唇をふさいだ柔らかくて暖かい感触に、あたしはゆっくりと目を覚ます。
「おはよう、アスカ。もう朝だよ」
目を開けるとそこには、エプロンをしたまま優しく微笑むシンジの顔があった。
シンジはちょっと顔を赤くしている。
キスくらいで照れるのもうやめなさいよ、毎朝の儀式なんだから。
あたしはちょっとシンジをからかってみることにした。
「・・・・・・やだ、まだ眠いもん。もっと寝る」
そう言って布団を顔のところまで引き上げる。
「ダメだよ、アスカ。日曜日だからっていつまでも寝てないで、ほら」
シンジはそう言って布団をはごうとする。
あたしは布団をしっかりとつかんで言った。
「じゃあ、もう一回キスして」
ちょっと悪戯っぽい目をしてシンジをじっと見つめる。
案の定シンジはさらに真っ赤になった。
ふふっ、可愛いわね。
「な、なに言ってるんだよ。今したじゃないか」
「さっきのは目覚めのキス。ベッドから起き上がるには、もう一回必要なのよ」
「そんな、むちゃくちゃな・・・・・・」
「いいから、ねぇ、早くぅ。・・・・・・してくれないと起きないわよ」
そう言って、あたしは目を閉じる。
「しょうがないなあ」
いかにも「仕方なく」といった口調で言いながら、シンジはあたしの頬に手を伸ばしてきた。
「ん・・・・・・」
シンジの優しいキス。
あたしの一番大好きな人とのキス。
やっぱり、幸せってこういう事をいうのよね・・・・・・。
ミサトは休日出勤だから、今日はシンジと二人きり。
そのシンジはソファーに座って料理の雑誌を読んでいる。
シンジの料理のレパートリーには、普段のこういう努力があったのね。
それにしても、これはもう趣味の領域だわ――あたしは今更ながらに感心してしまう。
なんとなく手持ち無沙汰になってテレビをつけてみたけど、喧しいバラエティ番組しかやっていない。
シンジと二人きりの時間を邪魔されるような気がして、すぐに消してしまった。
途端に静寂が訪れる。
シンジの息遣いが、いやにはっきりとあたしの耳に響いた。
あたしは床から身を起こすと、シンジの左隣にぴたっとくっつくようにしてソファーに座った。
シンジは一瞬だけぴくりと反応したけど、何も言わずに黙って雑誌を読み続ける。
構わずにあたしはシンジにもたれかかった。
シンジの左肩に頭をのせて目を閉じる。
―――どくん、どくん。
シンジの心臓の鼓動が直接に伝わってきた。
あたしはそのゆっくりとしたリズムに身を委ねる。
なんか・・・・・・すごく安心するのよね、こうすると。
シンジの温もりと鼓動は、いつもあたしを落ち着けてくれる。
それとシンジのにおい。
石鹸やシャンプーの残り香とは違う。
汗臭いのとも違う。
シンジだけのにおい。
すごく頼り甲斐があるようでいて、どことなく繊細な雰囲気がする。
こうしていると、シンジに守られているって感じる。
でも、あたしがシンジを守りたい、とも思う。
「・・・・・・ねえ、シンジぃ」
あたしはそのままの姿勢でシンジに言葉をかけた。
「ん〜〜、なに?」
シンジも雑誌から目を離さないまま答えてきた。
「えへへ、何でもない。呼んでみたかっただけ」
「うん・・・・・・」
シンジはあたしの言動など興味がないといった態度で雑誌を読み続ける。
あたしは構わずにいっそうシンジにもたれかかった。
しばらくするとあたしの髪の毛に何かが触れた。
目を開けなくてもわかる。
シンジの手だ。
最近のシンジの癖―――指をあたしの髪に絡めてきた。
ホントだったら、誰かに髪の毛を触られるのって、すごく嫌なことだと思う。
でもシンジだと、それがとても気持ちいい。
たぶん、シンジなりの甘え方なのよね。
あたしたちは、しばらくそうして身を寄せ合っていた。
交わされる言葉はほとんどない。
ううん、言葉は要らないの。
伝えたい想いはいくらでもある―――それこそ、言葉だけでは足りないくらいに。
だから、言葉は要らない。
今はただこうして、お互いの温もりを伝え合うだけでいい。
最初は、傷をなめ合うような関係だった。
傷つくことの多い環境の中で、身を寄せ合う人が欲しいだけだった。
でも今は違う。
心の底からシンジのことが好き。
世界中に胸を張って、そう言える。
やがて、シンジの手があたしの頬に触れた。
瞳を開けて、お互いに見つめ合う。
吸い込まれるような、シンジの黒い瞳。
いつも穏やかで、でも確かな勁さを感じさせる、シンジの瞳。
シンジの唇が近づいてきた。
あたしたちは、貪るようにしてお互いを求め合った。
そしてシンジの右手が、あたしのブラウスのボタンにかかって・・・・・・。
あたしは悲鳴を上げそうになって飛び起きた。
ゆ、夢、そう、ただの夢よ、今のは・・・・・・。
大きくゆっくりと、深呼吸を二、三回くりかえす。
胸に手を当てると、まだどきどきいっている。
くっ・・・・・・このアスカ様ともあろうものが、夢ごときに動揺してしまうとは・・・・・・。
それにしても、やけにリアルな夢だったわね。
あ、やばい・・・・・・思い出したら、また顔が火照ってきちゃった。
夢の中のシンジ・・・・・・結構かっこ良かったな。
だけど、こんな夢を見ちゃうなんて、やっぱり・・・・・・なのかなあ?
そりゃ、まあ、顔立ちは結構ととのっている方だし・・・・・・
いざというときには、あたしを助けてくれるし・・・・・・
料理は上手いし・・・・・・
他にも家事全般できちゃうし・・・・・・
チェロ弾いてるときなんか、なかなか大人びて見えるし・・・・・・
き、き、キスも上手だったし・・・・・・
やっぱり・・・・・・そうなのかなあ・・・・・・。
時計を見ると、もう十一時を過ぎていた。
シンジ・・・・・・起こしに来てくれるかな?
あたしが眠り姫のふりをしたら、シンジは王子様になってくれるかしら?
耳をすますと、シンジの足音が聞こえた。
ふふっ、もうすぐ起こしに来るわ。
あたしは布団をかぶりなおして、眠ったふりをする。
―――コン、コン
「アスカぁ、起きてる?」
そんな立派なものはないのです、えっへん。
ただなんとなく書きたかったから、思いつくままに書いただけなのです。
どうだ、まいったか!?
リョウさんの『例えばこんな目覚め』、公開です。
ゴロゴロですね〜(^^)
朝からず〜っと、ラブラブ・・
ワガママを言ったり、
意地悪したり、
からかったり。
甘えん坊ですね、アスカちゃんは(^^)
夢オチ?
いえいえ、
これはアスカちゃんの気持ち(^^)/
起き際に見た夢は正夢になるといいますし、
この先は・・ゴロゴロ〜
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↑なんやそれ(^^;