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      王子の空と旅と街  プロローグ  

 

 

春の温かく柔らかな日差しがバルコニーに差し込む。光を弾き白く輝くバルコニーにはたくさんの草花の鉢植えが並べられている。
スイートピーやアネモネなど春の主役である暖色の花々と共に、わすれな草やスミレが可愛らしい紫色の花をつけている。
かと思えば、リボングラスやヒメコバンソウなど花をつけないものもいる。どうやら彼らの主人はあまりそう言ったことに対して細か
い趣味を持たない人間のようである。誰も見向きもしないような雑多な植物も植えられていた。
ただ無造作な中にも手入れは行き届いているのだろう、彼らはみな生き生きとこの春の日を楽しんでいた。

ちょうど誰かが如雨露を持ってバルコニーに入ってきた。彼がこの草花の面倒を見ているのであろうか、きっとそうであろう。
鼻歌混じりに水やりを始めた。

14、 5才であろうか、背の丈は年にしてはまあ普通であろうがちょっと幼い顔立ちをしている。少し長めに切りそろえられた髪の毛、
その瞳は黒、いや深い茶であろうか優しい光をたたえていた。美しい若草色の短衣とズボンを着ている。
その胸には、これは何であろうか、純銀のペンダントが輝いていた。

彼はひとしきり咲き誇る草花達に水をあげると、手すりに手を置いて幸せそうに伸びをしながら呟いた。

「 うーん、暖かいなあ 」
彼がこの国の王子、碇シンジである。その胸に輝くのは王家のエンブレムを意匠化したものであった。
 

朝の日課である水やりを終えた彼はしばらくこのバルコニーでひなたぼっこをすることにした。
手摺りから世界を望む、いつもの風景、眼下には活気ある町並みが見える、商人達は朝が早い。視線を少し上げれば、草原、森。
そして遙か遠くを望めばわずかに青く輝くものが映る。あれが海ですよ、彼のじいやはそう言っていた。いつか見てみたい。

今度はバルコニーに置いてある椅子に座って水玉を光らせる草花達を眺める。この草花は彼の数少ない趣味の一つであった。
どんなに忙しくても( 実際そんなに忙しかったことはないのだが )、一日のうち一度はゆっくりと彼らを眺める。
毎日見ているのに、彼らはいつも違う顔を見せる。それが面白いのだ。昨日咲いていなかったあの蕾が今日は見事に花を咲かせている。
それを見ることは彼にとって最高の喜びであり、贅沢であった。

と、そうこうするうちに、温かい日差しのせいであろうか、彼は何だか眠くなってきた。
春眠暁を覚えず、である。煩いじいやもまだ来ないだろう・・・少し寝ようか・・・な・・・・・
 

「 王子っ・・ 王子っ・・・ 」
自分を呼ぶ声が遠くから聞こえる、でももう駄目・・・・

ドンドンドン

「 王子っ、王子ったらっ!  」
あまりにもけたたましい扉を叩く音と声に彼は二度寝を断念した。『 せっかく気持ちよかったのに・・・ 』

「 開いているよ、どうぞ 」
外で待っているであろう召使いに声をかけてやる。

「 失礼します 」
丁寧に部屋のドアを開けて、侍女が入ってきた。
「 あら? どちらですかシンジ様 」
部屋を見回しても目的の王子がいないのに気付いた彼女は、ちょっと拍子抜けした声をあげている。

「 こっち、バルコニーだよ、マヤさん 」
もう一度声をかけてやった。
「 そちらでしたか、一度起きてはいらっしゃったのですね 」
無邪気な笑顔を浮かべてこちらにやってくる彼女は伊吹マヤさん、一応僕付きの侍女さん、凄く気の利くし、優しい人なんだけど
この人も結構口うるさいんだよね、この前僕が城を抜け出して町で遊んで帰ってきた時なんて、じいやと一緒になって3時間は文句を
言われたし。

「 うん、起きてはいたんだけどね、あんまり気持ちいいから眠くなっちゃって・・・ 」
「 ふふっ、そうでしたか、王子らしいですわね、でもちゃんとお勉強もしなくてはいけませんよ、少年老いやすく学なり難しと言いま
  して、若いうちの勉強はなかなか・・・・ 」
「 そっ、それより用は何? こんな朝早くから 」
話が面白くない方に行きそうだったので僕は慌ててマヤさんの言葉を遮った。いいだろ、誰だって勉強は嫌いだよ。

「 あ、そうでしたわね、大事なことを忘れることでしたわ 」
手を口の所に持っていって、うっかりしてましたわと呟く。こんな仕草も凄い可愛らしいんだよね。彼女とは結構年が離れてるけど
彼女の童顔とその少女のような性格が自分とほとんど年が変わらないような錯覚を抱かせる。まあ人に言わせれば童顔なのは僕も一緒
らしいけど。

「 で、どうしたの? 」
「 王様がシンジ様をお呼びですわ、今すぐに大広間に、とのことです 」
「 うっ・・・・父さんが? 」
「 ええ 」
僕は父さんだけはどうしても苦手だ、何が苦手って、あの髭・・・じゃなかった、うん・・・まあ会ってみれば分かると思うけど、
あの性格が・・・・ 

「 お急ぎ下さいね、何か大事なお話があるようでしたから 」
「 分かった、すぐ行くよ・・・ 」
 苦手だからと言って会わないわけにも行かない、しぶしぶ僕は了解した。

「 それでは失礼・・・・あっ・・・シンジ様・・・・? 」

「 ん、何? 」
「 今日もお花が綺麗ですわよ・・・・では・・・ 」
「 あっ、ありがとう、マヤさん 」
 マヤさんは少し赤くなって小走りで出ていってしまった。何で赤くなってたのかは分からないけどほんとに可愛い。
僕の草花を誉めてくれるのはほんとにあの人だけだよ・・・・部屋の前で一礼して出ていくのを見送って・・・・ 
 

さて、じゃあ父さんに会いに行かなきゃな・・・・  

 

『 いきなり何のようだろ?父さん・・・・ 』 美しい舶来の絨毯の上を歩きながらいろいろと考える。
服装はさっきと同じ、そんなことにこだわるほどうちは大きな国ではないし、父さん―――つまりこの国の王がそう言ったことに全く
こだわらない人だから、結構いい加減な格好で会いに行ける。

 最近は悪戯もしてないはずだし、城を抜け出して遊びに行った訳でもない、きっと怒られるってことは無いと思うんだけど・・・  
そんなの会ってみればすぐ分かることなんだろうけど、悩まなくても良いことを真剣に悩むのが僕だってマヤさんが言ってた。
確かにそう思う、どうも無駄なことばっか考えてる、夏になったら何の花を植えようとか、二ヶ月も先の妹の誕生日プレゼントを何に
しようとか・・・あ、そうそう、僕には8才になる妹がいるんだ、これがまた可愛いんだよね、あの優しいところとか、明るいと
ころとか・・・あ、もちろん頭もいいんだよ、それに僕にもなついてるし・・・・

さして広くもない城のこと、そんなことを考えてるうちに父さんがいる大広間に着いてしまった。この大きな黒い扉を開けると父さん    
が待っているだろう。

深呼吸・・・・一回・・・・二回・・・・よしっ

「 シンジです、入ります 」
中にも十分聞こえるであろう大きさの声で・・・・あれ?返事が無いぞ?

「 シンジです、入りますよ 」
もう一度・・・・返事はない・・・あれ?ここにはいないのかな?でも大広間って言ってたし・・・マヤさんの顔を思い浮かべる、
あの人はどこか抜けているけど、そういったミスはしない人のはずだ。

扉のノブに手をかけて、ぐっと力を込めて扉を開けると、彼の目に飛び込んできたのは戯れ合う彼の父と妹だった。
 他には誰もいない広間の玉座で父が―――国王が嬉々として娘と戯れている。 

「 ねえ、パパ、私パンダ飼いたいな 」
「 うーん、パンダか、そうだなあ・・・・・・ 」
「 えー、ダメなのお・・・・ 」
「 ああっ、泣かないでレイちゃん、分かった、パンダだな、冬月に言って捕獲させよう、問題ないぞ 」 
「 ほんとっ?やったあ、ありがとパパ、大好きっ 」

「 あの、父さん・・・ 」
 二人から三十歩ほど離れたところから声をかける。 

「 おお、そうかそうか、レイちゃんは他に何か欲しいものがあるか? 」
「 うーん、他にはねえ・・・・ 」

「 父さんってば・・・ 」
 もう一度。

「 レイちゃんのためならなんでも・・・・ 」

「 父さんってばっ!!! 」
僕の我慢もいい加減ここまでだった、全く父さんときたら僕のレイを・・じゃなかった、自分で僕のことを呼んどいて無視するなんて
 信じらんないよ。このロリコン変態オヤジめ( 結局これが言いたい )。

実際には彼の父親は彼を無視していたのではなく、やはり自分の膝元でじゃれるレイの姿しか目に入っていなかったようだ。
それはまさに目に入れても痛くない可愛がりようである。しかしこの可愛がりようにはある理由があった、シンジもそれを知っている
だから彼もレイこの上なく可愛がるのかもしれない。この国王と王子の心を過去もっとも傷つけたある昔の出来事。

「 あっ、お兄ちゃんだ・・・・お兄ちゃーん 」
僕の姿を見ると父さんの所にいたレイが僕の方に走り寄ってきてくれた。うんうん可愛いぞレイ。

「 む、シンジか・・・・早かったな・・・・ 」
父さんは複雑な顔をしている。どうやら僕にレイを取られたのが悔しかったらしい、ザマミロ。
「 どうしたのお兄ちゃん? パパに何かご用なの? 」 まだ僕の腰のあたりまでしかない僕の妹、上目遣いがこれまた可愛い。

「 ああ、そうだった、なにか御用ですか父さん 」
 僕の足にしがみつくレイの頭を優しく撫でてやりながら、父さんの方に向き直る。

「 ああ、そうだったな・・・・・シンジ・・・・我が王家の家訓は知っているな、復唱してみろ・・・ 」
 そんなのが用なのかな?いやまさかね、そう思いながらもとりあえず父さんの言うことに従うことにした。

「 えっと・・・、 
 一つ、嘘をつかないこと 
 一つ、お互いに仲良くすること 
 一つ、他人に迷惑をかけないこと 
 一つ、お酒は二十歳を過ぎてから・・・です 」

 口にするといつも思う、あんまり意味のない家訓だなあ、と。

「 シンジ、お前はいくつ守っている? 」
 うっ、そう来たか。

「 ええっと、一つ・・・かな・・・ 」 
正直に答えた。守っていると自負できるのは二番目のやつ、四番目のやつはつい最近まで守っていたけど、この間のパーティーで父さ   
んに無理矢理飲まされたから・・・城を抜け出したりしている僕だから、一番目と三番目は自然守っていない。

「 そうか、まあ良い、それよりなシンジ 」
「 はい? 」
気のせいか今父さんの目が光ったような・・・・それも怪しく。

「 お前は来年成人式だな? 」 
「 はい・・・ 」
 僕は今14、来年になれば成人して正式に王位継承権が与えられる。別にまだ王様になんてなりたくないけどね。

「 そこでだ・・・実は我が王家の家訓はもう一つある 」
「 はあ、そうなんですか・・・・どういった家訓なんでしょうか? 」
そんなものがあるなんて初耳だなあ・・・

「 可愛い子には旅をさせろ 」
「 は? 」

「 よってお前は旅に出ろ 」
「 えっ? 」
 あまりのことに僕は間抜けな声を出してしまった。何?旅に出ろ?何言ってるの父さん?
 

「 ただ旅に出るわけではない、探すモノがあるのだ 」
 まだ声の出ない僕を置いて父さんはどんどん話を続ける。
 

しばらくたってようやく僕は口を開くことが出来た、しかしあまりにも混乱していたせいでちょっとずれたことを聞いてしまった。

「 な、何を探すんですか・・・? 」

 それを待っていたかのように父さんは高らかと宣言した。
 

「 世界に二つとない宝を探してこい 」   

 

 


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Ver.-1.00 1997-12/18公開
御意見、御感想等は こちら へ。

後書き

ども、えふです。このたびファンタジーものの連載を始めることにいたしました。何故って?それは面白そうだからです(^^)
 まだまだ世界観など大まかにしか決めてないのでこれから大変そうですが、とりあえず剣と魔法の世界にしようかなと思っております。
これからはまだお話に出て来ていないキャラが中心に話を進めていくことになると思います。
もし何かご要望がありましたら、メールで送って下さいね
( 例えばミサトを盗賊にして欲しいとか、リツコを(悪の)魔法使いに・・( 笑 )とかね )
 まだほとんど話を作っていないので、結構ご要望に応えられるかと・・・

 それではまたいつかお会いしましょう、では♪


 えふさんの『王子の空と旅と街』プロローグ、公開です。
 

 

 う、嘘臭いぞ(^^;
 ゲンドウの言った5つ目の家訓は・・

 これは、きっとあれだな。

 かわいい娘のレイが自分によりもなついている
 邪魔者のシンジを余所にやってしまおうという悪巧み(爆)

 そして、あわよくば
 「亡き者に」しようとしているんだろう(笑)
 

 親が自分の子供にそんなまねをするわけがない?

 いやいや、”あの”ゲンドウですから(^^;
 十分あり得るぞ〜
 

 

 ここはぜひ、シンジくんには頑張ってもらって、
 素晴らしい宝を見付けてもらいましょう!

 ゲンドウをぎゃふんと言わすのだ〜!
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 さっそく連載を始めたエフさんに感想メールを送りましょう!


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