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部屋中がコンピュータで覆われている。

複雑な配線が地面を走り、足の踏み場はわずかになっている。

そんな部屋内に4人の女性がにいた。



現在、『MAGI』のシステムメンテナンス中である。

4人の女性は、その巧みな技術を駆使してキーを叩く。

普通は膨大な時間を要するこの作業。

しかし4人の見事な連携プレーによって、わずか3日足らずで終わりを迎えようとしていた。




   カタカタカタ・・・カタカタカカタ・・・・・・カタカタ・・・




キーを打つ音だけが部屋に響く。



しかし、キーを叩くその音が1つ止まった。

ユイがホッと一息つく。

そして柔らかく微笑みながら立ち上がった。



「2番のサブルーチンが完成しました」

「3番も完成しました」



ユイの言葉に続いてキョウコが立ち上がる。

ユイとキョウコは、お互いを労うように微笑み合った。



「先輩、1番も終わります。残りはメインの部分のみです」

「こっちもあと少しよ」



リツコとマヤは、最後の追い込みを急ピッチで進める。

そして、マヤが振り返った。



「出来ました!!」

「了解。・・・・・・これでいいはず」

「全て完成ですね、先輩」

「じゃあ、さっそく再起動させるわ。手動でしますから、ユイさんとキョウコさんも手伝って下さい」

「「分かりました」」



再び持ち場に戻った4人は、お互い声を掛け合って起動のタイミングを合わせていく。

手動で『MAGI』を起動させるだけに失敗は許されない。



『MAGIシステム、再起動を確認。通常モードに移行します』



やがて『MAGI』は、再び活動を開始した。




セラフの舞う瞬間 −外伝−




第3話 「英断!!NERV一大決心」


Written by Zenon





   西暦2017年 初夏   第3新東京市NERV本部 食堂




「新たな・・・対抗策ですか?」

「何なんです?それは」



食事を取りながら、マヤとキョウコがリツコの言葉を聞き返した。



「あの3人の成功を待っているだけではいけないと思うのよ」

「少しでもチルドレンの手助けになるようなモノを手にするんですね」

「そうです」



リツコは、コーヒーを飲みながらユイに答えた。



少しの沈黙が流れてから、マヤが口を開いた。



「先輩。相手が分からなくては有効な対抗策にならないのではないでしょうか?」

「確かにそうね。でも、相手が分かってからでは遅いのよ」

「使徒は待ってはくれませんからね」



マヤは、リツコとキョウコの意見に改めて頷いた。



「それを私たち技術部で開発するんですか?」

「そうです。ユイさんとキョウコさんも意見を考えておいて下さい。マヤもお願いね。」

「分かりました」





   マンション コンフォート17



ユイとキョウコは夕飯を作っている。



今このマンションに住んでいるのは、ユイとキョウコとペンペンだけである。

NERVからは他に部屋が用意されている。

しかし2人の子供とミサトを待つためにドイツ組が旅立って以来、ここに住んでいた。



人の住んでいない場所は、すぐに荒れてしまう。

たとえ掃除をしていても同じ事だった。



ユイとキョウコは、この場所を『人の気配』がない場所にはしたくなかったのだ。

2人の母の思いやりの現れだったのだろうか?



そんな理由から、この部屋は今も人の気配を失っていなかった。




   トントントントントントン・・・




「何か思いつきました?ユイさん」

「さっきの対抗策の事?」

「えぇ」

「・・・そうね。難しいと思うわ」



ユイは料理を作る手を少し止める。



「次に来る使徒の事は何も分からないし、そうかと言って中途半端なモノも作れない」

「おまけに、いつ来るのかもハッキリとはしない・・・ですか」

「そんなところ。とりあえず、明日までゆっくり考えてみましょう」



ユイは少し微笑んでキョウコに答えた。

キョウコもつられて笑顔になる。



「そうですね」

「クゥーアァー」



そんな話の途中に、ペンペンが不満顔で割って入った。



「あら・・・ごめんなさい、ペンペン。話し込んじゃって」

「すぐにご飯作るから待っててね」



それを聞いて安心顔なったペンペンは、トタトタと食卓に座った。




   プルルルル・・・プルルルル・・・プルルルル・・・




ユイとキョウコがそんなペンペンを笑っていると電話が鳴った。

ユイがエプロンで手を拭きながら電話を取った。



「もしもし?・・・あら!!・・・・・・ふふ、分かったわ。ちょっと待っててね」



ユイは、笑いながら受話器を持ってキョウコに渡した。

キョウコはとりあえず受話器を持つが、分からないという顔をする。



「キョウコさん。アスカちゃんからよ」

「アスカちゃんから?・・・あ・・・今日は電話の日だったのね。時間の感覚がズレちゃってたわ」



キョウコは、少しすまなそうな顔で電話に出る。

しかし会話が始まるとすぐに笑顔がこぼれ出た。



ユイは、そんなキョウコをじっと見ている。



『あの3人が有利になるモノを作らなくてはいけない。そして、みんなが笑っていられるためにも』



「・・・有利になるモノ・・・か」

「クゥ?」



テーブルに座ったユイは、ペンペンの頭を撫でながらそう呟いた。





   ・・・次の日



「・・・それで僕に協力してほしいということですか?」

「そうです」

「しかし、それでは貴女とキョウコさんに大きな負担になるのではないですか?」

「キョウコさんも私も了承済みです。これ以外に有効な手段はないと思います」

「・・・・・・」

カヲルはユイの顔をジッと見つめて話を聞いていた。

そのユイの真剣な表情を確かめるかのように静かに話を聞いている。



今まで何も意見を発せずに聞いていたゲンドウ。

ジッと前を見て黙っていたが、ユイを見た。

少し表情を曇らせながら言った。



「しかし、それはあまりに危険なのではないか?」

「ご心配なさらないで下さい。私は元々EVAのパイロット。危険は承知です」

「・・・・・・」

「それに、あの子たちだけを苦しい目に遭わせるのにはもう耐えられないんですよ」



ユイは俯き、目を閉じる。



「私はあの子たちを戦いを間近で見ていた者の1人です。使徒と戦うということがどれほど辛いことなのかよく分かっているつもりです」

「他に方法は・・・ない・・・か」

「えぇ。あの子たちの助けになるのなら、どんな事でも致しますわ」



ユイはゲンドウに優しく笑いかけた。

ゲンドウはややゆっくりながら、カヲルに振り返る。



「この計画は可能か?」

「大丈夫ですよ。危険は伴いますが、一番確実な計画だと思います」

「・・・そうか。・・・・・・ユイ、技術部への報告はどうする?」

「すでにキョウコさんが報告済みだと思います」



そう言って、ユイは少し悪戯っぽく笑った。

ゲンドウはそれを聞き、珍しく微笑む。



「お前はいつも変わらんな。・・・敵わん」

「いいえ。あなたが私を理解して下さるからですわ」

「・・・許可を出そう。責任者は渚第2副指令と赤城技術部代表。本計画は極秘だ」

「「分かりました」」



ユイとカヲルが声を揃えて答える。

ゲンドウはもう一度企画書に軽く目を通し、それをユイに返した。





ゲンドウからの許可が下りたことで、この計画は最優先された。

今までNERVが進めてきた計画の中でも極めて大きい計画だったのだ。



『何もないところから「EVA」を造る』



過去十数年間もの間、技術部が何度も挑み、そして失敗してきた計画。



ある組織が『形』だけを整えた事はあった。

しかしそれはただの殺戮兵器でしかなく、とても普通に使えるものでは無かった。

そして、NERVの持つ『EVA』に敗れている。



今回の計画は、そのようなモノを造るための計画ではなかった。

今ある『EVA』よりも、さらに信頼のおける『EVA』。



NERVの体制が新しくなっていなければ、結果はまた同じだったであろう。

しかし、今のNERVには渚カヲルがある。

カヲルの協力もあり、この計画は徐々に成功に近づいていった。





「大分出来てきましたね」

「そうね。テストもいよいよ佳境らしいわ」

「・・・嬉しいですね、ユイさん」



キョウコは製造中のEVAを見下ろしながら手すりにもたれ掛かった。

ユイもキョウコにつられて手すりにもたれ掛かる。



「あの子たちの手助けを出来ることでしょ?」

「そうです。今までは見てることしかできなかったけど、これからは支えてあげられるんですもの」

「そうね。・・・もう辛い目には遭わせたくないものね」



キョウコは涙ぐみ、顔を伏せる。



「私は・・・私は・・・母親らしいことはしてあげられてないから・・・こんな事でしかしてあげられないけど・・・嬉しいんです・・・」

「そんな事はないわ、キョウコさん。貴女の存在はアスカちゃんの心の支えになっているはずよ」

「・・・でも」

「アスカちゃんは貴女の存在を追いかけてEVAに乗って頑張って、そして今があるのよ」

「・・・・・・」

「母親として何もしていないのなら、アスカちゃんは貴女の存在を追いかけることもなかったと思うわ」

「・・・・・・」

「過去に何があったかまでは知らないけど、今、貴女はアスカちゃんの事を心から心配してる。それだけで十分なんじゃないかしら?」

「・・・うぅ」

「アスカちゃんは、キョウコさんの事を母親と感じているわ。それ以上でもそれ以下でもないのよ」



キョウコはユイの言葉を聞いて、声を殺して泣いた。



ユイは黙ってそっとその場を離れる。

そして少しキョウコを振り返った。



『アスカちゃんは素直ないい子に育ったわ。それは貴女の存在があったからなのよ、キョウコさん』



ユイは再び歩き出す。



『・・・シンジも私の存在を求めてくれたわ。私たちは知らない間に「母親」になっていたのよ・・・』



そのユイの頬にも、熱い涙が静かに伝った。





   ・・・そして、セラフ来襲



「ユイさん、キョウコさん。宜しくお願いしますよ。全てはあなた達にかかっています」



カヲルがケイジにやってきて大きな声で伝えた。

ユイとキョウコがその声に振り返る。



「えぇ!!大丈夫です。きっとあの子たちの代わりは勤めますわ。ねぇ、ユイさん」

「私たちは、この時のために用意してきたんですからね」



そしてお互いに笑い合い、ユニゾンで言った。



「「今度は助けてあげられる母親になります!!」」



セラフの舞う瞬間 −外伝−  第3話 「英断!!NERV一大決心」


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ver.-1.00 1998+01/05公開
ご意見・ご感想は zenon@mbox.kyoto-inet.or.jpまで!!


あとがき



どうも!!Zenonです!!(^^)〃

セラフの舞う瞬間 −外伝− 第3話 をお届け致します。



今回のテーマは「ユイさん&キョウコさんの技術部での活躍!!」・・・だったんですが、少しずれちゃいましたね。(^^;)

なんか書いてるうちに、どんどんテーマから外れていっちゃいました。(笑)

まぁ、結果オーライで許して下さい。(_ _)



さてお話の事ですが、ちょっち短いです。

今までで一番かな?

もっと長くするはずだったんですけど、何だか終わっちゃいました。(^^;)

自分では、たまにはこういうのもイイかなって思ってます。



そしてコメディーでもなく、「ようやく外伝らしい外伝を書いたなぁ〜」と感じております。(爆笑)

今までが凄すぎたんでしょうね。(^^;)

とにかくユイさんとキョウコさんの事を細かく書けたんでよかったと思ってます。(^^)



さて次回のお話は、またまたドイツに戻ります。

またラブコメディーでしょう。(笑)

気長にお待ち下さいね。



ではでは、また次回でお会いしましょう。





今回のお話のきっかけを下さった

上原さん!!

ありがとうございました。(_ _)



そして、いつもいつも暖かい&鋭いご感想をありがとうございます。(笑)

本当に感謝、感謝であります!!

お世話になりっぱなしですけど、またお世話して下さいね。(^^)



ではでは、ありがとうございました!!



 Zenonさんの『セラフの舞う瞬間』外伝第3話、公開です。
 

 

 母の愛〜

 親の愛〜
 

 アスカとシンジが居ない間。

 二人の”母”の愛が温かいですよね(^^)
 

 ちょっとした事、
 小さな事から、

 命を懸けたことまで・・
 

 母は強し!
  ですね。
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 新年一発目のZenonさんに感想メールを送りましょう!


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