全ての「コト」が終わってから、今では6年の歳月が流れている。
あの日々を記録と記憶の中に封じ込めるのに、その歳月が長いのか、それとも短いのかは判らない。
でも、今ではあの頃がまるで夢の出来事だった様に感じられる。
穏やかな午後のひととき。
世は全て事も無しってとこね。
3月上旬の光をいっぱいに浴びて、アタシは軽く体を反らす。
そして、そのまま大地の腕(かいな)に身を任せる。
この国がセカンドインパクトの影響で常夏の国になったとは言え、この時期の日差しはまだまだ優しい。
ポカポカ暖かいリビングにゴロンと寝転がる。
う〜ん、し・あ・わ・せ(ハート)
寝転がったまま、指先は一通の手紙を弄ぶ。
真っ白な封筒。
宛名は、惣流・アスカ=ラングレー様。
そして、差出人の欄には仲良く並んだ名前が二つ。
暫くそれを見つめて、溜息一つ。
フフッ。
な〜んとなく、ネ。
私達は結局、サードインパクトは防げなかった。そして人類補完計画は発動されてしまった。
人々はLCLの海に一度溶けて一つになった。
しかし、計画の結末は補完委員会の意図したものとも、碇指令の画策したものとも違った衣装を纏っていた。
人類は補完された。しかし、再び人々はLCLの海から帰ってきた。
神? Nein!
「どっかのバカ」がそれを望んだから。
最後の戦いから1年。
アタシはドイツに戻らずに第三新東京市に住んでいる。わざわざ戻ってまで逢いたい人が居なかったのと、日本を離れたくなかったからと言うのがその理由。
でも、帰れなかったと言うのが正しいのかもしれない。
サードインパクトの直後から、廃墟となった第三新東京市の再建は始まった。
この世界で今更エヴァもチルドレンも無いと思うけど、国連の指示と、LCLの海から帰ってこなかった碇司令に代わり冬月新指令が率いる事になったNERVの命令で各地に疎開していたNERV関係者を収容する為にわざわざ壊れた街を再建したのだ。
「新世界再建の要に!」とも言われたが、要は厄介者は一カ所にまとめて置いとく方が管理し易いからだろう。
まったくロクでもない事しか考えないのね、大人って。
勿論、最大の厄介者たる適格者に拒否権など初めから用意されていない。
NERVと国連情報部員の監視の視線で編まれた鳥篭に囚われる生活を私達は余儀なくされた。
まっ、おかげで懐かしい顔には逢えたけど。
「ヒカリッ!」
今日から学校が再開されると言うので、再建された第一中学への登校を指示された。
私達は進級して3年生になっていた。
指定された教室に入ってみて最初に目に映ったのは、久しぶりに会ったクラスメートと談笑している懐かしい少女の姿だった。
「アスカッ! 本当にアスカなの?」
ヒカリは信じられないと言った表情をした後、特上の笑顔で再会を祝福してくれた。
「久しぶりね、ヒカリ。元気そう」
「えぇ、アスカも。元気そうで良かったわ」
僅かながらその顔が曇る。
アタシは胸を突かれる。知っているの? アタシが自分の中に閉じこもっていた日々を。
改めてヒカリの顔を見てみたけど、一瞬浮かんだ筈のその翳りは微塵も痕跡を留めていなかった。
ゴメンね、ヒカリ。そして、・・・ありがとう。
そして、何も気が付かなかった風に明るく応える。
「もっちろん!
ねぇ、他には誰が居るの? また、みんな同じクラスになれたら良いわね」
「そうね。また、みんなで愉しくやれたらいいわね」
なんとなく湿っぽくなっちゃったかな?
そう思って少々方向修正してみた。
「あら? ヒカリは『誰かさん』さえ居れば良いんじゃないの?」
そう言って悪戯っぽく微笑んでみせる。
「アスカ!」
ふふふっ。ヒカリったら真っ赤。からかい甲斐があるわね。
あんまり苛めるのも可哀想だから追撃はなし。感謝しなさいよ、ヒカリ。
「相田くんがさっきまで居たわよ。今は何処かに行っちゃてるみたいだけど」
「げ、またアイツと一緒なの。もぉ、何とかなんないのかしら」
そう言って肩を竦めてみせる。
ヒカリはそう言うアタシを見て笑っている。
「そう言えばアスカ、碇君は?」
丁度その時、教室の入り口辺りがざわめいた。
アタシは振り向かなくても原因が判っていたけどヒカリはそうじゃなかったらしくてわざわざ振り向いて確認してみた。
「碇・・・君・・・?」
碇シンジ。サードチルドレン。エヴァンゲリオン初号機専属パイロット。
幾つかの肩書きと、呼び名を持っている少年。
サードインパクトを誘発し、そして収束させた張本人。
世界を滅ぼし、世界を再び形作った少年・・・
私達が国連軍から尋問を受けている間、シンジは一度も取り調べを受けたことはなかった。
人々が、全ての力を失っているとは言え彼を「 神 」を人が裁く事を畏れたが故に。
でも、アタシだけは聴いている。
彼が、何を見ていたのか。何を想っていたのか。
傷付く事に臆病な「神」が一体何を望んでいるのか。
そうして、・・・アタシが何を望んでいたかを。
いろんな事を、月夜の浜辺で話り合った。
だから、・・・・・・・大丈夫。
で、結論!
やっぱり、アイツは神ではないわ。
せいぜい、バカシンジがいいトコね。
まぁ、それは置いとくとして(五月蠅いわねぇ、置いとくのよ!)
真相を知っているのは国連を元とする上層部だけ。
事実関係は最高機密として一般には秘匿されている。
お陰でアタシ達はこうして一見普通の生活を送っていられる。
けれど、みんなの中にも何となくではあるがシンジに対して何か感じる物が残っているはずだ。
まぁ、その辺もあまり気にする事もないだろう。時間と共に違和感は消えていくだろうから。
それよりも、もっと深刻な変化が起きていた。
「おはよう、洞木さん」
「あ、あの、その。・・・お、おはよう・・・ございます」
「どうしたの一体? 改まっちゃって。僕、何かおかしい?」
「ううん。何だか、その・・・き、綺麗になってるから・・・その、驚いちゃって」
「そ、そう? 自分じゃ、その、よく判らなくて・・・」
あぁ、バカ!
笑うんじゃない!!
ヒカリも頬を染めるんじゃないわよ!!!
そう、帰ってきたバカシンジに起こった、唯一ささやかな、そして重大な変化がコレだった。
容姿それ自体に大した変化はない。・・・多分。
ただ、前から、まぁ多少は綺麗な笑顔だなぁとは思っていたけどLCLの海から帰ってきてみると、その笑顔の破壊力はとんでもなく増していた。
ネルフで初めて再会した時のマヤなんてポ〜ッとして暫く惚けたままでこっちの世界に帰ってこなかった位。
まさに神懸かりってヤツね。
アタシは嫌な予感がして教室中を見回してみる。
男子はそれ程でもないけど女子はかなり逝っちゃってるのが居る。
あぁ、厄介事の予感がするわ(Seufzen)
取り敢えずヒカリを何とかしないと。
「こらバカシンジ! なにやってるのよ!!」
我ながら、声が多少トゲトゲしくなったかもしれないとは思いつつシンジとヒカリをこっちの世界に引き戻す。
「いっ、痛いよアスカ!」
へ?
あぁ、耳つねり上げてた!
ごめん、シンジ。
うぅ。
でも、みんなアンタが悪いのよ。
しかし、いくら心でそう思っていても、アタシの勝ち気な性格がそれを表に現す様な事はない。
「う、うっさいわねぇ。アンタがデレデレ鼻の下延ばしてるからでしょ!」
「デレデレなんてしてないよ。
それよりも、下駄箱の所で朝の挨拶してたら、
一人で先に教室行っちゃうなんて酷いじゃないか。
待っててくれても良いのに」
「鈍いくせに余所のクラスの女とペチャクチャ喋ってるのがいけないんでしょ。
それに、このアタシに向かってアンタに合わせろって言うの?
アンタは三歩下がって、アタシの後に付いてくればいいのよ!」
「相変わらずだなぁ、二人とも。でも、少しは進展したみたいだな」
まだ、頬を桜色に染め上げてるヒカリの傍らであたし達がやり合ってるとそれに割り込む様に横から声をかけてくるヤツが居た。
「相田!」「ケンスケ!」
「初日から尻に轢かれてるじゃないか、シンジ。話は聞いてるぜ、惣流もこれから大変だな。
まっ、俺には有り難いけどな」
「ちょっと、相田!」
「おぉっと、先生が来たみたいだ」
そう言うと、相田のヤツは素早くアタシ達から少し離れた席に着いた。
相変わらず情報が早いヤツ。もう、このバカの事を嗅ぎ付けたらしい。
どうやらアタシだけではなくて、今度はシンジも使って怪しい商売で一儲けをたくらんでいるみたい。
一度キッチリ話し合った方が良いわね。
先生が入ってきたけど、きちんとした席順が決まっていないからみんな適当な席に座ってる。
アタシは取り敢えずヒカリの隣に座って黒板の方を向く。
シンジは・・・、よしよし。ちゃんと判ってるわね。
何時もそうしてなさいよね、全く。
黒板の前に立っていたのは長い髪を真ん中から分けた若い男の先生だった。
見覚えのある容姿だ。かつてモニターの中から見たことがある。
情報部に所属していて、作戦中の情報収集、解析を担当する為に発令所に詰めていたオペレーターの一人で。
名前は、そう・・・
「今日から君達の担任を務めることになった、青葉シゲルだ。担当は社会科だ。宜しく」
そう言って人好きのする笑顔を中学生達に振る舞う。
早速、あちらこちらで女の子のヒソヒソ話が始まってる。その結果、あの笑顔にどれだけの値が付くのかなんて事にアタシの興味は無い。
ただ、NERV情報部の監視の目がこうもあからさまな形で学校生活に入って来た現実にやりきれない思いだけが募る。
不意に、左手にぬくもりを感じる。何が起こったのか今では見なくても判る。
(だけど見る!)
シンジがアタシの手を優しく握って、気遣う様な視線で見つめてる。
その瞳を見ていると、何かで胸がいっぱいになる。
そして、氷が春の陽に融ける様に、不安な気持ちがスゥーと消えていく。
この瞳がある限り大丈夫。
だって、もう独りじゃないから。
・・・二人だもん、ネ。
アタシは、心配要らないからとシンジに微笑みを返す。
安心したのかシンジは視線を黒板の青葉センセイに戻してしまう。
う〜ん、ちょっと勿体なかったかな?
そんなことを考えていると、今度は右の肩をつつかれる。
どうしたんだろとヒカリの方を向いてみるけれど、その表情は要領を得ない。
ただ、ニヤニヤしてるだけ。
ウッ。
だからその目は止めなさいよ。元に戻らなくなっても知らないわよ。
口元の綻び方なんてまるでミサトじゃない。みっともないわよ。
肘でグリグリしないでよ。痛いじゃない。
ゴメン、最前からかった事は謝るからさ。帰りに何か奢るから許してよ。
・・・・・・・・シンジの財布からだけど。
アタシ達がそんなバカなやり取りをしている間も、オリエンテーションは続いている。
クラス編成は元のクラスが基本の為、メンバーの変化はないこと。
今は何名か欠けてはいるが、そう遠くない時期に全員揃うであろうこと。
第壱中学が、中高一貫教育の実験校に選ばれたこと。
それを受けて高等部が同じ敷地に新設されること。
まだ予定ではあるが、5年後の開校を目指して大学が近くで建設されること。
今日はこれから全校集会で校長の話を聞いて、ホームルームをやって学校が終りなこと。
今週いっぱいは半日授業であること等の説明を、青葉センセイは面白可笑しくアタシ達に語って聞かせた。
「さて、それじゃぁ体育館で集会をやるから移動して。
帰ってきてから、クラスの委員やなんかを決めるからな。」
そう言って、青葉センセイはざわつく教室を出ていく。そしてシンジも廊下に消える。
アタシは急いでシンジの後を追いかける。
何か言いたそうな顔をしていたけど後でね、ヒカリ。
廊下に出てみると丁度シンジが青葉センセイに話しかけているところだった。
「青葉さん」
「シンジ君・・・
済まない。これも命令なんだ。出来るだけ君達の生活は乱さないようにするから、
だから・・・我慢してくれないか。」
そう言って青葉センセイは俯いてしまった。
補完された筈の世界でも、人間はその業を積み重ねていってしまうものらしい。
悲しいけれど、今更アタシ達は物語の登場人物には成れない。人間だもんね。
アタシはシンジの背中にそっと寄り添うと、ワイシャツの裾を左手でギュッと握る。
消えた筈の不安が、蛇の様に忍び込む。そうして鎌首を徐々に擡げる。
そんな不安に耐える様にアタシは二人の会話に割って入るでもなく、じっと耳を傾ける。
「いえ、いいんです。青葉さんの事情も判りますから」
「そう言って貰えると有り難いよ」
青葉センセイはシンジのその言葉を聴くと、顔を上げて泣きそうだったけど、ようやく笑顔をアタシ達に見せてくれた。
「ところで、トウジの姿がないんですが。彼は無事なんですか?」
「あぁ、フォースチルドレンだった鈴原君だね。彼は今、第二新東京に居るよ」
「いつ、こっちに?」
シンジが不安そうな面持ちで訊ねる。鈴原の事、まだ完全に吹っ切れてはいないみたい。
つい、ワイシャツの裾を握っている手に力が入ってしまった。
アタシのそんな行動を気遣って、シンジは振り返ってアタシの右手を握ってくれた。
青葉センセイはそんなアタシ達を見て一寸驚いたような表情を見せたけど、その事については何も言わなかった。
「彼の身柄は戦自が確保してるんだ。
なにせ実際にエヴァに搭乗したことがあるチルドレンだからね。
なかなか手放してくれなくて。
国連とNERVに対する切り札か何かのつもりらしい。
今、日本政府と冬月指令が交渉中だよ」
「じゃぁ・・・」
「なに、そんなに時間はかからないさ」
「トウジの事、お願いします」
「あぁ、任せてくれ。
さぁ、それより早く体育館に行ってくれよ。これでも君達の担任なんだぜ」
「そうですね、青葉先生。これから4年間、宜しくお願いします」
そうしてシンジは振り返ってアタシに言った。
「行こ、アスカ」
「うん」
アタシ達は当たり前の中学生の様に、連れだって体育館に向かった。
そんな背中に青葉先生の呟きが聞こえてきた。
「お見通し・・・か」
欠伸を噛み殺すのに苦労した後で、教室に帰ってきてクラスの役員を決めたんだけど2年の時の様にまたヒカリがクラスの委員長に選ばれた。
と言うより、青葉先生が去年の委員長は誰かって訊ねて、それからうやむやの内にヒカリに決まっていたってのが真相かな?
ま、立候補した人も居なかったし、みんなの意見も「反対する理由は無い、やりたまえ」ってとこかしら。
放課後、特に何も約束した訳ではないけれどアタシ達は以前の面子で下校した。
ただ、3バカの一人を欠いてはいたが。
「結局、またヒカリが委員長なのね」
アタシは肩を並べて歩くヒカリに話しかけた。
因みに、シンジはアタシ達の後ろで相田の疎開していた時の苦労話とやらを拝聴している。
写真の保管がどうだったとか、カメラの部品がどうとか、どうでもいい事を相田が大袈裟に語っている。それにシンジは律儀に相づちを打ってる。
もぉ、そんなのどうでも良いからさっさとこっちに来なさいよ!
「全くね。うちのクラスは・・・ッて。ア・ス・カ、何処見てるの?
『話をする時は相手の目を見て』って言っていたのはアスカでしょ」
「べっ、別に何処も見てないわよ! なっ、何言ってンのよヒカリ」
アタシってば、シンジの事そんなに判る程見ていたのかしら。
あぁ、顔に血が昇ってきているのが判る。
今の自分の表情は・・・ダメ、恥ずかしくて想像できない。
「バレバレ」
「・・・ゴメン」
ううっ。
この天才美少女、惣流・アスカ=ラングレーともあろう者がこんな失態を晒してしまうなんて。
これもみんな、あのバカシンジのせいだ!
絶対、家に帰ったら復讐してやるんだから!?
心の中で熱い誓いを立てる。
「しかし、あのアスカがねぇ。変われば変わるものね。
ホント。こんなに成っちゃうなんてあの頃は想像付かなかったわ、全く」
「だって、ほら。アイツってばボケボケッとしてるから。
アタシがしっかり見張ってないとどうなっちゃうか判らないじゃない?
だからさ・・・」
微かな風が私達の前髪を揺らしてる。
この風のお陰で常夏の日本の気候でも、さほど暑気を感じないで済む。
こんな時をさしずめ、『心地良い午後のひととき』とでも表現するのだろう。
しかし、今のアタシはそんな表現とは無縁だった。
心地良い筈のその風の為に、却って顔の火照りの凄さを自覚してしまう。
うぅ。
所はまさに攻守を換えた!
これじゃ、初めて会った頃と立場が逆じゃない。
そして、反撃するきっかけが見つからなくて焦っているアタシに更なる追撃を仕掛けるヒカリ。
チラリと後ろを眺めてから言葉を紡ぎ出す。
「まぁ、アスカの心配も判らないではないけどね。私だってポ〜ッと成っちゃったんだもん」
ホント、憎たらしい口め。
「アタシだって、自分がこんなになるなんて思ってなかったわよ。
でもね、・・・結局、女は男次第で変わるモンなのよ。
ヒカリだって鈴原との事を想像してみれば判るでしょ?」
つい、こんな台詞が口をついて出ちゃった。
けれど、てっきり同意してくれるか、聞き流すかと思ったヒカリが反論してきた。
「私は、そうは思わないわ。私は私よ。
相手に合わせて変えるつもりはないわ。・・・・・・不潔よ、アスカ」
ヒカリは真っ直ぐにアタシを見つめていた。
彼女らしい潔癖さ。その瞳の奥には「青い激しさ」とでも言おうか、そんな光が揺れていた。
アタシはヒカリから視線を外し、靴の先を見ながらポツポツ話す。
「うん。アタシもそう思ってた。『一人で生きるんだ』って、プライドで心を鎧って。
でもね、人に頼る心地良さを、頼られる悦びを知っちゃったから・・・
ゴメンね、変わっちゃったねアタシ」
一旦、そこで言葉を切る。振り向いてシンジの姿を見てから、ヒカリの方に顔を向ける。
今度は彼女の眼を見ながら話を続ける。
「でもね、弱くなったとは思わない。
力になりたいと思うし、一緒に頑張りたいと思う。
一緒なら幾らでも頑張れる気がするんだ、アタシ」
そう言ったアタシの顔をヒカリはじっと見ていた。そして、硬かったその表情がフッと崩れた。
「何か、以前と言ってる事が逆になってるみたいね、私達。
アスカの意見には正直言って賛同しかねる所があるけど・・・
でも、表情が軟らかくなったわね。
前のアスカも良かったけど、今のアスカの方がずっと良い表情してると思う」
ヒカリはそう言うと微笑んでくれた。
「アスカ」
シンジが近づいて来る。
いつの間にか、別れる所まで来てしまっていた。
ごく自然に手を繋ぐ。
「今日の晩御飯は何が良い? 帰りにスーパー寄って行くから好きなの言ってよ」
「いい。一緒に行くから」
そんなやり取りを見ていたヒカリが半ば独り言のように喋る。
「碇君、変わったね。何か・・・頼り甲斐があるって言うか・・・」
「そう? ・・・うん、そうかも知れないね。
今の僕には、ささやかだけど目標が出来たからね」
アタシの顔を見ながら言葉を続ける。
「以前の僕は、僕が嫌いだった。
でも、自分自身が好きになれない自分を、他人に好きになってくれなんて言えないし、
好きになってくれる筈が無いからね。
だから、少しずつだけど自分を愛そうって思ってるんだ。
そうしろって、教えてくれた人が居たから。
一緒に歩いて行く為にも、その人に相応しい人間になりたいからね」
そう言って微笑んだ。
その笑顔をまともに喰らったヒカリは、また顔を真紅に染め上げ固まってしまう。
むぅ。
まだこの男、自覚が出来てないな。帰ったらキッチリ調教してやらないとダメね。
そんなことを考えていると、今まで存在感の無かった相田が三人に助け船を出してくれた。
「そう言えば今どこに住んでるんだよ、二人とも」
「前と同じ所だよ。今もミサトさんと三人で暮らしてるよ。
今ちょっとゴタゴタしてるけど落ち着いたらまた遊びに来てよ」
「あぁ、そうさせて貰うよ。ミサトさんにもまた会いたいしな。
じゃぁな、シンジ、惣流。さよなら、また明日な!」
そう言うと、相田はまだ固まってるヒカリを引っ張って家路に就いた。
「『さよなら』・・・か」
シンジはその何気ない一言を口の中で転がしながら空を見上げる。
その向こうにいる誰かを見ている様な、そんな遠い眼をして見上げている。
アタシはそんなシンジの横顔を見ていた。
そんなアタシに気が付かずに、シンジは独り言を言っていた。
「いずれ来る、その日にまた逢おう。
それまで、僕は、僕の選んだ人と二人で、お互いの魂を分け合って生きていくよ。
・・・だから、当分君には逢いたくないよ。」
暫くしてからシンジの視線は地上に降りてきた。
さっき、胸の中の想いを言葉にしてしまっていた事に気が付いては居ないらしい。
繋いだ手から伝わる心地よい温もりが、まるでシンジの想いの様な気がする。
「行こっか」
「うん」
「今日の晩御飯は何が良い? アスカの好きなもの作るよ」
「う〜んっとね、はんばーぐが良いな♪」
「 Wie Sie befehlen! 」
そんな、戯けたシンジの返事を聴きながらどちらともなく繋いでいる手に力が入る。
申し合わせた様に互いの視線が交わる。
繋いでいるのは掌だけではない、それをお互いに確かめ合う様に微笑みを交わす。
さぁ、帰ろう。「私達」の家に。
きっとミサトがお腹を空かせて待っている。
そっと、アタシは振り返る。
振り返って見上げた空は、どこまでも青く澄んだ空だった。
そして、雲一つ無いその空は限りなく優しい青い色をしていた。
こうして、アタシ達の登校初日は過ぎていった。
初投稿の前作には何も付けていませんでしたので、改めて御挨拶させていただきます。
はじめまして、似非LAS人のMASSと申します m(_ _)m
LAS小説じゃないとファイルを消去するくせに自分が書くと(ゴニョゴニョゴニョ(苦笑)
人様の書いた物を読んで満足していれば良かったのに、"あの"「めぞんEVA」が入居者を募集していると言うんで、後先考えずに投稿してしまいました(^^;
その結果がコレですが、如何でしたでしょうか?
この駄文を読んで、文句の一つも言ってやろうと思われた方、いらっしゃいましたらメールを送って戴けないでしょうか?お願いいたします。今後の参考とさせていただきますので。
本当はこの話、97年の内に投稿するつもりで書いていました。しかし、生来の根気の無さと書きながら推敲と体裁を整えるという非効率的なやり方が祟って見事に年を越してしまいました。
出来上がってみれば、文中に状況説明を入れ過ぎて文章のリズムは狂うわ、ファイルサイズは嵩むわで、予定になかった前後編に(^^;;;
しかも、ネーム段階まで主役だった「いいんちょ」の影は薄いし、お相手のトウジは出てこないし・・・
果たしてこのイレギュラーはシナリオの修正範囲に入っているのか!?
入ってると良いなぁ・・・
つらつら、背景描写とかしてますが、この世界観はもう少し引っ張るつもりですので宜しければお付き合い下さい。
#Wie Sie befehlen!≒仰せのままに
首締めラストの先から、
ここでのアスカxシンジはラブラブになっていますね(^^)
でも、明るいだけでない部分もきちんと・・・
あれだけの後ですから、
色々ありますよね・・・
最後は幸せになって欲しいですね。
冒頭のシーン、
気になるな(^^;
”アスカ宛”に”連名の手紙”
ま、まさかこれは!?
さあ、訪問者の皆さん。
感想メールをMASSさんの元にっっ!