言って、紫漣は美しいながらもちょっと不気味に微笑んだ。
思わず身構えるミサト達。
しかし、それは全くの無駄だった。
「《轟風弾(ウインド・ブリッド)》!」
紫漣が叫んだ次の瞬間、ミサトとリツコは、強烈な風に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
2人の体に、衝撃と激痛が走る。
「うぅっ・・・」
ミサトは痛みに耐えて体を起こそうとするが、その時には、もう紫漣は次の呪文を唱え始めていた。
「・・・空と大地を 渡りしものよ 優しきながれ たゆたう水よ・・・。
《氷の矢(フリーズ・アロー)》!」
ぎぎぎぎぅんっ!
空間が歪んだような音を立てて、紫漣の周囲に8本の氷の矢が現れる。
そして、壁に叩きつけられたミサトとリツコの、手足に襲いかかった。
水中探査員の男は、潜水服の中で、思わずそう呟いた。
ここは、ハワイ諸島の東南東およそ5800キロ・・・早い話が、ハワイ諸島とガラパゴス諸島のちょうど中間辺り・・・の海底だ。
何か大きなものが沈んでいる。
しかし、太陽の光が全く届かないので、いくつものサーチライトに照らされながらも、ほんの一部しかその形が分からない。
しばらくそれを観察した後、彼は海上の船と連絡を取った。
「・・・こちら探査員No.8。
ポイント4の海底に、巨大な、おそらく正二十面体とみられる物体を確認・・・」
それに対する船からの返事は、非常に簡単なものだった。
『よし、目的は達成できた。撤収しろ』
「了解・・・」
「・・・第3調査団が、ポイント4の海底で、正二十面体の物体を発見しました。
ほぼ第5使徒と同じくらいの大きさです」
「それで、その物体は第5使徒と同種のものなのかね?」
リーダー格のモノリス・・・01と書かれたもの・・・が訊ねる。
そして、その答えは、およそ常識では考えられないものだった。
「間違い在りません・・・。
確かに『彼』の言う通り、第5使徒と同種のものです。
そして、古代魔導王国の機動要塞の1つ・・・。
となると、やはり第5使徒も、古代魔導王国の機動要塞である可能性は高いと思われます」
その05の言葉に、01はしばらく考え込んだようだったが、やがて言葉を発した。
「・・・第5使徒と同種のものなら、扱い方もある程度は解明されている。
ならば機動要塞を起動。
目標は、ジオフロント中央、ネルフ本部だ。
機械文明以前の要塞の力、そして、前回の魔導兵器を破壊した方法、見せてもらおう」
「了解しました・・・。
それでは、ただちに機動要塞の始動にとりかかります・・・」
モノリス達は消え、再び闇と静寂がその場を支配した。
・・・・・・はずだったのだが、どこからともなく中性的な声が響いた。
「"魔導王国"・・・とは、ねぇ・・・。
まぁ、知らなかったらそう思っても無理はないか。
似たようなものだし・・・。
権力・・・と言うか、支配力・・・は比べ物にならないけど・・・。
それじゃ、とりあえず"女王"陛下に報告に行きますか・・・。」
ビシビシビシビシッ!
何かが凍り付く音が部屋中に響く。
しかし、何も変化がない。
おそるおそる目を開けてみると、放たれた氷の矢は全て、ミサトとリツコの手足ぎりぎりの所を凍結させていた。
「いかがです?
風や炎や雷撃は科学でもなんとかなりますが、氷の塊を一瞬で創り出すことは出来ないでしょう?
これが魔・・・」
話の途中で、一瞬、紫漣の声が途切れる。
「これは・・・!
・・・愚かな者達ですね・・・。
ただの魔導兵器では飽き足らず、縮小版とはいえ、四神要塞の1つを動かすとは・・・」
呟いて、紫漣はミサト達の方へ向き直った。
「葛城先生、赤木博士・・・。
次の敵には、あなた方では絶対に勝てませんよ。
なにせ、"ラピュター"の守護機動要塞の1つですから。
それも、〈東神要塞〉・・・、いわゆる“青竜”です・・・。
以前にあなた方が破壊した〈西神要塞〉・・・いや、第5使徒ラミエルよりも、かなり強力ですよ。
私は、自分の技術に自信を持っていますから・・・」
そう言って、紫漣は扉へ向かう。
「四神要塞・・・?
ラピュターって、ガリバー旅行記の?」
「第5使徒が、要塞って・・・?
一体、どういうこと?」
ミサトとリツコが問いかけると、紫漣は少しだけ振り返った。
「・・・ラピュターは、かつてこの世界に存在した、空中国家の名です。
第5使徒ラミエルと、これからあなた達が第19使徒と呼ぶことになる物は、そのラピュターの東西南北を守護する機動要塞の、縮小版・・・。
つまりはミニチュアです。
それでも、あなた達では絶対に勝てません。
私なら、簡単に止められるのですが・・・。
そんなわけです。
今回こそは、手出ししないでくれますよね・・・?」
リツコはその問いに、首を横に振って答えた。
「・・・やっぱり、それは出来ないわ。
あなたの話は、そう簡単に信じることが出来るものじゃない。
魔法に関しては、信じざるを得ないけれどね」
「・・・そう言うとは思っていましたけど。
それなら、諦めて勝手に動かせてもらいます」
紫漣はミサトの言葉に、がっかりした様子で出ていこうとしたが、突然振り返る。
「あっ、そうそう。
ネルフの保安諜報部は優秀ですが、私を拘束できるとは思わない方がいいですよ。
そんなことをしも、怪我人が出るだけです。
場合によっては、死人や廃人も・・・ね。
もちろん、邪魔さえしなければこちらから危害を加えることは、たぶん無いでしょう。
私の目的は、基本的に2つだけ・・・。
まず1つ目は、家族を守ること・・・。
そして2つ目は・・・、暇つぶしです」
真剣に話を聞いていたミサトとリツコは、最後の一言でコケかけた。
もっとも、既に立ってはいないのだが。
「暇つぶし?
それなら、家でゲームでもするか、本でも読みなさい。
家族だって、私たちが守るわ。
あなたが戦う必要はないのよ」
ミサトがあきれたように言う。
しかし、紫漣は首を振った。
「ゲームは飽きましたし、本に至っては、ここ20年ぐらい中に居ましたよ」
「20年?
あなたは14歳でしょう?
それに、本の中ってどういう意味かしら?」
訝しげに、リツコが問いかける。
「ん〜・・・まあ、こっちの話です。
あと、私の家族はあなた達が守るということでしたが、それが駄目なんです。
私があなた達にしつこく『手出しをするな』と言い続けているのは、あなた達がいることで相手が倒しにくくなるからではありません。
そう言う時にあなた達がとる行動によって、私の家族がより危険にさらされるからなんです」
「それは、どういうことかしら。
あなたの家族は、ネルフの職員なの?」
「・・・ちょっと違うかも知れませんが、ネルフのなかでも1,2を争うぐらいに危険にさらされる立場では、あります。
さて、とっとと準備しましょうか。
あなた達も、早いうちに準備した方がいいんじゃないですか?
明日にでも、太平洋から"使徒"が来ると思いますから・・・」
「それはそれは、どうもご忠告ありがとう。
でも、あなたの話が本当だという証拠は、どこにもないわよ」
ミサトが、皮肉げに答えるが、紫漣は全く気にしていないようだ。
「でも、準備しないと、大変なことになりますよ。
〈東神要塞〉は、機動力、防御力、攻撃力ともに〈西神要塞〉・・・第5使徒をかなり上回りますから、ヤシマ作戦レベルの攻撃では、傷つけることすらできませんよ。
あなた達が負けても、私が止めますから、人類が滅びることはありません。
でも、その場合に死ぬのはあなた達ではなく、碇君達なんですよ。
ちなみに、一番強いのは、南極・・・と言っても旧南極・・・からラピュターを守っていた、〈南神要塞〉です。
そいつが動けば、たとえミニチュア版でも、全人類を滅ぼすことが出来ますよ。
もちろん、ラピュターを除いて、ですが・・・。
今もラピュターを守っている実物の守護要塞は、ミニチュアの3倍の大きさと、それを遙かに超える能力を持っています。
実物の〈南神要塞〉なら、太陽系を跡形もなく破壊するだけの能力を持っているんです」
「いくら何でも、それは信じられないわね。
『今もラピュターを守っている』って言ってたけど、この地球上にそんな技術は存在しないし、ラピュターなどと言う国の実際の記録も、全く無いわ」
一応、ガリバー旅行記には出てくるのだが、実際の記録ではないので、リツコは無視している。
「ほんっっとに、物分かりが悪いですね。
確かに、地球上には存在しませんよ・・・今はですが。
ですがね、遙か昔・・・だいたい1万2000年ぐらい前でしょうか?・・・には、今の太平洋のちょうど真ん中あたりに、にオーストラリア大陸ぐらいの島が浮いていたんですよ」
いくら何でも、ここまで来ると嘘っぽい。
これならまだ、“ミステリーサークルは地球外生命体が残したメッセージだ!”と言われた方が信じやすい。
太陽系の外から来たというのなら、まだ人類未到の空間であるだけに、完全にその存在を否定することは出来ないだろうから。
だが、これは地球上での話だ。
「・・・リツコ・・・。
精神科医、呼びましょう。
これ以上はつき合ってられないわ」
「そうね。
普通ならこんなこと、真面目に言える訳がないわ。
そんなの、本の中でしか有り得ないわ。
・・・!!・・・もしかして・・・さっきの、『本の中』って・・・!」
「・・・ご想像にお任せしますよ。
とにかく、さっき言ったことは、全て事実なんです。
出来るからといっても、あの娘はそんなことはしないと思いますけど・・・。
まあ、せいぜい頑張ってください。
ちなみに〈西神要塞〉は、ほぼ正八面体ですが、明日来る〈東神要塞〉は正二十面体、〈北神要塞〉は正六面体、〈南神要塞〉は正十二面体です。
参考までに・・・。
それでは、私には私なりに準備があるので失礼しますよ。
・・・さぁって、ずいぶん動かしてないから、かなり調整しなきゃならないなぁ・・・」
紫漣は、そんなことを呟きながら部屋から出ていった。
「疲れたわね・・・」
リツコは、ため息をついて目を閉じる。
「いきなり壁に叩きつけられて、荒唐無稽な話を聞かされて・・・。
あの子を呼び出して話をするなんて、もう二度とごめんだわ・・・」
少なくとも、"魔法"という、よく知られてはいるが認められてはいない、未知の力が存在することはいずれ認めざるを得なくなるだろう。
その時こそが、これまで自分たちの信じてきた"科学"が根底から覆される時なのだ。
そう考えると、これまで科学に尽くしてきた自分の人生が、無意味な物に思えてくる。
「同感ね・・・」
ミサトも、言って床に突っ伏したが、科学に携わるものではないミサトには、そのリツコの言葉の表面だけしか理解できなかった。
デスクをはさんだ向かい側には、バイザーを着けた男が座っていた。
世界広しと言えども、ゼーレのトップであるキール・ローレンツと直接会うことの出来る者はほとんどいない。
それは、白衣の男がゼーレの幹部並みの力を持っており、かつ直接会っても安全だとキールに判断させるほどの人物だと言うことだ。
「先ほど、機動要塞及び第3魔導兵器の制御に成功しました。
これが基本性能のデータです」
そう言って白衣の男が、デスクに数枚の紙を置いた。
バイザーの男・・・キール・ローレンツは、一通り紙に書かれた内容をみてから、感嘆の言葉を吐き出す。
「・・・大した物だ。
現代文明に迫るどころか、それを遙かに凌駕している。
我々人類よりも前に、これほどの文明が地球上に存在したとはな・・・。
我々ゼーレとしては、このような物の存在を認める訳にはいかん。
しかし素晴らしいのは、資料がほとんど無かったにも関わらず、このような物の制御方法を解明した、ポール・マーカンド博士・・・君だ」
ポール・マーカンドと呼ばれた白衣の男は、全く表情を変えずにキールを一瞥した。
「私の生涯目標は、超古代文明とでも言うべき"ラピュター"の謎の解明と、それを超えることです。
そもそも、“魔導兵器”と呼ばれ、ラピュターの物と思われている遺産は世界各地に点在するというのに、その中心地がどこにあったのかさえ、全く分かっていません。
逆に言うなら、遺産があまりに偏り無く世界各地に分布しているため、中心がどこにあったのかが分からないのです。
その全てが謎に包まれているのです。
まるで、かつて海底に沈んでしまったという伝説の大陸、ムーのように・・・」
紫蓮:はぁ〜、終わった。
紫漣:まったくです。
紫蓮:うわぁっ!・・・あぁ、びっくりした。
なんだ、紫漣か。
・・・って、コラコラ。
お前さんは、後書きに来ちゃいかんだろうが。
紫漣:まぁ、そう堅いことを言わずに。
後書きを手伝ってあげるんですから、良いじゃないですか。
紫蓮:・・・別に良いけどね。
さて、気を取り直して。
紫漣:そうですね。
それじゃ、今回の話ですけど。
紫蓮:ふむふむ。
紫漣:・・・良いんですか?今までさんざん秘密にして引っ張ってきたことを、こんなに早いうちにばらしちゃって。
紫蓮:いいの、いいの・・・たぶん。
ホントは、紫漣の家族とか、ラピュターのことなんかは、もっと後の方で出てくる予定だったんだけど・・・。
紫漣:ここで出してしまった、と・・・。
ところで今、思ったんですけど、紫漣と紫蓮って、妙に似てますね。
字も、読みも。
紫蓮:実はこれ、元ネタはオリジナルの小説だったんだ。
その頃は、"紫漣"が僕が考えてたペンネームだったんだな。
でも、アニメとエヴァ小説を見て、そのストーリーと、魔法なんかはスレイヤーズを使ってみたら、そっちの方がよかった。(T_T;
紫漣:まぁ、あなたの実力じゃ、所詮はそんなものでしょうね。
紫蓮:・・・・・・・・・・・・。
まぁいい。
ところが、書いてる途中に、メインキャラクターの名前を、『しれん』にしたくなってしまった。
そこで、さんざん悩んだあげく"紫漣"はお前さんに譲って、よく似た"紫蓮"を使うことにした、と・・・まぁ、こんなことがあったわけだ。
紫漣:なるほど。
つまり、新しい名前を考えるのがめんどくさかった、と。
実にあなたらしい理由ですね。
ところで、次回ですが。
紫蓮:・・・・・・・・・・・・。
さて、それでは笑○ここらでお開き、また来週(^^;のお楽しみ。
紫漣:ごまかしましたね・・・。
無理矢理終わらせるつもりですか?
まさか、次回から先のこと、何にも考えてないとか?
紫蓮:(ぎくっ)
・・・・・・・・・・・・。(汗)
紫漣:ふぅ・・・。
ここまで愚かな作者を持つと、苦労しますね。
それでは皆様、このような話につき合っていただき、まことにありがとうございました。
紫蓮:(ぼそっと)お前さんも、"このような話"を構成する者の1人なんだぞ・・・。
紫漣:《火炎球(ファイヤーボール)》!
どがぁぁん!
紫蓮:ぐはぁっ・・・
群咲 紫蓮さんの『無限のむこうは』第伍話、公開です。
フムフム、そういう設定でしたか。
読み手の方はこれである程度分かったかな?
ネルフの女性二人は全くのワカランチンですが(^^;
ここまで理解力無いと、
不自然でもありますが?!
次来る敵に対して、
少しは学習したところを見せてくれるでしょうか、ミサトさん達は〜
さあ、訪問者の皆さん。
あなたの感想メールをしれんさんの元へ!