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ブーーーーーーーッ
体育館に電子音が鳴り響く。
「ただいまより、二年A組による劇『死の舞踏〜a romance of the”Cendrillon”〜』を開始します。」
パチパチパチパチパチパチパチ・・・・・・・
満員御礼の客席からは拍手が起こった。
徐々に上がっていく緞帳。
緞帳が上がりきると同時に、ステージが明るくなる。
ステージにはかなり裕福な中世時代のダイニングを彷彿とさせるセットが組まれている。
そこには派手な服を着た2人の少女、1人の少年。そして全身つぎはぎだらけの服を纏う赤髪の少女。
「シンデレラ。朝食の時間遅れとるやないか。早よ用意せい!」
「20分、超過。」
「ほんと、シンデレラってグズね。何やってもダメ。いやになっちゃう。」
「トウジ様、レイ様、マナ様。す、すいません・・・・。もう少しだけ待ってください・・・・・・・・。すぐに出来ますから・・・・。」
短髪の少年、青い髪の少女、茶色の髪の少女はテーブルについたまま、口々に文句を言う。
文句を言われたシンデレラと呼ばれる少女は、台所を一人で駆け回っている。
「・・・・・・出来ました。どうぞ。」
シンデレラは料理話急いでテーブルに並べている。銀の食器と共に。
短髪の少年は、舐め回すように料理を眺め、そして一言
「なんや、この料理は!!ワイはオムレツを半生にせいというたやろ。これは中まで火が通っとりやないか!作り直せ!」
「トウジ様、昨日は中まで火を通せと・・・・・。」
「ワイは、週末は半生と決めとるんじゃ。そんなことも覚えられんのか。」
「私はそんなこと一言も・・・」
「貴様は主人のワシにくちごたえするんか?誰のおかげでこの家に置いてもらってると思っとるんや!?
そんなヒマがあったらはよ作り直すんじゃ。ええな!5分以内やぞ。」
「はい・・。解りました。」
「シンデレラ、ついでに私も半生にして。」
「私、肉は抜いてと言ったでしょ。このベーコン、アスパラのソテーに作り替えて。」
「すいません。・・・・すぐ作り直します・・・。」
シンデレラに3人の厳しい注文が次々に浴びせられる。しかし文句一つ言わず、黙々と台所に向かう。
しばらくして
「5分過ぎたぞ!まだか!!」
「はい、ただいま!!」
そこで暗転
ステージ中央にスポット。
ステージには屋根裏部屋のセット。
そこには埃まみれな朽ちた木のテーブルで一人寂しく食事をとるシンデレラがいる。
しかも、テーブルにはさっきのような食事はない。具のほとんどないよどんだスープとしけったロールパンだけだ。
シンデレラはスープをゆっくりすくいながら、独り言をつぶやいている。
「はぁ・・・。なんでアタシはこんなに辛いことをしなきゃいけないの。
神様・・・・・。なんでアタシにはこんなに辛い運命を与えるのですか?
アタシは生まれてから今まで、悪い事なんて一つもしていないのに・・・・・・。」
シンデレラはそう嘆いてから、ふとテーブルに目を移す。
ちっちゃなネズミが皿の上のパンをかじろうとしていた。
シンデレラの視線を感じ、逃げようとするネズミ。
そんな仕草を見てシンデレラは、パンを小さくちぎってやり、そっとネズミの近くに置いてやる。
そうすると、戸惑いながらも、テーブルの上でパンをかじり出す。
「ごめんね、ネズミちゃん。いつもこんなしけったパンしかなくて・・。いつかは、柔らかいパンを食べさせてあげるからね。」
「チョー、チュー」
「こうやって、人のおこぼれをもらわないと生きられない。
しかも人からは、醜い、汚いって嫌われる。あなたも私と同じね。」
「チュー、チュー」
ネズミの背をそっと撫でてやると、嬉しそうに又鳴き出す。
「今日はこのパン全部あなたにあげる。あなたを見ていたらなんか自分のつらさなんてバカ見たいって思えて来ちゃった。
だってあなたは、自分よりすっと大きい人間に嫌われてるんですもの。アタシなんかより、ずっと辛いし怖いわよね。」
「チュー、チュー」
「さ、そろそろ自分のおうちにお戻りなさい。戻らないと、ご主人様達に殺されちゃうわ。」
シンデレラは、ネズミをそっと巣穴の前に持っていってやる。
ネズミはまるで礼をするようにシンデレラの方を向くと、シンデレラをじっと見つめて、その後巣穴に帰っていった。
そこに声が響く。
「シンデレラー。今帰ったから早く着替えの準備してー。」
「ワイのも頼むぞ。」
シンデレラは大声を出して答える。
「はい、ただいま。」
再び暗転。
その後、ステージ証明に照らされる。
再び豪華なダイニングのセット。
3人は服をああでもない、こうでもないと選んでいる。
「マナ様、こんなにお洒落をして今日は何をなさるんですか?」
「あら、あなた知らなかったの。今日はお城の王子様の14才の誕生日でね。お城でその記念式典として舞踏会をするのよ。
で、私達はそれに出席するの。だって王子様の目に止まれば、玉の輿にだって乗れるしねぇ。」
「・・・・・・・・・・そうなんですか。」
「そう言うことだから、シンデレラ今日留守番お願いね。泥棒なんかに入られないようにするのよ。」
「・・・・・・・・・解りました。」
「おい、ほんまに二人が姫になったら、ワイにもおこぼれくれるんやろうなぁ。」
「えぇ、まっかせてよ。私とレイは王子様と歳も合うし、この美貌よ。王子様だってコロッといくに違いないわ。」
「・・・・・シンジ王子様・・・・。」
「まぁ、ワイは金がもらえればそれでええけどな。」
そうした後、身支度を終えた3人は家を出ていく。
そこでシンデレラは独り言を呟く。
「王子様との舞踏会か・・・・・。アタシも行きたいな。」
シンデレラは、自分の姿を見る。
「でも、私は舞踏会に着ていける服なんかないし。」
「はぁ・・・・。」
シンデレラがため息を付いていると、ネズミが目の前にいることに気が付いた。
「どうしたの、ネズミちゃん。」
「あなたの願い叶えますよ。」
「えっ?誰の声?」
「ボクですよ・・・。」
「誰よ。人なんてどこにもいないじゃない。」
「ボクです。パンをもらったネズミです。」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・・。」
ネズミを凝視するシンデレラ。
「やだ、アタシ幻聴が聞こえてるわ。きっと疲れたまってるのね。」
「幻聴なんかじゃないですよ。ボクはいつものパンのお礼に参ったのです。」
「ネズミちゃんが喋ってる・・・・。」
「あなたのお礼をしたくて魔法使いさんに人の言葉がしゃべれる魔法をかけてもらったんです。」
「うそ・・・。本当にネズミちゃんなのね。」
「そうですよ。今魔法使いの人が来てくれますから。」
「魔法使い?」
「えぇ。いざ、たまえよ全霊を司る魔法使いよ。私はあなたに頼みます。さぁ、いらしてください。」
ネズミがそう言うと粋なる煙が立ち上り、中からローブを纏ったそばかすの少女がでてきた。
「・・・・・・私は、魔術師ヒカリ・ホラキ。私を呼んだのは誰ですか?」
「私です。」
「あら、さっきのネズミさんね。今度は何の用なの。」
「さっき話した、お礼をしたい人の願いを叶えてあげたいんです。」
「そう。この人ね。・・・・・・・・・うん。合格。心が澄んでるわ。そんな人の願いならおやすいご用よ。」
「ほら、シンデレラさん。あなたの願いを頼んでください。何だって叶えてもらえますよ。」
「この人が、魔法使い・・?」
「そうよ。まだ見習いだけど。あと私のことはヒカリと呼んでちょうだい。」
「ヒカリさんね。あの願い事が叶うって事なんだけど・・・・・・・・。」
「ええ。私は不幸と幸福のバランスが崩れてる人のバランスを正すのが役目なの。
あなたの場合は、不幸の比率が高すぎるから願いを叶えてちょうど良くしようって事なの。
だから、遠慮なく願いを言ってみて。」
「そうですか・・・・・・。あの今日のお城の舞踏会に出たいんです。こんな願いでも良いですか。」
「お安いご用よ。それっ」
ローブの少女がそう言うと持っている杖がいきなり光り出した。
「じゃまずその服から。えいっ!」
かけ声と同時にシンデレラの服が、薄ピンク色に光り輝くドレスに変わる。
「わぁ・・・。」
「・・・シンデレラさん。凄く綺麗ですよ。」
「凄く似合うわね。
その服は北の果ての夜空で出来るオーロラを紡いだドレスよ。えっと、次は馬車ね。それっ」
かけ声と同時に出てきたのは、2匹の白馬と馬使い。そして金色の馬車だった。
「すごい・・・・。」
「それでこれがガラスの靴。これには魔法力がかけてあるから、ただのガラスと違って割れたりしないわ。
しかもこれを履いている間は魔法を維持、制御できるの。でも・・・。」
「でも・・・何ですか。」
「でもね、12時なったら魔法が解けちゃうの。つまり、ガラスがもとの割れやすい状態に戻っちゃうの。
もしガラスの靴を割ったら、魔法力の維持が突然なくなっちゃう訳。
しかも、制御を無くし暴走した魔法力があなたの命を奪ってしまうわ。だから絶対に時間には気を付けて。」
「解りました。」
「いい。12時過ぎたらすぐに靴を脱ぐのよ。そうすれば元の姿に戻って魔法は解けるから。」
「はい。」
「よろしい。なら行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃい。」
「行って来ます!!」
シンデレラは魔法使いとネズミにそう言うと、馬車に乗り込んだ。
その後すぐ馬車は、お城に向かって走っていく。
暗転。
曲「死の舞踏」が流れ出す。
音楽とほぼ同時にステージにはライトが当てられる。城のセットだ。
シンデレラは馬車から降り、城にはいる。その美しさを見た他の客は歓声とも驚嘆とも言えない声を上げる。
それを見た王子は、シンデレラのあまりの美しさに惹かれる。
「すいませんが、私と一緒に踊っていただけますか?」
王子と踊るシンデレラ。
そこにはいつもの苦労に耐える姿はなく。非常に生き生きとしたものだった。
「ぼくはシンジ・イカリです。あなたのお名前は?」
「シンデレラ・アスカ・ラングレーと言います・・・。」
「良い名前ですね。」
二人は踊り続ける。華麗なステップを刻むまばゆいガラスの靴だけが、踊りの終わる時を知っていた。
「僕は、今日14才になりました。今日からは、女性に求婚できることになります。」
「はい・・。」
「僕はあなたを選びたい。ダメですか。」
「・・・・・・・・・・・・嬉しい。」
顔を赤らめながらも踊る二人。
「今、11時59分。私にはもう時間がないの。お願い。私を選んでくれるなら、踊りながらで良い。私の唇を奪って。ずっと。
時計の針が重なっても・・・。アタシを離さないで。アタシが壊れても、離さないで。」
「あなたが望むなら・・・・。」
そう呟くと、シンデレラを強く抱きかかえ唇を重ねた。
運命の歯車が動き始める。
重なっていく時計の針。
口づけている間に針は完全に重なる。
柱時計が低い鐘の音が響かせる。
刻まれていく新しい瞬間
ガラスの靴に入り始めた亀裂
それはシンデレラの命を現していた。
「あなたとこうしていられるなら・・・・・・。このまま死んでも構わないから」
沸き上がる拍手。
本番は大成功を収めた。
控室
「はぁ・・。やっと終わったわ。それにしてもこのドレス、照明が当たると発熱してるわよ。
相田に文句言わなきゃ。もう服の中温室状態よ!最悪ッ!!」
「でもアスカ、顔が赤いのは服のせいだけじゃないわよね。」
「もう!ヒカリの意地悪!」
「8分29秒51。碇君が弐号機パイロットとキスをしていた時間。・・・・。この沸き上がる怒りは何故・・・・?」
「シンジ役得だな。」
「なんか、まだ頭がぼーっとしてるよ。」
「ワイなんかごっつ性格悪い役やで。ホンマ羨ましいわ。」
「ま、トウジが王子役やるんだったら、私の役はヒカリに譲ってあげるけど。」
「なんでや?」
「だって変わらなかったらヒカリに殺されそうだもの。」
「アスカッ!!」
「なんか私忘れられてない?(マナ)」
ちなみにこの話に出てくる黄色文字は、MALICE MIZERの「死の舞踏〜a
romance of the”Cendrillon”〜」って曲の全体とと「月下の夜想曲」の最後の部分の歌詞です。前者はインディーズ時代の名曲なので知ってる人は少ないですが、後者は多少ロックに興味がある方は絶対聞いたことがあるはず。ランキングなんかでも、良く流れてましたね。プロモーションビデオが。あの黒マントGackt様が回転しながら飛ぶPVです。凄いインパクトありますよね。「死の舞踏〜a
romance of the”Cendrillon”〜」はアルバム「Voyage」に収録されている曲です。大型レコード店では売ってるんじゃないかな。とにかく、小説と一緒に聞いてると、感激します。
MALICE MIZERは見た目で敬遠しがちですが、歌の上手さ、曲の完成度ではロックバンドの頂点に立つレベルです。聞いてみましょう。興味のある方、共感した方はメールで。