第3新東京市の人口は、著しく減少していた。
先の2度にわたるセラフの集中攻撃によって街は激しく破壊され、もはや見る影も無い。
街は、使徒を迎え撃つための手段を持たない『普通の街』になってしまっていたのだ。
そんな街に人が寄りつくはずもなく、街に残っているのはNERVの関係者くらいになっていた。
そればかりかNERV内でも辞めていく者が出始めていた。
人々は明らかにこの街を見捨てだしていた。
・・・それでも敵は遣ってくる。
対抗できるのは、エヴァンゲリオン弐号機パイロットの惣流・アスカ・ラングレー。
しかし、そんなアスカもかつてない程の深い悲しみの中にただ1人で立たされていた。
綾波レイの死・・・・・・
碇シンジが重体・・・・・・
今まで共に戦ってきた仲間が、自分以外は2人とも倒れてしまった。
アスカは全てから逃げたかった。
しかし、それをしなかったのは最後のプライドなのか。
今のアスカは完全に目的を見失っていたのだ。
「・・・・・・」
「約束したでしょ?・・・あの戦いが終わったらデートするって・・・・・・約束したじゃない」
「・・・・・・」
「惚けたってムダよ。・・・アタシは覚えてるんだから」
「・・・・・・」
「・・・・・・返事くらい・・・しなさいよ・・・バカ・・・」
Written by Zenon
ジオフロントの地下。
セントラルドグマの少し上の階層。
明かりのない暗闇の中で苦しみ藻掻く声が聞こえる。
人には決して悟られまいと、この部屋へとやってきては発作的な激痛に耐える。
手足が震えと強烈な吐き気と頭痛。
意識は朦朧とし、ふと気を許すとそのまま気を失いそうになる。
今自分が何をしているのかさえも分からなくなる。
「うううっ・・・・・・・・・うぁ・・・・・・あぁ・・・・・・」
普段からは絶対に考えられないような苦痛に歪めた顔。
その顔色は蒼白というよりは土色に近く、死人のようにさえ見える。
「・・・こ・・・のくらい・・・で・・・・・・ううっ!!」
顔を屈め、身体の中のモノが全て溢れ出るかのように激しく嘔吐する。
溢れ出たそれは、何よりも赤く染まっていた。
その殆どが血の固まり。
もはや彼の身体は、その強大な力を封じることが出来ないほど衰弱しつくしている。
度重なる戦いと、人ではない力の解放で痛みきっていた。
「・・・シンジ・・・君・・・早く意識を・・・取り戻して・・・もう・・・これ以上、僕は・・・」
カヲルは想像を絶する苦痛に顔を歪め、冷たい壁にもたれ掛かって完全に気を失った。
しかし、それでもここに人が入ってくることはない・・・・・・
心労のためか、その顔は少し痩せて見えた。
「アスカ、少しは休んだらどう?」
「・・・・・・」
ミサトの提案に、アスカは何も言わずただ首を横に振った。
10日前からほとんどずっとこんな調子だった。
同じ事を何度となく繰り返し言っているのだが、アスカは決して首を縦には振らない。
どうすることも出来ないミサトはキョウコに相談したのだが、キョウコは少し微笑んで言うだけだった。
「アスカは、私たちが思っているよりずっと大人で、ずっと強いんです・・・」
あのセラフとの戦い以来、シンジの意識はずっと戻ってはいない。
命だけは辛うじて取り留めた。
だが、意識の戻る時期や後遺症などについては分からないという事だった。
医者から言わせればこうだ・・・
まず命が助かったのが信じられない。
心停止後、約3時間からの奇跡の蘇生だった。
すぐに意識が戻らないのは当たり前。
このまま『植物人間』になったとしても、それはむしろ良い方だ。
今現在、心臓が動いている事さえ奇跡なのだから・・・
1週間で意識が戻らなければ、もう諦めるべきだろう。
これを聞いたアスカは、その場でこの医者に殴り倒した。
アスカには、この現実は辛すぎた。
アスカ自身もボロボロになっていたのだ。
しかし、だからと言って希望は全く失ってはいなかった。
信じたのだ。
シンジを・・・
アスカにとっては、シンジだけが頼りだった。
周りには信頼できる仲間が大勢いる。
教えを請う事のできる先輩たちもいる。
心に安らぎを与えてくれる大切な人たちもいる。
しかし、唯一アスカが『頼れた人』は、碇シンジなのだ。
どんな辛い時もシンジが近くに必ず居た。
そしてその何気ない言葉でアスカの辛い気持ちを癒してくれた。
シンジとケンカをして、お互いの意見をぶつかり合わせる事で辛い気持ちも一気に吹き飛んだ。
そして、アスカに優しく微笑んでくれていた。
たとえ、それがどんな時でも・・・
『アスカ』という人間にとって、それが全てだった。
―――だから今まで生きてこられた。
アスカは、シンジの顔をずっと見つめている。
この部屋。
ここに居る間はずっと。
・・・ミサトは、そんなアスカを見るのが辛かった。
ミサトは、二人の出会いから今までを一番近くで見てきたのだ。
2人のお互いを想う気持ちも十分に分かっている。
ただ、悲しかった。
自分はいつでも2人を助けてあげられる存在だと思っていたのだ。
しかし、現実は・・・
アスカを安心させることも、微笑ませることも出来ない。
そんな悲しい存在。
アスカとシンジに何もしてあげられない苛立ちと、そんな状況に戸惑いさえ覚える自分が憎かった。
『・・・あの頃は、本当は幸せだったのかもしれない・・・』
ミサトはそっと下を向き、目を閉じて思い出す。
シンジがここにやってきた時の事。
アスカがここにやってきた時の事。
アスカとシンジと自分との、ごく普通の日常の会話。
ビールを飲み、微笑みながら聞いていた2人のお馴染みのケンカ。
戦いの中で全てを守る為、必死に戦うアスカとシンジ。
そして、幸せそうに微笑み抱き合う2人の姿を・・・
あの瞬間が全てであった。
今思えば、あの瞬間は何もかもが上手くいっていたのだ。
いったい何がそれを狂わせたのだろうか?
何もかもが上手くいっていた瞬間を・・・
2人の幸せな瞬間を・・・
―――自分たちだ。
ミサトはグッと拳を握り締めた。
目の奥が熱くなる。
そして情けなくて、肩を震わせた。
自分たちが狂わせた。
あの2人だけではない。
レイも・・・この戦いに巻き込まれた人々も。
自分たちがこの戦いに引き込まなければ、彼らは幸せに暮らしていたのだ。
何も心配などすることも無く、日々を笑って過ごせていたのだ。
ミサトは、アスカの悲しい横顔を見つめた。
・・・まるで、あの日の自分を見つめ返すように。
そして、そこには幸せな瞬間が戻って欲しいとだけを願う『心閉ざした自分』がいた・・・
ただ・・・白い。
アスカはまっすぐに走っている。
頬に流れるモノがあった。
それでも何も構わずにただ走っていた。
目の前に・・・
それでもかなりの距離があるのだろうか?
とても巨大な黄金の光の柱がある。
そして、羽ばたく6枚の輝く翼。
アスカは叫んでいた。
その光に向かって手を伸ばし、心を締め付けられながらも。
「行かないで!!」
発している言葉は、その言葉のみ。
・・・アスカの頭の中にある記憶が蘇る。
正確ではない、ぼやけたビジョンが見える。
少し前までは、何も知らずに平和に暮らしていた。
彼と2人で幸せな時間を共有していたのだ。
古き神々の元で、生まれた時からずっと一緒。
何も心配はなかった。
しかし、何が狂わせたのだろうか?
全てと思われた平和は、黒き鉄槌によって一瞬にして打ち砕かれる。
関係は無かった。
自分たちには何も非はなかった。
しかし、神々は光の稲妻を振りかざし、全てを巻き込んでしまった・・・
彼に抱かれていた瞬間はもう戻らない。
幸せな時間は失われてしまった。
「行かないで!!」
走るたびに、何も履いていない足の裏に固い岩が突き刺さる。
しかし、アスカはそんな痛みは何一つ感じない。
今は走らなければいけないのだ。
走らなければ・・・・・・
アスカは、己の心に赤き槍を突き刺されるのを感じた。
その途端に凄まじい勢いで涙が溢れ出した。
アスカはついに立ち止まってしまい、膝を地につけてうずくまった。
「・・・い・・・いやあぁぁーーーーーー!!!」
絶叫。
しかしその声は、彼にはもう二度と届かなかない。
アスカは目を開け、勢いよく体を起き上げた。
しばらく自分の状況が掴めない。
しかし、はっとなって横のベッドを見る。
そこには、未だ意識の戻っていない状態のシンジがいた。
アスカはベッドの中のシンジの手を探り、そして強く握った。
・・・その手は震えていた。
「シンジ・・・」
アスカの頬を涙が伝った。
それは、まるで心の痛みを流すように激しく流れ出る。
アスカはそのままシンジの手に額を付けながら泣いた。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・それから、どれくらい泣いたのだろうか?
アスカには分からなかった。
窓の外に目をやると少し白くなり、明るくなり始めていた。
少しだが、鳥の鳴き声も聞こえる。
朝が近かった。
「駄目ね。・・・こんな事じゃ。今はアタシがしっかりしなくちゃいけないのにね」
アスカはそう言ってシンジの顔を見た。
・・・酷く衰弱している。
「・・・シンジ?」
アスカは最初自分の見間違えかと思って、自分の腕で涙を拭った。
そして、もう一度はっきりとシンジの表情を見る。
そのシンジの顔は、明らかに危険だった。
もはや生きている気配さえも薄れてきていたのだ。
「シ・・・シンジィッ!!」
アスカは自分の座っていた椅子を倒しながら立ち上がり、シンジの顔に自分の顔を近づける。
そしてシンジの頬を手で触ってみるが、いつもの温かさが全く感じられない。
アスカは、ガクガクと震え始めた。
それでもアスカは、冷静に緊急を知らせるようと壁にあるボタンへと手を伸ばす。
しかし、あまりに指が震えるためになかなかまともに押せない。
そのままボタンを押そうとしていると、その手を背後からいきなり掴まれる。
アスカは涙で濡れた顔で後ろを見た。
暗がりのせいでよく見えないが、そこに立っているのは・・・
「カヲル・・・・・・」
「・・・無駄だよ。誰を呼んでもどうにもならない」
「放して・・・」
「駄目だ」
「放してっ!!」
パンッ!!
その音は、狭い病室に響き渡る。
カヲルは左手でアスカの手を掴んだまま、右手でアスカの頬を撲った。
アスカは一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、すぐにキッとカヲルを睨み付ける。
そして、カヲルの頬に向けて平手打ちを放った。
しかし、その手もカヲルに簡単に取られてしまう。
カヲルはそのまま微動だにしない。
「大人しくしてよく聞くんだ。僕はシンジ君を助けたいんだよ」
「くっ・・・」
「キミが本気で暴れれば、それこそシンジ君は助からない」
「!?・・・アンタ・・・シンジを助けられるの?」
「・・・・・・」
その沈黙を肯定と理解したアスカは、すぐに抵抗を止めた。
そして、カヲルから離れる。
カヲルはシンジの隣に立ってシンジの顔を見つめ、先ほどのアスカと同じように頬に手を当てた。
一瞬でカヲルの肩が緊張するのが、後ろで見ていたアスカにもはっきりと分かる。
アスカは再び流れ出そうになる涙を堪えた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・アスカ。キミは・・・・・・」
カヲルは、途中で言葉を止めた。
何か言いづらい事でもあるのか、アスカはこのような姿のカヲルを初めて目の当たりにしていた。
そして、そんなカヲルの態度に声を出す。
「・・・言って」
「・・・・・・キミは、『シンジ君』と『この世界』のどちらが大切だい?」
「シンジよ」
アスカは何の躊躇もなく、即座に答える。
その声には自分の言葉を信じて疑わない絶対の自信と、美しく純粋な想いが込められていた。
カヲルは、そのあまりの潔い答えにしばらく動きを止める。
そして、そっと呟くように言った。
「・・・ふふ・・・ありがとう。きっとそう言ってくれると思った」
カヲルはアスカの方に向き直る。
そして、アスカに短く伝えた。
「シンジ君を助ける。キミに手伝って欲しい」
「アタシは・・・どうすればいいの?」
「シンジ君を助けた後、僕を初号機まで連れて行ってほしい」
「アンタを初号機まで?」
アスカは思わず聞き返してしまう。
自分はもっとシンジを助ける事に、直接的に関わると思っていたからだ。
しかし、聞き返してから無駄な事を言ってしまったと感じた。
『アタシが直接関わっても、シンジを助けてあげられる様な事は何一つしてあげられない・・・』
こんな大切な時に、好きな人のために自分が何も出来ないという悲しさが沸き上がった。
しかしどんなに足掻こうが、それは叶わない願いである。
自分にはそんな事が出来る力も無ければ、知識も無い。
アスカは、全てを知っているかのようなカヲルが羨ましかった。
「分かったわ。アンタを初号機のケイジまで連れて行けばいいのね」
「頼むよ」
そう言ったカヲルは、アスカに背を向けてシンジのベッドに向かった。
「キミには、外で待っていてほしい」
「・・・・・・」
アスカはそれを聞いて、シンジを見つめた。
祈るようにシンジを見つめて、アスカはゆっくりと瞼を閉じる。
そして、もう何も言わずにカヲルの指示に従った。
「全てが終ったら・・・呼ぶよ」
「・・・分かったわ」
アスカは返事をしながら、ジッ・・・とシンジの顔を心配そうに見つめた。
そして、しばらくして静かに病室を出て行く。
閉められた病室のドアの音だけが、静まり返った辺りに響いた。
カヲルはシンジを見て、少し安心したように微笑みかけた。
「・・・君にはあんなに素敵な女性が居てくれるんだ。簡単には終われないね、シンジ君」
しかし、その微笑みも少し辛そうに俯く事で見えなくなる。
自分の腕を抱え込み、真剣な声で囁く。
自分に対しても、それを言い聞かせるように・・・
「僕が終わらせない・・・よ」
そこを2つの巨大な影が高速で移動している。
その形は『変わった』とか『奇妙』というより、もっと不思議な感じがする。
そして、それは不気味なほどに白い。
こんなに高速で移動していなければ、雲に見えてしまうかも知れない。
『セラフ』や『使徒』の存在自体がそうなのかもしれない・・・
小さな関わりを持ってしまった事が全ての始まりだった。
何故、この人類の大地へとやってくるのか?
目的が何なのかも分からない。
その全ては、忘れ去られた記憶の中に・・・
目を開けると、そこは見慣れない天井が広がっている。
ゆっくりと思い返し、状況を把握しようとする。
はっとなり、近くにあった時計を見る。
・・・眠りについてから、すでに3時間近くが経過している。
疲れが自分の予想以上に溜まっていたのだろう。
深く眠ってしまっていた。
その途端に心配になる。
「シンジ・・・シンジは?」
アスカは飛び起きると、部屋を出てシンジの病室へと走った。
シンジの事以外が考えられない。
そのまま、ひび割れた白い廊下を走る。
左側の窓からは、眩しい朝日が顔を覗かせていた。
―――しかし、アスカはそこで見てしまった。
「あぁ・・・・・・なんで・・・ここに・・・」
荒れた大地に、大きなシルエットが間近に見られた。
『セラフ』が立っていたのだ。
「つい・・・さっきの事だよ」
「カヲル!!」
アスカが振り返ると、カヲルが血の気の失せた顔で立っていた。
カヲルはゆっくりとアスカに近づいた。
その足元は、今にも倒れるのではないかというほど弱々しい。
「シンジは!!・・・シンジはどうなったの!?」
「大丈夫だよ」
「本当!!」
「あぁ。・・・今は動けないけど・・・大丈夫だよ」
「ア・・・アンタは」
アスカは、倒れそうなカヲルを支える。
近づいてはじめて分かったのだが、カヲルの口元と服には激しい吐血の痕跡があった。
アスカはそれを見て、思わず言葉を失う。
「僕も大丈夫だよ。身体は・・・もうボロボロだけどね」
「アンタ・・・」
「それよりもう時間がないんだ。彼らが気づく前に、ここを離れなければいけない」
「・・・彼ら?」
「君はシンジ君を連れて逃げるんだ」
「えっ!?」
アスカは、カヲルの言葉を理解できない。
しかし、カヲルはさらに言葉を続ける。
「『NERV』は占拠されたんだ」
「!?」
「でも彼らの目的は、『僕』とシンジ君なんだよ」
カヲルは真剣な表情でアスカに訴えた。
「僕はどうとでもなる。でも、シンジ君は別だ。君が彼を守らなければいけない」
「・・・でも、どうやって」
「弐号機を使って遠くへ・・・シンジ君の意識が戻るまで、とにかく遠くへ」
「でも、NERVのみんなはどうなるの!!」
「彼らは、僕が残ればそれで満足する。・・・僕が絶対に手出しはさせない」
「・・・・・・」
「裏で待ってる。早く・・・」
アスカは答えを返さずに、そのままシンジの病室へと走りだした。
もう、迷いはない。
自分の信じた道を進むしかないのだ。
『今の状況を・・・全て理解してるのはカヲルだけ。カヲルを信じたアタシのやるべきことは・・・』
アスカはシンジの病室のドアを開け、中へと入った。
その中央のベッドに、シンジは眠っている。
シンジの顔を覗き込む。
その顔は、数時間前の状態が嘘のように回復していた。
「シンジ・・・・・・良かった・・・」
アスカは溢れそうになる涙を堪え、シンジの顔を抱えるようにそっと抱きついた。
しかし、シンジからの反応はまだない。
意識はまだ戻っていない。
しかし、アスカはそのままシンジの存在を確かめるように抱きしめ続けた。
「シンジ・・・アタシがシンジを守ってあげる。絶対に守ってみせるわ」
「・・・・・・」
「だから、安心して。早く良くなって・・・」
優しく微笑みながらシンジにそう囁くと、アスカは涙を拭って立ち上がった。
そして、シンジの身体を肩で支えて立たせる。
決して楽ではなかったが、歩けないほどではない。
アスカはシンジを連れて、カヲルの元へと向かった。
NERV司令室の中。
物音一つしないNERV内で、ここだけから声が聞こえた。
「他の者たちは・・・無事なのか・・・」
ゲンドウが長髪の男に片手で持ち上げられている。
そして、その前にはまだ若い少年が立っていた。
少年は、どことなくカヲルに似ている。
顔立ちなどが似ているわけではない。
どこか不思議な雰囲気が似ているのだろう。
「我らは『神』だ」
しかし、その声は姿とは裏腹に低く重々しい。
表情ひとつ変えない。
「奴はどこだ」
「・・・・・・」
ドカッ!!!
長髪の男は、無理にゲンドウを壁に叩き付ける。
ゲンドウは声もなく、そのまま倒れた。
ゲンドウが動かない事を確かめると、長髪の男は少年に向き直る。
「ミカエル」
「・・・動いた」
そう言うとほぼ同時に、建物が一度大きく揺れる。
『ミカエル』と呼ばれた少年は静かに立ち上がる。
そして、司令室を出た・・・
「分かってる!!でも・・・うぅっ!!」
アスカは必死にシンジを抱え、エントリープラグにまで上がろうとしていた。
しかし、やはり意識のないシンジを抱いて上がるには無理がありすぎる。
かと言って、自分の身体を支える事で精一杯のカヲルが手伝えるはずもない。
さらに僅かに残る力で弐号機を移動させた今、全く動けないほどになってしまっていた。
「アスカ君・・・じ、時間が無い・・・・・・弐号機の・・・掌に・・・ぐっ!!」
「カヲルッ!?」
カヲルは、信じられないほどの大量の血を吐いた。
みるみるうちに、カヲルの足元が真っ赤に染まっていく。
しかし、その目は未だにアスカへ訴えていた。
カヲルの訴えを感じ取ったアスカは、弐号機の掌の横に立つ。
そして、シンジを弐号機の掌へとゆっくりと寝かせた。
「ごめんね、シンジ。少しの間だけ我慢して・・・」
アスカはシンジにそう伝えると、エントリープラグに駆け上る。
そして、そのままの格好でエントリープラグに入った。
一瞬の間をおいて、『主』を得た弐号機が再起動をはじめる。
『カヲル!!すぐにみんなを助けに戻ってくるわ!!』
カヲルはその言葉を聞いて、ゆっくりと微笑んだ。
そのアスカの言うべきことをすべて理解しているかのように・・・
しかし、すぐにその表情が凍りつく。
「だ・・・めだ・・・・・・・早く逃げ・・・アスカ・・・」
ガ・・・ガアァァ!!
「何!?どうしたのっ!!・・・どういうこと!?」
アスカは弐号機を動かそうとする。
だが、弐号機は全くアスカの反応には答えようとしなかった。
それでも弐号機からの感覚は、アスカに確実に伝わってきている。
そして・・・
「ウソ・・・・・・冗談は止めて!!・・・い、いやあぁぁっぁ!!!!」
アスカは半狂乱になって叫んだ。
アスカの意識を全く無視し、弐号機の腕に力が入り始めた。
その腕には、シンジが握られているのだ。
「だめぇぇっ!!!いやっ!!!止めてぇぇーーーー!!!!」
アスカは、その自分の腕へと伝わってくる感触に強烈な吐き気を覚える。
もはや叫び声も出ない。
アスカの頭の中は、全ての事が混乱していた。
―――その一瞬が、永遠の瞬間のように感じられる。
そして、アスカは見た。
目の前に立っている。
不気味な少年( -ミカエル- )がこちらを見ていた。
その顔には、全く表情がない。
無言で立ち尽くし、ただこちらを見ていた。
徐々に、掌の中の感触が無くなってくる。
・・・もはや、アスカは全てに耐えられなかった。
『失うわけにはいかない・・・・・・彼だけは・・・』
その言葉を最後に、アスカの目の前が白く染まっていく。
その中で見た最後の光景。
不気味な少年が眩く光り・・・そして・・・
弐号機の掌から倒れるシンジの身体。
そしてそれを庇い、消えるように砕け散るカヲルの姿。
アスカの掌の感覚が完全に消えようとしていた・・・・・・
お久しぶりです。(_ _)
Zenonです。
・・・後ろは振り返りません。(笑)
んー、特に自分の感想やお伝えしたい事はありません。(^^;)
とにかく、皆さんがお好きなように読んで頂ければ、それで十分だと思います。
こういう分かりにくく、難解な話になってきておりますので・・・
皆さんがどういう感想を持たれるのか?
想像もつきません。(苦笑)
えっと、今回で予告どおりに第2部が終了致しました。
次回からは『最終章』の第3部です。
どんなお話になるのか・・・・・・?
ではでは、また次回でお会いしましょ〜