放課後の誰も居なくなった教室で、僕は大宮タケシと相田ケンスケの二人に相談を持ち掛けていた。
いつも一緒に帰っているはずのアスカとマナは、先に帰っている。
アスカは洞木さんと遊びに行くと言って、
マナは何やら昔・・・京都にいた頃の友達と会う約束をしていたらしい。
絶好のチャンスだ。
この機会を逃すと今度はいつになるか分からない。
1週間?
それとも2週間?
もしくは1ヶ月以上ということも・・・。
それまで僕は耐えられないだろう。
家でのアスカの態度はあの朝からおかしい。
その無言のプレッシャーに、僕がこれまで耐えてこれたのは奇跡といっても良かった。
「・・・というわけなんだよ・・・どう思う?」
とりあえず僕は、自分で把握している出来事だけを二人に話した。
「ついにやったのか・・・」
僕が説明している間、ずっと黙っていたケンスケは開口一番そう言った。
「け、ケンスケ!」
「ん、違うのか?」
横でつまらなさそうに聞いていたタケシが、意外そうに言う。
何かもっと重大な問題だと思っていたらしい。
・・・重大な問題なんだけどなぁ・・・僕にとっては・・・
今はとりあえず反論しておこう。
まだそうと決まったわけではないんだから。
「だから分らないんだって」
「分からないって何が?」
「何が分からないんだ?」
ケンスケとタケシは二人揃って同じような反応を返す。
この二人に相談したのが間違いだったのかもしれない。
数日間悩みに悩んで仕方なく相談したのに・・・。
「アスカに聞いても答えてくれないんだよ・・・なんかニコニコ笑ってるだけでさ・・・」
何かあったのか聞いてみても、アスカは全く答えてくれなかった。
ただニコニコ笑ってるだけで・・・。
それが余計に恐かった・・・いや恐くは無かったけど・・・。
なんか・・・ねぇ・・・。
「ん、そりゃ、やったんだって」
と、ケンスケ。
「やったな」
と、タケシ。
この二人・・・なんか似てるのは気のせいだろうか・・・。
「僕は覚えてないんだよ?」
そうだ、僕にはそんな記憶は全く無い。
いくら酔ってたからって全く覚えてないなんて・・・
「若さゆえの暴走・・・・シンジ・・・俺は悲しいよ」
心底悲しそうに言うケンスケ。
ちょっと目が潤んでる。
「まあ相田、そんなに気を落とすな。俺がどうにかしてやるよ」
タケシがケンスケの背中をバンバンと叩いて元気づけようとする。
俺がどうにかするって・・・どうするんだろう?
まあ今はどうでも良いけど。
・・・今じゃなくてもどうでも良い・・・いや、一応協力はするけど・・・。
「トウジも抜けがけするし、次はシンジ・・・はぁ・・・」
「だから僕は・・・」
「認めろ」
「認めたほうが良いぞ」
あらためて否定しようとした時・・・ふいに後ろに殺気を感じた。
「・・・死んでくださいぃ」
慌てて振り向いた僕の目に飛び込んでくる人影。
そして、同時に振り下ろされる、何かとてつもなく重そうなカバン。
ばきぃっ!
僕は座っていた椅子から飛び退いて、何とかその鉄槌から逃れた。
ちらりと粉砕された机を見る。
・・・ほ、本気で殺すつもりだよ・・・
その威力を見て、背筋が寒くなった。
「ま、マユミちゃん・・・落ちついて・・・」
今振り下ろしたカバンを、またゆっくりと持ち上げ第二撃に備える山岸さんに向かって、タケシが顔を引き攣らせながらいう。
「あなたにマユミちゃんなんて呼ばれる筋合いは有りません!!」
そう言って山岸さんは、僕に向かって振り下ろされようとしていたカバンを、一瞬タケシの方に向ける。
一瞬助かったかと思ったがやはりそうは甘くなかった。
「・・・やっぱり先にシンジさん・・・いえ・・・宿敵碇です!」
先にって・・・。
「昼下がりの悪夢!女の敵に振り下ろされる恐怖の鉄槌!!
ふははは!明日の三面記事はこれに決まりだ!!」
・・・生き延びたらケンスケとの関係をちょっと・・・いや大幅に見直そうと思う。
何故三面なのかも少し気になったけど、それは今はどうでも良いことだ。
「先程の話・・・本当ですか?シンジさん」
「さ、先程の話って・・・・」
なんとなく分かるけど一応聞いてみる。
それにしても“本当ですか?”って、まだちゃんと確認も出来てないのに殺そうとしたのか・・・
確信が持ててからにしてほしいなぁ・・・。
まあ、確信が持てても殺されるのは嫌だけど。
「とぼけないでください!!
アスカ様と・・・その・・・えと・・・と、とにかく先程の話です!!」
湯気が出るんじゃないかと思うくらいに顔を真っ赤にさせて、山岸さんは強引に話を進める
「アスカ様の様子がここ数日変ですから、心配になって聞いてみたらシンジさんに聞けと言われて・・・」
それで聞きに来た所で、さっきの僕達の話を聞いちゃったと・・・。
「・・・いいえ・・・嘘でもさっきの話は許せません!!
問答無用で死んでもらいます!!!」
山岸さんの頭の中では、とりあえず僕を殺すことになったらしい。
・・・こういう時は・・・。
「ケンスケ、タケシ、あとお願い」
僕はそう言い残すと即座に逃げ出した。
教室から飛び出すと校門まで全力疾走する。
途中、後ろの方から叫び声が聞こえてきたけど、気にしないことにした。
・・・気にすると夢に見そうだったから。
何度も振り返り、追跡が無い事を確認すると、僕は深い溜息を吐いた。
それにしてもアスカも酷いよな・・・山岸さんけしかけるみたいなこと言って。
頭の片隅でそんな事を考えつつ、足は勝手にスーパーの方に向かっている。
無意識に買い物をするために足が動くのに気がついた時、ちょっとショックをうけた。
といっても、それはもう中学の時の話で、今ではもう気にしていない。
気にしてもしょうがないし、別に困る事でもないのだから。
今では、便利になったもんだ・・・くらいに考えてる。
さて、今日の献立は何にしようかな・・・
僕は頭の片隅の思考を一旦凍結すると、今日の献立に集中した。
スーパーからの帰り道。
僕がそれを見つけたのは偶然だった。
公園の前を通りかかり、何気なく数ヶ月前の風景を思い出し・・・。
そして公園の中に目を向ける。
人影が二つ。
とても・・・、とてもよく知っている人影。
ふと加持さんの言葉を思い出した。
『もう一度会ってどうするつもりだい?』
あの時は答えられず、黙り込んだ。
・・・ただ会いたかった。
・・・それだけじゃ駄目なのかな?
そして僕はまた答えを見つけられず、その場を足早に去る。
何も考えられなかった。
何も考えたくなかった。
***
チャイムの音が部屋の中に響く。
アスカだろう。
・・・夕御飯作らなきゃな・・・。
僕は家に帰ってきてから、何をするでもなくぼぉっとしていた。
何も考えず、何も考えられず。
ドアが開く音。
合鍵を使ったのだろう。
アスカが部屋に入ってくる。
徐々に近づく足音。
「シンジ?」
リビングに入ったところで僕の姿を確認し、怪訝な面持ちでそういうアスカ。
「お帰り・・・アスカ」
「あ、うん・・・ただいま・・・」
「ごめん・・・夕飯まだ作れてないんだ。
・・・・・・・今から作るね」
僕はソファーから体を起こすと、帰ってきてそのままになっていた買い物袋の中身を冷蔵庫に移し始める。
その作業をじっと見つめているアスカ。
僕はその瞳から逃れるように作業を続けた。
食事が出来あがり、テーブルの上に並べられる。
ぎこちない雰囲気の漂っている食卓。
アスカは何か言いたげにしていたけど、結局食べ終わるまで一言も喋らず、無理に話題を振ろうとする僕だけが、一人で喋っていた。
えーと・・・。
今回はゲスト無しです。
にしても・・・短いねぇ・・・。
半年以上開いちゃったねぇ・・・。
皆忘れてるだろうねぇ・・・。
開いた言い訳を書くのもなんだし・・・。
とりあえず・・・。
切腹!!
・・・ぐふっ(血)