SYUUENNOHATENI LOST EPISODE:01
幸せを得ること
REI&YUI
「私はなぜ存在しているの?」
彼女は、鏡に問いかける
これで何度目であろう
何百回と繰り返した、同じ質問
その答えが、返ってくることは無い
サードインパクトから、40日目。
彼女は、マンションの一室で暮らしている。
綾波レイ。
史上初のチルドレン。
エヴァ零号機パイロット。
碇ユイのクローン。
そして、使徒の力を持っていた少女。
彼女の力は、サードインパクトから帰還した時に、完全に失われていた。人として生きることを願った、結果だった。
しかし、彼女の心までは、変わらなかった。
誰も彼女を救ってくれる存在はいない。彼女はそう思いこんでいた。
「碇君………」
彼は、彼女を救ってくれなかった。
彼は、彼の想い人のそばを離れなかった。
黄昏た病室の中で、たった一言。
「綾波は、僕たちの仲間だよ。」
彼はそう言ってくれただけだった。
彼の心の闇には、レイは手が届かなかった。
しかし、彼は与えてくれた、たった一つの生きる希望を。
彼女はこの言葉は、いつも反芻する。
「うれしい………」
そのたびにわき上がる気持ち。
孤独な幸せにひたれる唯一の時間。
彼女は、足掻いていた。どうしようもなく、足掻いていた。
自分の存在意義が希薄になり、世界とのつながりが薄れていく。
そして、彼女は全てを拒否する。
ゲンドウ
リツコ
ミサト
マヤ
シゲル
マコト
彼女を知る大人達は、彼女にせめてもの償いとばかりに、優しく接していた。大人達は、気が付いているのだろうか?自分たちの行動が、自分たちが行ってきた行動の贖罪だと言う事に…………
償いとしての愛。
それが、彼女に与えられた物だった。
彼女は、全てを拒否した。
絆は、シンジだけだった。
しかし、彼は振り返らない。
彼が見つめていたのは、ただ一人の少女。
自分と世界をつなぐ少年は、振り向いてはくれなかった。
ただ一人の少女のために………
彼女の中に、黒い感情がわき上がる。
今まで、持ったことの無かった感情。
時には、激しく。
時には、冷たく。
それは、彼女の胸を苦しめた。自分には、理解できない気持ち。初めて知る、感情。
彼女は戸惑っていた。
「私は、どうなってしまったの?」
答える人はいない………
運命というモノは、唐突にやってくる。
レイは、いつものように、シンジの元へと足を運ぶ。
何をするでもなく、ただいつもシンジを見ていた。シンジは、アスカから目を離そうとはしない。レイはいつもそんな二人の姿を見ているだけだった。感情が入り交じった瞳で……
昨日から、シンジは入院していた。レイは、シンジと二人きりで会えることが嬉しかった。
しかし、今日は途中でリツコに呼び止められてしまった。
「レイ。ちょっと、いいかしら。」
「なんでしょう。」
「つきあって欲しいところがあるの。」
「碇君の所へ、行きたいんですけど。」
「あなたにとって、最も重要な人に会わしたいのよ。
お願いよ、レイ。」
「……………分かりました。」
レイは、リツコの彼女らしくない強引さに折れた。
「こっちよ。」
リツコに案内されたのは、病室だった。
リツコが、ノックと供に病室の中の人物に声をかける。
「赤木です。
レイをお連れしました。」
「どうぞ、入ってください。」
軽やかな女性の声が聞こえる。
「失礼します。」
レイが病室の中で見た女性は、レイに似ていた。
ただ、茶色がかったショートカットと、同色の瞳は、違うのだが。
彼女は、ベットの上で上半身を起こし、柔らかい笑みを浮かべている。
『誰?』
レイの胸に疑問がわき起こる。
「初めまして、綾波レイちゃんね。
私は、碇ユイ。
シンジの母親よ。」
『碇ユイ……碇君のお母さん………そして……』
「レイ……あなたのオリジナルよ。」
リツコの言葉が冷たく響く。
レイは、自分がなぜ存在しているのか、本当に分からなくなった。
ユイが帰ってきた今、本当に存在する意味が無くなってしまった。
『……私は、もう用済みなのね………』
暗い絶望がレイを襲う。
自分は、所詮ユイので代わりでしかなかったと………
ただ呆然と立ちつくすレイに、ユイは優しく語りかけた。
「レイちゃん、私の娘にならない?」
その言葉は、レイにとって想像のつかなかった言葉だった。
「………娘………」
「そう、だって私達、親子みたいなものでしょう。
ね、私と一緒に暮らさない?」
「……でも……私は………」
「レイちゃん、あなたは、いていいのよ。
いいえ、あなたにいて欲しいの。
私の娘としてね。」
「……私……………」
希望と呼ぶべきだろうか、レイの心の中に一筋の光明が射し込んでいく。
その光は、まだまだ弱々しい物であったが、確実にレイの心に届いた。
「みんな、あなたにいて欲しいのよ。
私のこと、お母さんって呼んでくれないかしら?」
「………お…母さん……」
「レイ、一緒に暮らしましょう。」
「………はい。」
恥ずかしそうに、俯いて喋るレイに、ユイの優しげな瞳が降り注いでいた。
暖かな心に包まれていくレイ。
木漏れ日の光る病室の中で、一人の少女は、救われた。
「…お母さん…なぜ私は、存在しているの……」
何度も、何度も、繰り返した質問。
今のレイには、その答えを与える人がいた。
「人として生きるため、そして幸せになる為よ。」
「……ありがとう。」
やっと得られた答え……
自分の存在を認めてくれる人がいる。
ずっと、欲しかったものが、レイの目の前にあった。
「さあ、もう寝ましょう。
お休み、レイ。」
「お休みなさい、お母さん。」
ベットの中で、レイはユイとの生活を思い出す。
それは、最初は戸惑いだらけだった。
レイが連れてこられた部屋は、別世界だった。
クリーム色に包まれた部屋、暖かそうなベット、薄い桃色で染められたカーテン、暖かみのある、木で作られた机、全てがレイには無かった物だった。唯一、小さなタンスだけが過去を思い出させる。
「今日からここが、レイの部屋よ。」
レイは、ただ呆然とその光景に見とれていた。
その部屋は一言で言えば、女の子らしいと表現すればいいのだろうか?
暖かさに包まれたその部屋を、レイはじっと見つめる。
「…………ありがとう……」
うつむき、頬を少し染めたレイは、小さく恥ずかしげに呟く。
その言葉を聞いたユイは、満面の笑顔を浮かべ、レイの頭をそっと撫でた。その手には、母の温かみが込められていた。
「レイ、今からご飯を作るけど、何か食べたい物あるかしら?」
「別にないです………」
「そう、なら食べられない物はあるの?」
「お肉……」
「肉が駄目なのね?」
その言葉に、小さくこくんと、うなずくレイ。
「じゃあ、いらっしゃい。」
ユイとレイをキッチンへと。
「レイ、ちょっと待っててね。」
レイは、テーブルに着き、ユイをじっと見ていた。
ユイは、嬉しそうにエプロンをしめ、料理に取りかかっている。
そんなユイの姿を見て、レイの中で暖かいものがこみ上げてきた。
『この気持ちは、なに?』
レイが、感情に戸惑い、自分への疑問を考えている間に、ユイの料理は着々と完成していった。
「さあ、できたわよ。」
ユイの料理は、豪華と呼ぶには程遠いが、家庭的な料理だった。
「ごめんね。今日は材料が無くてあまり豪華のは、出来なかったの。
さあ、食べてみて。」
「はい…いただきます……」
ユイの作った料理は、レイが今まで食べた中で、一番おいしかった。初めて食べる、愛情のこもった料理。
「…おいしい…」
思わずこぼれた言葉に、ユイは嬉しそうにレイを見つめる。
ユイのレイに対する愛情が、料理の味をよりおいしく感じさせていたのかもしれない。
ユイも満足げに自分の手料理を食べ、やがて二人の初めての食事は、終わりを告げた。
「………ごちそうさま。」
「はい、ごちそうさま。」
テキパキと後片づけを終えたユイは、リビングでレイと一緒に紅茶を楽しんでいた。
ユイがかけた、静かなクラシックの音が、優しい空間を醸し出す。
「ねえ、レイ。」
「なんですか?」
「これからね、ご飯の後と寝る前には、私とお話ししない?」
「………はい。」
「そう、良かった。
あ、そうそう明日は、レイの洋服を買いに行きましょうか?」
「……別に、いいです…」
「だめよ、女の子なんだから、色々おしゃれしないとね。」
「……でも、私、分からないから……」
「それじゃあ、お母さんがレイに似合う物を選んであげるわ。
いいかしら?」
「………はい。」
「レイ…ゆっくりでいいから、幸せになりましょうね。」
「はい…………」
紅い瞳から、涙がこぼれ落ちていく。
なぜ泣いているのか、レイ自身にも分からなかった。
ただ、今までほとんど感じたことがなかった幸せという気持ちが、優しくレイを包み込む。
それは、初めてレイが得た、安らげる場所だった。
ユイは、レイの涙をそっと拭き取ってやり、暖かな抱擁を与えた。
ユイの胸の中で、静かな嗚咽を漏らすレイ。
初めて流す喜びの涙。
ベットの中のレイは、流れる涙をそっと拭き取った。
ユイと出会えたことに、母を得られたことに、喜びの涙を流してた。
「私…今、幸せなのね…………」
だが、それは一時の幸せだった。
ども、佐門です。
ごめんなさい、まだ完全な調子に戻ってないんです(^^;;
期待したみなさんには、悪いんですけどもう少し時間をください。
今回、初めて「終焉の果てに」のLOST EPISODEをお届けします。
このシリーズは、「終焉の果てに」本編の中で語りきれなかった部分を、書いていきたいと思っています。
ここを書いて欲しい!というご要望がありましたら、メールにてお伝えください。
出来るだけ書いていこうと思っています。
それでわ!
佐門さんの『幸せを得ること』、公開です。
本編であった
レイちゃんとユイさんの出会いから
ユイさんに教えた貰ったことは
レイちゃんにとってとても大きな物になっていますね(^^)
なんの為にここにいるのかを、
優しく包まれながら・・
最後の一文が後をひく〜
さあ、訪問者の皆さん。
感想・要望。沢山送りましょう!