

「え?」

僕は少し驚いた。
だって、まだ会って間もないのに、いきなり僕の部屋に来たい、だなんて。
僕のこと、男だって認識ないのかな。
そりゃ、アスカとかには頼りないってよく言われるけど、
これでも、18歳の健康な男子なんだけどな…
しかし、彼女はそんな僕の内心もお構いなしに、上目遣いで僕の表情を伺う。
そのしぐさがすごく可愛い。
なぜか、鼓動が早くなってしまう。

「ダメ?」

彼女が甘えるようにそう訊ねてくる。
ず、ずるいよ。
そんな表情と声で聞かれたら、断れないじゃない。

「うん、いいよ。」

僕は結局そう答えてしまった。

「やった、ありがと。」

そう告げる彼女。
でも、どうして、そこまでして僕の部屋に来たかったのだろう?
かなり不思議だ。
いや、冷静に考えてみると、不思議なことばかりだ。
だいたい、初対面なのに、どうしてこの子とは、こんなに打ち解けて話ができるのだろう?
情けない話だが、僕は女性に関しては、かなり人見知りしてしまう。
ほとんどの女性とは、うまく話ができない。
大丈夫なのは、母さんと、幼なじみのアスカとレイだけ。
それなのに、どうしてこんなに…

「どうかしたの?」

彼女が不安そうに、僕の様子を見ている。
僕は彼女を安心させるために、にっこりと微笑んで見せる。

「ううん。大丈夫だよ。」

その答えに、彼女の笑顔を返してくれる。
そう、この笑顔。
僕はこの笑顔を知っているような気がする。
どこでだろう?
どうして、そう思うのだろう?
わからない。
でも、僕は知っている。
確信的にそう思った。
 
 
 
 
 
 

「はい、どうぞ。」

僕はその言葉と共に、玄関のドアを開けて、彼女を振りかえる。
彼女は少しだけ残念そうな、それでいてほっとしたような笑みを浮かべる。

「なんだ、誰か中から出てくるのかと思ったのに。」

誰か?
あぁ、女の子とか出てくるとでも思ったのかな?

「そんなことはないよ。一人暮しだから。」

「だから、女の子とか連れこんでないかなって思ったのに。」

そう言いながらも、彼女は嬉しそうに玄関にぴょんっと飛び込んだ。
そして、振りかえり僕を見て笑顔を浮かべる。

「おかえりなさい。」

その言葉。
彼女はにこにこと微笑んで僕を見ている。

「…ただいま。」

「と言う感じで、誰か迎えてくれる人はいないの?」

彼女はからかうような口調で僕を見つめる。
そんな女の子は…
と、ふと綾波とアスカの顔を浮かんだ。
でも、二人ともそういうわけじゃないしね。
僕が何も言わないのを見て、彼女は僕をひじでつつく。

「やっぱり誰か心当たりがありそうね。」

「い、いや、そんなことは。」

「慌てるとは怪しい。」

「もう、からかわないでよ。」

僕は降参とばかりに小さくため息をついて見せた。
彼女はあっさりと僕の言葉を受け入れる。

「そうね、じゃあ上がっても良い?」

「うん、どうぞ。」

「お邪魔します。」

彼女は靴を脱いで、部屋に上がる。
その後に続く僕。
と、玄関に置かれた電話のランプが一つ、点滅していた。
それを目ざとく見つけた彼女が、僕を見る。

「これは…誰か留守電にメッセージいれてるのね。」

「そう…だね。」

こう答えれば彼女が次に何を告げるか分かっていたが、そう答えるしかなかった。
彼女はにやりと微笑んで、想像通りの答えを返してくる。

「ね、聞いてみましょ。」

「はぁ、やっぱりね…」

何を言っても聞いてくれないだろうと思い、
(何故そう思ったのはかは分からないが。)
僕は留守電に登録されたメッセージを、再生し始めた。
なんとなくメッセージを、誰が入れたかは予想がついていた。
そして、再生されたメッセージは僕の予想通りだった。

「こら、シンジ。何遅れてるのよ!これを聞いたら、私の携帯に電話しなさい!
だいたい、自分の携帯持ってないなんて、アンタ時代遅れもいいとこよ!」

やっぱりね。
今日はクリスマスパーティだったから…
シンジは時計を見る。
もう始まってるね。

「彼女さん?」

マナは僕の顔を覗きこむように訊ねてくる。

「い、いや、そんなんじゃないよ。幼なじみ。」

「ふうん。そうなんだ…」

彼女は一瞬考え込むような表情を浮かべてから、
すぐに聞き返してくる。

「やっぱり、彼女さんでしょ?」

「違うって!」

思わず大きな声を出してしまった。
どうしてだろう?
なぜか、彼女にそう思われるのは、嫌だと思ったから。

「そうなの…」

彼女は少ししょんぼりとして僕の顔を上目使いに見る。
まるで、捨てられた子犬のようだ。
なぜ、僕はこんなに、この子の反応を気にするのだろう?

わからない。
でも、僕の心の奥に眠っていた何かが、目覚めてしまったような気がする。
何だろう?
今まで忘れていた何かを、思い出したような気がする。

「シンジ…どうしたの?」

マナが心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。

「あ、ごめん。」

「ずっと固まっていたから…」

あれ?
そんなに僕考え込んでいたのだろうか?
時計に視線を移す。

どうして?
さっき時計を見てから、15分ぐらい立っている。
まだ5分も立っていない感じなのに。
彼女に視線を向けると、少し不思議そうに首をかしげながらこう答えてくれた。

「ずっと、黙っていたから、ちょっと心配しちゃった。」

「そう…なんだ。」

「とりあえず、奥の部屋見せてもらって良い?」

「う、うん。」

ごく平凡なワンルームの部屋だったが、マナはちょこんと床に座り、
ゆっくりと物珍しげに部屋の中を見渡す。
少し恥ずかしい。
どうして、マナはこんなに僕のこととなると熱心なのだろう?
さっきの電話のことにしても、ただの好奇心ではなく、何かを確かめたがっているようだった。

なんだろ?
この子は何を考えているのだろう?
何を探しているのだろう?


と、マナが僕を見上げる。
にっこりと微笑んで、僕の手を引っ張る。
なんだろう?
座って欲しいのかな?
僕はそう感じ、彼女の目の前に座って彼女と向かい合わせになる。

「ね、本当のこと答えて。」

彼女の真剣な口調に、僕はごくりと息を飲む。

「う、うん。」

「シンジは、今、幸せ?」

彼女の問いは僕が予想しているものとは少し違った。
だから、思わず、間抜けに答えてしまった。

「へ?」

しかし、彼女はまじめな表情を浮かべたまま訊ねてくる。

「シンジは、今、幸せ?」

幸せ。
僕は今、幸せなのだろうか?
確かに、何かに苦しんでいるわけでもない。
彼女はいないけど、僕には仲良くしてくれる幼なじみの女の子が二人もいる。
来年の春は受験だけど、アスカとレイがいてくれるおかげで、
この調子でいけば、なんとか、志望校には入れそうだ。
幸せ。
そう、幸せ、なんだろうな。
たぶん、僕は…

「幸せ…だと思うよ。」

だから、僕はそう答えた。

「そう…幸せなのね、シンジは。」

彼女はまるで、それが自分の事のように笑顔を浮かべる。

「うん。幸せだよ。」

「良かった。」

ほっと、息をつくマナ。
どうして、そんなに僕のことを気にしているのだろう?
どうしようかと思ったが、やはり聞いてみることにした。

「ねぇ、マナ。」

「何?」

「マナはまるで僕のことを自分のことのように心配してくれているけど…どうして?」

少し驚いたような表情を浮かべて、マナは僕を見た。
そして、寂しそうな笑顔を浮かべる。
会ってから始めて見た。
マナのこんな笑顔。
しかし、マナは首を振って、僕の額に指を当てた。
そして、彼女は小さく何か一言、二言呟く。
何を言ったのかは、僕には分からなかった。

「何?」

マナは笑顔で僕を見て告げた。

「それは、私があなたのことを好きだから。」

その言葉と共に、僕の意識が朦朧とし始めた。
マナ…が。
僕のこと…
どうして?
僕達は始めて会ったばかりじゃ…ないか?
どうして?
どう…して?
僕…は…



 
 
 
 
 
 

マナはシンジの頭をゆっくりと横たえて、その顔をまじまじと見つめる。
その髪にさやしく触れてから、手を離す。

「もう、お別れです。時間がないの。」

そしてゆっくりと立ちあがるマナ。

「最後にあなたに会えて良かった。」

マナの身体の周りに小さな光がいくつも輝き始める。

「私が消える前に、あなたが幸せなのか、それだけが心配だった。」

その光は大きくなっていき、マナの身体が少しだけ宙に浮いた。

「でも、それも確かめられた。あなたの選んだ道は正しかった。
もう私の思い残すことはない。これで旅立てる。」

最後は大きな光の塊にマナは包まれ、そして、ふっとすべての光が四方に散って消えた。

「さよなら、シンジ。あなたは新しい世界を生きてください。」
 
 
 
 
 
 

「こら、シンジ!起きろ!」

その声にシンジはゆっくりと目を覚ます。
目の前には見なれた顔が僕を睨んでいる。

「あれ…アスカ…?」

僕はゆっくりと起きあがって、部屋の中を見まわす。
アスカの背後にはレイも心配そうに僕を見つめている。

「碇くん、大丈夫?」

幼なじみだが、レイはなぜか僕のことを名前で呼ぶ。
僕もレイのことは綾波と呼ぶから、同じなのだが。

「二人とも…どうして?」

「パーティすっぽかした理由を聞きに来たの。」

アスカは両手を腰に当てて、僕を相変わらず睨んでいる。
レイは心配そうな表情でこくこく頷いている。

「パーティ…」

それだけ呟いて、僕は首を振る。
どうも、頭が重い。
どうしたのだろう?
風邪でも引いたのだろうか?

「頭痛いの?」

レイがそう訊ねてくる。
頭が…痛い、わけではない、ちょっと重いだけ。

「そうじゃ、ないんだけどね。」

そして、時計に視線を向ける。
もう夜中の1時を過ぎている。

「え?どうして、こんな時間なの?」

「もしかして、寝過ごしたの?」

アスカの表情が更に険しくなる。

「いや、そんなことはないよ。だって、ちゃんと起きて…」

起きて…
僕はどうしたんだ?

思い出せない。
起きて、着替えて、二人へのプレゼントを持って、
部屋を出たはずなのに。
どうして?

「寝ぼけたんじゃないでしょうね?」

寝ぼけた。
僕が?
でも、じゃあ…


夢の中でクリスマスパーティに向かおうとしてた?

「どうしたの?何かあったの?」

なんだろ?
記憶がはっきりしない。
何か、大切なこと忘れてる気がする。
何を、忘れたんだろう。
アスカはため息をついて僕に告げた。

「もういいわ。どうせ、夢でも見て、現実と区別つかなかったんでしょ。」

そうなのかな?

「ね、碇くんのために料理とか持ってきたの、ここでパーティの続きをしようと思って。」

レイがテーブルを指差して、そう告げた。
たしかにテーブルの上にいくつかの料理と、ワインが置かれていた。

「うん、ありがと。」

僕は二人に微笑みかけた。
 
 
 
 
 
 
 

「じゃあ、帰るわね。」

「おやすみ、碇くん。」

「うん、おやすみ、二人共、今日はありがと。」

玄関で僕は二人を見送る。
そして、ドアをロックして、振りかえる。

と、あるものを見つけた。
それは留守電の録音ランプがついた、電話機。
僕は首をかしげて、それを再生し始める。

「さよなら、あなたを好きでした。」

それだけ。
でも、その声は聞いたことがない声だった。

「誰かのいたずらかな?」

僕はそう小さく呟いて。
その録音を消した。
その時…
 
 
 
 
 

さよなら、シンジ。
 
 
 
 
 
 
 

どこかで、そんな声が聞こえた気がした。
 
 
 
 
 
 

Fin.
 
 
 
 
 


NEXT
ver.-1.00 2000/12/25公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

どもTIMEです。
クリスマス記念SS「Snow Tears」マナ編です。

マナ編は何か不思議な世界ですが、
これでもEOE後の世界を想定しています。
シンジが望んだ世界でのお話です。

この世界でのマナとシンジの再会(といってもシンジは忘れていますが)のお話です。
結局最後まで、シンジはマナを思い出さずに、
せっかくの再会の記憶も忘れてしまいます。
あまりこんな形の話はかいてませんが、
レイ、アスカ編とのバランスを考えてマナ編はこんな話にしています。
 

さて、クリスマス記念はこの他に2本あります。
レイ編、アスカ編です。

レイ編は本編の外伝調で、アスカ編はマナ編とは少し毛色の違ったEOE後のお話です。
まだでしたら、そちらの2本もお楽しみください。

では、みなさんよいクリスマスを。






  ここっここっっ





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