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それはいつもとさほど変わらない朝だった。


シンジはいつもどうり加持の店に寄り、バイクで登校する。


ただ今日、唯一違う点は、シンジのバイクの後ろに人影があったことだ。


しかもよく見るといつものバイクではない。


前のバイクでは後ろに人が乗れるよう出来てはいなかった。


つまり、どこの誰かがシンジとタンデムしていることになる。


フルフェイスのメットのおかげで顔はわからないが、女子の制服を着ている。


そしてこの光景は、『碇シンジ親衛隊(本人未公認)』にとっては、超がつくほど衝撃的な出来事だった。


・・・だが、そんなことは当人達にとってはどうでもいい事でしかなかった。







天使に逢いたい

第9話 明日に架かる橋






相田ケンスケは何気なく文庫本を片手に持ち、それに目を落としている少女を見ていた。


彼女、綾波レイは、いつ来ているのかわからないほど学校に早く来る。


そしていつもどうり彼女は教室内に一枚の透明な水彩画を作り上げる。


感情を感じられず、ただ透明で美しいだけの水彩画。


ケンスケはぼーっとその水彩画を眺めていた。



「おはよーさん、シンジ。」



「あ、おはようトウジ。」


友人の一人、碇シンジが教室に入ってくる。珍しく惣流も一緒だ。


その時ケンスケの視界に異変が起こる。


ボーッと見ていた水彩画が、人間になっていった。


ケンスケはそう感じた。



「おはよ、レイ。」


「・・・おはよう、お兄ちゃん。」



つまり彼女に、感情というものが現れた、ということだ。


それからというもの、彼女は周りの人間にも反応するようになる。


(彼女が彼女になるのはシンジが同じ空間にいるときだけ、か。)


ケンスケはなんとなくそんなことを考えた。



「あの、お兄ちゃん・・・」


「ん、何?」


「・・・今日買い物に付き合って欲しいんだけど、2人で。ダメ?」



彼女に上目遣いでこんな事を言われたら断る事の出来る人間はいないだろう。


シンジもそのうちの一人だった。


ただし理由は他と大きく違うが。



「うん、もちろんいいよ。じゃあ、詳しい事は後で。」



女子一同の嫉妬の炎が燃えあがるが、いつも理由が分かってないシンジ。



「センセ、仲のおよろしいこって。」



当然、というかなんというか、トウジが冷やかす。



シンジはトウジの言葉のおかげで女子による謎の視線からの逃げ道を見つけた。



「・・・トウジとナツミちゃんほどじゃないと思うけど?」



トウジのシスコンは有名だ。


この言葉の言外には、シンジはレイと兄妹として、という意味が込められている。


周りの嫉妬軍団一同もその事に気がつき、一気に炎が消火される。


そしてシンジから思わぬ反撃を食らったトウジはもう何も言い返せない。



「・・・・・・うるさいわい!」



最近のシンジ。どうやら口はうまくなったようだ。








「シンジ、ヘルメットどうする?」



アスカが何気なくそう言った。



「あ、僕のロッカーに入れておいてくれる?」



この会話の不自然なところにまず最初に気がついたのは草薙ユミだった。



「おっはよー!シンジくん!」


「あ、草薙、おはよう。」



シンジは柔らかな微笑みで返す。


いつもならそれに見とれるところだが、今日に限っては先ほどの違和感のおかげでそうはならなかった。



「うん。それより、なんでアスカがシンジ君のヘルメット持ってるの?」


「アスカと一緒に学校に来たからだけど、どうかした?」


「・・・・・・何かどこかが納得いかないんだけど。」



草薙ユミは、とりあえずアスカのほうを見る。


何やら彼女はほんのり顔を赤くして少しうわの空。


顔がにやけているのはアスカによくあるいつもの事だが。


(なにかが、おかしいわよね・・・)


それでも草薙は考える。


やがて彼女に一つの疑問が湧き起こる。



「・・・・・・シンジくんのバイク、2人乗り出来たっけ?」


「あ、うん、新しく買ったからね。今のは出来るよ。」


「・・・てことは・・・・・・」



彼女は再び考えだした。この様子を見ていたほかの生徒も同様だ。


シンジのヘルメットは、バイクに備え付けのヘルメットホルダーについているはずだし、なによりアスカが持っているのはいつもシンジが使っているヘルメットではない。


と、言う事は、結論は一つ。




数秒後、すでに登校していた生徒達の悲鳴が学校中に鳴り響いた。







昼休み。


何の事はない、食事を取るための時間。


そして生徒達の憩いの時間でもある。



「何よユミ。話って?」



ここは西階段の最上階。


普段からここは鍵がかかっていて屋上には出られなくなっている。


要するに袋小路になっている、というわけだ。


まさに秘密話にはもってこいの場所である。


ここにアスカ、レイ、ユミの3名がいた。



「うんとね。宣戦布告。」


「はあ?」


「・・・」



二人とも意味がつかめていない。まあ当然だろう。



「そ、それはいいとして、何でアンタに宣戦布告されなきゃなんないのよ!?」



「アスカ、それに綾波さんもシンジくんの事が好きでしょ?だから。」


アスカは少しのけぞる。


返事は言わずもかな、顔に思いっきり出ている。


レイは頬を少しだけ赤く染め、かつ驚いた顔をしている。



「・・・・・・ホントはそれだけじゃないんだけどね。シンジくんやあなたたちが昔ここで何をしていたか、お父さんに聞いたわ。」



彼女は神妙とも、沈痛ともつかない複雑な面持ちで言葉を紡いだ。



「・・・そう。それで?」


「・・・」


「綾波さんってシンジくんの本当の兄妹じゃないんでしょ。」


「ええ、そうよ。」



レイは冷静に(彼女は冷静さを欠いた時のほうが珍しいが)言葉を紡ぐ。



「私はシンジくんが好き。だからあなたたちには負けないわ、それだけ。」



ユミは微笑みながらそう言った。


だが、その微笑みの奥には確かな決意がある。


アスカは、迷った。


素直に言うべきか、いつもどうりごまかすか。


(・・・・・・どうやら本人はごまかしているつもりらしい。)


そして彼女は覚悟を決めた。



「・・・・・・あたしはシンジの事が好きよ。」



ややうつむき、草薙にというより自分に向けアスカはそう言った。



「いいわ、受けて立つわ、その宣戦布告!・・・・・・ところであんたはどうなのよ!?」



いつもどうり少し足を開き、腰に手をつけ胸を張るというスタイルで応える。


そしてその言葉の後半はレイに向けられた。



「私は、兄としてじゃなく、異性として碇君の事を愛してるわ。」



彼女はよどみなく、当然の事のようにあっさりといった。


『好き』ではなく『愛している』と言いきったことに二人は少し驚く。



「・・・じゃあ決まりね!じゃあ、フェアに行きましょう!」


「あんたなんかには負けないわよ!」


「あら、私はバスケ部のマネージャーよ。貴方よりはずっとシンジくんの側に要られる時間が長いわよ。」



ユミは少し勝ち誇ったかのように胸を張りそう言った。



「うっ!」


「・・・・・・私も今日は譲らないわ。碇君と買い物に行くの。」


「「・・・くっ!」」



さすがにこれには2人の脳裏に赤信号がともる。





アスカは頭の中で算段する。


まずはユミについて。


確かに彼女の行った通り、アスカのほうがシンジの身近に要られる時間は少ない。


また、彼女は公然とシンジにつきまとう。


それにシンジも別に嫌がっているようには見えない。それはそれでアスカの神経を逆なでするのだが。


彼女は素直かつ積極的。現時点で最強といえる。


アスカはアスカで、今までの事の積み重ねがあるため、そんなことはできない。


それはそうだろう、ことある毎にシンジをひっぱたくアスカがいきなり態度を変えるなんて事をしたらシンジに不気味に思われるだけだ。



そしてもっとまずいのはレイ。


彼女は世間体ではシンジの妹という事になっている。


レイがシンジにベタベタしても、別に不思議に思う事もないだろう。


まあいいとこ重度のブラコンと思われる程度。


そんなことをあの綾波レイが気にするとは思えない。


それにもし、彼女が強く望めばシンジと一緒に住む、という事も可能なはずだ。少なくともアスカよりは可能性が大きいのは間違いない。


また、今シンジへの思いを確認したばかりである。


その直後にシンジと2人っきりにする事は非常にまずい。


レイのそういう事に対する知識が絶対的に不足している事が救いといえるが。


アスカといえば・・・・・・2人っきりになるチャンスが他の2人より非常に少ない。


これは一大事と言える。



(もしかして、あたしが一番不利ぃ!?)



今更気がついた事実にアスカは愕然とした。






同刻、校舎裏。


シンジ、トウジ、ケンスケの三人は昼食を摂っていた。


最近は教室ではなく、滅多に人のこないここで昼食を摂る事にしている。


この場所は学校内で告白するには絶好の場所になっているのだが、所詮は昼休み、それが盛んになるのは放課後である。



「はあ、さっきはえらい目にあったなぁ。それにしてもアスカってやっぱり人気あるんだね。」



最近多くなったため息を小さくつき、今更のようにシンジが呟く。



「シンジ、そんなことも知らないのか?」



ケンスケのため息まじりの呟き。


あきれているのは間違いないだろう。



「ケンスケ、いまさらセンセにそないなこといってもしゃーないで。」



トウジはなんとなく悟った口調で言い返す。



「ああ、そうだな。」



ケンスケはあきらめました、といった感じ。



「・・・まあいいけどさ。アスカってもてるんだろ?それに綾波や草薙も。なんで誰とも付き合ったりしないのかな?」



シンジのこの呟きには、さすがの2人も目を丸くし、絶句した。



「シンジ、おまえ、さすがにそこまでとは思わなかったぞ・・・」


「わしはもう何も言えん・・・ここまでくると天然記念物もんやな。」


「いや、国宝級だろ・・・」



何かめちゃくちゃに言われているシンジ。



「そういやシンジ。それはおまえにも言えるんじゃないのか?」


「そや。いっぺん聞いたろ思っとった。」


「僕?」


「そや。シンジも誰ともつきあっとらんやないか。」



トウジの言葉にケンスケは隣でうんうんと頷いている。


実は彼の親衛隊の中に『抜け駆け厳禁』などなど、文章化までされたものが多数あるので、表だってシンジに告白した人間はいない。


ラブレターですらもう来なくなっている。


なんでもうっかりラブレターを出すと処罰が与えられるらしいのだが・・・


まあそんなことで、ただでさえ鈍いシンジがまったくそういうことに気がつかないということに拍車をかけている。


だが、彼が他人とそういう付き合いをしないのは他に理由があった。



「・・・知りたいなら話すけど?」



彼はたまにみせる影を帯びた表情で応える。



「いや、別に言いたくないならそれでもいいさ。」



さすがケンスケとでもいうべきか。


この場に一番ふさわしいだろう返答をすぐに返した。



「今のシンジにはいろいろあるんやな。」


「・・・まあね。まあ今度機会があれば話してあげるよ。」



沈黙がおとずれ・・・なかった。



「そうだシンジ、写真とらせろよ。おまえんちいくからさあ!」



こういう雰囲気に機敏なケンスケ。


彼はすぐに話題を変えた。


しかもその内容に営利目的まではいっているのはもはや芸術の域か。


まあ、彼もその趣味さえなければ文句なくいい奴なのだが・・・



「ええ!?い、いいけどさ。」


「じゃあ決まりな!今度いくからよろしく!」



ケンスケのおかげでいつもと同じ雰囲気に戻った三人は、いつもどうりまったく実にならない会話を交わし、時間は過ぎ去っていった。








「で、なに買うの?」



信号待ちをしている間に、シンジの後ろにタンデムしているレイに向かい尋ねる。


レイの胸が押しつけられているが、残念な事にシンジは気がついていない。


なぜいまさら尋ねるか、ということには教室を出る前に当然一悶着あったのが原因だ。


なんとなく、というか、いかにも鬼のような形相でアスカのみならず草薙まで迫ってきたのだから逃げ出すように教室を出たのだった。


明日が怖いがとりあえずその事は考えない事にしている。


というわけで今聞く事になってしまった。



「服・・・」


「ん、わかった。じゃ『RIGHT』でも行こうか。ワンパターンだけど。」


「・・・うん。」



いつもシンジ相手ならもう少し口数が多いはずの彼女なのだが・・・


まあ懸命な方ならお気づきだろう。


そう、レイも昨日のアスカと同じ状態に陥っていたのだった。







そして約10分後



「これなんてどう?」


「碇君が選んだのなら何でもいい・・・」


「レイ、さっきからそればっかりじゃないか・・・」



ここは『COMME CA DU MODE』店内。


レイは、よくわからないというのでシンジが個人的に好きなブランドの店に連れていったのだった。


だが、シンジはほとほと困り果てていた。


レイにはあまり自主性というものがない。


それでもシンジは懲りずに真面目に洋服を選んでいるあたり、彼の性格が伺えよう。



「うーん・・・僕が選んでもいいけど、やっぱり自分でいいと思ったものを買ったほうがいいんじゃない?」


「碇君がそういうなら・・・」




ここからは凄まじいものがあった。


レイはシンジをまさに引きずり回すように色々な店をめぐっていった。


自主性がないというシンジの評価はどうやら思い切り間違っていたようだ。



買い物が終わったのはそれから2時間32分後だった。


その上回った店は30を超え、買った服は3着。


そのうち一つはシンジがレイに買ってあげた(最初の店で)パステルブルーの大き目のセーター。



シンジは思う。



(女の子って・・・・・・)








プルルルル・・・



帰宅したとたんシンジの携帯がなる。


セラフがシンジに飛びついて首に絡み付き、十字のピアスに軽く歯を立てる。


そしてシンジはそんなセラフに微笑み、頭を撫でながら電話に出る。



「はい。」



名前を言う必要は、ない。


なぜなら守秘回線モード。


この番号を知っているものはごくわずかだ。



「シンジ君?」


「ああ、リツコさん。」



赤木リツコからの電話。


それならば用件すら聞く必要もない。



「MAGIに先ほどの案を検討させたわ。これから忙しくなるわよ。」


「・・・・・・はい、じゃもう少ししたら行きます。」



平和な日常から、しばし、もしくは永遠のお別れを告げる電話だった。


シンジの顔つきは少し険しくなっていった。







続くと思います?
ver.-1.00
ご意見・ご感想・苦情・その他はy-tom@mx2.nisiq.netまで!!


アスカ「こぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ作者!」

シンジ「・・・・・・あれ?」

アスカ「逃げたわね・・・・・・」

シンジ「なんだこれ?」

アスカ「・・・・・・書き置きね。」

シンジ「『旅に出ます』・・・・・・」

アスカ「・・・・・・」

シンジ「・・・・・・」

アスカ「こうなったら地の果てまでも追い回して引きずり出してやるわ!覚悟しなさい!シンジ、行くわよ!」

シンジ「あ、やっぱり僕も行くのか。」

アスカ「あったりまえでしょ!あんたバカァ!?」

シンジ「・・・・・・はい。」


たったったっ・・・(お二人様退場)



作者「ふう、どうやら行ったな・・・あ、読者の皆さん、ごめんなさい!試験があったものでパソいじってる暇がなかったんですぅ!ちなみに次回分は大まかに出来てます。・・・二人が戻ってきたら怖いのでこれで。」




 TAIKIさんの『天使に逢いたい』第9話、公開です。
 

 ケンスケの商売はまたまた繁盛の予感・・

  ついに自宅まで(^^;

  またまたワンパターンコメントになりそうでしたが・・・

 素直な言葉が出ないアスカちゃん。
 顔には出るのに・・・

 この部分が変わりましたね。
 

 言葉に出して、
 宣言までした気持ち。

 でも、
 かなり環境は厳しいアスカちゃん(^^;

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
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