九
「日向君、東4番の航空機ゲートを開けて。」
ミサトは、VITOL機が着陸行動をとる寸前に指示を出した。
VITOL機は大きく迂回し、左手に富士山を望むような山沿いのコースをとり
ネルフ本部内に帰投した。
平素なら観光コースと言ってもいいような経路だが、使徒からの攻撃を考慮して迂回する為に
かなり、大回りをして飛んできている。
だが、それでもパイロットを失うよりはまし、というものである。
「地上を来るのと同じ時間ですねぇ。
車の方がよかったんじゃないですか?」
日向マコトは、そのタイムロスを嘆くような口調でミサトに向かって言葉をかけた。
「地上経由で、パイロットを蒸発させる羽目になった時の責任はとりたくないわ。」
ミサトは無感情にそう答えた。
「すいません。」
日向はばつが悪そうに言うと正面のモニターに向き直した。
ミサト自身、同じ時間がかかるなら航空機よりは車をつかって向かえを出したほうが
いい、とは思っている。
だが、第五使徒のような一定領域の危険物を排除するような機構をもっていた場合、
とてもではないが、パイロット達を保護することなどできない。
それはひいては、人類の破滅を意味する。
「チルドレン到着、発進準備にかかります。」
青葉が、状況報告を終えるとほぼ同時に使徒は第三新東京市の中央に停止した。
「停止しただけ?」
リツコの質問に、
「停止だけです、動きありません。」
と、マヤが即答する。
モニター、センサーのにもその動きは見られず、各観測部署からも停止以外の報告はない。
「いったい、どうするつもり?」
ミサトは相手の動きが予測できずに困惑していた。
それどころか、センサーの類にもまともに姿が表示されないのだ。
「とりあえず、エヴァの準備が整うまで様子見ね。」
自分を納得させるように、指示をだした。
「使徒が出たそうだが?」
逸見は、工場内の司令室にちょっと立ち寄ったという風に顔をだした。
見ると、黒地に白い縞模様の奇妙な物体が中に浮いている。
しかもなにするでもなくただ、漂っている。
様に見えた。
「あれで、なにができるんだ?」
逸見は首をかしげて呟いた。
「見かけで判断してはいけませんよ。」
西田は、逸見を咎めるような口調で言った。
実際、逸見自身使徒を見るのは初めてではない。
初めてではないが、その姿をみれば見るほど何かを行うための器官らしきものが
見当たらない。
だからと言って、逸見が相手を侮っていると言うことではないのではあるが。
「それでも、奇妙な格好だ。」
いつ着たのか、黒木はそう呟いた。
チルドレンが準備を整え終わるころ、ラドンは何かを感じているのかせわしなげに
翼を動かし、いらだたしげに目の前の自分を封じ込めるその檻を嘴でつつきだした。
「敵となる物の存在に気づいているのかしら?」
リツコは、その報告を聞き怪獣そのものの持つ闘争本能の強さだと考え納得した。
もし、ラドンが使徒と戦ったとして、結果はどう出るのだろうか。
そんなことを純粋に、科学的ゲームとして心の片隅で考えながらも、モニターセンサーに
映る状況の推移を逐一確認していた。
同時刻、時田もまたモニターでその様子をみていた。
できれば、ジェットアローンを実践に使いたいという衝動はある。
だが、まだ万全の準備を整えていない。
今度こそ、無様な失敗の汚名の返上を確実にしなければならない。
「東京湾の状況はどうだ?」
過去の事例から時田もまた、エヴァンゲリオンが起動したときにひきつけられるように
なにかが行動を起こしていることは確認していた。
もっとも、時田とてまだそれがデストロイアの復活だとはまだ知りもしないのだが。
「現時点では、なにも観測されてません。」
報告を聞くと時田は再び第三新東京市を映すモニターに目を向けた。
使徒は相変わらず宙に浮いたまま何するでもなくその姿をさらしていた。
モニターの中に小さく土煙のようなものが舞った。
3ヶ所から、エヴァンゲリオンが姿をあらわしたのだ。
「エヴァンゲリオン、リフトオフ!」
ミサトの声とともに、3機を固定していた拘束具が外れる。
エヴァ3機を頂点にした三角形の真中に使徒はいる。
「各自、相手に気づかれないように接近を開始して。」
このところのラドンの孵化、ゴジラ復活ときていたためつい口調が軍隊風に
なってしまったことにきづいたミサトは
「距離が300mになったら、アスカが攻撃を行うようにして。
レイとシンジ君はおとりと援護の役目よろしくね。」
と、次の指示からはいつものくだけた感じのしゃべり方にした。
「はぁい先生!、攻撃はシンジ君がいいと思います!」
が、意に反してアスカの反論が返ってきた。
ミサトにしてみれば、それは以外な事だった。
「な、なんでだよ?」
シンジのむっとしたような返答が聞こえる。
「あらぁ、シンクロ率もトップな無敵のシンジ様とも思えないお言葉ですこと!
それとも、ほんとは怖いのかなぁ?」
アスカの刺のある挑発するような口ぶり。
「わかったよ!、やってやるよ。
アスカに戦いのお手本見せてあげるよ!」
まさに、売り言葉に買い言葉といった感じのシンジ。
「まあ、頼もしいこと!」
「ちょっと、あんた達…。」
ミサトの言葉に耳を貸さずに言い合いを続けている二人。
「ちょっと、二人ともいいかげんにしなさい!」
ミサトがさすがにきつい調子で言う。
「ミサトさんも言ったでしょう!、ユーアーナンバーワンって!
戦いは男の仕事!」
「ちょっと、シンジ君、」
「まあ、古典的〜!」
「二人とも」
「通信終わり!」
「こういうときだけ、息はぴったりね。」
少々腹立たしげにミサトが呟く。
「シンジ君、頼もしくなったじゃない。」
リツコがからかうような、慰めるようなどっちともつかないように言う。
「だめよ、帰ってきたらしかってあげなくちゃ。」
それに対し、困ったように言う。
「いい保母さんになれそうね。」
「なりたかないわよ。」
拘束されていた、カタパルトから降りてしばらく動きを見せなかった
エヴァ3機になにが起きてるのか通信を聞いてない時田にはわからなかったが
それでも、その3機が動き始めたと同時にすぐに東京湾観測班に向かって聞いた。
「状況は?」
「現在、変化なし。」
「どんな、小さな変化も見逃すな。」
そういいおくと、時田は
「JAの進捗状況は?」
と、作業班のチーフへと連絡をいれた。
可能ならば動かしたい、という欲求はやはり心の奥底で燃えているようだ。
黒木は、その様子からなかなか動き出さないエヴァンゲリオン3機に対して
かなり慎重な指示が出されているのか、とも考えたがパイロットが14歳の子供とも
なると、ほかにもいろいろ気を使うことがあるのだろうと思い直した。
前線に子供を出し、うっかり戦死でもさせたら、させなくとも重傷を負わせそれがマスコミに
知れたら、たたかれることは必至だろうと思うと直接作戦の指揮をとっている指揮官に同情を
感じずには いられなかった。
「駿河湾に、巨大な生物の潜航波!」
黒木の物思いを破るように、広域観測班からの報告が入ったのはそのときだった。
エヴァが動き出すと同時に、駿河湾に出ていた哨戒機からの報告が告げられていた。
「ゴジラか?」
逸見が、先に確認をとっていた。
「いえ、まだ確認はされていません。
ただ、ゴジラよりは小さいようです。」
駿河湾であるとすれば、デストロイアの可能性は低い。
となると、
「このところ報告されてる、例の生物か?」
黒木は、そう聞いた。
「可能性は高いと思います。」
もし、その黒い生物ならば今のところ上陸の可能性は低い。
「監視を強化するように伝えておけ。」
黒木はそう、指示すると目を第三新東京市を映しているモニターに戻した。
「何故です?」
黒木の指示に納得がいかないように逸見は聞いた。
「相手がわからんのに、攻撃できるか?」
暗に、使徒の片割れだったら困ることになるだろう、と言っているようなものだった。
逸見も押しだまってモニターに目を向けなおした。
西田は、先ほどから何も目に入らないようにモニターを見つづけていた。
が、ただ見ていただけではなくしっかりとデータを取りつづけることは怠っていなかった。
初号機が大分目標の使徒に近づいた。
だが、乗っているシンジにはほかの2機の様子がわからなかった。
初号機の位置は、ほかの2機とさして変わらない位置に射出されている。
だが、使徒に近づくまでの間の障害物が少なかった。
そして、次に障害物の少なかったのは零号機だった。
そして障害物にもっとも行く手を阻まれていたのは弐号機だった。
「もう、また!」
アスカは、ケーブルが限界になる間隔が早くくるのにいらだちを感じていた。
手早く、ケーブルを交換して、再び接近を再開する。
レイもそのころ、ようやく所定の位置につこうとしていた。
零号機があと数歩で予定の位置に着くと言うときに突如使徒の様相が変化した。
渦をまいて消えるような動きをしたと思ったら、またも出現した。
その位置を変化させて。
同時に無線から、ミサトの退避命令とシンジの助けを呼ぶ叫びが聞こえた。
正面を見ると、使徒はシンジの乗る初号機のいた場所の上空に移動している。
そして、初号機のいた場所を中心に街が沈んでいっていた。
「なによ!、なにがおきてるのよ!!」
マナが、シェルターから抜け出して状況を記録していると突然シンジの乗る初号機の
いたと思しき場所から順に街が沈んでいっている。
どう見ても、原因はシンジの撃った最初の銃弾が原因のようだった。
だが、街が沈むなどと言うことがあっていいはずがない。
「これが、使徒との戦い。」
マナは初めて見る使徒のその特異な能力に驚嘆した。
「東京湾に異常発生!」
観測班の報告で時田は自分の推測が間違っていなかったことを確認した。
だが、相手がなんであるかまでは予測しきれていなかった。
「なんだと、こいつが。」
そこまで言うのがやっとだった。
東京湾を監視する衛星からの映像、さらに湾岸監視カメラの中に映されたそれは
デストロイアの集合体の姿だった。
それは、まっすぐに第三新東京市を目指し始めていた。
「ほかにも数匹分の集合体の反応があります。」
時田は、その報告を聞き血の気が引いていくのが感じられた。
「やつは、完全体にも成れるぞ。」
時田が搾り出したその言葉は、そこにいた全員の動きを止めるには十分過ぎるほどの
威力をもっていた。
東京湾にデストロイア集合体が複数匹現れたと言う報告は、黒木たちの下にもすぐに
知らされた。
「駿河湾の生物も、進路を第三新東京市にむけました。」
黒い生物だとして、それもまた第三新東京市にむけて行く。
「第三新東京市は、地獄門だな。」
逸見は、冗談とも本気とも取れるような言い方をした。
「轟天は、まだ出せないのですか?」
「まだ、無理だ。」
黒木は、にべもなく答えた。
「人員がまだなれていない以上、出ても落とされるだけです。」
西田が振り向きもせずに言う。
たしかに、なれていないクルーがいるいことは事実だった。
だが、ここでただ見ているだけというのも納得がいかない。
逸見はそんな事を思いながらも、やはりただモニターを見ているしかなかった。
同じその頃、筑波国連G対策センターでは黒い生物の急激な活動の変化に青木と三枝は
何が起きているのかまったくわからずにいた。
だが、手塚の運んできた情報使徒が第三新東京市に現れ、ネルフの作戦が失敗したこと
その上、東京湾のデストロイア、駿河湾の黒い生物の出現の事を聞きある程度納得がいった。
「この黒い生物は、同じ仲間と呼び合ってるのかもしれないわ。」
青木は、いまだ狂おしそうに暴れているその生物を見ながら言う。
三枝もまた、その生物を見ている。
「でも、本当にそれだけかしら。」
「え?」
三枝のその言葉に青木は、思わず彼女の顔を覗き込んだ。
「もし、本当に仲間を求める性質があるのなら、現れる前から暴れていてもおかしくはないんじゃ?」
三枝は、覗き込む青木の目を見つめ返しながらそう答えた。
「わからないわ、もしそうだとしても、まだ資料が少ないからかもしれない。」
青木は、黙ってモニターに映し出されるセンサーの表示数値に目を落とした。
使徒の作り出す虚数空間の中でシンジは、あせりを感じ初めていた。
レーダー、ソナーその他外部センサーはなにも映さずまた光学系のセンサー、モニターも周囲を
ただ白く光った場所、としか映し出していない。
ただ、なにもない空間。
そうとしか考えられない中に落とされてシンジは、ただひたすら救助を待つしか
ない状態だった。
時間は作戦開始後、数時間がたとうとしていた。
「もう、こんなに時間が…。」
時計をみると、恐怖が募ってくる。
シンジは、見ないようにスーツの時計表示を切った。
緊急時のマニュアルにあったようにエヴァの機能の電源を落とす。
これで、プラグの非常バッテリーとあわせて時間がかなり持たせられるはずである。
だが、それでも周囲から迫ってくるような圧迫感は抑えられなかった。
周囲は使徒中心に国連軍が取り囲むように陣を敷いていた。
その投光器の光のために昼間のように明るい中、レイとアスカがにらみ合っていた。
「自分で、調子にのって失敗したのあいつよ!」
アスカの声にレイがさらにきつくにらむ。
そんな二人のほかに、にらみ合っている者がいた。
リツコとミサトだった。
「シンジ君を見捨てようっての、あんた!」
すでに、リツコの頬は赤くはれている。
「作戦のミスを起こしたのはあなたよ、ミサト。」
険悪なムードの中、何事もないのように国連軍の作戦準備は進んでいた。
「今のあなたに指揮はとれないわ、私が代わりに指揮をとります。」
唇をかみ締めながら、ミサトは黙って歩き去った。
デストロイアを抑えるために出撃した護衛艦隊だったが、通常の戦力で抑えられるものでもなかった。
結局、数十隻の艦が集まり、遠巻きに攻撃を繰り替えしデストロイアの進路を変えさせようと作戦に
でたのだが、結局複数現れたデストロイア相手ではまともに戦えるはずもなかった。
すでに、新横須賀の数キロ先まで撤退してきた艦隊は地上への上陸を防ぐことすら難しい状態だった。
「司令、海岸線に地上部隊の配置終了したそうです。」
護衛艦隊司令はその報告をきくと一瞬目をむけただけで、
「わかった、だが、攻撃の手は緩めるなと全艦に伝えろ。」
と答えた。
時間稼ぎを行えた分、よしとすべきか。
そうも考えるが、やはり撃退したい、という欲求はある。
だが、その欲求は命とりにしか過ぎないことも知っている。
再びこちらに向かって進むデストロイアを双眼鏡に捕らえる。
どんなに砲弾があたろうと、ひるむことなく進んでくる。
やつには、いや、やつらにはどんな意思があるんだ。
艦隊司令の思いをあざ笑うかのように、デストロアイ集合体の一匹は雄たけびを上げた。
駿河湾の上空では、哨戒機のパイロットがさらに黒い生物の追跡を続けていた。
すでに、数匹分の航跡を見た。
このまま、上陸するとは思えない。
現に内陸部まで上陸した報告は聞いていない。
だが、周囲の町に被害が及ぶのは防ぎたい。
そう、思い一時も目を離さずに飛んでいた。
目を離したのは給油に戻ったときだが、それでもほかのパイロットが変わってみていた。
リツコは、初号機の救助作戦の内容を説明した。
「それじゃあ、碇君はどうなるの?」
レイの質問に対して
「現在、デストロイアがこちらに向かっていることも考慮すると、パイロットの
生命にまで気を配っている余裕はありません。」
と、軽く一瞥するだけでそう答えた。
「じゃあ、あのバカ、死ぬかもしれないっての?」
アスカの問いにもリツコは、おなじように一瞥をして
「そうなるかもしれないわ。」
と、答えた。
「作戦開始は、1時間後、使徒の地上部にN2爆雷を現在あるだけ打ち込みその爆発の威力で
初号機をサルベージします。」
そういうと、細かい指示を出して解散を告げた。
シンジは、残り少なくなった電源のためLCLの循環が落ちたプラグ内で幻影をみていた。
それは時として、子供のころの自分であった。
時として、意味をなさない光のイメージだった。
「出して!、ここから、だして。」
プラグ内の自分に意識がもどると、シンジは恐怖にまかせて叫んだ。
だが、そこから抜け出る術はない。
雄たけびを上げたデストロイアは猛然と、空に舞い上がった。
「まずい、航空支援は?」
艦隊司令の言葉に、いそいで確認をとる通信要員。
「すでに、厚木から出てます。」
その報告に、ほっとしたもののまだ数匹いるデストロイアも飛び立つのではないか、と思うと
更なる航空支援の必要を伝えるように指示をだす。
だが、期待に反し
「現在NERVの作戦によって飛行が限定されているため、まわせないそうです。」
という返答が帰ってきた。
「なんということだ。」
結局、当初の予定のメーサーヘリ数編隊と攻撃機数編隊だけで迎え撃たないとならなくなった。
新横須賀まで、あと1kmをきっていた。
「巨大生物、浮上してきます。」
眼下の様子を見ていたパイロットは、浮上してくる相手をみてそう報告した。
いよいよ上陸するつもりなのか、と判断しすぐに迎撃部隊の発信を要請した。
だが。
浮上した生物は、そのまま空中に飛び上がった。
と、同時に哨戒機をかすめて第三新東京市に向かい飛び去った。
が、その報告は最後までなされなかった。
哨戒機は、生物が飛び去ると同時にぼろぼろと崩れ去っていた。
「なにが起きたんですか?」
逸見は、突然ブラックアウトした画面を見ながら黒木と西田の両方に訊ねた。
だが、黒木は押し黙ってなにも答えない。
西田は、最後に送られてきたデータを見ながら難しい顔をしている。
「西田博士、なにがあったんです?」
その様子をみて、逸見は質問を西田に集中した。
どうやら、これは黒木もしらなかった事らしい。
それを確信した逸見はかならずしも自分が蚊帳の外にいるわけではないことに少し
安堵した。
駒になるのはかまわないが、なにも知らされずに利用されつづけるのはいやだった。
「大気に硫化物が瞬間的に増加、いや、この数値はほとんど硫酸だな。
しかも、かなり濃度は高い。」
西田は、モニターの数値を確認するとそう答えた。
「硫酸が空中に?」
逸見と黒木は、声を合わせて西田に聞き返した。
「そういうことになります。」
西田は二人を見ながら答えた。
同時刻、高速探査宇宙船はやぶさ。
飛び立って、まだ1日ほどしかたっていないがはやぶさは月をはるかに超えた場所に到達していた。
「艇長、これを!」
呼ばれた男、雪村はレーダー手の指し示す光点を見た。
木星軌道からかなり内側に移動してきたとはいえ、まだまだかなたにいたはずの3つの小天体の中から
ひとつ、もっとも小型のものが急にその中から飛び出し地球に向かう進路を取った。
「速いな、どれくらい出ている?」
雪村は、レーダー手に顔を向けずに聞いた。
「おおよそですが、光速の50%は出ているのではないでしょうか?」
その答えを聞くと、雪村は
「真行寺、至急連絡!」
と通信士に指示をだした。
「小天体のひとつが地球にむけて高速移動開始、迎撃の準備をされたし。」
雪村の言葉を復唱し、間違いのないことを確認すると通信士はすぐに地球にむけて発信した。
光速の50%で、しかも小型とはいえかなりの質量がある。
もし地球に激突すれば、セカンドインパクトの比ではない。
そして、それだけではない危険も可能性として考えられた。
地上で人々がせわしなく動きまわっているころ、ラドンはその動きをさらにいらだたしげに
させていた。
近づいてくる者へに対してなのか、それとも己の頭上に巣食っている者に対してなのか。
それはラドンにしかわからないことだが、時がたつにつれラドンは次第に攻撃的になってきていた。
「碇、大丈夫かあの檻は?。」
冬月が、心配そうな顔を隠さずに傍らのゲンドウに聞く。
「なに、そう簡単に壊れたりはしない。」
だが、冬月の心配をよそにゲンドウはそういうとモニターに視線を戻した。
冬月は、それを見るとあきらめたように視線を戻した。
そこには、碇ゲンドウ自身の息子の命を消し去るかもしれない作戦が着々と進行している様子が
事細かに映されていた。
(ほんとうにいいのか?、碇よ。)
冬月のその言葉は、決してゲンドウに伝えることはなかった。
デストロイアは、熱海、伊東間の上空で迎撃の航空隊と戦闘を開始していた。
だが、過去から数段改良されたとはいえデストロイアの前ではメーサーヘリや迎撃機では役不足の感は
否めなかった。
だが、それでも辛うじてまにあった地上部隊の援護もあり地上へと落とすことに成功した。
デストロイアは、それでも地上形態をとるとまた第三新東京市に向かい進撃を再開した。
「なんとか、止めるんだ。」
無線に空電が混じりはじめる中、そんな声が飛ぶ。
メーサーヘリ、攻撃機、さらに戦車やメーサータンクの攻撃を受けながらもデストロイアは
前進を続ける。
さらにデストロイアの吐くオキシジェンデストロイヤーにより、次々と蹴散らされる地上部隊。
デストロイアはあざけるように咆哮をあげると、熱海城を打ち砕きながら再び空へ舞い上がった。
そのころ、駿河湾から飛び立った黒い生物も三島市内で迎撃のために回された国連軍の重戦闘機と
戦闘を交えていた。
当初湾内から飛び立ったときは、20mそこそこの体長であったが、現在はいくつか飛来した小型の物と
同化、もしくは火災による黒煙や工場の排煙などを吸収し、2倍近い大きさにそだっていた。
「せめて、N2の一つでもまわしてもらえませんか?!。」
芸撃隊の隊長からの懇願にもかかわらず、そのこたえは否であった。
黒い生物は、その紅い目をぎらぎらと輝かせると次の獲物を狙って移動する。
それ以上の侵攻を防ごうと攻撃を加える迎撃部隊。
だが、ミサイルは着弾しても爆発せずに体内にもぐりこんでいき爆発すらしない。
砲弾も、またレーザーも効果は薄かった。
だが、高圧線にふれると派手な火花をあげ表面が小規模ながら砕けとんだ。
そこをついて攻撃を加える迎撃部隊。
だが、数度ミサイルが爆発すると再びもとのようになってしまう。
地上、空中からの両面攻撃も効果は薄く、この黒い生物もまた再び空に舞いあがった。
エヴァンゲリオン初号機サルベージ作戦開始まであと数十分と迫った第三新東京市。
が、突然テーブルの上の小物がかたかたとゆれだした。
と、さらに強い揺れが襲ってきた。
「こんなときに地震?」
マヤが困惑した悲鳴をあげる。
場所によっては、サーチライトもいくつか倒れたようだ。
「落ち着きなさい、マヤ。」
リツコは、マヤを叱責するように静かに言うと計測機器のモニターへ目を向けた。
少なくとも、計測器、観測器の類には被害は無いようだった。
「電力、地上作業車、機器異常はありません。」
マヤの報告にうなづくと、
「その他に異常が無いことを確認したら、カウントダウンを再開します。」
と、通達をだした。
使徒の内部に現在所有しているN2爆弾を全て打ち込む初号機救助作戦は再び動き出した。
いくら腹のたつ相手とはいえ、目の前で死ぬ姿をみるのはいやだった。
アスカはそう思いながらも再び動き出したタイマーのカウントを見ていた。
「ファフ…。」
何気に、ラドンにつけた名前を呟いてみるがこころは落ち着かなかった。
いきなり、シンジが消えたらファフはどう思うんだろう。
そんなことを考えを、振り切り目の前の作戦に集中しようとした。
レイ自身、とくにシンジを意識していたわけではなかったのだが、いざこの作戦で
失うということになると、なにかひっかかるものがあることは確かだった。
作戦の開始まで数十分、このことを考えないように努めるがうまくはいかない。
刺がささったように、心の中で主張していた。
なにかが。
ネルフ本部内でも地震による被害チェックが行われていた。
使徒に対する迎撃要塞都市である異常、地震ではこれと言った被害は報告されない。
本部内でも作戦開始までのカウントダウンの再開された声がひびきはじめた。
だが、オペレーターからの声であらたな緊張が走った。
「函南町のゴルフクラブにて火山の噴火です!」
「そんなところで、火山が?」
地上の作戦指揮所にいるミサトは驚きをあらわにいった。
いくら、富士箱根火山帯とはいえ、そんなところが噴火するとは思えなかった。
「幸い、こちらへの影響はなさそうよ。」
リツコは、おちつきはらって答える。
目は、モニターに向いたままだ。
アスカは、エヴァのモニター越しにその噴火の方向を何とはなしにみていた。
気がそれた、とういう状態だろう。
だが、そのモニターのなかに奇妙な影を見た。
レイもまた、モニターの中に奇妙な影をみた。
アスカとは逆の方向をみていたが、奇妙な影はそこにも現れた。
「デストロイア、および駿河湾の生物第三新東京市に到達!
作戦域に入ります!」
モニターには、ネルフの作戦域に近づく二つの影が映っていた。
「西田博士、轟天は出せるか?」
黒木は聞いた。
「だめです、まだ出すわけには行きません。」
西田は強行に反対した。
別にネルフに恨みがあるわけではない。
だが、せっかくの轟天をみすみす沈めるわけにはいかない。
彼はそう考えている。
「西田博士、私のクルーなら大丈夫だと思いますがね。」
逸見は、その西田の態度にあからさまに気を悪くした様子を見せて言う。
二人はしばらくにらみ合ったが
「無理です、今からでても反応炉は安定しません。
出るならそのために暖気が必要です!」
「動くなら、なんとかできるだろう!」
「この反応炉は、起動してすぐはひどく不安定です!
まだ、それを制御できるレベルにはあなたのクルーは達していません!」
西田にそういわれては返す言葉もなかった。
だが、このままだまって見ていたくもなかった。
「なにか、変わりに使えそうなものはないんですか?」
逸見は、黒木に向かって怒鳴る。
「そう大きい声をだすな、逸見特佐。」
逸見に向かい、渋面をみせて黒木はしばらく考えていた。
「仕方が無い、特佐、ついて来い。」
と、おもむろに歩き出した。
「司令、あれを出すんですか?」
逸見が着いていこうとあるきだした時、西田が声をかけた。
「そうだ、あれを出す。」
逸見は、西田の顔を見ながら
「あれって、なんですか?」
と、黒木に聞いた。
「空中戦艦ベータ号。」
と一言だけ答えた。
「クルーにも集まるように言いたまえ、特佐。」
そういうと、さっさと歩き出していった。
「アスカ、レイ、その二匹を絶対に近づけないようにして!
いいわね!」
ミサトは、デストロイアともう一匹を見ると即座に指示をだした。
どの道、作戦を決行するにせよ、しないにせよシンジが助かる可能性はデストロイアの前では
皆無かもしれないからだ。
しかも、見たことの無い怪獣もいる。
迎撃するに越したことは無い。
「リツコ、準備はできてるの?」
リツコに訊ねながらも、ミサトは噴火の影響と思える微震を感じていた。
「問題は、おきていないわ、あれ以外はね。」
答えながらリツコは、都市に舞い降りた二匹の怪獣を交互に指差した。
ミサトの指示によって、エヴァンゲリオン弐号機、零号機はそれぞれ手近の目標に向かい
進んでいった。
マナは、震えてくる自分の体を抑えることができなかった。
諜報活動を行うためにさまざまな訓練を受けている。
それをもってしても、今震えてくる自分をおさえることはできなかった。
「なんで?」
歯の根は合わない自分の情けなさをのろいながらも、それでも現状を収めようと
目をむける。
だが、碇シンジの乗る初号機が使徒に飲み込まれて以降、心の中で沸き起こっていた
不安の影はいまや、霧島マナの全身を覆っていた。
もし、あの二匹の怪獣がエヴァンゲリオンに勝てば世界が終わる。
もし、撃退できたとしても、エヴァンゲリオンの損傷いかんでは初号機がどうなるかわからない。
「私は、碇シンジを心配してる?。」
マナは自分のこころの中に湧き出た不安の原因を唐突に悟った。
それは、シンジに対する気持ちから発生したことだった。
「わたしは、あんなひ弱なのは、別にすきじゃない!」
否定するように声にだして叫ぶ。
だが、震えはとまらなかった。
地上での騒ぎを感じ取ったのか、ラドンはついに檻を打ち破ることにしたようだった。
激しく体を打ち付け、ときには翼猛々しく動かし、そしてついにその重合金製の檻を自らの力の下に屈服
させた。
檻の外に姿をあらわすと、ひときわ高らかに咆哮する。
「碇、奴が外にでたぞ!」
冬月は、その状況を確認するとゲンドウに対し非難をこめた声で詰め寄る。
「かまうな、たかが獣一匹だ。」
だが、ゲンドウはそれすらも見据えていたかのように答える。
「ほんとうに、いいのか?」
「ああ、かまわん。」
まるで、自分が神の力を代用しているかのような超然とした様子のゲンドウに冬月は
逆に不安を掻き立てられた。
翼をひろげ、己の力を確認するように数度羽ばたくと、ラドンはその体を空に浮かべた。
使徒に覆われ、地上部との接点を失いアンバランスな状態で天井からぶら下がる都市基底部。
その様子をうかがうように、ラドンは慎重に、かつ大胆にジオフロント内を旋回しはじめた。
震えを止めようとする自分をあざ笑うかのような微震を感じながらマナは、それでも
都市部での戦闘を見て、記録していた。
だが、みていればいるほど震えがおさまらなくなる。
紅いエヴァ、弐号機がつきたてた斧、スマッシュホークは黒い怪獣に突き立つと動じに先端から
溶けて、役にたたなくなった。
弐号機は、次に武器を手に果敢に挑んでいくが、どの武器も相手に突き刺さるか、もしくは触れると
同時に形をうしなっていく。
また、デストロイアに向かって青いエヴァ、零号機が砲撃を加える。
劣化ウラン弾頭をつかっているというその弾丸は、しかしデストロイアにダメージを与えた様子は
伺えない。
逆にデストロイアの怒りをあおっているだけにしかみえない。
事実は、多分そのとおりなのだろう。
マナは、すでにひざの力が抜けていることに気づいた。
だが、たっている自分。
なんのためにたっているのか、それすらもわからなくなりそうだった。
「だれか、なんとかして、・・・。」
おもわず口をついて出た言葉だが、それが自分のしゃべった言葉だとは信じたくは無かった。
無力感。
ここ1、2年は感じたことは無かった。
今、それを再び味わっている。
逸見は黒木の後について入っていった部屋に灯りがつくと同時に、思わず目を瞑った。
そこには、妙に明るかった。
「これが、ベータ号だ。」
黒木の指すものをみる。
それは、白い紡錘型の巨大な航空機だった。
「これが、空中戦艦ですか?」
逸見は黒木にきいた。
自分の思っていた空中戦艦とは違うな。
「まあ、そうだ。」
逸見が、それを眺めている中、彼のクルー達が集まってきた。
「操作は、バウンティと対して変わりは無い、なんとかできると思う。」
黒木はそいうと、そこからでていこうとした。
「まあ、試作の2番機なんだがな。」
そんなことを付け加えてから、その部屋をでた。
逸見と、そのクルーは即座にベータ号に乗り込むと自らの持ち場に着いた。
洋上で、ゴジラと相対したときもこれほど怖くはなかった。
だが、あの時自分はトライデントの中だったし教官である三ノ輪と一緒だった。
だが、今は一人だった。
そして、無防備な姿で戦場の間近にいる。
気が付くとマナは自分が涙をながしているのがわかった。
恐怖による涙なんて何年ぶりだろうと、思わず考えていた。
デストロイアは、その倍はあろうかというエヴァンゲリオン零号機を組み臥していた。
ラドンは、地上に出るために行動を開始した。
もっとも不安定なビルの底部を見定めると、そこに幾度も体当たりを食らわせた。
ビルは、すぐに降伏のサインを出し始めていた。
そして、今ラドンは地上へと飛び立とうとしていた。
ver.-1.00 2000/05/15公開
ご意見・ご感想は国連G対策センターまで!!
んー、まあ、なんですかな。
なにがなんですかななの?
いやー、なんか、ねえ。
おまけに、霧島さんの方が目立ってるわ。
あの人って、怪獣物むきだよね、よく知らないけど。
よくしらない?
うん、うわさできくだけだけど、なんか波川女史みたいな役割ってよさげだよね?
だれ、波川さんって。
あー、最近の若い子はわかんねえかぁ。
そういえば、33歳だったわね。
いや、もうよろこんでって感じ?
しかし、まあなんですね、こうなるとこのネタについてくる人っているんかいな?
前回のVITOLにもだれもきづいてくんねーし。
つづり違いじゃなかったのね?
はやぶさとあわせて、妖星ゴラスだったんですけどねえ。
はやぶさにわかる人はいるんですけどね、VITOLはいなかったねえ。
マニアね。