闇。
人に原初の恐怖を彷彿させるかの如き深き闇。
その果てしなき闇の中央にただ一つ存在する巨大なテーブル。
そして席に着いているのは六つの人影。
一つが声を発する。
「冬月君、惣流アスカもう少しうまく扱えんのかね。」
他の影がそれに続く。
「さよう、彼女が破壊した設備の修理代及び建物の補修費……国が一つ傾くよ。」
テーブルの端、議長席に着いたバイザーを付けた老人が発言する。
「いずれにせよ計画スケジュールの遅延は認められん。助成金については一考しよう。」
冷や汗をかきつつその言葉に答える白髪の老人。
「判っております。全ては委員会の指導要綱のままに。」
そう、この場に集いしこの老人達こそ人類の歴史を影から操る人類補完委員会……もとい、日本の若者の育英に尽力する教育委員会の面々である。
しかしホントにこんな奴等だったら嫌だな。
「だが……我々としてもこのまま黙って見過ごす訳にはいかん。」
「さよう。国の税金で賄われている以上、私立助成金も有限なのだよ。」
「今のように無駄遣いされていては砂漠に水を注ぎ込むようなものだ。」
バイザーを付けた老人が続ける。
「そこでだ、こちらから送り込むエージェントについてだが……」
その時、闇の中から現れる一つの影。
「その役目、私にお任せ願えないでしょうか。」
「君か……」
しばし沈黙する老人。
「良かろう。だが、失敗は許さん。判っているな。」
「お任せ下さい。かつて不良校を三つ制圧したこの時田シロウが惣流・アスカ・ラングレイを見事更生させて差し上げましょう。くっくっくっくっく……」
「無敵のアスカちゃま6」
最終教師 時田シロウ
「ねぇねぇ聞いた?」
「え、何を?」
「また出たんだって。」
「え〜、またぁ?!」
「昨日はC組の山岸さんが被害にあったそうよ。」
「あ、聞いた聞いた。」
「帰る途中に妙な男が話しかけてきたと思ったら、突然コートをガバッて開いてその下は……」
「キャー」
「可哀想に山岸さん、変なものを見せられたショックで寝込んでいるんだって。」
「山岸さんって純情そうだもんねぇ。」
「ねぇねぇ、前から思ってたんだけどさぁ、露出狂って言えば……」
ガラガラガラガラ
「おう、おはようさん。」
そこへ入ってきたのは永遠のジャージニアン鈴原トウジ。
ザワッ
「な、なんや?」
いきなり教室中の人間に注目されたことに動揺しつつも取りあえず自分の席に着く。
「鈴原!」
バンッ
いきなりトウジの前に来て机を叩いたのは我らが主人公惣流・アスカ・ラングレイ。アイドル顔負けの容姿の中にジャイアンな性格とゴジラのパワーを秘めた無敵の美少女である。
「誰の性格がジャイアンよ!!」
JETTTT!!!!!
「僕が言ったんじゃないってば〜〜〜」
キラリン☆
取りあえずシンジをお星様にしておいてからトウジの方に振り向くアスカ。
「い、いくらなんでも八つ当たりでジェットアッパーはないんちゃうか。」
いきなり目の前で繰り広げられた惨劇に怯えつつもアスカに問いかけるトウジ。
「いいのよ、シンジだから!」
シンジだからってあんた。
「そんなことよりアンタ……とうとうやったわね?」
「な、何をやねん。」
「今更しらばっくれても無駄よ。ちゃんとわかってるんだから。」
「だから何をやねん。」
フッとため息をつくといつものポーズでトウジをビシッと指さすアスカ。
「最近出没しているという露出狂の正体、アンタでしょ!」
「なっ?! 」
「身に覚えがないとは言わせないわよ!」
「ちょっと待てぇ! 何でそれがワシになるんや?!」
「フン、決まってるでしょ。EVA小説において露出狂と言えば鈴原トウジ、鈴原トウジと言えば露出狂! 現にアンタ、あちこちの小説で脱いでるでしょうが!」
「余所でやってる事まで責任取れっかい!」
「いいからおとなしく白状しなさい! アンタが『自分がやりました』って言えば万事解決、皆安心して幸せに生活できるのよ。 」
「ワシが不幸になるやろうが!」
そんな言い合いを無視して、目を涙でウルウルさせながらトウジを見つめて問いかける委員長洞木ヒカリ。
「鈴原……どうしてそんなことを……」
「だ・か・ら、ワシやないて言うとるやろが!」
「私だけは誰がなんと言おうと鈴原を信じていたのに、私の気持ちを裏切ったのね! まさかホントに他人に見せて喜んでいる変態だったなんて!」
「あんなぁ……」
「せめて、せめて一言言ってくれれば……私がいくらでも喜んで見てあげたのに!」
こらこら。
「イインチョ……アカンのや、それやとアカンのや。見たい言うとる奴になんぼ見せても満足でけへんのや。純情可憐でいかにも楚々とした女の子が泣き叫ぶ、そうゆう姿を見んことには快感が湧いてこんのや……って、何言わせるんじゃあ!!!」
何時いかなる状況でもボケる……関西系の人間、特に大阪人にしばしば見られる特徴である。
「…ねぇねぇ今の聞いた…」
「…やっぱり鈴原君が犯人だったのよ…」
「…前から怪しいと思っていたけど…」
「…そういえばいつもジャージ来てるし…」
「…体育会系にはすぐ脱ぐ奴が多いって言うしね…」
そして己のボケで自滅するのも同様にしばしば見られる特徴である。
「どちくしょ〜!!!」
泣きながら教室を飛び出していくトウジ。どうやら心に傷を負ったようだ。
そのまま夕日に向かって走り去っていく……だから今は朝だと言うとろうが。
そう、今は朝なのだ。
エヴァフFFフリークの読者の方々はご存じであろう。学園エヴァに於いてHR直前という時間帯は非常に危険であるという事を。
そして今、酔いどれホルスタイン十勝3.5牛乳頭の中身がとろけるスライスチーズという酪農協同組合推薦の三十路女が駆る走るために作られた猛獣が爆音を上げて校門を走り出ようとしたトウジに襲いかかる!
キキキキキィィィィ!!!………ぺしっ
「あ。」
……やっちゃったんですね。
診断:鈴原トウジ 全治一週間
さて、時は過ぎて夕方。
例によってシンジを引き連れて帰宅途中の惣流・アスカ・ラングレイ嬢。
「ほらシンジ、何ノタノタしてんのよ。さっさと歩きなさいよ。」
「……一体誰のせいで……」
「何か言った!?」
「いえ、何でもありません。」
と、そこへ……
「惣流・アスカ・ラングレイだな?」
「誰よ、馴れ馴れしいわね…………って、へっ、変質者?! 」
そう、そこに現れたのはサングラスで顔を隠し、黒いマキシマムコートを纏った一人の男。
「誰が変質者だっ! 」
「その格好、変質者以外の何だって言うのよ!」
「私は変質者などではないっ! よろしい、ちょっと予定より早いが我が正体、見せてあげましょう!」
そう言うが早いか男はコートの前面に手をかけガバッと開こうとする。
「嫌あぁぁぁ!!!」
如何に凶暴無敵のアスカちゃんといえどもそこは純情可憐(?)な14歳の乙女、こういう攻撃には弱いのだ。
ボカッ
「ぐふっ?! 」
「この変質者! アスカに何をする気だ!」
そこへ割って入って男を殴り飛ばしたシンジくん。
そうそう、やっぱり男の子は女の子を守らないとね。
例えその女の子が凶暴無比でいつもストレス解消に殴られていようと、小さい頃からほとんど奴隷同然にこき使われていようと、何かと理由を付けてはパフェやケーキを奢らされていようと、それこそ毎日のように死んだ方がマシだと言うぐらいの目に遭わされていようと……
「……やっぱり見捨てようかな……」
「シンジ〜〜(泣)」
「じょ、冗談だってば。大丈夫、ちゃんと僕がアスカを守るからね。」
「ええぃ、人を放っておいてイチャイチャするんじゃない!」
あ、復活した。
「よくもやってくれたな。我が正体を見て後悔するなよ!」
そう言って再びコートの前に手をかけた男の腕を誰かが両側からガシッと掴む。
「む、誰だ私の邪魔をするのは!」
邪魔をしたのは……二人の制服姿のお巡りさん。
「貴様だな、最近この辺に出没している変質者というのは。」
「現行犯で逮捕する!」
「ち、違う、私は教師だ!」
「何、教師のくせにこんな事をしているとは見下げた奴だな。」
「言い訳は署の方で聞く。さ、ついてこいっ!」
「私は無実だ〜〜〜!」
かくして悪は滅びた。
さて、残された二人はというと。
「ふぇ〜ん。」
「大丈夫、アスカ?」
「シンジ〜、怖かった〜。」
「もう心配ないって。お巡りさんが変質者を連れていってくれたから。」
「……ホントに?」
潤んだ目で上目遣いにシンジを見つめるアスカ。
『か、かわいい……』
普段強気であればあるほど、弱げな姿を見せられると男はグッと来るモノである。そんな雰囲気に押し流されて後で後悔する男性は多い。あなたも気をつけるように。
それはともかく。
涙ぐんでいるアスカのアスカの頭をそっと抱き寄せるシンジ。
「大丈夫だよ。僕がついているから。」
「……うん。」
なんかえらい積極的だな。外道シンジになった影響だろうか。
そしてシンジはアスカの顔を少し上に向け涙の跡をそっと拭ってやる。
そのまま見つめ合う二人。
「アスカ……」
アスカがそっと目を閉じ、そして二人の顔がゆっくりと近づいていく。
だが、そんなラブラブを許すほどこの世界は甘くはないのだ。
ダダダダダダ
「えっ?」
「ちくしょう、俺なんか『本編で一番影の薄いレギュラー』とか言われて何処のFFでも出番は無いわ名前は覚えてもらえないわマヤちゃんにもレイちゃんにも相手にされないわとロクな扱い受けてないのにお前ばっかりいつもいつも美味しい役やりやがって! このこのこの!」
「シンジくん、君に恨みはないが君をぼてくりまわせば僕にも出番が貰えることになってるんだっ! すまないが僕と葛城さんとの愛のために犠牲になってくれっ! えいえいえい!」
ゲシゲシボカドカグシャガシャゴシャグチャ
ダダダダダダ
謎の暴漢二人組が走り去った後には生ゴミ状態と化したシンジと茫然自失状態で座り込んだままのアスカが残されていた。
ヒュ〜〜
「……何なのよ今のは……」
さて、翌日。
今日は比較的早めに登校している妙に機嫌の良いアスカと逆に疲れた表情のシンジ。
と、その二人の前に現れたサングラスで顔を隠し黒いマキシマムコートを纏った一人の男。
「ああっ、昨日の変質者っ! 」
「まだ懲りずにアスカを狙っているのか、この変質者!」
「だから私は変質者などではない!」
ざわめき出す周囲の人々。
「…ねぇねぇ変質者だって…」
「…朝っぱらからやあねえ…」
「…見てよあの格好…」
「…見るからに変質者って感じ…」
「…ホントどっからどう見ても変質者ね…」
「違うと言うとろうがぁ!!!」
説得力がないって。
「よろしい、ならば今度こそ見せてあげましょう我が正体を!」
そう言ってサングラスを外しコートを脱ぎ捨てる。
そこに現れたのはジャージを着た、ただの中年のおっさんであった!
……おい。
「ただのおっさんではない! これを見なさい!」
そう言って振り向くおっさん。そのジャージの背中に燦然と輝くNERV学園の文字。
「……だからそれがどうしたのよ。」
「ふっ、これを見ても判りませんか。よろしい、教えてあげましょう。私の名は時田シロウ。本日よりこのNERV学園に惣流・アスカ・ラングレイを更正させる使命を帯びて派遣された教師なのです!」
そんなのが判るわけないだろうが。
「何でアタシが更生されなきゃなんないのよ! 大体アンタ警察に捕まったんじゃ無かったの?」
「ふっ、そういえば昨日はよくもやってくれましたね。おかげで逃げ出すのに苦労しましたよ。」
良い子は真似をしないように……って、そもそも良い子は警察に捕まったりしないか。
「その借りもお返ししないといけませんね。先にグラウンドで待っていますよ、覚悟しておきなさい。くっくっくっくっく。」
勝手な事を言って去っていく時田シロウ。
「……え、え〜と、どうするの、アスカ?」
展開についていけなかったシンジがようやく言葉を発する。
無言で携帯電話を取り出すアスカ。
「あ、もしもし、警察ですか。あの、昨日目撃した変質者の事なんですが……はい、今NERV学園のグランドに……はい、よろしくお願いします。」
そして電話を切る。
「これで良しと。さ、早く教室行くわよ。」
「……鬼だね、アスカ……」
かくして再び悪は滅びた。
3日後の朝、登校時間。
「待っていましたよ、惣流・アスカ・ラングレイ!」
再びアスカとシンジの前に現れた時田シロウ。
「アンタまだ生きてたの?! 」
そりゃ警察に捕まっただけなんだから死んではおらんだろう。
「ふっ、一度ならず二度も同じ手を使うとはよくもやってくれましたね。言っておきますが今度はちゃんと冬月理事長に見受け引受人になって貰って釈放されましたから、同じ手は効きませんよ。」
冬月コウゾウ、このお話でもやっぱり苦労人である。
「では今日の放課後グランドで待っていますよ。今度こそ覚悟しておきなさい。」
「アンタバカァ? 『ハイそうですか』ってアタシがわざわざ行くとでも思ってんの?」
「ふっ、これを見てもそう言っていられますかな。連れてこい!」
時田シロウの背後、縄で縛られて黒服達に引きずられてきたのは……
「ううっ、せっかく久々の出番だってのにこんな扱い……」
相田ケンスケ!
「……それがどうかしたの?」
ヒュ〜〜〜〜
「つ、強がりは止しなさい。こいつがどうなっても構わないと言うのですか?! 」
「別に構わないけど。」
ヒュ〜ルル〜〜〜〜
「か、仮にもレギュラーなんじゃないんですか?!! 」
「良いのよ、メガネなら代わりはいるんだから。」
ヒュルルルル〜〜〜〜
「……俺の存在意義って一体……」
一人黄昏るケンスケ。
「あ、アスカ、いくらなんでもそれじゃあケンスケが……」
「シンジ、良いことを教えてあげるわ。お笑い系のEVA小説においてはね、“メガネは使い捨てるためにいる”のよ。」
「そ、そうなんだ。」
「納得しないでくれ〜!」
思わず涙を流す相田ケンスケ。
「ご、ごめんケンスケ。アスカ、やっぱり助けてあげようよ」。
さすがはシンジ。やっぱりお人好しの善人である。
「いくらケンスケがミリタリーオタクで普段迷彩服なんか着て一人で戦争ごっこやってる様な奴で、可愛い子を見ると所構わず写真を取ったりこっそり後をつけたり挙げ句の果てに隠し撮りまでするようなストーカーまがいの少女の敵で、レギュラーのはずなのに一回しか出番なくて居ても居なくても変わらないキャラでも、やっぱり見捨てるのは可哀想だよ。『一寸の虫にも五分の魂』って言うじゃないか。」
おい。
「ううっ、俺って、俺って……」
滝のように涙を流すケンスケ。
「ちっ、ことわざを使われてはしょうがないわね。相田、シンジに免じて助けてあげるからアタシとシンジに日本海溝よりも深く感謝しなさい! その万分の一でもアタシ達に恩を返すために、ちゃんと後で牛馬のように働くのよ!」
「ううううっ、どっちにしても地獄……」
あまりにも哀れな彼の扱いに貰い泣きする黒服達。
「と、とにかく放課後グランドで待っていますからね!」
こうして時田シロウ&黒服部隊&ケンスケは去っていった。
「……俺の幸せって一体何処に有るんだろうな……」
数時間後。
惣流家、アスカの部屋に侵入する黒服の一団があった。
「No.19、30はそちら側、No.25は私と一緒にこちら側を重点的に探せ。」
「はっ。」
読者の皆さんは覚えておられるだろうか。彼らこそ「アスカちゃま3」で登場した謎の黒服部隊、理事長直属のNERV学園諜報部の面々である。
TV版本編では名前のなかった彼らだが、やっぱりこの話でも名前はないのだ(笑)。
そんな彼らがこんな所で何をしているのかというと……
「No.4、こんな物が。」
「No.19、何か見つかったのか。」
「はっ、ピンクのフリルです。」
「誰が下着をあされと言った!」
何をしているのかというと……
「おい、これ見ろよ。」
「これ80のCはあるな。」
「最近の中学生って発育良いよなぁ。」
「だから下着をあさるなと言うとろうが!!」
一体何をしとるんだ、お前ら。
「とにかく、日記でもアルバムでも良いから何か情報を得られる物を探せ!」
「はっ。」
そう、彼らは時田シロウの命を受けアスカを調べているのだ。
別に変質者の集団とか、そういうわけではない……
「この薄紫のレースのって履いたら透けるんじゃ…」
「いい加減にせんか!!!」
……はずなのだが。
と、その時突然アスカの部屋のドアが開いた。
「何っ、今この家は留守のはずだぞ?!」
そこに現れたのは……
「なんだ、ペンギンじゃないか。脅かしやがって。」
そう、お留守番のペンペンであった。
「さ、良い子だからちょっとあっちに行ってな。」
そういってペンペンに近づくNo.30。
彼等は知らない。目の前にいるこのペンギンこそが地上最強生物であるということを。
ドガガガガガ
どさっ
一瞬にして生ゴミと化すNo.30。
「なっ?」
温泉ペンギンの原種たるイワトビペンギン、彼等はペンギンで最も攻撃本能が強いいわばペンギン界の戦闘民族であり、己のテリトリーに侵入した者を決して許しはしないのだ(結構実話)。
そしてそれを更に強化した温泉ペンギン、そう、ペンペンこそはペンギン界のスーパーサ○ヤ人とも言える存在なのだ。
動揺する黒服達を見回してニヤリと嘴をゆがめるペンペン。
そして、血の宴が始まった。(ってそういう話じゃないだろおい)
時田シロウは焦っていた。
惣流家に三度送り込んだ黒服部隊、そのいずれもが消息を絶っていたのだ。
彼とて不良校を三つも制圧した男、時田シロウ。戦いに於いて彼のJAが後れをとるとは全く思っていない。
だが、彼に与えられた使命は“惣流アスカ”の更生。普通に勝ったところであの超美麗頭脳明晰天上天下唯我独尊性格性悪根性ひん曲がり娘(ああっしまった後半つい本音が)のアスカのことである、更に反発して復讐に燃えるは必至。
アスカを完膚なきまでに打ちのめし更生させる為にはあと一つ、あと一つなにか決定打が必要なのだ。
が、しかし。
「一体何があるというのですか、あの家には……」
送り込んだメンバー、その悉くがペンペンによって処分されていた。
おそるべし地上最強生物。
「……どうするべきか……」
悩む時田。
と、その時彼の所にやってきた黒服の一人。
「時田先生、例の少年が持っていた写真なんですが。」
「どれ……」
大して気にも留めずに受け取る時田。
だが。
「……くっくっく、これ、これですよ。見ていなさい惣流・アスカ・ラングレイ。あなたに受けた屈辱、倍にして返して差し上げますからね。ふははははは!」
そして放課後、それは決戦の時。
グランドのメインポールには吊り下げられたケンスケの姿があった。
「たぶんこのまま出番が終わるんだろうな……ま、今更どうでも良いけどな。」
遠い目をして呟くケンスケ。
どこか悟ってしまった彼を余所に、下界では惣流・アスカ・ラングレイ VS 時田シロウの戦いを見ようと教師や生徒達一同がギャラリーとしてグランドに集合している。
しかし誰もケンスケを助けようとしないところがこのお話での彼の立場を物語っているな。
さて。
グランドで対峙するアスカと時田シロウ。時田の横にはかなり大きな物体がシートを被せられて置いてある。
「ねぇアスカ、ホントに大丈夫?」
入念に体をほぐすアスカに心配そうに問いかけるシンジ。
「バッカねぇ。アタシがJAなんてポンコツに負けるわけないでしょ。あんなのザコよ、ザコ。」
確かにTV版でもエヴァ小説でもJAは大抵良いところ無しの木偶の坊なのだが。
しかし彼女は気づいていない。エヴァ小説に於いてはアスカも充分へっぽこなのだ!
木偶の坊 VS へっぽこ。
究極の戦いが今始まる。
「いでよ、JA!」
「ま゛。」
そしてシーツをはねのけて身長3mはある巨大な人型機械が立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 一体それのどこがジェットアローンなのよ?!」
古代エジプトの仮面を被っているようなその頭、一体なんの意味があるのか判らないがわざわざ人に似せた顔、筋肉質の人間を思わせる逞しい体……バランス極悪なビヤダル体型のジェットアローンと似ても似つかぬその姿は、まごうことなきジ○イアント○ボであった!
……いいのか、おい。
そもそも読者の方々はジ○イアント○ボを知っているのだろうか。
「くっくっく、同じ遠隔操作、エネルギー源は原子力、そしてなんと言っても頭文字がJA! これだけ揃えば何も問題ないでしょう!」
そういう問題なのか?
「行け、JA!」
「ま゛。」
思い切りファジーな命令にも文句一つ言わず突っ込むJA。
それを迎え撃つアスカ。
ガコォォン!
「な?!!」
「クックック、この私の最高傑作たるJA、その程度の打撃ではビクともしませんよ。」
アメリカンバッファローの脳天を一撃で粉砕して脳髄を飛び散らせるというアスカのハンマーパンチの直撃を受けながら微動だにしないJA。
「叩け、JA!」
「ま゛。」
ブンッ!
「くっ!」
ガシッ!
とっさに受け止めるアスカ。そのまま押しつ押されつの力比べの状態に入る。
グググググ……
と、不意に押す力を後ろに逃し、JAがバランスを崩したところを腕を掴んで一本背負いの体勢に入るアスカ。
「どすこ〜い!」
ブ〜ン……ドッガァン!!!
校舎の壁に叩きつけられるJA。
「ああああ……私の学校が……」
嘆く冬月理事長を余所に粉塵の中から立ち上がるJA。そこに高速で襲いかかる巨大な物体。
アスカの必殺“そこらに転がっていたグラウンド慣らし用のローラー”投げ!
ドガシャア!……ずず〜ん
ローラーの直撃を受け校舎にめり込んだ挙げ句、砕け落ちる校舎の瓦礫に埋もれるJA。
「ああああ……私の学校が……私の学校が……」
髪を真っ白にして(って元々真っ白か)ぶつぶつと呟き続ける冬月理事長。
そんな哀れな彼の姿を全く無視してアスカは自信に満ちた姿で時田シロウをビシッと指さす。
「さ、次はアンタの番よ。覚悟は出来てる?!」
「くっくっく、その程度で勝ったつもりですか。立て、JA!」
「ま゛!」
ドーン
その声と共に瓦礫をぶちまけてJAが立ち上がる!
「ふ〜ん、まぁ確かに丈夫さだけは大したモンね。でもそんな木偶の坊でアタシに勝とうなんて100年早いわよ!」
だがそのアスカの言葉にも余裕を崩さない時田シロウ。
「くっくっく、良いことを教えて上げましょう。このJAに搭載した最新型のAIは敵の行動を学習・分析し、戦えば戦うほど強くなっていくのですよ。既にあなたの弱点も分析済みです。さあそろそろ真の力を見せて上げなさい、JA!」
「ま゛。」 ガッシャン
その命令にJAは背中からオプションパーツの鍬を取り出す。
「く、鍬?!」
そう、鍬である。
「そ、そんなモンで何をしようってのよ?!」
鍬と言えば勿論耕す為に使うもの。
「いけ、JA!」
「ま゛。」
ザクザクザクザクザックザク
猛スピードでグラウンドを耕しながらアスカに突っ込んでいくJA。
とはいえ所詮は耕しながらの突進、突っ込む度にアスカにかわされまくる。
「はん、やっぱり木偶の坊じゃない!」
だが。
がっくん
「え?」
何度目かのJAの突進をかわした時、着地のバランスが崩れるアスカ。
ふと気がつくと……既にグラウンド一面が野良畑と化していた。
「な?!」
「くっくっくっくっく、これでも今までみたいに避けられますかな。ゆけ、JA!」
「ま゛。」
ドドドドド
「くっ!」
とっさに受け止めようとするのだが……
どっかん
「きゃあ〜〜!」
吹っ飛ばされるアスカ。
「クックック、その小さな体でJAを物ともしない力を発揮するパワーウェイトレシオ、そして空力学的に飛行に適していない形状の物質を高速で狙ったところに命中させるそのテクニックは大した物ですが、それこそがあなたの弱点! 体重の軽さ故足場がしっかりしていなくてはその自慢のパワーもテクニックもロクに発揮できないでしょう! その点このJAは自重約1トン、この程度の足場の悪さなど物ともしないのです! ど〜です、最早あなたに勝ち目はありませんよ、ふははははは!」
時田シロウ、悪の科学者の例に漏れずやはり説明好きである。
某所でも台詞が長いとか言われているだろうが。
それはともかく。
むくっ
「はんっ、ちょっと人をぶっ飛ばしたぐらいでなに勝ち誇ってんのよっ! そんなのでアタシが負けを認めるとでも思ってんの?!」
ダメージを物ともせず、すっくと凛々しく華麗にポーズを取るアスカ。
でも顔は泥だらけ。
「ふっふっふ、あなたがおとなしく負けを認める人物でないことは判っていますよ。これからが本番です。やれっ、JA!」
その命令にJAはグラウンドの端へ進む。
「?」
そして、そこに置かれていた巨大なボードを高々と差し上げる。
そこには相田ケンスケが持っていた秘蔵の写真、余りに凄絶な内容にケンスケすら公開することを諦め封印した写真が映し出されていた!
「く、食ってる……」
呟く男子生徒。
「う……」
思わず吐き気をもよおす女子生徒。
その巨大なボードに映された映像は……
ハンバーグにチョコレートクリームをつけて食べているアスカの姿であった!
先祖代々筋金入りの味覚音痴……そう、惣流家の呪われし運命はキョウコだけではなくその娘のアスカにも受け継がれていたのだ!!
え、納得いかない? ならば更なる証明をしよう。
TV版第九話、ユニゾン特訓の回を覚えているだろうか。
あの時アスカはミサトの家に転がり込んだ際シンジを追い出そうとしていた。ドイツでミサトのことを良く知っていたにも関わらず、だ。その後の話を見ている限りアスカが料理を出来るとは思えない。にもかかわらずミサトと二人暮らしをしようとしていた。
すなわち、アスカはミサトの料理を恐れていないのだ!
実際、シンジやリツコさんやペンペンがミサトカレーを食べて不味いと言っていたシーンはあるがアスカのそういうシーンは見た覚えがない。
そう、アスカがシンジの料理に文句ばかりつけているのも実は照れ隠しなどではなくホントに不味いと思っていたのだ!
……って、こんな事を力説してど〜する。
閑話休題。
怯えて逃げ出す少年。恐怖のあまり気を失う少女。神に祈る用務員に念仏を唱え出す教師。
グラウンドは阿鼻叫喚の地獄と化していた。(おい)
その光景はアスカの繊細な心に大きなダメージを与えていた。
だがそれでもアスカは耐えられた。
そう、アスカは信じていたのだ。あの二人ならきっと判ってくれると。
彼女の無二の親友洞木ヒカリ、そして彼女が愛する幼なじみの碇シンジなら、きっと……
だがしかし。
振り返ったアスカの目に映ったもの、それは……まるで化け物を見るかのような表情でアスカを見つめる二人の姿だった!
そう、“料理の鉄人”の異名を取るヒカリとシンジにとって、この料理という存在を冒涜するかのようなアスカの姿は耐えられなかったのだ!
「シ、シンジ……」
「嘘だよね、こんなの。そうさ、これは夢、夢なんだ。」
ぶつぶつ呟いて現実逃避に走るシンジ。
「ヒ、ヒカリ……」
「そんな、そんな……アスカがミサト先生と同じだったなんて!」
そしてアスカのガラスのように繊細な心が砕け散った。
「嫌ああぁぁぁぁぁぁ!!!」
居たたまれずに涙を流して去っていくアスカ。
「くっくっくっくっく………勝った、勝ったぞ、私は惣流アスカに勝ったのだ! ふ、ふは、ふはははははははは………」
アスカが去った後、そこにはただ時田シロウの高笑いだけが響いていたのだった……。
(つづく……のか?)
某アルビノの美少女。
「うるうる、またあたしの出番無かった……」
(本当につづく)
[後書き]
え〜、とっても長らくお待たせしました。
『無敵のアスカちゃま6』 時田シロウ編 その1 お届けしました………ああっ、石を投げないでっ!
いや、その……なんでこんなお話になったのでせう(汗)。
8割方は一月前に出来てたんですけど最後の2割がスランプで進まなくて……挙げ句の果てにこんなお話に……ううっ、アスカな方々のお怒りが怖い(泣) 剃刀メールは勘弁してね。
ああ、しかし「5」からまた3ヶ月……つ、次こそわっ!
ではまたお会いしましょう。 B.CATでした。
【 TOP 】 / 【 めぞん 】 / [B.CAT]の部屋に戻る