何者にも縛られる事のない存在。
それは、偶然だったのかもしれない。
もしくは、これを運命と呼ぶのかもしれない。
それの琴線に触れたのは………幼い泣き声だった。
3000Hit記念
カ
プ
チ
リ
オ
子供が、森の中を一人歩いていた。
少女のような愛らしい顔を悲しみと深い孤独で曇らせ、うつむきながら森の中をさ迷う。
子供の名を、シンジといった。
年は5歳といったぐらいか、
青を基調とした見習い天使のような服を纏い、
黒いつぶらな瞳からは、
今にも涙が零れ落ちそうだった。
シンジを慰めるように、風がやさしく髪をなで、小鳥たちが歌う。
森の木々のすべてが、シンジを包んでいた。
シンジは、森の気配に溶け込むように年老いた大樹にしがみついた。
声を殺した嗚咽が響く。
涙だけが悲しみを癒すすべであるかのように。
ただ、静かでやさしい時間だけが過ぎて行く。
突然、森から音が消えた。
鳥は癒しの歌を止め、風はその姿を潜めた。
緊張感が辺りを包み、夕闇だけがあたりを支配する。
シンジだけがそのことに気づかない。
「なぜ、君は泣いているんだい?」
唐突にかけられた声にシンジは泣くのを忘れ、辺りを見渡した。
そして、夕闇を背に一人の少年が立っているのを見つけた。
他人を圧倒する存在感が、そこに在った。
「始めまして、シンジ君」
「君は誰?」
涙で濡れたままの頬を拭う事も忘れ、シンジは脅えた声を出す。
「僕はカヲル」
カヲルは、ゆっくりとシンジに近寄った。
逆光でよく見えなかったその姿が、次第に、はっきりと現れてきた。
月の光を紡いだように美しいプラチナブロンドの髪。
身につけた漆黒の衣服を引き立てる白皙の肌。
そして、人を狂わす赤い瞳。
芸術的なまでに、人が試る美を体現した姿だった。
「あ、あのどうして僕の名前を知っているの?」
「君はもう少し自分の事を知ったほうがいいよ」
シンジに微笑むカヲル。
「そ、そうなの?」
「そうだよ。それで、どうして泣いているんだい?」
カヲルはそっと、壊れ物を扱うようにシンジの涙で濡れた頬を拭った。
反射的にビクっと肩をすくめるシンジ。
そんなシンジを見て、カヲルはシンジの肩を抱き寄せた。
ちょうど、シンジの頬がカヲルの胸に当たる形になった。
小さいシンジは、カヲルの腕にすんなりと収まってしまう。
「………!」
「言いたくないのなら言わなくてもかまないよ?」
カヲルはシンジを隠すように、その腕に力を込める。
「……う、………母さまが起きないんだ‥‥。
僕が話し掛けても返事をしてくれない。
笑ってもくれない。
ずっと目を瞑ったまま」
カヲルは黙ってやさしくシンジの髪を梳く。
「父さまは、もう母さまに会っては駄目だっていうんだ。
父さまも母さまも僕の事が嫌いなんだ。
僕はいらない子なんだ‥‥。僕はいらない子なんだ!」
不安を吐露するシンジ。
「大丈夫だよ。君はいらない子なんかじゃない」
「うそだ‥‥」
シンジは呟くように反論する。
そして、カヲルの胸に顔を押し当てた。
「僕は君を傷つけたりしない。君のそばにいる。側にいてあげるよ」
シンジが顔を上げると、カヲルの赤い眼と目が合った。
「本当?」
赤い、紅い瞳に吸込まれる。
温もりを求め、シンジは小さな両手でカヲルにしがみついた。
「ずっとシンジ君のそばにいるよ」
耳元に囁く。
小さな泣き声が、カヲルに聞こえた。
抱きしめる腕に力を込める。
そして、シンジが泣き疲れ、カヲルの腕の中で深い眠りに落ちるまで、ずっと抱きしめていた。
世界が、闇の帳をおろしていく。
沈黙だけが世界を支配する。
「君の心は繊細だね」
あどけない、無防備な顔で眠るシンジを見つめながら、カヲルはささやいた。
「はじめは退屈凌ぎだったんだけど、シンジ君、君の魂がこんなに美しかったとは思わなかったよ」
感触を楽しむように、シンジの柔らかいベルベットのように艶やかな髪に手を入れる。
「ぜひ、僕のコレクションに加えたいよ。しばらくは楽しめるだろうからね」
そこには、シンジの前で見せていたやさしげなまなざしはかけらもなく、新しい玩具を見つけた子供の顔だった。
どこか冷たい笑い声が響く。
カヲルは、ガラス細工を扱うようにシンジの頬に触れ、シンジを見つめた。
ほんのりと赤い唇が目に付いた。
吸い寄せられるようにカヲルの影がシンジに被さっていく。
唇が触れようとしたとき、一陣の風が吹きぬけた。
カヲルの白い頬に、血の色が走る。
じわりと、生を顕わす赤い液体が白い頬を彩っていった。
「…僕の邪魔をする気かい」
赤い瞳に、殺気がこもった。
森自体が震撼する。
「シンジを返してもらおう」
顎に髭を蓄えた男が夕闇の中から現れた。
右腕に剣を携えている。剣には明かり代わりに光の精霊が集められていた。
沈黙をもって答えを返すカヲルに、男は殺気のこもった声で要求する。
「もう一度言う。シンジを離せ!闇に棲むものよ」
その言葉に、カヲルは薄い笑いを浮かべた。
そして、返す言葉の代わりにシンジの唇を奪う。
「‥‥‥!」
殺気立つゲンドウを尻目に、カヲルはゆっくりと闇に溶けるように姿を消していく。
シンジの頬を名残惜しむようにゆっくりと撫でながら笑いかける。
「忘れないでおくれ、シンジ君。君は僕のものだ。君が呼べば僕はいつでも迎えにくるよ‥‥」
人の魂を溶かすように麗しい声が、風に木霊する。
そして、カヲルの姿は、闇の中に紛れていった。
シンジに祝福の跡を残して・・・・・・・・・。
運命の輪は回り始めた
風も
水も
炎も
大地も
すべてを巻き込んで世界は回る
そして
時は巡る
あとがき
突然、D01号室にある姿見が開く。
「ふふふ。これだよ。僕が望んでいたものは!!ああ、シンジ君。君はなんて愛らしいんだ!」
タブリスの登場。
「・・・・・・・・」
「なんだい?この生ごみは?」
タブリス、部屋に転がる何かを足で突っつく。
「・・・・・、や、止め・・・・・」
「なんだ?ここの作者じゃないか。何をしてるんだい?」
「の、脳みそが腐る・・・・・・」
作者、呟きながらようやく起き上がる。
「失礼な。僕とシンジ君の崇高な愛に何か文句でもあるというのかい」
「・・・・・崇高?なにそれ?みかんの一種?」
「これだから馬鹿は困るよ馬鹿は」
いかにもわざとらしく肩を竦め、首を振るタブリス。
「こ、こいつ・・・・・」
「それにしてももっと耽美に書けないのかい。僕の美しさもシンジ君の愛らしさも、全然書けてないじゃないか」
「・・・・・・・・・・・・余計なお世話だ」
「何か言ったかい?」
「別に・・・・」
「さあ、さっさとこの続きを書くんだ。それが君に課せられた義務というものなのだからね」
言いたいことだけ言って、タブリス、夢見る眼差しで、カプチリオの世界へのドアをくぐっていく。
「・・・このまま幸せに慣れると思うなよ」
閉まったドアを眺め、ヒビのはいったシャープペンシルを握り締めながら、無気味に笑う作者。
弓さんの初のSS『カプチリオ』、公開です。
タブリスの、
渚くんの、
カヲルくんの、
喜ぶ顔をが見えます〜
あと、
ヤオイ系好き訪問者の方々の、
喜ぶ声も聞こえるー
ここでのカヲルは
男で、
子供のシンジくんに・・・
ショタか?!
と言いたいところですが、
カヲルには性別も年齢もないのかな?
さあ、訪問者の皆さん。
めぞんでは珍しい組み合わせを書いた弓さんに感想メールを送りましょう!