今はそんなことを考えてる余裕なんて無い。
彼女はそう思う。
なのに。
(こういう時に限って、余計なことばかり浮かぶのよね・・・。)
静かに打ち寄せる波。
赤く染まった雲。
それはきっと今までも、そしてこれからも変わらない大自然の息吹。
そこに在る事が当然の、その地に在るモノたち。
(なのにアタシは・・・。)
握りしめた拳に力がこもる。
やり場のない怒り。
そう表現するほかにない感情を抱え、持て余していた彼女は複雑な表情で相変わらず湖の向こうを見つめる。控えめな可愛らしい唇も、今は固く一文字に閉ざされ動く気配を見せない。
ここへ来てから5時間たつ。
その間立ちっぱなしでも全く疲れを感じない足が、無性に恨めしい。
一昨日、ようやく病院を出て彼女は家に戻った。
見知らぬ家に。
昨日、二人の人間と買い物に出かけた。
見知らぬ両親と。
そして今日、この湖の畔に立つ。
見知らぬ街に。
(アタシは・・・・・・アタシは・・・・・・・・・・。)
突然だった。
突然病室に入ってきた男の、やはり突然の一言。
非常に簡潔だった。だからこそ。
彼女は混乱する。
「惣流・・・・・?なによ、それ・・・・・。」
自分の名前が思い出せない。
これはもうはっきりしている。
彼女自身、そのことをすでに認め、どうすれば記憶が戻るのか思案してさえいたところだ。
だから、自分の名を知る人が
「君は『惣流・アスカ・ラングレー』という名前なのだ。」
と言ってくれたのなら、きっとそれをすんなり受け入れただろう。
今はとにかく何かにすがりたかった。
「自分」というものを失ってしまった事が無性に恐かった。
このような訳の分からない事態に巻き込まれ、頼れる者もなく、自分がしっかりしないといけない。
そう思うのに、それ以前に「自分」が無いのだ。
だから自分に関する情報なら、それが例え嘘でもきっと信じただろう。
だが。
今、この男は何と言った?
アタシは『惣流・アスカ・ラングレ−』なのではない。
今日から『惣流・アスカ・ラングレ−』に「なる」のだ。
どう考えてもおかしいではないか。
いくらその言葉を信じたくても、あからさまに怪しいその男を素直に信じるだけの勇気は今の彼女には無かった。
「貴方・・・言ってることがおかしいわよ!?アタシは今は名前も昔のことも覚えてない。だから今の言葉は聞き捨てならないわね。まるで貴方がアタシにその名前を名乗らせたいが為に、アタシの記憶を奪った、としか受け取れないわ。」
目の前の男に思いっきり不審と疑惑の視線をぶつける。
だが、男はその視線をものともせず、さらに衝撃的な言葉を言い放った。
「その通り、だと言ったら?」
[なっ・・・・・・・・!?」
「このくらいで驚いてもらっては困るな。君が既に死亡している事に比べれば、大したことではあるまい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
衝撃、を通り越してあまりに馬鹿げた一言。
何を言っている?この男は。
アタシが既に死んでいる?
馬鹿を言うな。アタシはちゃんとここにいる。生きている。
だから、この男と話だってできるのだ。
記憶が戻らないだけで、体の方はこんなにぴんぴんしている。
こんなに健康な状態で死ぬ奴がいるのなら見せてほしいものだ。
思考を巡らす彼女に男は言葉を続ける。
「一から説明しよう。君は先日交通事故に遭った。発見が遅れて君が病院に担ぎ込まれた時には既に手遅れ。君は5日前に死亡確認がとられた。そして・・・。」
彼女は意味ありげに言葉を切る男にイラつきながらもじっと話を聞く。今ここで自分の手掛かりを失う訳にはいかないのだ。
「君は、私の所属する組織・NERVに引き取られ、改造手術を受けた。君の脳は非常に特異な才能を秘めている。私達は長い間それを求めてきたが、君の出現により夢がかなえられたのだ。」
「夢・・・?」
「意志を持った兵器との・・・神経のシンクロだ。これが可能な者は世界でも数少ない。現在私達の所にはその候補者が数十名確保されている。しかし君のようにすぐにでもシンクロが可能なほどの者は非常に珍しい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「だがさっきも言ったように君は病院に運ばれた時、既に死んでいた。普通ならここで諦めるところだが、つい最近それをカバ−する技術が完成した。君はその最新技術を含む、NERVの科学技術の生んだ申し子なのだ。」
恐かった。
それは聞いてはいけないことだと思った。
世の中に知らなくていい事があるというなら、これはきっとそういう事なんだろうな、と思った。
だが。
避けて通ることはできない。
失った自分を取り戻すにはそれしか方法は残っていないのだ。
ならば。
「一体・・・・、アタシに何をしたの?」
男は、一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに気を取り直したように話を続けた。
「君は・・・既に人間ではない。君は人造人間。いわゆるサイボ−グというやつだ。」
「・・・・・・・・・!?」
「君の過去に関する情報は全て抹消した。もっとも既に死んだ人間だ。私達が手を下すまでも無い事ではあったがね。そして君には今後NERVの保有する戦闘兵器・エヴァンゲリオンの専属パイロットになってもらう。拒否は許されない。いいね?」
恐ろしい事を平然と言い放つ男。
戦闘兵器?専属パイロット?
冗談じゃない。
アタシがなんでそんな事をしなきゃならないのか?
普段の彼女ならきっとそう考えただろう。
しかし、今の彼女はいつもの彼女ではなかった。
もっと別の、もっと重要な事に気付いてしまったのだ。
そう、この時彼女−惣流・アスカ・ラングレ−は本当の自分が完全に失われた事を知った。
明け放った窓から風が入り込んでくる。
夏の日差しが照りつける外からの風は、しかし冷たく感じられた。
(アタシは・・・・・・アタシは・・・・・・・・・・。)
ここ数日のうちに起こった事を思い返しながら、アスカは自分の気持ちにいい加減けりをつけようとしていた。
元来明るく、悩むのは好きではない彼女の事、うじうじしている自分に嫌気がさしてここに来た。
だが、今回のことは中学生の彼女が受け止めるには重すぎる出来事だった。
「アンタ達はいいわね・・・。こんな風に悩むことなんかなくて・・・。」
イライラは募り、空を飛ぶ鳥にさえ八つ当たりしたくなる。
そもそも何故こんな事になったのか。それすら記憶を失った彼女にはわからない。
アタシに特別な才能?戦闘兵器のパイロット?
もう普通の女の子じゃいられないって事?
・・・・・あ、そうか。今でも充分、普通の女の子じゃないんだよね・・・。
思い出したように自分の手のひらを見つめる。
指を動かし、拳を作る。
当然のように動く手は、とても人工のものとは思えない。
それだけじゃない。
必要なエネルギ−は食事で取るし、味だってちゃんと分かる。
目も、耳も、全ての感覚が人間の感覚と同じで違和感が全く無いのだ。
骨格や臓器は機械化されているらしいが、これならば人間として社会の中に溶け込むことも可能だ。
だが人間に近い体でも、やはり人間ではない。
そのことが彼女の胸に重くのし掛かる。
再び思考のル−プに陥りそうになった時、ふと何かが耳に入った。
(なに?弦楽器・・・・・・の音色?)
なぜか懐かしさを感じるメロディが風に乗ってここまで届く。
それに誘われるようにアスカの足は音のする方に向かって動き出した。
少年はこの場所が好きだった。
彼の周りには人が集まりやすい。
それは彼の人徳の賜物である。と友人は言う。
もともと人との触れ合いが苦手な彼にとって、一人きりで練習できる場所は貴重だった。
一人になれない理由は他にもいろいろとあるのだが・・・。
ここは一人になれる数少ない場所の一つだった。
加えてここは湖ということもあって夕日の照り返しが実に綺麗だ。
だから、ここには自分のチェロを抱えてよく来る。
今日も彼の独演会が始まる。
しばらく歩くうちに、アスカはそれらしき人影を見つけた。
背のそんなに高くない・・・自分と同じくらいの年格好−−−自分の外見は精神年齢にあわせ中学生程度となっている−−−の少年が、チェロを演奏している。
それが上手いのか下手なのかは分からないが、優しげな旋律に心惹かれたアスカは静かに、彼の演奏を邪魔しないように近付いていった。
「ふぅ・・・。」
とりあえず一曲弾き終わる。
以前は苦手だったこの曲も一応人に聞かせられる程度には上達してきたと思う。
コンク−ルまでにはもうあまり時間が無いから集中できそうなこの場所を選んで良かった。
少年がそんな事を思った時。
パチパチパチ・・・・
不意に聞こえる拍手の音。
びっくりして振り返った先には・・・
(か、かわいい・・・。)
女の子がいた。
拍手をしながら少年に近付いていくアスカ。
近付きながら少年を品定めしていく。
女の本能である。
(うぅん、背は・・・アタシと同じか少し低いくらい。顔は・・・悪くないわね。これなら女の子にはもててるんじゃないかしら?ちょっと頼りなさげな感じはするけど・・・ま、合格点ね。)
自分が人生より重い意味をもつ問題で悩んでいた事など、いつの間にやら頭の中から吹き飛んでいるらしい。
何とも現金な性格である。
「上手いのね。チェロ・・・何をそんなにびっくりした顔してるのよ?」
「あ・・・いや、僕以外にもここに来る人がいたんだな、って思って・・・。ここに人が来ることはほとんどないんだ。」
「ふぅん、そうなんだ・・・。」
素っ気なく答えるアスカ。
少年にしてみればそれは実に面白くない反応だっただろう。
聞かれたことを答えただけなのに、そこまであっさりした反応をされると少々寂しい。
そもそも彼女はいったい・・・。
少年は彼女に再び話しかける。
それは彼女に拍手を贈られた時から抱えていた疑問。
「僕は碇シンジ。あの・・・・・・君は誰?」
「すげぇ」
初回特典にゲキガンガーシール。
そしてゲキガンガーに登場したメカの紹介や製作スタッフの対談、超合金ゲキガンガーの広告などが掲載されたチラシ付き!
対談にはあの佐々木功氏も参加している!
そして超合金ゲキガンガーの広告がもう・・・。出来良すぎ。
そしてそして、中身はなんと・・・。
ああっ!もう、のたうち回ってやるっ!!(ゴロゴロゴロ)
皆さん、これは買いですよ。いや、マジで。
って、なんかEVAと関係ないな、まったく。(笑)
まあいいや。ではでは第3話でお会いしましょう。TOMOJIでした。
追伸。
家にはインターネット環境がありません。(今学校でこれ書いてます。)
よって3月に入るとメールチェックや作品のアップがおろそかになるかもしれません。
ご迷惑をお掛けする可能性もありますが、ご了承ください。