TOP 】 / 【 めぞん 】 / [おち・まお]の部屋に戻る / NEXT
「うっ‥‥うん‥‥」

軽く体をゆすられる。
徐々にはっきりとしていく意識。

「アスカ‥‥アスカ‥‥‥」

アスカの、今一番聞きたかった声。
そして一番会いたかった人物。

「ん‥‥シンジ‥‥シンジなの?」
「そうだよ」

優しく笑いかけて、シンジが側にいてくれた。

「アスカ‥‥」
「‥‥シンジ」

アスカはゆっくりと起き上がった。



アルバム 後編



「どうしたの?」
「え?‥‥‥何が?」
「泣いてたの?」
「ううん‥‥違う‥‥違うの‥‥」

アスカは小さく首を振る。
シンジは心配そうにアスカを見つめている。

「もう‥‥大丈夫よ、シンジ」

そう言って微笑むアスカ。
シンジも少し安心して、周りを見回す。

「‥‥この写真?」
「ん?‥‥しまってあった写真‥‥ちょっと出してみたの」

アスカのベットに広がる写真の数々。
思い出の数々。

「ほとんど、ケンスケが撮ったヤツだね」

シンジも写真を見つめていく。

アスカにビンタされて痛そうな顔をしている写真には、笑いそうになりながら。
ミサトやレイと共に写る写真には、懐かしそうにしながら。

「ねぇ、アスカ‥‥‥聞いていい?」
「何?」
「アスカの小さい時の写真‥‥ってないの?」
「‥‥‥」

聞かれたくなかった質問だった。
でも、答えないわけにはいかない。

「ごめん‥‥‥ないの‥‥」
「そう‥‥そうなんだ」

シンジは理由を聞かなかった。何故か辛そうな顔をしている。
アスカは、心配になってシンジに呼びかける。

「シンジ?」
「ごめん‥‥嫌なこと、思い出させちゃったかな?」
「え?‥‥‥何で?」
「僕も‥‥僕も持ってないんだ‥‥‥子供の頃の写真‥‥」
「‥‥そうなの?」
「うん」

何故?
この質問はしなかった。

聞かなくてもわかったからだ。

辛い思い出しかない過去だったから。
お互いにどんな過去を送ってきたのか知っていたから。

だから聞かなかった。

シンジは、アスカが胸に抱いていた写真を取りながら話かける。
アスカと共に、旅に出た時の写真。

「笑ってる‥‥僕達‥‥‥この写真の中では‥‥」
「そうね」

笑える。それは幸福の証。

幸せだから笑える。
無理しないで笑える。

今が幸せと感じているから。
その証拠がこの写真達。

「ねぇシンジ‥‥‥今は笑える?‥‥‥この時のように」
「当たり前だろ」

優しく。
シンジは優しくアスカにキスを送る。

「アスカが側にいるから‥‥僕は笑えるんだよ」
「シンジ‥‥」

嬉しくて。
アスカはお返しにシンジにキスを送る。

「ねえ‥‥‥明日、アルバム買いに行かない?」
「そうだね‥‥そうしようか」

大切な瞬間を収めた写真達。
だから、大切に保管しておく。

「大事な瞬間を‥‥‥少しだけ写真に収めて‥‥‥」

そう。少しだけ。
全て収める必要などないのだ。

心には、永遠に残っていくのだから。

「いつか過去を振り返る時に‥‥」

二人で一緒に。
または、自分達の間にできるはずの子供達と共に。

(これが、昔のパパとママだよ)

そう言えるように。
そう笑って言えるように。

「アルバムを作ろう」
「うん」

二人だけのアルバム。
幸せの数だけ、少しずつ増やしていこう。

「そして‥‥‥アスカ‥‥‥一緒に生きていこう」
「‥‥うん」

少しずつ増やしていこう。
そして大切にしていこう。

二人が生きていた証として。
二人が生きていく証として。

「約束だよ」

NEXT
ver.-1.00 1997-11/26公開
ご意見・感想・誤字情報などは ochimao@ops.dti.ne.jp まで。


 おち・まおさんの『アルバム』後編公開です。
 

 優しいですね、シンジくん。
 

 そばにいて欲しいときにはそばに、
 話したい時には一言を。
 

 お互い辛い時間を過ごしてきていますから、
 今の関係が更に輝いて・・。
 

 捨ててしまった過去の写真、
 これから増える二人の写真、

 素敵なアルバムになりそうですね(^^)  

 さあ、訪問者の皆さん。
 アスカとシンジを描くおち・まおさんに感想メールを送りましょう!


TOP 】 / 【 めぞん 】 / [おち・まお]の部屋