これはアスカが第一中学校に転校して来てすぐのお話。
シンジがアスカに憧れていた頃のお話。
あなたならどうする?
それはいつも通り二人で登校したある朝。
学校に近づくにつれ、少し手を伸ばせば相手に触れるような距離で他愛もない話を楽しんでいた二人が徐々に離れ、
学校の前の坂につく頃には二、三歩前をアスカが、その後にシンジが付いていくといった形になる。
これはいつものこと。
シンジはそれがどうしてなのかアスカの意図が全く分からないので、毎朝不思議に、そして寂しく思っていたが、
歩を速めて彼女並ぶ勇気もなく、それすらも美しく映るアスカの影を見つめてただ付いていく。
アスカがたまに人に気付かれないよう、ちらっと振り向いていることも視線を落として歩いているシンジには気付いていなかった。
校門を抜ける頃になると、二人の登校する時間が始業間際であることも手伝って他に登校してくる生徒も多く、
二人ともそれぞれの友達と朝の挨拶を交わすことになり、自然二人の距離はまた少し離れることになる。
こうなることが分かっているからシンジは学校に来るのが少しイヤになってしまう。
家にいるときは二人きりだし、アスカも僕のことを少しは相手にしてくれるのに・・・
これが独占欲の芽生えというものであろうか。
「 おはよう、惣流さん 」 「 あっ、オハヨー 」
「 おっす、シンジ・・・・・惣流さんおっはよー 」 「 お、おはよう・・・ 」 「 オハヨッ 」
「 おはよう惣流さん 」 「 おはようっ 」
アスカが自分の前で他の男と明るく挨拶を交わしているのを見ると、こんな天気のいい朝なのに、気分がぐっと滅入ってくる。
学園のアイドルのアスカと自分では声をかけてきてくれる友達の数にも大きな開きがある。昨日の夕食のテーブルで、今日の朝食の
テーブルで「 うん、結構おいしいわよ、シンジ 」そう言ってくれたアスカが何だかずっと遠くに行ってしまうような、
否、もともとずっと遠くにいるのだと言うことを知覚する事で、シンジは寂寥と劣等感に追い込まれる。
遠くで高く輝いているアスカに憧れていたはずであったが、いつの間にかシンジの気持ちは憧れの域を超えてしまっていた。
だから今他の男と話しているアスカを見るのがこんなに苦しい。
『 はあっ、何で今日はこんなに気が滅入ってるんだろう 』
シンジが心の中で溜息と共に思う。
理由は幾つかあるのだろうが、一番大きいのはさっきまで二人で話していたときに、アスカが最後に口にした話題が
加持さんのネクタイのセンスの事だったからであろう、そしてそれを口にするアスカの嬉々とした表情。
心が痛むのを我慢しながらアスカの話を聞くのは拷問のようだった。
そんな話をして欲しくないことにアスカは気付いてはくれないのだろうか。
昇降口へと入る二人、アスカを取り巻いていた者もそれぞれ自分の下駄箱の方に散らばっていく。
いつもと同じようにシンジは黙ってアスカの少し後ろ付いていく。
少し前を歩いていたアスカが先に下駄箱を開けると、これもいつも通り綺麗な封筒に包まれたラブレターがごそっと落ちてくる。
アスカの瞳が一瞬何色かに濁り、その足が踏みおろされようとしたとき――――シンジはアスカの腕を掴んでいた。
「 止めてよ 」
何故か今アスカを止めていた。いつもだったらそんなこと出来ないのに。
「 ちょっ、ちょっと何よ、馬鹿シンジ 」
シンジがアスカを止めるなど思いもしないことだったので、アスカは怒ると言うよりむしろ驚いていた。
「 止めてよ・・・そんなの・・・・読むか読まないかはアスカの自由だけど、踏みつけるなんて・・・・酷いよ・・・ 」
シンジは自分の言っていることが少しおかしい、踏みつけることだって彼女の自由だと言うことは分かっていたが、
そう言わずに入られなかった。
確かに彼女から見れば自分達など子供で馬鹿かもしれないけど、中には本気で書いた手紙だってあるはずだ。
アスカが美人であることは誰でも認めることなのに、そのアスカが人の気持ちをを踏みにじるのを見るのは嫌だった。
自分の憧れの女の子にそんなことをして欲しくなかった。
シンジの泣きそうなほど真剣な表情に一瞬戸惑っていたアスカが何か言おうとしたとき、ちょうど始業のチャイムが鳴った。
他の生徒達が慌てて教室に向かって走り出す。
「 シンジっ、先行ってるわよっ 」
シンジの真剣な眼差しから逃げたかったのであろうか、そう言い残してアスカも走り去った。
シンジは落ちているラブレターを拾い上げ綺麗にそろえると、それを鞄に入れてゆっくりと教室に向かって歩き出した。
その顔には何故あんな事をしてしまったんだろうという後悔と、自分に対する驚きが浮かんでいた。
ただ、アスカにはあんな事をして欲しくなかったから。
学校が始まってからは二人とも普通に過ごした。
二人の関係もいつもとあまり変わることもなく、苛めるアスカと苛められるシンジにトウジの冷やかしが飛んだのもいつも通りだった。
しかし二人とも朝のことを気にしている証拠に、シンジが弁当をアスカに渡すときなどは妙にぎこちなくなっていた。
シンジの斜め後ろの席から彼を見つめるアスカの視線もいつもと少し違っていた。
あっという間に6時間の授業も終わり、放課後、試験のない二人は家に帰ることになった。
二人になったとたん、上手くしゃべれなくなる二人。
後ろで手を組んで小石を蹴りながらシンジの少し前を歩いていたアスカが、突然立ち止まって、そして振り返った。
「 シンジ、どうして朝あんな事言ったの? 」
シンジの事を人のことには干渉しない人間だと思っていたからなのか、それとも別の理由があるのかアスカはずっとそれが気になって
いたようだった。シンジもそのことを考えていたのか、「 あんなこと 」が何を指すのか理解したようだった。
しかしシンジはその質問には答えず、逆にアスカに尋ねていた。
「 アスカこそどうしてあんな事するの 」
「 えっ、どうしてって・・・ 」
何? 何言ってるのよコイツ・・・・
アスカが言葉に詰まっているとシンジは言葉を続けた。
「 真剣に悩んで書いた人だっていたはずなのに、あんな事するなんて・・・・ 」
シンジはアスカを責めるような目で見ている。
「 何よ、随分な言い方ね、自分はラブレターなんて書いたことないくせに 」
後半部分はアスカの想像だったが、シンジの性格からしてそうに違いないと判断してのことだった。
しかしシンジの次の言葉は見事にアスカの予想を裏切った。
「 ・・・あるよ、書いたことは・・・・ 」
「 嘘・・・ 」
二つの意味でショックを受けるアスカ。
「 出せなかったけどね・・・・ 」
「 な、なによ、それ・・・ 」
アスカは一瞬少し明るい顔をしたが、すぐに沈んだ顔をした。出せなかったと言うことはそれだけシンジが―――――
「 でも書いてみて分かったんだ、凄い勇気がいるんだ、それを書くのにも・・・僕はできなかったけど、相手に渡すのにはもっと勇気
がいるんだ。だから・・・だから、アスカはあんなことしないでよ・・・・ 」
そこまで言ってシンジは俯いてしまった。
アスカは何でシンジがこんな真剣になっているのかは分からなかったが、溜息と共にとりあえず彼女の答えを出した。
「 ・・・・分かったわよ・・・・・ 」
「 えっ・・・ 」
「 読むか読まないかは別として、とりあえずこれからは踏みつけることはしないわ 」
「 ほっ、ほんと? 」
「 ほんとよ、でもねシンジ 」
「 何? 」
「 ほんとに好きなんだったら、ラブレターなんかじゃなくて、自分で直接気持ちを相手に伝えるべきだと思うな 」
「 ・・・・・ 」
「 アンタはそう思わない? 」
「 ・・・・そう、かもしれない 」
「 でしょ、シンジももし好きな子がいるんなら、ラブレターじゃなく自分の口で伝えた方が良いと思うな、もし振られたとしても
その方が諦めもつくってもんよ 」
「 う、うん・・・ 」
「 でも、今日のシンジは何だかやたら真剣だったわね、どうして? 」
「 それは・・・・・ 」
水色の封筒を握りしめていた手を弛め、ズボンのポケットから出して、そして――――――――――――
あとがきのようなもの
ども、えふです。今日ビデオで9話を見ていて思いついた・・・というよりそのまんまなお話です(^^;;
短いのは許して下さい、だってせっかくメゾンEVAに入れるチャンスだったんだもん( 笑 )
ほとんどシンジの主観で書いてるんで、アスカがシンジのことをどう思っているのかは・・・ばればれか(^^;
しかし登場人物が二人だけ・・・・・ちょっち、まずいかな・・・
もし入居できたら、連載もかけるだろうか・・・・
あの頃を思い出して書いてみました。いかがでしたでしょうか、もし良かったら感想なんかくれちゃうととっても嬉しいです。
それではっ♪
本日2人目、
限定募集5人目、
四号館18人目、
そして!
めぞん通算”100”人目の御入居者!!
ついに3桁・・・(^^)
記念すべき100人目、えふさん、ウェルカムん〜
第1作『あなたならどうする?』、公開です。
気持ちがつのるに連れて、
独占欲・嫉妬心が生まれて。
好きになるに連れて、
理想化が進み。
中学生の不器用な思いですね(^^)
自分を重ねた”ラブレター”踏み。
アスカちゃんの揺れた気持ちと、
シンジくんの振り絞った勇気。
中学生の不器用な恋です(^^)/
さあ、訪問者の皆さん。
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