紫煙の中に
乾いたアスファルトに、足音が響く……………
艶やかなネオンがひしめく街の片隅。
古びた木彫りの看板。
足音は其処に向かった。
重厚なオークの扉を開ける。
「……いらっしゃい……」
「マスター、久しぶり。」
彼は、いつものカウンターへと。
彼の前に二つのグラスが置かれ、琥珀色のターキーが注がれる。
何も言わない。
ただ、酒を出す。
そんなバーだった。
飾り気のない店内
静かに流れるブルース。
無口なバーテン。
此処は時間が止まっていた。
愛用のジッポで、ラッキーに火をつける。
一本目はグラスの前の灰皿に。
「…………………ふう…」
二本目に火をつけ、深く吸い込む。
グラスに注がれたターキーを一気に飲み干すと、ゆっくりと煙草を楽しんだ。
『………弔い………か………………
………………………………………
お前と初めて来た頃は、
一杯だけしか飲めなかったんだよな。
俺とお前はまだ駆け出しの半人前で、金もなかったよな。
仕事の前は、いつもこの店でターキーを一杯と、ラッキーを一本。
フッ……………
俺も最近じゃ、結構稼げるようになったんだぜ。
こうして、お前の分ぐらいはおごってやれるのさ。
そう言えばさ。
葛城って女に、こうしてお前に酒を飲ましてやってると、ずいぶん笑われたよ。
カッコつけんなって。
俺達もよく格好をつけてたな。
ハードボイルドを気取って、二人でな。
俺も未だにその癖が抜けないよ。
お前のせいだぜ。
時代遅れだって、笑われる時もあるよ。
でも俺はやめない。
それが俺とお前の時代だったんだからな。』
やがて、グラスの前でたなびく紫煙は消えた。
彼はゆっくりと立ち上がる。
「マスター、おいとくよ。
今度、彼女が来たら、グラスを三つ出してくれ。
俺の最後の頼みさ。」
彼は片目を閉じ、初老の男性に男臭い笑みを向ける。
「……ああ……」
短い承諾の後、ゆっくりと店を出た。
乾いたアスファルトに、足音が響く……………
外伝を書くつもりが、書き上げると外伝のコンセプトと全く違っていましたので、短編としました。
時間的には、TV版の21話の少し前です。
ハードボイルドが書きたくて、書きましたがなんだか別物です。(^^;;;;
でわ。
佐門さんの『紫煙の中に』、公開です。
加持のダンディズムの一端が出ていますね。
影繕ならぬ影一杯を飲み干しているのは誰なのでしょうか・・・。
最後の仕事に向かう彼、
彼女の前に出されるであろう3つの杯。
ハードですよん(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
佐門さんの元へ感想を!