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アヤナミ・オーヴァードライブ

 

誰もが心をおどらせる季節。

たとえそれが、自分のことであろうとなかろうと。

多感な思春期の始まりにはこんな季節が少なくとも年に3回は訪れる。

2月14日。

誰がきめたかヴァレンタイン・デイ。

そう、どんな女の子にもチョコレートを渡したい相手という者はどういうわけか

存在するのだ。

 

例外にもれず、蒼銀の髪、紅い瞳の少女もチョコレートを渡そうとその年は心に決めた。

「いた。」

自分を奮い立たせるように声に出す。

が。

いつもの様に、紅い髪、青い瞳の少女が側にいる。

それならまだしも。

その二人を冷やかすように、黒いジャージの少年とメガネにカメラがデフォルトの

少年がいる。

このままじゃ、さすがに渡すのにはいささかよくないと判断した彼女はそれでも

朝の挨拶をかける為に近づく。

「おはよう…。」

その声に振り返る4人。

「あ、おはよう綾波。」

「おはよ、ファースト。」

「なんや、今日はいつにもまして声がちいそうないかい?。」

「これは。」

各自各様に答える。

「うるさいわね、雑魚ども。」

と普通だったら言い返しそうな状況だが、この少女に限っては、ない。

「じゃ、先に行くから。」

なごり惜しそうな雰囲気を垣間みせ彼女は走り出していった。

「綾波、一緒に歩いて行けばいいのに。」

そんな気の弱そうな声で言う少年。

「なによ、シンジ、なんか気になるの?。」

故あって、以前程の明るさは無いにせよ気の強そうな声で言う少女。

「別にそんなんじゃないけど…。」

気にならないわけではないが、それでもそう答える。

それが、彼、碇シンジであった。

 

(通学路で渡せなかった場合、下駄箱にいれるべし。)

幾度と無く言い渡された情報。

まあ、彼女は作戦司令と呼んでいたが。

それを心の中で繰り返し、繰り返し呟き彼女は学校の玄関にたどり着いた。

いざ、作戦開始。

だが、そこでふと彼女は気がついた。

(碇君がきれいずきだったら…。)

そう、たとえ彼が優しくてもきれい好きな人間が下駄箱の中のチョコをたべるだろうか?。

否。

彼女は即決すると、教室へ足早に駆け上がった。

そう。

机の中のチョコレート。

彼女の集めた情報の中から統合すればこれほど条件に適ったものはない。

その作戦(アドリブだが)を決行するために彼女は階段を駆け上がった。

しかし、好事魔多し。

「あら、綾波さん今日は速いのね!。」

息せききって駆け上がった彼女の目の前にはクラスの良心洞木ヒカリ嬢がたちはだかった。

いや、別にたちはだかった訳ではないが。

「ちっ」

とふつうなら舌打ちしそうなもんだが彼女はそんなことはしない。

「そう?。」

つとめて冷静を装い席に着くとぼけっと外をながめる。

ふり、をしながら標的碇シンジが到着するさまをながめていたりする。

(作戦3、昼休みに屋上で渡す。)

授けられた作戦。

その3番目を心に呟き、午前中の退屈極まりない時間に突入するのであった。

 

 

「そのころ、わたしは根府川に…」

いつもの老教師独演会が始まった。

そして、それをいいことに皆が皆独自の時間を持ちはじめる。

普段は気にも留めない綾波レイだが、今回は少しばかり標的の存在が気になる。

(あと、2時限…)

時計を気にしつつ、回りを見渡す。

と、その時。

3人の携帯がベルを鳴らす。

三者三様に応対をする。

内容は同じ。

『いい、3人ともよく聞いて。

使徒が現われたわ。』

今更なそんなせりふ。

各自、各様に異論反論を述べる。

『判ってるわ、すでに使徒は全て撃退されたってことも。

でも、全ての使徒が再生されて再びせめてきたのよ。

これには、ゼーレもからんでないわ!!。』

こう言われては仕方ない。

「シンジ!、ファースト!、行くわよ!!。」

アスカの声が全てを告げる。

思い出の世界に浸っていた老教師を残して教室の全員が避難を始めた。

「3人とも、がんばってね!。

アスカ、まけないでね。」

ヒカリの声に振り向くアスカ。

「大丈夫!!、受けた屈辱は100万倍以上、つまり1ヨタ以上を返すわ」

力強く拳を握るアスカ。

「急ぎましょう、惣流さん。

時間がないわ。」

だがレイのことばは楽観的に過ぎた。

そう、気がつくと教室の窓の外には第三使徒の姿が。

「もう、ここまで!!。」

シンジが困惑の叫びを出す。

生徒達が逃げるのも、EVAを出すのも間に合わない。

「とにかく、NERV本部に行きましょう。」

レイが提案する。

確かにそれ以外有効な手段も見当たらない。

「でも、学校のみんなは?。」

シンジは困り切った顔でレイに聞く。

「心配するなシンジ。

ここには、シェルターかてあるんや。」

ジャージ男、トウジが力強く答える。

そう、彼等はシンジ達に心配かけまいと精いっぱいの元気を振り絞り笑顔で彼等に

向かっていた。

「そうだよ、心配しなくて大丈夫だよ。」

「エヴァが動けば、あんなのやっつけられるだろう!。」

彼等の期待に満ちた顔。

不安ではあるが、3人に期待をかけた顔を見る限り3人は安心して此所を離れることが

できる。

そう、そんな彼らの期待に答え不安を吹き飛ばす為にもエヴァに乗らなければならない。

ことになっているのだから。

「判ったわ、みんなまってて!。」

アスカの声を合図に3人はNERV本部に。

他の皆は地下シェルターに向かってはしっていった。

 

彼らは走った。

使徒は全てそろっている。

と言う事は、地雷原を走っているのと同じである。

早く本部につかなければならないが、だが生身でディラックの海に落ちる事は避けたい。

そう考えていても周囲に流れ弾が落ち、被弾した戦闘機群が落ちてきていては中々理想

通りにはいかない。

「どこか、この辺に専用通路ってなかったけぇ?。」

アスカが爆音に負けじと声をはりあげる。

「あと、2ブロックはあってもはいれないよ」

それに答えるようにシンジが叫ぶ。

「大丈夫、そこにあるわ。」

レイはいつも通り静かに言う。

「あにい?」

二人が、聞き返す。

と同時に、3人は地下に吸い込まれていった。

 

 

吸い込まれて、おっこちた先。

そこは懐かしのエアダクトである。

ダクトの中を3人が前と同じように這って行こうかとしたとき

「別に、停電じゃないわよねえ。」

アスカが言った。

「そう言えば、そうね。」

レイも答える。

「じゃあ。」

シンジが言うか言わないかの内に3人ともに廊下に降り立った。

「じゃ、急ぎましょう。」

レイが声をかけて、全員が走り出す。

ひたすら発令所に向けて。

 

使徒軍団襲来より遅れる事20分。

「無事だったのね、みんな!。」

ミサトが駆け込んできた3人をみて顔をほころばせる。

「早速だけど、3人ともすぐにプラグスーツに着替えて頂戴。」

「エヴァ2機で迎えうつんですか?。」

息を切らしながらシンジが聞いた。

「今、その説明をします。」

リツコが何処からとも無く、バインダーに資料を大量に挟んで現われた。

「今回の使徒は何らかの理由によって、再生強化されたものです。

残念ですが、その目的、再生者はまだ判明していません。」

そこで、リツコは大きく息をつくと

「今回の使徒、これらは再生されたものです。

したがって、各使徒の末尾にRをつけます。」

と、たからかに宣言した。

「ああるうぅ〜〜?」

アスカとシンジが同時に叫んだ。

「そう、再生、すなわちリターンのRよ。」

自身満々にリツコは言う。

「でも、リツコさん。

エヴァ2機だけでどうするんですか?。」

シンジが泣きそうな声で聞く。

シンジでなくとも泣きそうにはなるだろう。

「大丈夫よ、シンジ君。」

そして、白衣のポケットからリモコンと思しき機械を取り出す。

「レイが零号機にのるわ。」

「ぜ、零号機って、爆発したじゃない。

そうでしょ、ファースト!!。」

アスカは、レイの方に目を向ける。

「知らないわ、私多分3番目だから。」

「何度も聞いたわよ、そんな事!!。」

アスカの突っ込みを無視してレイはさらに考える。

(戦闘を切り抜けて、その時に渡す。)

そればかりを考えていた。

「ちょっと、無視しないでよ!。」

二人のやり取りを無視してリツコはリモコンのスイッチを操作する。

「こ、これは!。」

シンジが目を見張る。

「そう、爆発四散した零号機を再生した者。

エヴァンゲリオンR、すなわち復活者エヴァンゲリオンリバース。」

「誰もそこまで説明をもとめてないわよ。」

ミサトはその長い口上のわりにはあっさりとした名前に不満のようだった。

「とにかく、このエヴァンゲリオンリバース、通称エヴァンゲリオンRは今迄の

零号機よりもパワーで50%アップ当社比でしてるわ。」

「当社比で?。」

「どうして、あんたっていつもそう何考えてるか判らないの!!。」

「アスカ、レイ人の話を聞きなさい!!。」

リツコは説明も聞かず言い合っているアスカとレイにかんしゃくを爆発させた。

「でも、きいても聞かなくてもおなじでしょ。」

レイが冷静にコメントをする。

「そ、そおおお。

じゃあ、もう言わない。」

「赤木博士、拗ねずに作業を続行したまえ。」

先ほどから黙ってみていたゲンドウがいい加減飽きたのか口を挟んできた。

「は〜いぃ。」

まるで、小学生の様に返事をすると何かぶちぶち呟きながら歩き去っていった。

「と、とにかく。

現状は非常に不利だわ。」

ミサトがやっと作戦の説明を開始した。

「シンジ君とレイ。

二人とも、早速でわるいけどすぐに北海道に行ってもらうわ。」

「ほっかいどう?。」

ユニゾンする二人。

「そう北海道。」

「って、どこ?。」

「…。」

レイの一言は周囲を一瞬停止させた。

まるで、セルをはしょったアニメのようだ。

「日本の北の島だ。」

「そう、わかったわ。」

「とにかく、そこのNERV兵器開発センターでこの時の備えて作っておいた兵器を

輸送してもらうわ。」

「アタシは?、ねえ、あたしは?。」

アスカが泣きそうになって聞く。

「アスカは、もし此所にせめてこられた時に備えて待機。

それに、精神攻撃をまた受けた時に備えてここで常時モニターできるようにして

おきたいの、わかるでしょう。」

と、説明するミサトを睨むアスカ。

睨み返すミサト。

さらに睨むアスカ。

さらにさらに睨み返すミサト。

二人の視線が絡み合う。

緊迫した空気が室内をただよう。

ポッ。

「ま、まあ、ミサトがそこまで言うならしょうがないわ。

ね。」

ほほを染めてアスカが言う。

「そ、そぉうお、わわかってくれたら、ねえ。」

耳を赤くして答えるミサト。

心なしか、二人とも瞳がうるんでいるようだ。

「アスカ…。」

「ミサト…。」

固く抱き合う二人。

ああ、二人に幸あれかし。

「な、なんでそうなるんだ?。」

日向が一人呟く。

 

「隊長、これ以上ここは持ちません。」

作戦指揮車の中に若い兵士が駆け込んできて報告する。

「撤退命令を!!。」

だが、隊長は顔を上げると

「泣き言を言うな!!。

子供たちは今迄これ以上のことに絶えてきたんだ。

我々に出来ないことはなかろう!!。

後少し、もたせるんだ!!」

残された戦車隊をさらに前進させようと外にでたところその隊長にむかって使徒の放った

光線が飛んできた。

「あ、」

第一次防衛線、壊滅。

 

「そういうことで、状況は逼迫してるの。

準備いそいで。」

アスカと腕を絡めたままミサトが指示をだす。

「さ、アスカ準備して。」

唇を重ねる二人。

「大人のキスよ。

おわったらゆっくりと…。」

「わかってるわ、ミサト。」

3人は更衣室へ向かっていった。

 

その頃地上では、迫り来る使徒相手に第二次防衛線が迎え撃っていた。

「隊長、使徒天城峠を越えました。」

通信士の報告に命令が下る。

「航空支援開始。」

待機していた戦闘機部隊が爆撃を開始する。

その攻撃を合図に戦車隊の一斉射撃が始まる。

轟く轟音の中、シャムシェルRの鞭が前衛の戦車隊をなぎ払う。

だが、戦車隊も負け時と次々砲火を集中する。

上空に現われたラミエルR。

熱線が山肌を焼きながら野戦砲部隊を焼き払った。

「まだか!、支援の部隊はまだか!!。」

小隊の隊長たちから野戦司令部に悲痛な声が届けられる。

「大丈夫だ、今此所を乗り切ればきっとなんとかなる。」

数キロ先の戦場の火を見ながら彼らはそう答えるしかなかった。

 

「ねえ、ファースト、何を大事そうに抱えてるの?。」

プラグスーツに着替えたアスカがジッパーバックを大事そうに抱えたレイをみて

不思議そうに聞いた。

普段、そんなものを抱えてエヴァに乗り込んだりはしない。

ゆえにそう聞いたのだ。

「大事なもの。」

中には、きれいにラッピングされたチョコレートをタッパーにいれさらにLCLのにおい

が着かないように、ジッパーバックで完全密封してある。

「ふーん、そう。

なんでそんなに大事なの?。」

レイはそのことばを聞くとふと上を見上げ静かにこういった。

「絆、だから…。」

「そう。」

しんみりと、するアスカ。

「…、かなぁ。」

「かなじゃないでしょ、かなじゃ。」

「よくわからないわ、私…、」

「ああ、3番目だってんでしょ、なんとかの耳に念仏よ!!。」

「馬の耳に念仏。

でも、耳にたこができるが正しいと思う。」

「い、いいのよ私はドイツ人なんだから!!。」

 

準備を整えて発令所にいくと、リツコがまたまたバインダーに大量に資料を持って

まっていた。

「来たわね、みんな。」

白衣をなびかせて、くるっと振り向くと3人を見る。

「今回は、手っ取り早く説明するわ。

シンジ君、レイ、あなた方二人はシークレット電磁カタパルトでエヴァごとカプセルに

のって射出されるの。

その際の衝撃は…」

早口で捲し立てるリツコを呆然と見ながら3人はなんとか説明を聞いた。

「…というわけで初速は秒速35kmだけど空気との抵抗で最終的に時速350kmまで

減速されます。

北海道NERV富良野ラベンダー開発施設までおよそ10分位ね。」

リツコの驚異的な早口で、通常30分もかかるであろう説明は辛うじて10分以内に終わり

各自が準備に入った。

「でも、なんだかんだ言っても紙飛行機だよな。」

青葉がぼそっと呟いた。

 

見上げると、そこには従来の青いカラーリングに加え白とピンクのラインが増え光学系の

探査機がゴーグル状になった旧零号機、エヴァンゲリオンリヴァースがいた。

「…。」

無言で見詰めたレイがエントリープラグに乗り込むと震える様に震動してから起動した。

「また、いっしょなのね。」

ふと息を吐くと液化状態のLCLの中に泡が浮かぶ。

だが、それもふと消える。

稼動状態になったのだ。

「二人とも、今回の大改装でエヴァは全機S2機関搭載よ。

しっかりたたかってね。」

ミサトがそう言うと同時に、震動がNERV本部を襲った。

地下からサンダルフォンRがせめて来ていた。

それだけではない。

上空にアラエルRが飛来している。

空と地下からの二重攻撃。

他の使徒が来るまで足止めをしようというのか。

対空兵装が全て開き、攻撃を開始する。

だが、アラエルRはそれを物とせず襲ってくる。

「地下からの攻撃はなんとか防げるわ。

でも、空の敵は押さえ切れない。」

「アタシがいくわ。

いって八つにたたんでやるわ。」

リツコの説明にアスカが叫ぶ。

「でも、危ないわ前回あれに…、」

制止するミサト。

だがその制止を振り切りアスカは走った。

弐号機のエントリープラグにのるや、すぐに起動させる。

「いくわよ、ミサト。

借りをかえしてやるんだから。」

カプセル射出のカウントダウンが続く中、ミサトは逡巡した。

アスカを出せば、カプセルは出せる。

だが、アスカが逆にやられてはカプセルの発射も危うい。

「わかったわ、アスカ。」

弐号機は発進した。

 

「ゆれてるけど、大丈夫なのかな。」

「カウントダウンしてるし、平気よ、多分。」

射出待ちの二人は外の様子が分からない。

内部でのみ有線で会話ができる。

 

調子にのって地上付近まで近づいたサンダルフォンRをソニックグレイブで突き刺すと

思いっきり空になげあげる弐号機。

落ちてきた所をさらに取り出したソニックグレイブで地面に突き刺す。

身動きの取れないサンダルフォンR。

苦しんでいるのか暴れるサンダルフォンR。

そう、マグマの中や地中の中を自在に動き回る為に強力な圧力に耐える様にできた体。

そのため、1気圧以下の状態では自らの内部の圧力に負けてしまうのだ。

暫くもがき苦しんだかと思うと、内側から破裂して粉々にとびちってしまった。

使徒これで1匹せん滅。

「次はあいつねえ。」

アスカは上空を我が物で飛び回る敵、アラエルRを見やる。

と、その時。

 

「割れたかしら?。」

衝撃とともにピシという音を聞き心配になるレイ。

「なにが?。」

有線のオープンチャンネルなのでシンジに筒抜けであった。

「別に、なんでもないわ。」

つい、慌ててつっけんどんに返答してしまったレイ。

(ああ、いけない。

今の返答だめだわ、私あわててるのね。

そう、これが慌てるということなのね。)

 

だが、慌てたのはアラエルRであった。

その猛烈な衝撃波のためにバランスを崩し、哀れ地上に落下してしまったのだ。

「ふ、積年の恨みはらさしてもらうわ。」

低い声がスピーカーを通して聞こえる。

4つの光学センサーを妖しく光らせた弐号機がそこに立っていた。

 

 

「たのんだわよ、シンジ君、レイ。」

第三新東京市NERV本部の期待を一身にうけ、空に白い筋をつけてシャトルは

飛んでいった。

 

 

そして、10分の経過。

カプセルは、富良野上空に到着した。

自動制御で着地するシャトル。

ラベンダー畑の中に隠された滑走路が開き無事にカプセルを回収する。

そのまま地下施設へとエレベーターで降りて行く。

「よく来てくれた、責任者の岡だ。」

「開発部主任の斎藤だ。」

基地の最高責任者二人に迎えられたシンジとレイ。

「すまないが、あと1時間は準備が必要だ。

少し、まっててもらえるかな?。」

岡が聞いた。

「判りました、でもなるべく急いでください。」

待てないと言っても待つしかないのでこう答えるしかない二人。

「よかった、じゃあ地上のカフェでしイタメシ&ワインでも」

「いや、やはりなべ物でしょう。

なべに日本酒が一番ですよ。」

「いや、しかしラベンダーワインもあるのだ。」

二人は睨み合った。

「あのう、僕たち未成年ですけど…。」

シンジのことばにはっとなって振り返る二人。

「なんだと、その年でまだ酒を飲んだ事がないだと!!。」

斎藤は怒鳴った。

そう、この年で酒を飲む事を拒絶するなどあってはならいのだ。

「まったく、最近の若い者は!!。」

「でも、もどるとき酔っ払ってたらいけないわ。」

レイはひっそりと突っ込んだ。

「む、確かにそうかもしれん。

わかった、上のアンミラでゆっくりとしていたまえ。」

こうして二人は準備が整うまで、地上で待機する事になった。

 

「碇君。」

「なに、綾波。」

二人は、無事喫茶店でくつろいでいた。

外では、のどかに羆が吠えている。

「碇君は、そのう…」

「お待たせしました、シナモンティーとアップルパイのお客様は?。」

「あ、私です。」

話の途中で、ウエイトレスが注文したものを持ってきた。

目の前に並べられるアップルパイとシナモンティー。

「チーズケーキとアプリコットティーのお客様はこちらですね。」

入り立てなのか、マニュアル通りに行動して行くウエイトレス。

「とっととどけよ!!」

と心の中で思っても決して口には出さないレイ。

ウエイトレスが歩き去ると、またなにか面映ゆい沈黙が流れる。

そう別にはずかしがることはないのだ。

だが、しかしやはりすこしばかり照れる。

そわそわとシンジの方幾度か見る。

それに気づいてかそれとなくやはりそわそわしているシンジ。

意を決してレイはことばをつむいだ。

「い、いかりくんは、その、その、すきなひとって…。」

『碇シンジ、綾波レイ両名は至急作戦室へ。』

次の肝心のことばを出す前に無情にも緊急呼出しがかかってしまった。

まだ、予定よりも30分も速い。

だが、レイは思った。

せめて後30秒。

 

しかし、そんなレイの思いも虚しく彼らは作戦室に立っていた。

『二人とも、ごめんね。

予測ミスだわ、使徒が全てそちらに向かっていったの。

およそ、15分でそこに着くわ。』

ミサトが切羽詰まった顔と声でアスカを腕にからませて言ってきた。

「いつものことじゃないの。」

やはり声には出さないレイ。

「しかたない。」

突如会話に横から入ってくる斎藤。

「此所で迎え撃つしかないですな。」

驚く二人。

何故ならここには兵装ビルもなければ、支援部隊もほとんどいない。

「どうやって!?。」

シンジの叫びともいえる問いに答える岡

「我々の開発した兵器、本来君たちが持ってかえるはずだったものだ。」

「僕たちが持ってかえるもの!!。」

「そうこの兵器さえあればもう平気。」

北海道の気温は5度以上下がった。

 

「でも、どんな兵器なの?。」

レイの問いに斎藤は胸のポケットからリモコンを取り出すと

「これです。」

と、突如目の前の壁がスクリーンになった。

そこには。

「零号機改装リヴァース機にはこの、PERSONAを。」

「モバイルパソコン?」

シンジはその名前を聞き思わず聞いた。

「違うわ、ゲームよ。」

レイが訂正する。

その二人の会話を苦笑しながら聞く斎藤。

「いえ、プラズマ・エレクトリック・ライフルシステム・オン・ニュークリア

アクティビティ。

頭文字をとってペルソナです。」

胸を張って説明する斎藤。

頼もしげにみる地球温暖化の最終兵器、岡。

「二つともですか?。」

レイだけはこういう時にマイペースだ。

「いや、もう一つはこのN2轍鋼弾頭弾ワイルドドッグとその専用ライフル白銀だ。」

岡がにやっとわらって言う。

「ワイルドドッグ。」

シンジはことばが続かない。

「弾は何発?、まさか1発とかいうわけではないでしょうね!!。」

突如、ミサトの声が響いた。

「きこえてたのか。」

苦々しげに言う斎藤。

だが顔は笑顔だ。

「そんなことはありません!、充分必要な分は用意してあります。」

「そう、一発うって終わりなんて事にならないでよ!。」

と、言いたい事だけいってきれる通信。

「というわけだ、これで使徒に充分勝てるぞ。

しかし、なんだってこんなに組織だってるんだ?。」

岡の声が終わるのを待っていたかのように新たな声がわって入る。

『僕が望んだからさ。』

その声を聞き、シンジは恐怖に囚われた。

「う、うわあああああ。」

錯乱するシンジ。

部屋の隅にうずくまってしまったシンジ。

そんな彼に向かうレイ。

「だいじょうぶ、こわくない。」

そういいながらシンジを優しく抱きしめるレイ。

「カ、カヲル君は僕が殺したんだ…。」

最も新しく、最も恐ろしいトラウマにさいなまされるシンジ。

だが、レイはそんな彼をただ優しく抱きしめ

「大丈夫恐くないわ、あなたは私が護るもの。」

耳元で強くささやいた。

少しづつ自分を取り戻すシンジ。

「ありがとう、綾波。」

恐怖をその瞳に浮かべながらも、無理に笑顔浮かべる。

レイは、もっていたポーチから今こそ渡そうとした。

だが、強烈な振動と共に轟音が所内に響いた。

「くそ、もうここまで来たのか。

仕方ない、いくぞ。」

岡は、にがにがしげに呟く。

「二人ともがんばってくれ。」

そういうとおもむろにポケットから取り出した携帯端末を操作する。

「あ、ハニ〜?。

今日はちょっとおそくなるから先にねてて。

…、わかってる絶対のんで帰らないから。」

その言葉を背中に聞き、レイとシンジは格納庫へと向かう。

斎藤が先導して進んだその先にはいつのまにか装備されたのか、ペルソナと白銀を持つ

リヴァースと、初号機。

ライトアップされたその姿は、まるで新しく見るかのような感銘を二人に与えた。

「よし、発進準備!。」

岡の声に俄かに所内が活気づく。

各自、エントリープラグに乗り込み戦闘準備にはいる。

シンジのモニターに斎藤の姿が映った。

「碇シンジ君、君の初号機も改装を少し加えた。

白銀の衝撃に耐えられる様にしてあるし、装甲出力、共にアップした。」

「そうなんですか?。」

「そうだ。

名づけて、エヴァンゲリオンハードボイルド。」

「ハード、ボイルド?。」

「じゃ、がんばってくれ。」

通信が一方的にきれる。

「別に、初号機のままでいいじゃないか。」

なんだか判らず、不満そうに呟くシンジ。

 

ついに、戦いの火蓋が切って落とされた。

ここ北海道の基地もまた、戦闘装備はそれなりにされている。

まず、ラベンダー畑に隠されたロケットランチャーが火を噴いた。

徹甲ライフルN2弾頭ワイルドドッグを完成させるだけの技術力をもつこの基地は

試作対使徒用ミサイルワールドカップを撃つ。

ATフィールドを貫通するだけの威力を持つ指向性炸薬に、さらにその中から大量の

小型弾頭が飛び出すタイプだ。

これの集中砲火をくらってはさすがの使徒もたまらない。

体液を飛び散らせ、倒れる帰ってきた第三使徒。

「よし、次ぎだ!!。」

岡の司令が無線によって、次々飛ぶ。

見ると空から無数のミサイルがコアをめがけて飛んでくる。

ATフィールドをはるまもなく、使徒は爆散した。

「すごい、これならぼくたちいらないじゃないか。」

シンジは感嘆の声をあげる。

「いや、今日はここまで。」

「は?。」

シンジはその斎藤の声に間抜けな声をだす。

「つまり。弾切れだ。」

「え、ええええ!?。」

「たのむぞ、二人。」

無情にも射出されるEVA2機。

残った使徒10数体をあいてにどうしろと言うのだろうか?。

とにかく、湖の中に隠されたカタパルトから猛烈な勢いで空にまう2機。

目の前にリング状の使徒が現れる再び融合を試みようというのだろうか。

だが、間髪を入れずシンジの白銀が火を噴いた。

ワイルドドッグはその設計とおりの性能をいかんなく発揮してそれを粉砕した。

「まって、まだ僕なにもやってない!!。」

急な事でシンジは叫ぶ。

「大丈夫、射出時には緊急迎撃コマンドが有ってそれで敵を勝手に撃ってくれる。」

斎藤、誇らしげに語る。

その説明が終わると同時に、着地する2機。

「撃つわ!。」

レイは、とりあえず空中要塞使徒にねらいを定める。

「発射まで、30秒かかるからな。」

岡が言う。

「ねらいをつけつつ、逃げる。」

斎藤が戦法を伝授する。

レイはとりあえず走るが、ねらいはそれる。

粒子ビームがリヴァースをねらったその時。

使徒のビームは空に向かって伸びていった。

と、直後に地響きを立てて大地に落ちる使徒。

「え?、なに?。」

見ると、エメラルドグリーンとシルバーに彩られた見慣れないエヴァがそこにいた。

背中を向けているそのエヴァはゆっくりとこちらに振向く。

「あ、あれは!!。」

岡と斎藤が同時に驚きの声を上げる。

「だいじょぶ、ですか?。」

やはり、14歳くらいの少女の声が無線回線を通じて聞こえてきた。

「ええ、でもあなたは?。

それにそのエヴァは?。」

レイは、いぶかしんで聞いた。

量産形でもなく、かといって今までのエヴァともどことなく違う。

「私は、6thチルドレン帆足マリエ。

そしてこれは、次期主力エヴァンゲリオン、空も陸も海もすべての状況で戦える

万能型、名づけてエヴァンゲリオンミラクル、通称エヴァンゲリオンM!。」

そういうと、エヴァンゲリオンMはすっくと立ちあがる。

心なしか背中から光りを受けてるように見える。

「ふ、こんな事も有ろうかと使徒に負けず劣らずの性能のエヴァを作り上げたのだ。」

キールの声が聞こえた。

「われらとて、人の未来を愁いる気持ちは同じ。

今こそ、力を結集して未来に向かう時が来たのだ。」

映像回線と言わず音声回線と言わず、ところかまわず通信を占拠する。

「わかった、みんな力を合わせてこの危機を乗り切るのよ!!。」

ミサトがまたまた通信をよこしてきた。

そう、ミサト達も黙ってみていたのではない。

今、この決戦の地北海道大雪山に向かい全速で向かっているのだ。

だが、そんな彼女たちの前に新たな脅威が出現した。

ガギエルR。

空を飛ぶ事を覚えたガギエルRは大型輸送機に向かって突進してくる。

「なめないでね!!。」

ミサトは、操縦韓を右へまわすと赤いボタンを押した。

すぐさま、翼の下に取り付けられたロケットランチャーが赤い炎の尾を引いて

目標に向かい大量に発射された。

たまらず旋回してよける使徒。

「あまい!!。」

ミサトは機体を急旋回させると

「リツコ、日向君、いくわよ。」

と、指示を飛ばす。

見ると大型輸送戦闘機は突然三つにわかれた。

「フォーメーション3!。」

三機に分離した機体は、三方から使徒に攻撃をかけた。

 

「と、いう状況だ。

彼らの到着までもたせるんだ。」

岡はそう指示を出した。

「わかりました。」

マリエ、レイ、シンジが返事をする。

そしてマリエは、再び上昇する使徒にエヴァンゲリオンMを対峙させた。

「この戦い。

この戦いで全てが終わるのね。」

そう呟くと、マリエは敵を睨みエヴァンゲリオンMを跳躍させた。

その時、シンジはゼルエルRと戦っていた。

だが前回の戦いとは違い、シンジのほうが有利だった。

白銀のねらいをつけると、ワイルドドッグをその胸のコアに叩き込む。

ATフィールドも遮蔽壁も役に立たず、ゼルエルRは粉々に砕け散った。

だが、ふと周囲が暗くなった事に気づき上を見上げる。

そこには、衛星軌道上からこの時をまっていたかとばかりに使徒がその中心に

ATフィールドを集中させて落下攻撃をかけてきた。

「碇君!。」

レイは、叫ぶと目の前のマトリエルRを蹴飛ばしてシンジのほうに向かった。

シンジのエヴァンゲリオンハードボイルドは空に向けて白銀を撃ちつづけている。

だが、集中された敵のフィールドを破る事ができない。

迫る使徒。

その状況に気づいたエヴァンゲリオンMのマリエは、空から来る敵に向かおうとした。

だが、粒子ビームにはばまれて思うように進めない。

「だめ!。」

涙がにじんでくる。

レイの駆るエヴァンゲリオンリヴァースもまた他の使徒達にはばまれていた。

ペルソナの発射まであと15秒はかかる。

ついに、使徒がシンジのエヴァンゲリオンハードボイルドに覆い被さるように落ちてきた。

さくれつするまばゆい閃光。

爆発四散しなかった使徒の下にシンジはいる。

レイは急いで駆け寄ると、使徒の身体の端から出ているエヴァの腕をつかむ。

引っ張り出そうとすると、腕だけが抜けてきた。

「ひっ!。」

思わず息を呑む。

「碇くん!!。」

パニック寸前のレイは使徒の死骸を持ち上げようとする。

「わたしも、てつだいます!。」

マリエがエヴァンゲリオンMで手を貸す。

2機のエヴァによって持ち上げられたその下には。

「い、やだ。」

黒くこげた残骸があった。

「いやあああああ、いかりくん!!いかりくんっ!!。」

「あやなみ、綾波、あやなみってば!!。」

気がつくとシンジが目の前にいた。

「よかった、碇君生きてて。

わたし、わたしもうだめなのかと思って。

あの様子じゃもう助からないと思って、でもでも無事で良かった。

せっかく、作ったのに、渡せないかと思って…。」

「渡すって、なにを?。

それに、綾波…。」

「そ、その、チョコ。

せっかく聞いたイベントだし、渡したかったの。」

「そ、それってバレンタインの?。」

「ええ、そう。」

ちょっと、頬を染めて答える。

「ありがとう、うれしいよ。

でも、それって先週の事、なんだけど。」

そう言われて、レイはふと気づいた。

クラスのみんなが驚いてこちらを見ている。

衆人監視の中レイはチョコをシンジに渡したのだった。

いや、老教師はまだそれを気にせず話しつづけているが。

「え?、あ…。」

真っ赤になるレイ。

「ふ、ふったりとも、廊下にたってなさいいいい!!!。」

そして、クラスの良心洞木ヒカリの怒鳴り声が学校中に響き渡った。

 

 


NEXT

ver.-1.00 1999_02/22公開

ご意見・ご感想・そういえばこんなこととかは

だいたいこのあたりまで!!


 

やっほー、ひさしぶり。



 SOUさんの『アヤナミ・オーヴァードライブ』、公開です。




 ”帆足マリエ”で「ア、もしかして」と思い、
 ”エヴァンゲリオンM”でやっと気が付きました。


 「どこかで聞いたことがあるような・・・」
 とは感じていたんですけど(^^;

 か、感じていましたよ、ホント。。。
 ゼンゼンきがついテイナかったってことはなかッタんですん、、ホんと二・・・





 再びやってきた使徒ズ!
 強化されていて苦戦は必至!

 でもでも
 EVA以外の攻撃でも結構やられてる。

 いやいや
 やっぱり強くて・・


 ふぅぅぅ

 夢でよかった(^^)


 せっかく掴んだ手に入れた平和な生活なんだもんね。


 楽しく明るく
 暮らせているようで♪♪ですす




 さあ、訪問者のみなさん。
 はろ〜久しぶりなSOUさんに感想メールを送りましょう!




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