第2話 日常のはじまりは?
「はぁーー………」
購買で買ったやきそばパンをほおばりながらため息を吐いた。
さっきまでは休み時間のたびにクラスの女子に文字どおり揉みくちゃにされていた。それだけならまだしもなぜか昼休みにいたっては上級生のおねーサマ方までもが押しかけてきて現在に至るのである。
ちなみに、僕は語学のためにアメリカ・ドイツ・フランスに留学していた、ということになっている。これはまあ嘘ではない。確かにこの順番で行っていたし、むこうでは一応だけれども学校に行っていた。もっともほとんど行かなかったけれども。しかも、半年いたアメリカでの英語、4ヶ月ちょいいたドイツで学んだドイツ語はほぼ完璧に使える。フランスでは、滞在が2ヶ月とちょっとという事もあったし、なによりEU圏内なので英語とドイツ語でほとんど用が足りたので日常会話の基礎ぐらいしか使えない。だから大体そんなことを受け答えするだけだったが、聞いてきた人数が半端ではない。きっと全校の女子の大半が来ただろう。
そして、いまは昼ご飯を食べると理由でやっと抜け出してきたそしてアスカ・トウジ・ケンスケ・委員長(彼女はまたもや学級委員をやっていた)それにこの前のちょっとしたことで知り合いになった草薙ユミさんと一緒に屋上で昼ご飯を食べている。綾波は……まあこちらもちょっとしたことがあるんだけど…今日は欠席でいない。たぶんNERVのほうにいるんだろう。
自分のあまり人には言えない多機能がある腕時計を見るともう昼休みの半分はとっくに空の彼方へと消えていた。
アスカのほうを眺めると洞木さんと何やら話し込んでいる。そしてなにやら真っ赤になったとおもえば怒りだしたり……久々に見るな。ま、それも当然か。
1限終了後、女子がいろいろと聞きに集まってきたのを制して、僕はトイレに行くといって教室を出た。何人かはついてきたが、行き先がトイレだと分かり慌てて引き返していった。さすがに中には入れないからだろうけど。僕はトイレに入ると誰もいないのを確認し、窓から降りた。ここは3階だけど配管パイプをつたっていき、苦もなく外に出る事ができた。そして校舎裏までいくと,すでにアスカは来ていた。多分走ってきたんだろう、息を切らしている。僕は最初席につくときアスカの横を通り、ここに来て欲しいとこっそり耳打ちをしておいたのだ。
「アンタ、いつ帰ってきたのよ!」
僕の姿を確認するや否や、いきなり怒声を浴びせてきた。でも今はその声すら懐かしくおもえる。
「おととい。」
「な!じゃあなんでさっさと私の前に出てこなかったのよ!!」
心持ちアスカは涙声になったような気がする。ちょっとからかってみる気になって言葉を返した。
「ここに来てから結構あわただしくって時間が取れなかったんだ。でも時間ができたときすぐにミサトさんの家に行ったよ。アスカは寝てたけど。」
「え!?」
「だからえっと…4時間前にはぼくもミサトさんのとこにいたって事。」
「そ、それじゃなんでアタシを起こさなかったのよ!!」
「だって、アスカの部屋の前に張り紙があったからね。まだ死にたくないし。」
「うっ!」
どうやら成功したらしい。後の反撃が怖いけど……。さすがにあの物騒な張り紙、しかも自分で張ったものだということを思い出し、アスカは怒った顔のまま固まって赤くなっている。
そろそろやめないと本気で後が怖くなった僕は言いたかった言葉を告げる事にした。
「ただいま、アスカ。約束は守れたかな?」
「……まだわかんないわよ。でも…」
そこまで言うとアスカは不意にうつむいた。しばらくして顔を上げると、とびっきりの笑顔、僕が一番見たかった顔で答えてきた。
「おかえり、シンジ!!」
…そしてアスカはアクアマリンよりも深くきれいな瞳に涙を浮かべた。
「……あれ?シンジが帰ってくるときには泣かないって決めたのに…」
そして僕はやさしく、ほんのちょっとの間だけアスカを抱きしめた。ここで気付いた事は、僕はいつのまにかアスカよりずいぶんと、頭1個分近く大きくなっていた、という事だ。
そしてアスカを放すと、もう笑顔に戻っていた。そして僕は教室に戻ろうとした。が、その時アスカがぞっとするような声でひとこと。
「詳しい事は後でゆーーーっくり聞いてあげるから、覚悟してなさい!」
……そして教室に帰った僕を待っていたのは未だ人付き合いがうまいとはいえない僕にとって、苦痛ともいえる時間だった。
「せんせ、惣流見て何にやけとんのや?」
「えっ、そんなことないよ。」
トウジに言われて気付いた。ちょっと思い出しててぼーっとしてたらしい。
「ま、碇の気持ちも分からないわけじゃないけどな。」
これはケンスケだ。彼は人の気持ちに聡い。その点、彼が一番大人といえるだろう。
「ま、それはいいとしてセンセ、部活とかどうするん?」
「それなら管弦楽部に入らない!?」
部活の話題になるといきなり草薙さんが元気一杯な声で話しかけてきた。
「いいでしょ!碇君チェロすっごくうまいんだし!」
「うーん、でもどうせ入るんなら体を動かすのが良いな。」
「よっしゃ!センセ、それならバスケやらんか?」
「えっ、トウジはバスケ部なの?」
僕は驚いた。トウジの足は僕が日本を去るときにリツコさんにどうしてもと頼み、トウジも了解して今ではもうすっかり元どうりになっている。リツコさんもトウジの足の事はかなり気にしていたようだ。クローン技術の応用で、細胞を培養してみずからのからだの一部のコピーを作る。この方法なら拒否反応は皆無だし、何より自分の足をくっつけるわけだから違和感もほとんどない。ただ費用はハンパな額じゃない。リツコさんは臨床実験というカタチでただでトウジにそれを施した。しかしまるで動かされなかったコピーには筋肉はほとんどなく、歩く事さえ最初はできないはずだ。だからそれをスポーツができるレベルまで戻し、、しかも運動量がずば抜けて多いバスケットに所属しているとはさすがに思わなかった。
「ああ、苦労したでえ、ここまでもどすのは。いいんちょのおかげや。今では1・2年生メンバーではレギュラーや!まあまだ5月やから本決まりではないんやが。」
トウジは胸を張ってそう言った。洞木さんは…となりで赤くなってうつむいている。この2人はすでに公認カップルとなっているらしい。僕はみずからの罪悪感が少しだけ癒されていくのを感じた。……でもすべてが癒される事はきっとないだろう、僕は途方もなく大きな罪をいくつも犯したのだから。
「練習は週何回?」
「火曜と金曜の2回。それに隔週で日曜もや。あとたまに土曜日に対抗試合があるぐらいやな。」
「じゃ僕もバスケ部にはいるよ。」
「ほんまか!」
「いや、そんなにおどろかなくても…」
ケンスケと僕をバスケ部に誘った本人でもあるトウジは意外だという顔をして驚いていた。
「いや、以前のセンセはスポーツなんかやるように見えんかったしなあ…」
ケンスケも横でうなずいている。……こいつら……
「あ、僕も別になんでもいい、ってわけで言ったんじゃないんだ!バスケットならちょっとアメリカでやってたからこれならいいかなって。それに練習もあまり多くないし。」
「じゃ私バスケ部のマネージャーやる!」
またもやいきなり草薙さんが口を挟んできた。
「草薙はたしか管弦楽部に入ってたんじゃなかったか?」
これはケンスケ。そう、しかも僕と同じにチェロをやってたはずだと思ったけど…
「火曜と金曜でしょ!管絃のほうが月曜と水曜だからできるわよ!大丈夫!!」
「ちょっとアンタ!なんでいきなりシンジがバスケ部にはいるっていったとたんマネージャーやる、なんていいだすのよ!」
これは言わずと知れたアスカだ。てっきり洞木さんと話し込んでいるものと思っていたけど一応こちらの会話を聞いてたみたいだ。
「まあいいじゃない!わたしはやりたくなったの!」
「まあやってくれるっつーならそのほーがええんやが…」
やばい。なんかいつのまにか荒れ模様だ。でも本当になんで突然マネージャーやる!なんて言い出したんだろう?
そんなことを考えているとケンスケが写真を撮ってきた。それも一枚や二枚じゃなく、デジカメでモータードライブよろしくぼくを撮っている。
「な、なんだよケンスケ!突然僕の写真なんかとって!」
「碇、協力してくれ。」
「はあ?」
「おまえの写真を買いたいってゆー予約が現在殺到中だ。俺としてもあまりオトコなんか撮りたくないんだが新しいカメラのためだ!だから頼む!」
「い、いいけど僕の写真なんか買いたいって人がいるの?」
「おまえ、それ本気で言ってるのか?」
「う、うん。」
そんなことを行ってからあたりを見回すといつのまにかみんなが僕のほうを向いていた。みんながすべて、ちょっと驚いた表情をしている。……なぜ?
「私ほしーい!相田君よろしくね!」
「えっ?」
僕はすっとぼけた口調で言ってしまった。
「碇君、わかってないなぁー!鏡見た事ないの?」
「……毎朝見てるような気がするけど?」
「バカシンジ!写真が売れるからっていい気になってんじゃないわよ!!」
「ご、ごめん……」
何が気に入らないのかアスカの怒声が聞こえた。悲しい性とでも言うのだろうか、反射的に謝ってしまった……僕の事をバカシンジなんて呼ぶのは後にも先にもアスカだけだ。それにいち早く反応したケンスケが意地悪く言う。なんだかメガネが怪しい輝きを放ってる……
「じゃ、惣流はいらないのかい?」
「う、い、いらないわよ!」
「アスカ!」
洞木さんの叱責の声が飛んだ。なんでかわからないけど。まあこれでここが収まるんならそれでいいかな?そんなこんなで昼休みは終わっていった。
教室に戻ってみると綾波が来ていた。彼女にも言わないといけない事がある。僕は転校生の指定席、窓際一番後ろ。綾波はその一つ横、二つ前だ。文庫本を読んでいる。もっとも、本当に読んでいるのか、それは本人しか知らない……
僕はこちらにまだ気付いていない綾波に向かって歩くと声をかけた。
「綾波、学校来たんだ。」
声をかけたとたん、驚いて顔を上げ、僕を見上げた。僕を見ると同時に、今までの雰囲気ががらりと変わる。そしてこの様子をクラスのほぼ全員が注目している。あ、しまった、また『綾波』と呼んでしまった。まあ言ってしまったものはしょうがないか、と思い言葉を続ける事にした。
「ただいま。」
「おかえりなさい……あの…お兄ちゃん。」
綾波は少し赤くなりながらはにかんで言葉を紡ぎ出した。そう、綾波は父さんが手を回し、戸籍上では僕の双子の妹という事になっている。僕はこの言葉で始めてその事を実感できた。もっともそんなことを知っている人などそう多くはなく(綾波が自分で言う事はまずないだろうから)、この様子を見ていた全員が(アスカ達を含む)驚いていた。
「えーーーーっ!碇君と綾波さん兄妹だったの!?」
「綾波さんが笑ったのはじめてみた!!……可愛い!」
「えー、あ、でもあの碇君と兄妹ってすっごく似合ってるかも!!」
綾波が他人に感情をさらす表情をする事などまだほとんどないんだろう、なかにはそんな意見も聞こえてきた。確かにはにかんで上目遣いで微笑む綾波は確かに可愛い。でもそういう事を考えてると決まって……ほら来た。
「シンジ、どういう事!説明しなさい!!」
言うまでもなくアスカだ。かなりご機嫌斜めだなあ。トウジたちも僕らを囲んできた。僕は一応世間体に対する理由と、僕らだけが知る事情からくる理由を説明した。もっとも、前者はみんなに聞こえるように、後者は僕らだけに聞こえるようにだけど。
話した内容は次のとおり。まず僕と綾波は幼いころ母親を亡くし、父親は多忙で、しょうがなくそれぞれ別のところへ引き取られていた。だから姓が違う。1年半前に再会したものの半年で僕は留学してしまって現在に至る。そして癖でたまに他人行儀だけど「綾波」と姓で呼んでしまう事。
これでもちろんアスカが納得するはずない。彼女たちには大体の真実を話した。
「ふーん、そういうこと。」
みんな(クラスの人たちも含めて)納得してくれたようだ。
「あ、でも一緒に住んでるわけじゃないよ。」
「あったりまえでしょーーー!って、そう言えばシンジどこにすんでたの、この3日間!?」
「あ、そうか。僕は今マンションで一人暮らしだよ。」
「「「「「「「ええーーーーっ!!!(詳しい数は不明)」」」」」」」
この事に対してアスカを含む大人数の叫び声があがった。そんなに驚くことかなぁ?片親もしくは両親を亡くしている事の多いこの時代に一人暮らしはあまり珍しい事ではないと思うけど。
「さすがにまたアスカと一緒に住む、ってわけにはいかないでしょ?」
「碇君と惣流さんって同棲してたの!?」
この言葉を発したのは草薙さんだ。そしてまたクラス中が先ほどの女子の叫び声とは比べ物にならないほどの絶叫を発した。ムンクの『叫び』と化している女の子もいる。さすがにこれはまずいと思い僕は慌てて弁解した。
「そ、そういうわけじゃなくて、いろいろ事情があって葛城さん、って人のところで保護って言うカタチで一緒だったんだ!だから同棲じゃなくてただの同居だよ。」
「アタシは同棲でもぜんぜんかまわないのに……ゴニョゴニョ」
「なんかいった?アスカ。」
「なんでもないわよ!」
「……まあいいけど。それよりちょっと買い物付き合ってくれない?一人暮らしって結構物入りでさあ。ケンスケ達も。」
「わいはええで。その前にセンセ入部届ださんといかんとちゃうか?」
「うん、だしたあとで。そうなるとトレーニングウェアやシューズも買わないといけないな。」
「おれもいいよ。写真の件もあるしな。」
「私もいいわ。」
「わたしもいい!?」
トウジ、ケンスケ、洞木さんに続いて草薙さんがそう言ってきた。はっきり言って彼女は元気が良い、というかよすぎるぐらいだ。でも一緒にいるとかなりここち良い。自分が明るくなるような気さえする。だから僕は微笑みながら返事をした。
「もちろんいいよ。こっちからお願いするよ。」
「やったぁー!」
そんなに喜ぶ事なのかなぁ。でもなんか周囲から「ずるーい!」とか「抜け駆けー」とか非難の声が聞こえるような…でもまあそんなことはたいして気にせずアスカの返事を待った。
「アタシは当然いいわよ!でもそのかわりなんかおごんなさいよ!!」
僕は苦笑しつつ快諾した。なにが『当然』なのかは解らないが。そして最後にひとり…
「綾…おっとレイはどうする?」
「私もいきたい……。」
「うん、決まり!」
綾波はまたもや赤くなって言葉を返した。以前なら「命令ならそうするわ」とか「そう、ならそうすれば」とか、まるで感情を出さなかったのにすごい変化だ。僕がいないときになんかあったのかな?まあいい傾向だから良いんだけど。
「じゃ、4時に駅前ってことでみんないいかな。」
こうして、放課後の買い物行きが決定した。
ここでそれぞれの放課後、集合時間前の風景を覗いてみよう。
碇シンジ、鈴原トウジ、加えて草薙ユミはバスケ部顧問のところへと向かっていた。シンジを真ん中にして右手にユミ、左側にはトウジが並んで歩いている。歩くたびにシンジのピアスがゆれる。
ついでにユミは役得とばかりにシンジと腕を組んでたりしてそれが妙になじんでいて、はたから見れば仲の良い恋人同士に見える。シンジは別段気にも留めてないようだ。実はアメリカやドイツではこんな事はしょっちゅうでいつのまにか慣れてしまっているのだがこれはまた別の話。
すれ違う生徒は男子も女子も嫉妬と羨望の眼差しで振り返る。しかもその視線を感じる事でユミは優越感に浸っていた。アスカに見られたらユミは地獄の門の入り口でケルベロスとご対面させられかねない光景だ。
「しっかしシンジも変わったのう。」
「どこが?」
「タッパやピアスのことはまあいいとして、わいの知ってるセンセは少なくとも女と腕なんか組んで平気でいられる奴じゃなかったなかったわい。」
「えっ!?」
ここで僕は慌てて腕を振りほどいた。草薙はトウジのほうをいったんにらみつけると僕に話しかけてきた。
「ねえ、碇君って女の子に慣れてるね。」
「そう?」
「うん。腕組んでてなんかすごくそう思った。」
「まあ、環境のせいかな?どこいってもなぜか女の子が寄ってくるし。女難の相でもあるのかな。」
「のうセンセ。そこまでされてもまだわからんのかい!?」
「だからなにが?」
「かーーーっ、鈍感は相変わらずやのう。」
「うるさいな、気にしてんだから。でもトウジにだけはいわれたくないな。」
「なんでや?」
「洞木さんの気持ちに気付いてなかったじゃないか。」
ここでトウジは赤くなる。彼は決してうつむいたりしない。人生をいつも前向きに生きていく、という彼の信念の現われだ。僕はトウジのそういうところを尊敬さえしている。そしてそのあとすぐに冷静に言葉を返してきた。
「せやな。わいもそう思っとる。わいはな、毎日リハビリにいいんちょがつきあってくれとるときやっと気づいたんや。」
「トウジ、そのことは…」
「いうな!センセが誰よりもその事になやんどるのはわいが一番よう知っとる。あれはわいの意志であれに乗ったんや、気にするこたあない!」
「でも…」
「いいやんか、それで。わいの体ももう元どうりやし、なによりおかげでいいんちょに対する気持ちがわかった。妹も無事に直ったしな。」
「…ありがとう。」
「照れるやんか、しかもわいはなにもしてないやんけ。」
「うん、そうだね。」
「ねぇー、さっきから何の話?」
「あ、ごめん。…そう、もう昔の話さ。そうだよな、トウジ!」
「ああ、せや。」
僕らは目を合わせて笑った。僕は心のわだかまりが少しだけ解けたような気がする。久々に気分よく笑えたと思う。草薙さんはよくわかんない、って顔をしていたけど。
「ねえ碇君、さっきと雰囲気ちょっと違うね。」
「ん、そう?」
「うん、なんか落ち着いているって言うか、クールっていうか。」
「そうそう、わいもそう思っとった。」
「ふーん。ま、そうかもね。いろいろあるからね、今の僕には。」
「なんやセンセ、なんかあるんやったら相談のるでえ!」
「ごめん。そういうわけにもいかないんだ。僕のこの一年の理由だからね。」
「のうシンジ。シンジは昔っから一人で思いつめすぎなんや。自分一人で悩んで自分ひとりで傷ついとる。たまにはわいにも相談事の一つでもさせてくれへんか?」
「ありがとう、でもこれだけは譲るわけにはいかないんだ。」
「ほか、なら相談したいことがなんかあったらかまわずいってくれ。わいはおまえの親友やさかいな。」
「ああ、そうするよ。さんきゅ、トウジ。」
「わしも相談事があったらするさかい別段気にする事でもあらへんけどな。」
「ま、そういうわけだから、草薙さん。あんまり気にしないで。それともクールな僕ってそんなに変?」
「ううん、そんなことない!どっちも格好いいよ!」
「そう、ありがとう。」
シンジは笑顔で答える。シンジの微笑みは女の子にとっては効果絶大、失神するものが出てもおかしくないほどなのだが、いかんせん自分の価値について未だにシンジはまったく理解していないようである。ことに自分が及ぼす周りへの影響については。
この笑顔でユミは自分の顔が赤くなっていくのを自覚した。ただし、彼女は気を取り直すのが他人よりずいぶんと早い。よってここでもいち早くその特性を発揮した。
「それと私の事はユミって呼んでね!私もシンジくんって呼ぶから!!」
「え!でも……じゃ、草薙って呼び捨てにする事で勘弁してくれない?」
「うん、わかった!いまはそれでいいわ!」
「あ、そうだ、シンジくん!」
「今度はなに?」
「まだ言ってなかったね、この前はほんとにありがとう!」
「ああ、あのこと。気にしなくていいよ、別に。」
「なんや、もしかして草薙をバイクで助けたっちゅう…」
「そうだよ、僕だよ。」
「ええーーーっ!センセたしかまだ15歳やろ!?」
「アメリカで免許取ったからね。」
碇シンジはアメリカでバイクの免許、ならびに車とバイク両方の国際B級ライセンスを取得している。バイクの免許だけならざらにいるのだが、国際ライセンスとなるとレースで実績を収めていないと取れないものだ。彼は車、バイクそれぞれアメリカ国内レースでかなりの実績を収めていた。
「碇君、すごい運転上手だったじゃない!あんなこと突然できる人なんてそうはいないわよ!」
「あ、うん。ぼくはお世話になった人の好意でレーシングチームに入ってたからね。名前は偽名でだったけど。結構勝ってたんだよ、レースで。」
「…ほんまにおどろかされることばっかやなぁ。そういや昔もみんなが驚くような事を平気でやっとったし。このままやと他にも色々あるんとちゃうか?」
「ほんとに……」
「そう?でもレースのことは黙っててね。もしかすると知ってる人がいるかもしれないから。あんまり有名になんてなりたくないからね。」
「そうやな、センセもあんときからそうだったもんなあ。まあセンセがそういうならだまっといたる。」
「わたしも。でもいまさら有名になりたくないなんて無理じゃない?」
「そりゃそや!」
「なんで?」 本当に彼は解らない、といった顔をしている。まあ転校初日で有名だ、なんていわれたら誰だってそう思うだろう。
「つまりあなたはもうこの学校の有名人であることは間違いない、ってことね!」
「はあ?」
「センセ、無知は罪やでえ!」
「「ははははは!!」」
今度は草薙さんとトウジが笑い出した。……ほんとになんで?転校初日なのに?
そんなこんなで僕と草薙は入部届けを出した。顧問の先生とキャプテンは2人とも気さくな人で喜んで受け入れてくれた。キャプテンは176cmの僕よりも頭一つ分も高く、センターをやっているそうだ。草薙さんのマネージャーのことは、なんでも3年生に一人マネージャーがいるだけで困っていたところらしくとても喜んでいた。
そして僕らは別々に帰っていった。ちなみに今日僕は徒歩で学校に来ていた。
「ねー、アスカ!いつまでむくれてんの?」
「うるさいわねぇ。」
アスカの返事があまりにそっけないから私はからかってやる事に決めた。
「碇君の事、心配なんでしょ?」
「う……」
「カッコよくなってたしねぇ。しかも思いっきりもてそうだったし。」
「あんな奴もてようが、私の知ったこっちゃないわ!」
「アスカ!それ本気!?」
「う………わかったわよ、ヒカリには隠し事できないからね。確かに心配よ、今日だってなんかもうユミがまとわりついてたし。でもシンジが帰ってきた事で解ったんだ、アタシにはシンジが必要だって事。それにアイツ、ほんとに約束どうり、ううん、それ以上になって帰ってきたし。」
「やくそくって?」
「アイツが日本を出るとき一つ約束したのよ。」
「だからなに?」
アスカは真っ赤になってうつむいている。こういうときのアスカはほんとに可愛い。そしてアスカは聞こえるか聞こえないかの小さな声で言葉を紡ぎ出した。
「……「今度会うときはアタシに見合ういいオトコになって帰ってきなさい!」って。」
「へっ?あー!あははははっ!」
ここでヒカリは立ち止まって大声で笑い出した。
「そんなに笑わなくったっていいじゃない!」
「ごめんごめん、でもそんなに心配しなくってもいいんじゃない?」
「なんで?」
「つまり、碇君がかっこよくなったのはアスカのためだって事!」
「えええ!?!?」
アスカはリンゴもはだしで逃げ出すほど真っ赤になって何も言えない。アスカも碇君の事となるとてんでだめなのよねぇー。
「アスカまだ碇君とまともに話してないじゃない!ダメだよ、アスカがしっかりと繋ぎ止めておかないと!碇君性格は変わってないみたいだし。まああえていうと少し明るくなったかな?だからちゃんとしとかないと誰かに取られちゃうわよ!」
「ええっ!それはイヤぁ!!」
「あの性格にピアスが似合う美少年とくればみんなほっとかないわよ!」
「うう…やっぱそうよね。…でもアイツこういう事に関してはこれ以上ないほど鈍感だし…」
「そうだよ、だからアスカがしっかりしないと!そのために料理まで覚えたんだし。私は碇君とアスカの事、応援してるわよ!」
「うん、ありがとうヒカリ!」
「どういたしまして!でも綾波さんと碇君が兄妹になってるとはねぇ。」
「うん、アタシも驚いた。」
「もしかすると今一番碇君に近いのは綾波さんかもねぇ。綾波さんのあんな表情はじめてみたし。」
グサッ!そんな乙女のハートを容赦なくプログナイフで突き刺したような効果音が聞こえてくる反応をアスカは起こした。これはかなりの失言だったと私は悟った。
「くっ、アタシはあのファーストにだけは絶対負けないんだからぁ!見てなさいよ、絶対にシンジを…」
「シンジを?」
「………(ぼっ)」
自分のセリフに自爆したらしい。リンゴを通り越してもはや夕日だ。さっきまで興奮していたかと思えばすぐにこう。まったく見てて飽きないわね。
・・・そう言えばアスカ、また自分の事を『私』じゃなくて『アタシ』と言うようになったわね。
「そ、そんなこと言ってヒカリ!アンタだって鈴原といい感じじゃない!もう公認カップルってことになってるし!」
「えっ!そんな!」
今度は私がうろたえる番だった。それにしても公認カップルだなんて・・・
「なに、もしかしてヒカリ、知らなかったの!?」
「うん・・・」
「はぁー。でももうキスぐらいはしたんでしょうね!?」
「ええっ!キ、キスなんて・・・・・・」
「あんた、まだしてなかったの?今日はいいチャンスじゃない!2人で抜け出してやっちゃえばぁー!?」
途切れる事を知らない女の子同士の会話は別れを告げるいつもの交差点まで続くのであった・・・・・・
「碇君が誘ってくれた・・・・・・」
お花畑で花冠でも作っているようなしぐさで美少女がひとり、ブツブツと呟いている。
彼女の、他人を寄せ付けない冷たい氷のような雰囲気は、今は、ない。
「・・・なに着ていこうかな。」
私服すら持っていなかった綾波レイが、今はこうして少数からだが服を選んでいるあたり、かつての綾波レイを知るものが見ればにわかに信じがたいものがある。
「・・・お兄ちゃん。初めて使う言葉。・・・恥ずかしい。・・・でもなんだか嬉しい。」
頬を赤く染めてしまう。そして再び服選びに没頭する。
それは時計を見て時間ぎりぎりである事に気づくまで続くのであった・・・・・・
「うおおおっ!碇、すごいぞ!」
パソコンで何やら打ち込んでいた少年が叫び声をあげる。
ここは彼の自宅。聞いてるものは多分いまい。
「初回の予想収益だけで32万3千円!!オトコだからセミヌード取り放題、ってのはでかいな!しかも他の学校からも注文殺到!!」
どうやら裏商売のようである。
「これなら欲しかったアレも夢ではない!!サンキュー、我が親友よ!!今日は徹夜だ!!」
・・・・・・シンジの帰還を一番喜んだのはこの男であったかもしれない。
ver.1.20
ご意見・ご感想はy-tom@mx2.nisiq.netまで、お気軽に!
第2話終了における勝手な座談会
ユミ「ユミでーす!今回の司会進行を勤めさせていただきまーす!」
シンジ「いつも元気だね、草薙は。そこがいいところだけど。」
ユミ「えっ!(*^^*)ホ゜ッ」
作者「最近バイトでお疲れだけどはじめて応援メールが来て嬉しい作者、19歳です。」
シンジ「およ、やっと出てきたね。」
ユミ「しつもーん!いろいろと複線張ってるようだけどどこででてくるの?」
作者「それはシリアスな話用に取っといてあります。決して忘れているわけじゃないですよ。」
ユミ「まあ私はシンジ君とラブラブになれればそれでいいんだけどね。めざせ!オリキャラ初のハッピーエンドよ!!」
シンジ「そういえばオリジナルキャラクターがそうなるのって見た事ないね。」
作者「ふっ、すべてこちらの気分次第さ!」
シンジ「えー、次回の内容は『シンジ君の伴侶』…って、ええ!?」
ユミ「もちろん私よね!」
作者「更新はなるべく早くします。メールが5通きたら、という事で、読みたい!!と思った方、メールください、簡単な内容で結構です!でわ!!」
ユミ「なんか詐欺っぽーい!」
TAIKIさんの『天使に逢いたい』第2話、公開です。
ケンスケの商売は新たな商品仕入に成功(^^;
一人の写真で30万円も稼げるとは・・・
コイツ(^^;、
今までアスカやレイの写真で幾ら儲けてきたんだ?
アスカちゃんの裏物を撮って、それを売っているなんて事はないだろうな (;;)
さあ、訪問者の皆さん。
早く続きが読みたいのでしたら、
感想メールをガンガン書きましょう!
・・・・TAIKIさんがビビル位に(笑)