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「或はそれも幸福のカタチ」
 
 
 
 
 
 

 

 

 


 
 
 

      第11話「Tender Encouragement」                  
 

 
 
 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 


  「あいたたたた....」


相変わらず腕と肩の痛みは止まらない。

トイレに行こうとベッドから降りただけでこれである。そのうち動くことすら億劫になってしまうだろう。

あの戦いからまる1日。今日は仕事も休みにした。

ふと、シンジはあの戦いの後の事を回想する。















その時、赤木研では、休みの日だというのに研究に没頭するリツコの姿があった。
休みの日があっても、暇でしょうがないらしい。

「うふふふふ、ここにこれを足して...」

相変わらず無気味な笑いとマッドな研究。すでにこの行為自体がライフワークのようなものだ。
今日も研究は絶好調であった。まともかどうかは別として。


『ガタンッ』


赤木研の扉が大きな音を立てる。

「...?誰?」



しかし、返事はない。



「?」

つかつかとフラスコを片手に持ちつつ扉の前に行ってみる。

「誰?」

念のため、もう一度聞いてみるべきであろう。

「......う....くっ...」

「??」

わけがわからない。

この際、開けてみよう。そう思って扉を引いた瞬間。



どさっ




ボロ布の如くシンジがそこに倒れていた。

「あら、シンジ君じゃない。どうしたのよそんな所で倒れて」

悠長な言葉を投げるリツコ。

「...う...あぁ....」

そんなリツコの言葉にも応える力がないのか、シンジはただうめくばかり。

「????」

『(やれやれ、シンジ、少し口を借りるぞ)』

「(....う、うん...ぐっ)」






そんなこんなで、ようやく意志の疎通が図れたのであった。







「なるほど、そういう事。2体目の襲来、案外早かったわね」

『そのせいで奥の手を使ってしまった。肉体の損傷は相当なものだ。治癒もなかなか追い付かない。まぁ、とりあえす、肩をはめてやってくれ』

「あ、そうだったわね。それじゃ、行くわよ...」



がきっ!!




「う、うああああああああああああああっ!!!!」

「ほら、あんまり大きい声出さないの。男の子でしょう」

「そ、そういう問題じゃないですよリツコさ....ううっ!!」

「まだはまらないわね...んじゃ、もう1回。よっ」



がききっ!




「......(すでに声も出ない)」

「今度は静かじゃない。そうでなくちゃ」

『いや、これは声が出ないだけだ』

「あら、エヴァは喋れるのね」

『我々には痛みの概念はないからな』

「そういえばそうね......ん。入ったわよ」

「.....(ふはーふはー)」<涙目

「で、損傷の回復はどのくらいの早さで行われるのかしら?」

『現在、肩と腕にある細胞の75%が損傷を受けている。これをすべて破棄、もしくは回復させる。新陳代謝の速度を上げて、まぁ3日もあれば完全に回復するだろう』

「75%...本来なら、腕を切り落としてる頃ね」

『現在の人間の医学ではそうせざるをえないな』

「...つくづく、人間の知恵の浅はかさを思い知らされるわ」

『直接脳に働きかけるわけだからな。我々のような存在でなければ不可能だ』

「シンジ君?」

「....は、はい?」

「今日は帰って、早く休みなさい。あ、それと、3日ほど休んでいいわよ。ミサトにはちゃんと適当に言っておくから。もちろん、所長にも」

「はぁ。お願いします」













そんなこんなで、今は家にいるわけだ。

回復は超が付くほどのスピードでなされているらしいが、それでも3日は要するらしい。

「死ななかっただけ...マシなのかな」

確かに、痛みを感じるという事は生きている、ということである。そのありがたみは死ぬ間際までいかないとわからないのかもしれない。

『問題は発狂だった。死は跡形もなくすことができるが、発狂は残るからな』

「(ぞくっ)」

『とにかく、今しなければならないのは、次の敵の襲来に備えて、身体機能を完全に回復させることだ。まず睡眠を最優先に取れ』

「うん...」

が、眠れるはずがない。今日だって動けないのだから昼まで寝ていたのだ。
人間、急に寝ろと言われて寝れたら苦労しない。

「だめだ、眠れないよ....」

『それなら、横になっているだけでもいい、とにかくあまり動くな』

「そうする...」

天井を見つめる。こんなにゆっくりと横になったのはかなり久しぶりだ。
エヴァと融合して以来の様々な出来事を反芻する。



−2本ある試験管



−赤い光の壁



−暗闇での戦闘



−親子の会話



−昨日の戦闘



日常から非日常へ。その変化は急激だった。今、ようやくその自体を反芻する機会を得たのだ。
腑に落ちない点も多い。父親の曖昧な言動、エヴァの秘密、敵の襲来目的...





と、シンジが思考の海に沈んで行こうとしたその時...





(ガチャリ)





「?何の音だろう」

『誰か来たようだ』

「でも参ったな、動けないよ...もしかして、敵?」

『いや、違う...これは..........なるほど』

「??」

 

『我々は今から自閉症モードに入る。しばらくコンタクトしないからな』

 


「え?ちょ、ちょっと、どうしたの?」




「ばっかシーンジっ!!」



目の前に突然表れたのは、アスカだった。

想像を遥かに上回る唐突な展開にシンジは仰天する。


「ああああああアスカ、なななな、何でこ、ここ、こ、ここに!?」


「何よ、シンジが病気になったって聞いて、普段料理作ってもらってるから、たまには恩返しでもしてやらないと、と思って来てみれば...何よそのリアクション?失礼ね」

「い、いや、そ、そうでなくて」

「それにしても不用心ねぇ〜、玄関のカギぐらい閉めときなさいよ」

「で、でも、オートロックのはずじゃ」

「パスコード入れたのよ」

「何で知ってるの?」

「アンタバカぁ!?どこの世界に自分の部屋番号パスコードにする奴がいるのよ!!」

「う....」

これではグゥの音もでない。

「まったく...これじゃ泥棒に来て下さいって言ってるようなもんよ?」

「は、はい...」

「ま、いいわ、今度変えときなさい。あと、そこでしっかり寝てること」

「え?」

「だから、夕飯これからなんでしょ?」

「え?まさかアスカ...」

「何?このアタシの料理じゃ不満だってぇのあんたは!もう!あったま来た!帰る!」

ずかずかと出て行こうとするアスカ。

「ちょ、ちょっと待ってよアスカ!う...痛っ!」

その声を聞いてアスカがゆっくりと戻ってくる。

「痛いって、どこが痛いのよ...って、何この腕の包帯は!?」

「あ...」

ただ事ではない量の腕に巻かれた包帯。

「あんた病気じゃなかったの!?」

「いや、これは...その...」

「......ま、いいわ、後でゆ〜っくり聞かせてもらうから(ニタリ)」

本日2度目の寒気を覚えたシンジ。逆らわない方が身のためだ。





しばらくして...扉1枚隔てたキッチンからは、何やら刻む音が聞こえてくる。


アスカは何やら鼻歌を歌いつつ。上機嫌だ。

「はぁ....」









なるほど、エヴァがいきなりコンタクトを一切遮断した理由がわかった。


気を利かせたのだ。











「シンジぃ〜?」

「は、はいっ!」

突然名前を呼ばれて素っ頓狂な声を上げるシンジ。

「アンタ風邪引いたってわけでもないのよねぇ」

ケガをした...という事はすでにバレている。無駄な嘘はつかないほうがいい。

「う...うん...」

「んじゃ別におかゆとかでなくてもいいわね?」

「うん」



しかし−


この状況、改めてよく考えてみると−


「(まるで−夫婦だよな)」

ふと頭に過るそんな思い。自分が考えたことだというのにシンジは少し頬を赤らめる。


「(そういえば−アスカは...僕の事をどう思っているんだろう...)」

唐突に湧いて出た疑問。

同僚、知り合い...

こうして、わざわざ家にまで来てくれて、料理まで作ってくれるということは、憎からず思ってることは確かだ。それはいくら鈍感でもよくわかる。

しかし−








「よっし、出来た〜!」

耳に飛び込んできたのはアスカの声。



シンジの目の前に並べられたのは普通の食事ではなく、ちょっとしたご馳走レベルのものだった。サラダ、コンソメスープ、メインの肉料理、などが所狭しとテーブルの上に並んでいる。

「す、すごいね...これ」

「ん?まぁアタシが本気を出せばこんなもんよ。いっつもシンジが作ってるからわかんないでしょうけど。どう?見なおした?」

そう言って得意げに胸を張るアスカ。

「恐れ入りました」

そう言って苦笑するシンジ。

とまぁ、なんだかいい雰囲気になっちゃってる二人であった。



「「いただきます」」


「........どう?」

「あ、このサラダ、ドレッシングも自分で作ったの?すごくおいしいよ」

「そう、よかったぁ」

そう言ってニッコリと笑うアスカ。それがなんだか眩しく思えて、シンジは少しだけ、ついと顔を逸らす。

「(やっぱり...綺麗、だよな)」

しばらく当り障りのない会話を続けたまま食事が続く。シンジからしてみれば、この後色々と問いただされるのは明白なので、息苦しくもある。

どこまで話せばよいのか−





綺麗に皿の上の食べ物がなくなり、いわゆる一段落、という時に、アスカがいよいよ話を切り出してきた。

「で、その包帯の事なんだけど」

「......」

「何があったのよ?」


...ここで黙ってしまうと、またこの前のように怒らせかねない。少しの間を置いて、シンジはゆっくりと話し始めた。


「.....また....」

「?」

「敵が来た」

「..........そう、やっぱりね」

「多分、まだあと何体か来るはずなんだ」

「アンタのお父さんって、確かウチの所長だったわよね。護衛とか付けてもらうわけにはいかないの?」

「...やつらには、普通の人間じゃ歯が立たないから、居ても無意味なんだよ。関係のない人を巻き込むわけにはいかないし」

「つくづく、アンタって自分よりも他人に優しいのね。むしろ、お人よしと言うべきかしら」

そう言ってアスカは寂しそうに苦笑した。

「その...もしかしたら、心配かけちゃってるのかもしれない。ほんと、ゴメン」

「もしかしたら、じゃないわよ!こっちはその包帯見たとき、心臓止まりそうだったのよ!....このまま、そんな風にドジばっかりしてたら...」

「.....」

アスカの肩が小刻みに震え出す。

「死んじゃうわよ...」

その目に光るものを見たシンジは、なんとも言えない胸を締め付けられるような感覚に襲われた。

「アスカ...その....なんて言えばいいのかな...」

「...?」

「僕は、死なないよ、絶対に」

「....」

「この前....アスカが、励ましてくれた時、僕は初めて本気で『死にたくない』と思ったんだ。それまでは、ただ逃げるだけだったけど...」

「...」

「やっぱり戦わないと生き残れないし、僕は、生き残りたい」

「そう....」

「そう考えさせてくれたのはアスカだから...感謝してる」

「ふふ....」

「どうしたの?」

「なんか、シンジらしくない」

「え?そう?」

「そう。なんだか...」

「?」

「格好いいじゃない?」

「そ、そうかな...」

「なんだかシンジ、少しずつ変わってる気がする...って、もうこんな時間?研究所に戻らなきゃ」

「え?もう夜なのに?」

「誰かさんが休んだおかげで、こっちは大忙しよ」

「あ、ゴメン....」

「いいから、アンタは早くそのケガを直すこと!大人しく休んでなさい。出てきたらしっかり今回の分も働いてもらうからね」

「うん」

「よろしい、んじゃ、アタシ行くわね」

ニッコリと笑って、アスカは小走りで玄関から出ていった。その後姿を見送りつつ、僕は思う。












 

 

 


生き残らなければ、またあの笑顔を見ることはできないのだ、と−

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
      つづく     


NEXT

Version-1.00 1998+05/25公開

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あとがき


この連載も、続きを書くのはものすごく久しぶりな気がします。
ようやく11話を仕上げることができました。お待ちどうさまです。

いやん、なんでしょうこのシリアス具合は(笑)
LASじゃ...ないよね、これ。前回アレほど煽っておいてこれは...

しかしここでくっついちゃうと、後々の話が書けないってのも事実で...(;_;)
この辺は、ゆっくりゆっくりやっていきたいと思います。

それでは、次回もお楽しみに。

さんごでした。

今回のBGM−CD:「STAR FOURTH」 (XROGER XR-005)



 さんごさんの『或はそれも幸福のカタチ』第11話、公開です。




 おう(^^)

 手料理〜


 あう♪

 いい雰囲気〜


 相次ぐ戦いで
 ボロボロずたずたになったシンジも

 チッとは酬われたかな?



 一緒に飯食った程度だけど−−

 シンジにゃ十分?!(笑)



 ま、少しずつね。


 その為にも勝ち抜かなくちゃ。




 さあ、訪問者の皆さん。
 久々の『或は−』さんごさんに感想メールを送りましょう! ***

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