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うーん。
どうしてこうなったんだろ?
シンジは自転車を漕ぎながら考えた。
もう今日の学校は終わって帰る途中だった。
その日、レイは風邪で学校を休んだ。
そこでシンジが今日配られたプリント類をレイの元に届ける役目を、
おおせつかったのだった。
まぁ、それに関しては問題は無い。
同じ家に住んでいるのだから、手間もかからない。
しかし、どうして男子生徒たちが書いた見舞状までもっていかないといけないんだ?
どうせなら、自分達で持っていけば良いのに。

でも、大人数で押しかけられたらかえって迷惑かもしれないな。
シンジは少し首をかしげて考える。
並木が作り出す影の下で初夏を感じさせる陽気も、さほど気にならない。
でも、風邪ひいて寝こんじゃうなんて。
昨日は少しだるそうな顔してたけど。
ちょっとびっくりしたな。
どうだろ?少しは良くなってるかな?
 
 
 
 
 
 

Moon-Stone
TIME/99
 

第5話 
好きです、誰よりも
 
 
 
 
 

「38度5分ね…」

ユイは体温計を見て、ため息をつく。

「安静ね…今日は学校は休みなさい。」

「ふあ〜い。」

レイは赤い顔で答える。
少し、息が荒い。
ふうと息をつくレイを見てユイが心配そうに言う。

「でも、タイミング悪いわね。
明日客先で、今日は移動して泊まりだから、帰ってこないのよね。」

「大丈夫よ…シンジとおじ様がいるし…」

ユイは少し考えたが、自分自身を納得させるようにうなずく。

「そうね…じゃあ、安静にしててね。」

ユイは部屋から出ると、リビングで待っていたシンジに声をかける。

「やっぱり無理ね。38度5分あるから休ませるわ。」

シンジはこっくりうなずく。

「わかりました。僕の方から先生には言っておきます。」

「それでね、私は昨日言った通りに今日の夜客先移動なのよ。それで…」

ユイのすまなさそうな表情を見て、シンジはにっこり微笑んで答える。

「僕でできることならやっておきますから。」

「ごめんなさい。おねがいね。」

「はい。」
 
 
 
 

レイはふと目を覚ました。
どうして目を覚ましたのか分からないが、
風邪をひいているときの眠りは浅い、
外の音で目が覚めたのかもしれない。
ふう…
汗かいちゃった。
着替えないと。
ゆっくりと起きあがるレイ。
薬と睡眠のおかげでかなり楽になったけど、まだ少しだるいな。
着替え終わり、来ていたパジャマを脇においてレイはベッドに横になる。
そして時計を見る。

「5時かぁ。」

学校終わってるね。
明日出れるかなぁ。
できれば出たいな。
明日は、調理実習でケーキ作るから、休むわけには…
もう、どうして風邪なんか引いちゃったんだろう?
しかもこんな7月の良い陽気のときに。
昨日はちょっとだるい程度だったのに。
どこでもらってきたのかな。

あ〜あ。
もう最悪。
レイはふてくされて寝返りをうとうとするが、その時、ドアがノックされる。
え?
レイは大きな声で返事をしようとしたが、あまり大きな声は出なかった。
しかし、その声は聞こえていたらしく、ドアが開いて、シンジが部屋に入ってきた。

「ただいま。どう調子は?」

そう尋ねて、シンジはプリントをレイの机の上に置く。
椅子を持ってきて、レイのベッドの脇に座る。

「それで、これが、みんなからの見舞い状。今読む?」

レイはふるふる首を振って答える。

「ごめんなさい。後で読むから机の上に置いておいて。」

「わかった。」

シンジは見舞い状を机の上に置きまた椅子に座ってレイを見る。
レイの表情がぼんやりしているのを見て、心配そうに尋ねる。

「ごめんね。寝ているところ起こしちゃったかな?。」

首をふるふる振って答えるレイ。

「そんなことない。」

「そう?だったらいいけど。」

そう言うと、レイの額に手を当てるシンジ。

「熱はそんなにないみたいだね。頭は痛む?」

ふるふると首を横に振るレイ。
額に当てられた手が気持ち良い。
ずっとこのままでいてくれると嬉しいな。
それをみてシンジは微笑を浮かべる。

「そうか。じゃあ、とりあえずしばらく寝たほうがいいね。」

こっくりうなずくレイ。
シンジはふと何か思いついたように立ちあがる。
額から手が離れて少しだけ残念そうな表情を浮かべるレイ。

「何も食べてないでしょ?」

それにレイはこっくりうなずく。
そう言われれば、朝ユイが作ってくれたおかゆを食べたきりだ。

「じゃあ、何か作るね…」

少しだけシンジは考えてから尋ねる。

「やっぱり、おかゆで良いよね。」

こっくりうなずくレイ。
シンジもうなずき返すと、部屋から出ていく。
小さく息をついて、レイは思った。
なんかこういうのも悪くないな。
シンジがアタシのためにいろいろしてくれるなんて。
 
 
 

「起きれる?」

シンジは心配そうにレイに尋ねた。

「うん。大丈夫だよ。」

レイはゆっくりと起きあがる。
その前にお盆に載せられたおかゆが置かれる。

「召し上がれ。」

シンジはそう言うとスプーンをレイに渡す。

「熱いから気をつけてね。」

レイはおかゆをすくってふうふうと息を吹きかけ冷ましてから口に入れる。

「どう?」

「おいしい。」

レイはシンジを見てにっこり微笑む。
そういえば、シンジの料理って始めて食べるな。
最近はお母さんがいつもご飯作ってくれてたし。

「そう、よかった。」

シンジはほっとしたように息をつく。
レイがそのおかゆを食べている間、シンジは今日学校であった出来事を話した。
なんか、すごく嬉しいな。
シンジがアタシだけのためにいろいろしてくれる。
でも…
シンジは…
アタシが妹だから…
こうやって、いろいろしてくれるんだよね…
アタシ…

何考えてるんだろ?
アタシ…

「そういえば、アイスクリーム買ってきたから、後で食べようね。」

「うん。ありがと。」

そして、じっとシンジを見つめるレイ。
その視線に気付いてシンジは首を傾げる。

「どうかした?」

「ううん。なんでもない。」

「そう?だったら、いいけど…じゃあ、僕はリビングにいるから、
何か合ったら呼んでね。」

「うん。ありがと。シンジ。」
 
 
 

レイは寝返りをうって息をついた。
最近気付いたんだけど。
シンジって瞳がいいんだよね。
すごく澄んでて、吸い込まれそうな瞳。
ずっと見たいたいって思っちゃうの。
シンジといるとすごく安心するの。
ずっと一緒にいたいって思うの。

シンジの顔を思い浮かべると、どきどきしちゃう。
うーん…
やっぱり…
アタシ…

シンジのこと好きなんだよね…
お兄さんなのに…
そんな風に思っちゃいけないのに。
それでもアタシはシンジのこと好きなんだ。

シンジ…
 
 
 

シンジはキッチンで洗物をし始める。
さっきレイが僕をじっと見つめていたときの表情、どうしたのだろう?
すごく思いつめていた感じがする。
何か言いたいことがあって、でも言えなくて。
僕に助けを求めているような瞳。
どうかしたのだろうか?
僕で助けになるのなら、聞いてみたい。
それは兄としてではなく、友達としての行動なのかもしれない。

もしかすると、レイのこと好きだからかもしれない。
一緒にいるとすごく安心するんだ。
ずっと傍にいてお話していたいって思うんだ。
僕はレイをやっぱり一人の女の子としてみているのだろうか?
そうじゃないと自分に言い聞かせてきたけど。
やっぱり僕はレイを…
それは変えられないかもしれない。
僕はどうすればいいのだろう?
洗ったものを食器乾燥機に入れてタイマーをセットする。
そして、ダイニングに戻って、椅子に腰掛ける。
僕は、レイのことを特別な女の子だと思ってる。
それは家族とかじゃないんだ。
それは望んではいけない事なんだ。
そして認めてもいけない事。
でも、レイが受け入れてくれるのならば。


駄目だ。
そんな事を考えてはいけない。
レイは僕の妹なんだ。
そんな事考えるなんて…


いつまで耐えられるんだろう?
こんな思いを抱えて、僕はいつまで平気な顔をしてレイの前にいられるんだろう。
 
 
 
 

「冷たい…」

レイはアイスクリームを一口食べて嬉しそうにそう言った。
シンジはベッドに腰掛けてにっこり微笑む。
あっという間にアイスクリームを食べてレイは満足そうに息をつく。

「おいしかった。ありがとね。」

にっこり微笑むレイにシンジも笑みを返す。

「うん。」

レイはシンジの横顔をじっと見つめる。
もう見なれた横顔。
でも、まだ見飽きてない。
ずっと、この横顔を見ていたい。
レイの胸の奥で何かが訴えかけるように鼓動する。
それはずっと否定していた思い。
でもその思いはいつのまにか大きくなっていたようだ。
シンジがその視線を感じてレイを見る。
その夜色の瞳がレイの瞳を捉えて話さない。
そうこの瞳。
アタシはこの瞳の魔力にとらわれたんだ。

もう駄目。
アタシ…
これ以上は耐えられない。
胸が痛いよ。
シンジ…
シンジはレイの額に手を当てて、熱がないか確かめる。
瞳を閉じるレイ。

「熱は大分下がったみたいだね。」

でもね、アタシはまだ病気だよ。
シンジ、わかってる?
手を下ろすシンジ。
レイはまたシンジの顔をじっと見つめる。
シンジはレイの表情を見て心配そうに尋ねる。

「辛そうだけど、横になる?」

こっくりうなずくレイ。
つらい。
すごくつらいよ。
でも、それは風邪のせいじゃないんだよ。
シンジ、わかってる?
この胸の痛みはシンジのせいなんだよ?
そんなにやさしくされると…
アタシ…

「じゃあ、横になって。僕はリビングに行くから。」

その言葉にシンジの腕を握るレイ。
行かないで。
アタシの傍を離れないで。
お願い。

「レイ…。」

シンジは立ちあがろうとしたが、首を振ってまた座って、
横になったレイの髪を優しく撫でる。

「僕にして欲しいことある?」

こっくりうなずくレイ。

「何?」

シンジ…
アタシ…
シンジのこと好きなんだよ。
誰よりも、あなたのことだけ見つめていたい。
あなたの傍にいたいの。
それが認められないことでも。
それでもアタシは、シンジのこと…
シンジの首に両手を回す。
不思議そうな顔をするシンジ。
大好きだよ。
そして顔を上げる。

「…?」

そしてレイはシンジにキスをした。

「…」

シンジの体がこわばるの感じる。

離されないように抱きつくレイ。
拒まないで。
アタシを受け入れて。
お願い。
そうじゃないと、アタシ…
と、シンジの両手がレイの体に回される。
ベッドに横たえられて、レイはシンジを抱きしめる腕を緩める。
シンジがアタシを抱きしめてくれてる。
そして、顔を離してレイはじっとシンジの瞳を見つめる。
シンジもじっとレイの瞳を見つめる。
そして、シンジは口を開く。
ただ一言だけ。

「どうして?」

レイは小さくかすれるような声で答えた。

「好きなの…シンジのこと。」

胸が痛い。
でも、これは後悔してるんじゃない、好きだから。
本当は始めてあったときから、すごく気になってたんだ。
最初からシンジのこと一人の男の子として見ていた。
でも、それは許されないことだったから、
それを認めないようにしていたんだ。
だから…
すごく…
胸が痛んで…
シンジの事が大好きなアタシが悲鳴を上げてたんだ。
好きなのに。
大好きなのに。って。
ずっと、そうじゃないって思おうとしていた。
だって、シンジはアタシのお兄さんだから。
でも、いくらそう思っても、駄目なんだよね。
アタシはシンジが好き。
この思いは何物にも変えられない思いだから。
伝えたい。
シンジに知って欲しい。
アタシがこんなにシンジのこと好きなこと。

「もう、耐えられないの…こんなに好きなのに。」

そして、大粒の涙が頬から伝う。

「好きなのに…その気持ちを我慢しないといけないなんて。」

シンジの首に回していた手を解くレイ。
しかしシンジはそのままレイを抱きしめている。

「だから…だから。」

それ以上は声にならない。
ちゃんと話さないと。
シンジにわかってもらえない。
でも言葉にならないよ…

「…こんなの駄目なことわかってる…
…シンジはアタシのことそういう風に見てくれてないかもしれない…
でもアタシにとっては…シンジは…」

そこで息をつくレイ。
神様。
アタシのこの思い全てシンジに伝わりますように。

「一番、大切な人なの…」

そして瞳を閉じる。
言っちゃった。
どうしよ。
シンジの顔みれないよ。
怖い。

「レイ…」

シンジはレイに手を伸ばそうとする。
しかし、慌ててその手を戻す。

「レイ…」

そして沈黙。
見詰め合う二人。
シンジはレイの瞳から目をそらした。

「ごめん…」

そう答えると、シンジは立ちあがり部屋を出ていく。
レイはその場に残されてしまう。
シンジが出ていったドアを見つめるレイ。
そして、レイは倒れるようにくず折れた。
どうしよう。
アタシ…
シンジはアタシのこと…
どうすればいいの?
シンジはアタシのこと受け入れてくれなかった。
アタシはやっぱり妹なんだ。
嫌われてしまった。
もう以前の二人には戻れないよ…
どうしよう。

胸が痛いよ。
アタシはどうすればいいの?
こんなにシンジのこと好きなのに…
我慢すれば良かったの?
いままでのように、シンジはお兄さんだからって…
そうすれば、今まで通りにシンジといられた?
でも…
でも、アタシは耐えられなかった。
シンジが好きなアタシはもうこれ以上は偽れなかった。
だから、言ってしまった。
ずっと心の奥底にあった思いを。
どんなに消そうとしても消えなかった思いを。
シンジに知って欲しかった。


でも、シンジはアタシを…


 
 
 
 

シンジは自分の部屋に入ってドアにもたれた。
息をついて、顔を上げるシンジ。
そして、唇に手を当てる。
どうしよう…
レイは僕のことを…
まさかレイが僕のことを…
どうすればいい?
僕もレイが好きなのに…

今まで、レイは僕のことを友達としか思ってない。
そう思って自分の思いを打ち消してきた。
二人は友達にはなれるけど、それ以上にはなれないんだ。
そう思ってきた。

でも…
レイは…
僕のことを好きだと言ってくれた。
…凄く嬉しかった。
僕も好きだって言いたかった。

レイの思いに答えられたらどんなによかったか。

でも、僕とレイは…
シンジはずるずると座りこんだ。
そしてうつむく。
胸が痛い。
僕はどうすればいい?
レイの気持ちに答えたい。
でも、それは望んではいけない事なんだ。
レイもきっと後悔する。
だから、僕は拒まないといけなかったんだ。
安易な気持ちで答えを返すことはできないんだ。
二人は…
兄妹だから。
今までの二人の関係が壊れるかもしれない。
僕はうんとは言えなかった。


レイ。
ごめんね。
泣いてるよね…
悲しいよね…

僕も…
そうだよ…
心が泣いてるよ…
胸が痛いよ。
今すぐ戻って僕の思いが伝えられればと思うよ。

でも…
ごめん…
 
 
 

「なぁ、あの二人どうかしたんか?」

トウジがなにやら不思議そうにシンジを見ながら、
話をしていたケンスケとヒカリの傍にやってくる。

「それが…さっぱり。」

ヒカリは肩をすくめてそう答える。
別段いつもと変わりないように見える二人だが、
いつも二人を一緒にいる三人には異常事態としか思えなかった。

「二人がお互いを避けているような気がするんだけど。」

その言葉にうなずく二人。
トウジが首をかしげながら、腕を組む。

「ケンカしたっちゅう感じでもない。かと言って、全然しゃべらん。どないなっとるんや?」

三人はシンジとレイの二人を見つめていた。
シンジはぼんやりと校庭を見つめている。
レイはずっとうつむいたままで何かに耐えているように見える。
ときおりレイは顔を上げるとシンジの後姿をじっと食い入るように見つめている。

「本当にどうしたんだろ?」

ケンスケはため息混じりにそう言った。
 
 

シンジ…
やっぱり、アタシのこと避けてる…
寂しいよ。
悲しいよ。
アタシのこと見てよ。
いつものように笑いかけてよ。
そんなに嫌だったの?
アタシがシンジのこと好きなのが。
レイは無意識のうちにペンダントのムーンストーンに触れていた。
どうすればいいんだろ?
ずっとシンジとはこんな関係なのかな…
昨日までの関係には戻れないのかな…
アタシはずっと耐えないといけないのかな…
そうすれば、この思いは…
どうなるのだろう?
何処に行けばいいのだろう…
ずっと宙ぶらりんになっちゃうよ。
アタシは…
いつまで耐えられるのかな?
こんな関係に。
 
 
 

「ねぇ…レイちゃん…」

ヒカリは恐る恐るレイの顔を見つめながら尋ねた。
二人は屋上のベンチに並んで座った。
雲が多いせいで太陽の日差しはさえぎられていたが、
風が吹いていないため、少し蒸しているように感じられる。
相変わらずの沈んだ表情でレイはヒカリの隣に座っていた。
弁当箱は膝の上に載せたままで開けられていなかった。

「碇…くんとケンカしたの?」

一瞬、肩をぴくりと震わせたがゆっくり頭を振ってレイは答える。

「ううん。なんでもないの。」

「ほんとに?」

ヒカリはレイの顔を覗きこむように尋ねるが、
レイはふるふると頭を振って答える。

「ごめんね…心配してくれてるのに…
でも、これはシンジとアタシの…問題だから。」

「そうね。アタシが何かアドバイスするなんて事は出来ないと思うけど、
話せばすっきりする事だってあるよ?」

少し驚いた表情でヒカリを見つめるレイ。
たぶん、話せば少しは楽になると思う。
でも、これはいくらヒカリちゃんでも話すわけには行かないよ。
レイは少しうつむいて、こう結論つけて答える。

「ううん。ありがと。一人で大丈夫だよ。」

にっこり笑って見せるレイ。
でもヒカリにはそのレイの笑顔が泣いてるようにしか映らなかった。
 
 
 

僕はどんな態度で接すればいいんだろ?
昨日のこと考えないようにって思ってるのに。
思い出してしまう。
そして、レイに何を話せば良いのか、どう接すれば良いのか、
わからなくなってしまっている。
ごめんね、レイ。
昨日だけじゃなく、今日もつらい目に会わせてるね。
本当に、ごめん。
でも、僕もどうすればいいのかわからないんだ。
レイの顔を見たい。
でも、見れないんだ。
どうしても、昨日のレイが思い出されて…
僕は…


本当に…
僕は正しかったのだろうか?
分からなくなってきた。
本当に、あの時僕がとった行動は正しかったのだろうか?
レイ。
君は自分のしたことを信じてるかい。
いまでも僕のことを好きだと言ったことを後悔してないかい?
僕は…
正しかったと思いたい。
僕とレイは兄妹だから…
いくら少し前まで他人だったとは言え、今は兄妹なんだ。


僕が君の思いに答えることは出来ないんだ。
それは誰も許してくれないことなんだ。
許して欲しい…
僕が…


 
 
 
 

「なぁ…シンジ。」

ケンスケは熱心にほうきでごみを集めているシンジの背中に話しかける。
シンジはケンスケの方を見ないで答える。

「なに?」

ケンスケは少し躊躇したが、言葉を選ぶようにゆっくりと話し出す。

「なぁ…シンジ、お前ここ数日、なんかいつもと違うぞ。何かあったのか?」

「何が違うのさ?」

シンジのその答えに、ケンスケは息をつき、答える。

「レイと何かあったのか?」

その言葉にシンジはぴくりと反応するが、
冷静を保った声で答える。

「別に…なにもないよ。」

「そうか…」

ケンスケは肩をすくめてそう答える。
だめだな。
こういうときのシンジは何を聞いても答えてくれないからな。
少なくともレイがらみだとは分かったけど、やっぱり俺達の予想通りか。
委員長もレイから何も聞けなかったって言うし、こりゃマジでやばいかもな。
もう二人がこういう状態になって4日経った。
俺達は見てるしかないかな。
これ以上は本人達が望まない限り、立ち入れそうも無いし。
ケンスケは熱心に掃除を続けているシンジを見て首を振った。
 
 
 
 

シンジはベランダに出て大きく背伸びをした。
残念ながら空は雲に覆われており、星も月も見えなかった。
シンジはその夜空を見上げて苦笑を浮かべる。
まるで、僕の今の気分だな…
手すりにもたれ視線を町並みに移す。
家や、街灯、車のヘッドライトがきらきら輝いている。
もうレイとろくに話さなくなって4日が経った。
今日も一日、ろくに会話が無かった。
どうしてもあの時のレイの顔が忘れられない。
だから、レイの顔が見れない。
でも、考えることはレイの事ばかりだ。
実際、レイにはひどいことをしてしまったと思う。
あれだけ、僕のことを思っていてくれたのに、僕は彼女を受け入れられなかった。
僕とレイはそういう関係になってはいけないから。
そう思っていたし、それは正しいと思っていた。
でも、レイのことを考えると、僕の頭に浮かぶのは、どうして彼女を受け入れなかったのか?
そのことだけだった。
僕は正しいことをしたんじゃなかったのか?
僕は間違っていたのか?
今はつらくても忘れることが出きるのかな?
この胸の痛みもそのうち消えてしまうのかな?
僕がレイに対して抱いているこの感情も消えてしまうのかな?


本当にそれが二人のためなのかな?

僕はそれを望んでいるのかな?

君を妹として見なければとずっと思っていた。
それは当然のことだと思っていた。
でも今の僕は君のことを一人の女の子としか見ていない。
それでも、月日がたてば、君のことを妹としてしか見なくなるのかな?

3ヶ月経った今でも君のこと妹して見ることが出来ないのに?
全部忘れてしまって、君を妹としてのみ見ることができるのだろうか?

わからない…


僕には何が何だか分からないよ…
シンジは頭を抱え込んだ。
 
 
 
 

ドアをノックする音にレイはベッドから起きあがる。
誰だろ?

もしかして?

「レイ、起きてる?」

その声にレイは半分安心し、半分がっかりしながら、答える。
そして、ベッドの端に座る。
もうお風呂には入ったので、パジャマ姿だった。

「はい、起きてるよ。」

レイが部屋に入ってきて、レイの顔を見つめる。
平静を保とうと微笑んで見せるレイだが、うまく笑えなかった。
そんな様子を見て、ため息をついてユイはレイの隣に座る。

「どうかしたの?」

レイはなにげなくそう尋ねたが、ユイが何をしにきたのかは分かっていた。
だって、あんなの見てたら、アタシ達の間に何かあったって思うよね?
レイは何から話そうかと考えている様子だったが、いい言葉が見つからなかったのか、
首を振って、レイを見る。

「正直に答えてね。シンジくんとの間に何かあったのね。」

レイは一瞬躊躇したが、何を言っても無駄だと分かっていたので、素直にこっくりうなずいた。
ユイはそれを見て大きくうなずく。

「レイは…シンジくんのこと意識してるの?男性として。」

レイはユイを見て驚いた表情をする。
どうして?
どうしてそういう風に思うんだろ?
そのレイの表情を見て、にっこり微笑むユイ。

「分かるわよ。だって、アタシはレイのことずっと見てきたんだから…」

そして、やさしくレイの肩を抱く。

「で、レイはどうしたいの?」

レイは顔を上げてユイを見る。

「だって…アタシ達…兄妹なんだよ?どうしようもないじゃない…」

「シンジくんはそう言ったの?」

レイはうつむいてふるふる首を振る。

「ううん…でも、そうだとしか思えないの…」

「そう…」

しばらく沈黙する二人。
そして、レイは顔を上げてユイをじっと見る。

「ねぇ…お母さん…お願いがあるんだけど…」

ユイはそのレイの表情を見て、少しだけためらった。
その表情が何か思いつめたものだったからである。
しかし、ユイはにっこり微笑んで答える。

「…なに?」

レイは自分の考えを話し始めた。
最後まで何も言わずにレイの話を聞いた後、ユイはゆっくりうなずいた。

「わかったわ…あなたの気の済むようにしなさい。」

「…ありがと。お母さん。」
 
 
 
 

シンジはベッドの上で服を着たまま眠っていた。
薄く開いたカーテンから月明かりが入りこみ、シンジの身体を薄く浮かび上がらせる。
時計の針は12時を指していた。
ふと、ドアが開き、誰かが部屋に入ってくる。
その月明かりに照らし出されたのはレイだった。
レイはベッドサイドまで歩み寄ると、膝をつき、シンジの顔をしげしげと覗きこむ。
そして、ブランケットをシンジの肩までかける。
小さく息をついて、シンジが身じろぎする。
レイは少し緊張した表情でシンジを見ていたが、
ふと顔の表情を緩め、シンジの頬に指を滑らせる。

「シンジ…ごめんね…アタシ…」

そして、シンジのつややかな黒髪に触れる。

「やっぱり…駄目だよね…アタシ達は…」

こみ上げるものを押さえきれずにレイはうつむく。
涙が頬を伝ってベッドのシーツに小さな染みをつくる。

「ごめんね…迷惑だったよね…」

レイの肩が震える。
そうよね。
二人は兄妹。
血はつながっていなくても、二人がお互いを好きになっては駄目なんだよね。
シンジは私のことを大切に思っていてくれたから…
だから…
私を受け入れてくれなかったんだよね…


ごめんね…
アタシのせいでシンジに辛い思いをさせて…
でも…
レイは囁くようなかすれた声でシンジに話しかける。

「でもね…それでもね…アタシはシンジのこと…好きだよ…」

顔を寄せ、シンジの頬に軽くキスをするレイ。
ありがと。
シンジ。
そして…

「さよなら…シンジ。」
 
 
 
 


NEXT
ver.-1.00 1999_06/29公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jpまで!!

あとがき

どもTIMEです。

Moon-Stone第5話「好きです、誰よりも」です。

遂にレイが告白してしまいました。
しかし、シンジはそれを受け入れることができませんでした。
レイは二人の関係が兄妹であっても好き。
シンジは兄妹だから、ダメ。
そんなスタンスです。

さて、このまま二人はどうなってしまうのでしょうか?
レイのさよならという言葉の意味は?

次回Moon-Stone第6話「二人のため?」でお会いしましょう。
 






 TIMEさんの短期集中連載『Moon-Stone』第5話、公開です。






 ついに、
 ついに、

 ついに、言っちゃった〜

 レイちゃんが、ついに。



 でも、シンジは。。。

 応えられなかったのね。


 それは、しゃあないかな、、、




 う〜ん
 う〜ん

 どうなっちゃうのかなぁ


 とにかく一歩動いて、
 きっかけになるよね。

 どう動くはこれからこれからなのですっ




 さあ、訪問者の皆さん。
 7月一番乗りのTIMEさんに感想メールを送りましょう!







 えと・・・第4話の私のコメントですけど・・・

 どうも、なんか、えと、
 『Time Capsule』が混ざっていたみたいです(^^;

 ごめんなさいですm(__)m












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