「なんなのよ、この暑さはっ!」
「ほんまやってられへんわ。」
「まぁ、夏は暑いからねぇ。」
一時限目の休み時間、同僚の惣流さんと鈴原君、そして相田君が言っていた言葉だ。
この3人。見かけはとても仲が良くは見えない。3人とも個性の固まりだし、よく口喧嘩もしている。
しかし3人は「3バカトリオ」と言われるくらい、仲が良く、気が合っている。
僕のクラスのムードメーカーだ。毎日、よく騒ぎ、よく喋り、よく笑い、クラスのみんなを盛り上げている。
だが、僕はそんな3人・・・・・・いや、みんなが嫌いだった。
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「文化祭の出し物なんだけど、なんか良い案無いかしら?」
ホームルームの時間。担任の葛城先生が、教卓の前に立つ途端こう切り出した。
「先生、そういう事はみんなに案を考えてきてもらった方がいいんじゃないですか?」
「そうもいかなくてね。実は明日までに文化祭の企画を立案しなくちゃいけないのよ。」
「えーー、なんでそんな急にぃぃ。」
「無理だよーー。」
「無理でもお願い。実はわたし、この事、みんなに伝えなきゃいけなかったんだけど。ちょっち忘れちゃってねぇ。」
「忘れたって、何日ですか?」
「...............3週間ぐらい....。」
「......................」
「......................」
「......................」
「........ミサト何考えてんのよっ!?
そんなことだから、三十路間近でまだ独り身なのよ!男つくるのも忘れちゃてんじゃないのぉ?」
「そんな大声出さなくても良いじゃない。.......みんなまでそんな目で見ないで。私が悪かったわ。この通りっ。」
「先生、忘れることは誰でもありますよ。それより今は早く企画を立てなきゃだめですよ。時間無いんですから。」
「ほんと、ごめんなさい。洞木さんの言う通りね。じゃ、みんなちょっと考えてみて。」
...........がやがや
先生のそのひとことで教室は喧噪に包まれた。
「騒ぐ」なんてたいした実のない話、くだらない話で盛り上がったりしているだけなんだ。
よくみんなは、あんなくだらないことで、喜怒哀楽の対応が出来るものだ。感心してしまうよ。
だから僕は喧噪が嫌いだ。騒ぐ事自体好きじゃない。
だからなるべく、人と親しくなったり仲良くなることを避けていた。
僕は誰と話すこともなく、ただ指でシャープペンをくるくる回していた。
いつこんなにうまくなったんだろう。
僕は不器用な方なのに。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いつもしてるからだな。つまり、何もしないときはやってたから。
早く、チャイムならないかな。
屋上で昼寝でもしてようかな。
・・・・・・・・・・りくん・・・いかりくん・・・・・・・・碇君・・・・・・・・碇君!」
「は、はいっ」
いきなりだったので、声が裏返ってしまった。
「碇君は、文化祭何をやったらいいと思いますか?」
「え・・・・・・その・・・・」
言葉に詰まった。いきなりで頭が混乱している。えっ・文化祭の・・出し物だろ・・・う・・・・うん・・
「・・・・・・・・・・・劇が良いと思います・・・・・・・・。」
悩む僕とは裏腹に口が勝手に言葉を紡いでいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それ、いいんじゃない?」
「面白そうじゃん!」
「いけるよ!」
「なんか、楽しそっ!」
「良い意見が出たわね。洞木さん、案に劇を付け加えといて。」
「劇」 賛成 31名
よって多数決の結果、僕の意見が通り「劇」になった。
でも僕はいやだった。
言い出した本人だからと言うことで、第2の主役とも言える王子役を押しつけられたからだ。
その劇の内容は・・・・・・・・・「シンデレラ」・・・・・・だった。
「ケンスケ!アンタ本当にシンデレラの脚色は完成してるんでしょうね?
アタシはあんなガキっぽいままの話じゃいやなんだから!!」
「惣流、落ち着けよ。しっかり脚色はできあがってるぜ。ほら。」
「ちょっと見せなさいよっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅん・・・まぁ脚色されてる様ね。
でも題名まで変える必要なかったんじゃない。」
「この『死の舞踏』って題のこと?」
「なんや、『死』なんて気味悪いなぁ。」
「これはストーリーに関連してるんだぜ。ほら、仮だけど台本呼んでみなよ。」
「どれどれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
「なんや、惣流ちょっと見してーや。」
「トウジ、俺が説明するよ。
ほら、本物のシンデレラの話って、12時になったら元の醜い姿に戻る。
けどガラスの靴はそのままで、それをたよりシンデレラは王子と再会。王宮で幸せに暮らすって話だろ?」
「そうや。」
「で、俺はそれを逆にして服はそのままでガラスの靴だけ壊れるようにしたんだ。」
「それがどないしたんや。大して変わってないやんけ。」
「トウジ焦るなって。これにはまだ続きがあるんだ。
ガラスの靴が壊れる訳なんだけど、このガラスの靴、実はシンデレラの命の結晶でできてるんだ。
ほらガラスって脆いだろ。だから魔法使いはその靴をつくるとき、
舞踏会でいくら踊っても12時までは壊れないように靴に魔法をかけたんだ。
でも12時を過ぎたら・・・・・・・」
「でも12時を過ぎたら・・・・・・?」
「魔法が解けて、ただのガラスの靴になるのさ。
だからもし12時になってしまって、その後も舞踏会で踊り続けていたら当然ガラスは割れる。
しかも、ガラスの靴はシンデレラの命の結晶だから・・・・・・・。」
「つまりシンデレラが死ぬっちゅーこちゃな。」
「ま、そういうこと。舞踏会での運命的な出逢い。惹かれ会う二人。
シンデレラは、王子と踊りながら愛を語り合うんだ。
そして、シンデレラは12時が来ても、王子と一緒にいたい。と思うんだよ。
「例え命が無くなっても」ってね。
もう自分は生きていてもつまらない。なら王子と死ぬまで、少しでも長く一緒にいたい。・・とさ。」
「ちょっと待った・・・・・・。」
「なんだい惣流。脚本、注文通りシリアスで文句無いだろ。」
「・・・・・・・・・・・・一部分を除いてね・・・・・。」
「一部分って?」
「・・・・・・32ページの5行目「シンデレラは王子と熱い口づけをした。
まるで残された短い時間で一生分の愛を貪(むさぼ)るように・・・」ってとこよ!」
「ああ、そこ良いだろ。一番の見せ場だよ。しかもその表現、我ながら良い出来だと思ってるんだけど・・。」
「違うわよ!
なんで私は王子役のあいつなんかとファーストキスしなきゃいけないかって事よ!!」
話が聞こえていた僕は耳をを疑ってしまった。
惣流さんが僕とキス? 弐号機パイロットとキス・・・・・・。
きす。キス。口づけ。・・・・・・・・・・・。
いきなりの事に気が動転してしまう。
惣流さんが大きな声をだしたので、余計にみんなの視線が僕に集まってる。
時、僕は嬉しいとか恥ずかしいとかは感じなかった・・・・・・ただ呆然としてしまっただけだった・・・。
練習一日目
僕、相田君、鈴原君、惣流さん、綾波さん、洞木さん、霧島さん、葛城先生の8人が
放課後教室に残って、劇「死の舞踏(シンデレラ)」の打ち合わせを行う事となった。
「さて、今日はみんなに集まってもらったわけだけど、一応、配役の確認するわね。」
「えっと・・・まずシンデレラ。これはアスカ。そして王子が碇君。意地悪な姉妹の長女が綾波さん。
長男が鈴原君。そして次女が霧島さん。魔法使いが洞木さん。脚本、監修は相田君。
これで合ってるかしら。」
「「「「「「「はい。」」」」」」」
「次に台本の読み合わせをしてほしいんだけど、これは脚本の相田君に任せまるから。」
「はい。 じゃあみんな、台本の2ページ目を開いて・・・・・・」
結局この日は、台本の読み合わせで終わった。
僕は初めてこの台本に目を通したのだが、なかなか面白い内容だ。
ストーリーはかなり改変が加えられているが、しっかりシンデレラではあったし、
相田君は結構脚本を書くのがうまいなと感じる。
彼のことをバカにしていたきらいがあったので、僕は余計に感心してしまった。
練習五日目
「みんな、今日は舞台出来る服を用意したんだ。」
僕はその相田君の一言に救われた気がした。
舞台衣装の用意と言うことは、そろそろ劇の練習が始まるって事だ。
昨日までは、発声練習ばかりだったので、もういい加減飽きが来ていた。
惣流さんや、霧島さんなどは初日から文句ばっかりだったけど。
脚本を変更したいとか。発声ばかりでつまらないとか。
でも発声練習しかしていなかった意味が分かった。その間に相田君と鈴原君で服を作ってくれていたのだ。
「碇、これが王子の服な。大事に着てくれよ。」
「ありがとう、相田君」
「・・・・・・・あと、なんで碇は俺のこと相田君って言うんだ?男子じゃ碇だけだぞ。
これからいろいろと一緒に頑張っていくんだしさ。
だから俺のこと呼ぶときはケンスケって呼んでくれよ。」
「わいもそれは前からおもっとったんじゃ。なんか鈴原君って気持ち悪いわ。
わいもトウジでええ。」
「えっ・・・いいよ。」
「ええから。次からわいやケンスケを呼ぶ時は、名前で呼ぶんや。」
「・・・うん。・・・・・・・・・・僕もシンジで良いよ。」
「おう、わあった・・・・・・・。次、惣流の服や。このぼろっちいやつは我慢して着て・・・・・・・・・」
その日は結局、服の試着で終わってしまった。
けどこの日は僕にとってかなり意味のある一日だった。
自分でも驚くほど、他人と自然に接することが出来たから。
名前で呼ぶ・・・・・・・・・・・・か。初めてだな。
話してみて思ったことだけど、人と話すのも悪くないかなって少し思えてきた。
でも、なんであんなにいやだったはずなのに。こんなに普通に出来たんだろう。
あんなにバカにしていた他人と話したのに。なんでこんなにすっきりした気持ちなんだろう。
その日の夜。「僕が仲の良くなったトウジとケンスケから永遠に無視をされ続ける夢」を見た。
翌朝、寝汗が体をびっしょりと濡らしていた。
何故か涙が止まらなかった。
僕は怖かったんだ。人から嫌われることが。
あんなに憎んでいた父さんから捨てられても、まだ怖かったんだ。
だから、他人とも接したくなかったんだ・・・・・・・・・・・・・。
誰も嫌いにならない。誰からも嫌われない。
その為には、誰も好きにならなければ良いんだから。
でも・・・・・。
練習二三日目
「王子様・・・・・。」
「あなたはなんと美しいのでしょう。お名前は?」
「カット、カット!!」
「ちょっとアンタ、何回やり直しさせんのよ!もう五回よ!」
「シンジ、まだ声がちっちゃいよ。もう少し大きな声出せないかなぁ。」
「ごめん・・。」
「あんた、なんで私と喋るときばっかり声がちっちゃいのよ!」
「ごめん・・・。」
「ごめん、ごめんって、アンタ本当に謝る気あるの?
あるなら、もう迷惑かけないようにしっかりやんなさいよ!」
「ご・・・わかった。」
「じゃ、そこから練習して。頼むぜ、シンジ。」
結局、この日は僕のために12回もやり直しをさせてしまった。
それも、全部・・・・・・・・・・・・。
練習の帰り、僕は何気なく公園を眺めたら、ブランコに乗っている惣流さんを見つけた。
今までの僕なら無視していただろう。
でも、
「惣流さん!」
声をかけたくて仕方なかった。
「なんだ・・・・・・。碇か。」
「どうしたの?元気ないみたいだけど。」
「あんた、台本読んだんでしょ。だったらラストのシーン気にならないの?」
「あぁ・・・・・・。キ、キスシーーーンだね。」
「私はアンタにファーストキスを奪われるのよ。しかも役の上って言う「業務」で。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕にどうしろと?」
「アンタがなんかして、脚本変わるなら苦労しないわよ。
でも、確かにあのシーンにキスが必要なのはわかるし・・・・・・・・・・・・。」
「ねぇ、アンタ、キスしたことある?」
「ない・・・けど・・・。」
「じゃ、今しよ。ここで。キスの予行練習。」
「な、なんでいきなり・・・・・・・・・。」
「私は完璧を求めてるの。アンタ、このままキス抜きの練習で、あの場面ノーミスで演技できる自信ある?」
「そりゃ、自信ないけどさ。」
「でしょ。だからやるの。それに、私のファーストキスが、ステージの上なんていや。見せ物じゃないんだから。あと・・・・。」
「あと?」
「つ、ついでに演技の練習もすれば一石二鳥じゃない。」
「えっ・・・・台本置いて来ちゃったよ。そこのセリフも覚えてないし。」
「違うわよ。こういうのは出来るだけ真実味のある演技の方が効果があるの。」
「そういうもんなのか・・・・・・で、どうすればいいのさ。」
「だから・・・・・い、碇は私の恋人役を演じるの。」
「こ、こいびと〜〜〜!!」
「声が大きい!あくまで演技よ。練習!だからキスの前もなければ後もないの。つまり恋人っぽいキスってだけよ!」
「わかったよ。」
「いいわね。これからはじめるけど、間違っても私を惣流さんなんて言わないでよ!恋人なんだから」
「・・・・・・・アスカ・・・?」
「よろしい、シンジ。」
「・・・・・・・アスカ・・・・・好きだよ・・・・・」
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「95点。アンタ初めてにしては、ちょっとは、うまいじゃない。褒めてあげるわよ。」
「ありがと・・・・・・アスカ」
「アンタ、もう演技は終わりよ。アスカはもうおしまい・・・・・・・・・・・・っていいたいけど、
お互いにファーストキス奪い合っちゃった仲だもんね。惣流さんってなんかしらじらしいし、そのまま、アスカで良いわよ。」
「ほ、本当に・・・!?」
「そ、そうよ。そのかわり、アタシもシ、シンジって呼ぶから。」
「いいよ・・・アスカ。」
「アンタ、なんか勘違いしてない?名前呼び捨てにするのはドイツでは当たり前なの。それだけよ。」
「・・・・・わかったよ。」
「わ、わかればいいわ。」
「あのさ、さっきのキス、95点の−5点って何がダメだったのかなぁ。
アスカが完璧を目指すならやっぱり直さなきゃだめだしさ。」
「・・・・・・・アンタのキスの形は、私から見たら完璧だったわ。って事は、それ以外の部分が足んないのよ。
さっきのキスって、恋人同士って設定だったし。ま、お子さまのアンタにはわかんないと思うけど。
でも、あれだけ出来れば十分だから。」
「形以外の部分ね・・・・。」
「そ・・・・・・。じゃ、もう暗くなってきたしそろそろ帰るね。バイバイ、シンジ!また明日ね!」
言うしかない・・・・・。今しか・・・・。アスカの後ろ姿がちっちゃくなる前に。
「アスカ!」
「なに?」
「ア、アスカには届かなかったみたいだけど
僕は、あのとき、5点の分もアスカにキスしたからっ!
僕は、演技じゃない心でアスカにキスしたからっ!
だって僕は、アスカのことがす・・・・・・・」
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「シンジ、これが100点満点のキス。わかった?」
「ア、アスカ・・・。」
「明日、一緒に学校行こうね。」
「・・・・・起きたら、すぐ、家に行くから。」
「朝御飯も作んのよ」
「毎日作るよ・・。」
「よろしい。」
あとがき
俺に似合わない作品だ。書いてて辛かった。途中書いててつまんなかったから。
なんか、もう道徳の教科書みたい。疲れた。ふーー。まぁまぁですね。
これ、じつは 劇「死の舞踏」 っていう小説のサイドストーリーに書いたものだったんです。
劇「死の舞踏」も、要望があれば、メゾンに出します。読みたいと思った方は、メールを。
「好き」この気持ちは気付かぬうちに心に沸いて、気になってしょうがない。
まるで気付かぬうちに刺されて、痒くて痒くて気になって忘れられない虫さされと似ている。
っていうメモ書きを7/12に書いたんです。それとこの小説の題名がしっくりきたんで。
短編初挑戦なんだよなぁ。精進しなくチャね。